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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ
竜魔の章・その14 もはやこれまでかとおもいきや
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ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ
突然吹き荒れた突風がベルナー王城を激しく揺らした。
「ななななな、なにごとぢゃ!!」
「わかりませんが‥‥おおう」
円卓の間で椅子にしがみついていたシルヴィーの言葉で、ウォルフラムは窓の外を見る。
すると、王都城塞の外に現れた半人半竜の異形の魔物が、巨大な翼を震わせていたのである。
先ほどの衝撃は、翼が起こした突風であることが判ると、すぐさま王城に避難命令を出した。
「‥‥警告だ。シルヴィーを差し出せ。それとストーム、貴様は俺のもとに姿を現せ‥‥さもなくは、この王都は我が全て破壊する」
風の精霊でその声は王都全てに響き渡った。
彼方此方から聞こえる悲痛な声。
だが、ベルナーの都はシルヴィーを暴漢に差し出すという選択肢を選ばない。
それだからこそ、このような時は神に祈るしかなかった。
――キィィィィィィン
ベネリの顎がカッと開いたかと思うと、クロウカシスの魔力を中和するレーザーブレスが放たれる。
それは城塞の結界を一撃で中和し、王城の横を掠めるように通過していく。
その熱線で城塞が溶け落ち、一番高い塔が崩れ始めた。
そしてブレスが途切れると、チリチリと魔力の残滓が白い雪のように舞い散った。
「あ、あわわわ‥‥」
慌てて窓から離れると、シルヴィーはストームの背中に隠れた。
その頭をポンポン、叩くと、ストームはその場の幻影騎士団に話を始める。
「さてと。ウォルフラム、斑目、ワイルドターキー。シルヴィーのガードを頼むな」
「了解しました。ストーム様はどうするるのですか?」
ウォルフラムは出撃準備をしているストームに問いかけたが。
「決まっているだろう? あの化物をぶっ潰すだけだ」
「無茶ぢゃ!! ストーム、あのような化物相手に」
すがりつくように頭を左右に振るシルヴィー。
流石のシルヴィーも、あのベネリの姿とブレスを見て心が折れてしまっている。
だが。
「まあ判っていますけれどねぇ。いかんとならんでしょ? ということでシルヴィーは安全な場所に避難よろしく」
そう告げると、ストームは廊下を走り出した。
――シュタタタタタッ
「お供します!!」
「同じくですわ。私達も幻影騎士団ですから」
そう叫びながらロットとミアも走ってくるが。
「そうだなぁ。なら、二人には王城の人たちの撤退の手伝いを頼むわ」
「ですが、あのような魔物は見たことがありません。ストーム様だけで大丈夫ですか?」
ミアがそう話していると、その後ろからアハツェンが歩いてくる。
「まあ、たしかにあれはまずいですなぁ。反応している魔力は竜族と魔族の二つ、どうやらクロウカシスはベネリを取り込んだのかと」
「その逆かもしれないがな。まあ、行くだけ行ってみるさ。ということで二人はさっきの命令を守るように、幻影騎士団の団長としての命令だ」
その言葉には、ミアもロットも逆らうことは出来ない。
「わ、わかったのだ。ストーム様も気をつけて下さい」
「アハツェン様でしたか。お気をつけて下さいね」
その二人の言葉に頷くと、ストームとアハツェンはゆっくりと正門に向う。
そして正門を越えると、正面で大地に着地して魔障を放出しているベネリの姿があった。
「キマイラ化しているのかよ。あれはどうすればいいんだ?」
「さて。こちらはもう少し時間がかかりますので、それまで時間を稼いで頂けると助かります」
アハツェンがそう告げてから、足元に巨大な魔法陣を発動する。
それを見ると、ストームもコクリと頷いてベネリのもとに歩いていった。
「来たな。シルヴィーはどうした?」
声を荒ぶらせながらさけぶベネリだが。
「貴様みたいな化物にシルヴィーを渡すわけがなかろうが。バカかお前は?」
「何だと? いま私をバカと罵ったのか?」
怒りで真っ赤になりながら、ベネリはゆっくりと羽ばたき始める。
その翼から飛んでくる竜巻のような風に身を晒しつつ、ストームもゆっくりと腰を下げて身構えた。
――チンッ
一瞬で刀を腰に戻すが、飛ばした衝撃波はベネリの羽ばたきによってかき消されてしまう。
「そんなものが通用するとおもうなっ。我が翼には魔風が纏ってある‥‥」
そう呟いて力いっぱい羽ばたくと、ストームは濃い魔障に包まれてしまう。
「むうっ‥‥この程度で‥‥」
一瞬躊躇したものの、ストームは再び間合いを取ると、一気に『瞬歩』でベネリの胸元に跳んだ。
――チャキィィィィィッ
すかさず乱撃を叩き込むが、命中したのは僅か数撃のみで、残りは後方に跳んだベネリによって躱されてしまう。
「くかかかかかっ。ソノヨウナ攻撃が効くとでも思っているのかっ!!」
大きく息を吸うベネリ。
そして目の前にいるストームに向かって口からレーザーブレスを吹き出した。
――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
一直線に飛んでいくレーサーブレス。
それをギリギリの間合いで躱すと、ストームは今一度間合いを取る。
だが、レーザーブレスは一直線に正門に直撃すると、対ドラゴンの結界を瞬時に破壊して内部に貫通していった!!
爆音と同時に幾つもの建物が倒壊し、大勢の人々の悲鳴も聞こえてくる。
「ちぃっ、この火力は‥‥不味いっ!!」
ストームが叫ぶと同時に、ベネリは両手を組んで手の中に焔を生み出す。
「ならば‥‥コレハドウダ」
グレーターデーモンのメルトブラスト。
それを手の中に圧縮して、ベネリはストームに向かってレーザーのように放出した。
――ピィィィィィィィィン
空間が悲鳴をあげて、あり得ないほど高温のレーザーがストームに向かう。
「この程度躱せなくはないがっ」
真後ろは先ほど破壊された正門。
騎士団が大勢の人々の避難誘導をしている。
これを躱すと、大勢の人々が確実に死ぬ。
「南無三っ」
素早く力の盾に波動を集めると、角度をつけてメルトブラストのレーザーを受け止める。
――キィィィィィィン
それは急角度で上空へと飛んでいくが、力の盾も徐々に融解を始めた。
ダラダラと溶け始める盾。
耐熱対抗は高いストームだが、このブレスの直撃は致命傷である。
「ちっ‥‥ビルダー装備がないとやっぱりきついか‥‥」
そう呟いた刹那、突然レーザーが盾の手前で停止した。
――ガッギィィィィィィィッ
横からドラゴンスレイヤーを構えたロットが飛び込むと、ドラゴンスレイヤーを盾のように構えてレーザーを上空に飛ばしている。
「そんな剣が何の役に立つ‼︎」
「ストーム様の作った武具を舐めるなぁぁぁぁぁぁっ」
今ロットが身につけているのは、かつてストームがロットに作ってあげたレーザーアーマー。
それを大月が今のサイズに仕立て直したものを装備している。
耐熱処理がしっかりしているため、レーザーからの輻射熱は微塵も感じない。
「無茶だロット!!横に飛べっ」
「駄目なのだぁぁぁ。ミァぁぁぁっ」
そのロットの叫びと同時に、ストームの背後からミアが飛び上がる。
『其は魔術の理なり。全ての理は円環の中にあり‥‥我は今、偉大なる賢人に乞う‥‥』
それはミアの魔術詠唱。
彼女の持つ必殺の魔術は、古代の英霊たちから力を借りる。
前回は『偉大なる一撃』を放ったものの、今度の力の依り代は別の賢人であった。
『全ての英霊の王ジョー・ジャクソンよ、汝の愛する全ての英霊とともに、かの敵を打ち給え‥‥この世界の全ての生きとし生けるものよ、我に力を与え給え‥‥『|世界中の叫び声(ウィー・アー・ザ・ワールド)っ!!』
詠唱が終わった直後、37個の小型の魔法陣が次々とミアの前に広がると、そこから魔力を伴った光の矢が次々と打ち出された。
――ヒュヒュヒュヒュンッ
それはベネリの肉体に直撃すると、体表を覆う魔障の鱗を破壊し始めた。
メルトブラストのレーザーが止まると、ロットもミアも力尽きてその場に崩れそうになる。
「ロットっっ、ミアを連れて下がれ‼︎」
「分かったのだ」
素早くミアを抱き上げると、ロットは素早く正門の向こうへと駆け抜ける。
だが、このロットが作ったわずかな時間に、ストームは全身に波動を満遍なく流し込むことができた。
「お、おのれ‥‥あのガキどもがぁぁぁ」
素早くストームに向かって胴体部分の腕で摑みかかるベネリだが、ストームはその腕に向かって波動を流し込んだカリバーンでカウンター気味に切りかかる。
――ズバァァァァアッ
伸びてきた腕を真っ二つにすると、ストームは素早く間合いを詰めてクロウカシスの胴部を斬りあげる。
その一撃はクロウカシスの胴部の鱗を全て消しとばし、表皮の部分を剥き晒しにした。
――ビュンッ
すかさず尻尾を振ってストームに叩き込むと、そのままストームは城壁に向かって叩きつけられてしまう。
――ガハッ
口から鮮血を吐き出すストーム。
だが、よろよろと身体を起こして間合いを詰めていくが、ベネリは急上昇すると上空で大きな口を開く。
「遊びはソロソロお終いダ。マズハ貴様を街ゴトハカイスルワ」
その言葉と同時に、ベネリの周囲に光のレンズがいくつも形成する。
それに魔法陣が重なりと、魔力がどんどん集まってくる。
「あれはまずいっ‥‥まだかよ!!」
「3‥‥2‥‥1‥‥コンタクト‼︎」
アハツェンの叫び声と同時に、彼の足元から巨大な|封印の水晶柱(クリア・コフィン)が出現する。
それが突然砕け散ると、内部にいた女性が一瞬で姿を消した。
――ヒュンッ!!
一瞬でクロウカシスの頭上に姿を表した女性は、すかさず白銀のローブを身につけると、一直線にクロウカシスに向かって急降下した。
「なんかよくわからないけど、お前は敵だなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
――ドッゴォォォォォォッ
拳に付けたワイズマンナックルでベネリの頭部に拳を叩き込む。
「|却下(リジェルト)っっ」
――パチィーン
その直後に周囲のレンズを見ると、指をパチンと慣らして全てを消滅させた。
上空でバランスを崩したベネリだが、再び空中で姿勢を取り直す。
そして女性‥‥マチュアもゆっくりと着地すると、目の前のストームに向かって一言。
「えーっと、いまなにが起こっているの?」
――スパァァァァァン
力いっぱいツッコミハリセンを叩き込むストーム。
「お前も10年眠ってかなりボケたのか? あれは敵でここはベルナー領。ラグナ・マリアがバイアスに攻められたので彼奴がラスボスだ。おっけー?」
――ガシィィィッ
素早く差し出された拳に自分の拳を重ねるマチュア。
そしてゴキゴキッと拳を鳴らすと、ようやくなにがなんだか納得したようである。
「あー、そういうことか。アハツェンご苦労様、カナンに戻って。今頃|マチュア・ゴーレム(シスターズ)が驚いていると思うから全てを説明してきてちょーだいっ!!」
――ピッピッ
『マチュア、本物のマチュアなのかえ?』
「はいはーい。幻影騎士団のマチュアですよー。シルヴィー、あなたのマチュアは死んでませんからご安心をー」
『うーっ。う‥‥うむ、おかえりぢゃ』
「それじゃあシルヴィーをいじめていたらしいやつぶっころしてから合流しますねー」
――ピッピッ
王城近くで戦いを見守っていたシルヴィーが、突然姿を表したマチュアに驚いて通信を入れてきたらしい。
「さて。詳しく聞きたいが簡潔に説明よろ」
「えーっと、呪詛毒で死んだので、なんとか治療して再生しようとしたら魂レベルで分解されていたので、肉体も魂も全て新しい身体用に再生した。そしたら身体能力がわけのわからないことになっていたので、慣らして調整していたらいま。そう、いまなのですよ!!」
笑いながらさけぶマチュア。
「あー、そういうことか」
「私の留守中すまなかったねぃ」
「いゃな、俺も最近異世界から10年ぶりに戻った所だ」
「‥‥人のこと言えないじゃないかぁぁぁぁ」
「まあな。ということだ。色々と頼む」
上空で様子を伺っているベネリの方を向きながら、ストームがそう呟く。
「ほいさ。それじゃあ久し振りのいきますか‥‥『|神威祝福(ゴッドブレス)』、かーらーのー『|状態異常耐性強化(ステータス・レジストアップ)』さらに『|全体増幅(アンプリフアイア)』、そして『|遅発型強回復(ディレイド・ヒーリング)』を時間差で四つ。保険に『|自動発動型完全蘇生(オートリザレクション)』っっっっっ」
次々と飛んでくる魔術でストームの身体も光り輝く。
「そして|戦闘飛翔(スカイハイ)もつけるからいってこいと」
トン、とストームの肩を叩いて魔術を発動すると、ストームは素早く上空へと飛んでいく。
そしてベネリの正面に立ちはだかると、ゆっくりとカリバーンを引き抜いた。
いままでのマチュアの魔術とは根幹が違う。
魔力の質が、それまでよりも大幅に昇華しているのである。
「えーっと、済まない、いまの俺は最強だわ」
ニィッと笑うストーム。
だが、ベネリも素早く身体を震わせると、身体の表面を覆う魔障を矢のような形にして射出した。
――ヒュヒュヒュヒュンッ
次々とストームに向かって飛んでいく魔障の矢。
それを刀で受け止めていくが、半分ぐらいは王都に向かって飛んでいく。
対ドラゴン用結界では、今のベネリの魔障による攻撃を防げるものではない。
次々と城塞に突き刺さると、その部分を魔障が侵食し始めた。
「ありゃ?あれは厄介だなぁ」
マチュアはすかさず矢の突き刺さった場所に向かうが、彼女が到着するよりも早く魔障が浄化された。
「ここはまかせてください。ストーム様とマチュア様ははやく奴を‼︎」
浄化された場所には司祭服に身を包んだアンジェラと、どうにか立ち直ったミアの二人がいた。
「?????」
この二人はどちら様?
そんな顔をしているマチュアだが、そこはまかせて良いと判断した。
「そ、それじゃあ宜しくお願いしますね!!」
空中ではストームがベネリにヒット&ウェイの攻撃を繰り返しているが、ベネリの体表の魔障装甲を貫き通すことができない。
「プークスクスッ、10年ぶりに身体なまってる?」
「違うわ。こいつを早く結界に取り込め。周りの被害が大きすぎる」
「あー、そういう事か。それじゃあ」
――ヒュウンッ
一瞬でベネリとマチュア、ストームを覆う巨大な球状の結界を生み出すマチュア。
それは10年前にマチュアが敗北したクロウカシスの結界と同じものである。
違うのは、魔力の質。
「わかる、分かるぞ‥‥貴様はあの時の女かっっっっ」
ベネリではなくクロウカシスの声が響く。
だが、マチュアは頭を捻る。
「はて。私は貴方とは初めて会いましたが何か?」
「ふざけた事を‥‥まてクロウカシス‥今はストームだ‥」
ベネリの中で二つの意思がせめぎ合っている。
お互いの敵が違うこともあり、身体の統制が取れていない。
「え~っとストームさんや、あの超生命体トランスなんとかみたいのは何なのかな?」
「ベネリという小さい奴が魔族化して、同じくクロウカシスという竜族の王が魔族化してな。どうやらパイルダーオンしたらしい」
――ポン
と手を叩くと、マチュアは理解した。
「おーおー、それで身体の支配権で揉めているという事か成る程」
そう呟くと、マチュアは両手拳をガキィィィィンと打ち鳴らす。
「そんじゃ、あとは宜しく」
すかさず神速でベネリに近づくと、その首筋に向かって力一杯拳を叩き込む。
――ドゴォッ
その反動でベネリの身体がやや前のめりになると、マチュアはすかさず。
「|深淵の書庫(アーカイブ)起動。融合箇所の判別開始‥‥」
目の前の魔法陣に魔神竜ベネリのデータが並ぶ。
するとマチュアは素早く飛びのいて態勢を整える。
「ベネリの首筋で切断しておくれ。そこが融合部位みたいだわ」
「オーケィ」
すかさずカリバーンを空間に放り込むと、ストームは神殺しの神槍を引き抜いた。
――ヒュウンッ
それはストームの手の中で刀を変化すると、刀身が真っ赤に輝き始めた。
「クソッ‥‥この程度の攻撃、この程度の結界ナド‥」
すかさず魔力中和能力のあるレーザーブレスを吐き出して周囲の結界に浴びせるベネリだが。
逆に結界の表面でブレスは力を失って消滅した。
「何だと?この結界はナンダァァァ!!」
叫びながらマチュアに向かって飛来するベネリ。
「このマチュア様の新しい技、『|神威祝福(ゴッドブレス)』によって魔力は全て神力にまで高まる!! その代わり私の身体はボドボドだぁ!!」
――ヒュウンッ
そのベネリとの直線上にストームが瞬歩で姿を現わすと、カウンターでベネリの首を真っ二つに切断した。
――ズバァァァァア
切断された首はゆっくりと魔人ベネリの姿に戻り、本体であったクロウカシスまでもがメキョメキョと頭部を再生した。
「おのれおのれおのれふははぁぁぁぁぁぁっ」
背後のマントから槍を引き抜いて構えると、ベネリは翼に魔力を集めてストームに飛びかかる。
「何故だ、何故貴様は邪魔をする」
「え~っと。話は簡単なんだがな‥‥」
――ズバァァァァア
再びベネリの首が真っ二つに飛ばされる。
その一撃でベネリは絶命した。
いくら魔族でも、首の切断は致命的である。
ここから再生するのは魔人ではなく魔神。
人を捨てた存在でなければ不可能である。
そしてベネリもその域には達してはいない。
「シルヴィーを、主君を護るのが騎士だ。俺はそれを忠実に守っただけだからな」
「そんな‥‥そのチカラがあれば、世界を手に‥‥」
――シュゥゥ
ベネリの全身から魔障が発せられる。
身体も頭も霧のように散り始める。
「悪いが、そんな面倒なものは俺はいらないな。手に入ったら守りきるのが大変だ。俺はな‥‥俺の近くの大切なものさえ守れればそれでいい」
「バカな‥剣聖ダゾ?最強の権力ダゾ‥‥」
「いいんじゃねえの?世界最強に守られる女王と、その最強が率いる小さい国があってもな」
――シュゥゥッ
やがてベネリは消滅した。
魔族化した人間の最後の末路であった‥‥。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
その頃のマチュアは
「さて。悪いけど本当にあんたの事は知らないんだよねぇ。多分、あんたと戦ったのは私の分身・セプツェンかと思うけど?」
目の前で再生を完了した魔神竜クロウカシスに向かって、マチュアがそう話しかける。
「そんな言葉で騙されると‥‥」
ギィッと龍の瞳を凝らしてマチュアを見る。
すると、似たような波長を持つが、以前クロウカシスを窮地に陥れたものとは明らかに異質であることに気がついた。
「違うのか‥‥だが、所詮は人間、小さきものよ」
「はぁ。あんたはまだボルケイドと違って会話が成立しているから話せばわかると思ったんだけれどねぇ」
「話してどうするのだ?」
「悪いけど一旦自分たちのいた場所に帰って欲しいのよねぇ。知性があって話し合いができる竜族の長なら、相手の力量ぐらいは理解できるよね?」
瞬時にマチュアはクロウカシスの顔の前に飛ぶと、鼻先をとん、と触る。
「所詮は‥‥いや、そうか‥そういう事か‥‥」
クロウカシスの目に写ったマチュア。
その中の本質が、マチュアの触れた場所から伝わってくる。
「我らでは‥‥神に近いもの‥亜神には勝てない‥‥神威を纏った魔力に抗う術はない‥‥一度引こう‥‥」
「おや、本当に物分かりがいいことで。私も白銀の賢者の名前を持っているのでね、ウィル大陸に侵攻する全てのものから大陸を守らないとならないのよ」
その言葉にクロウカシスはクックックッと笑う。
「先ほどの、ストームとベネリの言葉とは違うな」
「いいのいいの。ストームは近くにいる大切なものを守るのが仕事。私は全てを守るのが仕事。ただそれだけの話よ」
――ブワサッ
巨大な翼を広げてクロウカシスが上空に舞い上がる。
「小さき賢者よ、今一度我らが大陸に戻るとしよう。だが、我が言葉を聞かない眷属もあろう‥‥それらは勝手にするがいい」
「物分かりのいいドラゴンは好きだよ。じゃあね」
ヒラヒラと手を振りながらそう告げると、マチュアは踵を返してベルナーへと戻る。
そして正門前でのんびりとその光景を見ていたストームの横に歩いて行くと、無言のまま拳を打ち合った。
――カシィィィッ
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ベルナー王都は歓喜の声に溢れていた。
幻影騎士団が魔人竜ベネリを倒し、クロウカシスを撤退させたのである。
この事実だけで、人々は生きる活力を取り戻した。
正門をくぐってやってくる剣聖と賢者、二人の姿に歓声が湧き上がる。
そして。
――スタタタタタッ
二人の姿を見て、シルヴィーがストームとマチュアの元に駆け寄った。
二人を同時に抱きしめようとするが、体つきが違いすぎてそれもできない。
ならば、生きて帰ってきたマチュアにシルヴィーは抱きついた。
「お、遅いぞばかものー。もうダメかと思っていたのぢゃ‥‥」
「おう‼︎懐かしの『のぢゃ姫』という事は、シルヴィーか‥‥はいはい、貴方の幻影騎士団のマチュアが戻って来ましたよー」
ポンポンと背中を叩くと、そのままシルヴィーはゆっくりと離れる。
「しかし、どうして生きていたのぢゃ?」
「まあ、話せば長い事でして‥‥あとでゆっくりと説明しますが‥‥」
じーっとシルヴィーを見つめるマチュア。
「10年というのは人を変えるものですねえ?」
「そうぢゃ。女らしくなったぞ?」
「まあ、私の予測通りオッパイはあまり成長していなフベシッ‼︎」
――ズバァァァァン
「だから余計な事は言うなと何度行ったらわかるのぢゃ」
力一杯ツッコミハリセンでマチュアの顔面をひっぱたくシルヴィー。
そして。
「本物ぢゃ‥‥ストームも、マチュアも帰ってきた‥‥ふぇぇぇぇぇぇん‥‥」
堰を切ったように泣き始めるシルヴィー。
やがてウォルフラムやアンジェラたちもやってくると、皆がシルヴィーの肩を抱いて王城へと戻った。
幻影騎士団、団長と副団長‥‥無事に帰還。
突然吹き荒れた突風がベルナー王城を激しく揺らした。
「ななななな、なにごとぢゃ!!」
「わかりませんが‥‥おおう」
円卓の間で椅子にしがみついていたシルヴィーの言葉で、ウォルフラムは窓の外を見る。
すると、王都城塞の外に現れた半人半竜の異形の魔物が、巨大な翼を震わせていたのである。
先ほどの衝撃は、翼が起こした突風であることが判ると、すぐさま王城に避難命令を出した。
「‥‥警告だ。シルヴィーを差し出せ。それとストーム、貴様は俺のもとに姿を現せ‥‥さもなくは、この王都は我が全て破壊する」
風の精霊でその声は王都全てに響き渡った。
彼方此方から聞こえる悲痛な声。
だが、ベルナーの都はシルヴィーを暴漢に差し出すという選択肢を選ばない。
それだからこそ、このような時は神に祈るしかなかった。
――キィィィィィィン
ベネリの顎がカッと開いたかと思うと、クロウカシスの魔力を中和するレーザーブレスが放たれる。
それは城塞の結界を一撃で中和し、王城の横を掠めるように通過していく。
その熱線で城塞が溶け落ち、一番高い塔が崩れ始めた。
そしてブレスが途切れると、チリチリと魔力の残滓が白い雪のように舞い散った。
「あ、あわわわ‥‥」
慌てて窓から離れると、シルヴィーはストームの背中に隠れた。
その頭をポンポン、叩くと、ストームはその場の幻影騎士団に話を始める。
「さてと。ウォルフラム、斑目、ワイルドターキー。シルヴィーのガードを頼むな」
「了解しました。ストーム様はどうするるのですか?」
ウォルフラムは出撃準備をしているストームに問いかけたが。
「決まっているだろう? あの化物をぶっ潰すだけだ」
「無茶ぢゃ!! ストーム、あのような化物相手に」
すがりつくように頭を左右に振るシルヴィー。
流石のシルヴィーも、あのベネリの姿とブレスを見て心が折れてしまっている。
だが。
「まあ判っていますけれどねぇ。いかんとならんでしょ? ということでシルヴィーは安全な場所に避難よろしく」
そう告げると、ストームは廊下を走り出した。
――シュタタタタタッ
「お供します!!」
「同じくですわ。私達も幻影騎士団ですから」
そう叫びながらロットとミアも走ってくるが。
「そうだなぁ。なら、二人には王城の人たちの撤退の手伝いを頼むわ」
「ですが、あのような魔物は見たことがありません。ストーム様だけで大丈夫ですか?」
ミアがそう話していると、その後ろからアハツェンが歩いてくる。
「まあ、たしかにあれはまずいですなぁ。反応している魔力は竜族と魔族の二つ、どうやらクロウカシスはベネリを取り込んだのかと」
「その逆かもしれないがな。まあ、行くだけ行ってみるさ。ということで二人はさっきの命令を守るように、幻影騎士団の団長としての命令だ」
その言葉には、ミアもロットも逆らうことは出来ない。
「わ、わかったのだ。ストーム様も気をつけて下さい」
「アハツェン様でしたか。お気をつけて下さいね」
その二人の言葉に頷くと、ストームとアハツェンはゆっくりと正門に向う。
そして正門を越えると、正面で大地に着地して魔障を放出しているベネリの姿があった。
「キマイラ化しているのかよ。あれはどうすればいいんだ?」
「さて。こちらはもう少し時間がかかりますので、それまで時間を稼いで頂けると助かります」
アハツェンがそう告げてから、足元に巨大な魔法陣を発動する。
それを見ると、ストームもコクリと頷いてベネリのもとに歩いていった。
「来たな。シルヴィーはどうした?」
声を荒ぶらせながらさけぶベネリだが。
「貴様みたいな化物にシルヴィーを渡すわけがなかろうが。バカかお前は?」
「何だと? いま私をバカと罵ったのか?」
怒りで真っ赤になりながら、ベネリはゆっくりと羽ばたき始める。
その翼から飛んでくる竜巻のような風に身を晒しつつ、ストームもゆっくりと腰を下げて身構えた。
――チンッ
一瞬で刀を腰に戻すが、飛ばした衝撃波はベネリの羽ばたきによってかき消されてしまう。
「そんなものが通用するとおもうなっ。我が翼には魔風が纏ってある‥‥」
そう呟いて力いっぱい羽ばたくと、ストームは濃い魔障に包まれてしまう。
「むうっ‥‥この程度で‥‥」
一瞬躊躇したものの、ストームは再び間合いを取ると、一気に『瞬歩』でベネリの胸元に跳んだ。
――チャキィィィィィッ
すかさず乱撃を叩き込むが、命中したのは僅か数撃のみで、残りは後方に跳んだベネリによって躱されてしまう。
「くかかかかかっ。ソノヨウナ攻撃が効くとでも思っているのかっ!!」
大きく息を吸うベネリ。
そして目の前にいるストームに向かって口からレーザーブレスを吹き出した。
――キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
一直線に飛んでいくレーサーブレス。
それをギリギリの間合いで躱すと、ストームは今一度間合いを取る。
だが、レーザーブレスは一直線に正門に直撃すると、対ドラゴンの結界を瞬時に破壊して内部に貫通していった!!
爆音と同時に幾つもの建物が倒壊し、大勢の人々の悲鳴も聞こえてくる。
「ちぃっ、この火力は‥‥不味いっ!!」
ストームが叫ぶと同時に、ベネリは両手を組んで手の中に焔を生み出す。
「ならば‥‥コレハドウダ」
グレーターデーモンのメルトブラスト。
それを手の中に圧縮して、ベネリはストームに向かってレーザーのように放出した。
――ピィィィィィィィィン
空間が悲鳴をあげて、あり得ないほど高温のレーザーがストームに向かう。
「この程度躱せなくはないがっ」
真後ろは先ほど破壊された正門。
騎士団が大勢の人々の避難誘導をしている。
これを躱すと、大勢の人々が確実に死ぬ。
「南無三っ」
素早く力の盾に波動を集めると、角度をつけてメルトブラストのレーザーを受け止める。
――キィィィィィィン
それは急角度で上空へと飛んでいくが、力の盾も徐々に融解を始めた。
ダラダラと溶け始める盾。
耐熱対抗は高いストームだが、このブレスの直撃は致命傷である。
「ちっ‥‥ビルダー装備がないとやっぱりきついか‥‥」
そう呟いた刹那、突然レーザーが盾の手前で停止した。
――ガッギィィィィィィィッ
横からドラゴンスレイヤーを構えたロットが飛び込むと、ドラゴンスレイヤーを盾のように構えてレーザーを上空に飛ばしている。
「そんな剣が何の役に立つ‼︎」
「ストーム様の作った武具を舐めるなぁぁぁぁぁぁっ」
今ロットが身につけているのは、かつてストームがロットに作ってあげたレーザーアーマー。
それを大月が今のサイズに仕立て直したものを装備している。
耐熱処理がしっかりしているため、レーザーからの輻射熱は微塵も感じない。
「無茶だロット!!横に飛べっ」
「駄目なのだぁぁぁ。ミァぁぁぁっ」
そのロットの叫びと同時に、ストームの背後からミアが飛び上がる。
『其は魔術の理なり。全ての理は円環の中にあり‥‥我は今、偉大なる賢人に乞う‥‥』
それはミアの魔術詠唱。
彼女の持つ必殺の魔術は、古代の英霊たちから力を借りる。
前回は『偉大なる一撃』を放ったものの、今度の力の依り代は別の賢人であった。
『全ての英霊の王ジョー・ジャクソンよ、汝の愛する全ての英霊とともに、かの敵を打ち給え‥‥この世界の全ての生きとし生けるものよ、我に力を与え給え‥‥『|世界中の叫び声(ウィー・アー・ザ・ワールド)っ!!』
詠唱が終わった直後、37個の小型の魔法陣が次々とミアの前に広がると、そこから魔力を伴った光の矢が次々と打ち出された。
――ヒュヒュヒュヒュンッ
それはベネリの肉体に直撃すると、体表を覆う魔障の鱗を破壊し始めた。
メルトブラストのレーザーが止まると、ロットもミアも力尽きてその場に崩れそうになる。
「ロットっっ、ミアを連れて下がれ‼︎」
「分かったのだ」
素早くミアを抱き上げると、ロットは素早く正門の向こうへと駆け抜ける。
だが、このロットが作ったわずかな時間に、ストームは全身に波動を満遍なく流し込むことができた。
「お、おのれ‥‥あのガキどもがぁぁぁ」
素早くストームに向かって胴体部分の腕で摑みかかるベネリだが、ストームはその腕に向かって波動を流し込んだカリバーンでカウンター気味に切りかかる。
――ズバァァァァアッ
伸びてきた腕を真っ二つにすると、ストームは素早く間合いを詰めてクロウカシスの胴部を斬りあげる。
その一撃はクロウカシスの胴部の鱗を全て消しとばし、表皮の部分を剥き晒しにした。
――ビュンッ
すかさず尻尾を振ってストームに叩き込むと、そのままストームは城壁に向かって叩きつけられてしまう。
――ガハッ
口から鮮血を吐き出すストーム。
だが、よろよろと身体を起こして間合いを詰めていくが、ベネリは急上昇すると上空で大きな口を開く。
「遊びはソロソロお終いダ。マズハ貴様を街ゴトハカイスルワ」
その言葉と同時に、ベネリの周囲に光のレンズがいくつも形成する。
それに魔法陣が重なりと、魔力がどんどん集まってくる。
「あれはまずいっ‥‥まだかよ!!」
「3‥‥2‥‥1‥‥コンタクト‼︎」
アハツェンの叫び声と同時に、彼の足元から巨大な|封印の水晶柱(クリア・コフィン)が出現する。
それが突然砕け散ると、内部にいた女性が一瞬で姿を消した。
――ヒュンッ!!
一瞬でクロウカシスの頭上に姿を表した女性は、すかさず白銀のローブを身につけると、一直線にクロウカシスに向かって急降下した。
「なんかよくわからないけど、お前は敵だなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
――ドッゴォォォォォォッ
拳に付けたワイズマンナックルでベネリの頭部に拳を叩き込む。
「|却下(リジェルト)っっ」
――パチィーン
その直後に周囲のレンズを見ると、指をパチンと慣らして全てを消滅させた。
上空でバランスを崩したベネリだが、再び空中で姿勢を取り直す。
そして女性‥‥マチュアもゆっくりと着地すると、目の前のストームに向かって一言。
「えーっと、いまなにが起こっているの?」
――スパァァァァァン
力いっぱいツッコミハリセンを叩き込むストーム。
「お前も10年眠ってかなりボケたのか? あれは敵でここはベルナー領。ラグナ・マリアがバイアスに攻められたので彼奴がラスボスだ。おっけー?」
――ガシィィィッ
素早く差し出された拳に自分の拳を重ねるマチュア。
そしてゴキゴキッと拳を鳴らすと、ようやくなにがなんだか納得したようである。
「あー、そういうことか。アハツェンご苦労様、カナンに戻って。今頃|マチュア・ゴーレム(シスターズ)が驚いていると思うから全てを説明してきてちょーだいっ!!」
――ピッピッ
『マチュア、本物のマチュアなのかえ?』
「はいはーい。幻影騎士団のマチュアですよー。シルヴィー、あなたのマチュアは死んでませんからご安心をー」
『うーっ。う‥‥うむ、おかえりぢゃ』
「それじゃあシルヴィーをいじめていたらしいやつぶっころしてから合流しますねー」
――ピッピッ
王城近くで戦いを見守っていたシルヴィーが、突然姿を表したマチュアに驚いて通信を入れてきたらしい。
「さて。詳しく聞きたいが簡潔に説明よろ」
「えーっと、呪詛毒で死んだので、なんとか治療して再生しようとしたら魂レベルで分解されていたので、肉体も魂も全て新しい身体用に再生した。そしたら身体能力がわけのわからないことになっていたので、慣らして調整していたらいま。そう、いまなのですよ!!」
笑いながらさけぶマチュア。
「あー、そういうことか」
「私の留守中すまなかったねぃ」
「いゃな、俺も最近異世界から10年ぶりに戻った所だ」
「‥‥人のこと言えないじゃないかぁぁぁぁ」
「まあな。ということだ。色々と頼む」
上空で様子を伺っているベネリの方を向きながら、ストームがそう呟く。
「ほいさ。それじゃあ久し振りのいきますか‥‥『|神威祝福(ゴッドブレス)』、かーらーのー『|状態異常耐性強化(ステータス・レジストアップ)』さらに『|全体増幅(アンプリフアイア)』、そして『|遅発型強回復(ディレイド・ヒーリング)』を時間差で四つ。保険に『|自動発動型完全蘇生(オートリザレクション)』っっっっっ」
次々と飛んでくる魔術でストームの身体も光り輝く。
「そして|戦闘飛翔(スカイハイ)もつけるからいってこいと」
トン、とストームの肩を叩いて魔術を発動すると、ストームは素早く上空へと飛んでいく。
そしてベネリの正面に立ちはだかると、ゆっくりとカリバーンを引き抜いた。
いままでのマチュアの魔術とは根幹が違う。
魔力の質が、それまでよりも大幅に昇華しているのである。
「えーっと、済まない、いまの俺は最強だわ」
ニィッと笑うストーム。
だが、ベネリも素早く身体を震わせると、身体の表面を覆う魔障を矢のような形にして射出した。
――ヒュヒュヒュヒュンッ
次々とストームに向かって飛んでいく魔障の矢。
それを刀で受け止めていくが、半分ぐらいは王都に向かって飛んでいく。
対ドラゴン用結界では、今のベネリの魔障による攻撃を防げるものではない。
次々と城塞に突き刺さると、その部分を魔障が侵食し始めた。
「ありゃ?あれは厄介だなぁ」
マチュアはすかさず矢の突き刺さった場所に向かうが、彼女が到着するよりも早く魔障が浄化された。
「ここはまかせてください。ストーム様とマチュア様ははやく奴を‼︎」
浄化された場所には司祭服に身を包んだアンジェラと、どうにか立ち直ったミアの二人がいた。
「?????」
この二人はどちら様?
そんな顔をしているマチュアだが、そこはまかせて良いと判断した。
「そ、それじゃあ宜しくお願いしますね!!」
空中ではストームがベネリにヒット&ウェイの攻撃を繰り返しているが、ベネリの体表の魔障装甲を貫き通すことができない。
「プークスクスッ、10年ぶりに身体なまってる?」
「違うわ。こいつを早く結界に取り込め。周りの被害が大きすぎる」
「あー、そういう事か。それじゃあ」
――ヒュウンッ
一瞬でベネリとマチュア、ストームを覆う巨大な球状の結界を生み出すマチュア。
それは10年前にマチュアが敗北したクロウカシスの結界と同じものである。
違うのは、魔力の質。
「わかる、分かるぞ‥‥貴様はあの時の女かっっっっ」
ベネリではなくクロウカシスの声が響く。
だが、マチュアは頭を捻る。
「はて。私は貴方とは初めて会いましたが何か?」
「ふざけた事を‥‥まてクロウカシス‥今はストームだ‥」
ベネリの中で二つの意思がせめぎ合っている。
お互いの敵が違うこともあり、身体の統制が取れていない。
「え~っとストームさんや、あの超生命体トランスなんとかみたいのは何なのかな?」
「ベネリという小さい奴が魔族化して、同じくクロウカシスという竜族の王が魔族化してな。どうやらパイルダーオンしたらしい」
――ポン
と手を叩くと、マチュアは理解した。
「おーおー、それで身体の支配権で揉めているという事か成る程」
そう呟くと、マチュアは両手拳をガキィィィィンと打ち鳴らす。
「そんじゃ、あとは宜しく」
すかさず神速でベネリに近づくと、その首筋に向かって力一杯拳を叩き込む。
――ドゴォッ
その反動でベネリの身体がやや前のめりになると、マチュアはすかさず。
「|深淵の書庫(アーカイブ)起動。融合箇所の判別開始‥‥」
目の前の魔法陣に魔神竜ベネリのデータが並ぶ。
するとマチュアは素早く飛びのいて態勢を整える。
「ベネリの首筋で切断しておくれ。そこが融合部位みたいだわ」
「オーケィ」
すかさずカリバーンを空間に放り込むと、ストームは神殺しの神槍を引き抜いた。
――ヒュウンッ
それはストームの手の中で刀を変化すると、刀身が真っ赤に輝き始めた。
「クソッ‥‥この程度の攻撃、この程度の結界ナド‥」
すかさず魔力中和能力のあるレーザーブレスを吐き出して周囲の結界に浴びせるベネリだが。
逆に結界の表面でブレスは力を失って消滅した。
「何だと?この結界はナンダァァァ!!」
叫びながらマチュアに向かって飛来するベネリ。
「このマチュア様の新しい技、『|神威祝福(ゴッドブレス)』によって魔力は全て神力にまで高まる!! その代わり私の身体はボドボドだぁ!!」
――ヒュウンッ
そのベネリとの直線上にストームが瞬歩で姿を現わすと、カウンターでベネリの首を真っ二つに切断した。
――ズバァァァァア
切断された首はゆっくりと魔人ベネリの姿に戻り、本体であったクロウカシスまでもがメキョメキョと頭部を再生した。
「おのれおのれおのれふははぁぁぁぁぁぁっ」
背後のマントから槍を引き抜いて構えると、ベネリは翼に魔力を集めてストームに飛びかかる。
「何故だ、何故貴様は邪魔をする」
「え~っと。話は簡単なんだがな‥‥」
――ズバァァァァア
再びベネリの首が真っ二つに飛ばされる。
その一撃でベネリは絶命した。
いくら魔族でも、首の切断は致命的である。
ここから再生するのは魔人ではなく魔神。
人を捨てた存在でなければ不可能である。
そしてベネリもその域には達してはいない。
「シルヴィーを、主君を護るのが騎士だ。俺はそれを忠実に守っただけだからな」
「そんな‥‥そのチカラがあれば、世界を手に‥‥」
――シュゥゥ
ベネリの全身から魔障が発せられる。
身体も頭も霧のように散り始める。
「悪いが、そんな面倒なものは俺はいらないな。手に入ったら守りきるのが大変だ。俺はな‥‥俺の近くの大切なものさえ守れればそれでいい」
「バカな‥剣聖ダゾ?最強の権力ダゾ‥‥」
「いいんじゃねえの?世界最強に守られる女王と、その最強が率いる小さい国があってもな」
――シュゥゥッ
やがてベネリは消滅した。
魔族化した人間の最後の末路であった‥‥。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
その頃のマチュアは
「さて。悪いけど本当にあんたの事は知らないんだよねぇ。多分、あんたと戦ったのは私の分身・セプツェンかと思うけど?」
目の前で再生を完了した魔神竜クロウカシスに向かって、マチュアがそう話しかける。
「そんな言葉で騙されると‥‥」
ギィッと龍の瞳を凝らしてマチュアを見る。
すると、似たような波長を持つが、以前クロウカシスを窮地に陥れたものとは明らかに異質であることに気がついた。
「違うのか‥‥だが、所詮は人間、小さきものよ」
「はぁ。あんたはまだボルケイドと違って会話が成立しているから話せばわかると思ったんだけれどねぇ」
「話してどうするのだ?」
「悪いけど一旦自分たちのいた場所に帰って欲しいのよねぇ。知性があって話し合いができる竜族の長なら、相手の力量ぐらいは理解できるよね?」
瞬時にマチュアはクロウカシスの顔の前に飛ぶと、鼻先をとん、と触る。
「所詮は‥‥いや、そうか‥そういう事か‥‥」
クロウカシスの目に写ったマチュア。
その中の本質が、マチュアの触れた場所から伝わってくる。
「我らでは‥‥神に近いもの‥亜神には勝てない‥‥神威を纏った魔力に抗う術はない‥‥一度引こう‥‥」
「おや、本当に物分かりがいいことで。私も白銀の賢者の名前を持っているのでね、ウィル大陸に侵攻する全てのものから大陸を守らないとならないのよ」
その言葉にクロウカシスはクックックッと笑う。
「先ほどの、ストームとベネリの言葉とは違うな」
「いいのいいの。ストームは近くにいる大切なものを守るのが仕事。私は全てを守るのが仕事。ただそれだけの話よ」
――ブワサッ
巨大な翼を広げてクロウカシスが上空に舞い上がる。
「小さき賢者よ、今一度我らが大陸に戻るとしよう。だが、我が言葉を聞かない眷属もあろう‥‥それらは勝手にするがいい」
「物分かりのいいドラゴンは好きだよ。じゃあね」
ヒラヒラと手を振りながらそう告げると、マチュアは踵を返してベルナーへと戻る。
そして正門前でのんびりとその光景を見ていたストームの横に歩いて行くと、無言のまま拳を打ち合った。
――カシィィィッ
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ベルナー王都は歓喜の声に溢れていた。
幻影騎士団が魔人竜ベネリを倒し、クロウカシスを撤退させたのである。
この事実だけで、人々は生きる活力を取り戻した。
正門をくぐってやってくる剣聖と賢者、二人の姿に歓声が湧き上がる。
そして。
――スタタタタタッ
二人の姿を見て、シルヴィーがストームとマチュアの元に駆け寄った。
二人を同時に抱きしめようとするが、体つきが違いすぎてそれもできない。
ならば、生きて帰ってきたマチュアにシルヴィーは抱きついた。
「お、遅いぞばかものー。もうダメかと思っていたのぢゃ‥‥」
「おう‼︎懐かしの『のぢゃ姫』という事は、シルヴィーか‥‥はいはい、貴方の幻影騎士団のマチュアが戻って来ましたよー」
ポンポンと背中を叩くと、そのままシルヴィーはゆっくりと離れる。
「しかし、どうして生きていたのぢゃ?」
「まあ、話せば長い事でして‥‥あとでゆっくりと説明しますが‥‥」
じーっとシルヴィーを見つめるマチュア。
「10年というのは人を変えるものですねえ?」
「そうぢゃ。女らしくなったぞ?」
「まあ、私の予測通りオッパイはあまり成長していなフベシッ‼︎」
――ズバァァァァン
「だから余計な事は言うなと何度行ったらわかるのぢゃ」
力一杯ツッコミハリセンでマチュアの顔面をひっぱたくシルヴィー。
そして。
「本物ぢゃ‥‥ストームも、マチュアも帰ってきた‥‥ふぇぇぇぇぇぇん‥‥」
堰を切ったように泣き始めるシルヴィー。
やがてウォルフラムやアンジェラたちもやってくると、皆がシルヴィーの肩を抱いて王城へと戻った。
幻影騎士団、団長と副団長‥‥無事に帰還。
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