異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ

竜魔の章・その11 切り札は最後に出すから切り札

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 ロット達の戦いの最中、ウォルフラムもクウェイサーと激しい戦いを繰り広げていた。
 金属殺しの剣ザンバスターが相手では、剣と盾で受け止める事はできない。
 ならばと、ウォルフラムは敵の攻撃をかわし続ける戦法に切り替えた。
 どこか相手の隙を探し出し、渾身の一撃を叩き込もうとするが。
「急がないと、ロットが殺されてしまいます‥‥」
「まあ、焦らなくても大丈夫ですよ。ロットとか言う小僧はベネリ様の側近の女性が相手をしていますから」
「それなら余計心配ですよ」
――ヒュヒュヒュヒュンッ
 素早く剣戟を切り抜けるウォルフラム。
 だが、やはり徐々に鎧のあちこちに傷がつき始める。
「反撃はまだですか?といっても中程で切断されているその剣では、手も足もでませんか?さあ、早く攻撃して見てくださいよ」
――ズバァァァァア
 カルネアデスの斬撃がウォルフラムの左腕を掠める。
 真っ二つにアームガードが破壊され、大量の血が噴き出した。
「くっ‥‥こんな所で‥‥」
「バイアスとラグナ・マリア、最強の騎士団長対決もあっけないものですねぇ」
「‥‥悪いが、俺は騎士団長ではなくてね。幻影騎士団団長代行。だから最強ではない」
――シュゥゥッ
 |波動(オーラ)を腕に集めて傷を癒す。
 自己治療と呼ばれる騎士の回復魔術である。
 それでも流した血は多すぎる。
 意識が混濁しそうになる。
 ここで倒れる事は許されない‥‥
 そう脳裏に浮かんだとき。

「ウォルフラム、負けたら八時間正座な?」

 突然聞き覚えのある声が脳裏を駆け巡る。
「まさか!!」
「そのまさかぢゃ、ロットはもう大丈夫ぢゃ」
「久し振りに異世界から戻ってきたらこのザマかよ。ウォルフラム、身体なまってないか?」
 シルヴィーとストームの声がウォルフラムに届く。
「‥‥貴様、何者ですか?」
 カルネアデスは、突然現れたストームに問いかける。
 この先ではベネリがシルヴィーを捕らえて宝物庫に向かったはず。
 なのに、見知らぬ騎士と元気なシルヴィーが現れたのである。
「幻影騎士団団長のストームだ。という事で、俺は見てるから頑張れや」
 やはりどっかりと座るストーム。
「ふぅ、何者かと思えば、部下を見殺しですか。それで良く団長が務まりますね」
「悪いが、俺の知っているウォルフラムは、こんな所で死ぬたまじゃなくてな。そろそろ切り札を出した方がいいぞ」
 そう二人に告げるストーム。
「し、しかしあれは‥‥」
「しかしも案山子もない。決まりだとか儀式かとか面倒臭いのは忘れろ、此処では関係者しか見ていないからな」
 そのストームの言葉に、ウォルフラムは意を決してコクリと頷く。
 そして腰に下げてあったもう一つの剣を引き抜いた。
「まだ武器があるでは‥‥おや?」
 ウォルフラムが引き抜いたのは、刀身のない柄だけの剣。
 それをゆっくりと構えると、全身に|波動(オーラ)が漲ってくる。
「そんな虚仮威しに引っかかるとでも?|波動(オーラ)を集めて刃とする。オーラソードですか」
 素早く走りだしてウォルフラムに向かってザンバスターを振り下ろす。
――カシィィィッ
 だが、ウォルフラムは素早く左腕をあげてそれを弾いた。
「ば、馬鹿な?それは一体なんですか?」
 ウォルフラムの左腕に形成されている水晶のようなアームガード。
 それは傷一つつかずにザンバスターを弾き飛ばした。
「申し訳ないが、もう終わりにしましょう。殺しはしませんが、生きて帰れるとも思わないでください」
 そう呟くと、ウォルフラムは真っ直ぐにカルネアデスに向かって走り出す。
 後ろ手に構えた柄には、透き通った水晶の刃が形成された。
「そ、そんな武器を見た事はない!!それはなんですかっ!!」
 叫びながらウォルフラムの一撃をザンバスターで受け止める。
――スッ
 だが全く手応えのないままにザンバスターは真っ二つとなり、さらにカルネアデスの右肩を切断した。
――プシュッ
 一瞬だけ血が噴き出したが、見る見るうちに傷口が水晶化して血が止まった。
 そしてカルネアデスの身体が徐々に水晶に包まれ始める。
「この武器はですね。私たち水晶の民の王家に伝わる剣です。私と弟、そしてストーム様しか持っていない伝説の剣‥‥」
 その話を聞いて、カルネアデスは戦慄を覚えた。
「ま、まさか‥‥貴様は‥‥」
「ティルナノーグ次代王のウォルフラムです。弟が継いでくれると助かったのですが、私が継ぐことになってしまいましたが」
――ビュンッ
 素早く柄を鞘に納めると、カルネアデスは全身を水晶に包まれて意識を閉ざした。

「それでロットは?」
「此処に二人ともおるぞ。どっちも意識を失っているから、ついてやってほしい」
 その言葉で、ようやくシルヴィーの後ろで眠っている二人を確認できた。
 ホッと胸をなでおろすと、
 ウォルフラムもその場にどっかりと座り込んだ。
「あとはお任せしますよ、騎士団長殿。全くいつまでほっつき歩いていたのですか?」
「まあ、こっちも色々とあったんだよ。じゃあ後は任せたからな」
「ティルナノーグ王家の技と武器を使わせておいて、あとは任せたって‥‥相変わらずですね」
 ウォルフラムは笑いながらそう話すと、ストームも軽く笑いながら先に進んだ。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 ハァハァハァハァ‥‥
 肩で息をする斑目と、満身創痍のポイポイ。
 かたやバイアス連邦のクウェイサーと月影も多少の疲労感はあるものの、ほぼ無傷で立っていた。
「全く相性というものが悪すぎですなぁ」
「もう手も足も出ないっぽいよ」
 侍と騎士、忍者と忍者の組み合わせでは拉致があかないという斑目の提案で、斑目が月影を、ポイポイがクウェイサーを相手にスイッチしたのだが、これがまた逆効果となってしまった。
 こちらに都合のいいものは相手にも都合がいい。
 明らかに実力差がはっきりとしている。
「さて、ポイポイ殿、此処らが潮時のようでござるなぁ」
「ハァハァハァハァ‥‥ポイポイまだ戦えるっぽい。でも‥‥」
 全ての苦無を使い果たし、肝心の忍者刀もばっきりと折られたポイポイ。
 斑目も腰から下げてある魔族殺しの太刀を収めたままである。
 魔力伝達の高い太刀を使うと、魔剣ダンピールに一気に生命力を奪われそうになった。
 それ故に太刀を使うことができず、ツヴァイから預かっていた忍者刀でしかたたかうことごできない。

「‥‥もう遊びは終わりですね」
「全くガッカリですよ。剣豪斑目、一度お相手願いたかったのにこの程度とは‥‥」
 月影ともクウェイサーが剣を構えてそう呟くと‥‥。

「全くだ。お前たちも戻ったら正座八時間な?」
――ヒュヒュンッ
 ストームがそう呟きながら、斑目とポイポイに武器を放り投げた。
「スッ、ストーム殿ですか?」
「本物っぽ~い」
 飛んできた武器をガシッと受け取ると、斑目とポイポイも構え直した。
 そしてクウェイサーも、宿敵であるストームの声に狂喜乱舞した。
「剣聖ストームか!!今こそ10年前の恨みを晴らさせて頂く」
 素早くストームに向かって走り出すクウェイサー。
 だが、ユラーリと斑目がストームとクゥェイサーの間に入った。
「邪魔をするなっ!!」
 素早くダンピールを構えて斬りかかるクウェイサー。
――ガギィィィィン
 だが、その一撃は斑目の持つ太刀で受け止められた。
「馬鹿ですか、私の攻撃を受け止めることが出来ても、その後がどうなるかわかっていますよね?」
――キィィィィィィン
 ダンピールの刀身が光り輝く。
 だが、斑目の持つ太刀からは、斑目の生命力を吸い取る事はできない。
「そんな馬鹿な?どうして吸い取れないっ!!」
「あー、それ魔法武具じゃねーから‥‥」
 後ろでストームがボソッと呟く。
「だそうで。ならばこちらもやり方があるでござるよ」
 鍔迫り合いから斑目が力一杯クウェイサーを後ろへ吹き飛ばす。
 そしてクルッと刀身を回して納刀すると、居合斬りの態勢をとる。
「魔法武具でないなら、切れ味や耐久性でダンピールが勝つ!!その場で血反吐を吐いて死ねっ」
 高速で移動して横一線に斑目を薙ぐクウェイサー。
 だが、後の先ではなく斑目の得意な技で対抗する。

 相手の動きを見てから、相手よりも早く動く『後の先』ではない。
 相手の攻撃が出ることを理解し、相手がその通りに動くことに対して先手を取るのが『対の先』。
 散々クウェイサーに斬られ倒されて奴の攻撃の流れは見切っている。
 ならば斑目の腕ならば、対の先を取ることなど容易い。

――チンッ!!
 気がつくと、クウェイサーの背後を斑目が歩き去っている。
「クウェイサー殿、これで拙者もまた一歩先に進むことが出来た‥‥この太刀がなければ、我輩は負けていたでござるよ」
 横一線に振り抜いたまま、クウェイサーは動かない。
 いや、動かなくなっていた。
「ストームに続いて、斑目殿にもこの技で負けるとは‥‥」
「ほう。知っておられましたか」
「ええ。『居合黄泉もどし』‥‥10年前に私が敗れた技ですから」
――ツッッ
 口元から血を流しながら呟くクウェイサー。
 その背中越しに、斑目はゆっくりと頭を下げる。
「左様。これは拙者がストーム殿に伝授した技。そのまま一刻ほどじっとしていれば傷は塞がりましょうぞ」
 そう告げられると、クウェイサーは静かに目を閉じる。
「二度も同じ手に敗れて、おめおめと生きてはいたくない‥‥」
 素早く振り向くと、上段から斑目の頭に向かってダンピールを振り落とす。
 だが、それは届かない。
 上半身と下半身が真っ二つに分かれて、クウェイサーは絶命した。
――カチャツ
 落ちているダンピールを鞘に収めると、斑目は静かに黙祷した。
 これ以上の情けは武人の恥。
「ならば、いずれ黄泉路で会おうぞ‥‥」
 それだけを告げると、斑目はストームのもとに歩み寄る。

 そしてポイポイは。
「輪っかぁぁぁ」
 ストームから投げられた輪っかを手に、必死に月影から逃げ回る。
「なんだその武器は?」
「刃の付いた輪っかっぽい!!ストームさんこれどーするの?」
「じ・ぶ・ん・で考えろぉ!!」
「ぽぃぃぃぃぃぃ!!」
 ストームの言葉に悲鳴をあげるポイポイ。
「そんな武器ではどうすることもできないですね」
――ヒュヒュヒュヒュンッ
 素早く斬りかかってくる月影の攻撃を、輪っかの刃の付いていない部分を握って弾き飛ばすポイポイ。
「お?おおお?」
 刀のように刀身が長くない。そのため取り回しが楽である。
「ほう。ならこうしたらどうしますか?」
 素早く突きに切り替えてくる月影だが、ポイポイはその初撃を輪っかの中を通してから横に引っ張って、軌道を無理やり変えた。
「ふぁ?」
「な、なんだこの武器は?」
「よくわからないけど、こうするものっぽい?」間合いを取って輪っかを投げるポイポイ。
 だが、月影はそれをあっさりと躱す。
――ビュンッ
「そんなものが通用するとでも?」
「するっぽいよ?」
 後方に飛んで行った輪っかが軌道を変えて、再び月影に飛んでいく。
 それも躱すが、再び空中で軌道を変えてポイポイの手の中に戻っていく。
「なんだそれは?そんな武器は見たことも聞いたこともないぞ?」
「ポイポイも知らないっぽい。ストームさん、これなんて名前?」
 戦闘中に聞くな。
 そう突っ込まれても仕方ないだろうが。
「あー、乾坤圏というか、乾坤剣というか、そんな感じ。で、それ二つ一組だからな」
――カチャツ
 すると、乾坤圏が二つに分かれる。
 刃の付いた外輪と、刃のない鈍器の内輪。
 この二つで乾坤圏となるらしい。
「面妖な‥‥」
 慌てて構え直す月影だが。
 すぐさまポイポイは外輪を月影に投げると、内輪を構えて月影に殴りかかった。
 ヒョイッと外輪を躱して内輪の攻撃を忍者刀で受け止める月影だが。
――ザシュッッッ
 戻ってきた外輪が肩口を切り裂いて飛び抜けた。
「痛ッ」
 素早くポイポイに牽制の蹴りを入れると、二人とも間合いを取る形になった。
――シュルルルルッ
 そして外輪がポイポイの手に戻ると、また一つの輪に戻る。
「た、たーのしーっぽい」
 先ほどまでの疲れが吹き飛んだように、ポイポイが月影に攻撃を仕掛ける。
 だが、月影もポイポイとの戦いを楽しみ始めた。
 二人の|戦闘狂(ウォーモンガー)が果てなく戦い始めたが、突然月影が壁際で立ち止まる。
「クウェイサー殿が逝きましたか。では、私もそろそろ失礼しましょう」
「逃げるっぽい?」
「ええ。死して屍拾うものなしといきたいですが、生きて任務を報告しなくてはね」
――スッ
 足元の影にスッと消えると、その影すら消滅する。
 そして月影の気配も完全に消滅した。
「いかな恥をかこうとも任務を遂行するか。敵ながら天晴れだな」
 腕を組んで頷く斑目。
 そしてポイポイもストーム達の元に戻ってくる。
「ストームさん、お元気っぽい?」
「お陰様だな。で、ポイポイは斑目より遅かったから、終わったら二時間正座な?」
「ふぁっ!!」
 絶句するポイポイ。
 それには斑目もシルヴィーも笑い始めた。
「火災現場にターキー殿とズブロッカ殿が向かっています。救援に向かいますか?」
「そうだな。此処まで幻影騎士団がやられているとなると、手助けは必要か。アンジェラは何と戦っている?」
 そう斑目に問いかけるが。
「アンジェラは結婚して子供を産んだので、騎士団は引退ですな。今は教会で司祭長を務めています」
「はぁ?いったい誰と結婚したんだ?」
「ウォルフラムさんっぽいよ。ポイポイもこの前戻ってきたばかりだから知らなかったっぽい」
――ポン
 と手を叩くストーム。
「へぇ。そいつはめでたいな。今度宴会しないとならないか‥‥まずはこの馬鹿騒ぎを納めてからだな」
――ゴキゴキッ
 力強く指を鳴らすストーム。
 そして先に進もうとした時、ウォルフラムの横で眠っていたロットが目を覚ました。
「ど、どうしてフォンゼーン王が此処にいるのだ?」
 無理やり体を起こして座り込むロット。
 と、ストームはゆっくりとロットの近くに近寄っていった。
「シルヴィーを守ろうとして負けたら駄目だな。が、ロットには、自分が守らないとならないものがわかったんだろう?」
 そう呟きながら、ロットの頭をポン、と叩く。
 ロットにはその言葉の意味が理解できた。
「シルヴィー様を守らなくてはと思っても、この真紅の鎧は力を貸してくれなかったのに‥‥ミアを守らなくてはと思った時は、鎧は全力で力を貸してくれたのだ」
「そりゃそうだ。聖騎士でもない限りは、なんでも守るなんて半端者には力を貸してくれない。自分にとって大切なものを護るからこそ、その鎧は全力で装着者を助ける‥‥」
 その言葉に、ロットはミアを見る。
 まだ魔障酔いが覚めないらしく、苦しそうに眠っていた。
「そうか。だからあの女の魔法も防げたのか」
「半分だけな。爆裂刃を無限刃で起動すると、範囲が半分になる。慌てて残り半分は俺が潰したが、間に合わなかったら二人とも死んでたぞ」
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 ストームはロットの攻撃が間に合わない範囲の『理力の矢』に向かって斬撃を飛ばしていた。
 それでもカバーしきれなかった矢に向かって、ロットが身を呈してミアを庇ったのである。
「け、剣聖ストーム、僕はシルヴィー様を守れない。けどミアは僕が守る。僕にも守れる範囲で守らなくちゃならないものがやっと理解できたのだ‥‥ミアを小さい時から見ていた僕だからこそ!!」
「へぇ。随分と立派なことだ、ならその気持ちを大切にしろよ」
 スッとストームはロットに向かって拳を差し出す。
 すると、ロットは無意識にストームの拳に拳を重ねた。
「僕はミアが好きだ!!好きな人を守る力こそが、本当の守る力なのだ!!」
 その言葉には、ストームも力強く頷いた。
「それでいい。シルヴィー、ロットとミアの二人も幻影騎士団に登録だ。ウォルフラムと斑目から色々と学べ」
 その言葉に、ロットはドンと自分の胸を叩く。
「すでに斑目様からは学んでいるのだ」
「いや、ロットには普通の冒険者レベルでの特訓しかしていなかったからなぁ。幻影騎士団のメンバーなら、我々も全開で教えられますな」
 斑目がニヤニヤしながらロットに告げる。
 するとウォルフラムもコクリと頷きながら、傍らで真っ赤な顔で困り果てているミアを見た。

「あ。あのバカロット‥‥私はどうすれば良いのよ‥‥」
 ボソッと呟くミア。
 その頭をウォルフラムがそっと撫でる。
「時間はありますよ。自分の気持ちに正直に、そしてその気持ちを大切にしてください」
 ミアにのみ聞こえるように告げるウォルフラム。
 それにコクリと頷くと、ミアは穏やかな表情で瞳を閉じた。


  ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 ベルナー城一階
 馬小屋で起こった火災は周囲の建物を次々と燃やしていた。
 人々は逃げ惑い、城内待機の騎士たちが懸命に消火活動を続けている。
 その一角では、ワイルドターキーがバイアス連邦の騎士ギャラックと一騎打ちをしているところであった。
 ウィル大陸でも希少種である巨人族のギャラックと、ドワーフ族のワイルドターキー。
 身長差はそれだけで1mはある。
 すでに両者の実力は均衡し、ただがむしゃらに武器をぶつけ合っている状態であった。
――ガギィィィィン
 両手斧と片手剣。
 二人の武器はすでにボロボロになっている。
 上から打ち下ろしてくるギャラックと、下からかち上げるワイルドターキー。
「ガッハッハっ。幻影騎士団にも、貴公のような怪力はいなかったのう。こんな戦いは久しぶりぢゃな」
「それはそれは。私も久しくなかったな。魂が震えるような戦というものは」
――ガギィィィィン
「しかし、そろそろ武器が限界ぢゃ」
「そのようですなぁ。という事は」

――バッ
 両者同時に武器を捨てる。
 そしてワイルドターキーはギャラックの腹に向かって力一杯のボディブローを叩き込む。
 だが、ギャラックも両手を組んで眼下のワイルドターキーの背中に向かって両拳を振り落とす。
――ドガバゴッ
 両者ともに呼吸が止まるが、いち早くギャラックが立ち直ると、ワイルドターキーの頭を掴んで顔面に膝を叩き込んだ。
――グシャッ
 その一撃で鼻骨が折れ、鼻血が噴き出すワイルドターキー。
「ぶふぁおっ‥‥やるのう」
「むしろこっちの方が得意でね」
「素手では巨人族に利があるか。じゃがなぁ‥‥」
 ワイルドターキーの体が真っ赤になる。
 目つきも変わり、全身の筋肉が膨張する。
――ドゴォッ
 目に見えない速さで再びボディブローを入れるワイルドターキー。今度はかなり効いたらしく、ギャラックの体がくの字に曲がる。
「あごぉぉぉぉぉっ」
 そこから剥き出しの顎に向かって拳を突き上げるワイルドターキー。
――グシャッ
 そのまま反動で頭が背中に向かって跳ねる。
 ワイルドターキーは、ドワーフ氏族固有の|狂戦士(バーサーカー)モードに入っていた。
 こうなると相手が死ぬか自分が死ぬまでは誰も止めることができない。
 ギャラックが後ろに倒れると、ワイルドターキーは飛び掛って馬乗りになろうとする。
 が、それを力一杯の蹴りで後ろに吹っ飛ばすと、ギャラックがワイルドターキーの体に馬乗りになる。
――グシャッ、ドゴォッ
 そのまま全体重を乗せて、ギャラックはワイルドターキーの顔面に拳を叩き込んでいく。
 途中途中で骨が折れる音がするが、ギャラックも殴る手を休めない。
「この程度で‥‥ブホッ」
「まだ死なないですか。流石はドワーフ、鉱石を食っているだけあって頑丈ですな」
「誰か鉱石を食っていブフォッ」
 口を開くとギャラックの拳が飛んでくる。
 ワイルドターキーの意識は徐々に薄れ始めたが、それでもまだ戦う事はやめられない。
――ブチィィィィッ
「うがぁぁぁぁっ、貴様っ!!」
 突然ギャラックがワイルドターキーから飛ぶように逃げる。
 ワイルドターキーが手に握っていた肉塊を投げ捨てる。
 力一杯ギャラックの左腿を掴むと、握力だけで引きちぎったのである。

 ペッ!!
 口から大量の血を吐き捨てると、ワイルドターキーはゆっくりとギャラックに近寄る。
「そろそろ決着をつけようかのう」
――ガシィィィッ
 ギャラックもゆっくりと立ち上がると、二人とも手を掴みあって力一杯相手を押し倒そうとする。
「ドワーフ如きに!巨人族が負けるハズはナァァァィ」
「でっかいだけの脳筋に、我々ドワーフが負けるはずなかろう!!」
 いつのまにか火災は鎮火し、ワイルドターキーとギャラックの周囲には騎士たちが集まっている。
 固唾を呑むように二人の戦いを見ている騎士たち。
 そして決着はついた。
――ゴキゴキゴキゴキィィィィッ
 ギャラックの手と肘の骨が砕け、その場で跪いた。
「くっゾォォォォォォォッ」
 突然の脱力でうつ伏せに倒れるギャラック。
 もう指一本動かすこともできない。
「殺せっ!!私の負けだ、潔く死を選ぼうっ」
――チャキッ
 そのギャラックの叫びで、近くにいた騎士たちが抜剣する。
 だが。
「下がれっ!!儂ももう動けん。この戦いは引き分けじゃ。騎士たちよ、ここは引いてくれ」
 幻影騎士団のワイルドターキーにそう告げられると、騎士たちは逆らう事は出来ない。
「私を殺さぬのか?」
「幻影騎士団としては殺さねばならぬがなぁ。いい戦いじゃったし、また再戦を誓うならば見逃すぞ」
 その言葉に、ギャラックも高らかに笑う。
「わーっはっはっはっ。こんなに清々しい戦いは久しぶりですね。いいでしょう、今度は正門から正々堂々と来るとしましょう」
「そうしてくれぃ‥‥しかし疲れたのう‥‥」
「ええ‥‥またいつか‥‥」
 それだけを告げると、二人とも意識を失った。
 そしてワイルドターキーの命令通りにギャラックは殺されず、二人揃って王城内の病室に運ばれていった。

 二人とも、実に満足そうな寝顔であったらしい。
 これだから脳筋は‥‥。
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