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第七部 これからの日常、異世界の日常
異世界の章・その12 異世界キター。
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日本国・北海道庁総合政策部・異世界政策局。
赤レンガ庁舎内に新設された部署で、管轄は北海道知事直下。
現在の職員は九名、その中に部長である三笠浩一も含まれている。
そしてツヴァイとアルフィンの二人は、仕事で日本へやって来ていた。
「今、土方知事とは連絡を取っていますので少々お待ちください」
笑顔に糸目、眼鏡という外見の三笠部長が、目の前でソファーに座っているツヴァイとアルフィンにお茶を出しながら話している。
「先日、我が女王が外交特権に関する書類を書いていたと聞いて。私たちも書いて来るように促されました」
「それと、私たちからの提案で、このようなものをお持ちしまして。どうかご一考お願いします」
アルフィンに続いて、ツヴァイがそう説明すると、目の前のテーブルに『異世界渡航旅券』を一枚置いた。
「これは?」
「カナン異世界ギルド発行の、異世界渡航旅券です。登録者の魂を登録しますので、本人しか使用できず偽造もできません」
ツヴァイがそう説明すると、アルフィンは目の前で掌から異世界渡航旅券を生み出して机の上に置いた。
「ご覧のように登録者の魂から作り出されますので、これ以上はない本人証明となります」
「これも確認させて貰って良いですか?」
「どうぞ、手にとって確認してください。この旅券の所有者は、転移門を自由に通る事ができます。魔力がなくてもこの旅券が魔力の肩代わりをしますので」
その説明ののち、三笠部長は旅券をテーブルに戻す。
「いやぁ。私も例の魔力感知球に触れたのですが、反応しなくてガッカリしていたのですよ。これがあれば、私でも異世界に行けるのですか?」
嬉しそうに問いかける三笠。
それにツヴァイもアルフィンも静かに頷いた。
「これは、そのためにお持ちしました。私たちカリス・マレスの異世界ギルドの職員全員、このカードの登録を終わらせてあります。可能ならば、異世界政策局の職員の皆さんにも登録して欲しいのです」
――ガチャッ
そこまで説明をしていると、扉が開いて土方知事がやって来た。
「おや、先日はどうもありがとうございました。アルフィンさんですね」
「はい。本日はマチュア様の側近であるツヴァイ様も同行しています」
「それは都合がいいですね。これが先日、ミナセ女王から頼まれていた二人の書類です。サインして頂けると、あとはこちらで処理しますので」
二人の前に提出された書類。
それを手にとって確認すると、ツヴァイとアルフィンはサラサラッと、魔法文字でサインした。
「これで宜しいですか」
「ええ。それと、本日はこのようなものをお持ちしました。ちょうど三笠部長に説明していたところでしたので」
そう前置きしてから、ツヴァイはもう一度土方知事にも説明した。
「これですか。それで、登録方法はどうやって?」
「カードの上に血を一滴垂らすだけで」
そう説明すると、土方知事は胸元の名札を外してそこについている針を指に刺した。
――ポタッ
そして血を一滴垂らすと、旅券に波紋が浮かび上がり、名前の欄に漢字で『土方謙三』の名前が浮かび上がった。
「ち、知事、いきなり何をしているのですか‼︎」
「三笠部長もだ。上が率先して信じなくてどうする?」
そう言われると、三笠も名札を外す。
それに合わせてツヴァイも新しい旅券を取り出すと、三笠部長に手渡した。
「大丈夫ですよね?」
「そうですねぇ。登録ナンバーがありますが、三笠部長はNo.E02になりますね。異世界ギルドとはナンバリングが違いますので、この世界での二番目です」
――ポタッ
ゆっくりと針を刺して血を垂らす。
すると旅券におなじような波紋が浮かび上がり、三笠部長のフルネームが浮かび上がった。
「それで、これはどうするんだ?」
「消えるように意識すれば消えますし、手を差し出して出るように念じれば掌や指の間に出す事ができますよ」
――パッ
軽く手を振って旅券を消す土方知事。
もう一度振って取り出すと、ほはうと満更でもない笑顔になる。
「これで自由に異世界に行けるのか。凄いなぁ」
硬い口調が綻んでいる。
「先日説明した通り、持ち込み不可なものは手荷物検査で預かりますし。必要ならば護衛も通訳も付けますので、お気軽にいらして頂いて構いませんよ」
「だそうだ。三笠君、仕事帰りにちょっと寄ってみるか?」
「そんな居酒屋じゃないんですから」
そう笑い合う土方と三笠。
「それで、これを異世界政策局の職員にも登録して欲しいと言うのだな」
「はい。と言うのもですね」
――コトッ
テーブルの上に感知球を取り出すアルフィン。
「登録者の身が危険になった場合、ここに登録者の姿が映し出されます。もし映し出されたら、警察に連絡するなり、こちらに出向する予定のギルド員に告げてくれれば、すぐに助け出しに向かえます」
「ほう‥‥」
土方知事はチラッとアルフィンを見る。
アルフィンも軽く頷くと、それで話の意図が理解されたらしい。
「三笠部長、今いる職員全員ここに集めて」
「了解しました」
そう話して三笠部長は席を立つ。
その後も、土方知事は旅券を出したり消したりしている。
慣れてくると、スタイリッシュに出るようになったらしくご満悦のようなので。
「三笠部長には説明していませんが、その旅券は登録者が銃などで撃たれた際に発動する守りの加護と、怪我をある程度癒してくれる加護が入っています」
そのツヴァイの説明に驚く土方。
「それはまたどうしてですか?」
「先日、うちの騎士が狙撃されました。日本ではない何処かの国のものかもしれません。異世界政策局は私たちと常に連絡を取り合えるようになるので、同じように狙われるかもしれません。但し、この加護はここだけの話で」
「そうですねぇ。そんな事公開なんて出来ないので、自由に異世界に行けるパスポートとでも説明しますか」
「後日、一般向けに発行する方針も考えています」
そのツヴァイの言葉には、土方知事も驚いている。
そんなものが売り出されたら、誰でも手軽に異世界に行けるようになる。
「それはまたとんでもない話ですね」
「具体的にはですね。職員に手渡される異世界渡航旅券は回数無制限のパスポート、販売されるのは渡航回数券と思ってください」
アルフィンがそう説明すると、心なしかホッとしている土方。
「それは良かった。犯罪者などが逃げる先になってしまうと問題があるのでね。発行を国が管理し、目の前で登録してもらえは問題はないのですね」
「ええ。ですが、どんな所にも抜け道はあります。それを取り締まるのは皆さんであることを忘れないでください」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
暫くすると、三笠部長が六人の職員を連れてやってきた。
その中には、赤城湊の姿もある。
部屋に入った瞬間、目の前に金髪のエルフが二人と土方知事と言う組み合わせが居ることに驚いている職員達だが。
「紹介しましょう。異世界ギルドの職員のツヴァイさんと、ミナセ女王の騎士の一人、アルフィンさんです」
土方が立ち上がってツヴァイ達を紹介したので、二人も慌てて立ち上がると丁寧に頭を下げる。
「異世界ギルドのツヴァイです。本日は宜しくお願いします」
「カナン魔導騎士団所属、アルフィンです。よろしくおねがいしますね」
その挨拶に丁寧に頭を下げると、職員達も一人ずつ自己紹介した。
そして全員が席に着くと、早速土方知事が全員に一言。
「異世界に行きたい人」
咄嗟に全員が手を挙げると、お互いを見て苦笑している。
「では、行き方について説明をお願いします」
そう話を振られたので、ツヴァイが先程までの土方知事と三笠部長に説明したことをもう一度告げる。
そして人数分のカードを取り出すと、今度はナイフをテーブルに置いた。
「チクッと刺すだけですよ」
そうアルフィンが説明するが、みんな信用していないようでお互いに譲り合っている。
――ヒュンッ
すると、土方知事が手の中にパスポートを作り出す。
続いて三笠部長、アルフィンも。
「土方知事も、三笠部長も、登録したのですか?」
「ええ。私達も登録は終わらせてある。これで帰りに飲みに行く場所が増えたからなあ」
「家族サービスにも使いたい所ですが、登録したものしか行けませんし、偽造もできません。その代わり、本人の魂を登録するので最高の身分証明になりますよ」
土方知事と三笠部長の言葉で、一人がナイフではなくヘアピンを抜いてチクッと親指を指す。
――ポタッ
そして言われた通りに血を垂らして登録する。
フウゥッと自分の名前が浮かび上がると、同僚達に見せびらかし始めた。
そこからは早い。
次々と登録しては、友達同士で交換して見せあう。
「さて。これで早番の二人以外は登録完了と。異世界政策局に今度カナンからもギルド職員が出向してくるので、仲良くやってください」
三笠がそう話すと全員が返事を返す。
ならばと、三笠は駄目押しの一言。
「それに伴ってうちからも複数人ずつ、交代で出向してもらうことにもなるのでよろしくお願いしますね」
「え、えええええ?」
「私達はまだ異世界語覚えてませんよ?」
「そうです。会話が成立しないと」
そう不安がる一同。
「それでですね。まず私達ギルド員から日本語が話せるものを送ります。そこで語学研修をして簡単な日常会話をマスターしましょう」
アルフィンがそう説明すると、取り敢えずは納得したようだ。
「勤務時間に語学研修ですか?」
「ええ。そもそも今現在の仕事といっても、各政党や議員の魔力係数のまとめとかしかやってませんよね?」
「それと異世界に行きたいという方々の電話応対です」
「関係各省と、あと外国からの問い合わせもあります」
意外と忙しい毎日のようである。
話によると、近々政府の異世界対策委員会からも数名こちらにやって来るらしい。
異世界の窓口を、北海道ではなく政府主導にしたいのであろう。
「あと二名分のパスポートについては、後日私たちが直接手渡すとしますね。そののちの追加分なども、出向した職員に管理させますので。取り敢えず本日分の登録者のリストを後日渡してください」
「了解しました。それでですが、本日このあと退勤時刻になりましたら、一時間ほどで構いませんので異世界を案内してほしいのですが」
三笠がツヴァイにそう話す。
するとツヴァイとアルフィンはあと互いの顔を見てから、ゆっくりと頷いた。
「では、それまでは私達もその辺を散歩してきます。退勤時刻あたりに戻ってきますので、それから皆さんで移動しましょう」
――キャァァァァァッ
室内に黄色い悲鳴が湧き上がる。
そして職員達が仕事に戻ると、土方知事がある提案をした。
「現在の転移門ですが、場所をずらすことは出来ますか?あのように広場のど真ん中ですと、緊急時の対応が遅れてしまいます」
「ふむふむ。では、敷地の中で問題のないところに小さい建物を設置して下さい。そこに移すことは可能ですので、その手続きはお願いします」
事務的にツヴァイが話をすると、すぐにでも移動する準備をしてくれる方向で話も進む。
そこで会談のようなものは終了する。
「では、退勤時刻とやらになったらまた来ますので」
「それは構いませんが、どちらまで? 護衛を付けるには手続きがかかりますので」
三笠部長がツヴァイたちに問いかける。
まだあちこちで歩かれても困るらしい。
「この敷地内なら構いませんね?」
「庁舎敷地内でしたら。まあ、何かありましたら警備のものに声をかけてください」
「ありがとうございます。ではまた後ほど」
ツヴァイとアルフィンは軽く会釈すると、赤レンガ庁舎から外に出た。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
時間的にはまだ夕方少し前。
庁舎内の時計は午後3時半。
閉庁時刻が5時とすると、あと一時間半もこの敷地内で散策しなくてはならない。
すると、アルフィン達を見かけた観光客が恐る恐るやってきて、一緒に記念撮影をして欲しいと強請って来た。
『どうしますか? 多分一組でも許すと際限がなくなりますよ?』
『まあね。けど、断る理由はないから』
『別々に行動しますか?ここで襲われても身を守れる自信あります?』
『ミスティック舐めんな、飛び交う銃弾だって素手で止められるわ』
『では、二手に分かれますか。処理人数を分散しましょう』
『了解だ。テレビ局と新聞社とか報道が来たら建物に逃げろ』
大陸語で話を終えると、アルフィンとツヴァイは二手に分かれた。
‥‥‥
‥‥
‥
北海道庁とは反対側に向かって歩いて行ったアルフィンは、目の前で話しかけたくて困っている外国人観光客に近づいた。
すると観光客もにこやかに笑いながらアルフィンに近寄っていく。
「記念撮影をオネガイサマーズ」
『はい、記念撮影とはなんですか?』
「横に並んでください。自撮りボーで撮ります」
『ここですか?』
片言の日本語を駆使して、アルフィンは記念撮影に応じていく。
30分程すると、だんだんと人が多くなってくるのが分かる。
(ははぁ。誰かがSNSで拡散したのかな?)
そう思いつつ、遠巻きにアルフィンを見ている人たちに軽く手を振る。
それだけで皆がスマホで撮影をしているのだが。
正門あたりから肩にカメラを乗せた一行がやって来るのを見ると、アルフィンはその一行にも笑顔で手を振り、赤レンガ庁舎に歩いていく。
「あの、ちょっと、ちょっとだけ話を聞かせていただきたいのです~」
走りながら叫んでいるアナウンサー。
だが、その後ろからも次々と報道関係者がやって来るのに気がつくと、アルフィンは赤レンガ庁舎の中に入って行った。
――その頃のツヴァイは
アルフィンとは反対側に向かって散策している。
すると。
「あ、あの、私達も異世界行けますか?」
年の頃は高校生くらい。
恐らくは修学旅行でやって来たらしい一行に、ツヴァイは声を掛けられた。
正確には、ツヴァイが手を振りながら近寄って行ったのだが、そこまでサービス精神旺盛なのもどうかという所である。
「まだ国交は結ばれていません。いずれ私たちの世界と日本が国交を結べるようになれば、簡単に来ることができるかもしれませんよ」
そう話してから、ツヴァイは敷地内にあるベンチに座る。
その近くに学生達も集まってくると、ツヴァイに色々な質問をする。
「魔法、見せてください」
「まだ勝手に使ったら怒られるのよ。内緒で簡単なやつだけならね」
そう話してから、ツヴァイは掌に小さな竜巻を作り出す。
これだけで学生達は興奮状態。
「冒険者っていますか?」
「いるわよ。訓練所に入って基礎講習を受ければ、誰でも冒険者になれるわよ」
「ドラゴンは?」
「いるけれど、あまり会いたくはないわね。正直言うと、勝てるか不安よ」
「魔法の道具ってありますか?」
「一番近いのはこれね?」
そう話しながら、ツヴァイは異世界ギルドカードを手の中に生み出す。
――ウワァァァァ
それだけでかなり盛り上がる。
それを近くの学生に見せてあげると、学生達はそれを記念撮影している。
「それはギルドカード。私も冒険者なのでね」
「魔法は誰でも使えますか?」
「そうねぇ。魔力があれば不可能じゃないわよ。ちょっと待っててね」
ツヴァイはそう話してから、空間から魔力感知球を取り出した。
それを膝の上に乗せると、質問した子を手招きする。
「この水晶に触れてごらん。光ったら、魔力の才能があるかもしれないわよ」
そのツヴァイの言葉に恐る恐る手を伸ばす女子学生。
――フゥゥゥゥゥッ
すると、中心から黄色く光ると、水晶全体が黄色く輝いた。
「あら、凄いわね。私の知っている限りは、これ光る人殆どいないのよ」
なんか驚いている少女をよそに、次々と学生達が並んで手をかざす。
10人ほどが手をかざして、赤色が一人と黄色が一人。
それでも大したものだとツヴァイは感心する。
「ニュースで見たのですが、光らないと異世界には行けないのですか?」
「それは秘密。光らなかった人も、今は光らなかっただけで、訓練次第で魔力は上がるわよ」
「魔力の上げ方はどうするのですか?」
「うーん。体の中に魔力が流れている感覚をつかむのが第一段階なんだけれどねぇ‥‥」
そう話してツヴァイは考える。
まだ、子供達に魔力循環を教える時期ではないのだが。
「指先に意識を集中して。何か見えてくるようになったら、どんどん集中先を細くするの」
魔力がなくて落ち込んでいる子を手招きすると、その子の手を取って教える。
指先を軽くつついて、そこに集中させる。
「疑うと見えなくなる。でも信じすぎるのも駄目。魔力は誰の体の中にもあるわ‥‥‥」
そう説明すると、目の前の子の指先に魔力を感じるツヴァイ。
「いい感じ。わかる?」
「はい。なんとなく暖かいです」
「そうね。あなたの魔力が循環を始めたのよ。もう一度、これに触れてみて」
ツヴァイに促されて、そっと水晶に触れる。
すると、水晶の中心にほのかに赤い光が見える。
「ほら、少しだけ魔力が循環して来たでしょう?これを続けていれば、少しずつ魔力は上がるわ‥‥と」
気がつくと、遠くからカメラマンや新聞社の腕章をつけた人たちが走ってくる。
「それじゃあね。今ここで話したことは内緒よ?」
口元に人差し指を当てて、ツヴァイは子供達に手を振ると赤レンガ庁舎に向かって歩いていく。
やがて両横に新聞社がやってくるが、ツヴァイはにこやかに一言。
「ごめんなさい。今日は皆さんにお話できそうな事があまりないので」
「この後お時間取れませんか?」
「スタジオでお話を聞きたいのですが」
「せめて10分だけでも」
そう話している報道関係者だが。
「この後は予定が入っていまして。申し訳ありません」
立ち止まって軽く会釈するツヴァイ。
そして建物に入っていくと、関係者以外立ち入り禁止と書かれている扉を潜り抜けた。
‥‥‥
‥‥
‥
扉の向こうは異世界政策局。
入り口近くのソファーに案内されて、ツヴァイはそこに座る。
「おや、どうでした?」
すでに戻ってくつろいでいたアルフィンが、ツヴァイに状況を聞いているが。
「子供達に囲まれましたよ。魔力測定してたのですが、黄色が一人と赤色が一人、それとやや赤色が一人ですね」
「やや赤色?」
「ええ、実はですね‥」
一連の流れを説明するツヴァイ。
するとアルフィンがため息をつく。
「申し訳ありません」
「いや、そうではなくて。指先集中法は魔力感覚を導く初歩なので、それは教えても構わないと思うけれど。それであっさりと魔力が上がるって、潜在魔力はかなり高そうかな?」
「どうでしょうね。まあ、この世界の人々にも、私たちの世界の訓練方法が‥‥あれ?」
気がつくと、政策局の職員が皆、人差し指を立てて集中している。
――プッ
その光景に思わず吹き出すツヴァイとアルフィン。
「あの、今度、語学研修以外に魔法の座学もしましょうか?カナンの異世界ギルドになりますけれど」
「本当ですか‼︎」
「是非お願いします」
「私たちも魔法が使えますか?」
などなど、次々と質問が飛んでくるが。
――ゴホン
三笠部長が軽く咳払い。
すると、すぐさま職員達は仕事に戻った。
『ありゃ、仕事の邪魔したわ』
『これはわたしにも罪があります。申し訳ない』
『あと30分かぁ。ここでのんびりとしていますか』
『そうですね。仕事の道具を持って来たらよかったですね』
『それは同意だよ。ここでは深淵の書庫も起動できない。魔道具作って時間潰すこともできないしなぁ‥‥』
『そう言えば、今日はお土産買って帰らなくていいのですか?手ぶらで戻ったらギルドの面々怒りそうですよ?』
『この世界のお金がないのよ。金貨でも換金するかい?』
『それは駄目でしょう?宝石の換金はどうですか?』
『むぅ。予備持ってきていない』
『なら今回は諦めですね。まず為替相場とやらを確立して、通貨を交換できるようにしないとなりませんか』
『それは正式に国交を結ぶときだね。いまはまあ、奢ってもらおう』
大陸語でアホなことを話している二人。
やがて5時のアラームが鳴り響くと、職員たちは全員挨拶をして着替えに出ていった。
「三笠部長は行かないのですか?」
「私はまだ仕事があるので。あとで知事と伺いますよ」
にこやかに見送られるツヴァイ達。
やがて職員たちが着替えてくると、いよいよ異世界に向かって出発することになった。
赤レンガ庁舎内に新設された部署で、管轄は北海道知事直下。
現在の職員は九名、その中に部長である三笠浩一も含まれている。
そしてツヴァイとアルフィンの二人は、仕事で日本へやって来ていた。
「今、土方知事とは連絡を取っていますので少々お待ちください」
笑顔に糸目、眼鏡という外見の三笠部長が、目の前でソファーに座っているツヴァイとアルフィンにお茶を出しながら話している。
「先日、我が女王が外交特権に関する書類を書いていたと聞いて。私たちも書いて来るように促されました」
「それと、私たちからの提案で、このようなものをお持ちしまして。どうかご一考お願いします」
アルフィンに続いて、ツヴァイがそう説明すると、目の前のテーブルに『異世界渡航旅券』を一枚置いた。
「これは?」
「カナン異世界ギルド発行の、異世界渡航旅券です。登録者の魂を登録しますので、本人しか使用できず偽造もできません」
ツヴァイがそう説明すると、アルフィンは目の前で掌から異世界渡航旅券を生み出して机の上に置いた。
「ご覧のように登録者の魂から作り出されますので、これ以上はない本人証明となります」
「これも確認させて貰って良いですか?」
「どうぞ、手にとって確認してください。この旅券の所有者は、転移門を自由に通る事ができます。魔力がなくてもこの旅券が魔力の肩代わりをしますので」
その説明ののち、三笠部長は旅券をテーブルに戻す。
「いやぁ。私も例の魔力感知球に触れたのですが、反応しなくてガッカリしていたのですよ。これがあれば、私でも異世界に行けるのですか?」
嬉しそうに問いかける三笠。
それにツヴァイもアルフィンも静かに頷いた。
「これは、そのためにお持ちしました。私たちカリス・マレスの異世界ギルドの職員全員、このカードの登録を終わらせてあります。可能ならば、異世界政策局の職員の皆さんにも登録して欲しいのです」
――ガチャッ
そこまで説明をしていると、扉が開いて土方知事がやって来た。
「おや、先日はどうもありがとうございました。アルフィンさんですね」
「はい。本日はマチュア様の側近であるツヴァイ様も同行しています」
「それは都合がいいですね。これが先日、ミナセ女王から頼まれていた二人の書類です。サインして頂けると、あとはこちらで処理しますので」
二人の前に提出された書類。
それを手にとって確認すると、ツヴァイとアルフィンはサラサラッと、魔法文字でサインした。
「これで宜しいですか」
「ええ。それと、本日はこのようなものをお持ちしました。ちょうど三笠部長に説明していたところでしたので」
そう前置きしてから、ツヴァイはもう一度土方知事にも説明した。
「これですか。それで、登録方法はどうやって?」
「カードの上に血を一滴垂らすだけで」
そう説明すると、土方知事は胸元の名札を外してそこについている針を指に刺した。
――ポタッ
そして血を一滴垂らすと、旅券に波紋が浮かび上がり、名前の欄に漢字で『土方謙三』の名前が浮かび上がった。
「ち、知事、いきなり何をしているのですか‼︎」
「三笠部長もだ。上が率先して信じなくてどうする?」
そう言われると、三笠も名札を外す。
それに合わせてツヴァイも新しい旅券を取り出すと、三笠部長に手渡した。
「大丈夫ですよね?」
「そうですねぇ。登録ナンバーがありますが、三笠部長はNo.E02になりますね。異世界ギルドとはナンバリングが違いますので、この世界での二番目です」
――ポタッ
ゆっくりと針を刺して血を垂らす。
すると旅券におなじような波紋が浮かび上がり、三笠部長のフルネームが浮かび上がった。
「それで、これはどうするんだ?」
「消えるように意識すれば消えますし、手を差し出して出るように念じれば掌や指の間に出す事ができますよ」
――パッ
軽く手を振って旅券を消す土方知事。
もう一度振って取り出すと、ほはうと満更でもない笑顔になる。
「これで自由に異世界に行けるのか。凄いなぁ」
硬い口調が綻んでいる。
「先日説明した通り、持ち込み不可なものは手荷物検査で預かりますし。必要ならば護衛も通訳も付けますので、お気軽にいらして頂いて構いませんよ」
「だそうだ。三笠君、仕事帰りにちょっと寄ってみるか?」
「そんな居酒屋じゃないんですから」
そう笑い合う土方と三笠。
「それで、これを異世界政策局の職員にも登録して欲しいと言うのだな」
「はい。と言うのもですね」
――コトッ
テーブルの上に感知球を取り出すアルフィン。
「登録者の身が危険になった場合、ここに登録者の姿が映し出されます。もし映し出されたら、警察に連絡するなり、こちらに出向する予定のギルド員に告げてくれれば、すぐに助け出しに向かえます」
「ほう‥‥」
土方知事はチラッとアルフィンを見る。
アルフィンも軽く頷くと、それで話の意図が理解されたらしい。
「三笠部長、今いる職員全員ここに集めて」
「了解しました」
そう話して三笠部長は席を立つ。
その後も、土方知事は旅券を出したり消したりしている。
慣れてくると、スタイリッシュに出るようになったらしくご満悦のようなので。
「三笠部長には説明していませんが、その旅券は登録者が銃などで撃たれた際に発動する守りの加護と、怪我をある程度癒してくれる加護が入っています」
そのツヴァイの説明に驚く土方。
「それはまたどうしてですか?」
「先日、うちの騎士が狙撃されました。日本ではない何処かの国のものかもしれません。異世界政策局は私たちと常に連絡を取り合えるようになるので、同じように狙われるかもしれません。但し、この加護はここだけの話で」
「そうですねぇ。そんな事公開なんて出来ないので、自由に異世界に行けるパスポートとでも説明しますか」
「後日、一般向けに発行する方針も考えています」
そのツヴァイの言葉には、土方知事も驚いている。
そんなものが売り出されたら、誰でも手軽に異世界に行けるようになる。
「それはまたとんでもない話ですね」
「具体的にはですね。職員に手渡される異世界渡航旅券は回数無制限のパスポート、販売されるのは渡航回数券と思ってください」
アルフィンがそう説明すると、心なしかホッとしている土方。
「それは良かった。犯罪者などが逃げる先になってしまうと問題があるのでね。発行を国が管理し、目の前で登録してもらえは問題はないのですね」
「ええ。ですが、どんな所にも抜け道はあります。それを取り締まるのは皆さんであることを忘れないでください」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
暫くすると、三笠部長が六人の職員を連れてやってきた。
その中には、赤城湊の姿もある。
部屋に入った瞬間、目の前に金髪のエルフが二人と土方知事と言う組み合わせが居ることに驚いている職員達だが。
「紹介しましょう。異世界ギルドの職員のツヴァイさんと、ミナセ女王の騎士の一人、アルフィンさんです」
土方が立ち上がってツヴァイ達を紹介したので、二人も慌てて立ち上がると丁寧に頭を下げる。
「異世界ギルドのツヴァイです。本日は宜しくお願いします」
「カナン魔導騎士団所属、アルフィンです。よろしくおねがいしますね」
その挨拶に丁寧に頭を下げると、職員達も一人ずつ自己紹介した。
そして全員が席に着くと、早速土方知事が全員に一言。
「異世界に行きたい人」
咄嗟に全員が手を挙げると、お互いを見て苦笑している。
「では、行き方について説明をお願いします」
そう話を振られたので、ツヴァイが先程までの土方知事と三笠部長に説明したことをもう一度告げる。
そして人数分のカードを取り出すと、今度はナイフをテーブルに置いた。
「チクッと刺すだけですよ」
そうアルフィンが説明するが、みんな信用していないようでお互いに譲り合っている。
――ヒュンッ
すると、土方知事が手の中にパスポートを作り出す。
続いて三笠部長、アルフィンも。
「土方知事も、三笠部長も、登録したのですか?」
「ええ。私達も登録は終わらせてある。これで帰りに飲みに行く場所が増えたからなあ」
「家族サービスにも使いたい所ですが、登録したものしか行けませんし、偽造もできません。その代わり、本人の魂を登録するので最高の身分証明になりますよ」
土方知事と三笠部長の言葉で、一人がナイフではなくヘアピンを抜いてチクッと親指を指す。
――ポタッ
そして言われた通りに血を垂らして登録する。
フウゥッと自分の名前が浮かび上がると、同僚達に見せびらかし始めた。
そこからは早い。
次々と登録しては、友達同士で交換して見せあう。
「さて。これで早番の二人以外は登録完了と。異世界政策局に今度カナンからもギルド職員が出向してくるので、仲良くやってください」
三笠がそう話すと全員が返事を返す。
ならばと、三笠は駄目押しの一言。
「それに伴ってうちからも複数人ずつ、交代で出向してもらうことにもなるのでよろしくお願いしますね」
「え、えええええ?」
「私達はまだ異世界語覚えてませんよ?」
「そうです。会話が成立しないと」
そう不安がる一同。
「それでですね。まず私達ギルド員から日本語が話せるものを送ります。そこで語学研修をして簡単な日常会話をマスターしましょう」
アルフィンがそう説明すると、取り敢えずは納得したようだ。
「勤務時間に語学研修ですか?」
「ええ。そもそも今現在の仕事といっても、各政党や議員の魔力係数のまとめとかしかやってませんよね?」
「それと異世界に行きたいという方々の電話応対です」
「関係各省と、あと外国からの問い合わせもあります」
意外と忙しい毎日のようである。
話によると、近々政府の異世界対策委員会からも数名こちらにやって来るらしい。
異世界の窓口を、北海道ではなく政府主導にしたいのであろう。
「あと二名分のパスポートについては、後日私たちが直接手渡すとしますね。そののちの追加分なども、出向した職員に管理させますので。取り敢えず本日分の登録者のリストを後日渡してください」
「了解しました。それでですが、本日このあと退勤時刻になりましたら、一時間ほどで構いませんので異世界を案内してほしいのですが」
三笠がツヴァイにそう話す。
するとツヴァイとアルフィンはあと互いの顔を見てから、ゆっくりと頷いた。
「では、それまでは私達もその辺を散歩してきます。退勤時刻あたりに戻ってきますので、それから皆さんで移動しましょう」
――キャァァァァァッ
室内に黄色い悲鳴が湧き上がる。
そして職員達が仕事に戻ると、土方知事がある提案をした。
「現在の転移門ですが、場所をずらすことは出来ますか?あのように広場のど真ん中ですと、緊急時の対応が遅れてしまいます」
「ふむふむ。では、敷地の中で問題のないところに小さい建物を設置して下さい。そこに移すことは可能ですので、その手続きはお願いします」
事務的にツヴァイが話をすると、すぐにでも移動する準備をしてくれる方向で話も進む。
そこで会談のようなものは終了する。
「では、退勤時刻とやらになったらまた来ますので」
「それは構いませんが、どちらまで? 護衛を付けるには手続きがかかりますので」
三笠部長がツヴァイたちに問いかける。
まだあちこちで歩かれても困るらしい。
「この敷地内なら構いませんね?」
「庁舎敷地内でしたら。まあ、何かありましたら警備のものに声をかけてください」
「ありがとうございます。ではまた後ほど」
ツヴァイとアルフィンは軽く会釈すると、赤レンガ庁舎から外に出た。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
時間的にはまだ夕方少し前。
庁舎内の時計は午後3時半。
閉庁時刻が5時とすると、あと一時間半もこの敷地内で散策しなくてはならない。
すると、アルフィン達を見かけた観光客が恐る恐るやってきて、一緒に記念撮影をして欲しいと強請って来た。
『どうしますか? 多分一組でも許すと際限がなくなりますよ?』
『まあね。けど、断る理由はないから』
『別々に行動しますか?ここで襲われても身を守れる自信あります?』
『ミスティック舐めんな、飛び交う銃弾だって素手で止められるわ』
『では、二手に分かれますか。処理人数を分散しましょう』
『了解だ。テレビ局と新聞社とか報道が来たら建物に逃げろ』
大陸語で話を終えると、アルフィンとツヴァイは二手に分かれた。
‥‥‥
‥‥
‥
北海道庁とは反対側に向かって歩いて行ったアルフィンは、目の前で話しかけたくて困っている外国人観光客に近づいた。
すると観光客もにこやかに笑いながらアルフィンに近寄っていく。
「記念撮影をオネガイサマーズ」
『はい、記念撮影とはなんですか?』
「横に並んでください。自撮りボーで撮ります」
『ここですか?』
片言の日本語を駆使して、アルフィンは記念撮影に応じていく。
30分程すると、だんだんと人が多くなってくるのが分かる。
(ははぁ。誰かがSNSで拡散したのかな?)
そう思いつつ、遠巻きにアルフィンを見ている人たちに軽く手を振る。
それだけで皆がスマホで撮影をしているのだが。
正門あたりから肩にカメラを乗せた一行がやって来るのを見ると、アルフィンはその一行にも笑顔で手を振り、赤レンガ庁舎に歩いていく。
「あの、ちょっと、ちょっとだけ話を聞かせていただきたいのです~」
走りながら叫んでいるアナウンサー。
だが、その後ろからも次々と報道関係者がやって来るのに気がつくと、アルフィンは赤レンガ庁舎の中に入って行った。
――その頃のツヴァイは
アルフィンとは反対側に向かって散策している。
すると。
「あ、あの、私達も異世界行けますか?」
年の頃は高校生くらい。
恐らくは修学旅行でやって来たらしい一行に、ツヴァイは声を掛けられた。
正確には、ツヴァイが手を振りながら近寄って行ったのだが、そこまでサービス精神旺盛なのもどうかという所である。
「まだ国交は結ばれていません。いずれ私たちの世界と日本が国交を結べるようになれば、簡単に来ることができるかもしれませんよ」
そう話してから、ツヴァイは敷地内にあるベンチに座る。
その近くに学生達も集まってくると、ツヴァイに色々な質問をする。
「魔法、見せてください」
「まだ勝手に使ったら怒られるのよ。内緒で簡単なやつだけならね」
そう話してから、ツヴァイは掌に小さな竜巻を作り出す。
これだけで学生達は興奮状態。
「冒険者っていますか?」
「いるわよ。訓練所に入って基礎講習を受ければ、誰でも冒険者になれるわよ」
「ドラゴンは?」
「いるけれど、あまり会いたくはないわね。正直言うと、勝てるか不安よ」
「魔法の道具ってありますか?」
「一番近いのはこれね?」
そう話しながら、ツヴァイは異世界ギルドカードを手の中に生み出す。
――ウワァァァァ
それだけでかなり盛り上がる。
それを近くの学生に見せてあげると、学生達はそれを記念撮影している。
「それはギルドカード。私も冒険者なのでね」
「魔法は誰でも使えますか?」
「そうねぇ。魔力があれば不可能じゃないわよ。ちょっと待っててね」
ツヴァイはそう話してから、空間から魔力感知球を取り出した。
それを膝の上に乗せると、質問した子を手招きする。
「この水晶に触れてごらん。光ったら、魔力の才能があるかもしれないわよ」
そのツヴァイの言葉に恐る恐る手を伸ばす女子学生。
――フゥゥゥゥゥッ
すると、中心から黄色く光ると、水晶全体が黄色く輝いた。
「あら、凄いわね。私の知っている限りは、これ光る人殆どいないのよ」
なんか驚いている少女をよそに、次々と学生達が並んで手をかざす。
10人ほどが手をかざして、赤色が一人と黄色が一人。
それでも大したものだとツヴァイは感心する。
「ニュースで見たのですが、光らないと異世界には行けないのですか?」
「それは秘密。光らなかった人も、今は光らなかっただけで、訓練次第で魔力は上がるわよ」
「魔力の上げ方はどうするのですか?」
「うーん。体の中に魔力が流れている感覚をつかむのが第一段階なんだけれどねぇ‥‥」
そう話してツヴァイは考える。
まだ、子供達に魔力循環を教える時期ではないのだが。
「指先に意識を集中して。何か見えてくるようになったら、どんどん集中先を細くするの」
魔力がなくて落ち込んでいる子を手招きすると、その子の手を取って教える。
指先を軽くつついて、そこに集中させる。
「疑うと見えなくなる。でも信じすぎるのも駄目。魔力は誰の体の中にもあるわ‥‥‥」
そう説明すると、目の前の子の指先に魔力を感じるツヴァイ。
「いい感じ。わかる?」
「はい。なんとなく暖かいです」
「そうね。あなたの魔力が循環を始めたのよ。もう一度、これに触れてみて」
ツヴァイに促されて、そっと水晶に触れる。
すると、水晶の中心にほのかに赤い光が見える。
「ほら、少しだけ魔力が循環して来たでしょう?これを続けていれば、少しずつ魔力は上がるわ‥‥と」
気がつくと、遠くからカメラマンや新聞社の腕章をつけた人たちが走ってくる。
「それじゃあね。今ここで話したことは内緒よ?」
口元に人差し指を当てて、ツヴァイは子供達に手を振ると赤レンガ庁舎に向かって歩いていく。
やがて両横に新聞社がやってくるが、ツヴァイはにこやかに一言。
「ごめんなさい。今日は皆さんにお話できそうな事があまりないので」
「この後お時間取れませんか?」
「スタジオでお話を聞きたいのですが」
「せめて10分だけでも」
そう話している報道関係者だが。
「この後は予定が入っていまして。申し訳ありません」
立ち止まって軽く会釈するツヴァイ。
そして建物に入っていくと、関係者以外立ち入り禁止と書かれている扉を潜り抜けた。
‥‥‥
‥‥
‥
扉の向こうは異世界政策局。
入り口近くのソファーに案内されて、ツヴァイはそこに座る。
「おや、どうでした?」
すでに戻ってくつろいでいたアルフィンが、ツヴァイに状況を聞いているが。
「子供達に囲まれましたよ。魔力測定してたのですが、黄色が一人と赤色が一人、それとやや赤色が一人ですね」
「やや赤色?」
「ええ、実はですね‥」
一連の流れを説明するツヴァイ。
するとアルフィンがため息をつく。
「申し訳ありません」
「いや、そうではなくて。指先集中法は魔力感覚を導く初歩なので、それは教えても構わないと思うけれど。それであっさりと魔力が上がるって、潜在魔力はかなり高そうかな?」
「どうでしょうね。まあ、この世界の人々にも、私たちの世界の訓練方法が‥‥あれ?」
気がつくと、政策局の職員が皆、人差し指を立てて集中している。
――プッ
その光景に思わず吹き出すツヴァイとアルフィン。
「あの、今度、語学研修以外に魔法の座学もしましょうか?カナンの異世界ギルドになりますけれど」
「本当ですか‼︎」
「是非お願いします」
「私たちも魔法が使えますか?」
などなど、次々と質問が飛んでくるが。
――ゴホン
三笠部長が軽く咳払い。
すると、すぐさま職員達は仕事に戻った。
『ありゃ、仕事の邪魔したわ』
『これはわたしにも罪があります。申し訳ない』
『あと30分かぁ。ここでのんびりとしていますか』
『そうですね。仕事の道具を持って来たらよかったですね』
『それは同意だよ。ここでは深淵の書庫も起動できない。魔道具作って時間潰すこともできないしなぁ‥‥』
『そう言えば、今日はお土産買って帰らなくていいのですか?手ぶらで戻ったらギルドの面々怒りそうですよ?』
『この世界のお金がないのよ。金貨でも換金するかい?』
『それは駄目でしょう?宝石の換金はどうですか?』
『むぅ。予備持ってきていない』
『なら今回は諦めですね。まず為替相場とやらを確立して、通貨を交換できるようにしないとなりませんか』
『それは正式に国交を結ぶときだね。いまはまあ、奢ってもらおう』
大陸語でアホなことを話している二人。
やがて5時のアラームが鳴り響くと、職員たちは全員挨拶をして着替えに出ていった。
「三笠部長は行かないのですか?」
「私はまだ仕事があるので。あとで知事と伺いますよ」
にこやかに見送られるツヴァイ達。
やがて職員たちが着替えてくると、いよいよ異世界に向かって出発することになった。
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