異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ

カムイの章・その1 いきなりクライマックス!!

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 さて。
 物語は一度、北方大陸のストームに戻ります。

「‥‥寒い。とくに下半身が寒い!!」
 馬車の中で震えながら呟いているのは、ご存知ストームである。
 マチュア達と別れたのち。
 ストームはシュトラーゼ公国のスムシソヤの雑貨店を出発して、一路クッコロをカムイまで届ける旅に出ていた。
 本来の任務は、そのカムイの永久氷壁の奥にある神殿に安置されている『神殺しの槍』。
それを狙っている亜神を排除するのが、今回の依頼である。

 シュトラーゼを出発してすでに10日。
 街道にはチラチラと雪が降り始め、防寒具をつけなければ寒くなってくる。
「ストームさん、この毛布を足に掛けてください」
 クッコロが大袋からモッフモフの毛布を取り出してストームに手渡す。
 それを受け取って足に巻きつけるように乗せると、途端に足元が暖かくなって来た。
「さんきゅ。これはあったかいな。なんの毛皮だ?」
「カナワグマですね。カムイの山でよく見る奴ですよ」
「へぇ。そんなものがあるのか」
「ええ。大体一頭のカナワグマを捕まえるのに、大人が、六人ぐらいでなんとかいけますね。冒険者ですと、Aクラスが六人で」
「まあ待て。それはすでにモンスターだぞ?」
 簡単に言うクッコロだが、考えてみるととんでもない。
 カムイの人々は普通にAクラス冒険者がゴロゴロしているということだ。
「そうなのか?まあ、そんなに難しく考えたことはないのですけれどね‥‥と、ありゃ?」
 馬車の速度がゆっくりしてくる。
 街道の前方が木造りの壁によって塞がれている。
 辛うじて馬車が通る程度の門は作られており、その横の小屋からは馬車が近づいて来たのに気づいたらしい門番が出て来た。
 やがて御者台に座っていたクッコロの元にやってくると、なにやら話を始める。
「ここから先は現在は通行止だ」
「はぁ?私たちカムイに戻らないとならないのですけれど?」
 一方的に話をする門番。
「ダメだダメだ。ここを通すと俺たちが怒られるとっとと戻ってくれ」
「戻れって‥‥ここはグラシェードの主要街道、まだシュトラーゼ王国領内ですよ?貴方達はなんの権限があって」
「そのシュトラーゼ王の命令だ。これ以上ゴタゴタと抜かすと、ただでは済まさんぞ」
イライラしながらクッコロに叫ぶ門番だが。
「全く‥‥」
 やれやれという表情でストームが馬車から降りる。
 すると門番の一人がストームの方にやって来る。
「なんだ貴様は?我々はアンダーソン陛下の命令でこの街道を封鎖している。文句があるのなら直接王城に向かいたまえ!!」
「あ、成る程。なら直接王城に行って話するので。俺たちを通さなかったということで、君たちは多分クビになるけど構わないね?」
 チラチラと|魂の護符(プレート)を取り出して見せるストーム。
 その輝きは、離れていてもはっきりと分かる。
「そ、それは‥‥王族のゴールドカード‥‥ちょっと拝見させてもらって宜しいでしょうか?」
 突然掌を返すと、丁寧にストームに告げる。
「ほらよ、あんまりこういうのは好きじゃないんだが、先日あんたのいうアンダーソン陛下とも会談を行ったばかりだ」
「ウィル大陸の国王様でしたか。これは大変失礼を‥‥」
 必死に頭を下げる門番。
 すると奥の詰め所から次々と護衛の騎士達が慌てて飛び出して来ると、ストームに敬礼する。
「さ、どうぞお通りください。あの、我々の事は陛下には‥‥」
「ああ、言わないから心配するなって。それじゃあ通してもらうよ」
 それだけを告げて、ストームは馬車に戻る。
 やがて門が開くと、騎士達は街道の左右に整列してストーム達を見送っていた。
「あ、あの、ストームさん?」
「いいよストームで。おれは旅の剣豪ストームだから」
 半分引きつった表情のクッコロに、ストームは笑いながらそう告げる。
「あ、そう?それならいいや」
 クッコロもなんとなく理解したらしく、笑いながらストームに返事を返した。


 暫くは何事もなく街道を進む。
 寒冷地でのモンスターの襲撃はそれほど多くはない。
 冬眠から偶然目覚めたモンスターが食料を求めて徘徊する程度で、モンスターも人間のテリトリーに意味なく侵入する事は殆どない。
 3日もすると、マチュアから教えてもらったニシコタンまでストームたちはやってくることができた。
 偶然、どこかの騎士達が食料の買い付けに来ていたらしく、ストーム達は村の入り方あたりで馬車の中に乗って待機していた。
「あの国章は東のフォースロットですね。結構強権政治をしている軍事国家ですよ」
 馬車の中からそーっと外を観察していたクッコロが、ストームに説明している。
「へぇ。こんな所まで食料を買いに来ているのか。なんで?」
「カムイの隣国に対しての軍事条約ですよ。カムイの地に軍を率いて来る場合、カムイの地の生き物を殺してはならない。それがたとえ鹿や猪一匹でも、魚一匹でも。食料は全てコタンで買い求める事ってね」
「その条約と引き換えに、奴らは軍隊を派遣できるっていうことか。よくそんな条約がまかり通っているな?」
 そのストームの言葉には、クッコロもブスーッと頬を膨らませている。
「古き時代に、カムイがカムイモシリからやってきてそう取り決めたのよ。その時もインカルシペの永久氷壁が溶けたからね‥‥あんな風に、カムイシュネが灯っている日は、インカルシペにカムイが来て外を見ているのよ」
 遥か眼前にそびえる巨大な永久氷壁。
 その中腹あたりにぼうっと灯っている灯を指差しながら、クッコロが説明している。
 だが、その単語の羅列に、やはりストームもチンプンカンプン。
「あー、済まない。そもそも俺はこの土地の言葉もわからないんだ。簡単に説明してくれるか?」
 その言葉に、クッコロは口元に手を当てて慌てている。
「ご、ごめんなさい。えーっと、カムイは神様、カムイモシリはインカルシペの神殿の向こうにある神々の世界ね。カムイシュネは、神様がこちらの世界を覗き見る為に灯している灯よ」
「という事は、インカルシペはあの山か‥‥その周りを巨大な永久氷壁が取り囲んでいると」
「そうそう。その氷が溶けるというのを、以前話をしたアジンって言うカムイに狙われているのよ」
 そんな事を話していると、コンコンと馬車の扉を誰かがノックした。
「⚪︎×◯△×◾️!!」
「わっ!!会話が分からん、ちょっと待てよ」
 ストームは慌ててウインドウを展開すると、急ぎGPSコマンドで自動翻訳を起動する。
「あー、あー、ですです。ですじゃねーよ、テステス!!」
「ん?君はなにを喋っているのかな?私たちの言葉が分かるかな?」
 そう話しかけていたのは黒いロングコートを着た女性騎士。
「あ、大丈夫ですよ」
「そうか。それで、君たちはどこの国から来たんだね?」
「ウィル大陸からの冒険者だが。今は旅の途中で、ここで食料を補給するのに立ち寄っただけだ」
 ストームはそう話しながら冒険者カードを差し出す。
 それを受け取った騎士は突然かしこまり、ストームに一礼する。
「貴方は|先導者(ヴァンガード)でしたか。これは失礼した。もし我が国に立ち寄るようなことがあれば、是非一度お手合わせをお願いしたいのですが」
「まあ、いずれ機会があればな。では買い物に向かうとするか」
 そう話して馬車から降りるストームとクッコロ。
 すると、女性騎士はクッコロの姿を見てふと頭を傾げる。
「君はカムイの人かな?もし宜しければ名前を教えて欲しいのだが」
「私はクッコロという。残念だが貴方達のように身分を証明するものを持ち合わせてはいない」
「そう、それは失礼した。では良い旅を」
 ニコリと笑う女性騎士に、クッコロも微笑んで頭を下げる。
 そして女性騎士が仲間達とともに街道に向かうのを確認すると、ストーム達も馬車をニシコタンの中に進めることにした。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 ニシコタンの中までやってくると、数名の大人の男性がストーム達の馬車に近づいてくる。
「そこで止まってください。貴方達も食料を買いに来たのですか?」
 ひとりの恰幅のいい男性がストームに声をかけた。
『私たちはこの先のチュプカムイコタンに向かう所です。久しぶりのカムイに帰ってきました』
 クッコロがカムイの言葉でそう挨拶すると、先ほどまでは無表情だった男達も笑いながら話を始めた。
『なんだ、カムイの民か。お帰り同胞よ』
『ええ、こちらは私の護衛の|ルヤンペ(ストーム)。ウィルの冒険者です』
『そうかそうか。なら二人とも来なさい』
 そう話しながらストーム達を呼ぶ男達。
「クッコロ、なんで俺の名前がルヤンペなんだ?」
「なんとなくカムイっぽいでしょ?ルヤンペはカムイを駆け巡る風の神様よ。レラカムイとも言うわ」
 その名前は勘弁してください。
「お、おう。ルヤンペでいいわ」
「じゃあ行きましょう」
 そのままクッコロに手を引かれて、ストームは集落の奥へと向かうことにした。

 やがて一番大きい家から、これまたしっかりとした体躯の男がやってくる。
「公用語は理解している。ようこそニシカムイへ。私がここの長を務めるイァンクという」
「カムイの言葉で大丈夫だ。俺はストーム、カムイの名前でいうならルヤンペという」
 自動翻訳でカムイの言葉にするストーム。それにはイァンクも驚いている。
「ほほう、カムイの言葉を自在に使えるものは久しぶりだな」
 そう返事を返されると、ストームはふとマチュアから教えららたことを思い出した。
「そうかそうか、ニシカムイのイァンクさんか。マチュアから話は聞いている」
「おお、貴方はマチュアさんをご存知か」
「俺の相棒だ」
――パーン
 左腕で力こぶを作ると、そこをパーンと叩くストーム。
 その返事に納得したイァンクは、ストームを抱きしめると背中を軽くパンパンと叩いた。
「イランカラプテ!!」
 カムイの最高の挨拶を告げられたストームも、優しく笑いながら
「イランカラプテ」
 と返した。
「さて、友よ。君たちも食料を買いに来たのかな?」
 イァンクがクッコロに問いかけると。
「私たちはインカルシペに向かうためにやって来ました」
 きっぱりとそう告げたクッコロ。
「な。なんだと?それは危険だ。今のインカルシペは、あちこちで各国の軍隊が監視の目を強めている。迂闊に近づくと殺されるぞ」
 イァンクはクッコロを諭すように告げるが。

――ジャラッ
 と、クッコロが懐から骨と木片で作られた綺麗な飾りを取り出した。
「どうしてもカムイモシリに向かう神殿に行かないといけないのです」
 その飾りを見たイァンクは、暫く目を閉じて何かを考えている。
 やがてパン、と膝を叩くと、大きく頷いた。
「神官の一族が戻ってきて、インカルシペに向かう。ならば断る理由はありませんね。私たちに何かお手伝いすることはありますか?」
「一晩の宿をお願いします。それだけで十分です」
 スッと頭を下げるクッコロ。
「頭をあげてください。カムイの民はみな家族です」
 イァンクはクッコロとストームに顔を向けてそう話しかける。

――ゴドッ
 やがて、話が終わるのを待っていたイァンクの妻が、鍋とパンのようなものを持ってくる。
「話が終わったようですので、食事にしましょう?」
「おお、そうだな。ルヤンペもどうぞ。私の妻の作る鍋は最高ですよ!!」
「では、折角ですので‥‥ご相伴に預かります」
 新鮮な根菜と肉団子の汁物。
 肉団子はこの森林で取れる鹿の肉、そして根菜は此処から南の集落で栽培しているものらしい。
それをたらふく食べると、ストームとクッコロは離れにある小屋で一晩過ごすことにしたのだが。

‥‥‥
‥‥


 ゴドッ
 深夜。
 何者かが小屋の扉を開こうとしている。
「‥‥タダでは済まないと思っていたが、やっぱり襲撃か。クッコロ、起きろ‥‥」
 扉を睨みながら、右手でクッコロを揺さぶる。
――ユサユサッ!!
「はぅ!!」
 突然飛び起きるクッコロ。
 そのまま両手で胸を隠すと、ストームをじっと見る。
「今揉んだでしょ?」
「誰が揉むか。ぶつかってもいないわ、それよりも敵だ」
 瞬時に侍の装備に換装すると、周囲の気配を感じ取る。

(2‥‥3か。左右の窓に一人ずつ、入り口が一人だな)

 横で怯えているクッコロに、ストームは指で方角と数を示す。
 それにコクコクと頷くと、ストームはそーっと入り口に向かって近づく。
――カチャツ
 刀を上段に構え、そして扉に向かって力一杯叩き付ける。
――ドゴォッ
 その一撃で扉が吹き飛び、その後ろに立っていた騎士までも後方に吹き飛ばされた。
「正面だ!!男は殺しても構わない、女は無傷で捕らえろ!!」
 聞き覚えのある声が正面から聞こえてくる。
 そちらを見ると、集落のあちこちに篝火が灯されている。
 そして集落の人々が縛り上げられて、そこに座らされていた。
「ご丁寧に、音を出さないように革鎧でしたか。しかし、何故俺たちが狙われているのかなぁ?」
 ストームがあえて問いかけて見る。
「しらばっくれるな。その女が月の一族の者だというのは知っている。素直に差し出せばよし」
 じわじわと周囲を固め始める騎士達。
 だが、ストームは慌てず騒がず。
「なんでバレたかなぁ」
 そう呟きながら、バックに手を突っ込む。
 だが、女性騎士は耳をトントンと叩くと。
「月と太陽の紋様の刻まれた|ニンカリ(イヤリング)をつけていれば、いやでも気づくだろうさ」
 その言葉に、クッコロはハッとしてニンカリを手で覆った。
「おーまーえー。なんでそんなものご丁寧に着けているんだよっ!!」
「これは駄目だ、母上が着けてくれた形見だ。外せるものか!!」
「ふざけるなよ。追われているっていう自覚がないのかよっ」
――ブァサッ
 叫びながらバックから絨毯を引っ張り出すと、ストームはクッコロを抱き抱えて飛び乗る。
 そして慌てて上昇するが、同時に大量の矢がストーム達に向かって飛んでくる。
――シュシュシュガギイッ
 全てを躱していたストームだが、矢と同時に飛んできた細いツララが耳のイヤリングに直撃し、破壊した!!
「やっべ!!」
 そう叫ぶがすでに時遅し。
 取り敢えず一気に上昇すると、ストームは宵闇の中に姿を消した。
「明日の昼までに女を連れてこい‥‥もし連れてこなかったら、この集落の人間を皆殺しにする!!」
 その声だけが、周囲に響き渡っていた。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
 

「ストームさん、すぐに戻ってください。あの集落の人たちを巻き込みたくないです!!」
 ストームにすがりつくように叫ぶクッコロだが。
「それで、お前はあいつらを連れて神殿に向かうのか?」
「‥‥ですが」
「全く。ちょっと待ってろ、いまいい作戦考えるから」
 その場でゆっくりと目を閉じると、まずは絨毯の周囲に火の精霊による『|耐冷防護膜(レジストコールド)』を発生させる。

(さて。このパターンのお約束は、救援を手伝ってくれる相棒が‥‥無理かぁ)

 イヤリングがなければマチュアには連絡がつかない。
 そして神殿も聖域もないので、ストームの転移も使えない。
 となると、この戦力だけで行くしかない。
「なら、俺が一人で突入して、全員を救い出すだけか。それなら何とかなるから、それでいいよな?」
「なっ、何を言っているのですか?あの軍勢相手に一人でなんてできるはずないじゃないですか」
「まあ話を聞け。作戦は難しくない。俺が一気に飛び込んで、人質を全て助け出しておしまい。簡単だろう?」
 実に脳筋パワーである。
 が、細かい部分の説明をするときりがないので、ざっくりとこんな感じなのである。
「簡単というか、作戦でも何でもありませんよ」
「まあな。じゃあ行ってくるわ」
 そう告げながら、ストームは魔法の箒を取り出して跨ると、絨毯をその場で固定した。
「わ、私はここでいいのですか?私は行かなくて良いのですか?」
「その結界はある程度の強度も兼ね備えている。まあ、朝までには戻るから心配するな」
 そう告げると、ストームは村から離れた場所まで飛んで行った。

「さーてと。此処からが勝負だな。クラスリンクの変更。メインを英雄に、サブに精霊師と盗賊をセット」
 次々とウインドウで設定を変更すると、装備もボルケイドレザーの鎧一式に切り替える。
「武器は‥‥これで良いか?」
 空間から一振りのミスリルソードを引っ張り出すと、それを腰に下げる。
 あまり強力な武器だと、手加減しても殺しかねない。
 それに万が一の時でも、換装すれば武器は瞬時に付けられる。
「では、まずは数の確認と。『闇の精霊リアーケ。我が元に集いて力となれ』‥‥ひいふうみい‥‥五体か」
 ストームの周囲に人の姿をした影が現れた。
 精霊魔術でも上位の『|闇精霊使役(シャドゥサーパント)』である。
「さて。この先の村の様子を見てきてください。もし縛られている人たちがいたら、こっそりとロープを切ってください」
 その言葉に影たちはコクリと頷くと、闇の中にスッと消えて行く。
「次は俺か。『漆黒なる闇の精霊よ、我が身を包みたまえ』」
 スッとストームの姿が闇と同化する。
 そのままゆっくりと集落へと歩いて行くと、ちょうど影の精霊たちがストームに集う。
『オッ‥‥オオオッオッ‥‥』
(ソトノハオワラセタ。ナカハマダダ)

 まるで地の底から響くような声だが、使役者であるストームには理解できるらしい。
(了解。イァンクは、あそこか)
 ゆっくりと木陰に縛られているイァンクの元に向かうストーム。
 そして後ろの木の影に回り込むと、イァンクに聞こえる程度の小声で話しかける。
『イァンク、ストームだ。縛ってあるロープは切れ目を入れてある。俺が騒ぎを起こしたら小屋に向かってくれ』
「なっ!!わ、分かった」
 一瞬だけ動揺したが、すぐにイァンクはコクリと頷く。
 小屋の方を見ると、影たちは小屋の中に潜り込んで行くのが見えた。
(マチュアがゴーレムを使う理由がわかるわ。まあ、俺はこれでいけるからいいか)
 そう考えると、ストームは周囲で警戒している騎士たちの数を確認する。
(小屋が三つ、その前にそれぞれ二人。焚き火の周りに四人、奥の馬車に待機しているのが4人か。あのねーちゃんは馬車で休憩ってところかな)
 全体の人数を確認すると、まずは馬車の4名を捕獲することにした。

――フッ
 ゆっくりと屋根と共に馬車に近づく。
 そして中をそっとま覗き込むと、どうやら仮眠をとっているらしく馬車でうたた寝している。
 だが、あの女性騎士の姿は見当たらない。
(‥‥眠りの精霊ミント。この4名に深き眠りを与えたまえ‥‥)
 スーッと全身30cmほどの白い妖精が姿を表わすと、馬車の中にスッと入っていく。
 そして馬車の内部を虹色の霧で覆い尽くすと、再びでてきてストームに|親指を上げ(サムズアップ)て合図した。
「さて、それでは‥‥」
 ゴソゴソとバッグからロープを取り出すと、それで中の4人をがっちりと縛り上げる。
 口にもがっちりと猿ぐつわを噛まし叫べないようにすると、そのまま馬車の中に放り込んでおいた。
「あと10人か‥‥そんじゃあ本気だすとするか」
 そう呟くと、そのまま焚き火に向かって歩き出すストーム。
 未だ全身に闇を纏っているので、それがストームだとは誰も気が付かない。

――ユラーッ
 突然闇から現れたストームに、焚き火で警戒していた4人の騎士は慌てて抜刀するが。
――ヒュンッ‥‥トゴドゴッ
 素早く背後に縮地で飛ぶと、4人に向かって同時に『|麻痺の一撃(スタンアタック)』を叩き込む。
 正確には、連撃型のスタンアタックなのだが、4人に向かってほぼ同時に、的確に急所に一撃を叩き込むことなど、ストーム以外では出来ないであろう。
「クブブッ‥‥」
 口から泡を吹き出し、白目を剥いて崩れ落ちる騎士たち。
 その異変に気がついたのか、小屋を警備していた騎士のうち二人が慌てて駆けつけてくるが。
「おう、そろそろ時間切れか?」
 スーッとストームの周囲の闇が消えて行くと、ミスリルのフルプレートに換装したストームが姿を現した。
「きっ、貴様、いったグフフブッ」
 叫ぶ間もなく、騎士の腹部に一撃を叩き込むストーム。
 鎧が激しく凹み、みぞおちの部分が変形してくぼんでいる。
「おう、鎧がなかったら即死だな‥‥さて、残りは五人か。イァンク、済まないがそいつらも縛り上げておいてくれ」
「あ、ああ。あんた、ストームか?」
 そう問いかけてくるので、鎧の面あての部分を上に上げる。
「そうだが? 俺がなにか別の人間に見えるか?」
「い、いや‥‥そんな重装備で、まるで風のように‥‥そうか」
 何か納得したらしいイァンクとカムイの男たちは、自分が縛り上げられていたロープで騎士たちを縛り上げると、近くの木陰に横たわらせた。
「あっちの小屋は俺達で何とかする。ストームさんはそこの小屋を頼みます」
「ああ、素手でいけるのか?」
「大丈夫ですよ。では」
 そう告げてから、イァンクたちは素早く騎士たちに向かって接近すると、そのまま鎧の頭に向かって拳を叩き込んだ!!
――ドッゴォォォォォッ
 いい音が響き渡る。
 さすがにその音には、ストームの向かっていた小屋の騎士二人も反応して身構えたが。
「済まないな、こっちも本気でやらないと不味いのでね」
 素早くミスリルソードを横に構えると、すかさず横一閃で斬りつける。
「ご存知っっっっバースト無限刃っっっっ」」
 また距離はあったものの、範囲型・対物破壊技を食らったので只ではすまない。
――バッゴァァァァァァァァン
 一撃で全身の鎧全てが吹き飛び、さらに衝撃で後方の小屋に全身を叩きつけられた騎士たち。
「意識があるのなら、早いところ着替えを探しな。馬車には積んであるんだろう?」
 それだけを告げると、ストームはゆっくりと小屋に近づいていく。
「これで10名全員だが‥‥」
 未だ、ストームは残り一体の的に存在を見逃していない。
 小屋に近づいて、はっきりと理解した。
 あの女性騎士は、この小屋の中に隠れているということを。

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