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序章 とある下働きの少女
7.夜に①_2
しおりを挟む気配もなく突然背後からした幼い声に肩が跳ねる。その声の正体に気づくと、一瞬懐の転移石伸ばしかけた手を止めた。バクバク騒ぎ立てていた心臓を落ち着け、ホッと息を吐く。
「……っな、なんだ。昼間のガキか」
「うん、さっきぶりー。……で、こんな所で何してたの?」
「てめぇには関係ねぇよ。とっとと失せ──」
ろ、と振り返った男が固まる。先程まで背中越しに話していた少女の姿が、ない。
(おかしい。確かにさっきまでは気配も……)
「へえぇ、魔法陣だったんだぁ。これは……爆発系、かな?」
愉しそうな声。ばっ、と前を向くと裸足の少女が、身を屈めて手元を覗き込んでいる。驚き動けない男を他所に、少女はにっこりと花を咲かせた。
「ってめぇ……なんで、爆発系だと」
魔法陣の仕組みは複雑で、幾万もの組み合わせから成り立つ。一文字変えれば効果も変わる為、それを暗記することは不可能だと言われている。故に、魔法陣を作る際には、複数の分厚い辞典を参考にしながら描くのだ。
どうやっても、数秒見ただけで見破ることの出来る代物ではない。ましてや、こんな幼い少女が──
「……別に不思議なことでもなんでもない。一見複雑だが、ソレには規則がある。まあ、この世界は少し異なるようだが、根本的には同じだ」
少女の口調がガラリと変わった。先程とは打って変わって冷たいものとなる。深い闇を思わす黒い瞳に底知れぬ恐怖を感じる。
(ヤバい……何かわからんがコイツはヤバい)
その変化に本能的に危機を察した男は、魔法陣をそのままに懐から鈍く光る転移石を取り出し発動──出来なかった。
魔力をいくら流しても無反応。いつもなら浮遊感と共に一瞬で景色が変わるはずなのだが、待てども待てども何も起こらない。男の中に焦りと怒りがただただ溜まっていく。
「はあっ!? 何でだよ、何で……発動しねーんだよ!!」
「……あー、それ。ニセモノ」
「んだと!?」
「おにーさん、ちゃんとしたとこから買わなかったでしょ。大方、露店か何か……中の魔法式がぐちゃぐちゃ」
足元の魔法陣を見下げながら、1回も男の方を見ずに指でくるくると黒い髪を弄る少女。
嘘だ、と怒鳴ろうとしたがその言葉を呑み込む。実際に使えないのだから、何も言うことはできない。
くそ、と吐き捨てたかと思うとばっと身を翻す。そうして初めて少女が魔法陣から男の方へと視線を向けた。
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