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第3章
魔人化パセトシン
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1階のコウモリ退治が終わると、カナとナトリウムは、さらに上の階に上って行った。
2,3,4階は、特に魔獣は出なかった。
2人は5階まで上ってきていた。
2人が上ってくると、部屋の隅に蹲る1人の人間の姿が見えた。
低い声でうめき声を発している。
「ナト、私の後ろに下がれ。」
カナは警戒しながらそう命じて、その人影に一歩また一歩と近付いて行った。
カナとその人影との距離が5メートル程になったところで、蹲っていた人影は突然、立ち上がり、カナに襲い掛かった。
カナは予想外の事態に言葉を失ってしまった。
その人影は、海中に消えたパセトシンであったからである。
「パセトシンさん!」
代わりに叫んだのは、ナトリウムだった。
「パセトシン…お前、魔獣化しているのか!?」
うめき声しか上げずに襲い掛かるパセトシンに、カナは呼びかけたが、答えは返ってこなかった。
魔人と化したパセトシンに、言葉は通じない。
カナはパセトシンの重い攻撃を躱しながら、辛そうな表情を見せた。
「すまない、パセトシン!」
カナの剣は一閃し、パセトシンの頭と胴体を分断した。
「カナさん!」
ナトリウムが悲鳴のような叫び声をあげる。
「カナさん、パセトシンさんは僕らを案内してくれた村人ですよ!それを何もこんな姿にしなくったって!」
カナは俯いていた。
魔人の恐ろしさを誰よりも知るカナである。
こうするより他になかったのだ。
床は、パセトシンの首から噴き出した鮮血で、真っ赤に染まっていた。
カナは胴と切り離されたパセトシンの顔に付いている血糊を拭いてやった。
出来る事は、それくらいだったのである。
パセトシンの顔は穏やかだった。
一旦、魔人と化した人間は、その死を持ってしか、安らぎを取り戻せないのかもしれない。
特に信仰を持たないカナだが、自然とパセトシンのために黙祷していた。
斬り倒した人間は今まで数知れないが、その者のために祈るのは、初めてだった。
ナトリウムは、そんなカナの姿を黙って見つめていた。
2,3,4階は、特に魔獣は出なかった。
2人は5階まで上ってきていた。
2人が上ってくると、部屋の隅に蹲る1人の人間の姿が見えた。
低い声でうめき声を発している。
「ナト、私の後ろに下がれ。」
カナは警戒しながらそう命じて、その人影に一歩また一歩と近付いて行った。
カナとその人影との距離が5メートル程になったところで、蹲っていた人影は突然、立ち上がり、カナに襲い掛かった。
カナは予想外の事態に言葉を失ってしまった。
その人影は、海中に消えたパセトシンであったからである。
「パセトシンさん!」
代わりに叫んだのは、ナトリウムだった。
「パセトシン…お前、魔獣化しているのか!?」
うめき声しか上げずに襲い掛かるパセトシンに、カナは呼びかけたが、答えは返ってこなかった。
魔人と化したパセトシンに、言葉は通じない。
カナはパセトシンの重い攻撃を躱しながら、辛そうな表情を見せた。
「すまない、パセトシン!」
カナの剣は一閃し、パセトシンの頭と胴体を分断した。
「カナさん!」
ナトリウムが悲鳴のような叫び声をあげる。
「カナさん、パセトシンさんは僕らを案内してくれた村人ですよ!それを何もこんな姿にしなくったって!」
カナは俯いていた。
魔人の恐ろしさを誰よりも知るカナである。
こうするより他になかったのだ。
床は、パセトシンの首から噴き出した鮮血で、真っ赤に染まっていた。
カナは胴と切り離されたパセトシンの顔に付いている血糊を拭いてやった。
出来る事は、それくらいだったのである。
パセトシンの顔は穏やかだった。
一旦、魔人と化した人間は、その死を持ってしか、安らぎを取り戻せないのかもしれない。
特に信仰を持たないカナだが、自然とパセトシンのために黙祷していた。
斬り倒した人間は今まで数知れないが、その者のために祈るのは、初めてだった。
ナトリウムは、そんなカナの姿を黙って見つめていた。
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