異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第七部 これからの日常、異世界の日常

異世界の章・その14 地球人とカリス・マレス人の違い???

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 予想外とはこれいかに。
 異世界ギルドで3人ずつ2チームに別れての観光。
 簡単に終わると思っていたのだが、まさかこんな事になるとはゼクスも予想していなかった。

「‥‥では、貴方が最後ですね。神の加護がありますように」
 目の前に跪いている女性に声を掛けると、彼女の目の前に魂の護符プレートがスッと現れた。
「こんな時間に申し訳ありません、ケビン枢機卿」 
 高司祭の礼服に身を包んだケビン枢機卿に、ゼクスは丁寧に頭を下げる。
 それに合わせて、ゼクスとともに来た赤城湊、高畑みのり、吉成亜弥の三名も頭を下げていた。
 ゼクス班の一行がまず来たかった場所は、マチュアがテレビで見せていた身分証明書である魂の護符プレートを発行してくれる所。
 そのために、ゼクスはファナ・スタシア神聖教会に来ているのであった。

「司祭様、いくつか教えて欲しいのですが」
 魂の護符プレートを眺めていた吉成が、ずっと手を上げながらケビンの元に歩み寄る。
「どうぞ。私の知ることで宜しければ」
「私たちもこの世界で冒険者になれるのでしょうか?」
 実に率直な質問である。
「なることはできると思います。ですが、冒険者の道を進むと、貴方たちの世界に戻った時の反動があります」
「反動ですか?それはなんでしょうか?」
 高畑も前に出てそう問いかける。
「そうですねぇ‥‥」
 困った顔でゼクスを見るケビン。
 すると、ゼクスも理解したらしく頷く。
「この世界の冒険者にはランクとクラスが存在します。最近の冒険者はまとめて考えているようですがね。クラスはその者の適性、ランクは強さと理解してください」
「クラスとランク。ゲームの職業とレベルみたいなものですか?」
「貴方たちの世界のゲームというものが私には分かりませんが」
「クラスと職業は多分同じです。戦士だったり魔法使いだったり」
「それで、ランクとレベルは同じです。敵を倒して経験値を得ると、レベルが上がって新しいスキルや身体能力があがりますから」
 吉成と赤城が続いて説明する。
「ならば、皆さんがこの世界で冒険者となった場合。ランクが上がるとどうなるか理解できますね?」
 言葉が詰まる。
 ケビンの話の真意を理解したのであろう。
 この世界で鍛える事で、簡単なドーピングのような効果を得ることができる。
 それは何もスポーツの世界に始まったことではない。
 逆に犯罪者が横行しそうな懸念もあるのである。

「皆さんの世界から私たちの世界に来るということは、皆さんの世界では手に入れることができない力が手に入るということです」
 その言葉にコクリと頷く一行。
「つまり、容易に手に入れてはいけないということですね?」
 吉成がそう話すが、ケビンは首を左右に振る。
「少しだけ違います。手に入れることは誰も咎めません。この世界に生きる者の権利です。その力を使うときは、自分の心に問いかけてください。それは貴方にとって正しいのかと」
 ふむふむ。
 じっと話を聞いている三人を、ゼクスは穏やかな目で眺めていた。

(この三人は、力の使い方を間違えないだろうな)

「こちらの世界の人たちには日常。なのであまり気にすることなく力を行使しています。けれど皆さんの世界では非日常。使うなではなく、使いどころを考えてみてくださいね。では、これで魂の護符プレートの登録は完了しました。皆さんに神の加護がありますように」
 丁寧に会釈するケビン。 

「「「ありがとうございました」」」

 三人も頭を下げると、ゼクスとともに教会を後にした。
 次の目的地は冒険者ギルドである。


 ○ ○ ○ ○ ○


 それは巨大な建物であった。
 高さにして4階建て、木造と石造りによって補強された頑丈な作り。
 そしていかにもといった感じの無骨な外観。
 まさに冒険者ギルドとしての威厳を保っているといっても過言ではない建物である。
 その一階の受付に、ゼクスたちはまっすぐに歩いて行く。
「ここが冒険者ギルドですか」
「アニメで見ましたけれど、あまり変わらないのですねぇ」
 高畑と赤城がウンウンと頷きながら呟いている。
 吉成はというと、壁に貼ってある依頼書を眺めている冒険者の方に興味があったのだろう。
 じっとそっちだけを見ていた。
「はっはっ。それはイメージが一致して良かった。ではこちらに」
 そう告げてから初期登録カウンターに向う。
 いつにもまして元気そうな受付のサーリァが、ゼクスたちが来るのに合わせてカウンターに近づく。
「ようこそ、そして初めまして。この冒険者ギルドの総合受付を管理していますサーリァと申します。それではさっそく魂の資質の鑑定、そして冒険者ギルドの登録を行いますか?」
 丁寧にそう告げる巨乳のお姉さんサーリァ。
「ええ。本日登録するのはこちらの三名です。地球という異世界の方ですので‥‥」
 そう告げた刹那、ゼクスは併設している酒場から走ってくる冒険者に対して牽制した。
「さて、こちらの方は異世界からの来訪者。異世界ギルドでも働いて貰う方です。まさかチームにスカウトしようとか考えていませんよね?」
「い、いや、そんなことなぁ」
「そうよ。異世界から来たって言うから、てっきり伝説の勇者かと思っただけよ」
「そうだぜ。おいらたちはどんな可愛い子が来たのか興味があっただけだ」
 口々に弁明する冒険者だが。
 全員、目が泳いでいる。 
「全く。せめて初級冒険者訓練施設カレッジを卒業してからにして下さい。では、ここからはサーリァさんの指示になりますので、横で通訳しますね」
 そう話してから、ゼクスは一人ひとりにサーリァの言葉を伝える。
 そして指示通りに冒険者ギルドに登録したのだが‥‥。

 高畑みのり‥‥クラス『幽体騎士アストラルナイト』ランクD
 吉成亜弥‥‥‥クラス『聖戦士ホーリィウォリアー』ランクD
 赤城湊‥‥‥‥クラス『高位魔導師ハイキャスター』ランクD

 という結果が出た。
「ふぁ」
 ゼクスが声にもならない声で驚いている。
 それどころか、受付のサーリァですら絶句している。
「ゼクス様、これはどういうことでしょうか?」
「うーーん。つまりです、三人共聞いて下さい。高畑さんのクラスは『幽体騎士アストラルナイト』と言いまして、自分の心力と魔力でもう一つの自分の分身である騎士を作り出し、それを使役して戦う召喚師のようなものです」
「つまりは‥‥スタンド使い?」
 ギリギリかな?
 その問いかけは多分大丈夫だな?
「まあ、私にはわかりませんが、なんとなく理解しましたか?」
「はい」
 まずは一人。
「次の吉成さんは『聖戦士ホーリィウォリアー』。聖なる武具を身にまとうことの出来る数少ないクラスです。対となるのは防御特化の聖騎士、聖戦士は攻撃型の騎士ですね」
「あ、あらら。私は魔法使いが良かったのですが」
 そう呟く吉成。
「いえいえ、今の適性がという事で、このあとの修行や訓練などで何にでもなれますよ」
 その説明でほっとする。
 そして最後が赤城。
「赤城さんの『高位魔導師ハイキャスター』ですが、簡単に説明すると『賢者の卵』です。如何なる魔術でもそれに応じた才覚を持ち合わせている、この世界でもほんの一握りのクラスです」
「へぇ。そんなすごい力があったのですか」
「まあ、数少ないクラスゆえ、そこから賢者の道を進むのはかなり険しいですよ。みなさんはこんな感じのクラスになりました。もし冒険者として生計を立てられるようになりたいとお考えでしたら、その時は訓練施設も紹介しますよ」
 にこやかに説明したものの。
 どうも三人共もじもじとしている。
「あ、あの‥‥」
「装備って、どんなものがよいのですか?」
「武具屋に行きたいのですけれど」
 ははぁ。
 ここまで来ると、外見からだけでも冒険者になってみたいらしい。
「ま、いいでしょう。初級冒険者装備程度でしたら、私が皆さんにプレゼントしますよ」
――キャァァァァァァァァァァァ
 冒険者ギルドに響く黄色い声。
 斯くしてゼクス一行は、武具といえばのアルバート商会・カナン支店に向うことにした。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 一方、ツヴァイの班はというと。
「これが全て本物‥‥」
 ゴクリと生唾を飲んでいるのは、ツヴァイと共に観光している十六夜要いざよい・かなめと高島隆、古屋龍一の三名。
 十六夜は同性である赤城達とはあえて別のチームに入り観光を楽しんでいる。
 まず最初にやってきたのは、アルバート商会の武具店。
 大量に並んでいる本物の武具を目の前に、一行は感動に震えている。
「ツヴァイさん、これって買ったらどれぐらいでしょうか?」
「もし買えるのでしたら、買って帰りたいですよ」
 高島と古屋がチェインメイルやプレートアーマーを手に取りながら問いかけているが。
「はて?ちょっと待ってくださいね。『カレン、これ買ったらいくらになる?』」
 最初は日本語、後半は大陸語で話しているツヴァイ。
 ちょうどカレンも観光客相手に色々と聞きたかったらしく、店内で待機していた。
 傍らには、マチュアに教えて貰った異世界の言葉、特に商売に使う部分を重点的にまとめた本が置いてある。
「そうですねぇ。それはサムソンの鍛冶ギルド製量産品なので金貨15枚かな?プレートは金貨35枚で大丈夫ですよ」

 まだ金額の感覚がつかめないらしく、ふぅんと話しながら武器を見る一同。
 十六夜はというと、カウンターの奥に掲げられている一振りのロングソードをじっと眺めていた。
「あら、お目が高いですね。こちらはサムソンの刀匠ストームの鍛えたダマスカスソードです。ミスリルとアイアン、メテオライトなど様々な金属で打ち出した逸品ですよ」
 手元の日本語マニュアルを眺めつつ、片言ではあるがしっかりと説明している。
「魔法の武器ですか?」
「ええ。理論上はドラゴンの丈夫な鱗と分厚い皮膚でさえ紙のように切断しますわ」
「お、おいくらですか?」
「こちらは非売品ですが、どうしてもとおっしゃるのでしたら白金貨で200枚でお譲りします」
 その金額は、知る人が聞いたら破格な値段である。
「うーん。浪漫ですよねぇ」
「ロマンですか? どちら様ですか?」
「いえ、カルディアの‥‥ではなくて、浪漫溢れる武器ですよね」
 十六夜が言い直したのでやっと理解したカレン。
「これって、私たちが買っても使えるものですか?」
「まず冒険者登録をしてからの方が宜しいですよ。適性が魔法使いなのに剣を持って戦うのは得策ではありませんわ」
 その説明にはごもっともである。
 そのまま暫くは武器屋で見学をしていたのだが、ふと気がつくと武器屋に赤城達もやってきたのに気がつく一行。

「おや、赤城さん達も見学ですか?」
 十六夜が楽しそうな赤城に話しかけると、吉成と赤城、高畑の三人が手の中から冒険者ギルドカードを取り出した。
――ヒュンッ
「な、なんだそれは?」
「汚い、君たち汚すぎるよ」
「あー、わ、私も登録しようかな~」
 高島達三人が悔しそうにそう話している横で、ゼクスがカレンに一言。
「一人金貨50枚で装備を見てあげてください」
――ジャラッ
 カウンターに金貨袋から金貨150枚を取り出して置くゼクス。
「あらあらあら。では早速。皆さんのギルドカードを拝見しますね」
 商売モードになったカレンが三人のクラスを確認してから、何名かの店員に指示を出し始めた。

――ポカーン
 その光景を見ていた十六夜達も、すぐさまツヴァイの方を振り向くと涙ながらに一言。
「ツヴァイさん、私達も冒険者になりたいです」
「ゼクスさんの方で認められたのでしたら」
「おねがぃじまずぅ~」
 古屋に至っては涙声である。
「ふう。ではまず先に皆さんの魂の護符プレートの登録に向かいましょうか。まずはこの世界の住人になってからですね」
 その説明の直後、十六夜たちは店から飛び出していく。
 それをツヴァイは苦笑しながら眺めていた。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 


 翌日。
 早朝の鐘が鳴り響く頃、土方知事と三笠部長は転移門ゲートを潜って地球に戻っていった。
 それを見送ってから、マチュアは手荷物検査室にある大量の武器や防具に頭を抱えている。
「あ~の~なぁ~」
「ま、マチュア様、先にやってたのはゼクスです。それを見ていたうちのチームが欲しがったもので、ですからその‥‥」
 必死に弁明するツヴァイ。

 異世界政策局の面々はアルバート商会で購入した装備を置いて帰ったのである。
 彼らは帰り際に異世界ギルドの一室を借りて、そこで着替えていったらしい。
 気のいいツヴァイはそれぞれにラージザックを渡してそれに装備をしまって貰うと、預かり証まで発行したのである。

「あ~、それは別にいいや。早かれ遅かれ魂の護符プレートは発行するし、何処かギルドにも登録するだろうと思ったからな。お土産は経費で問題ないとも言ったからそれもいい」
「ではなんで、そんなに怒っているのですか?」
「怒ってないわ、呆れてるだけだ」
「と申しますと?」
「この荷物だよ。この分だと更衣室と預かり所まで作らないとならんわ。このパターンは予想外だったなぁ」
 全てお土産で持って帰ると予測していたマチュア。
 刃物ぐらいなら大した場所はとらないと油断していた。
 まさかの六人分の装備一式、パーティ一つ分の荷物が置いてある。
「まあ、取り敢えずはこれに放り込んで。係を決めて管理させてくれればいいよ」
 空間から大型収納バッグを取り出すと、それを二つツヴァイに手渡す。
「権限の譲渡はできるでしょ?それで管理して」
「了解しました。それで今日のスケジュールは?」
 バッグを受け取ると、それを肩に担いでマチュアに問いかける。
「宿も銭湯も図面ができるまで何もない。なので昼まで寝る‼︎」
 そう告げて執務室に向かうマチュア。
「何かあったら起こして。フィリップさん、あとはお願いします」
「了解しました。それではごゆっくり」
――ガチャッ
 部屋に入るとすぐさま深淵の書庫アーカイブを起動。
 マチュアはそのまま眠りについた。


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