異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ

幕間の9 意思を継ぐ者たち

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 物語は、バイアス連邦が宣戦布告した時期に戻ります。

「戦争だあー」
 サムソン冒険者ギルドでは、箱をひっくり返したように騒がしくなっている。
 マチュアのもたらした|通信用水晶球(トーキングオーブ)は、ラグナ・マリアの各都市にあるギルドに設置されている。
 それで緊急時には連絡を取りあえるようになっているのだが、まさかいきなり宣戦布告がなされたという情報がやってくるとは思わなかった。
「冒険者の皆さんの希望者には、国からの依頼が行われますので城塞内で待機していてください。繰り返します、冒険者の皆さんには‥‥」
 建物の中でギルド員が声を張り上げている。
 もっとも、突然戦争のない国に逃げ出すような冒険者はサムソンにはいない。
 むしろ自国を守るために戦う意思を示している。

「ぼ、ぼくたちもたたかってみせます!!」
「みせます!!」
 騒がしく盛り上がっているギルドの入り口で、ロットとミアの二人も叫ぶ。
「おおう、そうだな。ならロットとミアはお母さんたちを守ってあげるんだ」
「でも!!」
「大切な人を守るのも勇者の仕事だ。自分の手の届く所にいる人々を守るのが勇者だ」
 ロットとミアの頭をポンポンと叩きながら、フォンゼーン王がギルドにやってくる。
「こ、国王自らこのような場所に?」
 突然のフォンゼーンの来訪にギルド員も慌てて頭を下げる。
「あ、それはいい。取り敢えず対ドラゴン用の結界を施すので、活きのいい魔術師を十人以上頼む。それと、その結界の設置のための人材、古くなった外壁の修理要員もだ」
「は、はいっ!!」
 ギルド員が一斉に必要事項を羊皮紙に書き込むと、次々と手続きを開始する。
「あ、あの、フォンゼーン王。まさかバイアス連邦はここまで来るのですか?」
 そう冒険者が問いかけるが、フォンゼーンは笑いながら返事を返す。
「万が一、シュミッツ領が突破された時の防衛ラインだな。それに近隣の村の人達も避難させなくてはならないから。では頼むぞ」
 それだけを告げると、次は商人ギルドに向かう。
 その後ろをロットとミアもちょこちょことついて来るが、フォンゼーンは気にする様子もなく絨毯に乗って低速で飛んでいく。
「‥‥国王様、サムソンはどうなるのですか?」
「どーなるの?」
 突然後ろからそう問いかけられると、フォンゼーンは絨毯を止めて二人の頭をポンポンと叩く。
「亜竜やワイバーンなどは敵ではない。ミドルドラゴンまでは私が倒せる。それより大きいのが来ても、まあ、みんなで戦えば大丈夫だ」
 その言葉で十分。
 ロットとミアはニィッと笑いながらフォンゼーンと握手すると、そのまま自宅へと走っていった。

「あら?フォンゼーン王自ら町の視察ですか?」
 ちょうどアルバート商会の前を絨毯で飛んでいたのを、カレンに見つかってしまった。
「まあな。少しでも皆の不安を取り除かないとならないし、各種ギルドにも指示を出さなければならない。これだけは自分でやりたくてね」
 ぽりぽりと頬を掻きながら呟くフォンゼーン。
「それはそれは。我がアルバート商会では避難民の方の日用品の手配を行なってありますので、もし必要になりましたらいつでも仰ってください」
 丁寧に頭を下げながら、カレンが告げる。
「それは心強いな」
「ええ。先ほどまではマチュア女王の所でも同じ事を話していましたわ。では急ぎますのでこれで」
そう告げてから、カレンもまた絨毯に乗ってどこかへ飛んでいく。
「さて、幻影騎士団は動けないし、シュミッツの騎士団だけでは防衛は難しいか‥‥どうしたものか‥‥」
 そう呟くと、フォンゼーンは王城へと戻っていった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 


「それじゃあな。また明日な!!」
「またあしたー」
 ロットの家の前で挨拶をすると、ミアは真っ直ぐに家路を急ぐ。
 まだ夕方、大勢の人たちが通りを歩いていると、ふとミアの目の前に丸い球が落ちて来る。
――コトッ
「ふぁ?これはなんでしょ?」
 直径10cmほどの綺麗な球。
 表面は黒く光っており、まるで黒曜石のように見える。
 表面にはびっしりと古代魔法文字が刻まれていて、それがただの飾りではないことがわかる。
「きれいー。これは新しいミアのたからものですね」
 それをバックに収めると、ミアは急いで家に帰っていく。
「ただいまー」
「あらお帰り。今日は勇者はいなかったの?」
 ミアの母が楽しそうに問いかける。
「今日は冒険者ギルドにいってきて、そのあとで王様とお話ししてきたの」
「へえ?フォンゼーン王かい?」
「そーです。優しい王様です」
 ウンウンと頷く母。
 すると、ミアは思い出したかのようにバッグから先ほど拾った黒い球を取り出した。
「あとね、これが空から落ちてきたの」
「空から?」
「そう。空から。きれいでしょ?新しいたからものです」
「ふぅん。ちょっと見せてくれるかな?」
「はい」
 そう告げて母親に手渡すと、それをじっと見ているミアの母。
「古い魔法文字がなのはわかるけどなぁ。お母さんももう冒険者を引退したからねぇ‥‥ん?」
 文字をスーツと触っていると、所々から意思のようなものを感じる。
「ミアは、この球を持っていて何か聞こえる?」
 一旦ミアにそれを戻すと、ミアは両手で持ってうーんうーんと唸っている。

‥‥イ‥‥オネガイ‥‥

 何かがミアに語りかける。
「おながいって、言ってるよ」
「おながい?ああ、お願いかぁ。ミア、ちょっとお出かけしましょ?」
「はい。ではこのたからものは、しまってきます」
「あ、それ持ってきてね。どんな宝物か鑑定してきましょ?」
「はい!!」
 そのままミアと母親は、冒険者ギルドのとなりの魔術師ギルドにやって来る。
 普段は冒険者が回収してきた魔道具の鑑定や買取り販売なともを行っている。

――カランカラーン
 扉の鐘が鳴り響く中、ミアと母親がギルドに入っていった。
「いらっしゃいませ、って、マイアさん、お久しぶりですね」
 ミアの母親‥‥マイア‥‥は、元々はこの魔術師ギルドに所属していた。
 なので、この手の鑑定がここでできることは知っていた。
「ミア、さっきの貸して頂戴」
「はーい。鑑定お願いします~」
 ミアがマイアに先程の球体を手渡す。
「早速だけど、これの鑑定をお願い」
「はいはい。ミアちゃんが何か拾ってきたの?」
「まあ、そんな所かな?」
 そんな話をしながら、受付の女性がスクロールを持って来る。
 それを開いてそこに描かれている魔法陣の中に球体を置くと、女性は直ぐに詠唱を開始する。
――ファン
 一瞬だけスクロールと球体が輝くと、すぐに球体はミアに戻した。
 そしてスクロールに知らされている文字を見て絶句する。
「どう?」
「なんていうものを持って来るんですか、これは『知識のスフィア』と言いまして、様々な知識を封じることができるのですよ」
「やっぱりですか。これには一体何が?」
「現在の魔術体系の全てが記されていますね。これ一つで、ラグナの賢者と同等の知識を得ることができますが、厳重にロックされています」

――オネガイ、ワタシノカワリニ、ミナヲマモッテ

 ミアの脳裏に声が聞こえる。
 そして次の瞬間、受付とマイアは信じられない言葉を聞いた。

「わかったよ、ミアがまもってあげるね」

「ちょっとミア!! 貴方まさか」
 マイアが叫ぶと同時に、黒い球体は光り輝き、ミアの額にティアラとなってくっついた。
「‥‥うわ、おかーさんかわいい?」
 にこやかにティアラを見せるミア。
 だが、マイアは生きた心地がしなかった。
「ミア、大丈夫?どこか痛いところはない?」
「なんで?どこもだいじょぶだよ?」
――ハァ~
 とりあえず怪我も何もないので、安心するマイア。
「しかし、やっちゃったなー。多分だけど、ミアはこれから、様々な魔術を身につけるでしょうね」
「そうね。なら、少しずつ教えてあげるとするわ。魔術師としての基礎だけはね‥‥」
 自分も冒険者であったから、辛さも苦しさも知っている。
 だからこそ、ミアには普通に町の中だけで生きて欲しかったのだが。
「よーし、ミア、次の誕生日からミアにも本当の魔法の使い方を教えてあげるね」
「ふぁ?本当のまほうつかい?」
「そうだよー。ミアちゃんのお母さんは、昔はすごい魔法使いだったんだよ?」
その受付の言葉に、ミアはパアッと笑顔になる。
「すごいまほうつかい?マチュアさんみたいな?」
「い、いや、それは許して。賢者レベルには無理。けれど、色々と教えてあげるから、それまではちゃんとお手伝いしてね」
「はい!!」
 そう返事をすると、ミアは建物から飛び出していった。
「ふう。とりあえず鑑定料払うわ」
「いいわよ、無料にしてあげるわ。ミアが大きくなったら出世払いしてもらうから」
「そ、それは駄目よ。いくらなの?」
 とマイアが受付に問いかけると、受付は一言だけ。
「SSクラスの魔道具の鑑定料だよ?」
「あ、あら?じゃあ将来ミアから受け取ってね」
「でしょ?ほら、外でミアちゃんが待っているよ?」
 そう促すと、マイアは頭を下げてから外に出ていった。
 そしていなくなるのを確認すると、受付嬢は鑑定のスクロールを棚に戻した。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「ふう。やっと着いたか」
 厳重な守りのサムソン正門。
 そこでは門を強化するのに、大勢の石工や力自慢の冒険者が腕をふるっている。
 そしてちょうど今サムソンにたどり着いた|大月涼(おおつき・りょう)は、目的であるストームの工房を探す事にした。
「あの、ちょっとすまないが、ストームの鍛冶場は何処にあるんだ?」
「ああ、サイドチェスト鍛治工房に行くのかい。なら、この街道を反対側になるから、そこの乗合馬車に乗っていくといいよ」
 門番が大月にそう説明すると、言われた通り馬車に乗り込む。
 そしてのんびりと町の中を眺めながら、一路サイドチェスト鍛治工房へと向かっていく。
「船を降りた時に戦争だっていっていたけど、ここはそんなに戦争の空気じゃないなぁ」
 そんな事を呟きつつ、大月はやがてサイドチェスト鍛治工房へとやって来る。
「おお、ここがそうか。しかし立派な火炉だなぁ‥‥」
 家の横にある鍛冶場を眺めながら、大月はストームの家の扉を叩く。

――ドンドン
「ストーム殿。約束通りやってきたぞ!!ストーム殿?」
 だが、どれだけ叩いてもストームは出てこない。
「おーい、そこの人。受付はこっちだよー」
 となりの馴染み亭の窓からから、アーシュが顔を出す。
「おや、そちらが店舗でしたか」
 スタスタと馴染み亭に向かう大月。
 店内には各種様々な武器防具が所狭しと並んでいる。
「これがストーム殿が作った武具ですか。凄いなぁ‥‥」
「それで、ストームにどのような御用でしょうか?」
「以前ストーム殿と話をしていて、恩を返すためにやって来ました。大月涼と申します」
 その話は聞いていない。
 ならばと、アーシュは一度ストームの元に向かう事にした。
「ちょっと待ってて下さいね」
そう告げてから、アーシュはトントンと二階に向かうと、|転移門(ゲート)で王城に飛んだ。
――シュンッ
 |転移門(ゲート)の横で待機していた騎士に、アーシュは話しかける。
「サイドチェストのアーシュよ。ストーム呼んで頂戴」
「はいはい。少々お待ちくださいね」
 そう告げてから、騎士の一人がストームの元に走っていく。
 やがてラフな格好のフォンゼーン王がアーシュのもとにやって来ると、開口一発。
「似合わない」
「煩いわ。で、何の用だよ」
「お客さんよ。和国の大月っていう女性、どうするの?」
「あー、手紙出して聞いておくから、暫くは宿を取ってあげてくれ、で、鍛冶場の仕事を任せるから宜しくと伝えてくれ」
「はいはい。それじゃあ待たせているからそう伝えとくね。鍛冶場の部屋に泊めても問題ない?」
「あ、そうだな。それで頼む。まあ文句は言ってこないだろうさ」
「了解。適当に暇になったらあんたでいいから顔だしてね」
 それだけを告げると、アーシュは再び|転移門(ゲート)で転移した。
「あ、あの、フォンゼーン王。あのような態度でいいのですか?」
 心配そうに問いかける騎士だが。
「まあ、鍛冶場の仕事を任せてあるからいいんでない?」それだけを告げると、フォンゼーンも執務室へ と戻っていった。

――トントントン
 階段を軽快に降りるアーシュ。
 店内では大月がのんびりとストームの作った武具をみているところであった。
「あのね、ストームは暫く忙しいので、鍛冶場は任せるって。ちょうど在庫と研ぎの仕事が溜まってから、明日からお願いしていい?」
 久し振りにストームに会えると思っていた大月は少し残念そうである。
 が、長旅で鍛冶場に入らなかった鬱憤は晴らすことができる。
「では明日からで。宿は何処にありますか?」
「宿は使わないわよ。住み込みでお願いね。
 ジャラッと鍵を手に取ると、となりの鍛冶場に向かう。
 南京錠の掛かっている扉を開けると、中に大月を案内した。
「部屋は好きなところを使ってね。食事はこの先にある酒場で好きに食べて、あとで請求書が来たらこっちで清算するから」
「ふむふむ」 
「給料は‥‥で、あとはあなたの作った武具が売れたら、売り上げの3割はあなたの取り分よ。材料は馴染み亭で管理しているから、必要な材料は申請してくださいね」
 ストームの留守をきっちりと管理しているアーシュ。
「成る程、では明日からですね」
「そうね。じゃあご飯でも食べに行きますか?」
「たしかに、長旅でロクなものを食べていませんから。助かりますよ」
「では店閉めてくるから、鍛冶場で待っていてね」
 シュタタタタと走っていくアーシュ。
 そして馴染み亭を閉めてくると、大月と共に酒場へと向かった。
 なお、二人でのんびりと酒を飲んでいるところに勤めの終わったクリスティナと、カレンが偶然合流し、和国での話に花が咲いたことは言うまでもない。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 ゼイぜイゼイゼイ
 息を切らせながら、クッコロと十四郎の二人はようやく目的地であるサムソン辺境王国に辿り着いた。

 此処まで長い旅であった。
 ようやく乗ることができたマッドハッター号は海賊に襲われて乗組員がかなり殺され、どうにかウィル大陸北方の港町の近くまで辿り着くと水竜に襲われて船が座礁。
 幸い陸地が見えていたので救援を求めて港町に避難すると、今度はそこで泥棒にクッコロの財布が盗まれた。
 それも十四郎がどうにか取り返して乗合馬車に乗ったが、乗る馬車を十四郎が間違えてミスト連邦王都に辿り着くという始末である。
 そこからは止むを得ずサムソン行きの馬車を探すと、ちょうど護衛を探している隊商があったのでそこでお世話になった。
 そして護衛がファナ・スタシアに辿り着くと、そこから別の商会の護衛任務でカナン魔導王国へ。
そこでようやく人伝に|転移門(ゲート)を教えて貰うと、隊商で稼いだ金で一気にサムソンへとやって来たのである。
「‥‥十四郎、あとお金どれぐらい?」
 懐から財布を取り出すと、それを逆さに降る。
「何もないでござるよ。クッコロ殿は?」
「えーっと‥‥金貨2枚と銀貨15枚、銅貨22枚しかないわ」
「はっはっはっ。これでストーム殿が見つからなかったらりいよいよ春でも売りますかな?」
「春?季節なんてどうやって売るのよ?」
「まあ、そこは冗談として。ストーム殿が何処にいるか知っているでござるか?」
 そう問いかける十四郎だが。
 此処にいるということ以外は分からない。
「此処がストームの国って話していたから。きっと王城に行けばいると思うわ」
 ぐっと拳を握ると、クッコロと十四郎の二人は王城へと向かった。

 巨大な城塞と堀に囲まれた王城。
 カナンのように何もなくて誰でも入れそうな王城とは対象的な、堅牢な作りになっている。
 跳ね橋の横にある詰所では、サムソン屈指のオリンピア騎士団が詰めていて、王城を訪れるものはそこで受付をしなくてはならない。
「あの、すいません。此処の王様に謁見したいのですが」
クッコロはそう告げると、騎士が羊皮紙を綴った帳面を手にやってくる。
「さて、謁見の予約は?」
「していませんね」
「謁見内容は急用を要するかな?」
「い。いえ。それほど急用でもないのですが‥‥」
 騎士の迫力に押されてオズオズと話すクッコロ。
「そうか。なら今日は無理だね。謁見予約時間を過ぎているので、明日の朝一番で来るといい。運が良かったら明日中には出会えると思うよ」
 その言葉に少しはホッとしたクッコロ。
「では、まあ明日にでも来るでござる‥‥」
 そのまま王城から離れると、今晩の宿を探す二人。
 繁華街にやって来ると、今までの町とは明らかに盛り上がり方が違うのに気がついた。
 宿や露店、そして異様なまでに酒場が多い。
「はぁ‥‥何でしょうこれは?」
「今までやってきた国とは全く違うでござるなぁ」
「と、取り敢えず何処かに入りましょう?」
 そんなことを言いながら、ふらふらと鋼の煉瓦亭に迷い込む二人。
 そこはかなりの常連が集まっているらしく、入った瞬間に盛り上がっていた。
「あ、あの、すいません。私たちグラシェード大陸から来たのですが、この店のオススメの料理をください。あと、部屋は空いていますか?」
「ほいほい。それじゃあエールとかは冷たいの飲み慣れているよね?あったかいお茶を入れて来てあげる。あと食事は二人分ね?」
 そう猫族の店員が問いかけると、クッコロ達はコクコクと頷く。
「はっはっはっ。それにしてもここは良いところでござるなぁ」
「まあね。けど明日にはストームに会って話をしないと」
 そんなことを話していると。
「おや?お二人さんはストームに会いに来たの?」
 カウンターでのんびりと飲んでいるクリスティナが後ろで話していた二人に問いかける。
「ええ。貴方はストームを知っているのですか?」
 クッコロがそう問いかけると、隣で飲んでいたドワーフが高笑いする。
「はっはっはっ。この国にはストームが二人いてな。サイドチェスト鍛治工房の鍛治師のストームと、ここの国王のフォンゼーン王がいるんじゃ。どっちのストームに会いに来たのじゃ?」
 そう問いかけられると、ふと考える。
「恐らくは国王ではないかと‥‥」
「ほう。ならばクリスティナの仕事ぢゃな。その子はこのサムソン騎士団の部隊長を務めているから、口利きをお願いすると良い」
 そう告げられると、クッコロの表情がパーッと輝いた。
「ぜ、是非お願いします」
「うむ。拙者からもお願いしたい。カムイで逸れてから、ずっと探していたでござるよ」
 その十四郎の言葉に、ドワーフは高らかに笑う。
「ガッハッハっ。なら国王じゃなく鍛冶屋の方だな。国王はずっとこの国に居たぞ。二日に一回は町の中を散策して居たからな」
「そ、そうでしたか。では、鍛治師の方は何処に行けば会えますか?」
 そう問いかけると、クリスティナが笑いながらクッコロに話す。
「鍛治師の方なら後で案内してあげるわ。まあ、今はゆっくりと食事を楽しみなさい」
「そうそう、お待たせしました。鋼の煉瓦亭特製、ハンバーグステーキセットです!!」
 これはストーム考案のオリジナル定食。
 ハンバーグが食べたいとマチュアにワガママを言って馴染み亭で食べたものを、この店でアレンジしたらしい。
 その熱々のハンバーグを一口食べると、二人はガツガツと食べ始める。
「こ、これは美味いでござる!!おかわりを所望する」
「私も追加をお願いします」
 そんなこんなで一人ふた皿をペロッと平らげると、ズズズと、お茶をのんで一息。
「ホッとしますね」
「この茶は、イズモのものよりも高価でござるなぁ。気候がいいと、こんなに美味い茶が飲めるとは」
 十四郎も満足。
 そして暫く余韻を楽しんでいると、クリスティナがクッコロ達の元にやって来る。
「それじゃあ、行ってみますか?」
「ええ、お願いします」
「うむ。済まぬが頼むでござるよ」
 では早速と、三人は酒場を出て街道をのんびりと歩く。
 しばらくは町の風景を楽しんでいる二人だが、サイドチェスト鍛治工房に近づいた時、クリスティナが二人に話しかける。
「二人はグラシェード大陸から来たと言ったわよね?そこでストームと会ったの?」
「会ったというか、私の父がストームさんに依頼をしまして、私はずっとストームと旅をして居ました」
「拙者は色々あって友となったのでござるよ」
「そう‥‥と言うことは、スムシソヤさんの依頼ね」
 まさか父親の名前が出るとは思わなかったクッコロ。
「知っているのですか?」
「ええ。シュトラーゼで話だけは伺っていましたので。到着しましたけれど、今は誰も居ませんよ?」
 そうクリスティナが告げるが、ストームの家の灯りが点っている。
「でも、灯りが点いていますよ?」
「あれは大月さんといいまして、ストームの家で住み込みで働いている鍛治師ですよ」
 そのまま家まで駆けていくと、クッコロは扉をドンドンと叩く。

――ガチャッ
「どちら様かな?仕事の依頼なら隣の建物だよ?」
 大月がすっと顔を出すと、クッコロはがっくりと肩を落とした。
「ストームさんは居ないのですか?」
「ああ、今日はいないよ」
「今日は?という事は明日はいるのですか?」
 切羽詰まったかのように問いかけるクッコロ。
 ふと、大月はクッコロの後ろのクリスティナを見てポリポリと頬を描く。
「クリスさん、この方知ってるの?」
「いえ、明日にでもお話ししますよ。あの女ったらしは、また一人女をこさえて来て。外国に何をしに行っていることやら」
 ブツブツと文句を言うクリスティナ。
「明日の朝一番でここにいらっしゃい。ストームを連れて来るから、その後でゆっくりと説明してあげますよ」
 そう説明すると、クリスティナは二人を宿まで送り届けて行った。

 そして翌日。
 いてもたってもいられずに、朝一番で馴染み亭にやってきたクッコロと十四郎。
 既に早朝のストームブートキャンプを終えた大月と仕事の準備をしているアーシュも、馴染み亭で待っていた。
「さて、みんないるようだから、取り敢えずストームの部屋借りるわよ」
「どうぞどうぞ。私と大月さんは仕事なので、上手く話してくださいね」
 そう話してから、クリスティナはクッコロ達を二階のストームの部屋に案内する。
「おお、やっと来たか。俺このあと仕事が詰まっているから、用件だけ‥‥うわっ!!」
 にこやかに話しているフォンゼーンに、クッコロは走り込んで抱きついた。
「良かった‥‥無事だったのね」
 クッコロの瞳から涙が溢れて来るが、十四郎は務めて冷静である。
「傀儡でござるか?」
「え?」
 慌ててストームから離れると、クッコロは、マジマジとストームを見る。
 だが、どこをどうみてもストームである。
「十四郎、どこをどうみてもストームじゃないのよ!!いい加減な事は言わないで」
「いやいや。あの天然ジゴロが何をやらかしたのか知りませんが、俺はストームであってストームではない。正式な名前はストームmk2、今ここにいるときは鍛冶屋のストームで通っている」
「じゃあ、十四郎の言う通りなの?」
「ええ。もしストームに万が一があった時に、国が混乱しないようにとマチュアに作ってもらったゴーレムです」
――シュンッ
 一瞬でフォンゼーン王の正装に換装するストームmk2。
「まあ、この事はくれぐれもご内密に。もし行くところがなかったら‥‥大月さん、ここにもう二人増えても構いませんか?」
「そちらの女性は構いませんが、男性の忍びはちょっと‥‥」
――ズルッ
 その大月の言葉と同時に、十四郎が黒装束の胸元を広げる。
「こう見えても拙者は女性でござるよ。そうだ、ニセストーム殿、拙者がストーム殿が留守の間はここの護衛をするでござるから雇って欲しいてござるよ」
 早速交渉に入る十四郎。
 するとmk2も腕を組んで考える。
「なら、二人ともここで働くといい。見ての通りかなり良い品が揃っているので、警備は必要。難民も増えているので店員も欲しい。それでどうだ?」
 その話に十四郎はすぐに飛びつく。
 が。クッコロはいまいち乗り気ではない。
「そうですね。けれどご迷惑になると‥‥」
――コンコン
 突然扉をノックする音。
「ストームいるの?仕事の話なんですけれど」
 扉の向こうからはカレンの声が聞こえて来る。
「ああ、後で商会まで行くからその時に」
「了解。ついでだから一緒に朝食はどうかな?」
「ああ、ついでにな」
 そんな話をして、カレンは階段を降りていった。
「ストームさん、先ほどのお話ですが、喜んでお引き受けします!!」
 何か敵対心というかライバル心に火がついたクッコロ。
「そ、そうですか。なら一階に向かいますか」
 トントンと階段を降りて店に向かうと、アーシュが忙しそうに接客している。
「アーシュ、この二人も雇うことにしたから宜しく。クッコロが店員で十四郎は警備な」
「あーはいはい。ならすぐにでも働いて貰うわよ。ストームは鍛冶場で研ぎを半分お願いね」
 ダン、と研ぎの依頼書を手渡すと、すぐに接客に戻るアーシュ。
「やれやれ。そんじゃあ、あとは宜しく」
 荷物を抱えて出て行くストームmk2。
 この数日後にゲーニッヒからストーム宛に手紙が届くが、おおよそ発想が同じだったので全く問題はなかった。

 ただ、代理とは言え恋愛の板挟みにされるmk2にとっては、早く帰ってこいと切実に祈るのであった。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

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