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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ
竜魔の章・その3 魔法と科学のコラボレーション
しおりを挟むラグナ・マリア神聖教会。
ここサムソンで祀っている主神は【武神セルジオ】。
れっきとした8柱神の一人で戦神。何処の大陸でも祀られている著名な神である。
mk2とツヴァイは、久し振りに此処を訪れていた。
といっても来たことがあるのはストームだけなので、mk2は体内の『記憶のスフィア』によって来たことがあるという記憶しかない。
「おやおや、これはフォンゼーン陛下、このような場所にどのような御用でしょうか?」
奥から金髪の修道女・フェイトがやって来ると、丁寧に頭を下げている。
「セルジオと話がしたい」
唐突に告げるmk2に、フェイトはコクリと頷く。
「ではこちらへどうぞ。この場所ではアレですので」
「ああ、そうだな‥‥」
そのまま奥にある応接間まで案内されると、ツヴァイとmk2は勧められた椅子に座って一休みしている。
「では。セルジオ様にお話というのは?」
フェイトが微笑みながら二人に質問すると。
「まあ、多分見ていると思うから簡単に。ストームが入手した異世界のテクノロジー、こちらで使って良いものか?」
「そう。それでお願いします」
mk2が説明すると、ツヴァイも隣でコクコクと頷く。
「では‥‥」
フェイトが静かに目を閉じる。
やがて彼女の身体が輝き、ゆっくりと瞳を開く。
『天狼の加護の元で許された行為ゆえ、我にそれを咎める権利はない』
明らかにフェイトの声ではない。
「結果、世界のテクノロジーが間違った方向に発展するとしたら?」
間髪入れずにツヴァイが問いかけるが。
『それを正すのも、また君たちの修練ならば』
――ドサッ
やがてフェイトは力なく椅子に崩れた。
「うわっ、だ、大丈夫?」
ツヴァイは慌てて駆け寄るが、フェイトはどうにか身体を起こして微笑む。
「セルジオ様の眷属の方が私の身体を使われました。セルジオ様の言葉をそのまま伝えたそうです」
「それは分かった。けど、大丈夫か?」
「ええ。かなり魔力を削られましたが、巫女としての修練も行なっていますので」
どうやら魔障酔いの心配はなさそうだ。
ホッとしたツヴァイ達はそれを確認すると、丁寧にフェイトに頭を下げる。
「ご、ゴメンなさい」
「かなり無理をさせた、申し訳ない」
「いえ、大丈夫ですよ。私こそ滅多にない経験をさせて頂き有難うございました」
取り敢えず元気そうなのを確認した二人。
「本当に助かった。済まないが急ぐのでこれで失礼する」
mk2がそう告げると、フェイトもmk2に頭を下げた。
「いえ、陛下は大変なお方です。お気をつけてください」
「ああ。それでは」
それだけを告げて、mk2とツヴァイは教会を後にした。
「さて。ここからが大仕事だ。ストームのチェストからこっちに移す作業がある」
王城に戻ったツヴァイが、mk2に話しかける。
「一つ一つか?」
「いや、GPSコマンドでチェストを繋ぐ。記憶の伝達が出来たぐらいだ、何とかなるだろう‥‥というか、やらないと時間が惜しい」
「まあな。で、方法は?」
「ちょっと実験で、まずこことここをリンクするだろう?」
ツヴァイとmk2がウィンドウを開くと、お互いの設定をいくつか変更する。
そしてあるボタンを押すと、突然チェストが共有に切り替わった。
「なあ、もしこれがバレたら、俺たちストームに分解されないか?」
「可能性はあるから、とっとと必要なものを移してリンクを切る!!いくぞ」
素早くチェストコマンドを起動すると、マチュアのプライベートチェストに次々とアイテムを移していく。
そして全てが終わるまで一時間掛かった。
――カチャツ
二人同時にリンク解除のボタンに触れる。
これでチェストのリンクは完全に切れた。
「‥‥バレないよな?」
「俺は知らん。ツヴァイが全責任取れよ」
「ま、まあ、バレたらその時はその時だ。開き直ろう。さて、それじゃあ私は戻らせて貰うから。もし何か追加されたら連絡をください」
「ああ。あと、マチュアは大丈夫なのか?」
そうmk2はツヴァイに問いかけるが、ツヴァイは頭を左右に振る。
「大丈夫じゃないから、私がここにいるのですよ。あの人が生きていたら、ドラゴンは来なかったかもね」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ベルナー城では。
「‥‥ツヴァイはいつ戻るのぢゃ?」
「あの、まだ3時間も経過していませんが」
「そうか‥‥しかし、遅いのう」
空になったティーポットを眺めているシルヴィー。
どうやら紅茶のおかわりが欲しいらしいが、肝心の|マチュア(ツヴァイ)が戻ってこないので困り果てているらしい。
「まあまあ、シルヴィー殿、ツヴァイ様も何か奥の手を探しに行っているゆえ、ここはじっくりと待とうではないですか」
斑目が笑いながらシルヴィーを諭していると。
――ヒュンッ
突然|マチュア(ツヴァイ)が笑いながら転移してきた。
「ふーっふっふっふっ」
「ツヴァイ、気持ち悪いのぢゃ。一体何があったのぢゃ?」
「ちょっと実験など。えーっと、地下の倉庫借りていいですかぁ?」
「構わぬが、どうするのぢゃ?」
「実験ですよ。実験。これが成功すると、戦局は大きく変化しますが」
そう告げると、|マチュア(ツヴァイ)は部屋からでていった。
「ちょ。ちょっと待つのぢゃ、わらわにも見せてたもれ!!」
慌てて|マチュア(ツヴァイ)の後を追いかけていくシルヴィー。
そして地下にある倉庫区画にまでやってくると、一番大きな部屋に|マチュア(ツヴァイ)は入っていった。
――ガチャッ
古いワイン樽や使われていない木箱などが所狭しと並んでいる空間。
昔はワイン樽を貯蔵していた部屋らしいが、シルヴィーはワインに殆んど興味がないので手を付けられず荒れ放題になっている。
「まあ、ここでいいか」
部屋の端にバックパックから取り出したミスリルプレートを置くと、その反対側に立った。
「一体なにをするのぢゃ??」
「まあまあ、見てみて下さいよ」
そう告げると、|マチュア(ツヴァイ)は空間から全長2.1mの30mm機関砲を引っ張り出す。
さらに弾帯も箱ごと取り出すと、一旦|深淵の書庫(アーカイブ)を起動して機関砲のデータを読み取る。
――ブゥゥゥゥゥゥン
魔法によりその詳細データがサーチされると、次々と魔法語でスペックや取り扱い方が映し出される。
「あ、あの‥‥この奇っ怪な鉄の塊はなんぢゃ?」
「うーんと。まあ、機関砲といいまして‥‥」
そう呟くと、弾帯の収められている弾薬箱に魔術を付与し始める。
「‥‥対象は箱の中身全体。魔法による威力上昇を付与‥‥これでいいか」
ガチャッと機関砲に弾帯を設置すると、|マチュア(ツヴァイ)は腰だめに機関砲を構える。
反動で吹き飛ばないように、両足でしっかりと踏み込み、踵を床に力いっぱいめり込ませた。
「それじゃあ、シルヴィーは耳をふさいで下さいね」
――ポン
「こ、こうか?」
両耳に指をつっこむシルヴィー。
そして|マチュア(ツヴァイ)はしっかりとレバーを手に取って後に引っ張ると、すかさずミスリルプレートを狙ってトリガーを引く。
――ガガガガガガガガガガガガガガガカガッ
激しい銃撃音が周囲に響くと、みるみるうちにミスリルプレートがただの金属くずに変わっていく。
――ガシュゥゥゥゥゥゥゥッ
排気煙と薬莢と排熱で周囲が熱くなっている。
「こ、これは一体なんぢゃ?」
恐怖のあまり、シルヴィーがボロボロと泣いている。
「ああっ、ご、ごめんなさい‥‥これは、ストームが異世界から送ってくれた対ドラゴン用の兵器です」
そう説明すると、ヒクッヒクッと泣き止み始める。
――ドダダダダダダッ
階段の上から大勢の人が駆け下りてくる音が聞こえてくる。
「一体なにごとですか!!」
騎士団長のスコットと配下の騎士たちが轟音に驚いて駆けつけてきたのである。
「ま、マチュアが新兵器の実験をしておったのぢゃ。もうなんともないぞ」
「そうでしたか。せめて騎士団にも一声掛けて下さい。一体何事かと思いましたよ」
「いやぁ、これは失礼しました。まさかこれほどのものとは思いませんで」
ぽんぽんと自分の頭を叩く|マチュア(ツヴァイ)。
その様子にホッとしたのか、騎士団は地上に戻っていく。
「そ、それで、このキカンポーとやらはどれぐらいあるのぢゃ?」
「えーっとですね。これ危ないから普通の騎士は使用禁止です。取扱いを間違えたら都市が滅ぶ火力です」
淡々と説明すると、|マチュア(ツヴァイ)は機関砲を空間に放り投げる。
「では一旦戻りましょう」
「そ、そうか。さっきのあれは、ドラゴンには通用するのか?」
テクテクと階段を上がりながら話している二人。
「先程のミスリルプレートが粉微塵になったのを見ていただくとわかりますが。あれは乱戦では使えませんし、なにより重量が70kgあります。砦や城塞に設置して使うのがいいのでしょうけれど、やっぱり危険なので迂闊な人には使わせたく無いんですよねぇ‥‥」
30mm機関砲であの威力ならば、戦車や戦闘機なんか出すのが怖くなってくる。
とくに戦車。
内燃機関を全て魔法化し、それをコントロールするための設備の開発。
それを使う人の技術講習、砲術の練習など、考えていても切りがない。
そして弾丸の希少さが、取扱いをためらわせている。
練習で無駄打ちなどしていたら、実戦のときには弾薬がなくなる。
「あれを王都ラグナに設置できれば、安全なのぢゃが」
「えーっと。それは勘弁です。設置するのは構いませんが、あれは誰にでも扱える代物です。バイアスに奪われた時は、あれが私達を狙うのですよ」
――ゾクッ
その言葉でシルヴィーの全身に鳥肌が立つ。
「そ。それはダメぢゃ」
「でしょう? あれは私達ゴーレムが取り扱いますから」
「そうしてくれると助かるのぢゃ」
「はいはい。それとシルヴィー様、そろそろ『ぢゃ』は卒業しては?」
――ガチャッ
気がつくと円卓の間にたどり着いている二人。
「わ、判ってはいるのですが‥‥」
「ほら、普通に話せるではないですか・どうして未だに『ぢゃ』なのですか」
そう問い掛けると、顔中を真っ赤にして椅子に座る。
「もうどうでもいいのです。それよりも私に紅茶をください」
「はいはい。でも、どうしてなのですか?」
――プッ
と横で聞いていた斑目が軽く吹き出す。
「ま、斑目いうでないぞ」
「判っていますって。これは私とシルヴィー様の二人の秘密ですから」
ほほう。
なにやら秘密を共有しているらしい二人。
「なんかあーやしーいですね。まあ、それはそれで結構です」
ハーブティーの入ったポットとクッキーを空間から取り出してテーブルに並べると、|マチュア(ツヴァイ)は横の席で羊皮紙を広げて戦車の制御システムなどの図面を描き始めた。
○ ○ ○ ○ ○
数日後。
ワイルドターキーとズブロッカの二人が、ロットとミアを連れてベルナー城に戻ってきた。
次の城付き当番はワイルドターキーとズブロッカなので、ロット達も一緒にベルナー城で特訓を受けることになっているらしい。
中庭でのんびりしていた|マチュア(ツヴァイ)たちのもとに、ターキーたちも合流した。
「マチュア様、お久しぶりです」
丁寧に会釈するミア。
その横では、ロットが軽く手を上げている。
「よっ!!」
――スパァァァァァン
瞬間に|マチュア(ツヴァイ)からツッコミハリセンで一撃を受けるロット。
「よっ、じゃないわ。ちゃんと礼儀を覚えろといったでしょ!!」
「いたたたた。ターキーさんに剣術とか見切りを教えて貰って逃げる自信があったのに‥‥」
その為にわざと無礼な行動をしたらしいが。
「ロットや。マチュア殿は儂よりも数倍早いぞ」
「そうなのか? ならマチュアさん、俺に剣術のなんたるかを」
――ズッパァァァァァッ
再びハリセンでロットをしばく|マチュア(ツヴァイ)。
しかもご丁寧に乱撃を繰り出して、ロットの全身余すところ無くぶっ叩いている。
「うん、10年早い。ターキーさんと10回戦って、最低でも7回勝てたら相手してあげるわ」
「だってさ。マチュア様、ミアは魔法で聞きたいことがあるのですが‥‥」
今度はミアが|マチュア(ツヴァイ)に擦りよってくるが。
「ズブさん、ミアの魔法の熟練度は?」
「精霊魔術がまだ初期段階、一般魔術は初級は全て修めていますね。神聖魔術は基礎のみです」
――パシッパシッ
ハリセンを慣らしながらミアを見る|マチュア(ツヴァイ)。
「で、何を知りたいのかしら?」
「ここに入っている魔法なんですけど」
トントンと額のティアラを指差すミア。
「ほい?」
「転移とか、空を飛ぶやつとか色々とあるじゃないですか。この前、|高機動戦闘(フルバーニア)は覚えたのですけど、魔術の範囲型の設定と時間指定の設定が上手くできないのです」
「ははぁ。そりゃ無理だわ」
あっさりと話す|マチュア(ツヴァイ)。
「一般魔術中級の付与術式だね。ミアの魔力だと、知識で覚えても魔力コントロールがまだみたいだから無理」
「では、魔力コントロールのいい方法は?」
――カツカツ
「それは私の出番ですね」
ズブロッカがミアに近づいていく。
「そうなのですかぁ?」
「ええ。精霊魔術には、魔力循環を学ぶいい方法があるのですよ。それを使えば精霊魔術も上手く出来るようになりますわ」
ニッコリと微笑むズブロッカに、ミアもパァッと笑う。
「ちぇっ。ミアはいいよなぁ。やさしい師匠に恵まれて」
「ふぉっふぉっ。では、儂も少し優しくしますかのう」
ゴキゴキッと拳を鳴らすワイルドターキー。
それにはロットも後ずさりする。
「ど、どれぐらい優しくですか?」
「まずは走るとするか。基礎体力作りから始めよう‥‥ということでお呼びした」
――ザッ!!
綺麗に足並みを揃えてやってくるハートマン教官と、王城の騎士たち。
「ロット君といったかな? 君も今日から私の部下だ。以後言葉の最初には必ずサーをつけろ、いいな」
「ふぁ?」
「ふぁ、ではない。返事は『はい』か『イエス』のみだ。それ以外の言葉を私は許さない。では付いてきなさい」
「は、はいっ!!」
そのまま迫力負けしてハートマン教官についていくロット。
それを見送ると、ワイルドターキーもどっかりと座り込んでハーブティーを飲み始める。
「戦局は?」
「一進一退。パルテノ領と王都ラグナはよく持ちこたえていますよ。ブリュンヒルデ領はかなり後退していますけれど、今のところはあれ以上は難しいでしょうね」
「ふむふむ。そのブリュンヒルデ領の王都前方の砦から、大量の亜竜族と飛竜が東方に飛び立ったという報告がある。あそこから東方はパルテノ領じゃ、ちと厄介な代物かもしれぬぞ」
「その報告はパルテノ領には?」
「とっくに終わらせていますわ。そのあとに戻ってきましたので」
ズブロッカがそう告げると、目の前のミアに精霊との契約について話をしていた。
「そうか。いよいよ厄介になってきましたね」
「ええ。ドラゴン避けの結界があるから、まだどうにかなっていますけれど、ブリュンヒルデ城もパルテノ城も、王都の結界がそろそろ限界みたいですわ。予備を設置してなんとかしないと」
「うーん、予備ねぇ‥‥いまは作れないんだよなぁ‥‥」
腕を組んで考える|マチュア(ツヴァイ)。
「そうなのですか?」
「材料が足りない、制作する魔力も足りない、手も足りない」
「なら、ミアも手伝いますよ!!」
自信を指差しながら会話に割り込んでくるミアだが。
――ペシペシ
そう呟くミアの頭をハリセンで小突く|マチュア(ツヴァイ)。
「もっと集中。いまのミアには錬金術は教えないわよ。精霊魔術も中級まで完全にマスターしなさい」
「はぁーい‥‥」
そう返事を返すと、ミアはズブロッカの目の前で精神集中を始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
旧ブリュンヒルデ領城塞都市ガルクロース。
突然のドラゴン襲撃に対処できず、7年前に滅んだ街。
バイアス連邦の進撃の際、亜竜族には陥落した都市を自分達の都市とすることをある程度許されている。
この都市もその一つで、現在は亜竜族が移民し、亜竜族が人間の世界のルールをある程度守って生活している。
「この先には王都があるというのに、未だ落とすこともできんとはな‥‥」
ガルクロース領主が住んでいた館の居間では、バルバロが部下たちを叱責している最中である。
「ですが、奴らは竜殺しの魔剣を大量に所有しています。いつの間にそんな武器を作ったのかまったく不明なのですよ」
「ふぅむ。何れにしてもだ、これ以上の遅延は本隊の作戦にも影響する‥‥明朝、本隊の作戦が開始されると同時に、全兵力で王都を攻撃する。各部隊長にも告げろ!!」
「はっ!!」
バルバロの一声で、その場にいた騎士隊長達が部屋の外に飛び出していく。
「そう言えば、ベネリ様は王都ラグナ襲撃でしたなぁ‥‥はて?」
ふと脳裏をよぎる疑問。
「王都パルテノに進軍している部隊は何処の誰の部隊であったかな?」
頭を捻るバルバロだが、どうしても思い出せない。
「パルテノ周辺に展開しているのはベネリ様ではなかったか?誰かに指揮を譲って?はてはて?」
いくら捻っても出てこない。
やがてバルバロは面倒臭くなって考えるのをやめることにした。
翌日。
王都ヒルデガルドに住む人々は、城塞外に現れた亜竜の大群に驚愕していた。
城塞の上では、ウォルフラムと斑目の二人がその光景を一部始終ベルナーの|マチュア(ツヴァイ)に報告していた。
「ええ。今日がヒルデガルドの存亡を賭けた戦いになりますね。亜竜兵の数はもう確認不可能、ミドルドラゴンだけでも40以上、スモールとワイバーンは合わせると100を超えてますね」
『ブリュンヒルデは?』
「竜殺しの槍を装備して出撃準備に入りました。ブランシュ騎士団総勢70名も同じく。城塞外では、冒険者が戦闘準備を開始してます」
『ブリュンヒルデには出るなと言え!!奴らは戦い方を知っている、大将首を取りに来るぞ』
「それは伝えてあります。その上で、自ら囮として城塞外に立つと!!」
『まだ始まっていないのか?』
「はい。敵もこの10年で知恵をつけています。それに指揮官は『1000人殺しのバルバロ』です」
『ウォルフラムはブリュンヒルデについて下さい。斑目はとにかく城塞に敵を近づけないように』
「了解しました。他の王都の状況はどうですか?」
『それはこっちでどうとでもする、余計な心配は無用だ。あとは任せたからな。頼むから、これ以上の欠員をだすな!!』
その指示を受けると、ウォルフラムは階下へと向かう。
「ふむ。他国の情勢も芳しくないようですなぁ」
階下に向かうウォルフラムに、その場で迎撃準備をする班目が呟く。
「ええ。大丈夫とは言っていませんでしたね。どうとでもする‥‥動ける幻影騎士団は私達以外には三人しかいないのですよ?」
「動けるのはツヴァイ殿だけだ。ワイルドターキーとズブロッカはシルヴィー様の護衛。まさかとは思うが、ツヴァイ殿は一人で二つの国を回るのだろうか‥‥」
「なら、ここを早く終わらせて他国に回るだけですよ。それでは」
「ああ、健闘を祈る」
そう告げると、斑目は眼帯を外して眼下の敵を睨みつけた。
正門外では、ブランシュ騎士団が整列して戦いの指示をじっと待っていた。
「まだ敵は動きませんか?」
ウォルフラムが傍で待機しているブリュンヒルデに話しかけるが。
「ああ。開戦の狼煙も声も上がらない。相手の動きをじっと見ているのも、なかなか辛いものだな」
「では辛いついでにマチュア様から伝言です。ブリュンヒルデ様は前に出るなと仰っていました」
「私もその辺は理解している‥‥来るぞ!!」
正面奥、亜竜族の軍勢が動き始める。
――ピィィィィィィィィィッ
亜竜兵が鏑矢を空に放ち、進軍を開始したのである。
地上すれすれを飛行してやって来る亜竜兵と、上空からは空を覆い尽くしそうなワイバーンとドラゴンの群れ。
「ここを凌げば、ブリュンヒルデ領は状況が一変する‥‥ならば、多少は無理をしますかな」
腰だめに刀を構えると、体内の闘気をじっと凝縮する斑目。
その間にも、ワイバーンは高速で飛来する。
これまでは近くで叫ぶだけのワイバーンだが、今は両足で巨大な岩を運んで来るようになっている。
城塞の頭上で落とし、結界を発生させている魔道具を物理的に破壊しようというのである。
「まずは4つ‥‥」
――チン
刀を納める音がする。
その刹那、斑目の眼前で四体のワイバーンが真っ二つになり落ちていった。
「さて。馬鹿のひとつ覚えでまだ来るか。なら」
再び斑目は闘気の凝縮を開始した。
地上では、ブランシュ騎士団と冒険者の混成部隊が亜竜兵の討伐を開始。
数の上では圧倒的に有利であったはずの亜竜族は、徐々にその数を減らし始めていた。
だが、ラグナ・マリア勢の消耗も激しく、返り討ちにあいその場に崩れる者達も現れだした。
まさに戦力は均衡状態。
だが、その時。
「いいか、此処が正念場だ。我らの腕に、ラグナ・マリアの未来がかかっている。あの蜥蜴どもを一歩も中に入れるな!!」
ブリュンヒルデの声が戦場に響く。
その声は風の精霊の力で戦場に響くと、騎士団、冒険者共に活力を取り戻し始めた。
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