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第五部 暗躍する北方大陸
北方大陸の章・その13 限界は突破するためにある
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北方大陸のさらに北方。
そこにあるカムイの集落にマチュアは訪れていた。
「先程の話で、協定というのがありましたよね?それはどんなものですか?」
草葺と木で作られた家のなかで、マチュアは部屋の真ん中にある囲炉裏にあたりながらイァンクに問いかける。
「このカムイの領土を荒らさない代わりに、インカルシペの周りに騎士団や軍を派遣しても良いと。カムイの集落には一切手をつけないことも約束した」
領土内は自由に動いてもいいという、限定的な不可侵条約のようなものだろう。
「はぁ。それで良いのですか?」
「領土を荒らさないということは、自然を荒らさない事。動植物、魔物、全てにおいて、彼らは手を出さない。食糧は本国から持って来たものか、もしくはカムイとの交易のみ。それを守っている限りは、彼らは護られる」
ウンウンと頷くイァンクと、その家族らしい女性と子供達。
カムイの風習については調べていなかったし、此処で深淵の書庫を発動するほど野暮ではない。
「そうでしたか。あと教えて欲しいのは、インカルシペの事ですが。聞いていいですか?」
「聞かれて困ることはありませんからね」
「そうですか。他国の騎士が、どうしてインカルシペの周りに集まっているのですか?」
単刀直入に問いかける。
回りくどく聞くのは苦手である。
だが、イァンクは予想外ににこにこと笑いながら。
「今年はインカルシペの結界を超えて、カモイモシリに向かう為の神殿に入ることができる。他国の者たちは神殿に安置されている『神殺しの神槍』や『神々の果実』を欲しているだけに過ぎない」
「それ、笑いながら言いますか。とんでもないことではないのですか?」
「カムイの神器はカムイにしか扱えない。幾度もそれは伝えたが、彼らは聞く耳を持っていない。だから無視している」
そこまでの話を聞いて、マチュアは暫し考える。
そして神々の果実というところで、マチュアはポン。と、手を叩いてバックパックからマルムの実を取り出した。
「あの、神々の果実ってこれでしょうか?」
マチュアが手にしている実を見た途端、イァンクが驚きの表情を見せる。
「そ、それはまさしく神々の果実。何処でそれを? いや、貴女は『選ばれた』のか?」
「はい。今年のマルムの実は私を選んでくれました。これは色々と教えてくれたお礼です」
そう話しながら、マルムの実をイァンクに手渡す。
それを受け取ると、イァンクは早速ナイフを取り出して皮を剥き始めると、家族とマチュアに分け与えて食べ始めた。
「そうか。今年は選ばれたものが出たのですか。なら、多少は警戒しないとなりませんね」
「どういう事?」
「神殺しの神槍を始め、神殿にある様々な物品は全て所有者を選びます。マルムの実が貴女を選んだということは、神殿の物品の所有権は貴女にもあるということ。貴女がもし他国に懐柔されたりしたら、その国に神々の物品を使われてしまうのです」
マルムの実の法則。
最初の所有者が他人に譲渡した場合、能力は消滅せずに留まる。
これが此処でも当てはまるのである。
「そうですか。なら、私は此処にいてはいけませんね?」
「神々の物品の所有権はシャーマンの家系と神々に選ばれたもののみです。シャーマン家はこの地にはいなく、貴女もここを離れるのならば、なにも懸念することはありません」
マチュアの言葉にイァンクが答えるが。
「はいはい。難しいことは後回しで。食事を用意しましたのでどうぞ」
イァンクの妻が鍋を持って来て囲炉裏にかける。
そこからよく煮込まれた具材を掬い取ると、木製のお椀でマチュアに差し出す。
「これはこれは。丁寧にありがとうございます」
深々と頭を下げてから、まずは一口。
――ズズズッ
濃い味噌味で煮込まれた鹿肉のようなものと、大量の根菜類。
その味わいが口の中に広がっていく。
「こ、これは‥‥」
すかさずバックパックから握り飯を取り出すと、イァンク達にも差し出した。
「これは握り飯。この汁によく合うと思いますよ」
握り飯をパクっと食べてから、汁を啜る。
その味わいや、言葉に表すこともできない。
「こっ、これはっ、美味っ!!」
「ハフハフ、ズズッ‥‥」
「あら、これは美味しいですね」
奥様のみが冷静にマチュアと話をしているが、イァンクと子供達は次々と握り飯を食べなごら汁を飲む。
「米ですよ、和国の主食です。暖かい雪のない地方でしか育たないのですよ」
「そうですか。これが育てられるのなら、いつでも美味しい握り飯が食べられましたのに」
少々がっかりしている奥様。
――ドンドン!!
と、突然扉を叩く音が聞こえる。
『イァンク、フォースロットの騎士が取引に来たんで、相手を頼めるか?』
「ああ、いまそっちにいく。マチュア、済まないが用事を足してくる」
食べかけの握り飯を口の中に頬張ると、イァンクは外に出て行った。
「あの、奥様‥‥」
「チセと呼んでください」
「では、チセさん、フォースロットとは何ですか?」
「カムイの隣国です。周辺に駐留している軍の中でも一番大きい所ですね。たまに食材を買い付けにくるのですよ」
ふぅんと返事をしていたら、チセが窓辺にマチュアを案内した。
そこからそーっと外を見ると、二十人ほどの冒険者らしいもの達が、数名の騎士と共にイァンクと話をしていた。
「話が聞こえないけど‥‥聞き耳でもきこえないかぁ~」
楽しそうに少し話をしている騎士達とイァンク。
やがて村の者達が大袋一杯に入っている食糧をいくつも持ってくると、後ろの荷馬車にそれを積み込む。
やがて代金が入っているらしい袋を受け取ると、騎士達はそのまま戻っていった。
(良かった。この流れは、食糧のみを受け取って皆殺しとかくるパターンなんだよなぁ。何もなくてよかったわ)
様々なラノベの読みすぎによる弊害。
今回は悪い方に考えてしまっていいたが、それは亡く平和に解決していた。
やがてイァンクが戻ってくると、代金の入った袋を棚に乗せる。
「マチュアさん。フォースロットの騎士が貴女を探していた。空を飛んでいる商人を見なかったかってね」
「ありゃ、それはそれは。で?」
「知らぬ存ぜぬで誤魔化したさ。あんたは大切な客人だからな」
「それは助かりましたわー、では早速商売に入りましょう。カムイの反物を売って欲しいのですが」
商人としてやって来ている以上は、商売をせにゃならん。
ならばと、反物を売って欲しいと頼み込んだ。
「ほう。細工物や獲物ではなく反物か。なら、彼方此方の家にかけ会って来てあげよう」
先ほどの袋を棚から取ると、イァンクはマチュアと共に外に出た。
そして一軒ずつ回って袋から代金を払うと、マチュアを取り次いで商売しやすいようにしてくれた。
全部で25軒を回り、集まった反物は55本。
それら全てを買い取ると、マチュアはバックパックに放り込む。
「ふう。これで色々と作れますね。ありがとうございました」
深々とイァンクに頭を下げるマチュア。
「美味い握り飯の代金だよ。では気をつけてな」
村の出口までイァンクはついて来てくれると、そこでマチュアはイァンクと別れた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
離れた、森の中からシュトラーゼのエンジ邸へと転移するマチュア。
「ただ~いまっと~」
呑気に応接間に入っていくマチュア。
そこにはストームやクリスティナ、ジョセフィーヌ、エミリア、エンジといった面々が楽しいお茶会をしていた。
「おう、おかえり‥‥と、そこでだ、目の前にやって来た浅井の軍勢を俺は睨みつけたわけだ。敵の数はおよそ1万、それに対して俺は一人。何処までやれるか‥‥」
「おおう。和国の話か。私はまた今度教えて頂戴ね」
傍のティーセットから自分で紅茶を淹れると、すぐさまマチュアは深淵の書庫を発動する。
「さてと。キーワード検索、カモイモシリと神々の世界、そしてこの座標軸‥‥と」
超高速で魔法陣が回転を始めると、マチュアはそこで居眠りを始める。
とにかく疲れているのである。
――チーン
気持ち良い音が響く。
「ふぁ?ご注文はいじょうでよろしいでふか?」
まだ眠い目をこすりながら、マチュアは停止していた魔法陣を読み取る。
「あ~予想通りの結果かーい」
記された説明では、カモイモシリと神々の世界であるエリューシオン、そして座標軸は完全に一致した。
そこで魔法陣を閉じると、ストームがクリスティナと何かを話しているのに気がつく。
「ジョセフィーヌとエンジ、エミリアは何処へ?」
「あ、起きたか寝坊助め。エミリアは買い物、エンジはその付き添い。ジョセフィーヌは厨房で仕込みだよ。今日は豚汁が食べたいぞ」
どさくさに紛れて注文するストーム。
「まあ、それは構わないが。ストーム、ちょいとツラ貸せ」
ちょいちょいと指でストームを呼ぶと、クリスティナが何が言いたそうである。
「ん?」
「あの、何処かにいくのでしたら、ぜひ私も同行させてください」
「まあ、私は構わないけど、ストーム、いいの?」
そう問いかけると。
「あ~、クリスティナはめんどくさくなったから巻き込んだ。サムソンの騎士団に加える事にしたんだ」
ざっくばらんに告げるストーム。
それで良いのかと問いかけたくなったが、自分のことを棚にあげるのもなんなので、辞めた。
「それじゃあちょいと行くとしますか」
「で、どこに行くんだ?」
「お礼参りだよ‥‥」
にこやかに告げると、マチュアはストームとクリスティナを連れてとんでも無いところに転移した。
‥‥‥
‥‥
‥
中世ヨーロッパ、ローマのような壮大な都市風景。
彼方此方に見える人々の衣服もまさにそれ。
街道筋のど真ん中に、マチュア達は立っていた。
「おおう、テルマエ・ロマエの世界だな」
周囲を見渡しながら、ストームはそう呟いている。
クリスティナはここが何処なのかというよりも、初めての転移をその身で体験して感動に打ち震えている。
そしてマチュアはというと。
「うん、座標軸ずれた。目標はあの丘の上の神殿なんだよね」
と、正面の丘の上に立つ神殿を指差す。
「あそこに何かあるのか?というか、此処は一体何処なんだ?」
「まあまあ、行けばわかるしょ。と言うわけでレッツゴー」
「どのレッツゴーだよ?」
「流れで行くと三人だから、クリスティナが三波春夫だね?」
などと分けの分からん事を話しているストームとマチュア。
そのままテクテクと歩き始める一行。
しばし観光気分で歩いていると、やがて丘の手前の巨大な階段にたどり着いた。
「この先か?」
「そう言うこと。じゃあ絨毯使いますか」
ファサッとバックパックから絨毯を取り出して、マチュアとストーム、そしてクリスティナの三人は一気に階段の最上階へと飛んで行く。
「と、飛んでるわよ、空を飛んでいるわよ~!!」
声にならない悲鳴をあげながら、クリスティナが叫ぶ。
「あ~そうか、クリスティナはこれも初めてかー」
「良かったね。これで自慢できるよ」
「それは良いのですが、本当に此処は何処ですかー」
そう問いかけると、階段の最上階にある神殿入り口にたどり着く一行。
そこには、ローマ兵のような兵士が門を守っていた。
「止まれ。此処に何の用で来た?」
「まあ、話をしにね。此処の一番偉い人に伝えて頂戴、カナンのマチュアがやって来たって」
「ほう。では此処で待ってろ」
それだけを告げると、兵士の一人が奥に走って行く。
そして数分すると、門が開き奥に二人の人物が立っているのに気がついた。
「あー、成る程なぁ。そうかそうか」
二人の人物の一人を見て、ストームも合点がいったが。
「はぁ‥‥まさか此処まで来れるようになるとはねぇ。とりあえずこっちにいらっしゃい」
「うむ。いつか会いたいとは思っていた!!」
筋骨隆々の男がストームに向かってダブルバイセップスのポーズを取る。
すかさずストームも同じポーズを取るが。
「キレが堕ちているな‥‥」
――ゲッ、ガ――――ン
それはショックである。
「ではでは。さあ、クリスティナも行くわよ」
「はぁ、此処は本当に何処なんですか?」
「本当の呼び方なんて私も知らないわよぉ~」
そんな話をしながら、一行は神殿の中の一室に案内された。
綺麗な調度品で飾られている豪華な部屋。
フカフカの長椅子にマチュア達は座ると、その正面に先ほどの二人組が座った。
「直接話すのは初めてよね。私が秩序を守る女神ミスティ」
「私が武と強靭なる肉体を授ける武神セルジオ」
純白のロープに身を包み、木製の杖を手にした女神ミスティと、一枚布で作られたヒマティオンと呼ばれる古代ギリシャの衣裳に身を包んだセルジオが、丁寧に挨拶してくれた。
「初めまして。こちらの世界ではマチュア・ミナセを名乗っています。以前、私の願いを聞き入れていただきありがとうございました」
「同じく、ストーム・ゼーンだ。いつぞやは力になってくれて助かった」
深々と頭を下げるマチュアとストームにつられて、クリスティナも頭を下げる。
が、すでに頭の中は一杯一杯であろう。
「ミスティとセルジオって、まさかでしょ?ここは天界?」
「ええ。何も告げられずに連れて来られたのね。マチュア、ここに来る方法がわかったのは構いませんけれど、|無闇矢鱈(むやみやたら)に来ないでくださいね」
ミスティが真剣な表情で告げると。
「そうそう来ませんよ。今回はティルナノーグの件のお礼を伝えに来ただけですから」
「と言う事だ。俺も加護を与えてくれているセルジオに会えて嬉しかったしな」
「そう。なら構わないわ。私たちはあなた達の元に直接行くことは禁止されているのでね」
「そう思ったので、直接こっちから来ました」
あっけらかんと笑うマチュア。
「ハッハッハッ。そう言うことか。ならば今日だけは大歓迎だ」
パーンと膝を叩いて大笑いするセルジオ。
「となると、問題はこの子だな」
「そうねぇ。この世界に人がやって来ることはほとんどなくてね。ごく稀に近くの森に迷い込むことはあっても、天狼が結界のこちらには絶対に通さないからねぇ」
二人の神様が腕を組んで頭を捻る。
「あの、ここは本当に天界なのですか?そしてあなた達は本当に神なのですか?」
恐る恐る問いかけるクリスティナ。
「そうですけどね。では折角なので、少しだけ神の加護を与えましょうか」
ミスティがクリスティナの装備を杖でなぞる。
それだけでクリスティナの防具の強度がSSに跳ね上がった。
「まあ、ここはミスティに譲るとするか。一人の人間に複数の神の加護を与えるのは禁止されているからなぁ」
――ムキッ
大胸筋をムキムキ動かしながらセルジオが話しかける。
「あ、ありがとうございます」
目を白黒させながら頭を下げているクリスティナ。
「いくつか質問したいのですが良いでしょーか?」
マチュアはそろそろかなと、言葉を走らせる。
「答えないかもしれないわよ。私たちはあなた達の問いかけの答えは全てわかるからね」
「そう言うことだ」
「では。此処からなら現世の座標軸を計算して転移できますよね?行ってもオッケーですか?」
突然とんでもない問いかけだが。
「それは無理。空間を司る天狼の加護をあなた達は得ていない。転移すると、別の世界に飛ばされるわよ?」
「おおっと、それは勘弁だ。ようやくこっちの世界に馴染んで来たんだからな」
ストームも頭を左右に振る。
「俺とマチュアは世界を旅して色々なことに首を突っ込んだ。あれは世界に対しての干渉にならないのか?」
「まさか。加護を与えた者達の行動には、我々は干渉しない。たとえ二人が世界を滅ぼそうとしてもな。それがこの世界の運命となる」
「寧ろ。私たちの視点では、まだあなた達は魂の修練を行なっている最中なのですよ?」
「「はあ?」」
ストームとマチュア、二人同時の叫びが響く。
「ティルナノーグの一件で、創造神はあなた達の本体を元の世界に戻しました。正確には、戻さなくては帰還不能となるからです。けれど正式な修練を全て終えているのではない為、魂は此処に囚われていました」
「そこで魂の分割再生を行なった。そこで二人の魂はこの世界のものとなったが、いくつかの不具合も出てしまったのだ」
そうミスティとセルジオが告げていると、扉が開いてゴシックロリータっぽい服装の少女がやって来る。
「どーもぉ。私は魔神イェリネック。あなた達の活躍見てたわよー」
「イェリネック、また無断でここに来たのか」
「だってぇ。アーカムとゼフォンをコテンパンにやった人が来たんですもの。是非ともご挨拶をね」
そう告げると、イェリネックはストーム達の方を見て改めて挨拶する。
「魔族と竜族を管理している魔神イェリネックで~す」
「な、なら、あんたがアーカムに私と同じ力を与えたの?」
動揺してマチュアが問いかけるが。
「そんなことしませんよぉ~。あれは魔族が独自にやっていること。私は見ているだけ」
「そ、そうか。ならいいわ」
「それだ、不具合というのは?かーなーり気になるんだが」
「「「それは言えない」」」
三人の神がきっぱりと告げる。
これは諦めるしかない。
「さて、そろそろいいかしら?マチュアやストームとは違い、そのお嬢さんはさでに意識を失っているわよ?」
そう告げるミスティの言葉に、慌てて座っているクリスティナを見る。
確かに意識を失っていた。
「なっ、どうして?」
「神気に当てられたのよ。魔障酔いのようなものね。防具に加護を与えたあたりから意識はないわよ?」
「放っておくと、(お前たちの魂のように)亜神化しかねない。早々に立ち去るが良かろう」
途中で(ぼそっと)何かを告げていたセルジオ。
だがマチュアとストームには聞こえていない。
「では、そろそろ帰りますか。神様、また私達を見守っていて下さい」
「何をしでかすか不安だろうが、まあ頼むわ」
と改めて頭を下げるマチュアとストーム。
「一つだけ良いことを教えてあげるわ」
「我々は、一度与えた加護を引き剥がす事は出来ないのだよ。それが可能なのは創造神のみ」
それを聞いて安心する二人。
そしてストームとマチュアは、クリスティナを連れて転移していった。
‥‥‥
‥‥
‥
「まさか突然来るとはねぇ」
「全くだ。しかし、最近はトレーニングをサボっていたのだろう、筋肉が落ちていた」
「それは置いておきましょう。さあ、早く戻らないとバレますわよ」
ミスティとセルジオがいそいそと部屋から出ていくと、先に部屋から出ていったイェリネックが廊下で立ち止まっていた。
「あらどうし‥‥た‥‥のぉぉぉぉぉ」
「とっとと部屋から出てくれないか? 俺はガタイがでかく‥‥てぇぇぇぇぇ」
廊下では、創造神が髭を撫でながら立っていた。
「あ、あの‥‥創造神様。何処からお話を聞いていましたか?」
恐る恐るミスティが創造神に問い掛ける。
セルジオなどは真っ青な表情になり、イェリネックは逃げ出そうと必死に転移魔法を詠唱しているが全て創造神によって無効化されていた。
「ん? 二人がエリューシオンに来た時から見ていたが?」
「「「ふぁっ!!」」」
三人の声にならない叫び。
「まあ慌てるな。別にあの二人を罰する気もない。あの世界で自分たちの出来る方法で此処に来たのだろう?」
「は、はい」
「ならそれは世界の摂理。此処に出入りしても咎めることもしない。天狼に話を通して現世界に行くのも自由。今不安なのは、もう一つの手違いが起きてしまっていることだ」
困った顔でそう告げる創造神。
「またですか?」
「またとはなんだ? 予定外ということは常に起こっている。この世界とはちがう、別の世界のことなのでな。諸君が考えることはない。ということで、ワシはそっちの修復が忙しいので、ストームとマチュアの件は任せる。基本放置で頼むぞ」
そう告げて、創造神は慌てて転移した。
「まったく、創造神様も大概ねぇ‥‥あれは確かに慌てるわよねぇ」
イェリネックがそう呟きながら、手をヒラヒラと降りながら転移した。
「ま、まあ、私達の事は不問ですから、執務に戻りましょうセルジオ」
「そうだな。では私は筋トレに行ってくる」
そんなことを呟きながら、神々はいつもの日常に戻った。
そこにあるカムイの集落にマチュアは訪れていた。
「先程の話で、協定というのがありましたよね?それはどんなものですか?」
草葺と木で作られた家のなかで、マチュアは部屋の真ん中にある囲炉裏にあたりながらイァンクに問いかける。
「このカムイの領土を荒らさない代わりに、インカルシペの周りに騎士団や軍を派遣しても良いと。カムイの集落には一切手をつけないことも約束した」
領土内は自由に動いてもいいという、限定的な不可侵条約のようなものだろう。
「はぁ。それで良いのですか?」
「領土を荒らさないということは、自然を荒らさない事。動植物、魔物、全てにおいて、彼らは手を出さない。食糧は本国から持って来たものか、もしくはカムイとの交易のみ。それを守っている限りは、彼らは護られる」
ウンウンと頷くイァンクと、その家族らしい女性と子供達。
カムイの風習については調べていなかったし、此処で深淵の書庫を発動するほど野暮ではない。
「そうでしたか。あと教えて欲しいのは、インカルシペの事ですが。聞いていいですか?」
「聞かれて困ることはありませんからね」
「そうですか。他国の騎士が、どうしてインカルシペの周りに集まっているのですか?」
単刀直入に問いかける。
回りくどく聞くのは苦手である。
だが、イァンクは予想外ににこにこと笑いながら。
「今年はインカルシペの結界を超えて、カモイモシリに向かう為の神殿に入ることができる。他国の者たちは神殿に安置されている『神殺しの神槍』や『神々の果実』を欲しているだけに過ぎない」
「それ、笑いながら言いますか。とんでもないことではないのですか?」
「カムイの神器はカムイにしか扱えない。幾度もそれは伝えたが、彼らは聞く耳を持っていない。だから無視している」
そこまでの話を聞いて、マチュアは暫し考える。
そして神々の果実というところで、マチュアはポン。と、手を叩いてバックパックからマルムの実を取り出した。
「あの、神々の果実ってこれでしょうか?」
マチュアが手にしている実を見た途端、イァンクが驚きの表情を見せる。
「そ、それはまさしく神々の果実。何処でそれを? いや、貴女は『選ばれた』のか?」
「はい。今年のマルムの実は私を選んでくれました。これは色々と教えてくれたお礼です」
そう話しながら、マルムの実をイァンクに手渡す。
それを受け取ると、イァンクは早速ナイフを取り出して皮を剥き始めると、家族とマチュアに分け与えて食べ始めた。
「そうか。今年は選ばれたものが出たのですか。なら、多少は警戒しないとなりませんね」
「どういう事?」
「神殺しの神槍を始め、神殿にある様々な物品は全て所有者を選びます。マルムの実が貴女を選んだということは、神殿の物品の所有権は貴女にもあるということ。貴女がもし他国に懐柔されたりしたら、その国に神々の物品を使われてしまうのです」
マルムの実の法則。
最初の所有者が他人に譲渡した場合、能力は消滅せずに留まる。
これが此処でも当てはまるのである。
「そうですか。なら、私は此処にいてはいけませんね?」
「神々の物品の所有権はシャーマンの家系と神々に選ばれたもののみです。シャーマン家はこの地にはいなく、貴女もここを離れるのならば、なにも懸念することはありません」
マチュアの言葉にイァンクが答えるが。
「はいはい。難しいことは後回しで。食事を用意しましたのでどうぞ」
イァンクの妻が鍋を持って来て囲炉裏にかける。
そこからよく煮込まれた具材を掬い取ると、木製のお椀でマチュアに差し出す。
「これはこれは。丁寧にありがとうございます」
深々と頭を下げてから、まずは一口。
――ズズズッ
濃い味噌味で煮込まれた鹿肉のようなものと、大量の根菜類。
その味わいが口の中に広がっていく。
「こ、これは‥‥」
すかさずバックパックから握り飯を取り出すと、イァンク達にも差し出した。
「これは握り飯。この汁によく合うと思いますよ」
握り飯をパクっと食べてから、汁を啜る。
その味わいや、言葉に表すこともできない。
「こっ、これはっ、美味っ!!」
「ハフハフ、ズズッ‥‥」
「あら、これは美味しいですね」
奥様のみが冷静にマチュアと話をしているが、イァンクと子供達は次々と握り飯を食べなごら汁を飲む。
「米ですよ、和国の主食です。暖かい雪のない地方でしか育たないのですよ」
「そうですか。これが育てられるのなら、いつでも美味しい握り飯が食べられましたのに」
少々がっかりしている奥様。
――ドンドン!!
と、突然扉を叩く音が聞こえる。
『イァンク、フォースロットの騎士が取引に来たんで、相手を頼めるか?』
「ああ、いまそっちにいく。マチュア、済まないが用事を足してくる」
食べかけの握り飯を口の中に頬張ると、イァンクは外に出て行った。
「あの、奥様‥‥」
「チセと呼んでください」
「では、チセさん、フォースロットとは何ですか?」
「カムイの隣国です。周辺に駐留している軍の中でも一番大きい所ですね。たまに食材を買い付けにくるのですよ」
ふぅんと返事をしていたら、チセが窓辺にマチュアを案内した。
そこからそーっと外を見ると、二十人ほどの冒険者らしいもの達が、数名の騎士と共にイァンクと話をしていた。
「話が聞こえないけど‥‥聞き耳でもきこえないかぁ~」
楽しそうに少し話をしている騎士達とイァンク。
やがて村の者達が大袋一杯に入っている食糧をいくつも持ってくると、後ろの荷馬車にそれを積み込む。
やがて代金が入っているらしい袋を受け取ると、騎士達はそのまま戻っていった。
(良かった。この流れは、食糧のみを受け取って皆殺しとかくるパターンなんだよなぁ。何もなくてよかったわ)
様々なラノベの読みすぎによる弊害。
今回は悪い方に考えてしまっていいたが、それは亡く平和に解決していた。
やがてイァンクが戻ってくると、代金の入った袋を棚に乗せる。
「マチュアさん。フォースロットの騎士が貴女を探していた。空を飛んでいる商人を見なかったかってね」
「ありゃ、それはそれは。で?」
「知らぬ存ぜぬで誤魔化したさ。あんたは大切な客人だからな」
「それは助かりましたわー、では早速商売に入りましょう。カムイの反物を売って欲しいのですが」
商人としてやって来ている以上は、商売をせにゃならん。
ならばと、反物を売って欲しいと頼み込んだ。
「ほう。細工物や獲物ではなく反物か。なら、彼方此方の家にかけ会って来てあげよう」
先ほどの袋を棚から取ると、イァンクはマチュアと共に外に出た。
そして一軒ずつ回って袋から代金を払うと、マチュアを取り次いで商売しやすいようにしてくれた。
全部で25軒を回り、集まった反物は55本。
それら全てを買い取ると、マチュアはバックパックに放り込む。
「ふう。これで色々と作れますね。ありがとうございました」
深々とイァンクに頭を下げるマチュア。
「美味い握り飯の代金だよ。では気をつけてな」
村の出口までイァンクはついて来てくれると、そこでマチュアはイァンクと別れた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
離れた、森の中からシュトラーゼのエンジ邸へと転移するマチュア。
「ただ~いまっと~」
呑気に応接間に入っていくマチュア。
そこにはストームやクリスティナ、ジョセフィーヌ、エミリア、エンジといった面々が楽しいお茶会をしていた。
「おう、おかえり‥‥と、そこでだ、目の前にやって来た浅井の軍勢を俺は睨みつけたわけだ。敵の数はおよそ1万、それに対して俺は一人。何処までやれるか‥‥」
「おおう。和国の話か。私はまた今度教えて頂戴ね」
傍のティーセットから自分で紅茶を淹れると、すぐさまマチュアは深淵の書庫を発動する。
「さてと。キーワード検索、カモイモシリと神々の世界、そしてこの座標軸‥‥と」
超高速で魔法陣が回転を始めると、マチュアはそこで居眠りを始める。
とにかく疲れているのである。
――チーン
気持ち良い音が響く。
「ふぁ?ご注文はいじょうでよろしいでふか?」
まだ眠い目をこすりながら、マチュアは停止していた魔法陣を読み取る。
「あ~予想通りの結果かーい」
記された説明では、カモイモシリと神々の世界であるエリューシオン、そして座標軸は完全に一致した。
そこで魔法陣を閉じると、ストームがクリスティナと何かを話しているのに気がつく。
「ジョセフィーヌとエンジ、エミリアは何処へ?」
「あ、起きたか寝坊助め。エミリアは買い物、エンジはその付き添い。ジョセフィーヌは厨房で仕込みだよ。今日は豚汁が食べたいぞ」
どさくさに紛れて注文するストーム。
「まあ、それは構わないが。ストーム、ちょいとツラ貸せ」
ちょいちょいと指でストームを呼ぶと、クリスティナが何が言いたそうである。
「ん?」
「あの、何処かにいくのでしたら、ぜひ私も同行させてください」
「まあ、私は構わないけど、ストーム、いいの?」
そう問いかけると。
「あ~、クリスティナはめんどくさくなったから巻き込んだ。サムソンの騎士団に加える事にしたんだ」
ざっくばらんに告げるストーム。
それで良いのかと問いかけたくなったが、自分のことを棚にあげるのもなんなので、辞めた。
「それじゃあちょいと行くとしますか」
「で、どこに行くんだ?」
「お礼参りだよ‥‥」
にこやかに告げると、マチュアはストームとクリスティナを連れてとんでも無いところに転移した。
‥‥‥
‥‥
‥
中世ヨーロッパ、ローマのような壮大な都市風景。
彼方此方に見える人々の衣服もまさにそれ。
街道筋のど真ん中に、マチュア達は立っていた。
「おおう、テルマエ・ロマエの世界だな」
周囲を見渡しながら、ストームはそう呟いている。
クリスティナはここが何処なのかというよりも、初めての転移をその身で体験して感動に打ち震えている。
そしてマチュアはというと。
「うん、座標軸ずれた。目標はあの丘の上の神殿なんだよね」
と、正面の丘の上に立つ神殿を指差す。
「あそこに何かあるのか?というか、此処は一体何処なんだ?」
「まあまあ、行けばわかるしょ。と言うわけでレッツゴー」
「どのレッツゴーだよ?」
「流れで行くと三人だから、クリスティナが三波春夫だね?」
などと分けの分からん事を話しているストームとマチュア。
そのままテクテクと歩き始める一行。
しばし観光気分で歩いていると、やがて丘の手前の巨大な階段にたどり着いた。
「この先か?」
「そう言うこと。じゃあ絨毯使いますか」
ファサッとバックパックから絨毯を取り出して、マチュアとストーム、そしてクリスティナの三人は一気に階段の最上階へと飛んで行く。
「と、飛んでるわよ、空を飛んでいるわよ~!!」
声にならない悲鳴をあげながら、クリスティナが叫ぶ。
「あ~そうか、クリスティナはこれも初めてかー」
「良かったね。これで自慢できるよ」
「それは良いのですが、本当に此処は何処ですかー」
そう問いかけると、階段の最上階にある神殿入り口にたどり着く一行。
そこには、ローマ兵のような兵士が門を守っていた。
「止まれ。此処に何の用で来た?」
「まあ、話をしにね。此処の一番偉い人に伝えて頂戴、カナンのマチュアがやって来たって」
「ほう。では此処で待ってろ」
それだけを告げると、兵士の一人が奥に走って行く。
そして数分すると、門が開き奥に二人の人物が立っているのに気がついた。
「あー、成る程なぁ。そうかそうか」
二人の人物の一人を見て、ストームも合点がいったが。
「はぁ‥‥まさか此処まで来れるようになるとはねぇ。とりあえずこっちにいらっしゃい」
「うむ。いつか会いたいとは思っていた!!」
筋骨隆々の男がストームに向かってダブルバイセップスのポーズを取る。
すかさずストームも同じポーズを取るが。
「キレが堕ちているな‥‥」
――ゲッ、ガ――――ン
それはショックである。
「ではでは。さあ、クリスティナも行くわよ」
「はぁ、此処は本当に何処なんですか?」
「本当の呼び方なんて私も知らないわよぉ~」
そんな話をしながら、一行は神殿の中の一室に案内された。
綺麗な調度品で飾られている豪華な部屋。
フカフカの長椅子にマチュア達は座ると、その正面に先ほどの二人組が座った。
「直接話すのは初めてよね。私が秩序を守る女神ミスティ」
「私が武と強靭なる肉体を授ける武神セルジオ」
純白のロープに身を包み、木製の杖を手にした女神ミスティと、一枚布で作られたヒマティオンと呼ばれる古代ギリシャの衣裳に身を包んだセルジオが、丁寧に挨拶してくれた。
「初めまして。こちらの世界ではマチュア・ミナセを名乗っています。以前、私の願いを聞き入れていただきありがとうございました」
「同じく、ストーム・ゼーンだ。いつぞやは力になってくれて助かった」
深々と頭を下げるマチュアとストームにつられて、クリスティナも頭を下げる。
が、すでに頭の中は一杯一杯であろう。
「ミスティとセルジオって、まさかでしょ?ここは天界?」
「ええ。何も告げられずに連れて来られたのね。マチュア、ここに来る方法がわかったのは構いませんけれど、|無闇矢鱈(むやみやたら)に来ないでくださいね」
ミスティが真剣な表情で告げると。
「そうそう来ませんよ。今回はティルナノーグの件のお礼を伝えに来ただけですから」
「と言う事だ。俺も加護を与えてくれているセルジオに会えて嬉しかったしな」
「そう。なら構わないわ。私たちはあなた達の元に直接行くことは禁止されているのでね」
「そう思ったので、直接こっちから来ました」
あっけらかんと笑うマチュア。
「ハッハッハッ。そう言うことか。ならば今日だけは大歓迎だ」
パーンと膝を叩いて大笑いするセルジオ。
「となると、問題はこの子だな」
「そうねぇ。この世界に人がやって来ることはほとんどなくてね。ごく稀に近くの森に迷い込むことはあっても、天狼が結界のこちらには絶対に通さないからねぇ」
二人の神様が腕を組んで頭を捻る。
「あの、ここは本当に天界なのですか?そしてあなた達は本当に神なのですか?」
恐る恐る問いかけるクリスティナ。
「そうですけどね。では折角なので、少しだけ神の加護を与えましょうか」
ミスティがクリスティナの装備を杖でなぞる。
それだけでクリスティナの防具の強度がSSに跳ね上がった。
「まあ、ここはミスティに譲るとするか。一人の人間に複数の神の加護を与えるのは禁止されているからなぁ」
――ムキッ
大胸筋をムキムキ動かしながらセルジオが話しかける。
「あ、ありがとうございます」
目を白黒させながら頭を下げているクリスティナ。
「いくつか質問したいのですが良いでしょーか?」
マチュアはそろそろかなと、言葉を走らせる。
「答えないかもしれないわよ。私たちはあなた達の問いかけの答えは全てわかるからね」
「そう言うことだ」
「では。此処からなら現世の座標軸を計算して転移できますよね?行ってもオッケーですか?」
突然とんでもない問いかけだが。
「それは無理。空間を司る天狼の加護をあなた達は得ていない。転移すると、別の世界に飛ばされるわよ?」
「おおっと、それは勘弁だ。ようやくこっちの世界に馴染んで来たんだからな」
ストームも頭を左右に振る。
「俺とマチュアは世界を旅して色々なことに首を突っ込んだ。あれは世界に対しての干渉にならないのか?」
「まさか。加護を与えた者達の行動には、我々は干渉しない。たとえ二人が世界を滅ぼそうとしてもな。それがこの世界の運命となる」
「寧ろ。私たちの視点では、まだあなた達は魂の修練を行なっている最中なのですよ?」
「「はあ?」」
ストームとマチュア、二人同時の叫びが響く。
「ティルナノーグの一件で、創造神はあなた達の本体を元の世界に戻しました。正確には、戻さなくては帰還不能となるからです。けれど正式な修練を全て終えているのではない為、魂は此処に囚われていました」
「そこで魂の分割再生を行なった。そこで二人の魂はこの世界のものとなったが、いくつかの不具合も出てしまったのだ」
そうミスティとセルジオが告げていると、扉が開いてゴシックロリータっぽい服装の少女がやって来る。
「どーもぉ。私は魔神イェリネック。あなた達の活躍見てたわよー」
「イェリネック、また無断でここに来たのか」
「だってぇ。アーカムとゼフォンをコテンパンにやった人が来たんですもの。是非ともご挨拶をね」
そう告げると、イェリネックはストーム達の方を見て改めて挨拶する。
「魔族と竜族を管理している魔神イェリネックで~す」
「な、なら、あんたがアーカムに私と同じ力を与えたの?」
動揺してマチュアが問いかけるが。
「そんなことしませんよぉ~。あれは魔族が独自にやっていること。私は見ているだけ」
「そ、そうか。ならいいわ」
「それだ、不具合というのは?かーなーり気になるんだが」
「「「それは言えない」」」
三人の神がきっぱりと告げる。
これは諦めるしかない。
「さて、そろそろいいかしら?マチュアやストームとは違い、そのお嬢さんはさでに意識を失っているわよ?」
そう告げるミスティの言葉に、慌てて座っているクリスティナを見る。
確かに意識を失っていた。
「なっ、どうして?」
「神気に当てられたのよ。魔障酔いのようなものね。防具に加護を与えたあたりから意識はないわよ?」
「放っておくと、(お前たちの魂のように)亜神化しかねない。早々に立ち去るが良かろう」
途中で(ぼそっと)何かを告げていたセルジオ。
だがマチュアとストームには聞こえていない。
「では、そろそろ帰りますか。神様、また私達を見守っていて下さい」
「何をしでかすか不安だろうが、まあ頼むわ」
と改めて頭を下げるマチュアとストーム。
「一つだけ良いことを教えてあげるわ」
「我々は、一度与えた加護を引き剥がす事は出来ないのだよ。それが可能なのは創造神のみ」
それを聞いて安心する二人。
そしてストームとマチュアは、クリスティナを連れて転移していった。
‥‥‥
‥‥
‥
「まさか突然来るとはねぇ」
「全くだ。しかし、最近はトレーニングをサボっていたのだろう、筋肉が落ちていた」
「それは置いておきましょう。さあ、早く戻らないとバレますわよ」
ミスティとセルジオがいそいそと部屋から出ていくと、先に部屋から出ていったイェリネックが廊下で立ち止まっていた。
「あらどうし‥‥た‥‥のぉぉぉぉぉ」
「とっとと部屋から出てくれないか? 俺はガタイがでかく‥‥てぇぇぇぇぇ」
廊下では、創造神が髭を撫でながら立っていた。
「あ、あの‥‥創造神様。何処からお話を聞いていましたか?」
恐る恐るミスティが創造神に問い掛ける。
セルジオなどは真っ青な表情になり、イェリネックは逃げ出そうと必死に転移魔法を詠唱しているが全て創造神によって無効化されていた。
「ん? 二人がエリューシオンに来た時から見ていたが?」
「「「ふぁっ!!」」」
三人の声にならない叫び。
「まあ慌てるな。別にあの二人を罰する気もない。あの世界で自分たちの出来る方法で此処に来たのだろう?」
「は、はい」
「ならそれは世界の摂理。此処に出入りしても咎めることもしない。天狼に話を通して現世界に行くのも自由。今不安なのは、もう一つの手違いが起きてしまっていることだ」
困った顔でそう告げる創造神。
「またですか?」
「またとはなんだ? 予定外ということは常に起こっている。この世界とはちがう、別の世界のことなのでな。諸君が考えることはない。ということで、ワシはそっちの修復が忙しいので、ストームとマチュアの件は任せる。基本放置で頼むぞ」
そう告げて、創造神は慌てて転移した。
「まったく、創造神様も大概ねぇ‥‥あれは確かに慌てるわよねぇ」
イェリネックがそう呟きながら、手をヒラヒラと降りながら転移した。
「ま、まあ、私達の事は不問ですから、執務に戻りましょうセルジオ」
「そうだな。では私は筋トレに行ってくる」
そんなことを呟きながら、神々はいつもの日常に戻った。
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