異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚

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第一部・二人の転生者と異世界と

ストーム・その6・サイドチェスト鍛冶工房は多忙です

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 ガンガンガン、ガンガンガン、ガンガンガン、ガンガンガン
 本日もまた脳内をギンギンキン、ギンギンキンと響き渡る二日酔い。

「あー、またやったかーー」
 ストームはフラフラとする頭を抱えつつゆっくりと起き上がると、いつものように庭に出て体を拭う。
 そして軽い深呼吸の後、いつもの日課である自重トレーニングを開始する。
 大体1時間、ほぼ毎日のトレーニングは筋肉の成長に絶対欠かせない。
 そしていつもの日課を終えると、ストームは鍛冶場へと向かっていく。

――ズラーーーリ
 すると、大勢の人が鍛冶場の近くに集まっていた。

(うわ、昨晩は少しやりすぎたか?)

 デクスターのロングソードを切断するというパフォーマンスを見せたのだが、その直後に酒場にいた客たちから一斉に質問攻めにあってしまったストーム。
 なんとかそれを躱すように鍛冶工房の宣伝だけをして、そのままデクスターと飲みまくって。
 そして今、この状態である。

「あ、貴方がここの鍛冶師さんですか。本日は我が『ライネックス商会』と商談して頂きたいと思いまして、やって参りました」
「ちょっとラインバルトさん、抜け駆けはダメだ。それに此処にはうちの方が早く来たんだ。『バストーク商会』と申します。異国の鍛冶師様、本日はご相談にやって‥‥」
「そこの商会さんも下がってください。うちなんか朝早くからずっと待っていたんだ。どいてどいて。『カプリコーン商会』と申します。ぜひこちらの武器を当方で専売させて頂きたく‥‥」

 次から次へと商談を持ちかけてくる商人たち。
 すると、その人々の後ろの方で、じっとこちらをニコニコと見ている人がいる。
 先日、アーノルド伯爵の使いでやってきていた、セバスとかいうエルフの男性である。
 さて、このままでは埒が明かない。
 ならばとストームは両手でその場を制すると一言。

「まず皆さん聞いて下さい。俺の武器は、どの店にも卸す気はありません。作る武器については全て受注制です。一振り作るのにも時間がかかるのでそれも考慮に入れてほしいのです。それに大量注文は一切受け付けません」
 そこまで告げると、幾つのかの人は諦めたらしい。が、それでもと引き下がらない商会もある。
「手が足りないのなら、うちの工房のものを貸し出す。だからどうしても」
「無理ですね」
「広い場所も用意するぞ」
「駄目ですね」
「うちにはゴールドクラスの鍛冶師もいる。そいつを補佐に付ける」
「俺はシルバークラスです。ゴールドの補佐なんてとんでもない話です。その方が気を悪くしますよ」
 と、なかなか引かない。

――パンパン
 その時、後ろで見ていたセバスが手を叩く。

「商会の代表及び代理人の皆さん、鍛冶師が作らないと言っているのです。これ以上無理強いをすると自分たちの立場も危うくなるのではないでしょうか?」
 そう告げるセバスの姿を見て、仕方なく下がっていく商会の人々。
「ありがとうございます。もう少しでキレるところでした」
 セバスに丁寧に頭を下げるストーム。
 さっきの説明でも下がって貰えないのなら、肉体言語ジツリョクコウシも止むなしと考え始めていたときにセバスさんの言葉である。
 本当に助かった。

「いえいえ。恐らくはこうなるでしょうと我が主人に告げられまして、微力なりともお助けしてこいとの事でしたので」
 そう告げられると、悪い気はしない。
「そうでしたか。ありがとうございます」
「ではこれで」
 とそれ以上は何も告げずに立ち去ろうとするセバス。
「今日は交渉の話はしないのですね?」
「ええ。後日見本を用意してくれると仰言おっしゃって頂いたので。それを見るまでは一切交渉は行いません。そういうお約束でしたよね?」
 そう告げて、頭を下げてその場から立ち去るセバス。
「流石はセバスだな。アーノルド伯爵の敏腕執事ということはある」 
 どこからともなく湧いてきたエルフの男がそう呟いている。
 実にいいガタイをしている、男前なエルフだ。
「あの‥‥貴方は?」
「ああ、通りすがりの紳士とでも思っていてくれ。ではさらばだ」
 と告げて立ち去っていく。
 その後姿を見て、ストームは一言。

(しかしあの僧帽筋凄いなぁ。マッチョなエルフもいるもんだ‥‥)

 しばしエルフの後ろ姿をじっと見ていた。
 ようやく静けさを取り戻したため、ストームは早速日本刀や各種武器の生産を開始した。
 技法は例の菊練りを取り入れた技法。
 【ストーム式鍛造術】とでも命名しておこう。
 それから数日間、ストームはただひたすらに武具の作成を続けていた。


 ○ ○ ○ ○ ○ 


 あれから一週間。
 ストームはひたすらに武具を作っていた。

 ダガーやショートソードはおろか、ハルバードやバスタードソード、バトルアックスに至るまで、この街で見られる武器防具の中でも、鍛冶に関係しているものは一式揃えることにしたのである。
 これは練習でもあった。
 悪く言うと手抜きであるが、実際は手順からどんどん無駄を削ぎ落とし、量産に値するレベルでの生産技術を確立する為である。
 この作業中にも、彼方此方から『サイドチェスト鍛冶工房』には大勢の客が訪れていた。
 殆どが武器を買い付けたいという者達ばかりで、中には脅しのような交渉をしてきたものもあったのだが、とりあえずそちらの方には『肉体言語ジツリョクコウシ』でお帰りしていただいた。
 
 また、巡回騎士さんから話を聞いたという冒険者が、研ぎだけの依頼をしてきたこともあった。
 それは仕事として受けると、これみよがしに丁寧に仕上げてあげた。 
    余計な魔法付与は行わず、基本の【斬属性保護】のみを与えて。
 ストームとしても、一日に数本程度の研ぎならば大歓迎である。
 一本研げば酒場で豪遊できるというのは置いておくとして。一日数本程度なら、ここでの生活費を稼ぐのに十分だったのである。
 そんなこんなで仕上がった翌日、アーノルド伯爵の使いのセバス殿が来店した。

‥‥‥
‥‥


「こんにちは。お約束の期日ですので伺わせていただきました。見本、見せていただけますか?」
「ご苦労様です・それではこちらへ」
 丁寧に挨拶を返すと、セバスと共にやってきた禿頭のドワーフが頭を下げる。
「どうも初めまして。アーノルド伯爵に雇われて武具の鑑定にやってきたリックだ。今日は宜しく頼む」
 とがっちりと握手を交わすと、そのまま二人を展示室へと案内する。
 このリックというドワーフ、セバス殿の話によると王都で『ボーンスターズ武具商会』という武具屋を営業している。凄いことに一般の武具だけでなく、『魔法武具マジックウェポン』や『魔導具マジックアイテム』の販売や鑑定、買い取りなども行っているらしい。
 
 セバス達を自宅の一部を改造した展示室へ案内する。
    展示室といっても、壁際全面に棚を配置し、見栄えがいいように完成した見本の武具を並べてあるだけであるが。
 もっと建物を大きくして展示物を増やせば、立派な武器屋としても通用するのだろうが、全てストームの作る武器でないと話にならないし、そこまで手広くやる気も無いのでそれはパスしておこうという考えらしい。

「ほほう。これは眼福。では早速調べさせて貰っていいですかな?」
「どうぞどうぞ」
「まずはダガーか。これは凄い。このデザインは東方にある‥‥」
 と武器屋のリックの薀蓄が流れ始めた。
 一つ一つを丁寧に鑑定し、その詳細をセバスに告げるリック。
 セバスはというと、リックの説明をこれまた丁寧に羊皮紙に書き留めていた。
 ストームとしてはリックの説明はどうでも良かったので、隣の部屋で自分用の『短刀』の研ぎを始めた。

「‥‥ムさーん。ストームさ~ん」
 と外からストームを呼ぶ声がする。
「ちょっと呼ばれたので外に行きます。お二人はゆっくりと見ていて下さい」
 軽く頭を下げてから、ストームは外へと出ていこうとすると。
「おいおい、武器の見張りはいらないのか?」
 後ろからリックが問いかけた。
 確かに、これだけの武器だと、悪い気を起こす人がいても不思議ではないのだろう。
 リックはかなりの精度でストームの武具を鑑定しているようだ。
 だからこその、先程のリックの言葉なのであろう。
「アーノルド伯爵の使いの方が、何かするとは思えませんし。そんなことをしたら大切な主人の顔に泥を塗るようなものでは?」
 と告げて外に出た。
「人がいいというか、なんというか」
「我々は試されているのですよ。リック殿、続きを」
 ということで、セバス達は時間を掛けてゆっくりと調べ始めた。

 外でストームを呼んでいたのは、冒険者チーム『影の踊り子シャドウダンサーズ』のリーダであるクリスティナであった。
「おや、いつぞやはどうも、今日は一体なんの御用ですか?」
 気軽に仕事モードで話しかけるストームだが。
「あ、そんな他人行儀じゃなくていいよ。研ぎを頼みたいんだ」
 クリスティナは腰に下げてあった一対のショートソードを取り出した。
「ショートソードにしては短いけれど、ダガーにしては長いような」
「正解。ツインダガーっていう特注品だよ。こう構えて使うんだ」
 と2つのツインダガーをそれぞれ逆手に持つクリス。
「ああ、海外の間違った忍者の装備か。了解。1時間ほど掛かるけれど大丈夫か?」
 行きつけの酒場『鋼の煉瓦亭』の常連なら、仕事モードの話し方でなくてもいいやと思い、ストームは仕事モードを解除してクリスティナと話を続けた。
 丁寧な言葉遣いは、仕事以外だと正直言って面倒くさい。
「1時間程度なら構わないわ。お願いね」
「なら、家の奥の部屋で見本の展示しているから見てきたら? あんたなら構わないや」
 とクリスを家に入るように促す。
「そうなのか? 意外とあたしは手癖悪いよ?」
「自分でそういう人は大丈夫だ。それじゃあ始めるから、終わったら呼ぶので」
 と呟くと、ストームは井戸の近くにある研ぎ場へと向かい、ツインダガーを研ぎ始めた。

(この手の武器はマッチュが使っていたことがあったよなぁ。今頃どうしていることやら‥‥元気なのかねぇ)

 と久しぶりにマチュアの事を思い出すストーム。
 まあ、そのうち会えるでしょう。
 とんでもなく元気ですよ、多分。

――シャーツッシャーッッ
 軽快な金属音が周囲に響く。
 城外から帰ってくる冒険者たちがこちらを見て、軽く会釈をしている。
 近所に済む人々も最初は変な鍛冶屋という感じで近よってこなかったが、最近は気軽に話しかけてくれるようになった。
 相変わらず近くの建物の影からは、こちらを監視している人影が見えるが、あれはああいうオブジェであると脳内変換したので放置である。 

「よし完成と」
 1時間後、研ぎを終えてクリスのいる部屋へと向かう。
 そこでは、リックとセバスの話し合いにクリスまでもが参加していた。
「これはどうみても金貨300枚。それ以下は無理だよっ」
「確かに価値としてはそれぐらいが妥当です。セバス殿、予算はどれ位なのですか?」
「主人からは白金貨10枚預かってきています」
 白金貨10枚はすなわち金貨にして1000枚。
 日本円で一千万円ていうところか。
「しかし、こちらのダガーも捨てがたい」
「セバスさんでしたっけ? 実にお目が高いですねぇー」
 と、まるで店員のように接客しているクリスティナ。
 
「店員かい!!」
 とツッコミを入れつつ部屋に入ると、クルッとツインダガーを回してクリスに手渡す。 
「ほら、クリス、仕上がったぞ。サービスで【頑丈】の効果を付与しておいたぞ」
 と気軽に告げる。
 慣れたもので最近は、研ぎだけでも2つ程度の能力は付与できるようになった。
「へー、そんなことが出来るんだ、ありがとさん。で、【頑丈】って何?」
「武器の耐久度が上がって、刃毀はこぼれしにくくしておいただけだ」
 ふぅんと呟いてツインダガーを受け取るクリス。 
 それと引き換えに金貨を2枚取り出してストームに手渡そうとするのだが。
「1枚多いぞ。うちの研ぎ代は金貨一枚だ」
「2つ研いでもらったから2枚だろ?」
「それは2本でセットだろ。だから1枚でいい」
 と返答を返す。
 それに納得したのかクリスも一枚を小銭入れに放り込んだ。
 そんなやり取りを、リックは目を白黒させて見ていた。
「ち、ちっょとまってくれ。貴方は今、研ぎの時点でも魔法を付与できるといいましたよね?」
「あ、ああ、それほど難しくないですよ」
 と呟いた時、セバスの目がキラーンと輝いたような気がした。
「そうか難しくないのか。そうか‥‥。それは凄い技術だ。今度教えて欲しい所だが」
 と呟くリック。

 ストーム自身は冒険者ギルドで先導者ヴァンガードのクラス認定を受けているので、教えるだけなら簡単にできる。
    それを体得できるかどうかは、リック次第なのだが。

「さて、セバス殿。見本の方はいかがでした?」
 リックの隣で満足そうにしているセバスに話を振ってみると。
「どれも素晴らしい逸品です。ぜひ取引をと言いたい所ですが、本日はあくまでも見本を見せていただいたに過ぎません。一度領地に戻り、主人に報告しなければいけませんので、注文したいものが決まれば後日正式に発注させて頂きますよ」
「その時はよろしくお願いします。こんな廉価版ではなく本気の武具を仕上げて見せますよ」
 と返答を返したのだが。
「こ、これで廉価版だと‥ならば本気の武器というのは一体‥‥ブツプツ」
 リックが小声でブツブツ言い始めた。
 これはやばい状況です。
 自分の中の何かが音を立てて壊れていったリックである。
「さて、リック殿、それでは戻りましょうか。では私たちはこれで」
「あ、ああ、それじゃあ。今度はお互い一人の鍛冶師として、じっくりと話しようじゃないか!! 酒でも飲み交わしながらな!!」
 その時は是非、と社交辞令を告げて、ストームは二人を見送る。
「じゃああたいもそろそろな。また飲もうぜ」
「応!!」
 クリスにそう挨拶を返すと、後ろ姿を見送った後、鍛冶場へと戻っていった。
 時間帯はちょうど夕方。
 ストームの鍛冶師としての仕事の受付は夕方まで。
 そして夕方のこの時間は、近所の主婦たちが包丁を持ってくる時間である。
 ここからは近所付き合いのサービスタイムだ。
「ストームさん、これ欠けちゃったんだけれどどうにかなるかい?」
「ああ、ちょいとまってな」

――シュッシュッシュッシュッ

 さっと軽く手直しして戻す。
 ちなみに代金は銅貨5枚でいいと近所の人には説明してある。
 これも良き近所付き合いのためである。
「うちの鍋なんだけれど‥‥穴があいちゃってねぇ」
 あー、ちょっと待ってな‥‥これで治すか。
 試し切りで切断したインゴットの角を火炉にくべて柔らかくする。
 それをヤットコで取り出し槌で叩いて薄く延ばすと、それで穴を塞いでさらに叩いて圧着する。

――キンキンカンカントンテンカン

(鍋底の一部がミスリル製‥‥うぷぷ)

 と楽しそうに笑いつつ次々と修理していく。
 冒険者たちの仕事道具ではなく、気楽に修理できるのがじつにいい。
 ちなみに後日、に身のがしっかりと火が入らないというクレームを受けるストーム。ミスリルが熱伝導率を下げていることに、今しばらく気づかなかった。

「すいませーん。明日にでも、うちの竈(かまど)の修復をお願いしたいんだけれど、なんとかなりそうですか?」
 と裏に住んでいるエルフの若奥さんが話しかけてくる。

 ちなみに主人は、ここの巡回騎士らしい。
 美人で巨乳のエルフの若奥さんだとぉ?
 しかも新婚だとぉ?
 もう、爆ぜてくれそんな奴は。

 そんな気持ちを、グッと堪えて
「まあなんとかしますよ。明日でいいですか?」
 と営業スマーイル。
「ええ。それじゃあ宜しくお願いしますね。これよかったら食べて下さい」
 と蒸かしたジャガイモを大量に持ってきてくれた。
 よし、助かったな巡回騎士。
 お前に対する恨みは、このジャガイモでチャラにしてやる。
「では、これは代金ということで明日伺いますねー」
 と言った感じで、最近は平和な日常を満喫していた。


 ○ ○ ○ ○ ○ 

 
 この辺境都市にきて、かれこれ3ヶ月は経っただろう。

 ストームはすっかり都市の住人として馴染んでしまった。
 アーノルド伯爵からはミスリル製のハルバードとフルプレートアーマーの注文もあり、半月ほどはそちらの制作に時間を取られてしまった。もっとも報酬は金貨1000枚、加えてアーノルド伯爵領内の通行許可証と鍛冶工房の使用許可証も発行してくれた。
 本当ならば伯爵領に引っ越してきてもらいたいらしいが、いま暫くの拠点はこの街なので丁寧にお断りをいれておいた。
 大金が手に入ったので、ストームは『鋼の煉瓦亭』の主人であるウェッジスから、この空き地と鍛冶場を含む建物一式を金貨600枚で買い取った。
 そんなに要らないとウェッジスは話していたのだが、これは気持ちだからと告げて無理やり受け取って貰った。
 はれて土地と建物、それにある程度の資金も出来たことだし、そろそろ【魂の修練】を考える必要があると考えたのだが。 
 しかし、何を持って【魂の修練】になるのか、さっぱりと見当がつかない。
 とりあえず教会へと向かい、シスターに助力を仰ぐ必要があると思って家を出た時。

「貴方がストームね!!」
 家の前にある街道あたりで、綺麗なトレスを着た女性がストームを指差して叫んでいた。
「ああ、たしかにストームだが、何か?」
 年にしておおよそ15歳ほどの、まだあどけなさの残る少女。
 後ろには、黒を基調としたメイドドレスを着た侍女らしき女性が静かに立っている。
「私はシルヴィー・ラグナ・マリア・ベルナー。このラグナ・マリア王国王家の第2王女なの‥よっ」
「はぁ、そうですか。それじゃあ」
 と手をひらひらと降って、まっすぐ教会へと向かおうとする。
「ち、一寸待つの‥待ちなさいっ。王家の人間に対して、そのような無礼な振る舞いが許されると思って!!」
 ぐい、と侍女に何かを指示するシルヴィー。
 そのタイミングとほぼ同時に、侍女がスカートをたくし上げ、太腿にあるベルトからスローイングダガーを引き抜く。
 それを素早く此方の足元に向かって投げてきたのだが。

――キィン!!

 スローイングダガーが飛んでくると同時に腰を少し下げで腰に下げている日本刀を抜刀する。
 居合抜きの応用で、飛んでくるダガーが地面に突き刺さる前に真っ二つにすると、クルッと日本刀を回転させて鞘へと戻す。

「は、はぁ? ステラのスローイングダガーの実力は騎士団クラスなのじゃ‥‥わよっ。なんでそれを鍛冶師ごときが!!」

 あ、この子『なのじゃ』が口癖のお姫様か、そっかリアル『のじゃロリ姫』か。
 丁寧に話そうとしているところは、まあ努力は認める。

「あー、そうですか。その程度で騎士団クラスねぇ、冒険者の中にももっと強い人はいますよ。それに、突然人の家にやってきて、挨拶の前に人の名前を叫ばれてもねぇ‥‥」
 とシルヴィーに呟く。
「ううう。そ、そうじゃ‥ね。それについては非礼をお詫びするの‥じゃ‥わ」
 ほっぺたをプッと膨らませて、シルヴィーがそう告げる。
 わがままな子供が正論突かれて膨れている感じにしか見えないが、まあ、謝ったので許してやるとするか。
「では改めて、『サイドチェスト鍛冶工房』のストームと申します。本日はどのようなご用命で? それと無理に丁寧な言葉遣いは無用です。素のままでどうぞ」
 と営業スマイルで告げるストーム。
「東洋の鍛冶師どの、貴方に武具を作って欲しくてやって参りました。アーノルド伯爵の紹介状も御座います」
 すると侍女が、封蝋を施してある手紙をこちらに差し出した。
「あ、ああ、伯爵の紹介状ですか。では‥‥」
 と中身を確認する。
 先日納品した武具についての丁寧なお礼が記されていたことと、シルヴィー王女の願いを可能ならば引く受けてくれると助かると記されていた。 
「ははあ。確かに。それでどのような武具をお求めで?」
 と問いかける。
「まもなく王都にて武術大会が開催されるのじゃ。妾の騎士団からも1名参加する。その者の武具を作って欲しいのじゃが」

 おお、ファンタジー小説ではおなじみの武術大会キターーー。
 と心躍らせるストームだが。

「了解しました。それでは、武具を必要とする者をこちらに派遣して頂けますか? その方が到着次第、作らせて頂きます」
 その刹那。
「武術大会は1ヶ月後、ここまで騎士団長殿を派遣するのには時間が足りぬのじゃ。ということで、ストーム殿、王都まで来て直接作っていただきたいのじゃ」
 突然の申し入れです。
「ち、ちょいと待ってくれ。突然王都に来て、武具を作ってくれと言われてもなぁ‥‥」
 そう呟いた時、シルヴィー王女の肩が震えていたのに気がついた。
「報酬ならなんでも用意する。どうしても‥‥今回の大会では妾の騎士団長が優勝しなくてはならぬのじゃ‥‥そうでなければ‥‥」
 そう呟くと、王女はドレスの裾をギュッと掴んだまま俯いてしまう。
 街道の石畳に、王女の涙が落ちていくのを見た時、ストームは何か事情があると察した。
 そして頭をボリボリと掻きながら踵を返す。

「ふぅ。あまり綺麗な所ではありませんが、取り敢えずお話だけでも伺いましょう」
 そう告げて王女を自宅へと案内する。
 そしてしばし王女の話に耳を傾けるど、意を決してストームは外出の準備を開始した。

 翌日早朝、王女の乗ってきた馬車に便乗する形で、ストームは王都へと向かっていった‥‥。
 一体何が起こったのか。
 それはまた後ほど‥‥。
 
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