異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第六部・竜魔戦争と呼ばれる時代へ

バイアスの章・その3 学院内魔導抗争のはじまりですか?

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 魔導商会から出たマチュアは、ツヴァイと分かれて一旦魔導学院に戻ることになった。

 テクテクとのんびりと歩いて学院に戻ると、入り口の警備兵もマチュアの外見で顔パスで通してくれる。

「えーっと、学生寮はどちらですか?」
「あちらの建物ですね。一階に事務室がありますので、必要な手続きはそこでお願いします」
「なるほど。これは丁寧にありがとうございます」

 警備兵に頭を下げてから、マチュアはそのまま学生寮の事務室に向かうことにした。

「あのー、すいません。入寮希望です。これをお願いします」

 受付にいた女性に羊皮紙を手渡すと、事務の女性が結講年長の女性を伴って戻ってきた。

「入寮の手続きですね。ここの寮長をしていますマーサです。羊皮紙は拝見させていただきましたので、少々お待ち下さい。白衣の導師が学生寮を使うなんてここ数十年はなかったもので、今、その部屋を空けてきますから」

 そう話すと、マーサは事務の女性と共に階段を上っていった。

「ははぁ。ひょっとして階によって生徒のランクが違うのかな?」

 そんなことを考えていると。

──ドタンバタン
 突然上の階が騒がしくなる。

「あー、これはどっかの貴族の生徒が親の権力を駆使して勝手に部屋を使っていたパターンだよなぁ。そんなラノベ確かあったよなぁ‥‥となると」

 えてして、嫌な予測は当たるもの。
 次の行動の予測も付くというものである。

──ドタドタドタッ
 激しい音を立てて、予測通りに上から金髪縦巻きロールのシャルロッテが降りてきた。

「あなたですの? この私を一般部屋に押し込めようというのは。どこの誰か知りませんけれど、随分といいご身分ですこと」
「はぁ。どなたかと思ったらさっきの方でしたか」
「あ、貴方は先程の編入生。なら都合がいいわ。あの部屋は私のものよ。あなたが一般の部屋に‥‥って、それ白衣の導師のローブじゃない?」

 ようやくマチュアの格好に気がついたシャルロッテ。
 だが、そのまま階段の上で、腕を組んでふんぞり返っている。

「たかがローブの色で、魂の本質は表せないわよ。わたしは貴族の娘、この学生寮の中でももっともいい部屋を使う資格があるのよ。判ったら、貴方は一般生徒の相部屋にでもいきなさい!!」
「あのー。学生証は魂の本質を表していますが何か言いたいことはありますか?」

 困り果てたマチュアがそう説明するが、シャルロッテは聞く耳を持っていない。

「ふん。そんなカード一枚で魂の本質を表しているですって? とんだ茶番ね。私はここの貴族院の中でも最高権力を持っている議長の娘よ。つまり貴方よりも偉いのよ? 判ったら部屋を私に譲りなさい」

 あ。この子面白い。
 ここまで話を聞かない子も久し振りだ。
 そう思うと、マチュアもつい本音でぶつかってみたくなってきた。
 ニィィィッと悪い笑みを浮かべると一言。

「貴女は青いローブ、私は白いローブ。魔導学院では成績が絶対権力ではないのですか?悔しかったら赤いローブでも着れるようになってください」
「なにをおっしゃるのマチュアさん。 貴方は白いローブ、私は蒼いローブ、それに大した違いはないでしょう?」
「違うのだーーーっ」

 そのマチュアの言葉に、またしてもシャルロッテは顔中を真っ赤にして階段を駆け上がっていった。
ふと廊下を見ると、あちこちの部屋から何事かと顔を出している生徒達がいる。

「あー、どもどもー」

 ひらひらと手を振ると、あちこちの子も手を振り返してくれる。
 それに軽く会釈をすると、女の子たちも次々と部屋から出てきて階段の上を眺め始める。 

──ダダダダダダダダダッ
 どうやら上の階も話がついたらしく、マーサがゆっくりと階段の途中まで降りてくる。

「マチュアさん、こちらへどうぞ」
「あっ、はい。それじゃあねー」

 と近くの女子たちに挨拶すると、マチュアは更に上の階にある部屋に案内された。

 広さにして畳20畳。研究施設も兼ねられるようになっているらしく、しっかりとした作りの部屋に見える。
 その廊下には、シャルロッテの私物らしいものが大量に出されている。

「あのー、シャルロッテは何処に?」
「今度は隣の部屋を占拠するために部屋の子と話をしていますわ……全く懲りないというか」
「はぁ。しかし随分と自由なんですねぇ」
「ある程度は生徒達の自主性におまかせしていますけれどね」

 やれやれという感じでマーサも呆れている。
 当然ながら、マチュアは面倒臭いので無視である。

「男子学生もみんな寮生活なのですか?」
「ええ。一般学生は門限が早いのでかなり不満ですけれどね。貴女は門限はないのでどうぞご自由に。では寮内を案内しながら設備とルールをご説明します」

 そういうことで、マチュアは一通りの説明を受けたのち、自室へともどっていった。

「全く。王都潜入のツヴァイの方が楽しそうだよ」

 いつものようにティーセットを取り出して暫し一人お茶会状態に突入。

「女子寮関係のラノベはあったよなぁ。今のうちに基礎知識をつけてと」

 色々と知識を蓄えると、その日は自室で食事をとってゆっくりと休むことにした。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯ 


 翌日からは講義を受けながらターゲットのモーゼルを監視するマチュア。
 敢えてモーゼルと同じ講義を受けたりして、とにかく彼の周辺の調査を開始した。
 大体四日もあれば自ずと学院内の力関係も見えてくる。

「トップはシャルロッテと生徒会の取り巻きか。次がシャルロッテと対立しているステファニー・ジュリアーノ家の取り巻き組。男は未だ群雄割拠しているけれど、シャルロッテ一党とステファニー一党以外はあの痴漢三人組が強いのか。へぇ~」

 人物相関図を書き出した羊皮紙を眺めながら、マチュアは中庭で昼休みを満喫している。
 バックからいつものターキーサンドとハーブティーの入ったポットとマグカップを取り出し、のんびりと食様を楽しんでいた。

――スッ
「貴女が編入生のマチュアかしら?」

 気がつくと、マチュアの近くにやってきてそう話しかけてくる女性がいた。
 よくよく見ると、先ほどの羊皮紙にあったステファニーである。

「ええ。私に何かご用ですか?ステファニーさん」
「あら、私のことをもう知っていたとは光栄ですわ。実は、魔法でどうしてもわからないことがありまして。講師の先生に聞いたらマチュアさんが詳しいということで。もし宜しかったら教えて頂きたいのですが」
「構いませんけれど、ちょっと待ってて下さいね」

 急ぎ食事を終えると、マチュアはステファニーと話を始める。

「それで、何がわからないのですか?」
「魔術の詠唱構文と力のある言葉の配列についてですわ」

 要は、長ったらしい詠唱をショートカットするために単語の羅列を組み合わせる手法である。

『偉大なる英霊カムナ・マイトの名に於いて、かのものを打ち崩す燃え盛る槍を与えたまえ、槍よ、飛来してかの敵を討ち滅ぼせ』

 という詠唱の場合、キーワードは『英霊カムナ・マイト』と『燃え盛る槍』『飛来』『討ち滅ぼせ』である。
 これを更に短くすると『英霊よ。燃え盛る槍を与えたまえ、槍よ、飛来してかの敵を滅ぼせ』となるのだが、これでもまだ長い。
 言葉に力と意味を持たせるためにどんどんと単略化するのだが、これがまたうまく繋げるのは難しい。

 マチュアの場合は、『行間は思考で補え』という理屈なので、さきほどの場合はほとんど意識だけで詠唱する。
 つまり『燃え盛る槍よ!!』で終わってしまうのである。
 この配列を間違えると、魔術は全くちがうものになる。

「はわ、はいはい。そんじゃあこれかな?」

 手の中に知識のスフィアを魔術で生み出すと、それをステファニーに手渡す。

「これはなんですの?」
「今話をしていた部分の説明。言葉だと面倒なので、言葉と意思を魔力に変換したのよ。それ、取り込めるかしら?」
「やってみます‥‥はぁ、これは凄いですねぇ」

 どうやらスフィアから知識を吸収したらしい。
 素早く印を組むと、単語の羅列だけで光の玉を空中に生み出していた。

「ステファニーは、秘薬は何処に?」
「私は秘薬ではなく指輪と宝石を触媒としていますので」

 ジャラッと首から下げていたネックレスを見せるステファニー。そこには大小様々な宝石が散りばめられていた。

「マチュアさんは秘薬はどうしているのですか?」
「秘薬?要らないけど?」
「そんな事ができるなんで‥‥ぜひ教えてくださいませ」

 そう哀願されるが。
 これは教えたくない。
 なんか世界のバランスが崩れそうなのと、マチュアがスフィアで教えると簡単に誰でもできそうなのでやめた。

「大気中の魔障を集めて秘薬の代わりにするだけ。方法はまだ教えない」
「そうですか。でもありがとうございました。これで午後の追試もクリア出来そうですわ」

 ぺこりと頭を下げると、ステファニーは何処かへ走り去っていく。

「ステファニーも青ローブ赤刺繍かぁ。二大派閥のトップがどっちも阿呆ってどうよ?」

 そんな事を考えていると、ふと突き刺さるような視線を感じる。

(殺気というほど鋭くはないわねぇ)

 ふと、その視線の方を見ると、例の痴漢三人組がこっちに歩いてくる。

「白衣の導師かよ。一体どんなズルをして手に入れたんだ?」
「そのローブはな、この魔導学院では絶対的な力を持っているんだ。編入生程度がおいそれと着けていいものじゃないんだよっ」
「わかったら、とっととそれを寄越しな。それはこの俺、グースが着てこそ相応しいのさ」

──ガシッ
 そんな事を呟きながら、マチュアの肩を掴むグースの取り巻き。
 だが、マチュアは掴んで来た手首を握ると、徐々に力を強めていく。
 その痛みで肩から手を離すと、取り巻きは後ろに下がって痛めた手首を揉み始めた。

「はぁ。どうしてこう脳筋ばかりなんでしょうねぇ。グースといったわね?貴方は普段は黒のローブでしょ?頑張って成績を上げれば良いだけじゃない?」
「煩いなぁ。説教なんかは聞きたくないんだよっ」

 叫びながら術式を組み込むグース。

(あー。身体強化系かぁ。純粋な魔力勝負ではなく、力任せに来たかぁ)

「クウィル、稲妻の剣だ。バロッドは対魔法装甲を頼む」

 グースが叫ぶと、クウィルとバロッドと呼ばれた取り巻きたちが印を紡ぎ始める。

「はっはっ。この女ビビって身動き一つ取らないぜ」
「だがもう遅い。グースにたてついた事を思い出した後悔させてやるさ」

 調子に乗って煽ってくる二人。

(詠唱中に他のことに意識を割いたら、魔法の精密度が下がるだろうが。そんな事はもっと上になってからだ)

 冷静に観察するマチュア。
 やがて身体強化を終えたグースに対魔法装甲と呼ばれる付与魔術が施され、稲妻の剣と呼ばれる魔力武具が手渡される。

「もう手遅れだ。ローブをひん剥いて構内を引きずり回してやる!!」

 下卑た笑いを浮かべるグース。
 その周りでは、クウィルとバロッドも薄ら笑いをしているが。

「悪いわね。貴方達は私に指一本触れられないわよ?」
「なん‥‥だと?」

──カラーンカラーン
 午後の講義の始まりを示す鐘が鳴り響く。

「それじゃあ、私は午後の講義があるので。さようならー」

 右手をヒラヒラと振りながら、マチュアは中庭からスタスタと出ていく。
 その様子を、グース達は呆然と見ているだけであった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 午後の講義でも、モーゼルは他の生徒よりもモタモタとしている。
 秘薬の数を間違えたり、詠唱構文の配置を間違えたりと、兎に角失敗ばかりである。
 それでも講義時間ギリギリでなんとか形にはなっているので及第点は稼いでいるのだが。

「えーっと‥‥こっちの秘薬が三つと、これが二つで‥‥」

 一つ一つ数を確認するモーゼル。

(ほう、数間違えてはいないよなぁ)

 こっそりと観察しているマチュアだが。


──スッ
 一度確認した秘薬に、わざと一つ追加するモーゼル。

「これでよし。では‥‥」

 ゆっくりと詠唱を開始するが、わざと前後を入れ替えて失敗している。
 その光景が日常なのか、他の生徒は笑っているだけである。

(違う。秘薬の数を間違えるのも、詠唱失敗もわざとだ。手順にミスはないから、みんな気づいていないだけだ)

「‥‥ュア君。マチュア君。何をポーッとしているのかな?元素の結合と増幅、壇上で実践してみたまえ?」
「あ、はいはい」
 マチュアは講義室の前にある壇上に上がると。

――シュッッ
「炎よっ!!」

 素早く指先で空中に魔法陣を生み出すと、そこから小さな火を生み出す。
 さらに魔力を注いで炎にすると。

「よ、よし。君のは他の生徒が真似できないが、上を目指す者にとっては必要な知識でもある。合格だよ。次、モーゼル。前に出てやってみろ」
「は、はいっ!!」

 カツカツと壇上に向かうモーゼル。
 ちょうどマチュアとすれ違う時、パン、と、腰を軽く叩いた。

――パーン
「しっかりね!!」
(|魔力増幅発動(アンプリファイア)と‥‥)

 そっと高速で増幅魔術を付与する。

「は、はいっ!!」

 慌てて壇上に上がると、モーゼルは秘薬をモタモタと、並べて詠唱を開始する。

――プスルルルッ
 煙は上がるが炎が出ない。
 あちこちの生徒がその光景を見てクスクスと笑っているが、講師だけは真剣にモーゼルを見ている。
 やがて秘薬の間違いに気がついたフリをして、数を整えるとしっかりとした詠唱を開始する。

――ゴウッ
「うわっ!!」

 だが、発動した魔術が生み出したものは巨大な炎。
 マチュアの増幅によって小さな炎が巨大化していたのである。

「はわわわわわっ」

 突然炎が巻き上がったので、モーゼルは指で印を作るだけでそれを小さく留めた。
 丁度炎が壁に何っているので、生徒たちからは見えない。
 だが、マチュアにはしっかりと見えていた。

(無詠唱で、印のみでの|炎熱操作(ファイアーコントロール)ねぇ。これはかなりの逸材ですよぉ) 
 
 そんなことを考えていると、講師がパンパンと手をたたく。

「いつもよりも大きな炎が出来たことはいいでしょう。あとは制御ですよ」
「はっ、はいっ!!」

 慌てて頭を下げると、モーゼルは自分の席へと走っていく。
 このあとは他の生徒達も次々と壇上で実践していたが、マチュアとモーゼス以上の炎を生み出すことは誰も出来なかった。


 ○ ○ ○ ○ ○


 その日の夜。
 マチュアは寮内で食事を済ませると、そのまま自室に閉じこもっていた。

「さて。何故執拗なまでに実力を隠しているのか? いじめられっ子におどおどしている理由も分からないわねぇ‥‥」

 家柄を考えると、誰も手を出せないはず。
 それがいじめられっ子ということは、多分家柄を隠してここにいる。
 しかも魔術の実力も隠したままで、ここにいる理由が全くわからない。

――コンコン‥‥
 窓にある鎧戸に何かがぶつけられている。

「さて、まさかとは思うけれど」

 そーっと鎧戸を開くと、窓の下にはグース達三人組が立っている。
 別のまさかであった。

「なんだ、あんたたちか。一体何のようなの?」
「昼間の続きだ。降りてきて勝負しろ!!」
 本当に元気な男たちである。
「あのねぇ。まだやるのなら、今度は手加減なんてしないわよ?」
「上等だ。女に手加減なんてされても嬉しくないからねぇ‥‥」
「とっとと降りてこい。化けの皮をひん剥いてやる!」

 そういうのなら、とっとと降りていきましょう。

「なら、今から降りていくから、先に魔術で強化していなさいな」

 そう告げてから、マチュアは白衣のローブに強力な防御魔法を施した。
 そして外に出ていくと、すでに全力で戦うための準備がおわっているグースが立っていた。

「はぁ。防御効果上昇とライトニングブレードねぇ。そこまで出来るのなら素早さを上げる『風の靴』とか、実像をぼやかす『ミラーディフェンス』とかもあるでしょうに」

 やれやれと頭に手を当てるマチュア。

「ぬかせっ。いくぞ!!」 

 素早く走り込んで‥‥こない。
 そこそこに早く走ってくると、疾風‥‥には程遠い速度でライトニングブレードを振り下ろしてくる。

(冒険者強度ではEかぁ。魔法はまあD-ってところで見てあげよう)

「この一撃に耐えられるものなら!!」

──ムンズッ
 右手でライトニングブレードを掴むマチュア。

「ばっ、腕がちぎれるぞ!!」
「掌に魔力で膜を張っているのよ。貴方のライトニングブレードと同じ魔術でね。だから無理よ」

 ニィッと笑うマチュア。

「そうか。だけど、これならどうかなっ!!」

 グースの手下のバロットがマチュアを後ろから羽交い締めにする。

「おおう。これは予想外だねぇ」

 ちょっと驚いたが、マチュアはまだ余裕である。

──ミシッ
 全身に力を込めると、マチュアはバロットを力ずくで引き剥がした。

「な、なんだとぉ?」
「あのねぇ。身体強化なんて私にも出来るわよ。魔力の強度が私のほうが高いのだから、私の方が強いに決まっているでしょう?」
「な、なら、これはっ!!」

 勢い良くグースがライトニングソードで斬りかかる。
 だが。

――バジッ!!
 マチュアも旬端にライトニングソードを発動すると、大きさを両手剣に設定して受け止めた。

(ほう。スキルは一切使えないけど、暗黒騎士の剣術は使えるのかぁ)

 これは驚きの収穫である。

「さあて。かかってきなさい!!」

 そのマチュアの言葉に、バロットとクウィルもライトニングソードを生み出してマチュアに斬りかかる。
 だが、それらを全て受け止め、流すと、マチュアは余裕で三人を見つめる。

「ローブ姿に両手サイズの雷の剣。あたしゃいつからジェダイの騎士になったんだよ」
「訳の分からんことを!!」

――ビシッバシィィィィッ
 三人の攻撃をただひたすら受け止めるマチュア。
 やがて三人の疲労がピークになる。
 手にしたライトニングソードも既に魔力の消耗でダガーサイズになり、全身からは汗が吹き出して動きも遅い。

 マチュアはそんな三人を涼しげに見ている。

「こっ、こんなはずじゃあ」
「たかが編入生のくせに。いいか、親父に話を付けて、ここに居られなくしてやるからな!!」

 ようやく捨て台詞を吐いて、グースたちは男子寮へと走っていく。

「だから、偉いのはあんたの親父であんたはただの学生。それが実力で負けたんだよ。これにこりたら、もっと真面目に勉強しなさい!!」

 ブゥンとライトニングソードを振り下ろして消すと、マチュアは髪を掻き上げながら女子寮へと歩いていく。

――ワァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
 と女子寮の窓辺から割れんばかりの喝采が上がる。

「あのグース相手に勝てるなんて!!」
「凄いですわ。あいつらは親の権力を振りかざしている嫌な奴らでしたから」
「女に負けたとあっては、グースももう大きい顔をしていられませんよ!!」

 兎に角盛りあがっていたが、マチュアとしてはこの後のことが面倒くさい。

「まあまあ。きようのところは疲れているのでこれでね‥‥おやすみ――」

 と挨拶をして、急ぎ部屋に戻っていこうとしたが。

「マチュアさん、シャルロッテお嬢様がお呼びですわ」
「此方にいらしてくださいな」

 今度はシャルロッテの取り巻きがマチュアを呼びに来る。

「あのー、もう今日は疲れたので明日にして下さいと伝えて下さい。では失礼」

 それだけを告げると、マチュアは自室に魔法でロックを施すと、ベットに潜り込んでゆっくりと眠ることにした。
 暫くして扉をどんどんと叩く音もしたが、煩いから『範囲型沈黙』を扉に施して、そのまま朝まで眠り続けた。

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