魔獣物語

ひよく

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第3章

落雷

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残ったのは、最も屈強な壮年の男の魔人1体だった。

その瞬間である。

大きな雨粒が、パイオメトラの塔の最上階のドーム状の屋根に舞い降りたのは。
それと同時に、雨雲は稲光を発し、ズドンという大きな音が響く。
どうやら近くに落雷したようだ。

「カナさん、残り1体ですね。」
カナにそう話しかけたナトリウムだが、カナは返事をしなかった。

不審に思い、カナの方を見てみると、明らかに様子がおかしい。
ガクガク震え、剣もその手から滑り落ち、その場に座り込んでしまった。

「カナさん、どうしたのですか!?」
ナトリウムがそう叫ぶのと同時に、カナめがけて、魔人が攻撃をしかけようとする。
ナトリウムは無我夢中で、その魔人に体当たりをして、カナを助けた。

カナは耳を塞ぎ、幼子のようにしゃくりあげるような泣き声をあげている。
カナの様子に狼狽えたナトリウムだが、とにかく残る魔人を倒さなければならない。

しかし、魔人は戦闘意志のなくなったカナに狙いを定めていた。

「やめろー!!」
ナトリウムはカナを守ろうと、魔人とカナの間に立った。
迫りくる魔人の攻撃を何とか受け流す。

「立ってください、カナさん!」
未熟な剣を振るいながら、ナトリウムは必死でカナに呼びかけた。

「‘戦え’とは言いませんから!」
魔人は容赦なくナトリウムに襲い掛かる。

カナは耳を塞いで蹲っている。
「‘剣をとれ’とは言いませんから!」

カナの方に魔人を行かせまいと、ナトリウムは必死で剣を振るう。
「立って!逃げてください!」

その瞬間、またしても大きな雷が、近辺に落ちた。
それにビクッと反応したカナは、震えながら立ち上がった。
右手には自身の剣が握られている。

「すまない、ナト。」
顔を上げたカナの頬には、幾筋もの涙の痕があった。

しかし、もう迷いはなかった。
「ここは私1人で充分だ!」
そう言ったカナは、走り出した。

振り上げた魔人の拳をするりと躱し、魔人の左側をすり抜け、後ろをとる。
慌てた魔人が振り返るのと同時に、カナの剣が一閃した。
その瞬間には、魔人の首と胴は先程のパセトシンのように切り離されていた。
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