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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ
バイアスの章・その11 貴族の話は面白いっぽい
しおりを挟むセシールの拐われた後を追跡していたポイポイが襲撃を受けてから。
雇われていた暴漢達を撃破して、馬車で逃げていた貴族を追いかけまくっていたポイポイは、ついに貴族たちの馬車に追いつき無事に馬車を止め‥‥止まるまで待っていた。
「た、頼みます。私は只の御者で、金で雇われていただけです」
必死にポイポイに命乞いをする御者。
その言葉をウンウンと聞きながら、ポイポイは傍らに寝かせた貴族の意識が戻るのを待っていた。
「大丈夫っぽい。御者さんの話は信じるっぽいよ。それよりも、まだ意識が戻らないとは‥‥」
ジーッと貴族を眺めるポイポイ。
すると時折、瞼や頬がヒクヒクと動いているのに気がついた。
「うーん。意識が戻らないのなら仕方ないっぽい‥‥もし意識がないふりをしているのなら、とっとと起きるっぽいよ」
そっと近づいて、再度話しかけてみる。
だが、反応はない。
「駄目ですね。意識がありません」
御者も頭を左右に振りながら、そう告げる。
ならばと、ポイポイはゆっくりと立ち上がった。
「御者さんは馬車に乗るっぽい。そこの貴族はここに捨てていくっぽいよ。ここは寒いからはやく温かいところにいかないと、ポイポイたちも死ぬっぽい」
そう告げながらも、ポイポイは貴族をじっと観察する。
だが、いっこうに動く気配はない。
(まだ気絶している振りっぽい‥‥)
ならばと、ポイポイは御者を馬車に乗せると、そのまま馬車を馬ごとスッと姿を消した。
忍者の『|隠蔽(ステルス)』を範囲型にして馬車を隠したのである。
そのまま御者に静かにするようにジェスチャーすると、しばし貴族を観察する。
――ムクッ
と、貴族はそーっと目を開いて周囲を観察する。
そして何も居ないことを確認すると、ゆっくりと身体を起こした。
「ふぅ。ようやく何処かにいったか。しかし、ここは一体何処だ?」
キョロキョロと見渡しても、街道筋の何処かであること以外はまったく分からない。
すでに日も暮れそうになっているので、早く何処か身体を休めるれるところを探さなくてはならない。
「‥‥確かあっちから走ってきたはずだな。なら、今頃はあいつらが追いかけてきてくれているだろうさ」
そんなことをつげながら、街道を歩き始める貴族。
――ガラガラガラッ
すると、ポイポイは馬車を走らせて貴族の横に走り込んだ。
突然の馬車の音に、貴族はあわてて振り向く。
そこには、御者台でにこやかに鞭を奮っているポイポイの姿があった。
「なんだとぉぉぉぉ」
咄嗟に街道から草原に向かって走り出す貴族。
だが、ポイポイも馬車から飛び降りると、貴族の真後ろを走る。
「そろそろ追いかけっこはお終いにするっぽい!!」
――シュンッ
素早くクナイを貴族の影に投げ飛ばす。
それは綺麗に貴族の影を縫い付けた。
「なっ‥‥これはっ」
「影縫いっぽいよ。さあ、素敵なパ‥‥いやいや、一通り白状してもらうっぽい」
そうポイポイが告げると、貴族もようやく観念したらしい。
ガクッと膝から崩れたいのだろうが、影縫いで身動きも取れない。
「分かった。その代わり命だけは保証してくれ」
「大丈夫っぽい。幻影騎士団は騎士団長と参謀さんの方針で基本は『不殺』だから」
そう説明されると、貴族も静かに頷いた。
「ああ。これで私の出世街道も閉ざされましたか。では、まずこの動かないのをなんとかして頂けますか?」
――プスッ
地面に突き刺さっているクナイを引き抜くと、貴族の体は自由になった。
その場にゆっくりと腰掛けると、やがて後ろから馬車が走ってくるのに気がついた。
「ご主人様、ご無事でしたか」
御者が慌てて御者台から飛び降りると、貴族の元に駆け寄ってきた。
「ああ。取り敢えずこんな所で話をするのはな。馬車の中でどうだ?」
パンパンと衣服の汚れを払い落としながらポイポイに告げる。
「それで良いっぽい」
「そうか。デーブ、今日はここで野宿だ。火の準備だけ頼む」
「かしこまりました。では」
デーブと呼ばれた御者は馬車の後ろの扉を開き、野宿用の荷物をいくつか下ろして準備を始めた。
その間にも、ポイポイと貴族は馬車に乗ると、一息ついて話を始める。
「さて、ベルナーの幻影騎士団、どうせ我々のことはすでに調べてあるのだろう?我々はずっと君を追跡してきた。理由も分かっていると思うがな」
懐から葉巻を取り出して火をつけると、スーツと一息いれる貴族。
「ポイポイなにも知らないっぽいよ。貴方が誰なのかも。そこから教えて欲しいっぽい」
――ガクッ
いきなり脱力する貴族。
ポイポイのペースに完全に翻弄されている。
「な、なんだと?私のこともなにも知らないというのか?」
「うん。だからそこから教えて欲しいっぽい。ポイポイは幻影騎士団の忍者で、主な任務は諜報活動と戦闘、あとは捕まえた相手から情報を引き出す拷問や尋問と暗殺が仕事っぽい」
あっさりと告げるポイポイ。
ちなみに『あとは』から後の部分は、ズブロッカとワイルドターキーに言われてそう話すようにしている。
拷問や尋問、暗殺もやればできるが、やった事など皆無である。
ゴソゴソとバッグから小さな黒い石を取り出すと、それを手の中に握り締める。
マチュアが作った、『嘘を発見する石』である。
「そ、そうか。私はカルダモンという。バイアス連邦の隣国であるソーサリアス王国の貴族だ」
――プルプルプルッ
突然、石が細かく震えだした。
カルダモンの嘘に反応したのである。
「嘘っぽい。名前はあっているけど、嘘はばれるっぽいよ」
「あっさりと見抜くか。本当に諦めよう‥‥バイアス連邦元老院に所属しているカルダモンという。サムソン辺境王国には商人としてやってきていた」
「ふむふむ」
暫くはカルダモンの話を聞くポイポイ。
途中で喉が乾くと困るので、バックからオレンジジュースの入った木製のピッチャーを取り出すと、マグカップに入れてカルダモンに差し出す。
話によると、カルダモンは他国に商人としてやって来ると、物価や流通についての情報を集めていたらしい。
特にバイアス連邦にとって益になりそうな商会や、その町に居を構えている冒険者などとも交流を持っては、バイアス連邦に来ないか声をかけていたそうだ。
「それで、なんでポイポイを襲ったの?」
「貴方がニアマイアー領から飛び出して、ベネリ殿が通った道筋を辿り始めたからだ。ベネリ殿の件については元老院でも干渉しないという決定事項があるのだが、道筋を追いかけるものがあるとなると、ベネリ殿が不利益を被る可能性があるからな」
ほうほう。
聞いてもいないことを次々と話しているのは、やはり嘘をつくと見破られるという恐怖感からであろう。
「それで、そのベネリって言う人はだーれ?」
「バイアス連邦第一皇太子ですよ。クフィル王と意見の相違があって何処かに出て行ってしまいましたが。私もまさかこんな辺境で見かけるとは思いませんでしたから」
ここまでの話では、カルダモンは嘘は言っていない。
やがて日が暮れ始めた時、馬車に向かって駆け寄って来る二頭の馬がいた。
――ヒヒィィイン
速度を落として馬車に近寄りつつ、中に乗っているカルダモンに声を掛ける。
「カルダモン卿、ご無事でしたか?」
「先程はとんでもない失態を。ですがご安心を、今度見かけたら必ずやあの女を仕留めてみせます」
「ぽい?」
ヒヨコッと馬車の窓からポイポイが顔を出す。
「うわっ、で、出たな女っ!!」
「そこから出てこい。正々堂々と勝負してもらおうか!!」
カルダモンが人質に取られていると勘違いした男たちが、威勢良くポイポイに叫んでいる。
そして馬から降りると、ふたりとも得物を取り出して身構えた。
「ポイポイが勝ったらどうするっぽい?」
「その時にはなんでも言うことを聞いてやるぜ。さあ、だから馬車から出てこい!!」
そう言われると仕方がない。
ポイポイは馬車から降りると、クナイを逆手に握って身構えた。
焚き火の前で、ポイポイはあったかいスープを飲んでいる。
晩御飯は干し肉を根菜と煮込んだスープと固いパン。
ヤギの乳から作ったチーズをフォークに刺して焚き火で炙る。
とろーりと溶け始めたチーズをパンに乗せて力一杯噛み切る!!
サクッとトローリの二つの食感が口の中に広がって、ポイポイは大満足である。
「ポ、ポイポイさま、スープのおかわりはいかがですか?」
顔中を真っ赤に腫らした男がおずおずと問いかける。
その横では、頭に包帯を巻いている男がカルダモンにスープを差し出している。
勝負は一瞬で終わった。
目に見えない速さでポイポイが拳による乱打を二人に浴びせただけである。
実力差を目の当たりにした男たちは全面降伏し、ポイポイの召使いとなっていた。
「お二人もバイアス連邦の人っぽい?」
「い、いや、俺たちはラグナ・マリアで雇われて」
――プルプルプルッ
懐の石が小刻みに震えるら
「嘘っぽい。カルダモンさん、この人たちはバイアスの騎士?」
唐突にカルダモンに問いかけるポイポイ。
「いや、私の屋敷で雇っていた護衛士です。冒険者で、いつも任務の時にはついてきています」
素直に説明するカルダモンと、ばつが悪そうにそっぽを向く男たち。
「ふぅん。ポイポイを殺そうとしたことはもういいや。カルダモンさんたちは、このあとどうするの?」
「‥‥どうもこうも、今更バイアスには戻れませんよ‥‥」
ふぅ、と溜息をついてうなだれるカルダモン。
だが、ポイポイは全く気にしていない。
「どうして戻れないっぽい? 国家的機密を暴露したわけでもなく、情報屋で聞いて手に入るぐらいの情報しかないっぽいよ?」
「確かにそうですけれど‥‥」
「別に、ポイポイはあなた達をどうこうするつもりはないっぽい。だから気にしないで今まで通り仕事をしていいと思うっぽい」
「そうはいうがなぁ。極秘裏に国にやってきて情報を得ているのに、潜伏した国の騎士団にバレバレで続けられると思うか?」
そう告げている男にポイポイはコクコクと頭を縦に振る。
「ポイポイが探している情報じゃないから、別に報告する義務はないっぽい。むしろベネリっていう人を追いかけないといけないから、ポイポイはこれ以上あなた達を相手にはしていられないっぽいよ」
残ったスープを一気に飲み干すと。ポイポイは荷物を背負って箒を取り出した。
「それじゃあ先を急ぐからこれで失礼するっぽい。またどこかで会えたら、その時は色々と話しを聞かせてねー」
そう告げてから、ポイポイは急ぎ箒で飛びはじめた。
その姿をキャンプで見上げているカルダモン達。
「どうしますか? 俺たちの動向は全てバレていますが、このまま続けます?」
「そうだなぁ。殺されても文句は言えなかったのだが、こうもあっさりと解放されると毒気が抜けるな。明日になったらサムソンに向かうとしよう。今まで通りだ」
それで話はまとまったらしい。
カルダモンたちは、これからの事を考えながらゆっくりと身体を休めることにした。
○ ○ ○ ○ ○
深夜。
月明かりが街道横の草原を照らす。
地図に残っていた焦げ跡で記された道は、もう少し先まで続いている。
「‥‥時間を短縮するっぽい!!」
高度を上げて、同時に速度も上げていく。
いくら急いで逃げていても、夜には身体を休める必要がある。
それを見越して、この日は高速で追いかけていったが。
地図に記されていた到着点はまだ深い森。
その日も街道まで戻って、宿で一晩身体を休めるポイポイ。
そして翌日、夜中に作った地図に|燃え盛る道(バーニングロード)を発動して地図を見る。
「おおおおおお。海の向こうっぽい‥‥」
地図では、焼け跡はマクドガルの街を抜けて、海に向かって伸びていた。
「こ、これは‥‥海を追いかけるっぽい?」
とりあえずは箒にまたがって飛び始める。
夕方には無事に何事もなく港町にたどり着いたが、やはりここから海の向こうに焼け跡は伸びている。
「とりあえず報告っぽいよ‥‥」
そう呟いて、ポイポイも耳についている|通信用水晶球(トーキングオーブ)に指を当てる。
――ピッピッ
「こちらポイポイっぽい。ウォルフラムさーん、海に着いたっぽいよ」
『海? どこの海ですか?』
「サムソン北東、旧マクドガル領の港町っぽい。ここから海に出て移動したっぽいけど、どーしよー」
『海の向こうか。ポイポイの能力で何処まで追いかけられる?』
「陸じゃないから、一晩で地図が作れなくなってお終いっぽい。海路を確認して大きく陸路で追いかける事はできるけど時間かかるっぽいよ?」
『そうか。なら、ポイポイの出来る範囲で、危険でない手段を考えて、追跡を続けて下さい』
「りょーかいっぽい!!」
――ピッピッ
通信を終えたポイポイは、地図に記されている焦げ跡を参照しながら、海岸線を慎重に飛んで行くことにした。
焼け跡によって出来る道が真っ直ぐ海の向こうに伸びていれば追跡は不可能だが、僅かでも斜めならばまだ追跡は可能と考えたのである。
そしてその方法は正解であったらしく、数日後には焼け跡の角度が変化しなくなっていた。
ポイポイの箒の追跡速度と、船の速度がかなり追いつき始めているように感じられる。
だが、それでも最初から考えるとかなり時間が経っている。
「すこし無理してでも追いかけるっぽいよ~!!」
叫びながら箒を操るポイポイ。
やがて箒はシュツルム王国の領内に突入していった。
○ ○ ○ ○ ○
マチュアがバイアス連邦王都の魔導騎士団に見学にきた翌日。
騎士団詰め所では、異様な雰囲気に包まれていた。
「‥‥どうしてもですか?」
第二騎士団長のサラスが、目の前の席に座っている騎士に問いかけている。
「ああ、これは急務なのだ。クフィル陛下の命令でもある。第二騎士団から3名、急ぎ第一騎士団に編入とする。今日中に3人選抜してうちの詰め所まで来るように伝えてくれ」
「なあランディ。半年前にもうちから二人、第一騎士団に編入したばかりではないか。暫くは彼らを見ていないが、何処で何をしている?」
「遺跡発掘の護衛騎士兼解析担当として同行して貰っている。また新しい遺蹟が見つかったので、そこに回す人材がほしいんだ。解析については、第二騎士団が適切だろう?」
そう問われると、サラスにも断る理由はない。
――カツカツカツカツ
軽快に階段を上がってくるマチュア。
そして登りきったところで、威勢よく挨拶をする。
「おはようございます。見学二日目ですが、どうぞよろしくお願いします」
丁寧にそう告げると、マチュアはまた棚に向かってあるきだすと、まだ解析の終わっていない魔道具を幾つか手にとってテーブルに向かう。
「‥‥あいつはなんだ?」
「ああ、フリードリッヒ魔導学院からきた見学者だ。白衣の魔術師だが」
「ほう。なら一人はあいつで決定だ。書類を纏めて今日中にこっちにくるようにしろ」
ニイッと笑いながらサラスに告げるランディ。
「バカを言うな、あの子はまだ学生だぞ。正式な騎士でもないものを第一騎士団に配属するなど、不可能にきまっている」
「それをどうにかしろ。なんなら略式でもかまわないから騎士団に入れてしまえ。白衣のローブなど、この第二騎士団でもそうそういない筈だ」
それだけを告げて、ランディはマチュアの元に歩いてくるが。
(声大きすぎ。聞き耳立てるだけでまるっと聞こえているじゃあないですかー)
何も聞こえていないようなふりをして、マチュアは魔道具を弄っている。
「ちょっと失礼。少し話がしたいのだがいいかな?」
それだけを告げて、ランディはマチュアの前に座る。
「はあ。構いませんが」
「それは助かる。俺はランディ・マーカス、第一魔導騎士団の副団長を努めている」
丁寧に挨拶をしてくるランディに、マチュアは静かに頭を下げる。
「もし君が望むならば、我が第一騎士団で君を受け入れできるように便宜を図ってあげよう。どうだ?」
「誠に申し訳ありませんが、騎士団に興味がないので‥‥」
と素早くお断りを入れるマチュア。
その言葉にウンウンとにこやかに頷いているが、断られたと理解すると表情が険しくなった。
「な、何故断る? バイアス連邦の臣民ならば、騎士団に入団して国のために尽くすのが本望では無いのか?」
「あの、私はラグナ・マリアの人間ですので、バイアスの騎士団に入団して尽くすことはありませんが」
「ラグナだと? 敵国の魔術師がどうして此処に出入りしている!!」
「敵国ではないでしょ? 別に宣戦布告しているわけでもありませんし」
「煩いだまれ!! ラグナの人間はいつもそうだ。減らず口を叩いて我らがバイアスの地を奪っていったくせに、ここから出て行け!!」
激昂して叫ぶランディ。
(あ~。これは自国を愛する心が強すぎて、周りのことはを聞かないタイプですか)
ならば、これ以上ここにいると危険とマチュアは判断した。
ゆっくりと立ちあがると、マチュアはサラスの方に歩いて行く。
「どうも、私が此処に居ると皆さんにご迷惑が掛かりそうですのでこれで失礼しますね‥‥短い間でしたが楽しかったです」
「ランディがすまなかったな。マチュアくんなら何時でも遊びにきてくれて構わないぞ。ランディにはあとでキツく告げておくからな」
「はい。それでは失礼します」
そう話してから腕章を外してサラスに手渡すマチュア。
「まて、まだ話しは終わっていないぞ!!」
「私は貴方とは話ししたくありませんので、それでは失礼します」
それだけを告げると、マチュアはスーッと姿を消した。
光の魔術の応用で、自身の周囲の光を全て屈折して自分を見えなくする魔術である。
「き、消えた‥‥だと? サラス、あの女は何処にいったんだ?」
「さあのう。白衣のローブは伊達じゃないぞ。それを怒らせたのはお前じゃ。騎士団長にはこの件はしっかりと報告しておくからな」
フォフォと笑いながらサラスも階段をゆっくりと降りていった。
騎士団詰め所を後にして適当な路地裏に向かうと、マチュアはそこでスッと姿を現した。
「もう少し彼処にいても良かったんだけれどなぁ‥‥と、おや?」
ランディがやってくるまで弄っていたオーブを、握ったまま持ってきてしまっているのに気がついた。
「まあ、今度返せばいいか。さて、ここからどうするかな?」
情報収集するにも、この王都では現在ツヴァイが情報収集しているところである。
それとかち合っても気まずいので、マチュアはマチュアなりに色々と調べることにしたのだが。
「気になるのは、第一騎士団かぁ。ちょっといって見ようかな」
バッグから箒を取り出して乗ると、マチュアは道すがら第一騎士団の詰め所の場所を聞いてそっちに向かうことにしした。
幸いにも20分ほどで第一騎士団の詰めている建物に辿り着くことが出来た。
そこの物陰で再びスッと姿を消すと、そのまま建物の中に入ろうとしたのだが。
(‥‥入り口の床に記されている文様、魔術感知かぁ‥‥)
しっかりと対策をされている。
ツヴァイが言っていた事は間違いではない。
姿を消したまま入り口の近くをウロウロとしていたが、ここに入れないとなると別のアプローチも考えなくてはならない。
(モーゼルの方を先に片付けるか。あの遺蹟の地下深層だったよな)
遺蹟にとらわれているモーゼルの母親を解放する方法を探すために、マチュアは一旦王都を離れてシュミッツ領にあるスタイファー遺蹟へと向かうことにした。
――シュンッ
物陰で姿を現すと、マチュアはまっすぐに街の外に向かうために街道を箒に跨って飛んでいく。
彼方此方から声を掛けられるのには慣れているので適当にあしらっていると、やがて正門まで辿り着くことが出来た。
「魔導学院のマチュアです」
と告げながら学生証を取り出して騎士に見せる。
「ほうほう。こんな王都までご苦労さんだね。では帰り道も気をつけてね」
にこやかに挨拶をする騎士にお礼を告げて、マチュアは城壁の外に出た。
「よし、こっからは本気でいきますかぁ‥‥」
素早く箒に跨ると、マチュアは急ぎ街道から離れる。
そして森の中に辿り着くと、シュミッツ領にあるスタイファー遺蹟の近くまで転移した‥‥。
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