172 / 183
第七部 これからの日常、異世界の日常
異世界の章・その14 地球人とカリス・マレス人の違い???
しおりを挟む
予想外とはこれいかに。
異世界ギルドで3人ずつ2チームに別れての観光。
簡単に終わると思っていたのだが、まさかこんな事になるとはゼクスも予想していなかった。
「‥‥では、貴方が最後ですね。神の加護がありますように」
目の前に跪いている女性に声を掛けると、彼女の目の前に魂の護符がスッと現れた。
「こんな時間に申し訳ありません、ケビン枢機卿」
高司祭の礼服に身を包んだケビン枢機卿に、ゼクスは丁寧に頭を下げる。
それに合わせて、ゼクスとともに来た赤城湊、高畑みのり、吉成亜弥の三名も頭を下げていた。
ゼクス班の一行がまず来たかった場所は、マチュアがテレビで見せていた身分証明書である魂の護符を発行してくれる所。
そのために、ゼクスはファナ・スタシア神聖教会に来ているのであった。
「司祭様、いくつか教えて欲しいのですが」
魂の護符を眺めていた吉成が、ずっと手を上げながらケビンの元に歩み寄る。
「どうぞ。私の知ることで宜しければ」
「私たちもこの世界で冒険者になれるのでしょうか?」
実に率直な質問である。
「なることはできると思います。ですが、冒険者の道を進むと、貴方たちの世界に戻った時の反動があります」
「反動ですか?それはなんでしょうか?」
高畑も前に出てそう問いかける。
「そうですねぇ‥‥」
困った顔でゼクスを見るケビン。
すると、ゼクスも理解したらしく頷く。
「この世界の冒険者にはランクとクラスが存在します。最近の冒険者はまとめて考えているようですがね。クラスはその者の適性、ランクは強さと理解してください」
「クラスとランク。ゲームの職業とレベルみたいなものですか?」
「貴方たちの世界のゲームというものが私には分かりませんが」
「クラスと職業は多分同じです。戦士だったり魔法使いだったり」
「それで、ランクとレベルは同じです。敵を倒して経験値を得ると、レベルが上がって新しいスキルや身体能力があがりますから」
吉成と赤城が続いて説明する。
「ならば、皆さんがこの世界で冒険者となった場合。ランクが上がるとどうなるか理解できますね?」
言葉が詰まる。
ケビンの話の真意を理解したのであろう。
この世界で鍛える事で、簡単なドーピングのような効果を得ることができる。
それは何もスポーツの世界に始まったことではない。
逆に犯罪者が横行しそうな懸念もあるのである。
「皆さんの世界から私たちの世界に来るということは、皆さんの世界では手に入れることができない力が手に入るということです」
その言葉にコクリと頷く一行。
「つまり、容易に手に入れてはいけないということですね?」
吉成がそう話すが、ケビンは首を左右に振る。
「少しだけ違います。手に入れることは誰も咎めません。この世界に生きる者の権利です。その力を使うときは、自分の心に問いかけてください。それは貴方にとって正しいのかと」
ふむふむ。
じっと話を聞いている三人を、ゼクスは穏やかな目で眺めていた。
(この三人は、力の使い方を間違えないだろうな)
「こちらの世界の人たちには日常。なのであまり気にすることなく力を行使しています。けれど皆さんの世界では非日常。使うなではなく、使いどころを考えてみてくださいね。では、これで魂の護符の登録は完了しました。皆さんに神の加護がありますように」
丁寧に会釈するケビン。
「「「ありがとうございました」」」
三人も頭を下げると、ゼクスとともに教会を後にした。
次の目的地は冒険者ギルドである。
○ ○ ○ ○ ○
それは巨大な建物であった。
高さにして4階建て、木造と石造りによって補強された頑丈な作り。
そしていかにもといった感じの無骨な外観。
まさに冒険者ギルドとしての威厳を保っているといっても過言ではない建物である。
その一階の受付に、ゼクスたちはまっすぐに歩いて行く。
「ここが冒険者ギルドですか」
「アニメで見ましたけれど、あまり変わらないのですねぇ」
高畑と赤城がウンウンと頷きながら呟いている。
吉成はというと、壁に貼ってある依頼書を眺めている冒険者の方に興味があったのだろう。
じっとそっちだけを見ていた。
「はっはっ。それはイメージが一致して良かった。ではこちらに」
そう告げてから初期登録カウンターに向う。
いつにもまして元気そうな受付のサーリァが、ゼクスたちが来るのに合わせてカウンターに近づく。
「ようこそ、そして初めまして。この冒険者ギルドの総合受付を管理していますサーリァと申します。それではさっそく魂の資質の鑑定、そして冒険者ギルドの登録を行いますか?」
丁寧にそう告げる巨乳のお姉さんサーリァ。
「ええ。本日登録するのはこちらの三名です。地球という異世界の方ですので‥‥」
そう告げた刹那、ゼクスは併設している酒場から走ってくる冒険者に対して牽制した。
「さて、こちらの方は異世界からの来訪者。異世界ギルドでも働いて貰う方です。まさかチームにスカウトしようとか考えていませんよね?」
「い、いや、そんなことなぁ」
「そうよ。異世界から来たって言うから、てっきり伝説の勇者かと思っただけよ」
「そうだぜ。おいらたちはどんな可愛い子が来たのか興味があっただけだ」
口々に弁明する冒険者だが。
全員、目が泳いでいる。
「全く。せめて初級冒険者訓練施設を卒業してからにして下さい。では、ここからはサーリァさんの指示になりますので、横で通訳しますね」
そう話してから、ゼクスは一人ひとりにサーリァの言葉を伝える。
そして指示通りに冒険者ギルドに登録したのだが‥‥。
高畑みのり‥‥クラス『幽体騎士』ランクD
吉成亜弥‥‥‥クラス『聖戦士』ランクD
赤城湊‥‥‥‥クラス『高位魔導師』ランクD
という結果が出た。
「ふぁ」
ゼクスが声にもならない声で驚いている。
それどころか、受付のサーリァですら絶句している。
「ゼクス様、これはどういうことでしょうか?」
「うーーん。つまりです、三人共聞いて下さい。高畑さんのクラスは『幽体騎士』と言いまして、自分の心力と魔力でもう一つの自分の分身である騎士を作り出し、それを使役して戦う召喚師のようなものです」
「つまりは‥‥スタンド使い?」
ギリギリかな?
その問いかけは多分大丈夫だな?
「まあ、私にはわかりませんが、なんとなく理解しましたか?」
「はい」
まずは一人。
「次の吉成さんは『聖戦士』。聖なる武具を身にまとうことの出来る数少ないクラスです。対となるのは防御特化の聖騎士、聖戦士は攻撃型の騎士ですね」
「あ、あらら。私は魔法使いが良かったのですが」
そう呟く吉成。
「いえいえ、今の適性がという事で、このあとの修行や訓練などで何にでもなれますよ」
その説明でほっとする。
そして最後が赤城。
「赤城さんの『高位魔導師』ですが、簡単に説明すると『賢者の卵』です。如何なる魔術でもそれに応じた才覚を持ち合わせている、この世界でもほんの一握りのクラスです」
「へぇ。そんなすごい力があったのですか」
「まあ、数少ないクラスゆえ、そこから賢者の道を進むのはかなり険しいですよ。みなさんはこんな感じのクラスになりました。もし冒険者として生計を立てられるようになりたいとお考えでしたら、その時は訓練施設も紹介しますよ」
にこやかに説明したものの。
どうも三人共もじもじとしている。
「あ、あの‥‥」
「装備って、どんなものがよいのですか?」
「武具屋に行きたいのですけれど」
ははぁ。
ここまで来ると、外見からだけでも冒険者になってみたいらしい。
「ま、いいでしょう。初級冒険者装備程度でしたら、私が皆さんにプレゼントしますよ」
――キャァァァァァァァァァァァ
冒険者ギルドに響く黄色い声。
斯くしてゼクス一行は、武具といえばのアルバート商会・カナン支店に向うことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
一方、ツヴァイの班はというと。
「これが全て本物‥‥」
ゴクリと生唾を飲んでいるのは、ツヴァイと共に観光している十六夜要と高島隆、古屋龍一の三名。
十六夜は同性である赤城達とはあえて別のチームに入り観光を楽しんでいる。
まず最初にやってきたのは、アルバート商会の武具店。
大量に並んでいる本物の武具を目の前に、一行は感動に震えている。
「ツヴァイさん、これって買ったらどれぐらいでしょうか?」
「もし買えるのでしたら、買って帰りたいですよ」
高島と古屋がチェインメイルやプレートアーマーを手に取りながら問いかけているが。
「はて?ちょっと待ってくださいね。『カレン、これ買ったらいくらになる?』」
最初は日本語、後半は大陸語で話しているツヴァイ。
ちょうどカレンも観光客相手に色々と聞きたかったらしく、店内で待機していた。
傍らには、マチュアに教えて貰った異世界の言葉、特に商売に使う部分を重点的にまとめた本が置いてある。
「そうですねぇ。それはサムソンの鍛冶ギルド製量産品なので金貨15枚かな?プレートは金貨35枚で大丈夫ですよ」
まだ金額の感覚がつかめないらしく、ふぅんと話しながら武器を見る一同。
十六夜はというと、カウンターの奥に掲げられている一振りのロングソードをじっと眺めていた。
「あら、お目が高いですね。こちらはサムソンの刀匠ストームの鍛えたダマスカスソードです。ミスリルとアイアン、メテオライトなど様々な金属で打ち出した逸品ですよ」
手元の日本語マニュアルを眺めつつ、片言ではあるがしっかりと説明している。
「魔法の武器ですか?」
「ええ。理論上はドラゴンの丈夫な鱗と分厚い皮膚でさえ紙のように切断しますわ」
「お、おいくらですか?」
「こちらは非売品ですが、どうしてもとおっしゃるのでしたら白金貨で200枚でお譲りします」
その金額は、知る人が聞いたら破格な値段である。
「うーん。浪漫ですよねぇ」
「ロマンですか? どちら様ですか?」
「いえ、カルディアの‥‥ではなくて、浪漫溢れる武器ですよね」
十六夜が言い直したのでやっと理解したカレン。
「これって、私たちが買っても使えるものですか?」
「まず冒険者登録をしてからの方が宜しいですよ。適性が魔法使いなのに剣を持って戦うのは得策ではありませんわ」
その説明にはごもっともである。
そのまま暫くは武器屋で見学をしていたのだが、ふと気がつくと武器屋に赤城達もやってきたのに気がつく一行。
「おや、赤城さん達も見学ですか?」
十六夜が楽しそうな赤城に話しかけると、吉成と赤城、高畑の三人が手の中から冒険者ギルドカードを取り出した。
――ヒュンッ
「な、なんだそれは?」
「汚い、君たち汚すぎるよ」
「あー、わ、私も登録しようかな~」
高島達三人が悔しそうにそう話している横で、ゼクスがカレンに一言。
「一人金貨50枚で装備を見てあげてください」
――ジャラッ
カウンターに金貨袋から金貨150枚を取り出して置くゼクス。
「あらあらあら。では早速。皆さんのギルドカードを拝見しますね」
商売モードになったカレンが三人のクラスを確認してから、何名かの店員に指示を出し始めた。
――ポカーン
その光景を見ていた十六夜達も、すぐさまツヴァイの方を振り向くと涙ながらに一言。
「ツヴァイさん、私達も冒険者になりたいです」
「ゼクスさんの方で認められたのでしたら」
「おねがぃじまずぅ~」
古屋に至っては涙声である。
「ふう。ではまず先に皆さんの魂の護符の登録に向かいましょうか。まずはこの世界の住人になってからですね」
その説明の直後、十六夜たちは店から飛び出していく。
それをツヴァイは苦笑しながら眺めていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日。
早朝の鐘が鳴り響く頃、土方知事と三笠部長は転移門を潜って地球に戻っていった。
それを見送ってから、マチュアは手荷物検査室にある大量の武器や防具に頭を抱えている。
「あ~の~なぁ~」
「ま、マチュア様、先にやってたのはゼクスです。それを見ていたうちのチームが欲しがったもので、ですからその‥‥」
必死に弁明するツヴァイ。
異世界政策局の面々はアルバート商会で購入した装備を置いて帰ったのである。
彼らは帰り際に異世界ギルドの一室を借りて、そこで着替えていったらしい。
気のいいツヴァイはそれぞれにラージザックを渡してそれに装備をしまって貰うと、預かり証まで発行したのである。
「あ~、それは別にいいや。早かれ遅かれ魂の護符は発行するし、何処かギルドにも登録するだろうと思ったからな。お土産は経費で問題ないとも言ったからそれもいい」
「ではなんで、そんなに怒っているのですか?」
「怒ってないわ、呆れてるだけだ」
「と申しますと?」
「この荷物だよ。この分だと更衣室と預かり所まで作らないとならんわ。このパターンは予想外だったなぁ」
全てお土産で持って帰ると予測していたマチュア。
刃物ぐらいなら大した場所はとらないと油断していた。
まさかの六人分の装備一式、パーティ一つ分の荷物が置いてある。
「まあ、取り敢えずはこれに放り込んで。係を決めて管理させてくれればいいよ」
空間から大型収納バッグを取り出すと、それを二つツヴァイに手渡す。
「権限の譲渡はできるでしょ?それで管理して」
「了解しました。それで今日のスケジュールは?」
バッグを受け取ると、それを肩に担いでマチュアに問いかける。
「宿も銭湯も図面ができるまで何もない。なので昼まで寝る‼︎」
そう告げて執務室に向かうマチュア。
「何かあったら起こして。フィリップさん、あとはお願いします」
「了解しました。それではごゆっくり」
――ガチャッ
部屋に入るとすぐさま深淵の書庫を起動。
マチュアはそのまま眠りについた。
異世界ギルドで3人ずつ2チームに別れての観光。
簡単に終わると思っていたのだが、まさかこんな事になるとはゼクスも予想していなかった。
「‥‥では、貴方が最後ですね。神の加護がありますように」
目の前に跪いている女性に声を掛けると、彼女の目の前に魂の護符がスッと現れた。
「こんな時間に申し訳ありません、ケビン枢機卿」
高司祭の礼服に身を包んだケビン枢機卿に、ゼクスは丁寧に頭を下げる。
それに合わせて、ゼクスとともに来た赤城湊、高畑みのり、吉成亜弥の三名も頭を下げていた。
ゼクス班の一行がまず来たかった場所は、マチュアがテレビで見せていた身分証明書である魂の護符を発行してくれる所。
そのために、ゼクスはファナ・スタシア神聖教会に来ているのであった。
「司祭様、いくつか教えて欲しいのですが」
魂の護符を眺めていた吉成が、ずっと手を上げながらケビンの元に歩み寄る。
「どうぞ。私の知ることで宜しければ」
「私たちもこの世界で冒険者になれるのでしょうか?」
実に率直な質問である。
「なることはできると思います。ですが、冒険者の道を進むと、貴方たちの世界に戻った時の反動があります」
「反動ですか?それはなんでしょうか?」
高畑も前に出てそう問いかける。
「そうですねぇ‥‥」
困った顔でゼクスを見るケビン。
すると、ゼクスも理解したらしく頷く。
「この世界の冒険者にはランクとクラスが存在します。最近の冒険者はまとめて考えているようですがね。クラスはその者の適性、ランクは強さと理解してください」
「クラスとランク。ゲームの職業とレベルみたいなものですか?」
「貴方たちの世界のゲームというものが私には分かりませんが」
「クラスと職業は多分同じです。戦士だったり魔法使いだったり」
「それで、ランクとレベルは同じです。敵を倒して経験値を得ると、レベルが上がって新しいスキルや身体能力があがりますから」
吉成と赤城が続いて説明する。
「ならば、皆さんがこの世界で冒険者となった場合。ランクが上がるとどうなるか理解できますね?」
言葉が詰まる。
ケビンの話の真意を理解したのであろう。
この世界で鍛える事で、簡単なドーピングのような効果を得ることができる。
それは何もスポーツの世界に始まったことではない。
逆に犯罪者が横行しそうな懸念もあるのである。
「皆さんの世界から私たちの世界に来るということは、皆さんの世界では手に入れることができない力が手に入るということです」
その言葉にコクリと頷く一行。
「つまり、容易に手に入れてはいけないということですね?」
吉成がそう話すが、ケビンは首を左右に振る。
「少しだけ違います。手に入れることは誰も咎めません。この世界に生きる者の権利です。その力を使うときは、自分の心に問いかけてください。それは貴方にとって正しいのかと」
ふむふむ。
じっと話を聞いている三人を、ゼクスは穏やかな目で眺めていた。
(この三人は、力の使い方を間違えないだろうな)
「こちらの世界の人たちには日常。なのであまり気にすることなく力を行使しています。けれど皆さんの世界では非日常。使うなではなく、使いどころを考えてみてくださいね。では、これで魂の護符の登録は完了しました。皆さんに神の加護がありますように」
丁寧に会釈するケビン。
「「「ありがとうございました」」」
三人も頭を下げると、ゼクスとともに教会を後にした。
次の目的地は冒険者ギルドである。
○ ○ ○ ○ ○
それは巨大な建物であった。
高さにして4階建て、木造と石造りによって補強された頑丈な作り。
そしていかにもといった感じの無骨な外観。
まさに冒険者ギルドとしての威厳を保っているといっても過言ではない建物である。
その一階の受付に、ゼクスたちはまっすぐに歩いて行く。
「ここが冒険者ギルドですか」
「アニメで見ましたけれど、あまり変わらないのですねぇ」
高畑と赤城がウンウンと頷きながら呟いている。
吉成はというと、壁に貼ってある依頼書を眺めている冒険者の方に興味があったのだろう。
じっとそっちだけを見ていた。
「はっはっ。それはイメージが一致して良かった。ではこちらに」
そう告げてから初期登録カウンターに向う。
いつにもまして元気そうな受付のサーリァが、ゼクスたちが来るのに合わせてカウンターに近づく。
「ようこそ、そして初めまして。この冒険者ギルドの総合受付を管理していますサーリァと申します。それではさっそく魂の資質の鑑定、そして冒険者ギルドの登録を行いますか?」
丁寧にそう告げる巨乳のお姉さんサーリァ。
「ええ。本日登録するのはこちらの三名です。地球という異世界の方ですので‥‥」
そう告げた刹那、ゼクスは併設している酒場から走ってくる冒険者に対して牽制した。
「さて、こちらの方は異世界からの来訪者。異世界ギルドでも働いて貰う方です。まさかチームにスカウトしようとか考えていませんよね?」
「い、いや、そんなことなぁ」
「そうよ。異世界から来たって言うから、てっきり伝説の勇者かと思っただけよ」
「そうだぜ。おいらたちはどんな可愛い子が来たのか興味があっただけだ」
口々に弁明する冒険者だが。
全員、目が泳いでいる。
「全く。せめて初級冒険者訓練施設を卒業してからにして下さい。では、ここからはサーリァさんの指示になりますので、横で通訳しますね」
そう話してから、ゼクスは一人ひとりにサーリァの言葉を伝える。
そして指示通りに冒険者ギルドに登録したのだが‥‥。
高畑みのり‥‥クラス『幽体騎士』ランクD
吉成亜弥‥‥‥クラス『聖戦士』ランクD
赤城湊‥‥‥‥クラス『高位魔導師』ランクD
という結果が出た。
「ふぁ」
ゼクスが声にもならない声で驚いている。
それどころか、受付のサーリァですら絶句している。
「ゼクス様、これはどういうことでしょうか?」
「うーーん。つまりです、三人共聞いて下さい。高畑さんのクラスは『幽体騎士』と言いまして、自分の心力と魔力でもう一つの自分の分身である騎士を作り出し、それを使役して戦う召喚師のようなものです」
「つまりは‥‥スタンド使い?」
ギリギリかな?
その問いかけは多分大丈夫だな?
「まあ、私にはわかりませんが、なんとなく理解しましたか?」
「はい」
まずは一人。
「次の吉成さんは『聖戦士』。聖なる武具を身にまとうことの出来る数少ないクラスです。対となるのは防御特化の聖騎士、聖戦士は攻撃型の騎士ですね」
「あ、あらら。私は魔法使いが良かったのですが」
そう呟く吉成。
「いえいえ、今の適性がという事で、このあとの修行や訓練などで何にでもなれますよ」
その説明でほっとする。
そして最後が赤城。
「赤城さんの『高位魔導師』ですが、簡単に説明すると『賢者の卵』です。如何なる魔術でもそれに応じた才覚を持ち合わせている、この世界でもほんの一握りのクラスです」
「へぇ。そんなすごい力があったのですか」
「まあ、数少ないクラスゆえ、そこから賢者の道を進むのはかなり険しいですよ。みなさんはこんな感じのクラスになりました。もし冒険者として生計を立てられるようになりたいとお考えでしたら、その時は訓練施設も紹介しますよ」
にこやかに説明したものの。
どうも三人共もじもじとしている。
「あ、あの‥‥」
「装備って、どんなものがよいのですか?」
「武具屋に行きたいのですけれど」
ははぁ。
ここまで来ると、外見からだけでも冒険者になってみたいらしい。
「ま、いいでしょう。初級冒険者装備程度でしたら、私が皆さんにプレゼントしますよ」
――キャァァァァァァァァァァァ
冒険者ギルドに響く黄色い声。
斯くしてゼクス一行は、武具といえばのアルバート商会・カナン支店に向うことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
一方、ツヴァイの班はというと。
「これが全て本物‥‥」
ゴクリと生唾を飲んでいるのは、ツヴァイと共に観光している十六夜要と高島隆、古屋龍一の三名。
十六夜は同性である赤城達とはあえて別のチームに入り観光を楽しんでいる。
まず最初にやってきたのは、アルバート商会の武具店。
大量に並んでいる本物の武具を目の前に、一行は感動に震えている。
「ツヴァイさん、これって買ったらどれぐらいでしょうか?」
「もし買えるのでしたら、買って帰りたいですよ」
高島と古屋がチェインメイルやプレートアーマーを手に取りながら問いかけているが。
「はて?ちょっと待ってくださいね。『カレン、これ買ったらいくらになる?』」
最初は日本語、後半は大陸語で話しているツヴァイ。
ちょうどカレンも観光客相手に色々と聞きたかったらしく、店内で待機していた。
傍らには、マチュアに教えて貰った異世界の言葉、特に商売に使う部分を重点的にまとめた本が置いてある。
「そうですねぇ。それはサムソンの鍛冶ギルド製量産品なので金貨15枚かな?プレートは金貨35枚で大丈夫ですよ」
まだ金額の感覚がつかめないらしく、ふぅんと話しながら武器を見る一同。
十六夜はというと、カウンターの奥に掲げられている一振りのロングソードをじっと眺めていた。
「あら、お目が高いですね。こちらはサムソンの刀匠ストームの鍛えたダマスカスソードです。ミスリルとアイアン、メテオライトなど様々な金属で打ち出した逸品ですよ」
手元の日本語マニュアルを眺めつつ、片言ではあるがしっかりと説明している。
「魔法の武器ですか?」
「ええ。理論上はドラゴンの丈夫な鱗と分厚い皮膚でさえ紙のように切断しますわ」
「お、おいくらですか?」
「こちらは非売品ですが、どうしてもとおっしゃるのでしたら白金貨で200枚でお譲りします」
その金額は、知る人が聞いたら破格な値段である。
「うーん。浪漫ですよねぇ」
「ロマンですか? どちら様ですか?」
「いえ、カルディアの‥‥ではなくて、浪漫溢れる武器ですよね」
十六夜が言い直したのでやっと理解したカレン。
「これって、私たちが買っても使えるものですか?」
「まず冒険者登録をしてからの方が宜しいですよ。適性が魔法使いなのに剣を持って戦うのは得策ではありませんわ」
その説明にはごもっともである。
そのまま暫くは武器屋で見学をしていたのだが、ふと気がつくと武器屋に赤城達もやってきたのに気がつく一行。
「おや、赤城さん達も見学ですか?」
十六夜が楽しそうな赤城に話しかけると、吉成と赤城、高畑の三人が手の中から冒険者ギルドカードを取り出した。
――ヒュンッ
「な、なんだそれは?」
「汚い、君たち汚すぎるよ」
「あー、わ、私も登録しようかな~」
高島達三人が悔しそうにそう話している横で、ゼクスがカレンに一言。
「一人金貨50枚で装備を見てあげてください」
――ジャラッ
カウンターに金貨袋から金貨150枚を取り出して置くゼクス。
「あらあらあら。では早速。皆さんのギルドカードを拝見しますね」
商売モードになったカレンが三人のクラスを確認してから、何名かの店員に指示を出し始めた。
――ポカーン
その光景を見ていた十六夜達も、すぐさまツヴァイの方を振り向くと涙ながらに一言。
「ツヴァイさん、私達も冒険者になりたいです」
「ゼクスさんの方で認められたのでしたら」
「おねがぃじまずぅ~」
古屋に至っては涙声である。
「ふう。ではまず先に皆さんの魂の護符の登録に向かいましょうか。まずはこの世界の住人になってからですね」
その説明の直後、十六夜たちは店から飛び出していく。
それをツヴァイは苦笑しながら眺めていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日。
早朝の鐘が鳴り響く頃、土方知事と三笠部長は転移門を潜って地球に戻っていった。
それを見送ってから、マチュアは手荷物検査室にある大量の武器や防具に頭を抱えている。
「あ~の~なぁ~」
「ま、マチュア様、先にやってたのはゼクスです。それを見ていたうちのチームが欲しがったもので、ですからその‥‥」
必死に弁明するツヴァイ。
異世界政策局の面々はアルバート商会で購入した装備を置いて帰ったのである。
彼らは帰り際に異世界ギルドの一室を借りて、そこで着替えていったらしい。
気のいいツヴァイはそれぞれにラージザックを渡してそれに装備をしまって貰うと、預かり証まで発行したのである。
「あ~、それは別にいいや。早かれ遅かれ魂の護符は発行するし、何処かギルドにも登録するだろうと思ったからな。お土産は経費で問題ないとも言ったからそれもいい」
「ではなんで、そんなに怒っているのですか?」
「怒ってないわ、呆れてるだけだ」
「と申しますと?」
「この荷物だよ。この分だと更衣室と預かり所まで作らないとならんわ。このパターンは予想外だったなぁ」
全てお土産で持って帰ると予測していたマチュア。
刃物ぐらいなら大した場所はとらないと油断していた。
まさかの六人分の装備一式、パーティ一つ分の荷物が置いてある。
「まあ、取り敢えずはこれに放り込んで。係を決めて管理させてくれればいいよ」
空間から大型収納バッグを取り出すと、それを二つツヴァイに手渡す。
「権限の譲渡はできるでしょ?それで管理して」
「了解しました。それで今日のスケジュールは?」
バッグを受け取ると、それを肩に担いでマチュアに問いかける。
「宿も銭湯も図面ができるまで何もない。なので昼まで寝る‼︎」
そう告げて執務室に向かうマチュア。
「何かあったら起こして。フィリップさん、あとはお願いします」
「了解しました。それではごゆっくり」
――ガチャッ
部屋に入るとすぐさま深淵の書庫を起動。
マチュアはそのまま眠りについた。
0
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する
真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。
絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。
回帰の目的は二つ。
一つ、母を二度と惨めに死なせない。
二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。
回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために──
そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。
第一部、完結まで予約投稿済み
76000万字ぐらい
꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる