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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ
竜魔の章・その5 絶体絶命、かーらーのー?
しおりを挟むドドドドドドドドトドッ
ベルナー王城で、ロットは勢い良く階段を駆け上がる。
ワイルドターキーから告げられた伝言を届けるために、脇目もふらずに全力で駆け上がっていた。
――ガチャッ
「ゼイゼイゼイゼイ‥‥りぇんほんへふ」
勢い良すぎて息が切れているロット。
円卓の間に飛び込んで来たものの、息が切れて言葉にならない。
「ご苦労様。無事に帰ってこられて何よりですね」
ズブロッカが戻ってきたロットにそう話しかけるが、どうも今までとは雰囲気が違う。
テーブルでは|マチュア(ツヴァイ)がじっと地図を睨みつつ、ぶつぶつを何かを呟いている。
「それで、これからどうするのですか?」
「ふぇ?これから?」
「王都アキレウスですよ。急いで助けないと」
「すでに市民は逃げる準備をしているよ。今は騎士団がどうにか囮として頑張っているし、術者も結界維持で止まっているんでしょ?」
「だったら尚更ですよ。どうして動かないんですか」
やり切れない気持ちで一杯のロット。
「なるほどねぇ。ロット、ちょっとこっちにきて地図を見てみなさい」
|マチュア(ツヴァイ)はそう話しかけると、ロットは急いで|マチュア(ツヴァイ)の横から地図を眺める。
「こんな所で地図を見ていた所で‥‥あれ?」
ドラゴン襲撃による各地の被害状況。
それを見る限りでも、どの地域もあまり芳しくはない。
「分かるかな?パルテノ領が落ちた場合の直線ルートに、このベルナー領がある。奴らの目的はここ、シルヴィーの強奪。そのためにベネリ自ら囮として王都に攻め込んでいるのよ」
「だったら戦力を全てパルテノ領に集めて」
「王都とブリュンヒルデ王国の民を犠牲にして?」
そう告げられると、ロットは言葉を失う。
「そうだ、剣聖ストームが前に出て戦えば何とかなるのでは」
「それが出来ていたら苦労はないわよ。私も昔、ミドルドラゴンと戦ったことがあるけれど、ストームと二人でようやく倒したものよ。それが今では、幻影騎士団なら一人で一体は倒せるレベルまで成長しているのよねぇ」
トントンとテーブルを叩くと、|マチュア(ツヴァイ)は傍に座っているシルヴィーに顔を向ける。
「シルヴィー、決断して。ここに留まって最後まで戦うか、それともカナンまで下がるか。相手はあの水神竜クロウカシス、正直に言うわ、私では勝てない」
きっぱりと告げる|マチュア(ツヴァイ)。
その言葉の真意は、シルヴィーにも理解できる。
魔力を中和する咆哮は、魔法によって作られたゴーレムでは対処できない。
一撃でただの金属にまで戻されてしまう。
それはシスターズも例外ではない。
多少は耐えることはできようが、所詮は金属、やがて跡形もなく蒸発してしまうだろう。
「幻影騎士団に勅命。これより王都の民を後方ミスト連邦とカナン魔道王国へ避難させる。|転移門(ゲート)の全面使用を許可する。騎士団各位にも伝令し、速やかに対処せよ!!」
シルヴィーが叫ぶ。
その声で、ズブロッカは一礼して部屋から出て行った。
「で、では、シルヴィー様もはやく避難を」
ロットは慌てて叫ぶが、シルヴィーは頭を左右に振る。
「ロット、民を守るべき王族が真っ先に逃げてどうする?妾が逃げるのはこの国の民が全て無事に逃げたから。それまでは、妾は逃げることは許されないのぢゃ」
ニィッと笑うシルヴィー。
――パン
シルヴィーの言葉に|マチュア(ツヴァイ)も手を叩いた。
「良く言ったシルヴィー。なら、私も最後の切り札を使うわ」
「なんぢゃ、まだ切り札があるのか?」
「チッチッチッ。私の別名は裏技のデパート。隠し技ぐらいいくらでもありますよ」
そう告げると、ロットが怒鳴り声をあげた。
「なんだよそれ。だったら先にそれを出せば良いだろう。なんで出し惜しみするんだ?それがあるならみんな助かるんだろう!!」
グッと拳を握って叫んでいる。
――ポンポン
下を向いてじっと我慢しているロットの頭を、マチュアは軽く叩く。
「まあ、ロットの言う通りだよ。だから、私は今使う。ようは、あのクロウカシスの魔力を超える攻撃で一撃を叩き込めばいいんだよ」
そう告げると、マチュアは空間から一振りの剣を取り出した。
――ピッピッ
『こちらウォルフラム‥‥ブリュンヒルデ城防衛完了。残存勢力は全て消滅もしくは撤退。パルテノ領へと向かった模様です』
「おお、ウォルフラム、ナイスタイミング。作戦指揮系は全て任せたよ、ちょいとクロウカシス止めてくる」
『りょ!!それは了解したくないのですが』
「煩いわ。やれといったらやりなさい」
『はいはい。では今から戻ります』
――ピッピッ
通信が終わると、|マチュア(ツヴァイ)は手の中に『記憶のスフィア』を作り出した。
それをシルヴィーにポイッと投げると、シルヴィーは慌ててそれを受け止める。
「マチュアよ、これは一体なんぢゃ?」
その言葉に|マチュア(ツヴァイ)は自分の頭をトントンと突く。
「私の全ての記憶です。それがあれば私は再生が可能ですから。さて、ロット、貴方はこれからシルヴィーの為に戦いなさい」
先ほど取り出した剣をロットに手渡す|マチュア(ツヴァイ)。
「これは?」
「マチュア様がストーム様と共にボルケイドを討伐した際に身に纏っていた鎧を、ストームがドラゴンスレイヤーとして蘇らせた剣よ」
そのままロットの肩をポン、と叩く。
――シュッ
一瞬でロットの全身に深紅の鎧が装備された。
「マチュア様?じゃあ今おいらの前にいるのは?」
「私はマチュア様が作ったマチュア様の分身。クルーラーゴーレムのツヴァイです。ゴーレムであるがゆえ、クロウカシスのブレスは掠めただけで私は消滅するかもしれません」
そのツヴァイの言葉に、ロットは慌ててシルヴィーの方を見る。
だが、シルヴィーはコクリと頷くだけである。
「じ、じゃあ、僕が小さい時にサムソンにいたマチュアは?」
「あれが本物。そして私の予測では、10年前のバイアス連邦の開戦でクロウカシスが動かなかった理由。マチュア様は自身の命と引き換えに、クロウカシスを瀕死にまで追い込んだと思うのよ。だから次は私が止める。その次はカナンにいるドライが。誰かがクロウカシスを完全に止めるまでは、私達は止まることはできないから」
――シュッ
素早く白銀の賢者の装備に換装すると、マチュアはシルヴィーの頭をポンポンと叩く。
「ツヴァイ。もう会えないのか?」
「そうですねぇ。シルヴィー様が私の記憶を持っていますから。それをミスト様かミアに渡してください。ミアならば完璧に私を作ることができますが、ミスト様なら、|鎧騎士(パンッァーナイト)に私の記憶を組み込んでくれるかもしれませんよ。それでは」
――ヒュンッ
一瞬で転移するツヴァイ。
「シルヴィー様。ぼ、僕はどうすればいいのだ?ミアのように魔法の才覚もない、ストーム様のように戦闘の達人でもない‥‥まだ駆け出しの冒険者の僕には、こんなの荷が大きすぎる‥‥」
涙を浮かべながら、ロットが呟く。
――ポンポン
すると、シルヴィーもロットの頭をポンポンと叩く。
「ふぁ?」
「これはおまじないぢゃ。妾が始めてストームにあった時、不安でどうしようもなかった妾の頭を、ストームはこうやって叩いてくれた」
自分の頭をそっと撫でるロット。
「するとな、不思議なことに落ち着くのぢゃよ。このポンポンはな、『大丈夫、なんとかなる』ぢゃ。だからロットも大丈夫ぢゃ」
「大丈夫‥‥か、そうだな」
――ガチャッ
ロットの声と同時に、ウォルフラムが部屋に入ってくる。
すでに満身創痍、動いているのが奇跡であろう。
「幻影騎士団団長代行、ただ今帰還しました」
「ご苦労ぢゃ‥‥斑目は?」
「アキレウスに向かいましたよ。マチュア様は?」
「多分アキレウスぢゃろうな。ウォルフラム、あとは任せるぞ」
そう笑いながら告げるシルヴィー。
「成る程。では、ここを死守しますか」
「うむ‥‥今は民が|転移門(ゲート)で避難を開始している。騎士団もそっちに向かっているから、ここの守りはロットとウォルフラムだけじゃ」
「まだ私も居ますわよ。ここだけの話、切り札を持っているのはマチュア様だけではありませんわ」
ズブロッカも笑いながら部屋にやってくると、自分の席に着く。
そしてロットの装備を見ると、ふぅんと笑う。
「ロット、全く似合って居ないわよ」
「う、煩いのだ。これから強くなるのだ」
「これからなら間に合わないわよ。今強くなりなさい」
「無茶を言うな~」
掛け合い漫才のような事をしているズブロッカとロット。
そして一息いれると、ズブロッカが地図を眺める。
「さて、マチュア様が居ない以上は、此処からが私の出番ですね」
「そうぢゃな。戦術的なものはマチュアとズブロッカ以外は組み立てられないからのう。頼むぞ」
「はいはい。では、まず王都をどうにかして抑えないといけませんね」
マチュアの側でじっとやり方は見てきた。
ならば、ここで作戦をしっかりと考えなくてはならなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ラグナ・マリア王都侵攻。
開始してすでに五時間が経過している。
王都侵攻の陣頭指揮を取っていたベネリは、やや焦りを感じている。
「たしかに我が軍は囮、本部隊であるクロウカシスがパルテノ領を落とせば、あとは真っ直ぐベルナー領だ。なのに何故落とせんのだ!!」
シュミッツ城及び領内の主要都市を落とす事で手に入れた通信用水晶で、パルテノ領に逃げ延びたバルバロに向かって叫ぶベネリ。
『それが実にもう、幻影騎士団の侍が化け物のようでして。それにあの地はそもそも竜殺しの槍を持っているブリュンヒルデの納める地、ミドルドラゴンでは時間稼ぎしかできません』
「言い訳は聞きたくない!!ならば、とっととパルテノ領を落とせ!!ベルナー城まで行ければいいんだ、そこにシルヴィーがいるはずだからな」
『了解しました。クロウカシス様にそう具申します』
それでバルバロとの話を切ったベネリ。
王都ラグナを眺められる高台に作られた陣幕の中で、ベネリは落ち着きを取り戻すためにワインの入った盃を一気に飲み干す。
――スッ
ベネリが椅子から立ち上がり、陣幕から王都を眺めていると、その背後に夢魔カーマインが姿を現した。
「随分とお機嫌がよろしくないようで」
「誰かと思ったらカーマインか。まだセシールの体を回収できないのか?」
「ええ。ベルナー城の結界が厄介でして。かなり古い対魔族結界が施されているのですよ。ですからもう諦めましたわよ‥‥けど、これで判りましたわ」
にこやかに呟くカーマイン。
「やはり、スタイファー王家の遺蹟はあの城の地下か」
「ええ。その入口は宝物庫の奥でしょうね。ですから私達魔族ではダメ、ドラゴンに破壊でもして貰わないとねぇ」
ならばと、ベネリも話を続ける。
「現状は見ての通りだ。直接陣頭指揮を取りたいが、ここから動けない。カーマインはクロウカシスの元に向かえるか?」
「冗談じゃないわ。なんで私がドラゴンのところに向かわないとならないのよ?」
「相変わらず魔族と竜族は犬猿の仲か。相入れないのか」
「私たちも竜族も、元々は魔神イェリネック様の加護を受けてこの世界にいるのですけれど、どうしても彼奴らは嫌。あんな脳筋オオトカゲの命令なんて受けたくもないわよ」
完全に臍を曲げるカーマイン。
「なら、別のアプローチが必要か。カーマイン、貴様の手駒の魔族は今どれぐらいいる?」
「手駒はこの大陸には居ないわよ。そもそも、メレスの魔族は今回のバイアス連邦侵攻なんて興味ありませんわ‥‥」
クスッと笑うカーマイン。
「そうか‥‥しかし、どうしてもパルテノ領は早く落としたい。これ以上はここで時間を稼ぐのもかなりきつい、何か策はないか?」
ベネリがカーマインに問いかけると、カーマインはニィッと笑う。
「要は、パルテノ領を陥落させればいいのですよね?どんな手段を使ってもというのでしたら、不可能ではありませんわよ」
「何かあるのか‥‥なら、急ぎそれを実行してくれ」
「分かりました。では、仰せのままに‥‥」
それだけを告げると、カーマインはスッとその場から姿を消した。
――ダッ
それと入れ違いに、バイアスの騎士が陣幕に駆けつける。
「ラグナ・マリアのゴーレムが再起動。ミドルドラゴンが二体で抑えて居ますが、振りほどかれるのは時間の問題です」
「数を増やせ。間も無く吉報が届くはずだ、それまでは待たせろ」
「ハッ!!」
素早く陣幕から飛び出す騎士。
その姿を目で追いながら、ベネリもまたこれから起こるであろう戦いに気持ちを鼓舞し始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
崩壊寸前のアキレウス城。
既に結界の維持も限界に近い。
結界発生装置の近くにいた魔術師たちも、魔力切れを起こしたものから順次後方に下げられている。
その城塞の正面前方に、クロウカシスはゆっくりと羽ばたいている。
――シユッン
|マチュア(ツヴァイ)は城塞の真上に転移すると、素早く箒にまたがってゆっくりと降りる。
そこにはミアとワイルドターキー、斑目の姿もあった。
「ま、マチュア様まで‥‥」
座り込んでいるミアがゆっくりとたちあがるが、既に魔力はゼロに近い。
フラフラとしながらまたしゃがみこんでしまう。
「戦局は?」
「まあ、最悪じゃな。クロウカシスは魔力が溜まるとすぐにブレスを吐いてくる。それもこの結界のど真ん中ではなく、わざと結界の真上か左右を掠めるようにな」
「それでできた隙間からドラゴンが侵入して、その対処で騎士や冒険者が犠牲になるのですよ。そして結界が再構築されると、また穴を開けての繰り返しです」
ワイルドターキーに続いてミアも説明する。
「あのトカゲ、完全に遊んでるね。ならいいわ、ここは私が引き受けるからミアたちはベルナー城まで戻って頂戴」
「しかし、マチュア様一人で大丈夫かのう?」
心配そうに問いかけるワイルドターキーだが。
「ならば拙者も残るとしよう。ワイルドターキー殿はミア嬢を連れてベルナー城まで戻るが良い」
袖の中に手を入れたまま、斑目が笑いながら告げる。
「そうじゃな。ミアを連れて帰るとしよう。あとは任せて大丈夫か?」
「まあね。少し時間はかかるけれど、また代わりがくると思うから。シルヴィーには話ししてあるので、あとは宜しくね」
あっけらかんと話す|マチュア(ツヴァイ)。
それにはワイルドターキーもコクコクと頷いている。
「え?ええ?なんの話ですか?」
「まあ、ミアはベルナー城まで戻ってシルヴィーから話を聞いてね。色々と面倒くさい話だから、ここではちょっとねえ」
――ゴゥゥゥゥゥッ
そう話をしていると、遠くでクロウカシスがゆっくりと飛び上がった姿が見えた。
「ではターキー殿、ミアをお頼みもうします」
「応。斑目殿もまたな」
そう話をしたら、ワイルドターキーはミアを担いで階段を素早く駆け下りる。
その様子を確認してから、斑目は腰に下げてあった刀を捨てる。
すでに刀としての機能はしていない。
投げた衝撃で鞘が砕け散り、刀身もボロボロに崩れていた
「ツヴァイ殿。刀の予備は持っているでござるか?」
「忍者用でいいかい?」
そう話しながら、空間からエンジ愛用の忍者刀を取り出して手渡す。
――カチャツ
その曇りのない刀身を確認すると、斑目はニィッと笑った。
そしてツヴァイも空間から30mm機関砲を引っ張り出すと、空間から弾帯を引き出して接続する。
「さてと。|深淵の書庫(アーカイブ)発動。機関砲の銃身に強化の魔法を付与。あのブレスの範囲外なら魔法が効くからね」
「うむうむ。しかし、ベルナー城は良いのでござるか?」
「ウォルフラムに全て任せた。作戦関係はズブロッカが引き受けてくれる。魔法はミアがこれこら覚えるだろうし、ロットはいい勇者になれる素質を持っている。だから、あとはいい‥‥それよりも斑目は良いのかい?」
そう横目で問いかけるツヴァイ。
「正直言うと、今は立っているのがやっとでござるよ。闘気で傷を抑えているが、ブリュンヒルデ領で腹を掴まれて内臓がボロボロでござるからなあ」
笑いながら斑目は呟く。
「そっか。なら、悪いけど闘気で壁を作って頂戴。クロウカシスのブレスは闘気は中和できないだろうから‥‥」
「はっはっはっ。それでは拙者死にますなぁ」
「まあね。悪いねぇ、付き合わせて」
「良いでござるよ。あの大会の後で道を見失った拙者に新しい道を与えてくれたのはシルヴィー殿でござった。ならは拙者は、武士としてその魂の一片までも燃やし尽くしてご覧に入れましょう!!」
――キィィィィィィン
クロウカシスが両顎を開いてレーザーブレスの準備に入る。
この瞬間は、クロウカシスの正面に魔力の壁が形成されるので攻撃しても全てを弾かれてしまう。
――ゴウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
やがてクロウカシスから放たれた魔力中和のレーザーブレスは、一直線に城塞正門に飛んでくる。
「身体能力強化、かーらーのー全体増幅っ!!」
ツヴァイは斑目の背中に手を当てると、一気に斑目に強化魔術を施した。
そして斑目も手にした忍者刀に気を乗せると、二人の周囲に闘気の壁を作り出す。
「むんっ!! 気功壁っ!!」
――ゴゥゥゥゥゥッ
二人を闘気の壁が包んだ直後、クロウカシスのレーザーブレスが正門に直撃する。
徐々に結界を中和し溶かし始めると、やがてブレスは貫通して斑目の上半身まで巻き込んだ。
だが、闘気の壁によって二人にはブレスは届いていない。
「ぐっ‥‥こ、これほどのものとは‥‥」
「腰を下げろ!!これなら行ける」
「そ、そうでござるな‥‥まだ放出が終わらないでござる‥‥か‥‥」
やがてブレスの威力が弱まり細くなっていくと、二人を覆っている闘気の壁も消滅する。
「よし、これで行ける。斑目、大丈夫か」
「ああ。あとは任せましたぞ、少し後ろで休ませてもらうでござるよ」
ヨロヨロと後ろに下がると、斑目は瓦礫に背中を預けて座り込む。
「あとは任せてくれ。それじゃあ行きますか」
やがて周囲の結界が再構築を開始するのを見ると、ツヴァイはクロウカシスの頭上に向かって転移した。
――ヒュンッ
眼下には、ブレスを放出して脱力状態のクロウカシスが、ゆっくりと着地する姿が見えた。
そして突然ツヴァイが転移してきたのを他のドラゴン達も確認したが、既に時遅しである。
「これでおしまいだよ。魔法付与によって強度はミスリル以上、毎分1500発を撃ち出す驚異の近代兵器を喰らえっ!!」
――Broooooooooooooom!!
自由落下しながらクロウカシスの頭部と首に向かって30mm機関砲を叩き込むツヴァイ。
最初は角度が甘く弾かれていたものの、収束するにつれてクロウカシスの鱗を吹き飛ばし、その肉をえぐり始めた。
「ナ、ナンダコレハァァァァ!!コンナ武器ガアルノカァァァァァァ」
「これが近代兵器だよっ。魔法でコートしているが、十分に通用するだろうさ」
30秒ほどで全弾撃ち尽くすと、ツヴァイは空間に機関砲を放り込んでクロウカシスの首に飛び乗る。
――ザバァッ
すかさずミスリルソードを空間から引き抜くと、力一杯首筋に突き刺した。
「ハナレロ、ハナレロォォォォォォォォォ」
必死に首を振るクロウカシス。
だが、ツヴァイは手を振りほどくことはない。
「それじゃあな。あとは任せたよ‥‥」
ツヴァイの全身が金色に輝くと、体内の魔力を全て熱量に変換して爆発した!!
――ドッゴォォォォォォッ
ゆっくりとツヴァイだった金属人形が大地に落ちる。
その衝撃で関節から次々に砕け、ばらばらになった。
だが、その一撃はクロウカシスに対しても致命傷であった。
|翻筋斗(もんどり)打って崩れ落ちるクロウカシス。
流石の水神竜も、瀕死の重症である。
息も絶え絶えのクロウカシスの元に、竜族はゆっくりと集まり始める。
「ぐぅ‥‥オノレ‥‥クチオシイ‥‥」
徐々に意識が消え始めるクロウカシス。
だが、その脳裏に、カーマインの声が響いてくる。
『待っていたわよ。まだ戦いたいかしら? 力が欲しい?』
「オオオ‥‥力ガホシイ‥‥ナニモノニモカテルチカラガ‥‥」
『そう。なら、今からあなたに新しい力を上げるわ‥‥そうすれば、ベネリの呪縛からも逃れる‥‥あなた達竜族は、真の自由を得られるでしょう』
「クレ‥‥ソノチカラヲ‥‥」
その言葉の刹那、カーマインはクロウカシスの目の前に姿を現すと、手にした木の実をクロウカシスの口に放り込む‥‥。
喉は破れていて飲み込むことが出来ない。
が、その木の実は喉の途中の組織に張り付くと、爆発的に魔障を発し始める。
メキョメキョと竜と人の姿の中間に変化すると、ゆっくりとクロウカシスの体組織も変貌させていった。
「コ、コノチカラハ‥‥コレハイッタイナンダ‥‥」
ゆっくりと甦るクロウカシス。
ちぎれていた組織も結合し、そして全身の鱗から魔障が発せられる。
「これでようやく始まるわね。あのボンボンがグズグズしているから時間かかったけれど、まあ良いわ。おはよう『魔神竜クロウカシス』。それが貴方の新しい名前よ」
そう告げられると、クロウカシスはゆっくりと身体を起こし始める。
「コレガオレか‥‥」
「ええ。竜族であり魔族である。今の貴方は黒神竜ラグナレクに等しいか、それ以上の力を持っているわ」
――グウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
口から放たれる咆哮。
それは新しい肉体を得たクロウカシスの歓喜の声であった。
「我が同胞たちよ‥‥全ての人を滅ぼす時が来た‥‥まずは我を忌々しい魔道具で縛り上げていたベネリを殺そう‥‥」
ブヲサッとクロウカシスが飛び上がると、他の竜族も次々と飛び立っていった。
そして気がつくと、その場には何も残っていなかった。
飛び立ったクロウカシスの影の中に、ツヴァイの残骸はスッと消えていった‥‥。
『‥‥ツヴァイさんの肉体‥‥回収っぽい‥‥』
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