異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第一部・二人の転生者と異世界と

マチュア・その8・護衛任務は大変です

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 無事に初級冒険者との依頼を終えて、報告を終わらせてきたマチュア。
 そのまま酒場へと戻ってきたのはいいが、席はすでに満席状態であった。
 疲れた体を癒やすために、栄養のある食べ物を取ろうと思っていたのだが、それもこの状態では無理だろうと考える。

「ありゃ、これじゃあ食事もできないですかー」
 カウンターにいたオーナーにそう問いかける。
「ああ、マチュアか、お帰り。飯を喰うなら部屋に持っていって食べたほうがいいぜ。誰か、マチュアの飯を作ってやってくれ」
 とカウンターで接客している酒場のオーナーに言われたので、マチュアは従業員から食事の載せられたトレイを受け取ると、それ部屋へと持っていく。
 そして扉を閉めて鍵を掛けると、部屋全体に張り巡らしてある魔法の結界を確認する。

 セキュリティのために部屋に施してある聖域範囲セイクリッド敵対者警告エネミーアラート
    その効果は絶大で、過去に何度か泥棒が部屋に押し入ろうとしたことがあったが、扉からこちらには侵入できていなかった。
 宿のマスターや従業員の人が部屋を訪れることはあっても、彼らは私に敵対している訳ではないのでこの結界は素通りできる。
 だが、泥棒は敵だ。

「この街も2ヶ月ちょいか~。そろそろ何かしらの進展があってもいいんだけとねぇ」
 とベットに転がってウインドゥを開く。
 毎日の日課であるスキルとクラスの確認。
 特にそれらに変化はなかったが、何か間違って別の画面を開いてしまった。
 ステータースウィンドゥを開いていた時、何処かにあるコマンドを誤って起動させてしまったらしい。
「ふぁ?」
 と開いた画面をじっと見る。
 そこは【アバターチェンジ】と記されていた。
「こ、これはなんでしょーか」
 見たこともないコマンドを、それをクリックしてみる。
 すると、画面表示が変化した。

 【アバター1・マチュア】【アバター2・エンジ 】
 【アバター3・未登録 】【アバター4・未登録 】
 【アバター5・未登録 】

「ほほう。アバター2がエンジというと、あれかな?」
 その名前に心当たりはあった。
 マチュアで遊んでいる時以外に、息抜きでつくった可愛らしさを重点に作ったキャラクターである。
  初期装備の衣服の色が臙脂色えんじいろだったので、名前はエンジにした。
 そのゲームの中では、スキルやクラスはキャラクターごとに設定されている。その為、キャラクターを変えるということは、1から全て作り直す事になる。
 だが、この世界ではどうだろうか?

――ポチッ‥‥ブゥン

『【アバター2・エンジ】が起動しました』
 とウィンドゥに表示される。
 と、一瞬にして、私の外見は『エンジ』に変化している。
 外見種族は、この世界で言う【ロリエッタ】になっているのだろう。
 腰まで伸びた長い黒髪と、そこはかとなく発達している体。
 外見年齢は実に14歳の美少女になっていたのである。

「おおう、これは‥‥」
 そのままの状態でクラスを確認する。が、特に変化はない。
 【アバターチェンジ】のコマンドは、純粋に外見だけを変化させるものであるらしい。
「なるほどねぇ‥‥と、マチュアにチェンジ」

――ブゥン 
 一瞬にして元に戻す。
 そしてしばしウィンドゥを確認する。
 まだ、ここにはかなりの裏技があるような気がするが。
 取り敢えずはもう疲れたので寝よう。それが一番だ。
 と自身に言い聞かせて、その日は久しぶりのベットでゆっくりと睡眠を取った。


 ○ ○ ○ ○ ○ 


 翌日。
 一階でゆっくりと朝食を取ったら、日課である冒険者ギルドでの依頼探しだ。
 ということで朝一番に冒険者ギルドへと向かっていった。
 早朝であるにもかかわらず、冒険者ギルドの付近は大勢の人でごった返している。
 例えば城塞の外に向かう依頼の場合、朝一番で行かないと距離によっては夜に正門が閉じるまでに戻ってはこれない。
 もう一つの理由は、冒険者ギルドの職員は早朝と夕方の2回、追加の依頼書を掲示板に貼り付けるからだ。
 貼り付けられた依頼をゆっくりと吟味し、気に入った依頼があれば依頼書を、掲示板から剥がしてカウンターへと持っていく。
 マチュアもまた、朝一番で依頼を探していたのだが、ふと同じ依頼書が彼方此方に貼り付けられているのに気がついた。

「‥‥護衛任務?」
 近づいて依頼書の内容を確認する。
 その依頼は、南方にある【ラグナ・マリア帝国】に向かう隊商の護衛任務。
 ここの都市でも有数の移動商人【ギャロップ商会】が隣国まで向かうため、その護衛任務を頼みたいということであった。
 チームでもフリーでも構わない、必要人数は10名。
 目的地は【ラグナ・マリア帝国】及びその周辺都市と記されている。
 報酬は一人金貨で100枚、移動中の食事などは全て支給されると書いてある。
『但し、依頼を受ける条件として冒険者個人若しくはチームのクラスはBクラス以上とする』という試し書きが、この依頼の難易度を物語っているのであろう。
 何枚も張り出されているその依頼書を手にとっては、また掲示板に戻す。
 それを繰り返しているチームが彼方此方に見られた。

「あ、これ一枚貰いますねっと!!」
 と貼り付けてある護衛の依頼書を手に取ると、マチュアはカウンターとへ向かっていった。
「あらマチュアさん、おはようございます」
「ほいおはよう。ということでこれお願いね」
 と依頼書を受付のキャサリンに手渡す。
「ふむふむ、マチュアさんは全ての条件をクリアしていますからねぇ。ではこちらを持って、西門にある『ギャロップ商会』へ向かって下さい。今頃は出発準備を行っている最中ですから」 
 と告げられた。
「それじゃあ、暫くは戻ってこれないので、お元気でね」
 そのまま冒険者ギルドを後にすると『ギャロップ商会』へと向かう途中でいつもお世話になっている宿に向かう。
 そのまま一階の酒場に飛び込むと、カウンターにいるオーナーの元へと向かった。

「オーナー、ちょっといいですか」
「ん? なんだマチュアか、どうした?」
「ギルドの依頼で隊商の護衛に付くことになったのです」
 ほう、と一言だけ告げるオーナー。
 そのまま手近に置いてあったパイプに火をつける。

――プカァー
「で、戻ってくるのか?」
「それが判らないのですよ。行き先は【ラグナ・マリア帝国】なので」
 そう告げると、オーナーがニィッと笑う。
「帝国までと言うことは王都か。また、随分と遠くに行くものだなぁ。片道大体30日って所だ。まあ気をつけて行ってこいよ」
 と送り出してくれた。
 部屋の契約は一時ストップ、戻ってきた時に今の部屋が埋まっていたら別の部屋を貸してくれるというので、安心して出かけることができる。
「それじゃあ行ってきますね」
    頭を下げながらお礼を告げると、マチュアは酒場から出て行った。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


 ギャロップ商会は、この都市でも有数の大商会だった。
 大陸の各地を訪れては、其々の土地ならではの名産品を大量に購入し、次の土地へ向かい売りさばく。
 どの土地でどのようなものが好まれているのか、それらを把握しているからこその移動商人である。
 ギャロップ商会は、この移動商人のシステムを隊商規模まで大きくした。
 大型の荷馬車が大体15台。
 商会で雇い入れている護衛以外に、冒険者ギルドにも護衛の依頼をだしている。
 一度商品を積み込んだら、大体半年近くは大陸を移動して商売を続けている。
 この手法が『ファナ・スタシア王国』に認められ、ギャロップ商会は『准男爵』の称号を得ることが出来た。
 だが、先代のギャロップ商会の主人である『グレイシー・アルクシップ』が亡くなってしまったため、現在はまだ若干20歳の一人娘である『マルチ・アルクシップ』が商会を取り纏めているらしい。
 だが準男爵の位はグレイシー没後に返上となり、それに伴いギャロップ商会に与えられていた権利はその殆どを失ってしまった。
 そのため、マルチ・アルクシップはこの慣れ親しんだ『ファナ・スタシア王国』から別の土地へと移動することにしたようである。

「あのー、冒険者ギルドから依頼を受けてきました」
 と、マチュアは開け放たれた扉から、忙しそうに走り回っている従業員らしき人に話しかけた。
「あらご苦労様。依頼書はお持ちで?」
「はい、これを‥」
 とギルド発行の依頼書を手渡す。
「Bクラスのトリックスターですね。宜しくお願いします。このキャロップ商会の隊商責任者のマルチ・アルクシップです‥‥いまはマルチだけですけれどね」
 准男爵の地位を失ってしまったため、あまり表の世界でアルクシップの名を告げることは好ましくはない。
    没落した貴族はそういうものなのであろう。
「ではこちらへどうぞ‥‥他の冒険者の方もすでに集まっていますから」
 と待合室のようなところに案内された。
 そこには10名ほどの冒険者が集まって休んでいた。
 ちなみに今回も戦闘があるかもということで、司祭ビショップにモードチェンジを行ってある。
 装備は前回と同じ、ミスリルの胸当てにドラゴンレザーアーマーの上着とスカート。ミスリルのフレイルと耐熱のマントというガチ装備で纏めてみた。
 そのまま手近な椅子に座ろうとした時。

「おや、どちら様かと思いましたが、初級冒険者教官ではないですか」

 ニヤニヤと笑いながら、いやみったらしい戦士が、こちらに向かってそう呟く。
 それに反応するかのように、数名の冒険者がこちらを半ば侮蔑の目で見る。
「まあ、今回はよろしくお願いしますね。何処かの口だけの戦士みたいな半端な仕事はしませんので」
 と、折角なので嫌味には嫌味で返してあげよう。
 そのままニィィィッと笑い返すと、目の前に座っている戦士が顔を真赤にして立ち上がる。
「なんだと、てめぇ誰に向かって言っているんだ?」
「たかがトリックスターごときが、ちょっと表にでやがれ」
「痛い目に合わないといけないようだなぁ‥‥」
 と3名の冒険者が立ち上がる。
 だが。
「そこまでだ。マチュアさんはそのへんのトリックスターとは違う。痛い目を見るのは貴様達になるぞ」
 と板金の胸当てにハードレザーといった出で立ちの騎士が、荒ぶっている戦士たちに向かって警告した。
「ああ? いいかウォルフラム。いくらお前がAクラスの騎士だからって、俺たちに向かってそんな口を聞くな」
「そうだそうだ」
「そうだそうだ」
 と、戦士の取り巻きが相槌を打つ。
 君たち、いい味しているよなぁ。

「まあまあ皆さん落ち着いて下さい。これから共に護衛を務めるのですから、仲良くやっていきましょうよ」
 と告げるのは、綺麗な修道服に身を包んだ女性。
「ま、まあ‥‥シスター・アンジェラがそう仰っしゃるのなら‥‥」
 と先程まで粋がっていた戦士たちも、借りてきた猫のように静かになる。
「確かマチュアさんでしたわね。神聖教会から今回の依頼に治療師ヒーラーとして派遣されましたアンジェラと申します。ケビン枢機卿から色々とお話は伺っていますわ。此方の騎士はウォルフラムです」
「宜しくマチュアさん。弟から話は聞いています」
 と二人から順に握手を求められたので、そのまま軽く握手を返す。
「弟‥ですか?」
 さて、何方様の事か見当もつかない。
「はい。弟の名前はサイノスです。弟からは、マチュアさんは司祭クラスの魔術を使えるトリックスターと伺っています」
 ニィっと笑みを浮かべるウォルフラム。
 その口元から見える歯がキラーンと輝いた。

(あ、本当に兄弟だ)

「サイノスさんのお兄様ですか。それはそれは。私もお世話になりました」
 知り合いが出来るとちょっと楽しい。
 何分、これから30日間の護衛の旅である、色々とあるだろうと思われる。
「チッ‥‥足手まといにはなるなよ」
 とさっきの戦士が吐き捨てるように告げた。
「そちらこそ‥‥ね」
 と、此方もとっておきの笑みで言い返す。
 この手の輩は、引いたら駄目だ。
 そんな感じで部屋で待っていると、外で待機していた他の冒険者も集まってくる。
 やがて太陽が真上に差し掛かった頃。
「それでは宜しくお願いします。冒険者の皆さんは前列の5台と後列の5台の警護をお願いします。真ん中の5台は私達商会の護衛が努めますので」
 とマルチが部屋にやってきて告げる。
「へへっへっ。俺達は前に行かせて貰うぜ」
 と先程の戦士たちが前方に付くらしい。
 ちなみに集まった冒険者のクラス内訳と配置はこんな感じらしい。

 騎士      4名(前後に二人ずつ)
 戦士      7名(前に四人、後ろに三人)
 盗賊      1名(後ろに一人)
 レンジャー   1名(前に一人)
 精霊魔術師   2名(前後に一人ずつ)
 治療師     2名(前後に一人ずつ)
 トリックスター 1名(後ろに一人)  

 最終的には18名の大所帯になったようだが、その程度はマルチは気にもしていない。
 あとで聞いた話だと、20人までは考えていたという。
 マチュアは後ろの五台の警備に回されてしまった。
    まあ、シスター・アンジェラとウォルフラムの二人も後ろに回ってくれたので、多少は気が楽である。
「それじゃあ出発しましょう。最初の目的地は『ファナ・スタシア王国』と『ラグナ・マリア王国王領』の国境沿いにある『辺境都市ベルナー』です」
 とマルチが叫ぶと同時に、隊商の馬車が静かに走り出した。


 ○ ○ ○ ○ ○ 


 隊商が城塞都市カルンを出発してから、すでに七日ほどが経過している。
 この間、特に盗賊団やモンスターに襲われるようなことはなかった。
 草原地帯からいよいよ森林地帯へと差し掛かったが、道中は穏やかな空気が流れていた。
 が。
 それは突然現れた。

――ヒュヒュンッ!!

 次々と森の彼方此方から矢が射られる。
「敵襲だっ!!」
 真ん中辺りの護衛が叫ぶと同時に、馬車の木窓がバタバタッと閉じられる。
 続いて護衛や冒険者が矢の飛んできた左側の森に対して身構えると、襲撃に備えた。
「マチュアさんも急いで‥‥何処へ行くのですか!!」
 ウォルフラムの叫びとほぼ同時に、マチュアは反対側の右側へと走り出す。
 そして隊商の中ほど、七両目まで到着すると、すかさず魔法陣を形成した。

(ゲームのイベントにこんなのあったな。左側の攻撃は囮で、そっちに目がいった瞬間に本隊が右から強襲するやつ‥‥)

 やがて足元の魔法陣が、ゆっくりと光り輝き始める。
 その間にも、隊商の左側では森の方から大量に飛んでくる矢に対して、楯を身構えて防御したり、魔法によって大地より土の壁を生み出したりしている。
「あのトリックスター、逃げやがったのかよっ」
「所詮は雑魚ですぜ‥‥ハウッ!!」

――トスッ
    と戦士の取り巻きにいた男の頭を、鋭い矢が貫通する。
「そこの冒険者、どうして反対側にいるっ!!」
 護衛の一人が、マチュアに気がついて叫ぶ。

「黙っていてっ!! 『八拾五式・聖域範囲セイクリッド敵性防御ハードプロテクション・可変』っっ!!」

 魔法の発動の際、おおよそ消費する魔力を設定する事で、過剰な効果発動を抑えることができる。
 八拾五式というのは、ゲームで言う所のMP85点消費のような感覚である。
 この場合は効果範囲のさらなる拡大と、その形を変えるための消費と思ってくれるとありがたい。
 足元に広がった防御魔法陣が楕円形に変形する。
    それは真ん中の五台の馬車を包むと、白く光る結界を作り上げた。
 それと同時に、右側の森からも大量の矢が飛んできて、馬車に向かって次々と降り注いだ。
 だが、間一髪でマチュアの魔法陣による結界が完成していたため、矢は結界に突き刺さって止まってしまった。

「行くぞおめーら!!」
 やがて右の森から飛んできていた矢が止まった時、革鎧に身を包んた盗賊団が森の右奥から次々と飛び出してくる!!

「狙うのは真ん中だ。隊商の中心にお宝があるはずだっ!!」
 と明らかに真ん中の馬車に向かってくる盗賊たち。
    だが、手前に張り巡らされているマチュアの放った結界によって近づくことが出来なくなっている。
「なんだこの結界はっ!!」
「いいから攻撃を続けろ、獲物は真ん中だっ!!」
 盗賊のリーダーらしき男が指示を飛ばす。
 それに合わせて盗賊の攻撃が真ん中に集中していく。
「敵の排除だ!! 目的は真ん中の馬車だっ!!」
 前衛にいた騎士が叫びつつ、手近にいる盗賊を切り捨てる。
 盗賊もタダではやられまいと必死に抵抗を続けていが、真ん中の馬車までは届かない。
 その間にも、マチュアは再び魔法の発動準備に入る!!
「援護お願いします!!」
 そう叫びつつ、二つ目の魔法陣の起動に入る。
 まともにこのレベルの魔法を詠唱すれば、最低でも3分はかかる。が、マチュアは無詠唱で発動を開始する。
 それでも魔法の発動から完成までは1分。
 これ以上はまだ短縮することができなかった。
 「そこの司祭だっ、野郎どもそいつを殺せぇェェェ」
 リーダーの絶叫が周囲に響く。
 そして盗賊たちは次々と此方に向かって駆け出してくる。
「‥‥南無三っ!!『八拾五式・聖域範囲セイクリッド敵性防御ハードプロテクション・可変』っ」
 二つ目の魔法陣が起動する。
 今度は前方の馬車5台を結界で包み込む。
 馬車に取り付いて車体に向かって手斧を奮っていた盗賊は、結界の外へと弾き飛ばされてしまった。
 だが。

――ズバズバァァァァァッ
 盗賊たちがマチュアの右側から駆け寄り、手にしたショートソードで切りつけた。

「死ねやぁぁぁぁぁぁ」
 マチュアの右腕・上腕部がざっくりと切りつけられ‥‥ない。
 マチュアの装備していたハードレザーが、盗賊のショートソードの一撃を弾いたのである。
 ただ、打撃ダメージは入るので、衝撃により右上腕部が痛い。
「ぐぅゥゥゥっ‥‥」
 その痛みに耐えつつも、目の前の盗賊に向かって身構える。
「へっへっへっ。トドメだぜっ!!」
 そう呟いて切りかかってくるが。
 その攻撃をスルッと躱すと、すかさず盗賊の後ろに回り込んで手にしたフレイルで高速乱打ラピッドアタックを叩き込む。

――ドコドゴトコドコドコォォォォッ
 盗賊も最初は何か叫んでいたようだが、後半は意識を失ってしまっていた。

「前の10台は結界で防護していますので、残りをお願いしますっ!!」
 慌てて周囲に聞こえるように叫んだ時。
 突然盗賊たちが森の中へと逃走した。
「悪いがこれ以上は相手できねぇ。あばよっ!!」
 盗賊のリーダーが捨て台詞を吐いて逃げていった。
 その姿を追いかけようとした冒険者たちだが、途中で脚を止めて馬車へと戻ってくる。

(今のうちに‥‥軽治癒ライトヒール)

 こっそりと腕の怪我を回復するマチュア。
「隊商の各員に通達。被害状況の確認と、可能なら治療を開始っ。冒険者は今のうちに怪我の治療を」
 マルチが隊商全員に聞こえるように叫んだので、マチュアも隊商の最後尾に移動すると、座って一休みとなった。


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