異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第三部 カナン魔導王国の光と影

カナンの章・その11 つかの間の幕引きと、ゴレキング

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注)このストーリーを読む前に、その8を読むことをお勧めします。
  先日のアップの際に、その8をアップしていなかったので急遽アップしておきましたので。


 〇 〇 〇 〇 〇


 ラマダ公国とカナンの通商条約が締結したのち。
 ミスト連邦も通商条約を結び、さらにラマダ公国はラグナ・マリア帝国全体と国交の回復を宣言した。
 これによりウィル大陸中央から北方に掛けて、全ての国家が手を取り合い平定する事になった。
 だが、未だ北方大陸からの脅威は消えたわけではない。
 いつ、再びその顎をラグナ・マリアに向けてくるか分からないのである。

――パン
 と軽く手を叩くと、マチュアは何時もの馴染み亭の特等席で、ウェイトレスを呼ぶ。
「はいはーい。店長なんの御用でしようかー」
「丁度お昼になるから、ランチをお願いします」
「二人ぶんでお願い致します」
 と、カレンも正面入り口から顔を出してそう告げた。
「おや、今日は納品?」
「それもありますけれど。まだ空飛ぶ絨毯や空飛ぶ箒は販売しないのかしら? サムソンではもうかなり問い合わせがあるのですけれど」
「あれは売らないよ、非売品だからね」
「そこなのよねー。カナンの国家的秘密の塊である空飛ぶ絨毯や箒が、街のこどものおもちゃですから」

――ガチャッ
「お待たせしました。本日のランチです」
 とウェイトレスがトレーに乗せられた奇妙な料理を持って来た。
 熱々の蓋つき丼ぶりと味噌汁、沢庵のセットである。
「来た来たぁぁあ」
 とまだ熱い蓋を取る。
 中からは揚げたてのワイルドボアのロースを卵でとじた、カツ丼がよそってあった。
 マチュアはすかさず傍に置いてある箸を手に取ると。一礼してすかさず食べ始める。

――ガツガツガツガツ
「ふぅん、これまた珍しいわね。このカツレツの下の白いツブツブは何かしら?」
「御飯だよ。美味しいよお」
 と箸を器用に使いながら食べる。
 最も、マチュアは元々日本人。
 箸を器用に使うのは当たり前なのだが、ラグナ・マリアには箸という文化はない。
 ナイフやスプーン、フォークと言ったもので食べるのか当たり前。
 そっとスプーンで上に乗せられている卵で閉じたカツレツを口に運ぶ。

――○×△□×△
 言葉にならない声を上げて、カレンは次々とカツ丼を口に運んだ。
 やがて丼の中身が空っぽになると、

――はぅ……
 と一息ついた。
「貴方って、本当に不思議よね。世界最強の賢者で、失われた古代の魔導器を再生した錬金術師で、そして都市内の酒場から営業しないでと頼まれる料理人。本当に謎だわ」
「それにドラゴンスレイヤーと女王さまを足して、怠け者で割ると丁度いいよ」
 丼を片付けながら笑うマチュア。
 だが、カレンは聞き逃さなかった。
「ドラゴンスレイヤーって、いつ倒したのよ?」
 とカレンが驚くが、
「けっこう前だよ。ストームの店のドラゴンレザーの防具、あの材料は私とストームで倒した奴だから」
「まだ材料余ってる?」
 とカレンが瞳をキラキラさせながら問いかける。
「どうだろう?武器を作るのに必要なのは殆どストームにくれてやったから、私が使うのはドラゴンの皮程度だし。まあ、肉とか食べられるところは殆ど貰ったけどね。鱗は三分の一貰ったけど、使い道がなくてねぇ」
 と空間から何枚かの鱗を取り出して、テーブルの上に置く。
 それには入口近くの席の客もギョッとしていた。
「こっ、これが本物の竜の鱗なんだ。触っても?」
「どうぞご自由に。カレンといい、ブリュンヒルデといい、これの何処がいいのかねぇ」
「本物の竜の鱗は、商人にとっては憧れなのですよ。『知恵ある竜は財を蓄える』という言い伝えがあるのです。この一枚が大体白金貨1枚と同じ価値があるのです」

――ガタッ
 とマチュアが椅子から落ちそうになる。
「そ。そんなにするの?」
「そうですよ。マチュアさんも商人なら、少しは物の価値というものを勉強して下さい。それでなくても、ポンポンと魔導器作って無料であげたりするのですから」
「そっかー。此れからは少し勉強しますか」
「私で良ければ、色々と教えてあげますよ」
 自分の胸に手を当てながらカレンが笑いながら話す。
「じゃあまず、これの価値教えて。今ひとつ理解してなくて、どうしたものか」
 とドラゴンレザーと小さい竜の牙、竜の鱗を取り出す。
 馴染み亭に宿泊していた商人たちは、口をあんぐりと空けてその光景を見ていた。

「では失礼して。どれも一般には流通してませんから、価値はかなりなものかと……」
 カレンは鑑定眼をフルに使い、目の前に並べられた素材を吟味する。
「でもさ、カレンの眼はずるいよね。物の真贋だけでなく、カレンの知識とリンクして適正価格まで弾きだすんだから」
「マチュアだって物の真贋は見抜けるでしょ?と、大体出たわね」
 と軽く空を見ながら瞬きするカレン。
 そして一つ一つの素材を指差しながら説明を始める。
「ドラゴンレザーが2m四方で大体白金貨で20枚。この小さな牙は一つ10枚。これはダガーを作る材料になるからね。もう少し大きかったら白金貨で30から50枚ですね。これ、買い取ります?」
 とカレンが楽しそうに告げるので、マチュアはしばし考える。

――ポン
 と手を叩くと、カレンに一言。
「じゃあ、今からサムソンに行こう。そこで荷物を卸すので。それでよい?」
「構いませんけど。どうしてカナンではなくサムソン?」
「暫くあっちの馴染み亭放置していたからね。週一でこっちから何人か出向して貰ってるけれど、偶には様子も見ないとねぇ」
 と言うことで、早速馴染み亭の転移門ゲートから転移すると、一階の酒場へと向かった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


――トントントントン
 と階段を降りる。
 そしていつものように酒場へと向かうと、アーシュが接客で忙しそうである。
「あ、ストーム、ようやく戻って‥‥なんだ、マチュアか」
「なんだとはまた随分ねぇ。ストームはまだ戻ってないの?」
「和の国の大隅って言うところから連絡はあったらしいですよ。一旦、外国に行く船が武蔵国って言うところから出ているので、そこに行ったら連絡するって」
 バタバタと走りながら説明してくれる。

「和の国?大隅?武蔵国?何処だそれ?」
 三國志は趣味で横光先生のを読んでいたので、ある程度はわかる。
 が、日本史は赤点ギリギリだったので、よく理解できない。
 さらに、この世界でも同じ地理、同じ歴史とは限らない。

「どれぐらいで帰ってくることやらね」
 とカレンに話を振ると、カレンは真っ赤な顔をしながら頭を振る。
「べっ、別にストームが帰ってこなくても寂しくはありませんし、困ることなんでありませんわ。マチュアさんは何を突然っっ」
 明らかに自爆である。
 必死に感情を抑えようとしているが、抑えきれずに真っ赤になっている。
「そっかー。最近よくカナンにいるなーと思ったら、そうかそうか」
「へ、変な勘ぐりはやめて頂けません?私は純粋に仕事でカナンに向かっているのですわ」
「この前、朝から晩までうちで遊んでたのは?」

――ドキッ
 どうやら図星である。
 が、あまりカレンを苛めても可哀想なので、アルバート商会に向かう事にした。


「では、ドラゴンレザー二枚と竜の鱗を10枚、小さめの牙を5本買い取ります。仕入れはこれぐらいで如何かしら?」
 先程の話では、これで白金貨80枚。
 アルバート商会の買い取りカウンターには、職員や偶々ここに居た商人が詰め寄って居た。
「買い取りは60枚か。うん、50で良いよ、カレンは儲けなさいな」
 と目の前に置かれている白金貨を50枚きっちり手元に持ってくると、残りはカレンに戻す。
「はぁ。まあ仕入れは自分で狩ってくるからタダなんでしょうけれど、さっきも言いましたよね?ちゃんと価値は勉強しなさいと」
「したよー。さっき教えて貰った価格から考えて買い取りは55枚と思ったから。カレン5枚もサービスしたでしょ?」
 腕を組んで勝ち誇るマチュア。
「まあ、バレてましたか。では謹んで、こちらは下げさせていただきますね」
 と交渉は成立し、カレンはカウンターに並べられている素材を従業員に倉庫まで運ぶように指示をした。

 後ろでは、今買い取って貰った素材を売って欲しいのだろう、商人たちが並んでいるのに気がついたので、マチュアはカウンターを離れて後ろのテーブル席に座る。
 カレンはこれから大量の商談が待っているので、今暫くは身動きが取れないだろう。
「それにしても、平和よねぇ」
 以前、調印式で殺されかかった日など忘れたかのごとく。
 まったりと商会内を見渡す。
 カナン魔導商会は商人ギルドから店員を派遣して貰っているため、商品の入った空間拡張箱をいくつか預けたままにしてある。
 カナンで横流しなどした日にはどうなるか、店員はよく知っている。
 それ故に、時折このように暇になる。

――ファァァアッ
 大きな欠伸をしながら、空間からターキーサンドを取り出して昼ごはんにする。
「????ありゃなんだ?」
 ふと、アルバート商会の隅っこのカウンターに、子供達が集まっているのに気がつく。
 他の商人の交渉に邪魔にならないよう、隅っこにある一席だけのカウンター。

「今日も新しいゴレキンはないのかー」
「いつ入荷しますか?お小遣い貯めて買います」
「遅っそーーーーい。あたらしいのまーだー?」
 と子供達にせっつかれている店員が、子供達を宥めていた。
 やがて子供達が帰っていくと、マチュアはカウンターに向かう。
「すいません。あの子たちの話していたゴレキンってなんでしょか?」
「あらマチュア様お疲れ様です。ゴレキンっていうのは、『ゴーレムキング』っていうカナン発祥の子供用魔道具ですよ。それを戦わせて、勝者を決めるっていう」
 と自慢げに説明する受付嬢。
「へー、そんなのあるんだ。見せて下さる?」
「見せるだけなら構いませんよ。本当はここに買い物に来た親と一緒でなくては配布していないのですけれど、今は一人二つだけ、無料で配布していまして」
 と、小さい木箱を取り出してマチュアに見せる。

――プッ
 と中身を見て思わず吹き出す。

(あ、あの時の髪飾りか。まあ、意思である程度は動くけれど、子供達って凄いな)

 と、以前王城の中庭で作った、動く髪飾りを眺める。
「あのー、こう言う虫や動物の形の髪飾りや人形は何処に売っていますか?」
 と受付に聞いてみる。
「商業区のこのあたりですね。カラトミー商会が、こう言う細工物を専門に扱っていますので」
「カラトミー商会ですね。ありがとうございました」
 と丁寧に挨拶をすると、マチュアは商業区にあるカラトミー商会へと向かった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 サムソンの中央を走る主街道。
 両側には様々な商店がならぶこの商業区の一角に、カラトミー商会はあった。
 元々は和の国出身の商人で、サムソンには大勢の細工職人や螺鈿細工、漆職人などを連れてやって来たらしい。
 カラトミー商会の名の由来は『宝と富籤(とみくじ)の扇屋』という本来の屋号が長くて覚えられなかったので、『宝富籤の扇屋』になり、扇屋という別の扇を扱っている店と紛らわしいと宝富籤と短くされ、そして今に至る。

「はぁー。でっかい店だなぁ」
 横幅実に30m以上。
 広い間取りの作り方は、江戸時代の大店(おおだな)のようである。
 中は小上がりになっており、大勢の商人たちがそこで取引をしていた。
 ちょうど近くで水撒きをしている侍女がいたので声をかけて見た。

「すいません。虫や動物の形の髪飾りや人形は扱ってますか?」
 と問いかけると、侍女は笑いながら
「お客さんもゴーレムキングですからうちの商品は動きませんよ?」
 と説明してくれた。
「ええ、構いませんよ。むしろそっちが欲しいのですが」
「それでしたら、少々お待ちください」
 と店内に入っていった。
 少しして、奥から着物を来た若い男性がやってくると、丁寧に挨拶をする。

「いらっしゃいませ。髪飾りなどですか? うちのは動きませんが構いませんか?」
「ええ。大量に仕入れをしたいのですが、宜しいですか?カナンのマチュアと申します」
 と商人ギルドカードを提示する。
 それを確認すると、商人は軽く頷き、後ろにあった竹行李たけこうりから髪飾りをいくつか見せてくる。
「こちらは、女性に人気の商品でして。花と蝶をあしらっております……」
 と色々と見せてもらうと、それらの中から出来の良い、程よい大きさのものを選び、纏めて買い込む。
 と、支払いを行なっていると、ふと店の隅にある置物に気がつく。
 大きさは大体15cm程度の、金属や木製の甲冑人形である。

「あ、あれは?」
「あれは、ただの置物ですよ。ああいう小さいものは需要がなくて、大量に売れ残ってしまいまして。売るにも売れず全て一品ものでデザインも違いますから、どうしようか困っていたのですよ。近々鍛治工房に持って行って鉄屑として買い取って貰おうと思っていました」

――バン
 と畳の上に白金貨を5枚置くと
「全て買い取る、これから作るものも全てだ。一体なんぼで売る?」
 と目をキラキラと輝かせて、マチュアが叫ぶ。
「い、一体ですか。では一体銀貨2枚で、在庫は200体ですので白金貨1枚で結構です。あと300体の納品は いつ頃がよろしいでしょうか?」
「100体できるたびにアルバート商会のカレンに連絡してください。彼女を通じて連絡を頂いたら、すぐに取りに来ますので」
「では、10日に100ずつ。職人を総動員しますので」
「出来れば、それとは別にこの人形のサイズに合う武具も色々と作って欲しいのですよ。それは別途これでお願いします」
 と金貨50枚を積む。
「わかりました。では契約書を作りましょう」
 と早速契約書を作ると、代金を支払って大量の鎧人形を手に入れる。
 それはバックパックに放り込み、一路馴染み亭へと走った。


――そして馴染み亭
「それじゃあ始めますか?」
 誰に問いかけるでもなく、まずは一番格好のいい騎士の人形を手に取ると、深淵の書庫アーカイブを起動する。
「これは難しいよなぁ。機動性と命中精度、回避精度、基礎攻撃力をセット。使用者の魔力によりある程度の強化、使用者との意思リンクにより動くようにしてと」
 次々と条件を設定する。
 かなり詳細にセットすると、まずそれで小さいゴーレムを創り出す。

――フゥゥゥゥン
 完成した小型ゴーレムを手に取ると、それと意思を繋いで見る。
 まあ、オーナー権限があれば誰でも簡単に出来るので、それほど難しくはない。
 意思を繋ぐことで、オーナーは自在にゴーレムを扱うことが出来る。
「さて、このゴーレムのデーターをセーブ。次に各種パラメーターをランダムに設定する魔法陣と、量産化の魔法陣と同期。では行きますか」
 と、先程の髪飾り全てと、鎧人形の全てを魔法陣に設置すると、中央に最初に作ったゴーレムを置く。
「量産化開始。パラメーターは各種最低値50にボーナスポイントを1から150付与。ただしランダムでボーナスの合計は150から250で、各能力値の最大値は200とする」

――キィィィィィィィィン
 魔法陣が高速で回転する。
「で、とどめはこれと」
 空の魔晶石を取り出して魔力を込める。
「魔法陣内の、全てのゴーレムの外観データを保存。これで良しと」
 その瞬間。
 かなり難しい設定と大量の魔力消耗により、久しぶりの魔障酔いを起こす。

――クラッ
「あ、来たわ。少し横になるから、何があったら起こして、ツヴァイ」
 と、何とか帰還したツヴァイに後を任せて、マチュアは自室のベッドで横になった。

……………
…………
………
……


 多分朝。
 鳥の鳴き声で目が醒めると、マチュアはゆっくりと体を起こす。
『大陸最強の賢者でも、魔障酔いと毒には弱いのですなぁ』
 とツヴァイが話し掛けてくる。
「魔障酔いは仕方ないが、なんで毒に弱いんだ?と言うか薬全般に弱いぞ」
『この世界とマチュア様のいた世界の人間の体質の差でしょう。基本的に抵抗力が弱いのですよ』
「そーか。思わぬ弱点だなぁ、と、出来たかなー」
 と鎧人形の入っている魔法陣を見る。
 全てが淡く輝いている。
 その一つと手に取ると、魔法陣の消滅とともに全ての輝きは消えた。

――カチャカチャッ
 と動作確認をする。
 良し問題ない。
 となると、最後はこれを収める箱だが、取り敢えず人形と髪飾りを全てバックパックに収めて空間に放り込むと、再び空とぶ絨毯にのって商業区へと向かう。
 昨日は徒歩だったが、魔障酔いがまた抜けきっていないので今日は楽をする。
 相変わらず商人が近寄って来て商談を持ちかけてくるが、それらは愛想笑いで誤魔化した。
 そして布細工の店にやってくると、鎧人形が入る丁度いい袋を探す。

「いらっしゃいませ。どのような物をお探しですか?」
「これが楽々入るサイズの袋を下さい。結構雑に扱うので、丈夫なやつで」
 と適当な鎧人形を見せる。
「あらあら。ではこれなどいかがでしょう」
 と見た目にも丈夫な麻の小袋を出してくれた。
「これは幾らですか?」
「一つ銅貨二枚で。野菜とかを入れる袋なので丈夫さは保証します」
「では200枚。金貨4枚ですね」
「し、少々お待ちください。在庫を確認しますので」
 と奥に走っていく店員。
 やがて大量の袋を運んでくると、マチュアの前に積む。
「数が間に合いましたので。どうぞ」
 と言うことで、金貨を支払って麻の小袋はバックパックを取り出して放り込むと、再び馴染み亭に。
 そこからは人海戦術。
 ツヴァイとファイズ、ゼクス、マチュアの4枚で次々と袋に入れると、最初の納品時に人形が入っていた箱に綺麗に並べる。
 それを次々と空間に放り込むと、気がつくとすでに夕方になっていた。

――カチャツ、カギイッ
 と部屋の片隅でファイズとゼクスが鎧人形で遊んでいる。
「くっ、これはなかなかっ」
「ふっふっ。ファイズの動きは単調なのですよ。ほらほらほらほらつ」
 とゼクスの鎧人形が手にしたレイピアで乱れ突きを叩き込むと、ファイズの鎧人形がロープて作ったらしい闘技場からはみ出した。
「ま、まて、こいつが弱いだけだ。今度はもっと強いやつを出す」
 と詰め込みが終わって横においてあった箱に手を伸ばす。

――スパァァァァァァン
「あんたらのオモチャじゃないわ、何を熱くなっている!!」
 と空間に慌てて箱をしまう。
「全く。その二体は君たちにあげるから。それで遊んで来てくれ。私はアルバート商会に行ってくる」
「了解しました。では……」
 と二人は鎧人形を持って外に飛び出した。
「子供かよ!!」
 とマチュアが叫ぶが聞こえていない。
 その後ろで絨毯を広げると、マチュアもアルバート商会へと向かっていった。


 ◯  ◯ ◯ ◯ ◯


 いつ、どのような荷物が運ばれてくるとも限らないため、アルバート商会は常に営業している。
 まだ夕方ということもあり、店内には大勢の商人が商談をしている所である。
 丁度カレンも商談を終えたらしく、窓際の席で一休みしていた。

「おや、仕事は終わりかな?」
「ええ。丁度終わった所ですわ。で、今日は一体何を持って来たのかしら?」
 とにこやかに告げる。
「なんだバレてたのか」
「マチュアがわざわざここにくるなんてなかなかありませんからね。商談?」
 と問いかけてくる。
 窓の外では、相変わらず子供達がアルバート商会の中を覗き込んでは、受付に新しいゴーレムキングが入荷したか見に来ていた。

「大人気ですな」
「ええ。でもあの子達はもう二つ持っていったので、もう上げませんよ。親と買い物に来て、ここで何かを買った時しか上げませんのよ。お陰でちょっとだけ売り上げが上がったのは良いのですけれど」
 と告げてから、ハァ、と溜息。
「何かあったの?」
「貴族の子供達も聞きつけて来て、二つは差し上げましたが、どうも自分が持っているゴレキングが強くないとかで、もっと寄越せと言ってくるのですよ」
「成る程、放っておけば?」
「まあそうなんですけれど。人付き合いが大変でして」
 商人には商人の悩みがある。
 という所だろう。
「まあ、もし何か言ってきたらいつでも言って頂戴。叩き潰すから」
「いえいえ、これは商人の問題ですわ、陛下が関わると後が面倒なのでご勘弁を。で、今日は何をお持ちで?」

――ニィッ
 と笑いながら、マチュアが木箱を取り出した。
「ジャーン。新しい髪飾りの追加だよ」
 と木箱いっぱいの髪飾りゴーレムをカレンに手渡す。
 流石のカレンでも、これにはビックリした。
「へ?どうしたの?この髪飾りは?」
「買ってきて作った。この前素材売って大儲けしたので、安い在庫の奴を大量に買い込んで作ったんだよ。ということで、あとは宜しく」
 気がつくと、奥のカウンターで子供達がキラキラとした瞳でこっちを見ている。
「はいはい。って。前のよりは少し大きいですね。ゴーレムキング用ですか?」
 と、ちょっとだけ大きめになったカブトムシやらカマキリなどを手に取る。
「女の子用の髪飾りも入っているよ……」
「あら、本当ですわ。かなり細かい細工ですわね。精度がしっかりしているし……じゃあ一人一個だけ上げてきますか」
 とカレンは木箱を抱えて子供達の方に向かう。

 その頃、馴染み亭の隣の空き地では、とんでもない事態になっていた。

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