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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ
竜魔の章・その2 突然ですが戦闘です
しおりを挟むラグナ・マリア帝国南方、中央平原。
ブリュンヒルデ・ラグナ・マリアの治める王国がそこにはあった。
10年戦争と呼ばれているバイアス連邦の最前線は、現在この平原の南方に陣を築いている。
陣のある場所にも都市があるが、ここもかつてはブリュンヒルデ領であった。
現在はバイアス連邦に接収され、亜竜族の拠点の一つとなっている。
「おうおう。牽制しておるのう」
ブリュンヒルデ国王都・ヒルデガルド。
その南正門城塞の上で、ワイルドターキーとズブロッカが、こちらに向かってくる軍勢を眺めている。
「どうせまた、軽い小競り合い程度で茶を濁すのでは?」
「かも知れぬが。今、あの都市にはバルバロとやらが指揮官としてやって来たらしいからなぁ」
「ふぅん。まあどうでもいいわ。来たら蹴散らす、それだけでしょう?」
「本当ならな‥‥じゃが、今回は子守もせねばならん」
チラッと眼下で待機している一軍を見る。
大月製『竜殺しの太刀』を装備したブランシュ騎士団に、何故かロットとミアが混ざっている。
二人とも本格的な実戦は初めてで、ミストの提案で実戦に投入されたのである。
「あ、あの‥‥どうしておいら達が」
「おいらではない。せめて俺とか私にしろ」
横に立っている副騎士団長のジークルーネにそう咎められて、ロットは改めて問い掛ける。
「ごほん。どうして僕たちがこんな最前線に召集されたのですか?」
「まあ、簡単に言えば巻き込まれたというところだろうな」
その言葉が聞こえたのか、ミアがそーっとロットの近くから離れていく。
――ガシッ
そのローブの襟首を掴むと、ロットは逃げようと必死なミアに話しかける。
「さて。全て白状して貰うぞ!!ミアは何しでかした」
「私は何もしていないよぅ。ミスト陛下から突然召集令状が届いて、一人じゃ怖いからロットにもついて来てもらっただけだよぅ」
「ふ!ふざけるななのだ!!」
「ほらまた昔の口癖‥‥ジークルーネ様、そこはうまくごまかしてくださいよぅ」
すかさずジークルーネに助けを乞うミアだが。
「さて、下の御一行、そろそろ一発かますから、あとは頼むぞ」
そう頭上から声がすると、ズブロッカが周囲に6つの魔法陣を展開していた。
時同じくして、50m級のミドルドラゴンが4体と10m級のスモールドラゴンがヒルデガルドに向かって飛んでくる。
「光と影‥‥海と大地、荒ぶる焔よ逆巻く風よ。いまわが元に集いて、かの敵を滅ぼせ‥‥彼は汝の敵ならば、全ての精霊よ、我が力となって顕現せよ!!」
長い詠唱が終わると、全ての魔法陣が輝く。
「くらえ!!|魔導精霊砲(エレメンタルキャノン)っっっっっ」
――キィィィィィィィィィンッ
全ての魔法陣から光が放出されると、それは一つに纏まって一条のレーザーとなりドラゴンに突き刺さる。
――ドブゥッ
音もなく蒸発するドラゴン。
さらにズブロッカはレーザーを放出しっぱなしの魔法陣の角度を変えて、横に薙ぎ払った!!
――ドブブブブッ
逃げきれずにレーザーに焼かれるドラゴン達だが、どうにか逃れたものは怒りに我をまかせて飛来してくる。
「来ます!!スモールが5、ミドルが1です」
前衛の騎士がそう叫ぶと、ブランシュ騎士団は抜刀して隊列を構える。
「ロット、ミア、その肌で感じろ。これが戦争だ!!」
すかさず走り出すと、騎士団の全員が足に風の精霊を纏った。
――タッ!!
素早く武器を構えて跳躍すると、スモールドラゴンの飛ぶ高度までジャンプした。
――ドシャドシャッッッッッ
手にした『竜殺しの武器』の一撃で、ドラゴン達は次々と地上に落下した。
そして騎士達もすかさず着地すると、再びジャンプしてまだ飛行能力を失っていないドラゴンや無傷のドラゴンに追撃を仕掛ける。
「こ、これが|滅竜騎士(ドラグーン)なのか‥‥」
元々はマチュアが、とあるネトゲから仕入れた戦術。
だが、精霊魔術が使えるものならば十分に通用した。
――ゴクッ
ロットが喉を鳴らす。
「ば、僕だって、ただ見ているだけじゃないっ」
腰に下げてある剣を引き抜くと、ロットは空中に向かって縮地した。
「またなんて無茶な‥‥」
頭に手を当てて、ミアが驚く。
だが、すぐさま杖を構えると、ロットに向かって魔法を飛ばした!!
「|高機動戦闘術(フルバーニアン)をロットに!!」
――キィィィィィン
突然全身が軽くなり空中でも自在に動けるようになるロット。
「おっしゃぁぁぁぁぁぁ。必殺、貫通型衝撃波っ」
――ズバァァァァア
高速で振るった剣から一陣の衝撃波が飛ぶ。
それでスモールドラゴンの首が千切れ飛ぶが、背後に回っていたミドルドラゴンが大きく口を開くと、ロットに向かって火炎の息を吐きかけた。
――ゴゥゥゥゥゥッ
その炎の直撃を受けて墜落しそうになるロットだが。
「うおっ、いきなりとは汚ねぇぞ」
炎に焼かれて消し炭になっているはずのロットが無傷で飛んでいる。
「よし、掛かってきなよ!!」
ガチャッと剣を構え直すと、ミドルドラゴンも一直線にロットに向かって飛んできた。
だが。
――ドシャドシャドシャドシャっ
上空から四人の騎士が武器を手に急降下してきた。
そしてミドルドラゴンの翼を、腕を、脚を切断し、最後の一人が翼を真っ二つにした。
絶叫を上げながら、墜落していくミドルドラゴン。
その姿を見て、こちらに向かっていた亜竜族も一旦後方へと下がっていった。
「全騎士被害報告っ」
地面に着地したジークルーネが騎士団に叫ぶと、ちょうど横に着地したロットを見る。
「ふう。取り敢えず一匹か。この程度なら大した」
――バキィッ
そう呟くロットの頬を、ジークルーネは殴りつけた。
そのまま後ろに倒れると、ロットはヨロヨロと起き上がった。
「竜を相手に正面から突っ込むな馬鹿者っ」
「痛ってぇぇぇ。この防具なら竜の息程度は無力化できるから大丈夫だよ」
「その鎧はストームが作った炎を無効化する鎧だそうだな。だが、もしさっきのドラゴンが風や酸の息だったらどうする?」
「そ、その時はうまく避けて」
「ロットの技量では無理だな。ミアの魔法によるバックアップがあったからこそ、どうにか戦えた。ミアも、一度の魔法でロットを助けるのではなく、全体を見て魔法を使いなさい」
「はい‥‥」
シュンとするミアとロット。
「だけど、初戦闘でスモール一匹は大したものだな。この後の訓練もがんばれよ?」
「はひ? この後の訓練って?」
「わ、私もですかぁ?」
その二人の言葉と同時に、ジークルーネは頭上を見上げる。
そこでは、ワイルドターキーとズブロッカが二人を手招きしていた。
「ようこそ地獄へじゃな」
「魔導の真髄、教えてあげましょう」
フッフッフッと笑う二人を見て、ロットとミアは諦めの表情になった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ベルナー領王都・ベルナー城
カツカツカツカツ
真っ直ぐに円卓の間へと歩いていくシルヴィー。
ガチャッと扉を開くと、シルヴィーはすぐさま自分の席に着く。
目の前では班目とウォルフラムがのんびりとお茶を飲んでいた。
「おや?班目殿、マチュアはどこぢゃ?」
「窓辺でなんかしてますよ」
ベランダを指差しながら、班目が告げる。
ふとそちらに目を向けると、マチュアが外を眺めていた。
「おーい。ブリュンヒルデから連絡ぢゃ。敵第1波は殲滅したと」
「ふむふむ。きっと敵さんは南方ブリュンヒルデ領とパルテノ領、王都を超えられずに焦ってきてますよ。ここからどう出ると思いますか?」
そう問いかけながら、|マチュア(ツヴァイ)も席に着くと空間からティーセットを取り出して皆に進める。
「物量でどうしょうもない場合は、次は質でしょうね。それも指揮系統を崩すのに本丸にぶつけてくるのでは?」
「王都ラグナに戦力を集結?可能性は十分に考えられますなぁ」
ウォルフラムと班目の回答。
だが、|マチュア(ツヴァイ)は浮かない顔である。
「もし王都に戦力を持ってくるとすれば、ラージドラゴンクラスだね。最悪はクロウカシスがやって来るパターンだけど、未だに動きがないのはどういうことだろう?」
マチュアが命と引き換えに重体まで追い込んだクロウカシス。
だが、あの戦いを知るものはなく、クロウカシスの封印が解けたということしか知らない。
だからこそ、10年もの間、姿を見せていないのが不気味であった。
「竜族には竜族なりの考えがあるのでしょうな。ティルナノーグからの増援は?」
「これ以上は無理らしい。あそこは浮遊大陸だから、ドラゴン達が狙っているらしい。サイノスを返せって言われそうだよ」
トントンと指でテーブルを叩く|マチュア(ツヴァイ)。
「賢者としては、次の敵の一手は?」
シルヴィーがそう問いかけると、|マチュア(ツヴァイ)は立ち上がって壁に貼ってある地図を眺める。
「王都侵攻。皇帝の抹殺が一番効果的‥‥だから、私は動かない」
「マチュアは皇帝を見捨てるのか?」
バン、と机を叩きながら立ち上がるシルヴィー。
「今のラグナ・マリアで一番気まずいのはなんでしょう‥‥はい、シルヴィー答えて?」
突然指を刺されて驚くシルヴィー。
「そ、それは、皇帝がいなくなり国が滅ぶ‥‥ではないのか?」
「それはラグナ・マリアにとっての気まずさ。一番怖いのは、バイアス連邦がスタイファー王家の魔導器を手に入れて世界を滅ぼすこと」
「じゃが、そのスタイファーの、王家の遺跡が何処にあるのか分かるのか?」
「知ってるよ」
あっさりと告げる|マチュア(ツヴァイ)。
それにはその場の全員が驚く。
「ど、何処で?いや、何処にそれが?」
「シルヴィーには教えない。万が一シルヴィーが捕まって記憶を探られたら、門と鍵の二つが一気に揃う。通帳と印鑑は別々に保管しないと駄目なんだよ」
泥棒が入ってもこれなら安全。
まあ、一番安全なのは、泥棒が入らないようにすること。
「ツウチョトインカーン?そこが場所なのか?」
「例えですよ例え。さっきの説明があるから、私はここを動かないのですよ。幻影騎士団も最低二人は置いておかないと心配ですから」
それを言われると、シルヴィーは何も反論できない。
ギリッと親指の爪を噛むと、困ったような顔をしている。
――スパァァァァン
そのシルヴィーの後頭部にハリセンを叩き込む|マチュア(ツヴァイ)。
「はいそこ、爪を噛まない」
「あぅぅぅぅ。相変わらずマチュアは厳しいのぢゃ」
「そりゃあもう。シルヴィーを守れっていうのは皇帝命令ですからね。それに、今回だけは本気でやらせて貰わないと、正直きついんですから」
真顔で答えるマチュア。
「ふむふむ。そろそろ敵勢はここに来ますね。これまでの失敗を陽動として、戦力の半分ぐらいをブリュンヒルデにぶつけるでしょう。残りは王都に向かいたいでしょうけれど、その近くには堅牢な守りのパルテノ領があります。ここに戦力を割くぐらいなら、パルテノ領は無視してくるでしょうねぇ」
コンコンと地図を叩きながら説明すると、|マチュア(ツヴァイ)は王都ラグナを指差す。
「ですから敵の狙いはここ、一気に王都へと攻め入ることかと」
淡々と説明する|マチュア(ツヴァイ)だが。
その話を聞けば聞くほど、ウォルフラムも班目も腕を組んだまま何も言えなくなる。
「ならば、ミスト連邦やカナンから派兵してはどうぢゃ?」
「うちとミスト連邦は避難民のための最後の護り。そこを削ると民が不安になります」
「な、ならば」
「シルヴィー様。ベルナーの騎士も動かせませんぞ。万が一のことも考えてくだされ」
次の言葉も班目は分かっていた。
だからこそ先に釘を刺したのである。
「マチュア、何か裏技はないのか?いつもならこう‥‥なんかあるぢゃろ?」
まるで、マチュアが技のデパートのように問いかけるシルヴィー。
「すいません。そんな面白い裏技があるのは本体だけで、あの人の知識を私に求めるのは‥‥あれ?」
そこまで告げると、|マチュア(ツヴァイ)はふと考える。
マチュアのあの突発的な知識は何処にあるのか?
「そ、そうぢゃな、済まない」
落ち込んでしょげているシルヴィー。
だか、|マチュア(ツヴァイ)はシルヴィーに向かって笑った。
「あー、いやいや、ひょっとしたらなんとかなるかもしれませんよ。私はマチュア様の全てを受け継いでいますから。ちょっと待っていてくださいね‥‥」
そう説明してから、|マチュア(ツヴァイ)は意識を閉じて体内の知識をフル動員する。
何かあるはず。
マチュア様の知識から、今までの対応。
そのベースとなったものは‥‥
――ガバッ
突然目を見開いて、叫ぶ|マチュア(ツヴァイ)。
「オタ知識かよ!!」
「お、何かあったのか?そのオタチシキとやらはどんな作戦ぢゃ?」
「あ、えーっと、マチュアの兵法の書といいますか。それを思い出しただけです。ちゃっと調べて来ます」
再び意識を沈めていく。
対ドラゴン関係のラノベか漫画。
リナのドラグスレイブは魔族との契約だから駄目。
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誰か、優しい竜の倒し方とか、竜退治の騎士になる方法とか教えてくださいよ。
必死に記憶を探してみる。
漫画でドラゴンを退治したのは‥‥デストロイヤー菅野?
まあ、飛竜退治だからありなのか。
ほかにドラゴン‥‥GATEは近代兵器で戦っていたし、何よりも|転移門(ゲート)は地球には開けない。
全く、こんな時にストーム様が居てくれれば‥‥。
――ガバッ!!
当然瞳を開いて立ち上がると、|マチュア(ツヴァイ)は室内をウロウロと歩く。
(ストーム様に助力を仰ぐか。サムソンのmk2なら、ストーム様と手紙で連絡が取れているので‥‥)
「あれ?」
素っ頓狂な声で叫ぶ|マチュア(ツヴァイ)。
「ど、どうしたのぢゃ?」
「ちょっとサムソンに行ってきます。ひょっとしたらとんでもないことができるかもしれませんから」
そう告げると、|マチュア(ツヴァイ)は賢者のローブを羽織るとサムソンに転移した。
「しかし、ツヴァイ様が本物のマチュア様に見えるのう。あの仕草も発想も」
「確かにそうですね‥‥」
班目とウォルフラムがそく告げるが、シルヴィーは頭を振る。
「ツヴァイはマチュアではない!!」
その迫力に班目とウォルフラムは頭を下げる。
「そ、そうでしたね。一比較しては駄目でしたね」
「うむ。拙者も迂闊であった、申し訳ない」
非礼を詫びる二人だが、それでもシルヴィーは頭を振る。
「マチュアはマチュア、ツヴァイはツヴァイぢゃ!!どっちもいまの妾には大切な仲間ぢゃ!!ツヴァイはマチュアの代わりではない!!」
その声が、ウォルフラムと班目の心に深く響いた。
「そうですな。私達にはどちらも大切な仲間、マチュア様の姿をしているのは、民にマチュア様の死を伝えないためでしたな」
その言葉にはシルヴィーもコクリと頷く。
「一番辛いのは妾ではない。ツヴァイたちぢゃ。自分の生みの親を失ったツヴァイたちが一番辛いのぢゃ」
ドカッと座ると、シルヴィーは目の前のハーブティーを一気に飲み干す。
「さて、どんな作戦が来るのか楽しみですね。ツヴァイ様の本気を見せてもらいますか」
ウォルフラムが笑いながら告げると、シルヴィーもコクリと頷いていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
サムソン王城。
|マチュア(ツヴァイ)は直接城内に転移すると、素早く執務室まで走り出した。
――ガチャッ
「私だマチュアだ!!mk2、ちょっと顔貸せや!!」
「ふぁっ、いきなりなんだ?」
「ドラゴン退治の方法だ。ストームの力が必要だ」
「‥‥そういうことか。ならここで良いだろ?」
ふと|マチュア(ツヴァイ)は周囲を見渡す。
その場にはキャスバルが座っていたが、|マチュア(ツヴァイ)とmk2の雰囲気を察したのか立ち上がった。
「少し休憩してきますので、話し合いが終わったら呼んでください」
――ガチャッ
立ち去るキャスバルを見送ると、|マチュア(ツヴァイ)は近くの椅子に座る。
「それで、ドラゴン退治の方法はどうするんだ?」
「mk2はストームとどうやって連絡している?|通信用水晶球(トーキングオーブ)は壊れてるだろ? そもそもこの世界とはちがう異世界だろ? 天狼の許可は出ているのか?」
次々と問いかける|マチュア(ツヴァイ)。
だが、mk2は
静かに一言。
「チェストは繋がっている。こっちで手紙を書いて入れとくと、あっちで確認して返事が来る」
「それをこっちに教えてくれてたのか。ちょっと聞くが、それはつまり、こっちのものも、あっちのものも、自由に取り出しができるんだな?」
「また無茶な事を考えているな?」
そう問いかけると、|マチュア(ツヴァイ)はストームに一通の手紙を書く。
そして自分の空間から寸胴を取り出すと、それをmk2に手渡した。
「ちょっとこれを送ってくれ。返事が来たら直ぐに連絡が欲しい」
「頼みごとか」
ポイッと空間に手紙と寸胴を放り込む。
「ああ。ロード位を女王から受けたことはmk2から聞いている。ならば、ストームの世界の魔法で凄いのが欲しい。文献でもスクロールでも碑文でも構わない、こっちには|深淵の書庫(アーカイブ)がある」
きっぱりと告げる|マチュア(ツヴァイ)。
自分たちのいる世界とは法則性の異なる魔法なら、かなり強力なものがあるだろうと踏んだのである。
それを異世界のストームから教えてもらう作戦だが。
「すぐに返事が来ることはないよ。ストームからの手紙では、こっちとあっちでは時間経過が全く違うんだ」
「そ、そうなのか?」
「まだストームの世界では5年ぐらいしか経っていない。だから、ストームが運良く手紙に気づくタイミングなんて‥‥」
ゴソゴソと確認のために手を入れるmk2。
すると、ストームからの返事が書いてあった。
――ガサッ
「|マチュア(ツヴァイ)、返事が来た」
そう呟きながら手紙を手渡す。
「マジか。なんですぐ分かったんだ?」
「多分だが。今、あっちの世界は飯の時間だ」
――ガクッ
「本当にそんな理由なのか。ま、まあいいや」
そう笑いながら手紙を見る。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
チェストの中のもの好きに使え、代わりに寸胴よこせ
‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「うんまあ、そうだよな。昔からこういう奴だよな」
「寸胴の件は良かろう。で、チェストの中身は何が入っているんだ?」
頭を捻る|マチュア(ツヴァイ)。
「さぁ?注意して確認したことないから中に何が入っているのか分からないわ」
「ちょ、ちょっと調べてみよう。えーっと、ウィンドウから確認かな?」
そう告げられて、mk2はウィンドゥを展開する。
「多分な‥‥お、これか。ツヴァイには見えるか?」
「見えないが‥‥あ、見えた。GPSでリンクしたら見えるのか?」
「そうだな。で、これがチェストのボタンで、中に入っているのがわかるのか‥‥へぇ、ここから取り出すこともできるんだ」
初めてスマートフォンを手にしたおばさんのように、あちこち弄り回しているツヴァイとmk2。
「ツヴァイのチェストも見れるんだ‥‥うわ、魔道具と食材と飯ばっかりだな」
「煩いわ。ストームだって同じだろうが。なんだこの握り飯とお茶と‥‥シュバルツシュミット?四号F機動戦車?」
ツヴァイとmk2の指が震える。
そこには、戦闘機や戦車、重機関砲などが大量に放り込んである。
――ガタガタガタ‥‥
突然全身が震えだすツヴァイとmk2。
「い、いくらなんでもこれは駄目だろ?」
「そもそもこんなでっかいもの、どうやって取り出すんだ?どっかカタパルトとかあるのか?ワンダバするのか?」
いきなり頭を抱えて動揺するツヴァイとmk2。
当然、ウィンドゥには|緊急発進(ワンダバ)する機能はありません。
「毎日手紙を確認していて、どうしてわからなかったんですか?」
「さっきチェストの説明に書いてあっただろうが。質量の大きいものは別空間だって」
「そんなことどこに書いてあった?」
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繁々と説明を見るツヴァイとmk2。
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「天狼の、せめてもの優しさかな。いきなり異世界に行くんだから」
「ならば、これは自然法則じゃないのかなぁ‥‥駄目だ、神様に聞こう」
そう話しが纏まると、ツヴァイとmk2の二人はサムソンの聖堂教会へと向かうことにした。
このあたりが、本人ではない定めであろう。
マチュアとストームなら適当に理由をつけてから引っ張り出して実験しているところである。
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