異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第一部・二人の転生者と異世界と

幕間の3 教えて、アンジェラ先生

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 辺境都市ベルナーを出て、次は帝国王都である『王都ラグナ』へと向かう。
 道中は、王都と辺境都市を結ぶ交易都市『アクシアナ』を通るルートで向かうため、都市間を走る高速乗合馬車よりは4日ほど時間がかかってしまうらしい。
 アクシアナを通過して王都へと向かう場合、大体14日程度で着くとマルチには告げられた。

「ということは、大体2週間ですか」
「一週間‥‥旧暦の数え方ですわね。大体それぐらいで到着しますわ」
 あっさりと告げられて、ちよっと動揺してしまった。

 この世界は一年が360日、一ヶ月が30日という暦は存在するが、一週間という日数感覚はないらしい。
 それでも古代魔導王国時代には七日=一週間という数え方は存在するため、商人関係や貴族などはそのまま使っている人も多いらしい。
 でも、一週間がいくつで一か月という感覚ではないらしく、一か月はやっぱり30日で区切られている。

 毎日、朝6時と正午、夕方6時には教会の鐘がなる。
 一日の時間は、それで計算されているらしい。
 それでは教会は何故時間を正確に図れるのか?
  という疑問があったが、実は教会には古代魔導王朝の齎した『時を示す水晶』の量産品が配られているらしい。
 これは『魔導王国スタイファー』という滅びし王国の遺産を『辺境都市サムソン』という都市の錬金術師たちが解析し、量産に成功したものだそうだ。
 だがあまりにも高価であるため、各都市の教会以外は一部の貴族や商人しか持っていないという。

 『ベルナー』から『アクシアナ』へと向かう街道はかなり整備されているため、よほどのことがない限りは盗賊やモンスターの襲撃はない。が、まもなく始まる『竜王祭』の為、王都を訪れる人は大勢いるらしく、道中彼方此方で旅の冒険者や乗り合い馬車などを見かけるようになってきた。 

「そう言えば、アンジェラさん一寸教えてほしいことがあるんですけれど」
「はい、何かありましたか?」
 と問われて、マチュアは話を始めた。
 というのも、この世界に来て、様々な種族や国が出てくる。
 マチュアは海の向こうの異国の冒険者らしいという噂になっているので、この際その設定で行こうと思ったのだが、いかんぜんこの世界の種族などについてあまりにも無知すぎる。
「この大陸に来て、まだ日が浅いものでして。この地には私のようなエルフ以外には、どんな種族がいるのでしょうか? ほら、私料理人もやるので、こっちの種族の食べられない食材とかが分かると助かるのですよ」
「‥‥なるほど。では、私の知っている限りでよろしければ、お教えしましょうではまず‥‥」
 と告げると、まずはこの大陸の種族について教えてくれた。

「まず、ドワーフからご説明しましょう。私達人間の次に、よく見かける種族ですので‥‥」


 ○ ○ ○ ○ ○ 

 
 一般的に、私達の住む世界のドワーフは『ドワーフ士族』と呼ばれています。
 彼らは人間の5倍程度の寿命を持ち、心身ともにガッチリとした体型の方が多いです。
 特筆といいますか、男性のドワーフは皆さん立派な髭を蓄えています。
 種族としては背が低い方が多いのですが、極稀に2mほどの体躯を持つドワーフもいらっしゃいます。
 ドワーフは『山の民』と呼ばれるほど山岳や鉱物・鍛冶についての知識が強く、ミスリルなどの魔法鉱石などの取扱いにも長けています。
 現在流通している武具の中でも、SランクとAランクの殆どはドワーフの職人の手によるものが多いですね。
 戦闘についても、彼らは優秀な戦士で、勇気を持って敵と戦います。また、『狂化』と呼ばれる状態に陥ることもあり、そうなったドワーフはまさに死ぬまで戦い続けるとまで言われています。
 よくドワーフとエルフは中が悪いと言われていますが、決してそのようなことはありません。
 口の悪いドワーフに言わせると、エルフは『虚弱なもやし野郎』と言う事もあります。またエルフ達も肉体派で戦闘時に狂化までするドワーフの事を『脳筋』と笑うこともありまして。
 はい。種族的に仲が悪いというよりは、子供の喧嘩の延長のようなものです。


 ○ ○ ○ ○ ○


「あはは。ド、ドワーフってそういう感じなんですね」
 取り敢えず知識としては覚えておこうと、マチュアは思った。
「はい。では、次はエルフですね‥‥」

 森の民とも呼ばれているエルフは、『エルフ氏族』と正式には呼びます。
 外見的には背が高く、耳が細長く横に伸びているのが特徴です。
 ドワーフと同じく、人間の5倍程度の寿命を持っていまして、若いうちは、外見年齢が人間で言う20歳から30歳ぐらいまでは、人間と同じように成長します。
 そこからは時間の流れが穏やかになるので、外見的には30歳でも実際には150歳ぐらいという方もいらっしゃいます。
 彼らは『森の民』という呼び名もあるほど森と共に生きる民であり、自分たちの住まう領域を荒らすものは、たとえ如何なるものでも許しはしないと言われています。
 もっとも、戦闘を好んでいるのではなく、自分たちの領域には人やその他の種族が入ってこれないように『結界』を施していることもあります。
 彼らは生まれながらにして『風の精霊』と『大地の精霊』の加護を受けており、『精霊魔術師』としての資質を持ち合わせています。
 人間の住まう世界に姿を表したり、マチュアさんのように冒険者として登録しているものは中々珍しい存在なのですよ。
 あと、生まれながらにして『魔神』の加護を受けたものは肌が褐色で生まれることがあります。
 彼らは『ダークエルフ』と呼ばれていますが、忌み嫌われているわけではありません。ただ、数が普通のエルフよりも少数なので、人里で見ることは殆どないと言われています。


 ○ ○ ○ ○ ○ 


(よし、マチュアの外見はエルフなので、いまの部分を覚えておけばなんとかなる)

 こっそりと拳を握るマチュア。
「では、次は‥‥ロリエットですね」

 この世界で最も不思議な種族の一つが『ロリエット氏族』です。一般的には『ロリエッタ』と呼ばれることがありますが、何方でも問題は無いそうです。
 彼らの特徴は、その不老性にあります。
 一般的には人間のように成長しますが、大体人間で13歳から16歳ぐらいで外見の成長は止まってしまいます。あとはそのまま年をとっても外見は老いることはなく、さらに老化による死というものは存在しないのです。
 一般的には、彼らは神の加護を受けた『亜神の末裔』と言われていますが、事故や病気などでは死ぬこともあるそうです。
 彼らは『草原の民』とか『旅の民』と呼ばれており、一つの街に定住するようなことは余りないそうです。
 楽しいことが大好きで、さらにその不老性から『吟遊詩人』のように世界を旅して物語を紡いているものも結構いるそうです。
 また、その俊敏さから『盗賊』などの能力に特化したものが多いのも特徴でしょう。
 意外と街の中や冒険者ギルドに登録しているものも多いのが特徴ですが、あの外見で酒場で酒を飲んで騒いでいることもあり、子供たちの教育に良くないと街の中では思われていることがあります。


 ○ ○ ○ ○ ○ 

 
「ふむふむ。合法ロリですね分かります‥‥」
 とマチュアは腕を組んで頷いている。
「ゴーホーローリィの意味がわかりませんが。ええっと、獣人はご存知ですか?」

 獣人とは、『亜神の加護』によって『獣に人としての力を与えられた者達』の末裔です。
 数があまりにも少なく、自分たちの住まう集落からあまり外に出ないのが殆どです。それゆえに、冒険者や都市部の中でその姿を見ることはかなり稀であるといえます。
 寿命は人間程度ですが、特筆すべきは『完全獣化』といいまして、元々の獣の姿に変化することが出来ます。
 普段の外見は人間の姿に獣の特徴を合わせたものが多く、大半の種族は皮膚が体毛や鱗などに覆われています。
 残念なことに、その希少性から『奴隷商人』などに狙われたりすることがあるそうです。


 ○ ○ ○ ○ ○ 


「奴隷は良くないよねぇ。こっちの大陸は奴隷はどうなっているの?」
「表向きには違法です。けれど、どうしてもそれを求める者達がいる。ということで奴隷商人も裏には存在しています。貴族の中には侍女という名目で『奴隷』を使っているものもいるそうです‥‥さて、それではスチームマンは見たことがありますよね?」

 スチームマンというのは、全身が金属で構成されている金属生命体の総称を言います。
 古くは、この世界の何処かにあったと伝えられている『魔導王国スタイファー』の技術によって作られた人工生命体でして、人間と同じような肉体構成は持つているのですよ。ただし脳や心臓といった臓器は存在せず、心臓のような『魔導核』という臓器があります。そこに知識や精神、記憶、人工魂というものが組み込まれているそうです。
 昔は制作した魔導士の命令しか受け付けなかったそうですが、長い年月の間に自我を持って旅をしているものもいるようです。
 食べ物は特に必要ありませんが、最低限水だけは必要だそうです。まあ、普通に食べても胃袋のような器官で分解できるので問題はないようですし、一部のスチームマンは食べたものからスキルを得るといったことをするものもいるそうです。
 寿命という概念はありませんが、体の構成がミスリルなどの魔法金属の者は、人間の使う回復魔法などで怪我は修復できるそうです。
 彼らスチームマンは、未だその全てを解明できていないのが本音なのです。


 ○ ○ ○ ○ ○ 


「一度だけ見たことあるけれど、あれは衝撃的でしたねー。それに格好良かったなぁ(ウットリ)」
「マチュアさーん。落ち着いて下さいね。大体今のでこの大陸の種族についての説明はできたと思います。あとは‥‥ローディガントでしょうかねぇ」
 
 『古代種ローディガント』とは、この世界で最も不可思議な存在であるといえます。
 人間と全く同じ外見を持っていますが、彼らは『水晶の谷クリア・バレー』と呼ばれる彼らの聖地で、『母なる水晶』から生まれてきます。
 生まれながらにして膨大な魔力と人間離れした身体能力を持っているので、彼らは一流の戦士や魔道士としての才能を秘めています。
 寿命というものは存在しませんが、壮年期になるとそれ以上外見年齢が変わらなくなってしまうそうです。
 他の種族と子供をなすこともありますが、それは必ず『古代種でない方』の子供が生まれるのです。
 『古代種』は死んだときに大地へと帰り、そこから水晶の谷へと魂は還っていくと伝えられています。
 そして新たなる肉体を与えられ、また生まれてくるそうです。
 同種族間での婚姻により子供をなすこともあるそうですが、それは極まれな存在で、それによって生まれた子供は古代純血種ピュア・ローディガントと呼ばれているそうです。
 外見的な特徴は、その瞳が真紅であることだけです。もっとも普段は普通の人となんら特色ないのですが、一定の時期になると真紅に輝くことがあるそうです。
 男女共に美形が多く、昔の貴族は『古代種狩り』と称して奴隷を集めていたとも伝えられています。
 なお、古代種ローディガントと呼んでいるのは私たちだけであり、本当の士族名は水晶の民エクセリアンというそうです。
 今現在、現存している水晶の民エクセリアンは確認されていません。


 ○ ○ ○ ○ ○


「まあ、これでこちらの大陸の種族はご理解いただけたでしょうか?」
 とアンジェラが問いかける。
「大体は同じなのですね。けれど、古代種は知らなかったですねぇ‥‥」
 と笑いながら告げる。
「マチュアさんは何方の出身なのですか?」
「えーっと。東の小さい島国ですよ。閉鎖的で、外にはあまり出ない国ですから。あははははーーー」
 乾いた笑いしか出てここないマチュアだが。
「よく吟遊詩人たちが伝えている『東方の倭国』でしたか。そうですか。今度色々とお話を教えてください」
 と瞳を輝かせて詰め寄られる。
「そうですねぇ。また今度。といっても、私も冒険に出るまではずっと森の中でしたから、あまり詳しくはないのですよ」
 よし、上手く躱した。
 さっきのエルフの説明を上手く使った。
「そうでしたか、ちょっと残念ですね」
 とアンジェラは笑いながらそう告げた。
 と、遠くに巨大な門が見えてくる。

 あれが『交易都市アクシアナ』。
 大陸の殆どの交易路の重なる、商人の大都市である。

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