異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第七部 これからの日常、異世界の日常

異世界の章・その18 勝てると思った根拠を示せ

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 札幌市の繁華街ススキノ。
 その一角にある巨大アミューズメントパーク『チャレンジワン』。
 その最上階は、屋上と合わせた2層構造の巨大なサバイバルゲーム会場である。
 レギュレーションは決まっているものの、その範囲内ならば個人所有のものを使っても良い。
 銃本体や使用するBB弾、ガスの基準から弾速の規定など、様々なレギュレーションが設定されている。
 そして撃たれたら素直に手を上げてデッドエリアと呼ばれている避難所に向かう。
 それらルールを守って楽しく遊ぶための場所である。

「はぁ。ナイフ使っていい?」
「ロングソードはオッケーか?」
 レギュレーションを眺めながら、マチュアとストームが係員に問いかける。
「手榴弾や対人地雷も禁止です。ロングソードってなんですか? 刃の部分が軟質チョークのラバーナイフはオッケーです」
 へえ。
 中々楽しそうだなと思うと、十六夜が奥のレンタルロッカーから自前の装備を持ってきた。
「はぁ?」
「十六夜ちょっと待て、お前大人気ないぞ」
「私の趣味ですよ。これで遊べますし、私たちがチームで別のチームと対戦するだけですよぉ~」
「あ、そうか、チームね。それならいいや」
「銃か‥‥レンタルのはどれだ?」
 マチュアとストームもレンタルコーナーに向かうと、店員から色々とレクチャーを受けている。
「しかし、随分といろんな装備があるんだなぁ。ストームはどれに‥‥お前は誰だ?」
 横で完全武装のストームが銃を選んでいる。
「あ?ストームだが?」
「その装備はなんだ?何処で拾った?」
「何処でと言われてもなあ。異世界の異世界?」
 ちなみにストームが着けているのは、異世界の地球で手に入れた軍用装備。
「何処だよ全く」
「ゲーニッヒとエストラード連合の正規装備だ。かなり性能は高いぞ」
 レンタル小銃とライフルを手にして構えるストーム。
 マチュアはナイフと小銃を借りて、二人は十六夜の元に戻った。
「あれ?サムソンって銃器とかあるのですか?見たこと無い装備ですけど?」
「あ~違う違う。カリス・マレスとは別の世界の装備だ。俺は二つの世界を救った英雄なのでね」
 嘘ではない。
「ま、まあ、それで問題はないですね。対戦相手が決まったのですが、厄介な相手ですよ」
 大型モニターに表示されている対戦チーム。
「チーム名がミラージュか。強いのか?」
「札幌ではトップクラスです。サバイバルゲームの全国大会の常連で、世界大会にも出ています。六人まで登録可能ですが、あっちはフルメンバーで登録していますね」
 大人気ないのではなく、本気で遊んでいるのであろう。
 ならばこちらも本気で行く。

「まあ、いいんでない?ストーム、10分で終わらせるよ」
「オーケィ。本気の本気、冒険者の実力を見せてやるよ」
 クックックッと笑うマチュアとストーム。
「あ、あの、ルールはフラッグ戦ですので、相手の陣地の旗を取ったら勝ちですよ?」
「大丈夫。十六夜さんはフラッグ守っていて。私とストームで全滅させてくるから」
 大人気ない冒険者チーム結成。
 作戦は特にない。
 そして試合開始時間の10分前には、対戦相手が挨拶に来た。

「本日は宜しくお願いします。札幌でナンバー3の十六夜さんと戦えて光栄です」
 ニコニコと挨拶するチームリーダー。
 嫌味ではなく、まじめに話しているようだ。
「それで、今日はチームは三名ですか?うちの人数減らしますか?」
「ご安心ください。最強の助っ人です」
 そう話してから、ストームが前に出る。
「宜しくお願いします。ストームです」
 全身本物の軍装備。
 一目見てチームリーダーは絶句した。
 そしてマチュアも前に出ると、帽子を脱いでエルフ耳を出す。
「カナン魔道連邦異世界ギルドのマチュアです。本日は胸を借ります。こちらも本気で行きますので、お願いしますね」
 ニッコリと微笑む大人気ない二人。
「は、はぁぁぁぁ~?」
「ではミーティングがありますのでこれで」
 十六夜がそう話して立ち去ると、ミラージュのリーダーが絶叫しながら戻って行く。
「相手は異世界の冒険者だ、装備を変えろ本気で行くぞ‼︎」
 その叫び声は会場でモニター観戦をしている人達の耳にも届く。
 あちこちからチラチラとマチュア達を見る人が増えてきた。
 すると。
「あ、あの、申し訳ありませんか、こちらにサイン頂けますか?」
 受付の店員が色紙を持ってやって来た。
「ふぁ?私たちの?」
「はい。本物の冒険者が来るなんて光栄です」
「あらら。だってさストーム」
「色紙なら良いか。外泊証明とか言われてサインさせられたら堪らないぞ」
「お前なら1ヶ月で帰って来るわ。とっととサインしろ」
 そんな阿呆な話をしながら色紙にサインする二人。
 すると、あちこちの観客やサバゲーマーも自分のジャケットや銃にサインして欲しいとやって来る。
「試合終わったらしてあげるから待っててね」
 そう話すと皆下がって行くが。
「ストームさん、マチュアさん本当に大丈夫でしょうか?」
 やや不安そうな十六夜。
 だが、マチュアもストームも笑っている。
「大丈夫だ。これはゲームだから死なない。なら無茶できるからな」
「そうそう。試しの回廊とかスタイファー遺跡なんかと比べたら、全然楽ですよ。相手は人間なんだから」
 君たちは比べるものがおかしい。

――ブワァァァァン
 会場にブザー音が響く。
『チーム・ミラージュと幻影騎士団はスタートエリアに向かって下さい。準備ができたらスタートボタンを押してください‥‥両チームのスタートが確認されると試合開始です』
 そのアナウンスと同時に、ストーム達はスタートボックスに向かう。
 そしてボックス内に着くと、ストームは詠唱を開始した。
「光の精霊ルクス。闇の精霊レクス。我が元に集いて敵を示せ」
――フワッ‥‥
 無数の光と闇の精霊がボックスに溢れる。
 その横では、マチュアも静かに印を組んでいる。
「ステルス起動‥‥」
 フゥッとマチュアの姿が消えて行く。
 この光景には、外のモニターで見ていた観客は絶句している。
「ま、マチュアさんいますか?」
「はいはーい。居ますよー。スタート押してくださいね」
「では行きます」
――ポチっ
 十六夜がスタートボタンを押すと、ボックスのランプが輝き金網の扉が開く。
「行け‼︎」
 ストームの掛け声で精霊達が会場に広がると。
「ターゲット確認。右から二、左から三。フラッグに一人。マチュアは右手からフラッグに」
「はいはーい」
 その言葉と同時に、ストームの姿も消えた。

《相手は冒険者。でも、こういう戦いは知らないはず)

 ミラージュの斥候が木陰に隠れながらゆっくりと近づく。
 まだマチュア達の姿は見えて居ない。
――ヒュッ
 ふと、突然斥候の首筋にチョークの跡がつけられた。
「何だっ‼︎」
 振り向くとマチュアがラバーナイフをかまえている。
 既に首を真っ二つに切り裂かれた斥候。
「はい死体確定ね。まず一人と」
 それを告げてから、シュンッとマチュアの姿が消えた。
「な、なんだ?気配も何もなかったぞ?」
「うわっ‼︎何処から出たんですか」
 少し後方からは、小銃を構えたアタッカーの叫び声も聞こえる。
「心臓と肝臓ね。死んだから死体置き場へどうぞ」
 そう話してから、マチュアはまたしても消えた。 


――その頃のストームは
《ふむ‥‥》
 しっかりと気配を消して木の上に立つと、相手の殺気を探り出す。
 あとはわずかな隙間さえあれば問題はない。
――パスパスッ
 二発撃ち込んで二人の頭のヘルメットにペイント弾を叩き込む。
 撃たれたものはどこから撃たれたか理解して居ないだろう。
 そして残りの一人がストームに気づいてライフルを構えたが、そのスコープに向かって先にペイント弾を叩き込むストーム。
――パチッ
 スコープが塗料で見えなくなると、慌てて物陰に隠れようとするスナイパー。
 だが、その胸元にストームの放ったペイント弾か着弾した。
「悪いが、ゲーニッヒ軍の方がまだ手強かったぞ」

――そしてフラッグ前
 堂々とフラッグのあるゲージに向かうマチュア。
 そこには誰もいない。
「近くに隠れているのは見えるけどねぇ」
――カチッ
 引き金を引く音と、マチュアが瞬歩でフラッグを掴むのがほぼ同時。
 10mの距離が一瞬で詰められたのである。
 スポッとフラッグを引き抜くと、連動しているブザーが鳴り響いた。

『試合終了です。幻影騎士団の勝利です』

 いつのまにか観客席は満員となり、立ち見席まで人がびっちりと詰めている。
 そんな中、マチュアとストームはフィールドを逆走してスタートボックスに戻って来た。
「あ、あら?私の出番は?」
「フラッグ守ってくれたでしょ?万が一もあるから後衛は必要なのよ」
「そういう事だ。後ろがしっかりしてくれるから、俺たちは前線で無茶ができる」
 そんな話をしていると、対戦チームのメンバーが集まってくる。
「か、完敗です。本気の冒険者って凄いです」
「その技術を教えて欲しいところです。ありがとうございました」
 そう話をしていると。
「また機会かあったらね。これは体動かせるから楽しいし。また来ますよ」
「そういう事だな。今度は俺がナイフで行く‥‥」
 お互いに握手して試合が終わると、マチュアとストームにはサイン会という恐怖が待っていた。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


――同時刻、チャレンジワンのカラオケエリア
「全くわからない‥‥」
 既に三時間は熱唱している赤城達の隣で、ツヴァイはただひたすらに合いの手を打っていた。
 時折端末が回ってくるが、異世界の歌など分からない。
 マチュアから受け取った知識のスフィアから現代の歌のデータを探して比較しても、どうもあちこち違う。
「ツヴァイさん。私たちの世界の知識も覚えたほうがいいですよ。文化交流となると、私たちの世界では歌手や俳優、芸人が親善大使になって向かうこともあるのですから」
「そうそう。さらに話が進むと姉妹都市とか色々とあるんですよー。だからカラオケです」
「どうしても全てカラオケで繋げたいのですね?」
「カラオケは文化ですよ」
 そんな話をしていたら、廊下が少し騒がしい。
「おや、ち、ちょっと見て来ますね?」
 慌てて帽子を被ると、ツヴァイが廊下に出る。
 何人かの人が、あちこちで誰かを探しているらしい。
「何かあったのですから」
「うわ、外人さんか。異世界の人がさっきからゲーセンで猛威を振るっているそうなんですよ。景品取りまくりだって‥‥」
「そうですか。では‥‥」
――ガチャッ
 ゆっくりと扉を閉じると、ツヴァイは引きつりそうな顔を懸命に戻す。
「何かあったのですか?」
「そう言えば、マチュア様とかストーム様もここに来ているんですよねぇ。廊下であの二人を探している人達が騒いでいましたよ」
――ポン
 と手を叩く吉成。
「あ~そうなんですか。ならここは安全ですね」
「あの二人には囮になってもらいましょう」
 それで良いのか異世界政策局。
「ツヴァイさーん、一つ聞いて良いですがー」
 マイク片手に絶叫する赤城。
「は、はい、なんでしょか」
「ストームさんは彼女いますか~」
 おおっと。
 いきなり核心からくる赤城。
 恐ろしい子。
「ええッとですね。妃候補も彼女も居ますよ」
「じ、重婚ですか!」
「ええ。地位と財力があれば許されます。ストーム様はサムソン辺境国の国王で、ラグナ・マリアの剣聖です。誰も咎めることはありませんよ」
「そ、それなら、ストームさんは貧乳も愛してくれますか‼︎」
 だれか赤城を止めろ。
 マイク片手に絶好調である。
「正妻候補の方は、なんと言いますか、この世界でいう『チッパイ』に近いですね。まな板まではいきませんが、まあその、私の方からはこれ以上は‼︎」
 変な汗をダラダラとかいているツヴァイ。
 チッパイだけで十分に不敬罪と思います。
「さて、それじゃあそろそろお開きかな?赤城の絶叫が始まったので」
 そう高畑が話すと、吉成も帰り支度を始める。
「そうなのですか?」
「ええ。この後は赤城さんは爆睡モードです。いつもの事ですよ。私は近所なので一緒に帰りますし、高畑さんも豊平ですから近いのですよ」
 ふうんと納得するツヴァイ。
「魔法で酔いでも醒ましますか?」
「あははは。それは良いですよ。このほろ酔い加減が楽しいのですから」
「そういうものなんですねぇ。では、私もそろそろ帰りますか‥‥あの阿呆達の面倒でも見て来ますよ」
「そうしてあげてください。赤城さん、いきます‥‥って。もう着替えてるし」
「そろそろ帰りますよぉ~」
 多少フラフラとしているが、赤城はまだしっかりとしている。
 そのまま部屋から出ると、会計はツヴァイのおごりと言うことで全てツヴァイが支払ってくれた。
 そしてチャレンジワンの入り口で赤城達を見送ったのち、ツヴァイは建物の中で最も騒がしい場所に向かう。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


――プシュー
 サイン会はいつまでも終わらなくなるので時間制にして貰った。
 そして時間が来てマチュア達もこれ以上ここにいるのは危険と判断し、建物から移動しようとして居た。
「はぁはぁ。ここに居ましたか」
 息を切らせながらツヴァイがマチュア達に合流する。
「おやぁ。ツヴァイもここに居たのかい。楽しんでた?」
「まあそこそこには‥‥って、十六夜さんなんですか、その大量の景品は」
 横にいるストームと二人で大量の景品を抱えている十六夜。
「まあ、俺とマチュアで大量ゲットした。という事でそろそろ帰ろうと思ってな」
 そのままチャレンジワンから出ると、マチュアが大型の絨毯を広げて飛び乗る。
 そこに十六夜とストーム、ツヴァイも乗ると、外交団ナンバーを固定して空に浮かび上がった。
 眼下に広がるススキノの夜景。
 それを眺めながら、マチュア達は帰路に着く。

 先に十六夜を家まで送ると、マチュア達は上空で纏めて赤レンガ庁舎へ転移する。
 その後はお決まりのように転移門ゲートを通ってカナンへと戻っていった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 異世界交流がある程度続いたある日。
 その日は日本国の査察団がやって来る日であった。
「えーっと、今日の査察団のガイド担当は誰でしたか?」
 フィリップがカウンターにいる政策局のベネット・桜木と高島隆に問いかける。
 今週の出向担当らしい二人は、手元の資料をパラパラとめくる。
「うちからは赤城が、ギルドからはジョセフィーヌさんですね」
「ほうほう。なら問題はありませんね。ではみなさんもいつも通りに」

「「「はい」」」

 そう話をしていたら、転移門ゲートのある部屋から声がした。
『ようこそカナン魔導連邦へ。地球から来た者よ、この先で検疫を受けて欲しい』
『は。はい。ワイルドターキーさん、これは手土産と今回の交易見本です、どうかお納めください』
 幻影騎士団から派遣されてきた門番のワイルドターキーと、政策局員の赤城がそんなやり取りをしている。
 やがて検疫を終えた人たちが手荷物検査を終えてこのロビーにやってるのだが。

 まず引率の赤城がロビーにやって来る。
 そのまま書類をカウンターに提出すると、検査を終えて出て来る査察団をじっと待っていた。
「赤城さん、今回は何名ですかねぇ」
 フィリップがそう問いかける。
「多分、記者が三人ですので三人は固いかと」
 そんな会話をしていると。

――パンパンパパパパンッ
 ギルドの入り口で小さい爆発音が響き渡る。
「うわ、なんだこれ」
「俺もだ。一体どういう事だ?」
 手荷物検査を終えた新聞記者とカメラマンが、ロビー入り口を越えて騒いでいる。
「どうなさいましたか?」
 ベネット・桜木がカウンターの中から二人にそう問いかけたが。
「いや、服のボタンが爆発して」
「俺もだよ。ボールペンや手帳が爆発したんだ。どういう事だよ」
 そう叫んでいるが、ベネットはにこやかに一言。
「先程説明しましたが、機械的なものの持ち込みはご遠慮願っています。先日も査察団の方が羽ペンや本に何かを隠して持ち込もうとしましたところ、残念ですがそれらは全て壊れてしまったそうですよ」
「そ、そうか。わかった気をつける‥‥」
 がっくりと肩を落とす二人。
 その姿を見て、残った記者や議員達も隠していたカメラや録音機材を次々と提出していた。
 そして30分後には、全員が全てのチェックを終えて異世界ギルドの一階ロビーに集まった。

「ようこそカナン魔導連邦へ。私はマチュアと申します。この異世界ギルドのギルドマスターを務めていますので、どうかよろしくお願いします」
 全員の前に姿を現したマチュアが、丁寧に挨拶を始める。
 すると、いかにも頭の固そうな学者っぽい男性が、すっと手を挙げた。
「済まないが、私は地球では学者をやっていてね。この世界のことを色々と研究報告する義務がある。記録媒体の使用許可を求めたい」
「な、なら我々もだ。この世界の者達には分からないかもしれないが、我々には報道する自由がある。その権限を使わせてもらいたい」
 学者に続いて報道記者達も主張するが。マチュアはニコニコと笑いながら一言。
「成る程。ですが、あなた達の頭はなんのためにあるのですか?文字は書けますよね?それで間に合わないのですか?」
「それだと映像に残さないではないか」
 すかさずカウンターの高島が、今回の来訪者リストをマチュアに手渡す。
「えーっと‥‥あなたは大学教授の‥‥で、そちらの報道の方々は‥‥と‥‥、‥‥さんですね。こちらに来るときに説明はしてありましたが、それを納得していらしたのではないのですか?」
「ふん。我々には権利があるのだよ」
「では、その権利とやらはあなた達の世界の他国でも通用するのでしょうか。もう一度よく考えてくださいね。それでも主張するというのでしたらどうぞ勝手に使いなさい。その時点で私たちは日本国から転移門ゲートを撤退しましょう」
 その言葉で、議員達が慌てて教授や報道記者を止めに入る。
「では、改めてご案内します。外で馬車が待機していますので、そちらへどうぞ」
 赤城が査察団を連れて外に向かう。
 それを見送ると、マチュアはバラバラになったカメラの破片をヒョイと摘んだ。
「なんで持って来るかねぇ。あの連中、まだ色々と無理難題言ってくるよ。まあミナセ女王に締められないことを祈るね」
 そう呟くと、マチュアは届けられた荷物をカウンター奥の倉庫区画に運び入れる。
 そして戻ってくると、カウンター近くの席に座ってコクリコクリと居眠りを始めた。
「あ、あれ?フィリップさん、マチュアさんはここで居眠りしていいんですか?」
 高島がフィリップに問いかける。
「なぜですか?」
「この後は王城で女王との謁見がありますよ。マチュアさんって、この国の女王ですよね?」
 異世界政策局員はマチュア=ミナセ女王と思っている。
 ギルド員は正体を知っているが、ミナセ女王が別にいることも知っている。
 なので。
「うちのギルドマスターと女王は別人ですよ」
 そのフィリップの言葉にコクコクと頷く局員達。
「な、なんだってぇ?今までずっと同じ人と思っていましたよ」
「よく見ると顔が少し違いますよ。まあハイエルフって同じ顔に見えますから無理はありませんね」
 ホッホッホッと笑うフィリップ。

 さて、その頃のミナセ女王は、中々楽しいことになっていた。
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