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第二部・浮遊大陸ティルナノーグ
ストーム・その17・刀剣の達人、結果はオーケィ
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いつもの、のどかなサムソンの早朝。
朝の教会の鐘と同時に、人々は朝の仕事を開始する。
――カーーンカーーーンカーーーン
大工仕事の心地よい音が、ストームの家の隣から響く。
冒険者ギルドには朝一番で仕事を求める者達が訪れ、そして市場は活気に満ち溢れている。
あの大会が終わってからは、ストームは様々な武具の作成をしていた。
それこそ『本気モード』で作った逸品から始まって、人前に出すことが難しい伝承クラスの武具、近所のおばちゃんたちでも手軽に買える魔法の包丁など。
それを作る傍らで、最近のストームが行なっていることがある。
「ハイッ、これがフロント・ラットスプレッドっっっっ」
サイドチェスト鍛冶工房の庭で、ストームが集まっている冒険者にボディビルのポーズを披露している。
広背筋を広げるようなポーズから、次は胸と腕、肩、下半身の筋肉を強調するポーズに移行する。
「ハイッ、サイドチェストっっっっ」
回りで見ている冒険者たちは、次々と切り替わっていてくポーズに息を飲みつつ、同じポーズを取っている。
よく見ると、武神セルジオの修道士たちも集まって、ストームを拝んでいた。
いつもの日課をこなしていただけなのだが、最近は朝一で努めを終えた修道士や巡回騎士たちがストームのこの日課を広めたのであろう。
そこそこの人数の人が集まってストームと共に自重トレーニングに励んでいた。
「ハイッ!! サイド・トライセップスっっっっ」
上腕二頭筋を美しく見せるポーズに切り替えるストーム。
「素晴らしい、素晴らしいですよストームさん!!」
「そこは、切れてるぅぅと叫んで下さい。筋肉が喜びます」
ニィッと笑いつつ、冒険者達にそうアドバイスする。
「ストームさん、切れてるぅぅぅぅぅ」
――キラーーーン
と笑いつつ歯が光る。
いつものトレーニングと合わせて、この日課を毎日、朝1時間。
「で、貴方は?」
流れる汗を止めるために井戸水を浴びていたストームが、ずっと座って見学していた一人の女性に問い掛ける。
「あ、あの、実は‥‥サムソン伯爵からの使いで参りました」
顔中を真っ赤にしてそう告げる侍女。
時折ちらっとストームの胸筋を見ては、両手で顔を覆っている。
「で、伯爵様が一体なんの用事なのかな?」
──ピクッ、ピクッ
とストームの胸筋が唸る。
その度に、侍女は顔を赤らめてモジモジとしている。
「この前の『鍛冶技術認定審査』の件で、ストーム様にねぎらいの言葉を伝えたいそうです。それで是非に一緒に晩餐をということです」
頭を下げてそう告げる侍女。
「それで、いつがいいのかな?」
「本日が晩餐会の日なのです。ですので、突然の招待申し訳ないがとも告げておりました。ストーム様の他にも、この地方の貴族の方も大勢いらっしゃいますが、立食形式のパーティですので気軽な服装で、との事です」
と告げると、一通の書状をストームに手渡す。
それを受け取って中を確認する。
たしかに、今宵の晩餐会の招待状らしい。
「これ一通で二人分なんだ。もうひとり誘ってもいいのかな?」
「それは是非とのことです。ストーム様とご一緒して頂く方にも、色々とお話が聞きたいそうですので」
と告げられたので、ストームは頭に手を当ててしばし思考。
(このタイミングで、貴族が集まる場所に、俺ともう一人を招待したいと、このサムソンの都市を納める伯爵が‥‥成る程ねぇ。見栄と、あわよくば俺の武具を取り込みたい貴族たちが集まるという所だな)
と高速思考が始まる。
(もう一人と言うのも、恐らくは俺が幻影騎士団の仲間を連れてくる事を見越してか。そんな手には乗りたくはないが)
という事で、ストームはある企みを考えた。
「了解しました。それでは時間に間に合うように直接伺いますのでとお伝え下さい」
と告げて侍女を見送ると、ストームは早速家の中に戻った。
そして奥の部屋に移してある『転移の祭壇』に手をかざすと、そのまま王都ラグナの地下にある転移の祭壇へと移動した。
‥‥‥
‥‥
‥
――シュンツ
王城地下にある、巨大な転移魔法陣。
現在はミストの部下である『ハーピュレイ魔法兵団』がここを管理しており、特定の人物以外は使用を許されていない。
「おや、ストーム殿、貴方がここにくるなんて珍しいですね。何かあったのでしょうか?」
突然転移してきたストームに、地下古代遺物管理区画の責任者であるエリーゼが、ストームに話しかけた。
彼女がハーピュレイ魔法兵団の団長である。
「ちよっと用事があってな。詳しい話はおいといて、六王の誰か今日はきていないか?」
「本日はシュミッツ殿が」
「謁見を頼む」
とエリーゼに頼むと、ストームは幻影騎士団のマントを羽織った。
「リ、了解しました。早急に!!」
ストームが王城で幻影騎士団のマントを羽織っているという事がどういうことか、エリーゼは理解していた。
そして急ぎ謁見の場を作ると、ストームはシュミッツの元に通された。
「おお、久し振りだなストーム。元気そうでなによりだ」
「シュミッツ殿もお元気そうで。今日はこれをお持ちしました」
ゴトッとバックの中から一振りの剣をテーブルの上に置く。
一瞬だけ近くの騎士が腰の剣に手をかけたが、シュミッツはそれを制した。
「幻影騎士団のマントを付けているストームには手を出すな。それは皇帝に刃を向けるに等しいと思え」
シュミッツが待機している騎士にそう告げる。
「それに、ストームが俺に手を出すとも思えないしな。これは?」
目の前に置かれているロングソードを手に取る。
「いい武具が出来たので、差し上げますよ。ボルケイノの牙から鍛え上げたドラゴントゥースソードです。それよりも今日は、面白い話を持ってきまして」
そう話を切り出すと、ストームはシュミッツに今朝方の事を話しした。
「まあ、それはあれだ。自分の領地にはこんな凄い奴がいるんだからという自慢と、他の貴族に対する牽制、そしてパーティの会場という雰囲気を利用して、ストームに武具を注文する気だろうな。貴族のよくやる手だろうなぁ」
「ああ、俺もそう思っている。だが、こういうふうに利用されるのはあまり好きじゃなくてな。何かいい知恵がないかとやってきたんだが」
「しかし知恵と言ってもなぁ‥‥そうだ」
とシュミッツはストームと何やらよからぬ企みをしている模様。
そして昼ごろまで打ち合わせを終えると、ストームは一度サムソンへと戻っていった。
○ ○ ○ ○ ○
「どこに出かけていましたの?」
ストームがサムソンの自宅に戻って家の外に出たときに、鍛冶場にいたカレンに話しかけられたのがこの一言である。
鍛冶場には、カレン・アルバートが待っていた。
そして彼女の傍らには、荷物を運ぶ為の従者も待機していた。
「ちょっとな。それよりどうした?」
「どうしたではありませんわ。まさか今日が納品の日であることを忘れたのではありませんよね?」
「ああ、それは大丈夫だ」
このまえカレンから受けた武具の納入期限が今日であることを、ストームは忘れていた。
もっとも、既に注文品は完成しているので、あとは手渡すだけである。
――ヒョイヒョイ
次々とラージザックから注文品を取り出して、仕上げ台の上にならべていく。
それをカレンは1つずつ手にとって品質を確認すると、持ってきた木箱に収めていく。
「ふぅ。見ればみるほどため息が出るわね。このダガーなんてA+の品質は保証できるわ。これをオールミスリルで仕上げられたら。たまったものじゃないわね」
「それはありがとう。たま~に本気出した武器も混ぜておいたから、多少は儲けてくれ」
「あら、ストームにしては随分とお優しい事」
「あいにくと、知り合いに売るものについては、一般の納品よりも良いものにするのが俺の流儀でね。シルヴィーの紹介状があったから、アルバート商会からは小口の注文は受け付けてやるよ‥‥と」
そう告げて、近くの街道でこっちを見ている商人達に一言。
「だからといって、ベルナー家に取り次いで紹介状を書いて貰おうなんて思うなよ。シルヴィーの頼みでも、俺は自分が気に入らない仕事はしない主義だからな」
近くで商談に持ち込もうと待っている商人たちに向かって、そう叫ぶストーム。
「あらあら、私はお気に入りに入ったのかしら?」
「あんたはマチュアが気に入ったからいい。周りに対しての気遣いができる女は好きだ」
――ポッ
と頬を赤らめるカレン。
「すすす好きだななななんんんてててて‥‥」
「人としてだよ。とっとと鑑定して持っていってくれ。作業台が使えないと、こっちは仕事にならないからな」
やれやれという感じでカレンに告げると、慌てて作業を再開した。
「ストーム殿、すまぬが注文があるのぢゃが」
作業を開始して少しすると、ストームの家の中から声がする。
そーっと扉を開いて周囲を確認すると、シルヴィーが警戒しつつ出てきた。
「ほう。珍しいところから出てくるなぁ。シルヴィー、ちょっとここに来て正座だ、ハリアップ!!」
とストームに呼ばれて、家の中からシルヴィーがやってくる。
「おひさしぶりぢゃ」
「せ・い・ざ!!」
と自分の足元を指差すストーム。
明らかに本気のストームであることに気がついたシルヴィーは、ストームの足元にチョコンと正座する。
「さて、アルバート商会に便宜を図ってほしいという点についてだが」
「あ、あれはその、アルバート商会はベルナー近衛騎士団の装備について便宜を図って貰っているから‥‥たまにはアルバート商会にも便宜を図ってあげねばと思ってのう‥‥駄目ぢゃったか?」
ふぅ、とため息一つ。
「それはかまわないが、手紙は先にこっちによこしなさい。なんで便宜を図る相手に手渡されないといかんのだ? 順番が逆だ」
「す、すまぬ。反省しておる」
と頭を下げたので、ストームはシルヴィーの頭をポンポンと叩く。
「よし説教お終い。次やったら拳骨な」
「うむ。拳骨ですむ‥‥の‥‥すまぬのぢゃ」
一瞬で拳にスパイクの付いたガントレットを装備していたストーム。
それを見て、シルヴィーは本気で謝っている。
「あー、スマンがもうでていっていいか?」
そして家の中から、斑目まで出てくる。
その後ろには近衛騎士団員が二人付いて来ていた。
「なんでこんな大勢でくるのかねぇ」
「ハッハッハッ。そう言うな。俺はただの物見遊山。こいつらは護衛任務だ」
と斑目が話しつつストームの方に歩み寄る。
「で、シルヴィーの注文は?」
「護身用の短剣を一本。それと今宵はサムソン伯爵の晩餐会にでるのでな。招待状が届いているのぢゃ」
と一通の招待状を取り出した。
「それ、二人分だけど、誰といくんだ?」
「ストームは一緒に言ってくれぬのか?」
とちょっと寂しそうに呟くシルヴィー。
「俺はもう一緒に行く相手を決めてしまってね」
「ハーーッハッハッハッ。ということだ」
またしても家の中から声がすると、中からシュミッツが姿を表した。
「シ、シュミッツ殿、久し振りぢゃ。お元気そうでなによりぢゃ」
「シルヴィーもな。さて、それよりも場所を変えよう。街道沿いにひれ伏している奴らに悪い」
たしかに、シルヴィーが姿を表した頃から、街道沿いでこちらに頭を下げている人の数が増えている。
商人に至っては、どうしていいか分からず座り込んでいる者までいるのである。
そんな中でも、カレンは丁寧に頭を下げてから、また仕事に戻った。
そして一通りの鑑定が終わり、納品された武器を馬車に積み込むと、カレンはその場にいるストームたちに声をかける。
「とりあえず、立ち話もなんですから私の屋敷を休憩所にお使い下さい。王族の方をそんなあばら家に押し込めるなんて、私には出来ませんから」
と丁寧に頭を下げるカレン。
「では、アルバート家にお邪魔になるとするか」
「うむ。妾は別に、ストームの家でも構わなかったぞ」
てんでバラバラなことを言う王様達。
「では一度、お世話になってきてくれ。俺はまだ仕事なのでね」
ということで、ストームはその場に残って仕事となった。
「あ、そうだ。ストーム、あとでそこからもう一人来客がくるので、その人はシルヴィーの相方ということで頼む。実はなシルヴィー‥‥」
とシュミッツが何かをシルヴィーに告げたのち、二人はアルバート家へと向かっていった。
○ ○ ○ ○ ○
夜。
日が暮れて、街には魔法による街灯が灯る。
サムソン伯爵邸には、近隣から大勢の貴族たちがあつまり始めている。
――ガラガラガラガラ
とアルバート家の紋章の入った馬車が到着すると、中からフィリップ・アルバートと娘のカレンが姿を表した。
パーティの招待状には気軽な服装でと書いてあったにも拘わらず、まるで応急の晩餐会にでも出るかのようなしっかりとした服装である
「これはこれは。わざわざお越しいただきありがとうこざいます。本日は随分ときっちりとした服装ですな。今宵は気楽なパーティーなので、もっとゆったりとした服装でも構わなかったのですが」
とサムソン伯爵が丁寧に挨拶を告げる。
「いや、カレンから色々と話を聞いてな。そんなゆったりとした服など‥‥」
と返事を返すと、二人はそのまま屋敷の中に入っていった。
その後も次々と貴族たちが集まってくるが、皆カジュアルな服装に身を包んでいる。
「はて、他の皆さんは軽快な服なのに、どうして‥‥と、主賓がきましたか」
とストームたちの乗っていた馬車が到着する。その後ろには、2台の護衛騎士が乗った馬車が到着した。
「これはこれはストーム殿。本日はようこ‥‥そ‥‥おぉぉぉぉぉぉををを?」
幻影騎士団正装で姿を表したストームの後ろには、これまた正装のシュミッツ・ラクナ・マリアの姿があった。
「な、なぜシュミッツ王が? いえ、そういう意味ではありませぬが」
「今宵はストームから話を聞いてな。楽しい宴ときいてやってきた。今宵は無礼講だ。ハーーーッハッハッハッ」
と笑いつつ屋敷の中に入っていくシュミッツ。
「ということですので、私も楽しませて貰いますよ。では‥‥」
ストームもまた挨拶を返して、中へと入っていった。
さらに。
――ガラガラガラガラ
今度は6台の馬車が到着する。
入っている紋章はベルナー家である。
「これはこれは、ようこそおいで‥‥でぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
その場に崩れ落ちるサムソン伯爵。
馬車の扉が開くと同時に、中からはケルビム・ラグナ・マリアが姿をあらわす。
その後ろからシルヴィー・ラグナマリア・ベルガーもポン、と下りてきた。
「これはサムソン伯爵といったか。今宵は孫娘に連れてこられた爺とでも思ってくれ。ではいこうか」
「ということで、妾のお祖父様ぢゃ。今宵の晩餐会、ご招待ありがとうなのぢゃ」
と屋敷へと入っていく二人。
「は、ははは‥‥もう勘弁してくれよぉぉぉぉ」
とサムソン伯爵は夜空に向かって絶叫した。
ちょっとしたハプニングはあったものの、晩餐会は始まった。
巨大なホールには大勢の貴族たちが集い、立食形式の晩餐会に酔いしれていた。
予め無礼講と告げられていたので、時間が立つに連れて貴族たちも緊張の糸がほぐれ、楽しげにシュミッツやケルビム、シルヴィーと歓談を始めている。
ストームはというと、その光景をじっと眺めつつ、いつもの安酒ではなく高級な酒に酔いしれている。
ベランダに出て、空を眺めながらワインを傾ける。
「地球とは違う、二つの月が見えるな‥‥」
と今更ながら異世界に来ていることを思い知らされている。
月明かりに照らされて、うっすらと透き通った島らしきものも空には見える。
「流石はファンタジー。浮遊大陸まで見えているとはねぇ‥‥」
と、しげしげとその島を暫く眺めていた時。
「こんなところにいましたか。この招待客、ストーム様の差し金ですね?」
と笑いつつサムソン伯爵がベランダに来る。
「立食形式にしておけば、話も盛り上がる。どうせ、俺がここに来ていると話を付けて、貴族たちを集めたのだろう? 大方、伯爵に話を通して貰えば、うちから良質の武具を入手できるとかそういう御触だろうさ」
と笑いつつグイッとワインを飲み干す。
「ふっふっふっ。そこまで分かっていましたか。幻影騎士団のストーム殿と一緒の晩餐会ならば、あわよくばA+やS-ランクの武具が手に入るかもと話をしていたのですよ。私としては、此処に来て頂けただけでも面子は保てたのですが、まさかこのような大型ゲストで来るとは‥‥今更ながら降参です」
と頭を下げるサムソン伯爵。
「でしょう? 伯爵様、ストームの後ろにどれだけの方がついているのか、今更ながら理解して頂けましたか?」
カレンが笑いつつベランダに出る。
「全くです」
「ああ、いまなら言えるんだが、最初は皇帝と来る予定だったんだ」
――ブーーーッ
とワインを吹き出すサムソン伯爵とカレン。
「そそそそそ、それだけは勘弁を。私の命が幾つあっても足りません」
「まあ、皇帝も別の晩餐会があったので、申し訳ないとは告げていたがな」
ニイッと笑いつつストームが呟く。
「ははっ。完敗ですな。ストーム様、もしサムソンで都合の悪いことがありましたらなんでも仰言って下さい。出来うる限りの便宜は行います」
とサムソンが頭を下げる。
「聞いたぞ。妾が見届人となろう」
「うむ。我がシュミッツ・ラグナ・マリアも聞き届けた」
「左様。我、ケルビム・ラグナ・マリアもしっかりとのう。我ら三王が聞き届ける。これは皇帝の決定に等しいぞ!!」
次々とベランダに現れる王様チーム。
すでにサムソン伯爵は眩暈を覚えてきた。
「か、勘弁して下さい。これ以上は一杯一杯です」
と頭を抱えるサムソン伯爵。
「いやいや、中々楽しかったぞ。普段はこんな気楽な晩餐会などないからのう」
「その通り。このように肩肘張らないパーティはいいものだ」
「うむ。流石はストームぢゃ」
「ということで、サムソン伯爵、何か困ったことがあったら我ら三王に申し出るがよい。今宵の楽しい時間を与えてくれた感謝として、可能ならば力を貸そう」
とシュミッツが告げて、再び王様チームは室内へと戻って言った。
室内からは静かな音楽が流れ始める。
貴族たちによる舞踏会の時間となったようだ。
それをベランダで眺めていたかったが、シルヴィーとカレンの二人にダンスの相手を頼まれて、室内に連れて行かれる。
「先に妾のエスコートをするのぢゃ」
「いえいえ、ストームのお相手は私が努めますわ」
「ほほう、女王たる私にここは譲らぬか?」
「今宵は無礼講。立場を使うのはよろしくないのでは?」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「「ストームどの、どっちをエスコートするのですか!!」」
と同時にストームに向かって叫ぶ二人。
「ふぅ。マチュアの影潜りが欲しいよ‥‥」
と半ば諦め顔のストームであった。
朝の教会の鐘と同時に、人々は朝の仕事を開始する。
――カーーンカーーーンカーーーン
大工仕事の心地よい音が、ストームの家の隣から響く。
冒険者ギルドには朝一番で仕事を求める者達が訪れ、そして市場は活気に満ち溢れている。
あの大会が終わってからは、ストームは様々な武具の作成をしていた。
それこそ『本気モード』で作った逸品から始まって、人前に出すことが難しい伝承クラスの武具、近所のおばちゃんたちでも手軽に買える魔法の包丁など。
それを作る傍らで、最近のストームが行なっていることがある。
「ハイッ、これがフロント・ラットスプレッドっっっっ」
サイドチェスト鍛冶工房の庭で、ストームが集まっている冒険者にボディビルのポーズを披露している。
広背筋を広げるようなポーズから、次は胸と腕、肩、下半身の筋肉を強調するポーズに移行する。
「ハイッ、サイドチェストっっっっ」
回りで見ている冒険者たちは、次々と切り替わっていてくポーズに息を飲みつつ、同じポーズを取っている。
よく見ると、武神セルジオの修道士たちも集まって、ストームを拝んでいた。
いつもの日課をこなしていただけなのだが、最近は朝一で努めを終えた修道士や巡回騎士たちがストームのこの日課を広めたのであろう。
そこそこの人数の人が集まってストームと共に自重トレーニングに励んでいた。
「ハイッ!! サイド・トライセップスっっっっ」
上腕二頭筋を美しく見せるポーズに切り替えるストーム。
「素晴らしい、素晴らしいですよストームさん!!」
「そこは、切れてるぅぅと叫んで下さい。筋肉が喜びます」
ニィッと笑いつつ、冒険者達にそうアドバイスする。
「ストームさん、切れてるぅぅぅぅぅ」
――キラーーーン
と笑いつつ歯が光る。
いつものトレーニングと合わせて、この日課を毎日、朝1時間。
「で、貴方は?」
流れる汗を止めるために井戸水を浴びていたストームが、ずっと座って見学していた一人の女性に問い掛ける。
「あ、あの、実は‥‥サムソン伯爵からの使いで参りました」
顔中を真っ赤にしてそう告げる侍女。
時折ちらっとストームの胸筋を見ては、両手で顔を覆っている。
「で、伯爵様が一体なんの用事なのかな?」
──ピクッ、ピクッ
とストームの胸筋が唸る。
その度に、侍女は顔を赤らめてモジモジとしている。
「この前の『鍛冶技術認定審査』の件で、ストーム様にねぎらいの言葉を伝えたいそうです。それで是非に一緒に晩餐をということです」
頭を下げてそう告げる侍女。
「それで、いつがいいのかな?」
「本日が晩餐会の日なのです。ですので、突然の招待申し訳ないがとも告げておりました。ストーム様の他にも、この地方の貴族の方も大勢いらっしゃいますが、立食形式のパーティですので気軽な服装で、との事です」
と告げると、一通の書状をストームに手渡す。
それを受け取って中を確認する。
たしかに、今宵の晩餐会の招待状らしい。
「これ一通で二人分なんだ。もうひとり誘ってもいいのかな?」
「それは是非とのことです。ストーム様とご一緒して頂く方にも、色々とお話が聞きたいそうですので」
と告げられたので、ストームは頭に手を当ててしばし思考。
(このタイミングで、貴族が集まる場所に、俺ともう一人を招待したいと、このサムソンの都市を納める伯爵が‥‥成る程ねぇ。見栄と、あわよくば俺の武具を取り込みたい貴族たちが集まるという所だな)
と高速思考が始まる。
(もう一人と言うのも、恐らくは俺が幻影騎士団の仲間を連れてくる事を見越してか。そんな手には乗りたくはないが)
という事で、ストームはある企みを考えた。
「了解しました。それでは時間に間に合うように直接伺いますのでとお伝え下さい」
と告げて侍女を見送ると、ストームは早速家の中に戻った。
そして奥の部屋に移してある『転移の祭壇』に手をかざすと、そのまま王都ラグナの地下にある転移の祭壇へと移動した。
‥‥‥
‥‥
‥
――シュンツ
王城地下にある、巨大な転移魔法陣。
現在はミストの部下である『ハーピュレイ魔法兵団』がここを管理しており、特定の人物以外は使用を許されていない。
「おや、ストーム殿、貴方がここにくるなんて珍しいですね。何かあったのでしょうか?」
突然転移してきたストームに、地下古代遺物管理区画の責任者であるエリーゼが、ストームに話しかけた。
彼女がハーピュレイ魔法兵団の団長である。
「ちよっと用事があってな。詳しい話はおいといて、六王の誰か今日はきていないか?」
「本日はシュミッツ殿が」
「謁見を頼む」
とエリーゼに頼むと、ストームは幻影騎士団のマントを羽織った。
「リ、了解しました。早急に!!」
ストームが王城で幻影騎士団のマントを羽織っているという事がどういうことか、エリーゼは理解していた。
そして急ぎ謁見の場を作ると、ストームはシュミッツの元に通された。
「おお、久し振りだなストーム。元気そうでなによりだ」
「シュミッツ殿もお元気そうで。今日はこれをお持ちしました」
ゴトッとバックの中から一振りの剣をテーブルの上に置く。
一瞬だけ近くの騎士が腰の剣に手をかけたが、シュミッツはそれを制した。
「幻影騎士団のマントを付けているストームには手を出すな。それは皇帝に刃を向けるに等しいと思え」
シュミッツが待機している騎士にそう告げる。
「それに、ストームが俺に手を出すとも思えないしな。これは?」
目の前に置かれているロングソードを手に取る。
「いい武具が出来たので、差し上げますよ。ボルケイノの牙から鍛え上げたドラゴントゥースソードです。それよりも今日は、面白い話を持ってきまして」
そう話を切り出すと、ストームはシュミッツに今朝方の事を話しした。
「まあ、それはあれだ。自分の領地にはこんな凄い奴がいるんだからという自慢と、他の貴族に対する牽制、そしてパーティの会場という雰囲気を利用して、ストームに武具を注文する気だろうな。貴族のよくやる手だろうなぁ」
「ああ、俺もそう思っている。だが、こういうふうに利用されるのはあまり好きじゃなくてな。何かいい知恵がないかとやってきたんだが」
「しかし知恵と言ってもなぁ‥‥そうだ」
とシュミッツはストームと何やらよからぬ企みをしている模様。
そして昼ごろまで打ち合わせを終えると、ストームは一度サムソンへと戻っていった。
○ ○ ○ ○ ○
「どこに出かけていましたの?」
ストームがサムソンの自宅に戻って家の外に出たときに、鍛冶場にいたカレンに話しかけられたのがこの一言である。
鍛冶場には、カレン・アルバートが待っていた。
そして彼女の傍らには、荷物を運ぶ為の従者も待機していた。
「ちょっとな。それよりどうした?」
「どうしたではありませんわ。まさか今日が納品の日であることを忘れたのではありませんよね?」
「ああ、それは大丈夫だ」
このまえカレンから受けた武具の納入期限が今日であることを、ストームは忘れていた。
もっとも、既に注文品は完成しているので、あとは手渡すだけである。
――ヒョイヒョイ
次々とラージザックから注文品を取り出して、仕上げ台の上にならべていく。
それをカレンは1つずつ手にとって品質を確認すると、持ってきた木箱に収めていく。
「ふぅ。見ればみるほどため息が出るわね。このダガーなんてA+の品質は保証できるわ。これをオールミスリルで仕上げられたら。たまったものじゃないわね」
「それはありがとう。たま~に本気出した武器も混ぜておいたから、多少は儲けてくれ」
「あら、ストームにしては随分とお優しい事」
「あいにくと、知り合いに売るものについては、一般の納品よりも良いものにするのが俺の流儀でね。シルヴィーの紹介状があったから、アルバート商会からは小口の注文は受け付けてやるよ‥‥と」
そう告げて、近くの街道でこっちを見ている商人達に一言。
「だからといって、ベルナー家に取り次いで紹介状を書いて貰おうなんて思うなよ。シルヴィーの頼みでも、俺は自分が気に入らない仕事はしない主義だからな」
近くで商談に持ち込もうと待っている商人たちに向かって、そう叫ぶストーム。
「あらあら、私はお気に入りに入ったのかしら?」
「あんたはマチュアが気に入ったからいい。周りに対しての気遣いができる女は好きだ」
――ポッ
と頬を赤らめるカレン。
「すすす好きだななななんんんてててて‥‥」
「人としてだよ。とっとと鑑定して持っていってくれ。作業台が使えないと、こっちは仕事にならないからな」
やれやれという感じでカレンに告げると、慌てて作業を再開した。
「ストーム殿、すまぬが注文があるのぢゃが」
作業を開始して少しすると、ストームの家の中から声がする。
そーっと扉を開いて周囲を確認すると、シルヴィーが警戒しつつ出てきた。
「ほう。珍しいところから出てくるなぁ。シルヴィー、ちょっとここに来て正座だ、ハリアップ!!」
とストームに呼ばれて、家の中からシルヴィーがやってくる。
「おひさしぶりぢゃ」
「せ・い・ざ!!」
と自分の足元を指差すストーム。
明らかに本気のストームであることに気がついたシルヴィーは、ストームの足元にチョコンと正座する。
「さて、アルバート商会に便宜を図ってほしいという点についてだが」
「あ、あれはその、アルバート商会はベルナー近衛騎士団の装備について便宜を図って貰っているから‥‥たまにはアルバート商会にも便宜を図ってあげねばと思ってのう‥‥駄目ぢゃったか?」
ふぅ、とため息一つ。
「それはかまわないが、手紙は先にこっちによこしなさい。なんで便宜を図る相手に手渡されないといかんのだ? 順番が逆だ」
「す、すまぬ。反省しておる」
と頭を下げたので、ストームはシルヴィーの頭をポンポンと叩く。
「よし説教お終い。次やったら拳骨な」
「うむ。拳骨ですむ‥‥の‥‥すまぬのぢゃ」
一瞬で拳にスパイクの付いたガントレットを装備していたストーム。
それを見て、シルヴィーは本気で謝っている。
「あー、スマンがもうでていっていいか?」
そして家の中から、斑目まで出てくる。
その後ろには近衛騎士団員が二人付いて来ていた。
「なんでこんな大勢でくるのかねぇ」
「ハッハッハッ。そう言うな。俺はただの物見遊山。こいつらは護衛任務だ」
と斑目が話しつつストームの方に歩み寄る。
「で、シルヴィーの注文は?」
「護身用の短剣を一本。それと今宵はサムソン伯爵の晩餐会にでるのでな。招待状が届いているのぢゃ」
と一通の招待状を取り出した。
「それ、二人分だけど、誰といくんだ?」
「ストームは一緒に言ってくれぬのか?」
とちょっと寂しそうに呟くシルヴィー。
「俺はもう一緒に行く相手を決めてしまってね」
「ハーーッハッハッハッ。ということだ」
またしても家の中から声がすると、中からシュミッツが姿を表した。
「シ、シュミッツ殿、久し振りぢゃ。お元気そうでなによりぢゃ」
「シルヴィーもな。さて、それよりも場所を変えよう。街道沿いにひれ伏している奴らに悪い」
たしかに、シルヴィーが姿を表した頃から、街道沿いでこちらに頭を下げている人の数が増えている。
商人に至っては、どうしていいか分からず座り込んでいる者までいるのである。
そんな中でも、カレンは丁寧に頭を下げてから、また仕事に戻った。
そして一通りの鑑定が終わり、納品された武器を馬車に積み込むと、カレンはその場にいるストームたちに声をかける。
「とりあえず、立ち話もなんですから私の屋敷を休憩所にお使い下さい。王族の方をそんなあばら家に押し込めるなんて、私には出来ませんから」
と丁寧に頭を下げるカレン。
「では、アルバート家にお邪魔になるとするか」
「うむ。妾は別に、ストームの家でも構わなかったぞ」
てんでバラバラなことを言う王様達。
「では一度、お世話になってきてくれ。俺はまだ仕事なのでね」
ということで、ストームはその場に残って仕事となった。
「あ、そうだ。ストーム、あとでそこからもう一人来客がくるので、その人はシルヴィーの相方ということで頼む。実はなシルヴィー‥‥」
とシュミッツが何かをシルヴィーに告げたのち、二人はアルバート家へと向かっていった。
○ ○ ○ ○ ○
夜。
日が暮れて、街には魔法による街灯が灯る。
サムソン伯爵邸には、近隣から大勢の貴族たちがあつまり始めている。
――ガラガラガラガラ
とアルバート家の紋章の入った馬車が到着すると、中からフィリップ・アルバートと娘のカレンが姿を表した。
パーティの招待状には気軽な服装でと書いてあったにも拘わらず、まるで応急の晩餐会にでも出るかのようなしっかりとした服装である
「これはこれは。わざわざお越しいただきありがとうこざいます。本日は随分ときっちりとした服装ですな。今宵は気楽なパーティーなので、もっとゆったりとした服装でも構わなかったのですが」
とサムソン伯爵が丁寧に挨拶を告げる。
「いや、カレンから色々と話を聞いてな。そんなゆったりとした服など‥‥」
と返事を返すと、二人はそのまま屋敷の中に入っていった。
その後も次々と貴族たちが集まってくるが、皆カジュアルな服装に身を包んでいる。
「はて、他の皆さんは軽快な服なのに、どうして‥‥と、主賓がきましたか」
とストームたちの乗っていた馬車が到着する。その後ろには、2台の護衛騎士が乗った馬車が到着した。
「これはこれはストーム殿。本日はようこ‥‥そ‥‥おぉぉぉぉぉぉををを?」
幻影騎士団正装で姿を表したストームの後ろには、これまた正装のシュミッツ・ラクナ・マリアの姿があった。
「な、なぜシュミッツ王が? いえ、そういう意味ではありませぬが」
「今宵はストームから話を聞いてな。楽しい宴ときいてやってきた。今宵は無礼講だ。ハーーーッハッハッハッ」
と笑いつつ屋敷の中に入っていくシュミッツ。
「ということですので、私も楽しませて貰いますよ。では‥‥」
ストームもまた挨拶を返して、中へと入っていった。
さらに。
――ガラガラガラガラ
今度は6台の馬車が到着する。
入っている紋章はベルナー家である。
「これはこれは、ようこそおいで‥‥でぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
その場に崩れ落ちるサムソン伯爵。
馬車の扉が開くと同時に、中からはケルビム・ラグナ・マリアが姿をあらわす。
その後ろからシルヴィー・ラグナマリア・ベルガーもポン、と下りてきた。
「これはサムソン伯爵といったか。今宵は孫娘に連れてこられた爺とでも思ってくれ。ではいこうか」
「ということで、妾のお祖父様ぢゃ。今宵の晩餐会、ご招待ありがとうなのぢゃ」
と屋敷へと入っていく二人。
「は、ははは‥‥もう勘弁してくれよぉぉぉぉ」
とサムソン伯爵は夜空に向かって絶叫した。
ちょっとしたハプニングはあったものの、晩餐会は始まった。
巨大なホールには大勢の貴族たちが集い、立食形式の晩餐会に酔いしれていた。
予め無礼講と告げられていたので、時間が立つに連れて貴族たちも緊張の糸がほぐれ、楽しげにシュミッツやケルビム、シルヴィーと歓談を始めている。
ストームはというと、その光景をじっと眺めつつ、いつもの安酒ではなく高級な酒に酔いしれている。
ベランダに出て、空を眺めながらワインを傾ける。
「地球とは違う、二つの月が見えるな‥‥」
と今更ながら異世界に来ていることを思い知らされている。
月明かりに照らされて、うっすらと透き通った島らしきものも空には見える。
「流石はファンタジー。浮遊大陸まで見えているとはねぇ‥‥」
と、しげしげとその島を暫く眺めていた時。
「こんなところにいましたか。この招待客、ストーム様の差し金ですね?」
と笑いつつサムソン伯爵がベランダに来る。
「立食形式にしておけば、話も盛り上がる。どうせ、俺がここに来ていると話を付けて、貴族たちを集めたのだろう? 大方、伯爵に話を通して貰えば、うちから良質の武具を入手できるとかそういう御触だろうさ」
と笑いつつグイッとワインを飲み干す。
「ふっふっふっ。そこまで分かっていましたか。幻影騎士団のストーム殿と一緒の晩餐会ならば、あわよくばA+やS-ランクの武具が手に入るかもと話をしていたのですよ。私としては、此処に来て頂けただけでも面子は保てたのですが、まさかこのような大型ゲストで来るとは‥‥今更ながら降参です」
と頭を下げるサムソン伯爵。
「でしょう? 伯爵様、ストームの後ろにどれだけの方がついているのか、今更ながら理解して頂けましたか?」
カレンが笑いつつベランダに出る。
「全くです」
「ああ、いまなら言えるんだが、最初は皇帝と来る予定だったんだ」
――ブーーーッ
とワインを吹き出すサムソン伯爵とカレン。
「そそそそそ、それだけは勘弁を。私の命が幾つあっても足りません」
「まあ、皇帝も別の晩餐会があったので、申し訳ないとは告げていたがな」
ニイッと笑いつつストームが呟く。
「ははっ。完敗ですな。ストーム様、もしサムソンで都合の悪いことがありましたらなんでも仰言って下さい。出来うる限りの便宜は行います」
とサムソンが頭を下げる。
「聞いたぞ。妾が見届人となろう」
「うむ。我がシュミッツ・ラグナ・マリアも聞き届けた」
「左様。我、ケルビム・ラグナ・マリアもしっかりとのう。我ら三王が聞き届ける。これは皇帝の決定に等しいぞ!!」
次々とベランダに現れる王様チーム。
すでにサムソン伯爵は眩暈を覚えてきた。
「か、勘弁して下さい。これ以上は一杯一杯です」
と頭を抱えるサムソン伯爵。
「いやいや、中々楽しかったぞ。普段はこんな気楽な晩餐会などないからのう」
「その通り。このように肩肘張らないパーティはいいものだ」
「うむ。流石はストームぢゃ」
「ということで、サムソン伯爵、何か困ったことがあったら我ら三王に申し出るがよい。今宵の楽しい時間を与えてくれた感謝として、可能ならば力を貸そう」
とシュミッツが告げて、再び王様チームは室内へと戻って言った。
室内からは静かな音楽が流れ始める。
貴族たちによる舞踏会の時間となったようだ。
それをベランダで眺めていたかったが、シルヴィーとカレンの二人にダンスの相手を頼まれて、室内に連れて行かれる。
「先に妾のエスコートをするのぢゃ」
「いえいえ、ストームのお相手は私が努めますわ」
「ほほう、女王たる私にここは譲らぬか?」
「今宵は無礼講。立場を使うのはよろしくないのでは?」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「「ストームどの、どっちをエスコートするのですか!!」」
と同時にストームに向かって叫ぶ二人。
「ふぅ。マチュアの影潜りが欲しいよ‥‥」
と半ば諦め顔のストームであった。
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