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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ
浮遊大陸の章・その8 地獄の特訓と帝国の決断
しおりを挟む場所はエル・カネックの元老院に戻る。
マチュアと分かれたのち、ストームは慌ててエル・カネックの元老院へと戻って来た。
応接間には誰もいなかったので、一旦受付に戻るとグレン達との謁見を再度申し入れる。
これは直ぐに受理され、三十分後にはグレンとワンチェイン、ライノスの三名がポイポイさんを伴って応接間にやって来た。
「置いてきぼりは酷いっぽい」
プウッと頬を膨らませながらポイポイがそう呟く。
「まあ、その件については俺が悪かった。と言うことで、仕事の続きだ」
「仕事?」
「ああ。ポイポイ達は俺と仕事の契約したよな? その続きをするだけだ。と言うことで、大変お騒がせして申し訳ない」
応接間に戻って来たグレン達に頭を下げるストーム。
「いや、それは構わぬよ。余程の緊急事態なのだろう?」
とグレンが告げるので、ストームはマチュアの体験して来た事を説明した。
‥‥‥
‥‥
‥
「馬鹿な、あの封印の中に入れるなんて」
「それよりも問題なのはファウストが現在だったと言う事だ。完全体にはなっていないようなので、まだ勝機はあると言うところが救いだな」
ワンチェインの言葉にライノスが続いた。
「ええ。と言う事で、俺は忙ぎラグナ・マリアに戻ることになったのです。今後も情報交換の為にここに来る必要があるので、この転移の祭壇は此処に置いていきたいのだが」
というストームの提案には、三人が腕を組んで考え始める。
過去に起こった出来事と今現在の危機。
それを考えると、素直に聞き入れることは出来ないようだ。
「ストームが此処に来るのなら、直接来られるように割り符を発行してあげよう。それを使えば回廊の試練は必要ないし、割符に魔力を注ぐことで、いつでもここの正門まで転移することも出来る。なので、此れは外して欲しいのじゃが」
やはり外界との接触は拒む模様である。
「分かった。これは俺には外せないので、俺の相棒が此処に来ることだけは許可して欲しい。その時にはこれは外させるので」
「その者は、信用に値する者なのか?」
グレンが訝しげに問い掛けるが、ストームは笑いながら一言。
「この世界で、俺が最も信頼している友達だ」
その言葉に、グレン達は笑顔に戻る。
「よしよし、ならば割り符は二つ作っておく。本来は商用で来る者達用なので、他言無用じゃぞ」
「それ、ポイポイも欲しいっぽい」
「ポイポイはターキー達と来られるではないか」
とワンチェインがポイポイに諭す。
「分かったっぽい。で、仕事って何するっぽい?」
「それは後ほど。と言うことで、俺たちは此処で失礼します。割り符は次に来た時に頂ければ幸いです」
「ライノスさん、ターキー達が戻って来たら、宿屋で待っているように伝えて欲しいっぽい」
と告げるストーム達。
「ああ、宿に伝言は伝えておく」
「それでは、気をつけてな」
「また新しい情報が入りましたら、教えて下さいね」
グレンとライノス、ワンチェインが頭を下げる。
「了解いたしました。それでは失礼します」
とストームが頭を下げてから、二人はサムソンに転移した。
――という事でサムソン
「と言うことでポイポイさんです。マチュア、この子に忍者の全てを叩き込んで欲しいのだが」
「はぁ、突然ですねぇ。ちょっと待ってね」
サムソンに戻ったストームとポイポイは、ストーム宅で解析を行っていたマチュアにそう話しかけた。
深淵の書庫の中のマチュアはというと、ちょうど封印の水晶柱の上から施す新しい術式の作成を行っているところであったのだか、ちょうど行き詰まっていたようである。
「ほほう。この子も明日の特訓に参加するの?」
「実力は幻影騎士団に準ずる。あのダンジョンでレッサーデーモンやグレーターデーモン相手に三人で戦える猛者だぞ」
とストームがとんでも無いことを告げているが、ポイポイは上の空である。
「ストームさん、レッサーデーモンでなーに?」
「エル・カネックの回廊であった、あの腕が4本ある魔族のモンスターだ。ターキー達と戦っただろう?」
「あー、あのそこそこ強かった奴だ。今なら一人で大丈夫っぽいよ」
それマジですか?
と鳩が豆鉄砲くらったような表情のマチュア。
「エル・カネックに向かう回廊が試しの回廊というものらしくて、ワイルドターキーとズブロッカ、ポイポイの三人にはそこで俺が特訓つけてやったんだ。時間がないから先導者の技術を全て駆使してな」
「その結果がこの子ですか。どれ、それじゃあ」
と言うことで、マチュアは今の外見で忍者にモードチェンジ。サブクラスには修練拳術士と賢者をセットすると、素早くポイポイに向き直る。
「ドーモポイポイサン、白銀ノ賢者マチュアデス」
合掌して頭を下げるマチュア。
挨拶は大事。
「どーもマチュアさん、ポイポイです」
慌てて合掌すると、同じく挨拶を返すポイポイ。
「そんじゃ、鍛冶場前の空き地でやりますか。ポイポイさんこっち来てね」
「はーい。何するっぽい?」
と空き地に移動する二人。
そしてマチュアはツインダガーを構えると、ポイポイに一言。
「本気で掛かっておいで。私に一撃入れられたら最高のご褒美をあげる」
「ご褒美!!」
と目の色が変わった瞬間、ポイポイの姿が消えた。
「はぁ? って、こっち?」
――ガギィィィン
一瞬でマチュアの死角に回り込み、素早くダガーで切り掛かって来るポイポイの一撃を、どうにか受け止めたマチュア。
「ス、ストーム、この子何者デェスカ!!」
動揺のあまりオンドゥル語になるマチュア。
「オールラウンダーでマスター忍者の適性持ちだ」
――ガギィィィン、ガギィィィン
両者間合いを取りつつのヒットアンドウェイ。
必死に攻撃を受け止めていくマチュアと、その受け止められるであろう攻撃の軌跡をあえてずらしてくるポイポイさん。
慌ててマチュアが『瞬歩』で後方に飛ぶと。
「ふんっ、闘気手裏剣っ」
と自らの闘気から生み出した手裏剣を放つ!!
――ヒュウウウン
次々と飛んでいく闘気手裏剣を、ポイポイは手にしたダガーで弾き飛ばす。
「なん‥‥だと?」
闘気手裏剣は、物理的には弾き飛ばすことが出来ない。
無意識のうちにポイポイさんはダガーに闘気を流しているようだ。
―ードシュッ
だが、受けきれなかった闘気手裏剣がポイポイに直撃したが、瞬時にポイポイの姿が消滅し、毛布の塊に変化する。
「なっ、空蝉の術?」
「あったりー、っぽい」
「ぬあっ!!」
上から声が聞こえたので、咄嗟に躱すマチュア。
今の声が聞こえなかったら、確実に一撃受けていたであろう。
「ま、マジですか」
慌て間合いを取ると、マチュアは高速で韻を紡ぐ。
「分身の術っ」
瞬時にマチュアが三人に分かれる。
「これならいける」
と間合いを取った瞬間。
「ひーっさつ、無限刃・真空衝撃波落としっ!!」
――ズドドドドドドッ
ポイポイの放った衝撃波が、マチュアの分身達を全て同時に破壊した。
扇状に飛来した衝撃波、ストームの『無限刃』の衝撃波版である。
――ピッ
と衝撃波の一つがマチュア本体の頬を掠めたのである。
「あ、あっれー? こんなのアリなの? 忍者適性持って、侍の攻撃力、聖騎士並みの闘気コントロールって、ウォルフラムより強いやん」
「だろ?」
とストームがドヤ顔である。
「マチュアさん、約束通りご褒美頂戴っ」
両手をマチュアに差し出すと、ポイポイはニッコリと笑う。
「あ、明日の朝、ポイポイさんも特訓に参加してね。その時にあげるよ」
「分かったっぽい。それじゃあ、今日は疲れたので明日の朝、ここに来たらいいの?」
とポイポイが二人に問いかける。
「ああ。後日ワイルドターキーたちにも参加してもらうか。じゃあまあ明日な」
とストームか告げると、ポイポイは近くの宿を探しに向かった。
「なあストームさんや、ファウストといいポイポイさんといい、なんでこんなに強いのが出てきたのかしらねぇ?」
「さあな。でも、いまのポイポイの攻撃を見ていたけれど、まだまだ甘いぞ。マチュアが弱くなったのじゃないか?」
とストームが笑いながら馴染み亭に戻っていった。
「ば、馬鹿な‥‥そんな‥‥」
と慌てて深淵の書庫を起動して調べる。
特にマチュアに弱い部分はなく、マチュア自身が純粋に近接型よりも術士型に傾いてきただけである。
ちなみに修練拳術士をメインに持ってきたら、楽勝で勝てるとの結果が出たので、どこかでポイポイさんを侮っていたという結論に達したもよう。
「あーやだやだ。油断大敵だねぃ‥‥」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
そして翌朝。
闘技場に転移したマチュア達三人は、そのままシルヴィー達六王が集まって歓談している席へと向かった。
ちょうど6王全てがいたので、これ幸いにシルヴィーに近づいていく。
「おおおおおおおおお王様っぽい!!」
ポイポイはその光景に動揺してカチンコチンになっている。
「おはよう。今日も元気ぢゃのう。と、この子はなんじゃ?」
「いやー、これがまた昨日ちょっとありまして。この子の強さを見てあげたのですが、一撃受けてしまいましたわ、はっはー」
「ふん、マチュアの事だから手を抜いたのぢゃろう?」
とシルヴィーがつぶやくが。
「いや、あれは完全に油断したよな。途中は、かなり本気だったぞ」
とストームが告げる。
マチュアは面目ないという表情でシルヴィーに頭を下げる。
「ほう」
とシルヴィーの目が丸くなる。
「それで、この子に、ご褒美を上げないと行けないのですよ。そういう約束なので宜しくお願いします」
「分かった。その方、名をなんと言う?」
「ぽぽぽぽいぽいっぽい」
「ポイポイさんです」
動揺が酷いポイポイ。
「よし、ポイポイよ、今日から貴公も妾の騎士団の一人ぢゃ。依存はないな?」
「あ、ああありがたいお言葉っぽいけど、ポイポイは仲間がいるっぽい」
両手を前に出しブンブンと振るポイポイ。
「ストーム、仲間の実力は?」
と笑顔でストーム問い掛けるシルヴィーだが。
「ポイポイより上。ドワーフのワイルドターキーには、俺が侍の全てを教えたから実力は剣豪・斑目と互角。もう一人はマチュアに魔法を叩き込んで、いや、アンジェラに頼むか。基礎ならば十分に通用するぞ」
そのストームとシルヴィーのやり取りをみながら、ポイポイは一歩前に出ると
「恐れながらー、ポイポイは国に囚われた騎士は苦手っぽい。自由がいいっぽい」
と二人に告げた。
「あ、妾の騎士団は、普段は何しても構わんぞ。冒険者として冒険に出ても構わないぞ。ただ、妾が呼んだ時にやって来て、仕事をしてくれればそれで良い。自由な騎士ぢゃ」
その言葉にパアッと笑顔が溢れるポイポイ。
「憧れの自由騎士っぽい。ポイポイやるっぽい」
「なら、今日この時から、ポイポイは妾の専属騎士団、幻影騎士団の一員ぢゃ。今日から頼むぞ」
「シルヴィー女王の専属騎士団っぽい、カッコイイっぽい。幻影騎士?」
とシルヴィーに問いかけるポイポイ。
「うむ。騎士団長はストーム、参謀はマチュアぢゃ。良かった良かった。後日正式に叙任するので、今は借りの登録に向かうとしよう。ついて参れ」
「分かったっぽい」
とルンルン気分でシルヴィーに着いて行くポイポイ。
この後、闘技場入りしたレックス皇帝の元に連れていかれ、正式に幻影騎士団に叙任したのは言うまでもない。
「こんなの聞いていないっぽーーーーーい」
と、どこからともなくポイポイの絶叫が聞こえてきたとか聞こえなかったとか。
○ ○ ○ ○ ○
――ハッハッハッハッハッハッハッハッ
闘技場の内部を走る大勢の騎士団。
軽装鎧に身を包んだ様々な騎士団員が、ただひたすら走っている。
一周が大体450mの闘技場の内側を、ただひたすら走っている。
「うむ、今ので15周ぢゃ!!」
とスタート地点でシルヴィーが叫ぶ。
その横では、既に体力切れで座り込んでいる騎士団が大勢待機していた。
「体力が戻ったら、すぐに戻ってきてかまわないぞ。魔導兵団は最低10周。他の騎士団は20周は走れよ」
と余裕の表情のストームと、最後尾でハリセンを持ってついていくマチュア。
「限界が来たら下がっていいよ。一休みしたらまた再開ね」
とこちらも余裕の模様。
「す、ストーームどのー。この運動に一体なんの意味が‥‥こんなことをするよりも‥‥少しでも強い技を‥‥」
「阿呆か。スタミナがなくて戦えるかよ。まずお前たちはスタミナを付けるところからだろ」
と叫ぶ。
現在ついてきているのはブランシュ騎士団が7割、テンプル騎士団5割。ブラックロータス騎士団はまだ脱落者2名のみ、ハーピュレイ魔導兵団は全滅である。
そしてシュヴァルツ騎士団は騎士団長と副騎士団長の二人のみが残っている。
新しく入ったポイポイさんを含む幻影騎士団はすでに20周を終えてストレッチの最中。
皇帝近衛騎士団は今回の特訓の基礎部分は免除である。
「シュミッツ殿。どーしますか?」
とストームが走りながら、シルヴィーたちの待機している席に問い掛ける。
「規定の20周を終えたものから、次の訓練過程に進んでよし」
と冷たく言い放つ。
「では、ストームはそっちの闘技場の内側で続きを。私が‥‥このダメっ子騎士団の相手をしよう」
とマチュアが疲労困憊で座り込んでいる方に近寄る。
「お、俺達は剣聖殿の訓練を受けるためにいるんだ‥‥賢者風情が‥‥」
と相変わらずの減らず口を叩く騎士達。
――シュンッ
と真紅の鎧を身に着けた、暗黒騎士モードのマチュアがそこに立つ。
「よしよし、その減らず口を吐く余裕があるのなら、かかってきな。あんた達ひよっこ騎士程度、私で十分だよ。私を参ったといわせれば、ストームの方に参加させてあげるよ」
といつもの悪い笑顔で告げるマチュア。
「よ、よーし。それなら。賢者が鎧を着たところで、正騎士である俺たちに叶うはずがないっ」
と気合を入れて立ち上がる騎士たち。
「あー、シュミッツ殿、ちょっと腹がたったので本気でやっていいすか?」
とマチュアが頬を引きつらせながら問い掛ける。
「根性から叩き直してやってくれ」
「大丈夫ですよシュミッツ殿。こんな魔術師風情、一撃ですよ」
とシュバルツ騎士団員が立ち上がって身構える。
「よし、それじゃあ本気でいきますか」
と両手剣ザンジバルを引き抜いて身構えるマチュア。
その光景を、ヘッケラーとコックスは遠くから眺めている。
「あ。あの騎士たち終わったわ」
と呟いたどうかは定かではないが、マチュアが騎士団相手に身構えてから、20分程度でシュバルツ騎士団は全滅した。
「さて、たかが魔術師風情に戦って負けた気分はどう? ね~ね~今の気分はどう? 賢者風情に負けて今どんな気持ち?」
と倒れている騎士たちに向かって煽っていくスタイル。
「そ、そんな武器を使っているからだろう? その武器さえあれば」
と呟いたので。
「ほれ、使えるものなら使ってみな」
と起き上がった騎士にザンジバルを投げる。
――ズゥゥゥゥゥゥゥン
正当な所有者でなければ、ザンジバルの重量は乾重量で200kg弱。
それをホイッと投げてよこしたのである。
どうなるかは自明の理。
重量に押しつぶされて、その場に崩れる騎士。
「そろそろ減らず口を叩くのはやめて、とっとと基礎体力に向かったらどう?」
「まだだ。そもそも鎧とかに魔法の付与があるんじゃないのか?」
まだ減らず口を告げているので。
「シュミッツ殿、こいつら首にしたほうがいいわ。自分の実力を認めない、身分に縋る騎士なんて最低だわ」
と鎧を全てパージしてチュニックに切り替える。
「ほれほれ、かかっておいでよ」
と挑発するマチュア。
「ストーム、いくらマチュアでもあれは不味いのでは?」
と心配するシュミッツに一言。
「装備なしのマチュアになんて、本気の俺でも勝てる気がせんわ!!」
「ハッハッハッ。普通は逆なのではないか? 鎧を脱ぎ武器も持たないなど、完全装備の騎士相手に……」
とシュミッツがストームに問いかけた時。
――ドッゴォォォッ
と剣を抜いてかかってくる騎士に向かって、マチュアは懐に飛び込むと力いっぱいの双掌打を叩き込んだ。
その一撃は騎士の鎧を粉砕し、肋骨さえも砕いた。
「まだ減らず口を叩くなら、自分たちの騎士としての権利を掛けてかかってきなさい。それで私に負けたらあんたたちの騎士位は『白銀の賢者』の名に置いて剥奪させてもらう。それが嫌ならば」
と叫んで闘技場周回を命じるマチュア。
その剣幕に、残っている騎士たちは慌てて走り出した。
そして倒れている騎士に回復魔術を施すと、同じく闘技場を指差す。
「名誉か、死か。どっちを選ぶ?」
ニィッと笑うマチュアを見て、一斉に走り出した。
「それでよし。さて、魔導兵団とテンプル騎士団回復要員の諸君。これから楽しい魔法の訓練を行おうではないか!!」
と笑いながらマチュアは呟いた。
一連のやり取りをみていた魔導兵団と治療師たちは、これから自分たちに起こるであろう地獄のような時間に、思わず天空を仰ぎ見た。
「神よ。願わくば、この特訓で貴方の身元に向かうようなことがないよう見守り給え!!」
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ストームブートキャンプが始まってから一ヶ月。
あの日の特訓の結果、騎士団全体の底上げが必要になったと言う事で、希望する騎士団は闘技場で幻影騎士団による特訓が続けられる事となった。
これにはストームとマチュアも時折参加し、鬼のような特訓が開始された。
シュバルツ騎士団はその数を三分の一に減らし、新しく騎士団に入団するものを集めている。
最も、その入団条件は今までよりも厳しいものとなり、闘技場でのブートキャンプ参加が義務付けられた。
この一ヶ月で、各国の騎士団は見違えるほど強くなっている。
幻影騎士団はアンジェラ以外は単独でのグレーターデーモンの撃破が可能となり、他の騎士団も十人ほどで何とか倒せるようにはなっている。
日夜そのような訓練が続けられている中で、レックス皇帝は一つの結論に達することとなった。
‥‥‥
‥‥
‥
その日、六王の間に召集された諸王とストーム、マチュアの八人は、レックス皇帝の到着をじっと待っている。
「恐らくはティルナノーグの件であろうな。一体どのような事が始まるのやら」
とシュミッツが告げると、ケルビムが一言。
「大凡の想像はできるがのう。もしそうなら、諸王達は忙しい事になるぞ」
「ふむ。何となく妾にも想像は着いた……と、皇帝のお出ましぢゃ」
――ガチャッ
と玉座の後ろからレックス皇帝が姿をあらわす。
それと同時に全員が立ち上がり、一礼する。
「楽にして良し」
との言葉に全員が席に着くと、皇帝はゆっくりと話を始める。
「大凡の想像は着いているであろう、ティルナノーグの件についてだ。この件、そろそろ公表する時期かもしれぬ。それに伴い、冒険者や希望者を募って、さらなる戦力の増強に努めることとする」
ケルビムとシルヴィーは静かに頷く。
「最悪のケースを想定してと思われますが、臣民の動揺と混乱はどのように収めれば?」
「そうだなぁ………」
チラッとストームとマチュアを見るレックス。
「伝説の勇者が再来したとでも公表すれば混乱は収まるのだが、そう言うわけにもいかず。皇帝の選びし列強の騎士団による討伐を行うとでも御布令を出すのが良かろう。封印か解ける予兆があった事と、それを今調べていると言う事、そしてその対処も準備しているとでも伝えれば良い」
嘘偽り全くなしの説明。
もっとも、ティルナノーグの存在自体が伝説でしかないため、案外、大きな混乱はないと思われる。
「諸王の準備は進んでいるのか?」
「ストーム殿とマチュア殿の尽力にて、まずまずの成果を出しております」
とブリュンヒルデが報告する。
「ファウストの半身は?」
「今は再び眠りに就きましたよ。このまま眠っていてくれれば、全く問題はないのですけれどね」
とマチュアが報告する。
「間も無くテンプル騎士団とハーピュレイ魔導兵団合同による、『月の門浄化作戦』が開始されます。これについてはまた後日ご報告しますわ」
「選りすぐりの精鋭で行いますので、問題はないかと」
ミストとパルテノが皇帝にそう報告すると、レックスも静かに頷く。
「では、近日中に公布を行うよう。各ギルドには明日にでも通達、公布までは黙っているようにと念を押しておけ。ケルビム、この件でギルドが怪しい動きをしないよう監視を。シルヴィーとシュミッツは貴族の動向を監視せよ。この手の話があると、必ず良からぬことを考えるものが出る。以上だ」
とレックスの話は終わる。
「俺とマチュアはどうすれば?」
「ストームとマチュアは、そうだなぁ……好きにするがいい。諸王の力になってくれればいい」
立場的にはフリーだが、要である事には変わりはない模様。
「じゃあ、俺はいつも通りで。マチュアは?」
「では私もいつもの悪巧みで」
「ふん、好きにしろ。以上だ」
と笑いながら告げた皇帝の言葉で、会議は終わった。
六王達はすぐにその場から離れ、其々の任務に戻る。
そしてストームとマチュアもまた、一旦サムソンの馴染み亭へと戻って行った。
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