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一章 云わば、慣れるまでの時間
42. まあ、仕方の無い話だ
しおりを挟むあっさりと壊したアゼリカに一瞬の間惚けていたディルクだったが、ちっ、と小さな舌打ちをする。静寂の中、最初に口を開いたのはクラウスだった。
「──なるほどな。だから握手もしなかったし、授業中も板書も取らなかったわけだ。そりゃそうか、そもそも物が持てねーんだからな」
これで全て辻褄が合うと納得した顔で言う。エルミータもはっとした表情で両手をパチンと合わせる。
「じゃあ、最初お茶を飲まなかったのって・・・・・・」
「カップを掴んだ瞬間に壊れるからな。私自身は飲みたかったのだが・・・・・・すまないな」
「ううん! それはしょうがないものね」
どうやら、お茶を飲まなかった事が何やら彼女の中で引っかかっていたらしい。忽ちに笑みを咲かせたかと思えば、「決めた!」とこちらへと駆け寄る。
・・・・・・何だか嫌な予感がする。
「私、アゼリカちゃんの分まで板書を取るわ!! 食事だって食べさせてあげるし、なんだったらお風呂だって──」
「いや待て待て待て!!」
板書の案はありがたいし、食事も・・・・・・まあ、ありがたい話ではある。しかし、風呂はさすがに手伝わせるのは恥ずかしいだろう。それがたとえ同性だとしても。
改めて考えてみると、本当にダメ人間になってしまったようである。
「・・・・・・エルミータには、必要最低限のことだけ助けて欲しい」
「わかったわ!!」
元気の良い返事を聞いて私は安堵する。ずっと心のどこかで突っかかっていたが、同クラスに話すだけでもようやく楽になれたようだ。
「じゃあ、もしかして身体の耐久力もそれ関係?」
はいはーいと手を上げて質問するグリム。私は頷く。
「そうだな。属性魔法が使えないのもそのせいだと考えて良い」
「へぇ・・・・・・不便な身体だね」
「まあ、仕方の無い話だ。あの3名とは違う待遇らしいからな」
和気あいあいとディルクを抜かした3人とて話に花を咲かせていると、黙っていたクラウスが怒り混じりの声で、
「・・・・・・おい、てめーら。転入生の秘密を知れて盛り上がっているが、今は授業中だってこと忘れてないよなぁ? ・・・・・・いい加減、授業始めるからな」
その声でそれぞれが自分の位置につく。ただ、私だけが「お前はこっちだ」とクラウスに呼ばれた。
「弱点克服の授業では主に、エルミータやグリムの制御やコントロールに力を入れているが、今日からはアゼリカもそこに加える
──あの2人同等にお前も危険だ」
「・・・・・・わかりました」
「とはいえ、その改善策がわからないんだよなぁ・・・・・・初めてのケースだぞ、お前は」
眉を八の字にして頭を搔くクラウス。当の本人である私は何も言えず、ただただ次の言葉を待つのみ。
私だって極限に力を弱めるだとしか抑える方法が見つからない。それ以外に何があるというのか。
「制限道具・・・・・・は抑える力の種類が違うしな。よし、ひたすら慣れろ」
「それが出来ていれば苦労しませんが」
「・・・・・・、正直俺でもお手上げだ。魔力云々じゃなくて、純粋な身体能力を抑える方法なんて知らねーよ」
それでも教師か、と言いたいところだが、私は本当にレアケースなのだろう。仕方ないと口を噤んだ。
「お前は・・・・・・そうだな。ディルクにでも面倒を見てもらえ。あちこち破壊されても困るんでな」
「え」
「はあ!? なんで俺が・・・・・・」
クラウスの台詞にすぐにディルクが反応する。不機嫌に飛んできた声が辺りに響く。が、クラウスは冷静にその答えを返した。
「エルミータとグリムは克服中、ドーラがこいつの力に耐えるとは思えない。となると、全体的にバランスの良いお前しかいないだろう? 監視しとけよ、下手に壊されないように」
「誰がするか、んな面倒なこと。てめぇが見ればいいだろ!!」
「あ、因みに1限から7限まで監視な。俺は授業中しか見ねーから。じゃ、よろしくな」
「おい、話を聞けよこのクソ野郎!!」
ディルクの怒声も気にせず、クラウスはそれだけを言い残して他3名の元へと行く。残されたのは私とディルクの2人のみである。
2人の間に何とも言えない無言の時が流れた。
──・・・・・・この状態でどうしろと?
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