異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第七部 これからの日常、異世界の日常

異世界の章・その20 永田町の攻防

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 知事室から転移で転移門ゲートにやってくるマチュア。
 その目の前の椅子では、相変わらず進藤が転移門ゲートを見張っていた。
「おや、さっきはどうも。録音機は回収に回したんで、またここで見張りですよ」
 にこやかに笑う進藤記者。
 ならばと、マチュアは進藤の横に座る。
「国連がカリス・マレスを監視下に入れようとしているのは事実かな?」
 じっと転移門ゲートを眺めながら、横の進藤に問いかける。
 ポケットから録音機を取り出すと、進藤は録音ボタンを押して一言。
「も、もう一度お願いします」
「国連がカリス・マレスを監視下に入れようとしているのは本当か?転移門ゲートの所有権争いや、資源の管理、その他の利権を大国が争っているのも含めてだ」
「い、いや、その話はまだオフレコで、俺の方からどうと言えることでは無いのですが」
「本当なんだな?」
「‥‥ノーコメントでお願いします」
「そうか。進藤さんは議員で顔のきく人はいるかな?」
「まあ、何名かは。でも今は国会期間で永田町ですよ?」
「そうか‥‥進藤君、あれ、中に入りたく無いか?」
 マチュアはクイッと親指で転移門ゲートを指す。
「そ、そりゃあ入りたいですけど、機材の持ち込みは禁止では?」
「入るだけなら構わないよ。ギルドの税関で手荷物検査があってね、そこで機材は預かることになっている。が、あの中に入る分には構わない。私はあれで永田町に行くんだが、一緒にくるか?」
――ゴクッ
 進藤の喉がなる。
 もし可能なら、これほどの体験はない。
 他の様々な記者が転移門ゲートを超えて異世界に行っているが、この日本であちこち行っているのはそう多くはない。
「わかりました。紹介はしますが、そこからはご自分で。あと、話し合いについては録音機回して良いですか?」
「へぇ。意外としたたかだねぇ」
「俺も記者なんでね。目の前に特ダネがあるのに何もしないって言うのはちょっとね」
「写真も取りたきゃ取れ。ただし同行者は君だけだ。私は個人を信用するので、進藤君を信じてもKHKはまだ信用していないかららね」
「そんなもんでいいですよ。それで、どうやっていくんですか?」
 そう問いかける進藤。
 するとマチュアが転移門ゲートに手をかざすと、表面に波紋が生じる。
「あとは入るだけだよ、こうやって」
 いつものように光になるのではなく、波紋の向こうに入っていく。
「へ、へぇ。聞いているのと違いますねえ」
「いいからとっとと来い。この状態が一番危険なんだからな」
「はいはい」
 すかさず進藤も
 恐る恐る転移門ゲートに入る。
 するとマチュアが魔力を注いでいつもの無機質な扉にしたのである。
「ここは写真に撮っても?」
「まあ構わないよ。取るだけなら良いけど、他社に写真売ったり進藤以外の奴が使ったら‥‥」
「使ったら?」
 スッと近づいて一言。
「異世界に引きずり込んでから殺すよ。さて、それじゃあ永田町に行くよ‥‥」
 真顔で脅してから笑うマチュア。
 これには進藤も背筋が凍りついた。
「は、はいっ」
――ヒュゥゥゥンッ
 進藤の目の前でマチュアの服装が変化する。
 いつものチュニック姿ではなく、魔導師のローブに魔法の杖、頭には抵抗強化のティアラをつけている。
――パチっ
 すぐさま風の加護と火の加護を纏うと、進藤にも風の加護を与えた。
 目に見えない小さな気流が、進藤の周りにも対流する。
「あわっ、こ、これは一体なんですか?」
「魔法ですよ魔法。万が一があるから、それで大丈夫。さてと」
 かつかつと白い空間を適当に歩くと、そこに新しい転移門ゲートを作り出す。
「ほ、本当に作れるんですねぇ」
「まあね。私やミナセ女王以外では、転移門ゲートを作れるのはほんの一握り。片手でも余るはずだよ」
 それは事実。

 まともに転移門ゲートを作れるのはマチュア以外ではミストぐらい。
 ミアはまだ魔力が足りないから無理、シスターズではマチュアクィーンマチュアツヴァイぐらいであろう。

「出方も同じ。さてと」
 スッと外に出るマチュア。
 進藤も慌てて外に出ると、その光景に驚いている。
「こ、国会議事堂前か‥‥俺は夢でも見ているのか?」
 自分の頬をつねる進藤。
 だが、その痛みは夢ではない。
「ここからは進藤君の腕の見せ所だよ。宜しくね」
 転移門ゲートを固定して誰も入れなくすると、ポン、と進藤の肩を叩くマチュア。
 さて、ここからが、正念場である。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「さて、それじゃあこっちへ」
 国会議事堂から離れて、進藤はすぐ近くにある自由民権党本部に向かう。
 正門横の守衛室で進藤は報道パスを提示する。
「そちらは?」
「ああ、これでいいか?」
 マチュアは外交官カードを取り出して提示する。
 それを確認すると、守衛が中に確認を取っている。
「そのまま正面の扉からどうぞ」
「はい。どうも」
「‥‥」
 軽く受け流す進藤に、マチュアは無言でついて行く。
 そして正面扉を越えると、そこには柔らかい面持ちの男性が立っていた。
「進藤君の来客と聞いたが、まさか異世界からの方とは」
「え、ええ、色々とありまして。こちら国会対策委員・本部長代行の山井晋太郎やまい・しんたろうです。こちらはカナンの異世界ギルドのギルドマスターのマチュアさんです」
「これは、これはどうも。はじめまして、そしてようこそ」

――ガシッ
 と握手するマチュアと山井。
「進藤君、写真は構わないけれど変なテロップつけないでね?さっきも話したけど」
「わかってますって。そもそもここで写真なんて撮れませんよ」
 そんな会話をしていると、とりあえず立ち話もなんだからとマチュアと山井は別室に向かう事になった。
「あら?俺は?」
「進藤君は記者クラブで待っていたまえ。それではこちらへ」
「それじゃあね、また後で~」
 ペロッと舌を出して手をヒラヒラとふるマチュア。
「ま。まあいいか‥‥」
 そのまま進藤は建物内の記者クラブへと向かうことにした。

 ‥‥‥
 ‥‥
 ‥

「菅野さんから話を聞いています。本日はどのようなご用件でしょうか?」
 改めて頭を下げると、山井はソファーに座って静かに切り出した。
 ならばとマチュアも軽く頭を下げて座ると、空間からメモリーオーブをポケットの中に取り出して起動する。
「まず。カナン大使館の設立の件ですが。札幌に作って欲しいのですが」
「ああ、その件は土方知事と話を詰めているよ。行き来するのに不便かもと思ったのだが。魔法で移動できるそうだから問題はないでしょう」
「それは助かります。正直申しますと、東京は空気があまりよろしくなくて」
「カリス・マレスの地とは違いすぎますか」
「ええ‥‥」
 そんな話をしていると、秘書官がお茶のセットを持ってきた。
 それを一口飲むと、マチュアは一息いれる。
「さて、本題に入ります。わがカリス・マレスはこの世界のどこの監視下にも入るつもりはありませんが。噂では国連とかいう組織が、カリス・マレスを支配下に置きたいとかで」
――ブッ
 いきなり切り出したのがとんでもない話である。
 山井は慌ててお茶を吐き出すと、ハンカチで口元を拭った。
「い、一体何処からそんな話を?」
「さぁ?私は最近、札幌で毎日国会放送やニュースを見ていますので。あとインターネットと言うのですか?この世界はどこでも自由に情報が入ってきて便利ですね?」
 チャレンジワンで手に入れたタブレットを空間から取り出すマチュア。
 マオだった時代には旧型を持っていたので使い方は知っている。
「ゲートを国連が管理するべきだという声は出ている。その向こうの世界についてもだ。余りにも未知で、それでいて魅力的な存在。どことは言えないが、政府に揺さぶりをかけてきているのも事実ですよ」
「それで、日本は甘んじて受けるのですか?」
「まさか。日本国内の領土に開いたゲートでもあるが、カリス・マレスは国交を求めてきた。なら、それは一つの世界、一つの国の問題だ。国交を行うかどうかは日本が決める。他国にどうこう言われる問題ではない」
 山井はそう力説するが。
「何処かの大国がそれを認めたくないと?」
「ま、まあそういう事だ。随分と調べているね」
「知識と情報は武器になります。何も知らない世界で、与えられた情報のみを鵜呑みにするほど、私たちは愚かではありませんので」
 ニコリと笑うマチュア。
「さて。今現在の私達の窓口は全て札幌市の異世界政策局が担当していますが。そこに揺さぶりをかけて組織自体を解体、政府主導の窓口を作るというのは?」
 半分はブラフ。
 だがもう半分は確かな情報。
「政府機関は東京にあるべきだ。ならば異世界のそれも然り」
「ですが、私は今の、あの場所の、彼らを信じています。まずは信用第一、彼らは私の信用を十分なほど得ています。もし山井さんが私の立場なら、いきなり何者もともつかない人たちを相手に信用できますか?今日から彼らと話して欲しいと言われてはいそうですかと?」
「たしかにマチュアさんの話も正しいでしょう。その件は蒲生さんと話をしていて、異世界政策局に窓口を任せるのはいささか心細いと」
「ですが、私は今の状態で問題ないと思われますが。何か根拠があればお伝えください」
――カチャツ
 ティーカップが空になったので、マチュアは空間から自前のポットを取り出すと、ハーブティーを注いだ。
「政策局に対しての苦情が来ているのも事実。マチュアさんたち異世界の人々とのコミュニケーションが取れていないと、我々の要望を聞き入れてもらえないと。何というか、交渉能力に欠けていると」
「ははぁ。報道関係からの圧力ですか」
「有り体に言えばその通りだ。異世界についての情報が余りにも少なすぎて、それを放送したいという所が山のようにある。異世界政策局に取次を頼んでも出来ないの一点張りでは、どうすることもできないのだよ」
「それは、私が全て断るように伝えているからですよ。以前うちの女王が国会で話ししたではありませんか。あと、査察団にも、説明はしてありますよ」
「それで納得すると思うのかね?彼らは報道する権利を主張している。それを無下に断ることもできないのだよ?」
 ふぅん。
 マチュアは一通りの話を聞いて考える。
「査察団が機械の持ち込み禁止されているのも、その要因の一つですね?」
「そうだな。そこでも苦情が来ている」
「機械の持ち込みなどは段階的に考えていましたが、どうも私達の意図とみなさんの考えは相入れないようですね。情報にしてもそうです。一度正式に記者会見でもしますか?そこで質問を受け付けて、答えれば宜しいのでは?」
 淡々と話すマチュア。
「い、いや、そこまで荒事にしなくても」
「国会の記者会見のようにすれば全て公平です。情報や質問の回答も全て共有。それでいいではないですか?それとも、何処か特定の局か新聞社と話をして欲しいとでも?」
 利権か、もしくは政治的な圧力。
 明らかに背後が見え隠れしている。
「そ、それは無いのだが‥‥」
「ならそれで行きましょう。窓口を異世界政策局から変更した時点で、私たちは日本から撤退します。後日新聞社とテレビ局に対して、合同質問会に関する連絡をしますので、それで宜しいですね?」
 そこで山井は言葉を紡ぐ。
「わ、分かった。それなら全てに公平ですからね」
「ご理解いただきありがとうございます。機材持ち込みの件ですが、持ち込み許可を出すのは私達です。判断は私達カナンの異世界ギルドが行います。申請は構いませんが、判断するのはこちらということをお忘れなく」
 ニコリと笑うマチュア。
 どちらが主導を取るのか、そこをはっきりとさせる必要があると判断した。
「了解した。関係各位には今一度通達しておこう」
「では。私はこれで失礼します。このあとまだ行く所がありますので」
 ゆっくりと立ち上がるマチュア。
 そして部屋から出ると、部屋の前で立っている男性に気がついた。

「おう、ギルマスのマチュアさん、ちょいとツラ貸せや」
 トレンチコートにボルサリーノといういでたちの蒲生太郎が、壁にもたれかかって立っていた。
「うわ、マフィア」
「誰がだ。蒲生だよ、お嬢ちゃんとは初顔合わせだな」
 ニィッと笑う蒲生。
「あ、蒲生副総理。話は円満に終わったので大丈夫ですよ」
 山井が必死になって説明しようとすると。
「ではでは、少しでしたら」
「オッケーだ。何人か大臣も集めてある。少し時間貰うぞ」
 くるっと踵を返して歩き始める蒲生。
 マチュアはその後ろをついて行くことにした。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 広い会議室。
 そこにへ既に、何名かの議員と秘書官、書記官も集まっている。
「おう、ギルマスさん連れて来たぞ」
「蒲生さん、もう少し言葉づかいをどうにかした方が良いのでは?相手はカナン外交官なのですから」
 女性議員がそう話すと、蒲生は驚いた顔でマチュアを見る。
「そうなのか?」
――シュッッ
「ええ。先日外交官カードも発行してもらいましたよ。もう魔力変換して取り込みましたけれど」
 指で挟みながら取り出すと、それを蒲生に見せる。
 これはギルドマスターのマチュアとして発行してもらったもので、通し番号が違う。
「ありゃ、また失言かよ」
「蒲生さんの失言はよくあることです。マチュアさんでしたか、わざわざお時間を頂きありがとうございます」
「いえいえ。しかし、どうして私がここにいることを?」
「ロビー受け付けから連絡がありました。応対は山井が行なっていると聞きましたので、話が終わるまで待っていました」
「そ。そうでしたか。KHKの進藤さんの紹介で面会させて貰ったのですが、何か問題でも?」
「そうですねぇ。まずは座って話をしましょうか」
 そう促してくるのは外務省の副大臣の伊藤忠久議員。
 ならばとマチュアも座ると、各議員が自己紹介をしてくる。
「改めて、外務省副大臣を務めています伊藤忠久です」
「文部科学省政務官の宮川佳子です」
「経済産業省政務官を務めています大友正樹です」
「防衛省副大臣を務める山本浩智です。お会いできて光栄です」
「内閣府特命担当の江口寿一です」
「異世界対策委員会の野上武史です」
 そして最後に。
「内閣副総理の蒲生太郎だ」
「改めまして。カナン魔導連邦異世界ギルド・ギルドマスターのマチュアと申します」
 丁寧に挨拶をするマチュア。
「さて、マチュアさんや、もし都合が悪くなければ、山井くんと何を話していたか教えてもらえるか?」
 蒲生がそう話すと、マチュアはテーブルの上にメモリーオーブを置いた。
「直接これを聞いて頂けると」

――カチッ
 魔力を注いで先ほどの部屋での話を再生する。
 それが全て終わると、全員が溜息をついた。
「相変わらずの独断専行ね。マチュアさんが怒るのも無理はないわ」
「言葉の使い方を知らんのか。交渉下手にも程がある」
「山井の献金先を調べろ。報道関係があったならそれなりの対応をする」
 秘書官が忙しそうにメモを取る。
 その上で、蒲生が頭を下げた。
「あの阿呆が申し訳ない。異世界政策局の件についてだが、政府からは人員を派遣した上で現状維持というのが基本方針で固まっていた。だが、野党としてはそれでは面白くないらしく、異世界に関する利権を欲しているのもいる」
「山井の後ろに誰かがいるのは分かっている。KHKと山井の癒着もな」
「言葉で信じて欲しいと言われても信じないかもしれないが」
 そう説明してくれるので、マチュアも少し安堵した。
「信用しますわ。ミナセ女王が仰っていました」
「なんと?」
「蒲生という方は、外見こそ悪徳商会のボスのように見えますけれど、中身は誠実な方であると」
――ブッ
 あちこちこら笑い声が聞こえる。
「おいおい、おれは越後屋かよ、参ったなぁ」
――ドッ‼︎
 その言葉で大笑いする者もいる。
 そんな空気の中で、蒲生がマチュアに話し始める。

「それじゃあ本題だ。マチュアさん、国交の件、日本政府は前向きに検討している。その上で返事が欲しいのだが、日本政府から資源調査団を派遣したい」
「今までのような査察団ではなく?」
「ああ。正式に調査をしたい。何も調査したから採掘権をよこせと言うのではない。日本が調べたデータという名目が欲しい」
「カナンの報告書ではなく、ですか」
「日本の議会というのはじつに面倒臭くてねぇ。目に見えないものは信用しない。だったら国の調査団を派遣すりゃいいっていう事になったんだ」
「成る程、それで機材の持ち込みも許可して欲しいと?」
「機械類の持ち込み禁止なのは重々承知。それをどうにか頼みたい」
 マチュアも羊皮紙を取り出して今の言葉を書き取る。
 知識のスフィアで後から取り出せば済むのだが、形として残しているという姿を見せる。
「女王判断ですね。持ち帰って検討しますが、良い答えになるように努力はします」
「それは助かる。こちらとしても、異世界からの査察団の受け入れ準備も進んでいるが、まだこちらにくることはないのかな?」
「既に関係者が遊びに来ていますよ。異世界ギルド職員は異世界政策局に出向していますし、逆も行なっています。札幌だけで考えれば、意外と行き来しています」
「そ。そうなのか?」
「ええ。折角ですからこれをお見せします」
 空間からブレスレットと『異世界渡航旅券パスポート』『双方向翻訳指輪』を取り出して並べると、一つ一つを手に取って説明した。

 各議員も席を立ってマチュアの元に向かうと、それを手に取って確認している。
「これは販売するのかな?」
「しません。ブレスレットと指輪は職員のみ、パスポートは回数制限のものは販売しますが、無制限は職員と局員のみですね」
 それらを見て、今更ながら驚いている一行。
「うう~む。これは欲しいなぁ」
 腕を組んで唸っている蒲生。
 それにはその場の議員たちも同意するが。
「お渡しするのは構いませんが、それこそ賄賂だなんだと騒がれませんか?」
「異世界対策委員会の面々が持つ分には賄賂とは言われないだろうが‥‥うーん。俺も今から加わるかな?」
「蒲生さん脱線しすぎですよ。話を戻しましょう」
 宮川議員が促すと、全員が席に戻った。
「山井さんとの話については、そのまま進めても構いませんが。会場などはこちらで手配しましょうか?」
「そうですね。何処かありましたら。当日は私も護衛を連れてやって来ます」
「ミナセ女王ではないのですね?」
「異世界に関しては全て私が一任されていますので、実質の最高責任者ですね。次の女王の仕事は調印式でしょうねぇ」

「では。日時と場所が決まりましたら、異世界政策局に連絡すればよろしいので?」
「ええ。ギルド員が居ますので、そこから連絡が来ます。私もちょくちょく来ますし」
「あとは報道関係者か。窓口にも殺到しているのでは?」
「ご安心を。カナン大使館が完成したらそっちに回るようにしてあります。それまでは申し込みは受け付けない方向で行なっていますが、私が気まぐれで受けることはありますので」
 ドッと笑う。
「まあ、それでいいんじゃないか?もし今後も政府に連絡が欲しい時は野上くんが窓口になる。もと北海道庁の職員で、土方くんの秘書も務めて居た男だ」
 その説明にニィッと笑う野上。
「成る程。これは知事から連絡があって急遽作られたのですね?」
「お察しがいい。三笠部長にも話は通してありますので」
「さて、話が決まったとなると、あとで山井は締め上げるか。人の名前を出して勝手なことを」
「そうなのですか?」
「異世界政策局の件はさっき話した通りだ。山井のは独断専行、改めて奴と話をつけないとならんな」
 蒲生さん、ご立腹。
「まあ、日本でもできる限りの便宜を図るつもりではいる。カリス・マレスにとって悪くない方向でだ。全てを信用しろとは言えないがな」
 蒲生がそう説明すると、他の議員たちもコクリと頷いている。
「私たちは異世界を食い散らかすつもりも、一方的に利用するつもりもありません。良き隣人として付き合っていきたいのです。その為の対話の準備はできています」
「いつでも都合のいい時にいらして下さい。その時はここの全員ではありませんが、誰かが必ず対応することをお約束します」
 その言葉には一本芯が通っているのを感じる。
「では、以降はこちらに来たら良いのですね?守衛と受付には話を通していただくと助かります。私も忙しい身ですが、代わりのものを送る準備もしておきましょう」
 それで話し合いは終了した。
「では、お互いに良き結論のために」
「ええ」
 蒲生とマチュアはしっかりと握手する。
「では、玄関まで送りますよ」
「いえ、先に記者クラブに案内して下さい。ここまで話ができるとは思っていませんでしたから、進藤さんにご褒美をね」
 その言葉の真意を感じたのか、マチュアは蒲生を伴って記者クラブの会見場に向かった。

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