異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第三部 カナン魔導王国の光と影

カナンの章・その10 一難去ってまた一難

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 カナン魔導王国とラマダ公国、両国の通商条約の会場は、とんでもない所で行われることになった。
 二つの国の国境沿いにあるアドルフ男爵領。
 そこに作られている城壁の上で、正式な調印式が行われる。
 隣国ククルカン王国との国交も正式に開始されるので、ククルカン国王も調印の為にこの場にやって来ていた。

「では、これよりラマダ公国並びにカナン魔導王国、ククルカン王国の条約締結を開始する」
 見届け人はケルビム・ラグナ・マリアとミスト連邦のミスト・ラグナ・マリアの両名が務める。
 用意された舞台では、正装したマチュアとライオネルの二人が調印書を確認し、同時にサインしていた。
 続いてククルカン王とライオネルによる調印も終わると、城壁に新たに作られた巨大な門が解放された。

――バァァァァァァン
「これにて調印式は終わる。両国間の繁栄を!!」
 ミストの宣言により、全てが終わる。
 門には二つの国を行き交う為に、大勢の商人や冒険者が集まっていた。
 そして門が開かれると同時に、予め手続きを終えていた商人たちが、新たなる一歩に感動している。
「これで終わったねぇ‥‥」
 城壁の上から、マチュアは楽しそうに行き交う人々の姿をじっと眺めていた。
 3つの国のわだかまりも解け、これからは手を取り合って新しい時代を作るのだろう。

――グゥゥゥゥッ
 とマチュアの胃袋が悲鳴を上げる。
「お腹空いた‥」
 もう台無しである。

 マチュアは一旦立食パーティーに参加するが、すぐにパーティー会場を抜けて城塞の上に戻ると、そこから動かなかった。
 ライオネル大公やミスト、ケルビムといった方々には城塞から外を見ていると告げ、皆には安全な場所でのんびりとしてもらっていた。

 過去に読み込んだ漫画やラノベ。
 それらの知識をフル動員し、深淵の書庫アーカイブにて敵対する者が次にどう動くかを予測する。
 そして導き出された結論の一つが、衆人環視の中での要人暗殺である。

 発生確率は76%。

 次に誰が狙われるか?
 国賓としてミストやケルビムが来ることを知られていないと考えると、マチュアかライオネルのどちらか。
 で、確率としてはマチュアの方が狙われる。
 ライオネルの場合、そのままカナンが代行統治すると考えると、ウィル大陸に橋頭堡を作るのが難しくなる。
 だがマチュアが倒れると、カナンの地盤が崩れる。
 そこで隣国ラマダ公国を巻き込むことで、ウィル大陸は動乱となるだろう。
 その不安定な状態でシャトレーゼ公国が後ろから襲いかかる。
 マチュアが狙われる可能性は87%を弾き出した。

(本当なら、暗殺者を見つけられると良いのだがなぁ)

 孔明の影の中は、今はツヴァイではなくドライが担当。
 ツヴァイはマチュアの影の中に帰って来ている。
 そしてファイズとゼクスは、公的な場所ではカナン魔導騎士団としてマチュアに寄り添っている。
 なお、ルトゥールのジェラール君は結局騎士団員としての資質が開花しなかったので、現在はイングリッドの元で執務官を行っているらしい。
 頑張れジェラール君。

(一応、痛覚緩和と遅延蘇生、遅延回復は掛けてあるけれど、大丈夫かねぇ?)
『さぁ?どの程度の暗殺かにもよりますが、このような中世の世界で頭部一撃ヘッドショットは無いと思います』
(なら良いか。即死さえしなければ、なんとかなるでしょ?)
『マチュア様、実は薬には弱いですよね?』
(うむ。なんでだろー?)

 みたいな脳内会議をしながら、足元の門を出入りしている人々に手を振っている。
「おーい、そろそろ会食が終わってしまいますよー。皆さん最後の挨拶を待っているのですから」
 と、足元からゼクスが声をかけた瞬間。

――ドゴォッ
 と、突然マチュアの背中に何かが突き刺さる。
「ガブッ‥な‥なんだ‥」
 激痛と同時に口から大量の血が吹き出すと、正面に崩れ落ちるマチュア。
 
『完全な不意打ちです。犯人の目測完了。距離55m。四人のローブを着た人物です。一人に取り憑きます』

 そのツヴァイの言葉で安心すると、マチュアは素早く城塞の影に隠れる。
「全く痛みがない訳じゃないんだぞ‥‥完全治癒‥‥と」
 ズルッと肩甲骨付近に突き刺さっているクロスボウ・ボルトを引き抜く。
 矢じりの先がヌルリと緑色の液体で覆われている。

――クラッ
 と目の前が霞む。
 心拍数がかなり高まり始める。
「即効性の毒か‥‥『解毒』っ」
 体内の毒素を魔法で中和する。
 が、毒の効果は消えることなく持続している。
「はぁ?  魔法の解毒が効かないだ‥‥と?」
 解毒の魔法が、体内まで浸透しないのである。

「これで死ぬと‥遅延で蘇生してもまた毒で死ぬ。やばい‥」
 と治癒を発動して体力だけでも回復しようとするが、それも体内まで浸透しない。
「ちっ。あれかよ‥‥完全浄化っ‥‥」
 背中の傷から、黒い魔障の霧が噴き出す。
 以前ティルナノーグでファウストから受けた傷と同じ。
 濃い魔障による魔術阻害である。
「よし‥‥解毒‥‥」

――フゥゥゥン
 と全身が淡く輝き、毒素が抜ける
 これで回復も可能である。
「治癒‥‥と、これでよし。危なかったぁぁぁぁぁ」
 と額を流れる冷や汗を拭うと、周囲の気配を探す。
 だが、すでに怪しい気配は感じられない。
 やれやれと立ち上がると、折角のドレスが血まみれになっているのに気がつく。
「ありゃ。このままだと戻れないなぁ。一旦着替えるか‥‥」
 と物陰に隠れたまま、マチュアは一旦馴染み亭まで転移した。

――スッ
 「さて、とりあえずは風呂に入りますか‥‥」
  自室にある浴槽に『水に濡れると発熱する水晶』を放り込むと、適温にあたたまるのを待ってから風呂に入る。
 そして身なりを整えなおすと、今度は賢者モードに換装してアドルフ男爵領まで戻る事にした。
「もしさっきのが頭に一撃なら、完全に即死だよ‥‥こわー」
 と少し震えながらアドルフ領に戻ると、近くで待機していたゼクスを呼ぶ。
「ゼクス。怖いから会場までエスコートして」
「はぁ。マチュア様でも怖いものがあるのですね」
「さっきのはマジで危なかった。別の意味でGAMEover手前だよ」
 と城塞から降りると、パーティーを行なっている大ホールまで戻った。

 既に皆、ある程度の食事を終えて歓談を行なっていた。
 ライオネルとケルビム、ミストの三名も椅子に座って楽しそうに笑っている。
 壁際では、孔明の護衛であろう扈三娘こさんじょうがじっと孔明の行く先を眺めている。
 その孔明は私に気がつくと、いそいそとこちらにやってきた。

「ミナセ陛下、此方でしたか。先程まで大変だったのですよ?」
 と汗を拭いながら笑っている孔明。
「はあ。何となく想像はつきますけれどね」
 チラリとミストとライオネルの方を向くと、孔明も静かに頷いた。

 ラマダ公国は、元々カナン周辺でミスト連邦と色々と小競り合いをしていた。
 小さいエリアではあるが、領地の奪い合いは頻繁にあったらしい。
 それがマチュアの領土となり、まずククルカン王国がカナンに編入されると、次はラマダ公国との国交回復である。

 ミストがライオネルに文句を言ったのだろうと想像はつく。
 あの様子だと、ケルビムと孔明が仲介して、今に至ると言うところだろう。

「つかぬ事をお尋ねしますが、ミナセ陛下は、なぜ西燕国の兵法にお詳しいのですか?」
「えーっと。孫子はご存知で?」
「呉王に仕えていたという?」
「なら早いですね。孫子の残した兵法書を少々学びまして」
 と告げると、公明はは驚いた顔をしていた。
「異国の陛下がどうしてそのようなことを。いえ、それもまた、陛下の隠された強さなのでしょう」
「ありがとうございます。では、私からも質問を。孔明殿は何故、蜀を離れてここに?」
 明らかに動揺の色を隠せない。
 マチュアの知る三国志の歴史、あえてその名前を出してみたのだが。
「な、何故私が蜀から来たと?」
「そこは知らないふりをした方が宜しいかと」
 と目配せをする。
「私は我が君の命で、ある遺跡を調査していました。それは、私たちの知らない、全く未知のものだったのです」
 地球の三国志では、孔明が遺跡探索したという話は聞いたことがない。

(此処からはこちらの三国志と言うところか。まあ、聞かせてもらいましょう)

 と、孔明に椅子を進めると、静かに椅子に座り天井を仰ぎ見る。 
「巨大な門でした。ただ、廃墟の中に門だけが無傷で立っていたのです。私は慎重に近づき、門に触れたのです‥」
 話だけならば、それは月の門であろうと想像はつく。
 だが、孔明がいつ、この大陸にやって来たのか、それによっては一大事になるやも知れない。
「門は白い輝きを放ちました。そして気がつくと、ラマダ公国の湖の近くに立っていたのです」
「その、孔明殿が立っていた馬車の近くに、門は無かったのですか?」
 マチュアは慎重に、言葉を選んで問いかけてみる。
「はい。何もなく、ただ私は立っていました。行く当てもなく森を彷徨っていた所を、森で狩をしていたライオネル様に助けられたのです」
「それは何年まえですか?」
「そうですね。あれから4年は経ちます。故郷がどうなったのか全く情報がなかったのですが、偶然旅をしていた扈三娘こさんじょうさんと出会いまして」
 最初の動揺も落ち着いたのか、今は穏やかな表情で話を進めている。
「今に至ると言うところですか」

――コクリ
 と頷く孔明。
「今、蜀や我が君がどうなっているのか、それさえも分からないのです。せめて無事ならば良いのですが」
「そうですね。遠き地なれば、祈りが届けば」
 と告げで言葉を止める。
 地図もない座標も分からない。
 加えて言ったこともない地になど、転移門ゲートを安定させることなどできない。
 大陸を超えた先の魔門など、到底想像もつかないあのである。

(道標になるものでもあれば。いや、それも私の作ったものでないと駄目だから、やっぱり無理か)

 コッソリとGPSコマンドをつかうが、やはり無理。
 この大陸でも、まだ行ったことがない場所の方が多すぎるのである。
 ましてや、海の向こうの大陸など想像を絶する。

 やがてミストやケルビム、ライオネルの話し合いも終わったらしく、三人でこちらに歩いてくるのが見えた。
「はぁー。疲れましたわ。マチュア、何か甘いものない?頭を使うと甘いものが欲しくムグムグ?」

――ポン
 と空間からどら焼きを取り出すと、ミストの口に放り込む。
「ほう。マチュア殿、ワシにも一つくれぬかのう」
「ワシもだ。カナンの菓子にはわしも興味がある」
 と子供のようにせっつくので、マチュアはため息をつきながら、バックから次々とどら焼きを出した
「少しずつ食べようと思ってたのニィィィィ」
「美味いものはわかち合わなくてはダメじゃ。うむ。これは美味いのう」
「本当だ。謀だけでなくこの様な才能があるとはな」
 てんで好き勝手を告げる一行。

 やがて楽しかったパーティーも終わりがやって来た。
 軽い挨拶が終わると、ライオネル大公と孔明、扈三娘こさんじょうは馬車に乗り一路ラマダ公国へと帰還する。
 それを見届けると、マチュアはミストどケルビムを転移門ゲートで送還し、自分たちも帰り支度を始める。
「さて、此処からがある意味本番だから、気合い入れてね」
 とファイズとゼクスに告げると、マチュア本人も戦闘スタイルで空飛ぶ絨毯に乗る。
 同じく帰り支度をしていた貴族たちは、マチュアの空飛ぶ絨毯に興味津々のようである。
 が、おいそれと近づいて聞くこともできず、遠目から眺めているだけである。

――ファサツ
 と絨毯がゆっくりと飛び上がると、マチュアは急ぎ結界を発動したのである。
 空飛ぶ絨毯の周囲が結界に包まれると、マチュア一行は街道を急ぐことにした。
「夕方の狙撃が失敗したので、必ず仕留めに来ると思うよ‥」
 と軽く告げるマチュア。

――ピッピッ
『こちらツヴァイ。予想外の状況に突入。影潜りがバレたため、緊急退避します』
「まあ、忍者の技だから東方ではバレる可能性があるって、斑目に教えてもらったからなぁ」
『違います。影の中の私の魔力を感知されたのです』
「いや、影潜りは自身から発する魔力や生体反応を遮断するはずだぞ、そいつどんな能力しているんだ?」
『わ、分かりません。このような事は初めてでして‥‥これ以上の潜伏は危険と判断。一度撤退します』
「承認」
――ピッピッ

「という事だ諸君。私の切り札の一つが潰された」
「全くシャレになっていませんが」
「マチュア様の切り札は全部でどれだけあるのでしょう?」
 と問いかけて来た時。
 街道前方に深々とローブを着た人物が立っている。
「カナン魔導王国のミナセだな? 誠に申し訳ないが、此処で死んでもらう」
 と叫ぶと同時に、前方に魔法陣が形成された。 

――キィィィィイン
「気をつけろ、古い召喚の魔法陣だ。かなりヤバいのが来るぞ」
 と叫んだのも束の間。
 魔法陣から姿を現したのは、マチュアはよくご存知の魔族である。
 
  山羊の頭と4本の腕を持つ、人型の魔族レッサーデーモン。

 しかも全部で三体のレッサーデーモンが魔法陣から姿を現すと、こちらを向いて走り出したのである。
「ハーッハッハッハッ。これは古の地メナスより召喚したレッサーデーモンという魔族だ。貴様たちの貧弱な装備では、傷つく事は決してない」
 自信満々に叫ぶ。
「ゼクス、絨毯のコントロール。ファイズは一体引き受けて。あとは私がやるから」
 と突然絨毯から飛び降りると、マチュアは拳を握ってレッサーデーモンに向かってパンチ一閃。

――ドゴォォォォッ
 一体のレッサーデーモンは、踏み込んだマチュアの一撃で肉片に変わる。
 そして、素早くもう一体のレッサーデーモンを見据えると、マチュアはトントンとステップを始める。
「きっ、貴様、生身でレッサーデーモンの魔法防壁を破壊するだと?」
 恐らくは切り札であったのだろう。
 目の前で自慢のレッサーデーモンが、見た目魔術師の女性に一撃で破壊されたのである。
 その動揺は計り知れない。
「あ、これ弱い方だね。魔族を召喚するときは、召喚先に濃い魔障空間を作らないと本当の力を発揮できないよ」
 と笑顔でアドバイス。
「うるさい黙れ黙れ。まだ一体が倒されただけだ。貴様とて、二体同時になど‥‥」

――ズババババァァァッ
 と、もう一体のレッサーデーモンは、後方でファイズがミスリルのロングソードで切り刻んだ。
「マチュアの作った方が性能いいですけれど。これは駄目だ」
 と笑いながら呟く。
「ま、まだだ。まだこちらには‥」
 と魔道士らしき男が呟いたとき。

――ゴゴゴゴゴ
 マチュアの背後に、突然巨大な魔族が姿をあらわす。
 全長10mの巨大な魔族。
 その岩のような深い緑色の体躯と巨大な翼、捻れた角と無機質な感じをうかがわせる人ならざる顔。
『カァァァァァッ』
 と直下のレッサーデーモンを睨み付けると、口から魔障を吐き出す。
 メイド・イン・マチュアのグレーターデーモンである。

「こちらには?」
 ニィィィィィッと、久しぶりの悪い笑顔で告げるマチュア。
 そのグレーターデーモンの姿を見て、最後のレッサーデーモンは跪いている。
「ば、馬鹿な。上位種だと? そのようなものをどうやって従えてのだ?」
「さあね。さて、お前は大きな間違いを一つ犯している。それが何かわかるかな?」
 マチュアは魔道士らしき目の前の男に告げる。
「お前に手を出したことか? フン、それぐらい覚悟がなくてやっているとでも思っているのか?」
 手にした杖に魔力を循環させる。
 と、レッサーデーモンは頭を抱えて立ち上がると、グレーターデーモンに向かって殴りかかった。

――ドゴォォォォッ
 それはグレーターデーモンには届かなかった。
 殴りかかってきたレッサーデーモンは、グレーターデーモンの蹴りではるか向こうに吹き飛ばされた。
 やがて黒い霧となって消滅したのである。
「あ、あれ、殺したの?」
 とグレーターデーモンに問いかけるが、頭を左右に振る。
「まだあっちの世界については未知なんだなぁ。で、お前の間違いは一つ。レッサーデーモンのいる世界は『メレス』だ。『メナス』ではないっ」
 その指摘に顔を赤らめて震える。

「う、うるさいっ、黙れっ、私に意見をするなっ」
 再び足元に魔法陣を生み出すが、魔力が足りないのか、それはすぐに消滅した。
「うん、その言葉は死亡フラグだよー。そろそろ降参してくれない?正直、さっきも城塞で殺されかかってるし、今回だけは許したくないんだよね~」
 拳を握ってグルグルと振り回す。
 そしてゆっくりと近寄っていく。
 一歩、また一歩。

(ファイズ、こいつが転移して逃げるようなそぶりをしたら取り憑いて。逃げた先に転移の魔法陣でここと繋がるから)

『了解しました』
 と返事を聞いて、マチュアは足元にまず一撃。

――ドゴォォォォッ
 と大量の土砂が吹き飛び、やがて上空から降り注ぐ。
「さあ、掛かって‥あれ?
 眼前では、今の一撃がよほど恐ろしかったのであろう、恐怖のあまり気を失っている。
「仕方ないか。地下まで運ぶから手伝って」
 と足元に転移門ゲートを発動すると、マチュアは取り押さえた魔道士をつれて、カナンへと転移した。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 カナン城地下。
 ここには、マチュアが魔法で作った秘密の階層がある。
 まあ、大地操作で穴を作って固定し、入り口を塞いだだけであるが、内部には魔法防壁を施してあるので内外からの侵入は転移でしか行えない。
 万が一用にそこに牢を作り、簡単な独房を完成させてあったのである。
 普通の犯罪者なら巡回騎士の詰所地下やこの王城地下にも作ってあるが、今回のように緊急時にはこのような施設に送り込む事にしている。
 もっとも、本来は秘密基地が作りたかっただけなのだが、色々と忙しかったので放置してあった。

「ん‥‥こ、ここは?」
「ここは地獄の一丁目だっ」
 意識がようやく戻ったらしい。
 男は目の前の鉄格子を見て、自分の置かれている状況を理解した。
「なぜ殺さない?」
「クックックッ。貴様には色々と教えてもらいたいことがある。素直に話せば良し。さもなくば地獄の苦しみを味わうことになる」
 と特撮ヒーローの悪役かよと突っ込みたくなるほどの悪役ぶりである。
「ふん。貴様などに話すことはない。殺すなら殺せ!!」
 とマチュアを睨み付ける。

「それだ、そうなんだけどなぁ。どうしておっさんの『クッ殺』しか見られないんだかなぁ」
 といきなり砕けるマチュア。
「まあまあ、殺す気はないよ。取り敢えず食事でもどうぞ」
 と牢の中に食事を差し入れる。
「ふん。毒でも持ってあるのだろう?その手にはのらぬ」
 出された食事を無視して沈黙する。
「よし、ファイズとゼクスちょっとこっちに来て頂戴」
 とマチュアが部屋の隅っこに二人を呼ぶ。

『はぁ、一体何のようだ?」
「何か問題でもありましたか?」
 と素直にやってくる二人。
 マチュアはというと、腕を組んで眉間にしわ話を寄せて困っている。
「問題というか、私、拷問とか嫌いなんだよね。この後、どうやって情報聞き出したものか、何か意見か提案ある?」
 と呟く。
「あの、魔族とかはあれだけ殺しまくったのに、何で今更」
「だから、あれだって最後は蘇生したじゃん。あんまり殺したくないのよ、わかるかな?」
「でも、カナン郊外に狩りにはいきますよね?  ワイルドボアとかノッキングバードとか」
「あれは食材でしょ?」
 この意見の相違。
 人を傷つけると罪になるという、日本人思考がここで歯止めになっているらしい。
「では、マチュアは上に戻っていて下さい。あとはファイズがやりますから。兎に角情報を引き出すのですよね?」
 とゼクスが困った顔で話す。

――パンッ
 と手を合わせて二人を拝むように頭を下げるマチュア。
「宜しくっ」
 とそのまま逃げるように転移すると、マチュアは一旦、王城の執務室へと戻っていった。

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