異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ

浮遊大陸の章・その7 真実の答え合わせと、作戦会議

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 エル・カネックの元老院で作った転移の祭壇。
 ストームは、それを使って急ぎサムソンの『馴染み亭』に戻ってきた。
 元老院で得た情報の危険さに、急ぎ対処しなくてはならなくなっていたのだが。


「お、ストームさん、いつ戻ってきたのですか?」
「つい今しがたな。ちょっと急ぐので申し訳ない」
 と馴染み亭の掃除をしていた本店のウェイトレスに軽く挨拶をすると、ストームは急ぎ自宅の扉を開く。

――バン!!
 と室内に飛び込むと、慌てて封印の水晶柱クリア・コフィンを睨みつける。

――コポッ‥‥コポッ‥‥ 
 封印の水晶柱クリア・コフィンの中で、例の少女が膝を抱えて漂っている。
 その瞳は開いたまま、何処か虚空を眺めていた。

「ツヴァイ、いまの状況はどうなっているんだ?」
「これはストーム様、今朝方、この少女が活動を開始しました‥‥未だ封印は解除されていないので、外に出て来る様子はありません」
 とツヴァイがそう回答すると。
「そうか。なら急いでなんとかしないと。マチュアは何処だ?」
「かれこれ二週間ほど姿を見ていません」
「な、ん、だ、っ、てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
 と絶叫するストーム。
「一体何処に行ったんだ? あの阿呆がぁぁぁぁ」
「さぁ? ですが、私が稼働していますので、死んではいませんよ」
 と、あっさり告げるツヴァイ。
「そういうものなのか?」
「はい。私の中に納められている魂のスフィアはマチュア様とリンクしています。私の存在は、マチュア様のストックの様なものですから。マチュア様が生きている限り、魔力が自動的に供給されていますので」
 まあ、今いないという事を確認したので、ストームは次にマチュアのいそうな場所……ラグナ王城へと転移する為に再び馴染み亭へと向かうと、急ぎ王城へと転移した。

――ヒュンッ
 王城地下の転移の祭壇。
 そこに辿り着いたストームは、近くて待機している魔導兵団の魔術師に話しかける。

「幻影騎士団のストームだ。マチュアは来ているか?」
「は、はい。先ほど意識が戻りました。此れから皇帝陛下と六王を交えて、緊急会議が行われます」
「意識が戻った? あいつはどこで何をしていたんだ?」
「ティルナノーグとしか伺っていませんが」
「分かった、そこまで案内しろ」
 と魔術師に案内させると、病棟から出てくるマチュアにバッタリと出会う。
「マチュア、単刀直入に言う。あの水晶中の回復を切れ。あれはファウストと言う‥‥」
「おっけー、全部繋がった。ツヴァイ、水晶柱の回復魔法陣に却下リジェルト掛けて解除、戦闘モードで監視よろしくっ」
 と耳に付けているイヤリングに向かって叫ぶ。

 ちなみに賢者の最上位魔術の一つである却下リジェルトは、いかなる魔術をもなかったことにするというとんでもない魔法である。
 まあ、色々と製薬もあり、呪いの類は不可であったり、すでに発動している魔術については成功率が低かったりする。
 今回の場合、マチュア自身が施した魔術ゆえ、簡単に解除することができきるらしい。
 ちなみにだが、サムソンのツヴァイとはイヤリングで繋がっているらしく、マチュアの声に従ってツヴァイは回復魔法陣を消去すると、戦闘特化型の忍者エンジに切り替わる。

「で、マチュアは何があったんだ?」
「あー、そのファウストと戦って負けたんだよ。色々と制限付きの戦いでねぇ。普通の人間なら死んでるぞ」
 と歩きながら説明すると、真っ直ぐに六王の間へと向かう。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯
 

 緊張した空間。
 六王の間には、緊急招集された六王と皇帝レックスが集まっている。
 ストームとマチュアは新しく追加された椅子に座ると、会議が始まるのをまっている。

「さて、緊急の件と聞いたが、一体何が起こった?」
 とレックスが問いかけたので。
「さて、まずはこの場で魔法を使うことをお許し下さい。映像投射ネコネコドゥーガっ」
 まずは、マチュアが静かに詠唱を開始する。
 テーブルの中央に球形のスクリーンが生み出されると、その中に映像を生み出した。
「これは私が見てきたティルナノーグの映像です。音声も全て再生しますので、しばし御覧ください」

 と告げると、月の門を超えたところからの、マチュアの記憶を流し続ける。
 ティルナノーグの風景や環境、倒れている人々や魔族の姿。
 それらを解析している光景などが次々と浮かび上がると、やがて問題のファウストのシーンに辿り着く。
 六王と皇帝はじっとその映像を無言で見つめている。
 時折『おお』とか『なんと!!』とか合いの手が入るのはまあ余興と思いつつ、最後の戦闘シーンまでの映像が終わった。
 そののち月の門から脱出するまでの一部始終を、六王は目の当たりにしたのである。

「これが私の体験して来た全てです。次はストームから」
「まず、最初に話をさせてもらう。今から見る事、聞くことは全て他言無用、ついでに詳細についても質問不要だ」
 と告げると、ストームもマチュアの作り出した球体に手を添える。
 エル・カネックへと至る過程は全て飛ばし、魔導教会のカラミテと元老院のグレン達との会話の部分だけを思い出し、そこを投射する。
 その話し合いの内容全てを聴き終えると、その場には沈黙が漂う。
「エル・カネックが未だ存在していたとはなぁ」
「ティルナノーグのファウストとかいう魔導士、まさかマチュアよりも上とは」
 と言葉は出るものの、まともな会話にはならない。
「さて。ストームが聞いたファウストの半身についてですが、それは現在私が確保しています。そして私がティルナノーグで戦ったファウストの本体。この二つが揃ったら……恐らく私やストームでも勝てません」
 と笑いながらマチュアが告げる。
「笑って言うことか?」
 とシュミッツが問い掛けるが。
 不謹慎にもほどがあるといいたいのだが、マチュアは笑うしかなかった。
「笑うしかないでしょ?あんな化け物。それが全部で七体もいるんですよ。な、な、た、いっ!!」
「と言う事で、早急に色々と対処する必要がある」
 ストームがそう告げると、レックス皇帝がゆっくりと話を始める。

「さて、二人の戯れもそこまでにして、具体案はあるのか?」
「あ、分かります?」
「当たり前だ。不意打ちに近い状態、加えて魔障濃度に慣れずに魔術のコントロールが出来ていないだけではないか。次は負けることは許さないからな」
 瞬時にマチュアが負けた理由を見きったのだろう。レックスはフンッと鼻息を吹きながらそう告げる。
「だとさ。次は本気で行くしかないな」
「データは揃ったから、次は何とか。で、具体案なのですが、封印が解放されると同時に、各地の月の扉が解放されて魔族がこちらの世界に侵攻します。なので、封印解除時に開く『月の扉』をこちらで指定しましょう」
 とんでもない話を始めるマチュア。
「方法は?」
「私とハーピュレイ魔導兵団、そしてミスト殿で各地の月の門を訪ね、門から魔力を根こそぎ奪います。その上から別の封印を門に施しましょう。そうすれば、アレキサンドラの封印が解除されても、月の門は使えませんから」
「私もですか?」
 とミストが叫ぶ。
「あー、幻影騎士団参謀のマチュアが命じます。やれ!!」
 いつもの悪い笑顔でミストに告げる。
「くっ。此処でその権利を使うかぁ~。私も女王の一人なのよ?」
 やれやれと言う感じで、ミストが諦める。
「話を続けます。マチュアが月の門を閉ざしている時に、こちらでは対魔族用の戦術を考案します。その上で、奴らが此方に向かってくる門で迎撃、通り抜ける数を此方で制御して各個撃破していきます」
 ストームがテーブルを叩きながら説明する。
「そして、敵の目が解放されている月の門に集中している間に、一瞬だけ別の門を解放し世界樹にある『白竜の社』に向かい、魔封じの儀式を行います」
 マチュアはそこまで説明すると一息いれる。
「魔族は自分たちのいた世界との繋がりが絶たれると弱体化してしまいます。強力な魔術などは使いづらくなるので、あとは殲滅するのみですが」
 と話をすると、マチュアは言葉を止める。

「マチュアの得た情報と俺の情報から推測すると、魔族化した水晶の民をも殺さなければならない。世界を救うためという名目の虐殺だ。それが果たして自然の摂理なのかどうかも考えてくれ」

 と説明して、ストームも言葉を終える。
 決定する権限はストームとマチュアにはない。
「諸王よ、意見を述べよ」
 と感情のない声でレックスが問い掛ける。
「いま、まだ魔族が封印されている状態のティルナノーグに向かい、『白竜の社』にて儀式を施せばいいのでは?」
 とブリュンヒルデが告げる。
「誰がいくのですか?」
「それは各騎士団から選抜し、マチュア殿に結界を施して頂ければ」
「それならば、今からでも可能ではないのか?」
「時間を封じる魔術から干渉されないように常時魔力を放出する結界を、人数分ですか」
 とマチュアが問う。
 それにコクリと頷くブリュンヒルデとシュミッツ。
「ではちょっと試してみますか。いまから皆さんにその結界を施してみせます。自身の魔力でそれを維持してみて下さい」
 と告げると、マチュアは立ち上がって深淵の書庫アーカイブを起動し、皇帝を含むその場の8人に空間干渉を遮断する結界を施した。

――ズンッ
 と室内に主苦しい緊張が走る。

「こ、これほどの魔力が削られていくのか‥‥」
 とシュミッツは5分足らずで結界を維持できずにギブアップ。
 全身から汗が吹き出している。
「えーっと、それを維持するのは当たり前で、最悪はそのままファウストとの戦闘に突入するということも考えて下さい」
「無理ね‥‥維持だけで精一杯ね」
 ブリュンヒルデも20分で限界。
 ケルビムは計算上1時間は維持可能らしいが、このままで戦闘は無理と判断して解除。
「戦闘もあると仮定しても、3時間はもたせられないわね‥‥」
「ええ。非戦闘ならば一日は持たせられる自信がありますけれど、これで戦闘までとなりますと」
 パルテノとミストもここで終了。
「シルヴィーは?」
 とシルヴィーを見ると、シュミッツよりも早く解除してしまったらしい。
「無理ぢゃ!!」
 と笑いながら告げる。
「まあ、シルヴィーには期待していないから心配するな。マチュアはどれぐらいもつ?」
「戦闘の度合いにもよるけれど、半月は張りっぱなしで行けるよ。ストームは?」
「いっしゅ‥‥7日ぐらいは戦いっぱなしでもいける」
 と告げている二人。
「それは、あなた達が特別なのでは?」
「ふむ。予もマチュアと同じぐらいは維持できるが、諸侯はまだ鍛え方が足りないな‥‥」
 と涼しい顔で告げるレックス。
「へ、陛下の力量はどれぐらいなのですか?」
 とパルテノが問い掛けるが、レックスは無表情で一言。
「マチュアやストームと同じ程度にはなんとかできる」
 と化物発言をする。
 さすがは皇帝という単語でまとめていいものかどうか定かではないが。

「ということで、ブリュンヒルデ殿の意見は無理です。私が皆さんの結界をコントロールすると、私はそちらに意識が集中するので動けなくなります」
「それは残念ね」
「ならば、そのような結界を施す魔導器を開発すれば?」
 とケルビムが意見具申するが。
「誰が作れるのでしょうか?」
「マチュア殿は出来ないのか?」
「不可能とは申しません。が、どれぐらいの期間で、材料をどれぐらい使うかまったく見当も付きませんわ」
 両手を軽く上げてシュミッツにそう返答すると、マチュアは暫し考える。
「となるとマチュア殿の話をしていた戦術が妥当となりますね。ブランシュ騎士団は期日までに課題をクリアできるように着々と準備は行っています」 
 ブリュンヒルデがそう告げると、パルテノも手を上げる。
「テンプル騎士団は、治療術士の強化も行っていますわ。大半は司祭クラスの治療魔術を使えるようには仕上げたいと思います」
「我がシュバルツ騎士団はすまぬが手間取っている。件のレッサーデーモン戦以降、士気が下がってしまってのう‥‥お恥ずかしい話、マチュア殿があのゴーレムを大量に作ればいいという輩までいるのだ」
 シュミッツは申し訳なさそうに告げる。
「ふむふむ。我がブラックロータス騎士団は常に常在戦場を心がけておるから、その気になればいまからでも戦う意思はある。もっとも、課題をクリアできたものはまだ5名だけだからのう‥‥」
「ふぁ、すでにいるとは思わなかったですよ」
 とケルビムの言葉にマチュアが驚く。
 まさかこの短期間でクリア出来るものが出るとは思っていなかったのである。
「ミストのところはどうだ?」
 とレックスが直接問い掛ける。
「レッサーデーモン程度でしたら、単体で互角に渡り合える魔術師は4名。5名のチームならば、すでに4チーム程が課題をクリアしていますわ」
 と鼻高々なミストである。
「なっ、なんだと? どうして魔術師がそこまで!!」
「いえ、魔術師だからこそですわ。魔族の持つ魔法的な防御壁を破壊すれば、あれはちょっと強い冒険者でしかありませんので」
 とミストが告げた時。
「はい、それ正解。レッサーデーモンの強さは普通の武器では傷がつかないことと、魔法的に高められた防御力のみ。シュミッツ殿が訓練のときに見せた波動オーラを乗せたピンポイント攻撃などは、レッサーデーモンの魔法防御を貫通するので十分に有効なのですよ」
 スト―ムがそう告げると、その場の全員が納得する。
「それでいて、どうしてシュバルツ騎士団は‥‥」
「い、言うな。吾輩としても、自慢だったの騎士団の不甲斐なさに頭が痛いのだ」
 頭を抱えるシュミッツ。

 彼の元を訪れていた騎士達は、王国の騎士としての名誉を望むだけで、実力は基準に満たしていないものが多いらしい。
 結果が、現在のハリボテの騎士達となってしまった。

「シュミッツ殿、何なら一日だけ、俺が訓練を付けてやるか? 本気で強くなりたい騎士の選別は出来るが、最悪の事態も考慮してくれ」
 ストームがそう告げるど、シュミッツは頭を下げる。
「剣聖の指導を受けられるとあれば、参加するものは大勢いるだろう。頼む」
「と言うことだ。明日の朝一の鐘に合わせて、希望者は闘技場に集合。他の騎士団も参加したければ構わない。シルヴィー、幻影騎士団も明日の同刻に呼集。全員参加で」
「うむ。戻ったらすぐに伝える」
 というストーム達の会話を軽く流すマチュア。
「頑張ってねー」
「マチュア、俺は幻影騎士団全員参加といったつもりだが。おまえも暗黒騎士で参加しろ」
「はう? まだ右手治ってませんが」
「ちょうど良い。利き手の使えないマチュア相手にまともに戦えない奴は、ハートマン送りにしてやる」
 拳を握ってニィッとわらうストーム。
「あ、どSモードだ‥‥」

 オンラインゲーム時代、友達を鍛える為に見せたストームの顔。
 超がつくほどのスパルタ教育、ついたあだ名がストームブートキャンプ。

「さて、ティルナノーグについての対処は現在はマチュアの出した案が最も有効だと言うことか。ならばその案で話を進めるとしよう。魔族化した古代種については、我らに敵対するのであれば残念だが斬り捨てるしかあるまい」
 とレックスが告げる。
 それには六王は同意する。
「やっぱりそうなりますか。俺はそれだけは避けたかったのだが、また水晶の民やエル・カネックの悲劇を引き起こすだけに成りかねないのではないか?」
「ラグナ・マリア帝国を統べる者として、我が帝国臣民に敵対する者あらば、それは実力で排除する。それは未来永劫変わることはない」
 ストームに対して、レックスが厳しく告げる。
「あー、そうっすか、寛大な処置ありがとうございます。つまり、魔族化した水晶の民でも、敵対しなければ構わないと?」
 レックスの言葉の真意を素早く見抜くと、ストームはおどけたように告げた。
「敵対する意思なきものは、帝国にとっては何ら干渉するものではない。魔族化したからと言って、全てが悪ではあるまい?」
 マチュアもその言葉には素直に頷く。
「それに、かつて滅びしエル・カネックについても、手を出すどころか干渉することはない。目に見えない国家など、好き勝手すれば良い。必要ならば不干渉条約でも、秘密裏な通商条約でも結んでくれるわ」
 笑いながらレックスが告げる。
 この皇帝はどんな時でも決して怯むことはない。
「ふう。皇帝は飛んだ狸でございます事。では、その言葉を信じることにしましょう」
「それが良い。それに、賢者と剣聖二人を相手にするとなると、我でも無事では済まないからな」
 冗談ともつかない言葉を返すレックス。
「恐れながら陛下、今の帝国では、二人を抑えることはできません…。」
 とケルビムが告げると、その場の全員が爆笑した。
「と言うことで話は終わりだ。エル・カネックの件は口外無用で頼む」
「それじゃあ私は、ファウストの半身を虐めてきますか。右手の件もありますのでねぇ~」
 と告げてストームとマチュアは退席する。
 その場には、レックスと六王のみが残っていた。


 ○ ○ ○ ○ ○


 やがて、ストームも退席し、その場には六王と皇帝しかいなくなってしまった。

「陛下、恐れながら」
「ブリュンヒルデか、どうした?」
 とブリュンヒルデが恐る恐る話を始める。
「1000年前に突如現れた勇者、『吟遊詩人のアレキサンドラ』のように、ストームとマチュアもまた、今の時代の勇者なのではないでしょうか?」
「うむ、それについては我が輩も感じていた。でなければあのような知識と技量は考えられぬぞ」
「二人の生まれなども気になるのじゃが。実は密かにシーフギルドに調査を頼んでいたのじゃ」
 シュミッツの言葉にケルビムも続く。
「それで?」
「全く不明じゃよ。この大陸出身ではない。二人は東方の国と言っていたし、海の向こうの『和の国』のものではないかと推測された」
 ケルビムはそう結論を出したらしい。
「ひょっとして陛下は、二人のことはご存知ですか?」
 とパルテノが問いかけるが。
「『武神セルジオ』と『秩序神ミスティ』が夢の中で私に語りかけてきたことは一つ。『彼らの望むままに、それでいて羽目を外しすぎないように』だ。東方の勇者、実に結構。そもそも二代目皇帝の側近には叙任こそしていないが東方からやってきた賢者もいた。二代目の近衛騎士団には同じ東方の剣豪がいたではないか」
 レックスが実に楽しそうに告げている。
「左様ですな。我々の思い過ごしかもしれぬのう」
「それにしてもだ、諸王よ。あの二人に任せっきりで良いのか?  シルヴィーを含めてラグナ・マリアの基盤を作るべく六王が、二人に全て任せっきりで如何するのだ?」
 と、突然真顔で説教を始めるレックス。
 これには流石の六王も沈黙してしまった。
 そこから実に3時間、六王とレックスはこれからの事を話し合うこととなった。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 サムソン、ストーム宅。
 会議が終わって慌てて戻って来たマチュアとストーム。
「あー、これはかなり活性してますねー」
 封印の水晶柱クリア・コフィンの中で丸くなっている少女をじっと見た。
 時折、瞳を空けて此方をじっと見ているが、まだ意識がはっきりとしているのかよく分からない。
「さて、殺すのも忍びないし、人を殺すのは流石に嫌だわ」
「それについては同感。モンスターならいいのかと言われると、私は結構殺して来たので何も言えない」
 と呟きつつ、マチュアは水晶柱に手をかざす。

――キィィィィイン
 魔力の流れを調べ、現在の状況を確認したいのだが、やはり周りに刻まれている術式が邪魔をする。
「こいつの対処方法はどうしょうもないわー。外からは一切何もできない。で、またしばらく放置して、中のこの子が衰弱するのを待つしかないんだけれど、どうする?」
「どうするもこうするも、監視以外に何か出来るのか?」
「せいぜい、外側に結界でも施して、少しでも時間稼ぎをする程度だぁね。それで良い?」
 とストームに問いかけるマチュア。
 実際に深淵の書庫アーカイブで調べて見ても、答えは同じである。
「それしかないか」
「それじゃあ。深淵の書庫アーカイブ起動。『範囲固定ポイントセット敵性結界ハードプロテクション・フルモード』っ」
 瞬時に水晶柱が立体魔法陣に包み込まれる。
 内外どちらからの攻撃も分断する強力な結界を作動させた。
「ツヴァイ、朝と晩には結界に魔力を注ぎ込んでね」
「了解いたしました」
 とツヴァイに命令を施すと、マチュアは再び深淵の書庫アーカイブの中に閉じこもり解析を始める。
 そしてストームもまた、明日の早朝からの特訓についてのメニューを組み立て始めた。
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