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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ
浮遊大陸の章・その4・思考が炸裂するダンジョン攻略
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太陽の門をくぐった先は、巨大な回廊であった。
道幅は10m程度、高さは20mを超える。
花崗岩によって構成されたらしい回廊の彼方此方がほんのりと輝いているが、全体的にはやや暗い。
「かなり丈夫な壁と床だな。花崗岩と安山岩で出来ているのか。しかし、こんなダンジョンに繋がっているとは驚きなんだが‥‥?」
ふと、三人の様子がおかしい事に気がついたストーム。
「ええ。ストームさんの背負っている業の深さがよく分かりましたわ」
「まさか、このようなダンジョンが出来るとはなぁ‥」
「ポイポイたちは始めてのダンジョンぽい。宝物一杯ありそうっぽいよー」
とポイポイさん以外は、かなり深刻な表情をしている。
「一体どういうことなんだ?」
ストームが二人に問い掛けるが。
「太陽の門を通る刻にはな、なんていうか、その者が何を求めているかによって回廊の難易度が変わるというのは、以前説明したよな?」
と告げるワイルドターキーの言葉で、ふと、エルリックのところで聞いた話を思い出した。
「ああ。ライの話していた事か」
「うむ。それでな、ワシ等が来る時はいつも、ただの草原が広がっているんじゃよ。その先に遺跡がって、あちこち調べていたのじゃが」
「ここまで難攻不落なものが実体化するとは、私達も思わなかったのですわ」
「実体化ということは。ここに出てくるモンスターや財宝も全て本物なのか?」
「うむ。それより、ここから先はかなり強力なモンスターが現れるやも知れぬ。気を引き締めたうほがいいぞ」
――ワオォォォォォォォォォォン
と突然、回廊の奥から狼の遠吠えが聞こえてくる。
(あー、まあ、手始めに肩慣らしというところか)
とワイルドターキーたちを見るストーム。
「よし、いきなり強敵のようじゃな」
「ポイポイは強化魔法をお願い。私はターキーに焔の加護を行います」
「了解っぽい。仲間防護っぽい」
すると、全員の体が青く輝いた。
「では。焔の精霊よ、ターキーの武器に宿って頂戴っ!!」
ズブロッカの詠唱が終わると、ゆっくりとワイルドターキーの武器が焔に包まれた。
「なるほどなぁ。なんか嫌な予感がする」
とストームは瞬時に聖騎士に装備を換装すると、楯を取り出して身構えた。
「引き続き、回廊を照らします。光の精霊よ、輝きをっ!!」
ターキー達の頭上に光の球が生み出される
その効果で、それまで薄暗かった回廊が昼間のような明るさに変わった。
「あ、あれは予想外じゃ!!」
と回廊の向こうから現れた敵を見て、ターキーたちが下がる。
現れたのはウェアウルフと呼ばれる人狼。
一体一体のモンスター強度はD程度だが、群れを為すとCランク以上にまであがる。
また体毛によってもランクが変わってくるのだが、いま目の前にいる人狼はブラウンの体毛、ウェアウルフとしてはもっとも弱い。
「これは覚悟を決めないと不味いのう」
「そうね。確かにこれは厳しいですわ‥‥ここまで強力な敵が出るなんて‥‥」
「ススス、ストームさんの業が深すぎるっぽい!!」
と戦意が下がっていく三人。
(あれ? ひょっとして‥‥)
とストームは三人をじっと見る。
(GPS鑑定してみるか。ってありゃーーーー)
ワイルドターキーとズブロッカがD+、ポイポイがまだE+のままである。
パーティーランクもD-、3人でようやくウェアウルフ一体分の戦力であった。
「一寸まった!! ターキーたちはどれだけの依頼をこなしてきたんだ?」
「成功した依頼はまだ片手で余るのう。ほとんど失敗していたので、違約金を払わされてばっかりじゃ」
「そこで遺跡の調査に来たのですわ。運が良ければ魔法の武器とかも手に入りますので」
「それでドーーンと強くなるっぽい!!」
そんな会話をしているうちにも、ウェアウルフは此方に向かって襲い掛かってきた。
「まず基礎からだろうが!! 挑発っっっっ。此方に来いやぁぁ」
ストームが盾を構えてウェアウルフ全てを引き寄せる。
「今のうちに、一体ずつ倒していけ!!」
「でもストームさんが死んじゃうっぽい!!」
とストームを心配するポイポイ。
「あ、ほ、か!! この程度なら素手で倒せるわ。お前達のレベルアップだ、とっとと頑張れ!!」
「「「はい(っぽい)!!」」」
と一斉に攻撃を開始する三人。
前衛のワイルドターキーが敵を両手斧で切りつけ、後ろからはズブロッカが魔法による攻撃を続ける。
3分で強化魔法が切れるので、ポイポイはその都度『加護の魔法』を発動。
そんなこんなで、一体の敵を倒すのに10分ほど掛かる。
全てのウェアウルフが全滅するまで、一時間ほどかかってしまった。
「ハァハァハァハァ。これはキツイのう」
「こんなに魔力を消費したのは久しぶりですわ」
「もう魔力が切れそうっぽいーー」
とその場に座り込む3人。
「こ、どういうことだ?」
とストームは考える。
ワイルドターキーの両手斧の使い方は全く問題ない。むしろC以上B-ぐらいの実力はある。
ズブロッカの魔法もそう。火の加護が少ないダンジョンで、強力な焔の弾丸を自在に打ち込む事ができている。
ポイポイさんは冒険者魔術と呼ばれている、魔力が少ないクラスでも制限なく使える魔法を自在に使っているのだが、何故こんなに弱いのか。
「全く判らん。どうしてこんなに弱いんだ?」
「い、いや、ウェアウルフは強大なモンスターじゃよ。魔法かそれに準ずる力でなくてはダメージが入らぬ」
と呟くワイルドターキー。
――ガサササッ
とすぐさま奥から別のモンスターが現れる。
全長は10mを超える大百足である。
「やばい、このままでは全滅してしまう!!」
「でも、もう動けないわっ」
「ま、まだ魔力があるっぽい。ポイポイが皆に魔法を‥‥」
と、ハタから聞くと楽しい三文芝居が始まったのである。
これにはストームも頬を引き攣らせつつ。
「あー、もう。ポイポイさん、加護の魔法で仲間たちをカバーしていて、俺が彼奴を引き受ける!!」
と告げて、カリバーンを引き抜いて大百足に向かって走り出した。
「ストームさん無理っぽい!! あいつは強敵っぽ‥‥」
――ズバババババババババハバァァァァァァァァッ
至近距離から、聖騎士のスキル『無限刃』を叩き込む。
汗一つ掻くことなく、一瞬で大百足はみじん切りになってしまう。
その光景に、三人はポカーンとなった。
「い、一体何がどうなっているんだ?」
とストームが逆に三人に聞きたいところである。
「あの強敵を一撃とは、ストーム殿は聖騎士のような戦闘力を持っているのか」
「先程の攻撃、私にはまったく見えていませんでしたわ」
「ポイポイは72回斬ったところまでは見えていたっぽい」
「「はいはい。よかったねー」」
とポイポイの話を軽く流す二人だが。
(げぇっ。ポイポイさん72回全て見えていたのかよ!! ってあれれ?)
と、ストームはふと考える。
「ちょっと、三人の冒険者カード見せて貰えるか?」
「うむ。しばし更新していなかったが」
ワイルドターキー、冒険者C+クラス『サムライ』
「ええ、どうぞ」
ズブロッカ、冒険者C+クラス『魔法剣士(ルーンフェンサー)』
「ぽい?」
ポイポイ、冒険者D+クラス『万能者(オールラウンダー)』
――ガクッ
と膝から崩れるストーム。
(クラスに合わない装備使っていたので、弱くなっていただけかよ)
全身から力が抜けるストーム。
だが、すぐに立ち直ると一言。
「ち、ちょっと全員そこに正座だっ!!」
とストームの剣幕に、全員が慌ててその場に座る。
「さて、あなた達は確か冒険者訓練施設は卒業したのだよな?」
「うむ。しっかりと卒業して、きちんと基礎のなんたるかは学んできたぞ」
「ええ。ポイボイだけは卒業までに3年かかりましたけれど、私たちは1年でしっかりと」
「ポイィィィィィィ!!」
と告げる三人。
「で、ギルドで登録も終わらせたと」
「はい。このように」
とギルドカードをもう一度取り出すズブロッカ。
「そこで聞きたい。そのカードには、自分の適正が書かれているはずだが、どうしてそれにあった装備を付けていないんだ?」
「サムライというのがいまいち理解していなくてのう。装備もこの大陸では手に入らなかったので、昔から愛用しているこの両手斧でがんばったのじゃ」
「同じく。魔法剣士の正式装備はミスリルですし、魔法付与された装備が買えないのならローブのままで魔法を使っていても差し支えないかと
「ポイポイは装備なんでもいいし、なんでも出来るから『冒険者魔術』つかっているだけっぽい!!」
とにこやかに告げる。
「お。おう‥‥」
とため息も出ないストーム。
「ちゃんとした適正装備で、ちゃんとカードに書いてあるクラスをしっかりと務めること。それから転職したほうがいい。戦闘系に転職するのなら、俺が色々とアドバイスしてやる。魔法使いなら、マチュアに頼んでなんとかしてやる」
と告げて、ストームは冒険者カードを見せた。
「ぶぶぶぶぶ先導者っぽいぃぃぃぃ」
「なんと、あの伝説の先導者とは、驚いたわい」
「ストームさんって、鍛冶師ではなかったのですね」
「いや、基本鍛冶師だ。冒険者は趣味でやっているだけだ」
と告げながら、最近になって作った装備を次々と取り出す。
「ターキーはこの着物と陣笠、刀は数打ちでいいか。ズブさんはこっちのレザーアーマーとミスリルの胸当てだな。あとレイピアもかかさずにと。ポイポイはこのレザーアーマーと、試しで作ったツインダガーでいいか」
と装備を手渡すと、急いで装備するように促す。
ターキーはその場で、女性陣は壁に近寄って、マントで見えないようにこっそりと。
「お、おお? これはなんじゃ? いままでは使えそうもなかった技が使えるかもしれぬぞ」
「私もそうですわ。魔力の消費がかなり抑えられていますし、なにより増幅効果がありますわ」
「ポイポイ、あんまり変わらないっぽい。出来ることが増えただけっぽいよ」
とにこやかに告げる。
「そうか。これでようやくスタートラインだ。それじゃあ先に進むか」
と告げて、目の前に現れた巨大なイノシシを指差す。
「いまなら勝てそうか?」
「う、うむ。やって見るぞ。ズブさんは援護を頼む」
「ええ。『焔の刃』っ!!」
詠唱なしで瞬時に魔法が発動し、ワイルドターキーの武器が燃え上がる。
先程よりも温度が高く、そして細い焔の刃が形成されたのである。
「ポイポイもいくっぽい。仲間防護っ」
仲間全員が淡く白く輝く。
「あ、ようやく普通の冒険者に見える」
とホッとしてストームが、武器を納める。
「さて、いま突進してくるイノシシの強度はBだが。装備補正を加えると今の3人で行ける。やれ!!」
と告げて、ストームはその場に座る。
「うむ。では‥‥」
とワイルドターキーが先制で刀を振るい、衝撃波を叩き込む。
この一撃でイノシシの背中がざっくりと裂けた。
――ブモゥゥゥゥゥゥゥゥ
絶叫しつつターキーに向って突進する。
「力の楯よっ!!」
と左腕に透き通った楯を生み出し、ズブロッカがターキーの前でイノシシの攻撃を受け止める。
――ガシィィィィッ
と突進するイノシシの攻撃を楯で受け止めると、そのイノシシの背後からポイポイさんが現れた。
「クリティカルひっとぉぉぉぉぉっ」
――ドシュュュュッ
一撃でイノシシの首を分断するポイポイさん。
そのまま大量の血を流しつつ、イノシシは絶命した。
「か、勝てたぞ」
「そのようねぇ。驚いたわ。今まで使えなかった魔法が使えるなんて」
「トドメはポイポイっぽい!!」
と楽しそうに飛び跳ねている。
と、死体がシュゥゥゥゥゥッと霧のように消えて行くと、その場に小さい宝石のようなものを落とした。
「これは何っぽい?」
「あー、ドロップアイテムだな。ダンジョンのような魔障の乱れている場所に住まうモンスターは、極稀にだが体内で魔障が結晶化するらしい。『魔晶石』というやつだ」
と遠くからストームが説明する。
「これがですか?」
「その大きさだと‥‥金貨2枚だ」
――キラーン
「よし、周りにはないか探すぞ!!」
と慌てて探し始める一行。
「とまあ、ちゃんとした適正クラスの装備と技が使えれば、それほどの脅威ではない」
「しかし、ワシはやはり両手斧のほうがいいのう」
「まずはサムライを極めてからだ。両手斧の戦士の技術なら、たまに教えてやるさ。ここまで連れてきてくれたお礼にな。みんなの装備も、そのまま使ってくれ」
と告げるストーム。
「そんな、こんなに効果なものを頂けるなんて」
「そのとおりぢゃよ。ストームが鍛冶師として有名なのは聞いた。サムソンでS認定をうけたのぢゃろう? そんなストームの装備をタダでなんて」
「ストームさんありがとうっぽい!!」
とポイポイだけが喜んで貰っている。
「いや、太陽の門は俺では開けられなかったしなぁ。この先はかなり強いモンスターもでるから、そのお礼も兼ねてだよ」
とストームが頭を下げた。
「そ、そうか。それならば、有難く使わせてもらうぞ」
ということで、そのまま一行は回廊を先に進んでいった。
○ ○ ○ ○ ○
太陽の門を超えて5日。
ワイルドターキーの話では、回廊の中は外の世界とは隔絶されているらしく、時間の進み方が違うらしい。
その為、多少の心のゆとりがある。
「さて、現在の階層は第八階層。そろそろ敵が強くなっていると思うのだが、まだまだ大丈夫か?」
と背後で座って休んでいる3人に問い掛ける。
ちなみに此処まで、ストームは先導者の技術をフルに使い、この3人の底力を引き上げていた。
乾いた大地が水を吸収するという例えがよく当てはまるぐらい、ワイルドターキーたちはみるみるうちに成長している。
事実、6層からはレッサーデーモン、7層ではグレーターデーモンが徘徊していたのだが、3人でどうにか撃破していつたのである。
これにはストームも予想外の強さである。
「もう駄目っぽい。そろそろ休憩っぽい」
「了解だ。ポイポイさん、簡易休憩所の魔法を。やり方は教えたから行けるよな?」
「ではやるっぽい。ここをキャンプ地とする!! 簡易休憩所』っ」
と、ストームが僧侶モードで教えた魔法をポイポイさんが起動する。
足元に大きめの結界が発生し、その中心には焚き火まで発生する。
もともと巡回修道士たちが旅の最中に使う魔法だが、万能者のポイポイさんでも習得可能であった。
そこでゆっくりと食事を取りつつ、しばしの休息にはいる。
結界の強度は、その範囲内にいる最も強い者に準ずるので、いまの強度はドラゴンでも来ない限りは破られることはない。
「仮眠を取ったら、また再開といこう。それではおやすみ」
とストームは毛布に包まって仮眠を取る。
「‥‥それにしても不思議な方ですよね」
ストームが寝付いたのを確認して、ズブロッカが呟く。
「そうじゃのう。単体での攻撃力もさながら、ワシ等にも色々なことを教えてくれる。おかげでワシなど、かなり強くなった気がするぞ」
「そうですね。魔法については専門ではなかったらしいですけれど、レイピアの扱い方までしっかりと伝授してくれましたわ」
「ングングングング。このストームさんの出してくれる食べ物が美味しいっぽい」
「「あー、はいはい」」
と最も成長しているはずのポイポイさんは、いつものマイペースである。
「それでは、そろそろ休むとしますか‥‥」
と呟いて、一行は静かに眠りについた。
目を覚ました一行は、まっすぐに回廊を進む。
降りる階段があるはずなので、そこに向かって進む。
と、やがて巨大なホールにたどり着いた一行。
「足元に大量のタイルがあるっぽい」
と足元にある1m四方のタイルを見るポイポイ。
黒と白のタイルが市松模様になっている。
「あー、これはお約束の」
「ぽいっ!!」
とポイポイさんがタイルに飛び乗る
――スッ
ポイポイの足元のタイルが消失し、底の見えない落とし穴になった。
そしてポイポイは別のタイルに飛ばされていた。
「こ、これはどうなっているっぽい!!」
と慌てて別のタイルを踏むポイポイ。
ふたたび足元のタイルが消えて、全く別のタイルに転移していく。
「ポイポイはそこで止まっていて。ストーム、何かわかる?」
目の前のタイルをじっと眺める。
(GPS鑑定が機能しないか。となると、自分の知識が便りだな)
と頭を撚る。
アイテムなどの鑑定には使えるが、クエストなどの解読には使えない。
それぐらいは自分で考えろという、神様のありがたいお言葉なのだろう。
「ここからあそこ。その隣があっち‥‥」
よくあるゲームだと、踏んだタイルの位置が将棋のコマやチェスのコマの動きと連動しているものがあることをストームは知っている。だが、いまのポイポイの動きはそれに連動していない。
「はて、まったく方向性が無いようなあるような。マチュアなら一発なんだろうな。ターキーさんちょっとここに立って」
「うむ‥‥おおおおおぉぉぉ」
と一歩前にだけ進む。当然ながら最初の足元のタイルは消滅した。
「次はズブさん、こっちのタイルに立ってみて‥‥」
「こうか?」
と一歩踏み出すと、今度はそのまま奥の壁際まで飛ばされていった。
「うん、将棋の駒とチェスのコマ、ついでに踏み出した足で方角が決まる。けれど、意味不明の移動することもあるのか‥‥」
ということで、三人に指示を飛ばしながら、ストームは正面奥にある回廊入り口まで三人を移動させた。
「ストームぅ。みんなこっちにいるっぽいよ」
「ああ、今行く」
とタイルを踏んで奥まで翔ぶと、向きを変えて一歩ずつ進む。最後は斜めに翔ぶタイルではいゴール。
「ず、随分とあっさりぢゃのう」
「いや、そうはいうが、ここに来るまでのタイルの消耗が洒落になっていないだろう」
と後ろの今まで居たホールを向く。
すでに三分の二のタイルが消滅している。
「この先は下りの階段だな。意外と時間はかかったが、なんとかなるものだな‥‥」
と告げるズブロッカに皆で頷くと、いよいよ第九階層である。
何もない静かな空間。
中央には、四角い台座が一つ。
それ以外は何も存在しない。
「ああっ、トラウマスイッチが入るぅぅぅぅ」
とストームは頭を抱える。
「ど、どうしたストーム?」
「いやいや、色々とこの光景には嫌な思い出しかないものでね。では‥‥」
と告げて、四人は台座をじつと眺める。
『以下のものを台座に示せ。過去と未来を示す二つの地図、それは深い渓谷となだらかな丘を記している。地図には様々な星々が刻み込まれ、それら全てを包み込む。偉大なるソロモンの輪すら、そこから逃れることは出来ないだろう』
ここで全員の思考が止まる。
ポイポイさんはバックの中に仕舞ってある彼方此方の地図を探し出し、ズブロッカはソロモンにまつわる精霊の伝承を一つ一つ思い出す。
ワイルドターキーは土地にまつわるものかと近隣の山々を考え。そしてストームは昼寝を開始。
「ちょーーーっとすとーーーむさーーーん」
と突然ポイポイがストームを揺り起こす。
「お、おお、分かったか?」
「ストームさんも一緒に考えるっぽい」
「御免無理。この手の奴はいつもマチュアに頼んでいたので、さっぱり分からない。大体‥‥ん? ちょっとまてよ」
ふとストームは何かを思い出す。
そしてしばし考えた後、答えになるものに気がついたらしい。
「ちょっと集まってくれ。これは仮説でしかないが、可能性はある。つまりだ‥‥」
とストームが一つ一つの謎について説明すると、全員で台座に向かい、それを示す。
――スッ
と全員の姿が消滅し、そして意識が戻った時は、全員が巨大な門の前に立っていた。
○ ○ ○ ○ ○
古い歴史を思い浮かべせる建物。
大勢のドワーフや人々が集い、楽しそうにしている。
よく見ると、所々に商人の姿が見えている。
「ふぅ。最後のはこれが正解とはのう」
とワイルドターキーがじっと両掌を見る。
「まあ、そういうことだ。俺の知識から作られた回廊と謎解きならば、俺の中に答えがあると考えただけだ
」
と告げる。
「はぁ、ここにくるのは久し振りっぽい」
「そうですね。取り敢えずは宿屋に向かいますか?」
ということで、ストームはワイルドターキー達につれられて宿へと向かっていった。
「少し聞いていいか?」
「うむ」
「ここは閉ざされた空間にある国だよな。外界とは途絶しているのに、なんで宿が成立しているんだ? それに気のせいか、普通に商人が出入りしているのだが」
周囲には、大きめの隊商の姿もある。
それがストームにとっては疑問なのであった。
「確かにそう考えるじゃろう。実際は、この街に来るための特別な手形が存在している」
とあっさりと一言。
「はぁ?」
「いくらなんでも、閉ざされた世界では文化も文明も停滞したままじゃろう。この国の元老院が認めた商人のみ、ここを訪れる事を許されている。ただし、もし一言でもこの都市の事を外で漏らしたら、その手形は消滅する‥‥それに漏らそうとした時点で、記憶からこの都市の事は消えてしまうらしい」
と呟く。
「そうか。なら、その商人を探しても決してここに来ることはできなかったのか」
「いかにも。あの太陽の門を通り抜けるしか、やってくることは出来ぬぞ」
と告げながら、どうやらポイポイさんたちの常設の宿らしいところに到着した。
三階建ての大きめの宿屋。
そこに到着すると、すぐさま受付に向かう三名。
「四名個室でお願いします」
「おやズブさんたちか。久し振りだねぇ。いい掘り出し物はあったかい?」
「今日は別件なのですよ。とりあえず3日程度でお願いします」
と簡単に受付を終えると、まずは部屋に向かう。
そののち一階の酒場に集まると、そこで食事を取りながら作戦会議である。
「まずはティルナノーグについてですね。この街では国王の次に元老院が権力を持っています。彼らから話を聞くのがもっとも早いかと思われます。もしくは、魔導教会と呼ばれる教会がありまして。古代種の方々が崇めている『天狼』という神を祀っている教会です。そこでは様々な魔術を納めた『魔導士』がいらっしゃいます」
「元老院か魔導教会か。簡単なのは魔導教会だな、そこはすぐにいけるのか?」
「行くのは簡単ですよ。ただ、責任者の方とかに会うには謁見の申請を行う必要があります。申請といことでしたら元老院も一緒ですわ」
とズブロッカが説明してくれた。
「取り敢えず、今日のところは申請だけでもしてくるとしよう。実際に動くのは明日からにして、今日はゆっくりと休むことにしよう。あとでこの街の観光案内をお願いしたいのだが、いいかな?」
「ポイに任せるっぽい。この街の色々なところに案内してあげるっぽい」
ということで、今日はゆっくりと体を休めることにした。
しかし、この短時間でワイルドターキーたちの冒険者レベルは結講上がったんだろうなぁ‥‥。
道幅は10m程度、高さは20mを超える。
花崗岩によって構成されたらしい回廊の彼方此方がほんのりと輝いているが、全体的にはやや暗い。
「かなり丈夫な壁と床だな。花崗岩と安山岩で出来ているのか。しかし、こんなダンジョンに繋がっているとは驚きなんだが‥‥?」
ふと、三人の様子がおかしい事に気がついたストーム。
「ええ。ストームさんの背負っている業の深さがよく分かりましたわ」
「まさか、このようなダンジョンが出来るとはなぁ‥」
「ポイポイたちは始めてのダンジョンぽい。宝物一杯ありそうっぽいよー」
とポイポイさん以外は、かなり深刻な表情をしている。
「一体どういうことなんだ?」
ストームが二人に問い掛けるが。
「太陽の門を通る刻にはな、なんていうか、その者が何を求めているかによって回廊の難易度が変わるというのは、以前説明したよな?」
と告げるワイルドターキーの言葉で、ふと、エルリックのところで聞いた話を思い出した。
「ああ。ライの話していた事か」
「うむ。それでな、ワシ等が来る時はいつも、ただの草原が広がっているんじゃよ。その先に遺跡がって、あちこち調べていたのじゃが」
「ここまで難攻不落なものが実体化するとは、私達も思わなかったのですわ」
「実体化ということは。ここに出てくるモンスターや財宝も全て本物なのか?」
「うむ。それより、ここから先はかなり強力なモンスターが現れるやも知れぬ。気を引き締めたうほがいいぞ」
――ワオォォォォォォォォォォン
と突然、回廊の奥から狼の遠吠えが聞こえてくる。
(あー、まあ、手始めに肩慣らしというところか)
とワイルドターキーたちを見るストーム。
「よし、いきなり強敵のようじゃな」
「ポイポイは強化魔法をお願い。私はターキーに焔の加護を行います」
「了解っぽい。仲間防護っぽい」
すると、全員の体が青く輝いた。
「では。焔の精霊よ、ターキーの武器に宿って頂戴っ!!」
ズブロッカの詠唱が終わると、ゆっくりとワイルドターキーの武器が焔に包まれた。
「なるほどなぁ。なんか嫌な予感がする」
とストームは瞬時に聖騎士に装備を換装すると、楯を取り出して身構えた。
「引き続き、回廊を照らします。光の精霊よ、輝きをっ!!」
ターキー達の頭上に光の球が生み出される
その効果で、それまで薄暗かった回廊が昼間のような明るさに変わった。
「あ、あれは予想外じゃ!!」
と回廊の向こうから現れた敵を見て、ターキーたちが下がる。
現れたのはウェアウルフと呼ばれる人狼。
一体一体のモンスター強度はD程度だが、群れを為すとCランク以上にまであがる。
また体毛によってもランクが変わってくるのだが、いま目の前にいる人狼はブラウンの体毛、ウェアウルフとしてはもっとも弱い。
「これは覚悟を決めないと不味いのう」
「そうね。確かにこれは厳しいですわ‥‥ここまで強力な敵が出るなんて‥‥」
「ススス、ストームさんの業が深すぎるっぽい!!」
と戦意が下がっていく三人。
(あれ? ひょっとして‥‥)
とストームは三人をじっと見る。
(GPS鑑定してみるか。ってありゃーーーー)
ワイルドターキーとズブロッカがD+、ポイポイがまだE+のままである。
パーティーランクもD-、3人でようやくウェアウルフ一体分の戦力であった。
「一寸まった!! ターキーたちはどれだけの依頼をこなしてきたんだ?」
「成功した依頼はまだ片手で余るのう。ほとんど失敗していたので、違約金を払わされてばっかりじゃ」
「そこで遺跡の調査に来たのですわ。運が良ければ魔法の武器とかも手に入りますので」
「それでドーーンと強くなるっぽい!!」
そんな会話をしているうちにも、ウェアウルフは此方に向かって襲い掛かってきた。
「まず基礎からだろうが!! 挑発っっっっ。此方に来いやぁぁ」
ストームが盾を構えてウェアウルフ全てを引き寄せる。
「今のうちに、一体ずつ倒していけ!!」
「でもストームさんが死んじゃうっぽい!!」
とストームを心配するポイポイ。
「あ、ほ、か!! この程度なら素手で倒せるわ。お前達のレベルアップだ、とっとと頑張れ!!」
「「「はい(っぽい)!!」」」
と一斉に攻撃を開始する三人。
前衛のワイルドターキーが敵を両手斧で切りつけ、後ろからはズブロッカが魔法による攻撃を続ける。
3分で強化魔法が切れるので、ポイポイはその都度『加護の魔法』を発動。
そんなこんなで、一体の敵を倒すのに10分ほど掛かる。
全てのウェアウルフが全滅するまで、一時間ほどかかってしまった。
「ハァハァハァハァ。これはキツイのう」
「こんなに魔力を消費したのは久しぶりですわ」
「もう魔力が切れそうっぽいーー」
とその場に座り込む3人。
「こ、どういうことだ?」
とストームは考える。
ワイルドターキーの両手斧の使い方は全く問題ない。むしろC以上B-ぐらいの実力はある。
ズブロッカの魔法もそう。火の加護が少ないダンジョンで、強力な焔の弾丸を自在に打ち込む事ができている。
ポイポイさんは冒険者魔術と呼ばれている、魔力が少ないクラスでも制限なく使える魔法を自在に使っているのだが、何故こんなに弱いのか。
「全く判らん。どうしてこんなに弱いんだ?」
「い、いや、ウェアウルフは強大なモンスターじゃよ。魔法かそれに準ずる力でなくてはダメージが入らぬ」
と呟くワイルドターキー。
――ガサササッ
とすぐさま奥から別のモンスターが現れる。
全長は10mを超える大百足である。
「やばい、このままでは全滅してしまう!!」
「でも、もう動けないわっ」
「ま、まだ魔力があるっぽい。ポイポイが皆に魔法を‥‥」
と、ハタから聞くと楽しい三文芝居が始まったのである。
これにはストームも頬を引き攣らせつつ。
「あー、もう。ポイポイさん、加護の魔法で仲間たちをカバーしていて、俺が彼奴を引き受ける!!」
と告げて、カリバーンを引き抜いて大百足に向かって走り出した。
「ストームさん無理っぽい!! あいつは強敵っぽ‥‥」
――ズバババババババババハバァァァァァァァァッ
至近距離から、聖騎士のスキル『無限刃』を叩き込む。
汗一つ掻くことなく、一瞬で大百足はみじん切りになってしまう。
その光景に、三人はポカーンとなった。
「い、一体何がどうなっているんだ?」
とストームが逆に三人に聞きたいところである。
「あの強敵を一撃とは、ストーム殿は聖騎士のような戦闘力を持っているのか」
「先程の攻撃、私にはまったく見えていませんでしたわ」
「ポイポイは72回斬ったところまでは見えていたっぽい」
「「はいはい。よかったねー」」
とポイポイの話を軽く流す二人だが。
(げぇっ。ポイポイさん72回全て見えていたのかよ!! ってあれれ?)
と、ストームはふと考える。
「ちょっと、三人の冒険者カード見せて貰えるか?」
「うむ。しばし更新していなかったが」
ワイルドターキー、冒険者C+クラス『サムライ』
「ええ、どうぞ」
ズブロッカ、冒険者C+クラス『魔法剣士(ルーンフェンサー)』
「ぽい?」
ポイポイ、冒険者D+クラス『万能者(オールラウンダー)』
――ガクッ
と膝から崩れるストーム。
(クラスに合わない装備使っていたので、弱くなっていただけかよ)
全身から力が抜けるストーム。
だが、すぐに立ち直ると一言。
「ち、ちょっと全員そこに正座だっ!!」
とストームの剣幕に、全員が慌ててその場に座る。
「さて、あなた達は確か冒険者訓練施設は卒業したのだよな?」
「うむ。しっかりと卒業して、きちんと基礎のなんたるかは学んできたぞ」
「ええ。ポイボイだけは卒業までに3年かかりましたけれど、私たちは1年でしっかりと」
「ポイィィィィィィ!!」
と告げる三人。
「で、ギルドで登録も終わらせたと」
「はい。このように」
とギルドカードをもう一度取り出すズブロッカ。
「そこで聞きたい。そのカードには、自分の適正が書かれているはずだが、どうしてそれにあった装備を付けていないんだ?」
「サムライというのがいまいち理解していなくてのう。装備もこの大陸では手に入らなかったので、昔から愛用しているこの両手斧でがんばったのじゃ」
「同じく。魔法剣士の正式装備はミスリルですし、魔法付与された装備が買えないのならローブのままで魔法を使っていても差し支えないかと
「ポイポイは装備なんでもいいし、なんでも出来るから『冒険者魔術』つかっているだけっぽい!!」
とにこやかに告げる。
「お。おう‥‥」
とため息も出ないストーム。
「ちゃんとした適正装備で、ちゃんとカードに書いてあるクラスをしっかりと務めること。それから転職したほうがいい。戦闘系に転職するのなら、俺が色々とアドバイスしてやる。魔法使いなら、マチュアに頼んでなんとかしてやる」
と告げて、ストームは冒険者カードを見せた。
「ぶぶぶぶぶ先導者っぽいぃぃぃぃ」
「なんと、あの伝説の先導者とは、驚いたわい」
「ストームさんって、鍛冶師ではなかったのですね」
「いや、基本鍛冶師だ。冒険者は趣味でやっているだけだ」
と告げながら、最近になって作った装備を次々と取り出す。
「ターキーはこの着物と陣笠、刀は数打ちでいいか。ズブさんはこっちのレザーアーマーとミスリルの胸当てだな。あとレイピアもかかさずにと。ポイポイはこのレザーアーマーと、試しで作ったツインダガーでいいか」
と装備を手渡すと、急いで装備するように促す。
ターキーはその場で、女性陣は壁に近寄って、マントで見えないようにこっそりと。
「お、おお? これはなんじゃ? いままでは使えそうもなかった技が使えるかもしれぬぞ」
「私もそうですわ。魔力の消費がかなり抑えられていますし、なにより増幅効果がありますわ」
「ポイポイ、あんまり変わらないっぽい。出来ることが増えただけっぽいよ」
とにこやかに告げる。
「そうか。これでようやくスタートラインだ。それじゃあ先に進むか」
と告げて、目の前に現れた巨大なイノシシを指差す。
「いまなら勝てそうか?」
「う、うむ。やって見るぞ。ズブさんは援護を頼む」
「ええ。『焔の刃』っ!!」
詠唱なしで瞬時に魔法が発動し、ワイルドターキーの武器が燃え上がる。
先程よりも温度が高く、そして細い焔の刃が形成されたのである。
「ポイポイもいくっぽい。仲間防護っ」
仲間全員が淡く白く輝く。
「あ、ようやく普通の冒険者に見える」
とホッとしてストームが、武器を納める。
「さて、いま突進してくるイノシシの強度はBだが。装備補正を加えると今の3人で行ける。やれ!!」
と告げて、ストームはその場に座る。
「うむ。では‥‥」
とワイルドターキーが先制で刀を振るい、衝撃波を叩き込む。
この一撃でイノシシの背中がざっくりと裂けた。
――ブモゥゥゥゥゥゥゥゥ
絶叫しつつターキーに向って突進する。
「力の楯よっ!!」
と左腕に透き通った楯を生み出し、ズブロッカがターキーの前でイノシシの攻撃を受け止める。
――ガシィィィィッ
と突進するイノシシの攻撃を楯で受け止めると、そのイノシシの背後からポイポイさんが現れた。
「クリティカルひっとぉぉぉぉぉっ」
――ドシュュュュッ
一撃でイノシシの首を分断するポイポイさん。
そのまま大量の血を流しつつ、イノシシは絶命した。
「か、勝てたぞ」
「そのようねぇ。驚いたわ。今まで使えなかった魔法が使えるなんて」
「トドメはポイポイっぽい!!」
と楽しそうに飛び跳ねている。
と、死体がシュゥゥゥゥゥッと霧のように消えて行くと、その場に小さい宝石のようなものを落とした。
「これは何っぽい?」
「あー、ドロップアイテムだな。ダンジョンのような魔障の乱れている場所に住まうモンスターは、極稀にだが体内で魔障が結晶化するらしい。『魔晶石』というやつだ」
と遠くからストームが説明する。
「これがですか?」
「その大きさだと‥‥金貨2枚だ」
――キラーン
「よし、周りにはないか探すぞ!!」
と慌てて探し始める一行。
「とまあ、ちゃんとした適正クラスの装備と技が使えれば、それほどの脅威ではない」
「しかし、ワシはやはり両手斧のほうがいいのう」
「まずはサムライを極めてからだ。両手斧の戦士の技術なら、たまに教えてやるさ。ここまで連れてきてくれたお礼にな。みんなの装備も、そのまま使ってくれ」
と告げるストーム。
「そんな、こんなに効果なものを頂けるなんて」
「そのとおりぢゃよ。ストームが鍛冶師として有名なのは聞いた。サムソンでS認定をうけたのぢゃろう? そんなストームの装備をタダでなんて」
「ストームさんありがとうっぽい!!」
とポイポイだけが喜んで貰っている。
「いや、太陽の門は俺では開けられなかったしなぁ。この先はかなり強いモンスターもでるから、そのお礼も兼ねてだよ」
とストームが頭を下げた。
「そ、そうか。それならば、有難く使わせてもらうぞ」
ということで、そのまま一行は回廊を先に進んでいった。
○ ○ ○ ○ ○
太陽の門を超えて5日。
ワイルドターキーの話では、回廊の中は外の世界とは隔絶されているらしく、時間の進み方が違うらしい。
その為、多少の心のゆとりがある。
「さて、現在の階層は第八階層。そろそろ敵が強くなっていると思うのだが、まだまだ大丈夫か?」
と背後で座って休んでいる3人に問い掛ける。
ちなみに此処まで、ストームは先導者の技術をフルに使い、この3人の底力を引き上げていた。
乾いた大地が水を吸収するという例えがよく当てはまるぐらい、ワイルドターキーたちはみるみるうちに成長している。
事実、6層からはレッサーデーモン、7層ではグレーターデーモンが徘徊していたのだが、3人でどうにか撃破していつたのである。
これにはストームも予想外の強さである。
「もう駄目っぽい。そろそろ休憩っぽい」
「了解だ。ポイポイさん、簡易休憩所の魔法を。やり方は教えたから行けるよな?」
「ではやるっぽい。ここをキャンプ地とする!! 簡易休憩所』っ」
と、ストームが僧侶モードで教えた魔法をポイポイさんが起動する。
足元に大きめの結界が発生し、その中心には焚き火まで発生する。
もともと巡回修道士たちが旅の最中に使う魔法だが、万能者のポイポイさんでも習得可能であった。
そこでゆっくりと食事を取りつつ、しばしの休息にはいる。
結界の強度は、その範囲内にいる最も強い者に準ずるので、いまの強度はドラゴンでも来ない限りは破られることはない。
「仮眠を取ったら、また再開といこう。それではおやすみ」
とストームは毛布に包まって仮眠を取る。
「‥‥それにしても不思議な方ですよね」
ストームが寝付いたのを確認して、ズブロッカが呟く。
「そうじゃのう。単体での攻撃力もさながら、ワシ等にも色々なことを教えてくれる。おかげでワシなど、かなり強くなった気がするぞ」
「そうですね。魔法については専門ではなかったらしいですけれど、レイピアの扱い方までしっかりと伝授してくれましたわ」
「ングングングング。このストームさんの出してくれる食べ物が美味しいっぽい」
「「あー、はいはい」」
と最も成長しているはずのポイポイさんは、いつものマイペースである。
「それでは、そろそろ休むとしますか‥‥」
と呟いて、一行は静かに眠りについた。
目を覚ました一行は、まっすぐに回廊を進む。
降りる階段があるはずなので、そこに向かって進む。
と、やがて巨大なホールにたどり着いた一行。
「足元に大量のタイルがあるっぽい」
と足元にある1m四方のタイルを見るポイポイ。
黒と白のタイルが市松模様になっている。
「あー、これはお約束の」
「ぽいっ!!」
とポイポイさんがタイルに飛び乗る
――スッ
ポイポイの足元のタイルが消失し、底の見えない落とし穴になった。
そしてポイポイは別のタイルに飛ばされていた。
「こ、これはどうなっているっぽい!!」
と慌てて別のタイルを踏むポイポイ。
ふたたび足元のタイルが消えて、全く別のタイルに転移していく。
「ポイポイはそこで止まっていて。ストーム、何かわかる?」
目の前のタイルをじっと眺める。
(GPS鑑定が機能しないか。となると、自分の知識が便りだな)
と頭を撚る。
アイテムなどの鑑定には使えるが、クエストなどの解読には使えない。
それぐらいは自分で考えろという、神様のありがたいお言葉なのだろう。
「ここからあそこ。その隣があっち‥‥」
よくあるゲームだと、踏んだタイルの位置が将棋のコマやチェスのコマの動きと連動しているものがあることをストームは知っている。だが、いまのポイポイの動きはそれに連動していない。
「はて、まったく方向性が無いようなあるような。マチュアなら一発なんだろうな。ターキーさんちょっとここに立って」
「うむ‥‥おおおおおぉぉぉ」
と一歩前にだけ進む。当然ながら最初の足元のタイルは消滅した。
「次はズブさん、こっちのタイルに立ってみて‥‥」
「こうか?」
と一歩踏み出すと、今度はそのまま奥の壁際まで飛ばされていった。
「うん、将棋の駒とチェスのコマ、ついでに踏み出した足で方角が決まる。けれど、意味不明の移動することもあるのか‥‥」
ということで、三人に指示を飛ばしながら、ストームは正面奥にある回廊入り口まで三人を移動させた。
「ストームぅ。みんなこっちにいるっぽいよ」
「ああ、今行く」
とタイルを踏んで奥まで翔ぶと、向きを変えて一歩ずつ進む。最後は斜めに翔ぶタイルではいゴール。
「ず、随分とあっさりぢゃのう」
「いや、そうはいうが、ここに来るまでのタイルの消耗が洒落になっていないだろう」
と後ろの今まで居たホールを向く。
すでに三分の二のタイルが消滅している。
「この先は下りの階段だな。意外と時間はかかったが、なんとかなるものだな‥‥」
と告げるズブロッカに皆で頷くと、いよいよ第九階層である。
何もない静かな空間。
中央には、四角い台座が一つ。
それ以外は何も存在しない。
「ああっ、トラウマスイッチが入るぅぅぅぅ」
とストームは頭を抱える。
「ど、どうしたストーム?」
「いやいや、色々とこの光景には嫌な思い出しかないものでね。では‥‥」
と告げて、四人は台座をじつと眺める。
『以下のものを台座に示せ。過去と未来を示す二つの地図、それは深い渓谷となだらかな丘を記している。地図には様々な星々が刻み込まれ、それら全てを包み込む。偉大なるソロモンの輪すら、そこから逃れることは出来ないだろう』
ここで全員の思考が止まる。
ポイポイさんはバックの中に仕舞ってある彼方此方の地図を探し出し、ズブロッカはソロモンにまつわる精霊の伝承を一つ一つ思い出す。
ワイルドターキーは土地にまつわるものかと近隣の山々を考え。そしてストームは昼寝を開始。
「ちょーーーっとすとーーーむさーーーん」
と突然ポイポイがストームを揺り起こす。
「お、おお、分かったか?」
「ストームさんも一緒に考えるっぽい」
「御免無理。この手の奴はいつもマチュアに頼んでいたので、さっぱり分からない。大体‥‥ん? ちょっとまてよ」
ふとストームは何かを思い出す。
そしてしばし考えた後、答えになるものに気がついたらしい。
「ちょっと集まってくれ。これは仮説でしかないが、可能性はある。つまりだ‥‥」
とストームが一つ一つの謎について説明すると、全員で台座に向かい、それを示す。
――スッ
と全員の姿が消滅し、そして意識が戻った時は、全員が巨大な門の前に立っていた。
○ ○ ○ ○ ○
古い歴史を思い浮かべせる建物。
大勢のドワーフや人々が集い、楽しそうにしている。
よく見ると、所々に商人の姿が見えている。
「ふぅ。最後のはこれが正解とはのう」
とワイルドターキーがじっと両掌を見る。
「まあ、そういうことだ。俺の知識から作られた回廊と謎解きならば、俺の中に答えがあると考えただけだ
」
と告げる。
「はぁ、ここにくるのは久し振りっぽい」
「そうですね。取り敢えずは宿屋に向かいますか?」
ということで、ストームはワイルドターキー達につれられて宿へと向かっていった。
「少し聞いていいか?」
「うむ」
「ここは閉ざされた空間にある国だよな。外界とは途絶しているのに、なんで宿が成立しているんだ? それに気のせいか、普通に商人が出入りしているのだが」
周囲には、大きめの隊商の姿もある。
それがストームにとっては疑問なのであった。
「確かにそう考えるじゃろう。実際は、この街に来るための特別な手形が存在している」
とあっさりと一言。
「はぁ?」
「いくらなんでも、閉ざされた世界では文化も文明も停滞したままじゃろう。この国の元老院が認めた商人のみ、ここを訪れる事を許されている。ただし、もし一言でもこの都市の事を外で漏らしたら、その手形は消滅する‥‥それに漏らそうとした時点で、記憶からこの都市の事は消えてしまうらしい」
と呟く。
「そうか。なら、その商人を探しても決してここに来ることはできなかったのか」
「いかにも。あの太陽の門を通り抜けるしか、やってくることは出来ぬぞ」
と告げながら、どうやらポイポイさんたちの常設の宿らしいところに到着した。
三階建ての大きめの宿屋。
そこに到着すると、すぐさま受付に向かう三名。
「四名個室でお願いします」
「おやズブさんたちか。久し振りだねぇ。いい掘り出し物はあったかい?」
「今日は別件なのですよ。とりあえず3日程度でお願いします」
と簡単に受付を終えると、まずは部屋に向かう。
そののち一階の酒場に集まると、そこで食事を取りながら作戦会議である。
「まずはティルナノーグについてですね。この街では国王の次に元老院が権力を持っています。彼らから話を聞くのがもっとも早いかと思われます。もしくは、魔導教会と呼ばれる教会がありまして。古代種の方々が崇めている『天狼』という神を祀っている教会です。そこでは様々な魔術を納めた『魔導士』がいらっしゃいます」
「元老院か魔導教会か。簡単なのは魔導教会だな、そこはすぐにいけるのか?」
「行くのは簡単ですよ。ただ、責任者の方とかに会うには謁見の申請を行う必要があります。申請といことでしたら元老院も一緒ですわ」
とズブロッカが説明してくれた。
「取り敢えず、今日のところは申請だけでもしてくるとしよう。実際に動くのは明日からにして、今日はゆっくりと休むことにしよう。あとでこの街の観光案内をお願いしたいのだが、いいかな?」
「ポイに任せるっぽい。この街の色々なところに案内してあげるっぽい」
ということで、今日はゆっくりと体を休めることにした。
しかし、この短時間でワイルドターキーたちの冒険者レベルは結講上がったんだろうなぁ‥‥。
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