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序章 云わば、これからの下準備

4.思い出せない

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 誰にだって地球での縁も未練もあるだろう。ましてや、私を含めここにいる4名は高校生なのだ。生みの親の元を離れるなど、到底考えられない話である。

 思考しようとするも、霞みがかったようにぼんやりとしていて上手いこと考えることが出来ない。それでも尚、何故だろうかと考えていると、ふと脳裏に何かが引っかかった。

 ぽつりとそれは口から漏れる。


「・・・・・・私の・・・・・・私の両親は、誰だ?」


 途端、談笑していた声が止まる。しんと水を打ったような静けさの中、私は追い求めるかのように更に言葉を重ねる。


「なあ、私は・・・・・・私は?」


 その言葉を口にした途端、サァーっと血の気が引き顔が青ざめていくのを感じる。他の3名も皆一様に青い顔で呆気にとられているとようだ。


 ──そう、私達はいつの間にか忘れていた。


「そ、そんな・・・・・・でもだって、私は麻倉杏奈で。お母さんだって、お父さんだって、それに・・・・・・あれ、思い出せない・・・・・・」


 ゆらりとよろめいたアンナが、机に手を乗せて身体を支えながらも、絶望に満ちた表情で呟く。
 さっきまでの楽しそうな雰囲気からは一変、記憶が消えている状況に困惑と不安が溢れ出す。

 私が生きていた・・・・・・らしい事は覚えている。両親も友達も恐らく存在はしていた。地球での知識も覚えている。だが、好物は忘れている。嫌いな物だって忘れている。


 ──思い出せない。


「・・・・・・お、おいおいウソだろ・・・・・・? くそ、ほんとに思い出せねぇぞこれ」


 楽しげだった様子はもう微塵も見えない。


◇◇


 ──それから数分経った頃だろうか。

 誰もが口を噤み言葉を発しない中で、最初に声を発したのはトモキだった。青ざめていた顔色も元に戻り、落ち着き払った様子で言葉を紡いでいく。


「・・・・・・皆さん落ち着いて下さい。もしあの女性が女神だと仮定して、異世界転移という非科学的なことが存在するとしましょう。
 ──でしたら、恐らくこれは彼女のした事でしょう」

「どういう事だよ」


 疑問の声を聞いたトモキは、これはあくまでも推測に過ぎませんが、と前置きをする。


「大方、僕たちが心置き無く異世界へと転移できるように・・・・・・という配慮でしょうか」

「ハッそれはありがてぇこった」


 その言葉の割にはちっともありがたく思っている様子はない。横にいるアンナはどこか腑に落ちない表情だったが、とりあえず納得はしたようで、先程よりも幾分かは落ち着いている。

 私もショックは未だに消えないが、徐々にこの状況を受け入れつつあった。


「んで、俺らはいつまでここにいればいいんだよ?」

「さあ・・・・・・それは流石に、向こうから何かしらのアクションがあると思いますよ」

「結局放置じゃねーか。あのくそめが──いっつ!?」


 カズキは反射的に頭を押さえる。その不満気な声に応えるようにして頭上から落ちてきたのは、小さな麻袋と数枚に纏められた紙束だった。

 続けてそれを眺めていた2人の目の前にもそれらは落ちてくる。因みに私の紙束と麻袋は、お決まりのように頭を直撃した。
 ・・・・・・知っていたさ。


「あ? 何だこれ」


 各々が不思議そうにそれらを手に取る。麻袋の中には青い石が1つと1枚の地図、紙束の表面には『贈物ギフトスキル(裏)の詳細』と書かれていた。

 なるほどスキルの説明か、と読み始めようとして、ふと留まる。・・・・・・いやまて、私はただの贈物ギフトスキルではなかったか?


 何故、〝()〟が加えられているんだ?


 握りしめてしわくちゃとなった紙切れにも確かにそう書いてある。それ以外は何も──


「あ」


 私の口から声が小さく漏れた。・・・・・・裏面だ。よくよく見ると、裏面の右下あたりに〝(裏)〟と書かれている。何の嫌がらせだろうか、その文字は顔を近づけてようやく見える程度の極小サイズだ。

 ・・・・・・前言撤回、確かに書かれてはいた。ものすごーく小さいが。

 だから何だと思う。裏がついたからと言って何が変わるのか。


(・・・・・・それよりも内容が気になるな)


 皆と同じように私も紙束を開く。すぐに箇条書きの文が目に入った。色鮮やかな挿絵などはない。

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