異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ

幕間の8 ゆうしゃロットの冒険

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 いつもの日常。
 かーちゃんが僕から大切な毛布を取り上げるところから、僕の冒険は始まる。

「ロットー、早く起きて甕から水を汲んできてね」
「わかったー」
 素早く伝説の鍛冶師ストームの作った幻の防具、勇者ロットの装備を身につけると、僕は階段を飛ぶように駆け下り、台所の横にある水甕を覗き込む。
「みずがめはからだったー」
「そうなのよ。朝のお水汲みは勇者の仕事でしょ?」
「まかせるのだ」
 ドンと、胸を叩くと、僕は近所の共同井戸に桶を持って走り出した。
 やがて大勢のおばちゃん達がいる井戸に到着すると、僕は素早く井戸についている水汲み用の木桶を井戸に向かって放り投げた。

――バシャーン
「かいしんのいちげきだ」
 木桶が沈んだら、滑車に繋がっているロープを引っ張って井戸から水を汲みあげる。
 一昨日まではこの水汲みが大嫌いだったけれど、今は違う。
 この勇者の装備を身につけてから、僕は強くなったんだ。
「うんしょ、うんしょ」
 二回井戸から水を汲むと、持ってきた桶が一杯になる。
 それを転ばないように慎重に持っていかなくてはならない。
「あら、今日も早かったわね。流石勇者ね」
「ゆうしゃろっとには、これぐらいへっちゃらなのだ」

――グゥゥゥゥ
「あら、お腹はへっちゃらではないみたいよ」
「あさごはんをたべるまえに、かおをあらってくるのだ」
 僕は急いで井戸まで戻ると、飲食用の井戸ではなく洗濯などで使う方の井戸に向かう。
 そこで急いで顔を洗っていると、近くに住んでいるミアが姿を現した。
「おはようゆうしゃさん」
「おはようだ。ミアもげんきだ。あとでぼうけんにいくのだ」
「うん。それじゃああとでねー」
 今日はどうしても行きたいところがある。
 その為に装備も整えてきたのだ。
 この街に住む、勇者の装備を作る事ができる伝説の鍛治師ストームによって作られた、僕専用の武具。
 これがあれば怖いものはないのだ。

――カチャカチャッ
 と、朝ごはんの皿に盛りつけられているニンジンを横に寄せるロット。
「おや? ロット、好き嫌いは駄目だぞ」
「ちがうのだ、ゆうしゃさいだいのじゃくてんのニンジンなのだ」
「勇者ロット、お母さんからのお願い。ニンジンを退治して頂戴」
「わ、わかった……のだ……」
 僕は頑張って強敵のニンジンを退治すると、隣の魔法使いミアと一緒に冒険者ギルドに向かった。


 そこは大きな建物だった。
 冒険者というのは、此処で色々な仕事を受けると教えてもらった。だから僕もここで勇者の第一歩を踏み出すのだ。

「ゆうしゃロットとまほうつかいミアだ。しごとをもらいにきた」
 奥の受付カウンターから、冒険者ギルドの受付の人がやってきた。
「あら、ロットとミア。今日もきたの?」
「きょうは、しっかりとそうびもととのえてきたのだ」
「わたちも、そらとぶほうきもってきたよ」
 僕とミアは、自慢の装備を受付の人と近くにいた冒険者に見せた。
「そっか、なら勇者にぴったりの仕事を探さないとねー」
 と受付のお姉さんは、依頼書と言う仕事の書かれている羊皮紙を一枚手に取ると、横にある酒場に向かって何かを叫んだ。
 それは僕には聞こえない。
 何故なら、酒場はたとえ僕が勇者でも、大人にならないと入っては駄目らしい。
「はいはいと。それじゃあ行きましょうか?」
 やってきたのは猫族の獣人のシャムさんだった。
「ではいこう」
 とミアは、空飛ぶ箒にチョコンと座ると、ふわっと伸び上がってゆっくりと進んだ。

――ザワザワッ
 その瞬間、冒険者ギルドの人達の視線がミアに注がれた。
「み、ミアちゃん? その箒はどうしたの?」
「まほうつかいのししょうにつくってもらったの。まちゅあさんだよ」
「ま、マチュアって、馴染み亭のマチュア?」
 コクリとミアは頷いた。
「伝説の魔導器よね、これ」
 とシャムが周りの冒険者に問いかけると、周囲の大人達はコクコクと頷いている。
「でも、ぼくのそうびもすごいんだぞ。でんせつのかじし、すとーむがつくったんだ」
 慌てて奥から大勢の人が飛んでくる。
「ロット君、ちょっと見せてもらえるか?」
「よかろう」
 どうだミア、ストームの方が凄いんだぞ。
「ミスリルだよな、このパーツ」
「武器がよくわからないんだけれど、ストームと言うことは、まさかアダマンタイトか?」
「これはドラゴンレザーだよなぁ、以前馴染み亭に置いてあった見本と同じだ」
 と動揺している。
「ではそろそろいこう!!」

 今日の仕事は、北東門の外に生えている薬草の調達らしい。これも勇者の大切な仕事だ。
「では、これが見本です。今日はこれと同じ薬草を10個探します」
「分かった」
「はーい」
 僕とミアは返事をすると、近くの草むらで薬草を探した。
 途中でお腹が減ったので、シャムさんが持ってきたお弁当を分けてもらう。
 なんとか夕方までには、薬草を10個見つける事ができた。
「よし、それじゃあ冒険者ギルドに戻りましよー」
「おー」
「はーい」
 元気に返事をすると、僕たちは冒険者ギルドに凱旋した。
 目的を果たした勇者が戻ることを凱旋って言うのを、お父さんから教えてもらったのだ。
「お、勇者様御一行の帰還だ」
 冒険者ギルドでは、大勢の冒険者達が僕たちの帰還を待っていた。
「はい、これが今日の報酬ね。でも、まっすぐにお家に帰って、お母さんかお父さんに見てもらうのよ」
「うむ。それじゃあありがとうございました」
「ごじゃました」
 僕とミアは報酬の入った小さな袋を受け取り挨拶すると、急いでうちに帰る。
 先にミアを送っていくのは、男として当然だとお父さんに教えてもらった。
「いつもミアと遊んでくれてありがとうね」
「うん。じゃあまたね」
「またねー」
 僕は急いでうちに帰ると、お母さんに冒険者ギルドから預かった袋を差し出した。
「これがきょうのほうしゅうです。てをあらってきます」
「はいはい。あら、随分と入っているわね」
 僕は手を洗ってから自分の部屋に戻ると、そこをベースキャンプにして野営の準備をした。
 やがてお父さんがご飯だよと呼んだので、ご飯を食べることにした。
「ほう。ギルドで仕事をしてたのか」
「そうだ。ゆうしゃはちゃんとがんばったんだ。パーティーもくんだんだよ」
 その日は僕の英雄譚で盛り上がった。そしてお腹が一杯になると眠くなったので、寝ることにした。
「おとうさんおかあさん、おやすみなさい」
「はいおやすみなさい」
「勇者は明日も冒険か?」
「あしたはゆうしゃはおやすみです」
 もう眠い。
 ミアと、シャムのお姉さんと、楽しい冒険だった。
 また今度、ワクワクする冒険に……。
「むにゃむにゃ……」


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 その日、サムソンの冒険者ギルドに新しい張り紙が貼り付けであった。

『新人冒険者育成について』

 と書かれた張り紙には、冒険者登録を終えたばかりの新人冒険者と同行して、彼らを鍛え上げると言うものである。
 基本は任務の手伝いだが、同行するベテランは可能な限り手を出さず、必要ならば彼らにアドバイスする事で初心者自身で任務を遂行するように努めなくてはならない。
 カナンではこの制度がかなり効果を出したらしく、サムソンでも新しく取り入れることになったらしい。

「ティルナノーグの一件があちこちでも知られてきたから、いい機会だとは思うぜ」
「違いない。我々ベテラン勢もそろそろ楽をしたいからなぁ」
 とそんな馬鹿話をしている。
「でもよ、巷の子供達が最近勇者ごっこして遊んでたりするのを見ると、そのうちここにも来るかもしれないなぁ」
「勇者ナニガシです、仕事を受けにきたってかぁ!!」
「新しい国王様は、その辺まで考えているみたいよ。ほら」
 ともう一枚の書面も壁に貼り付けるギルド員。


                     告知        

 もし子供達が冒険者ギルドにやってきた場合、お使いクエストでも薬草採取クエストでも構わない、ベテランが同行して行って欲しい。
 注意点は以下の3つ。これを確実に守って欲しい。

・子供達だけで街の外に行く事がないよう、言い含めるように。
・この場合の報酬は一人当たり金貨二枚、子供達には銀貨を二枚。但し、これは保護者にちゃんと届けるように子供たちを説明するように。
・保護者にもきちんと一筆、お礼を書くように        

 この張り紙を貼り付けた翌日。
 勇者ロットが冒険者ギルドに姿を現した。
「勇者ロットと魔法使いのミアだ。仕事を貰いに来た」
 はいはいと、冒険者ギルドの面々は笑みを浮かべながら相手をした。
 平和な今だからこそ、この依頼を受けようと。 

 そしてこれが、のちに竜魔戦争と呼ばれる大陸すべてを巻き込んだ戦争を平定した、剣聖ストームと白銀の賢者マチュアとともに戦った『時の勇者ロット』と『大魔導士ミア』のデビューであった。

                            
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