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第一部・二人の転生者と異世界と
マチュア・その3・パーティーを組んでみました
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無事に城塞都市カナンで魂の護符を受取り、無事に冒険者ギルドでの登録を完了したマチュア。
登録したプレートは表向きはBクラスのシルバープレートだが、本当はSSSクラスのミスリルプレートと鑑定結果が出た。
これは心にしまっておいて自分だけの秘密にした模様。
登録クラスも謎の【トリックスター】と判明し、まずは落ち着くためにギルド内の酒場へと足を向かわせた。
冒険者ギルド内にある酒場。
依頼を終えて懐の温かい冒険者や、これから依頼に向かうための打ち合わせをしている者たちで、ここはいつも賑わっている。
中には、他の酒場より安いという理由でここで酒を飲んでいる者もいるらしく、出入りは誰でも自由なため冒険者以外の人々の姿もチラホラと見えている。
もっとも、冒険者=荒くれ者というイメージもあるため、冒険者以外で此処を利用している人はそれほど多くはないようで。
「さて、これからどうしましょうかねぇ」
マチュアは近くの空いている席に座り、ぐるりと周囲を伺う。
殆どの冒険者の飲んでいるものはエールかワイン、食べているものは肉や魚、野菜などを焼いたものや煮込んだものなど様々である。
マチュアのいた現実世界の料理がないのは当然であるが、見た感じでは基本的な味付けは塩がベースとなっているようだ。
【調理師GM】アビリティを持つマチュアには、だいたい見た目と匂いで味は判別がつく。
サイノスたちのチーム西風の話で、この王国界隈の主食がパンやジャガイモであると聞いていたが、実際ここで見る限りはパンを食べているものが大半である。
野菜と肉の煮込みなどと一緒に、パンを食べている冒険者が多い。
あとは腸詰めのような食べ物や、ミルクをふんだんに使ったシチューのようなものまである。
「えーっとすいません。ここで登録を終えたばかりなのですが、こちらで注文してもよろしいのでしょうか?」
近くのテーブルで、空いた食器を片付けているウェイトレスにそう問いかけるマチュア。
すると、店員もにこやかにやってきた。
「あ、初めての方ですね。こちらはどなたでも自由に注文して頂いて構いませんよ」
「軽い食事がしたいのですが。この街には初めて来たもので今ひとつ勝手が判らなくて」
そう目の前のウェイトレに話しかける。
「お肉とお野菜、魚料理と色々とございますがどれにしますか?」
思い出せ。
今こそライトノベルで培った知識を導入するときだ。
こういうときに何を注文すればいいのか思い出せ。
そう考えていると、突然何かがマチュアのなかに下りてきた。
「えっと。腸詰めの炙った奴とパンを下さい。お酒は飲めないのでお水かフレッシュジュースを頂けると助かります」
「はい、それでは少々お待ち下さい」
軽く会釈をしてウェイトレスが下がっていこうとした時。
「私には焼き野菜のセットをください。それと発泡ワインをお願いします」
近くに寄ってきたメレアがニコリと笑いつつ注文する。
「こちらよろしいかしら?」
「ええ、どうぞ。一人で食べるよりは大勢で食べたほうが楽しいですからね」
と返事を返してしばしの歓談。
ここでマチュアは、この世界の法律について色々と聞くことができた。
殺人は大罪。
ただし犯罪者相手ならばその状況によって罪の重さが変わってくるらしく、正当防衛などは無罪となる。
町の中では王国の騎士団などが常駐しているため、都市内の犯罪はそちらの管轄になるらしい。
一旦街に出るとそこは無法地帯。
人を殺してはいけないとか、他人の物を盗んではいけないという不文律は町の外でも適用されるが、監視の目がないのでかなり放置されている。
それでも目に余るものは冒険者ギルドなどに依頼が届くらしい。
マチュアを襲った盗賊団『ナイトウォーカーズ』などもその一つで、話によると奴らはかなり大規模な盗賊組織らしい。
そしてそれらを取締り討伐するのも、騎士団や冒険者の仕事であると告げられた。
「ふぅん。やはり法はそれなりにしっかりとしているのですね」
大体のことは理解した。
まあ現代世界でやってはいけない事は此方でも駄目と覚えておけば、おおよそ問題はないようだ。
――カシャン、カシャン
すると、入り口から何処かのパーティーが入ってくる。
5人パーティーのようで、ヒューマンが男女二人、ドワーフの男性一人、少年一人はおそらく【ロリエッタ】とかいう種族と思われる。
そして、その後ろからくる異形の存在。
全身をフルプレートのようなもので覆っているが、フォルムは明らかに人間ではない。
ぶっちゃけると、ファンタジー世界の中に紛れ込んでいる【勇者ロボのようなもの】である。
人形に近い外見ではあるが、全体的にかなりロボロボしている。
「メメメ、メレアさん、あの人は一体何でしょうか?」
指は刺さなかったものの、メレアはマチュアが何を訪ねているのかすぐに理解してくれた。
「あら、【スチームマン】のことでしょうか?」
「スチームマン?」
「ええ。古代の魔導王国の失われた技術によって作られた人型の種族ですね。この大陸では北東にある古代魔導王国スタイファー遺跡の近くにある城塞都市あたりでは、結講いらっしゃいますよ」
おお、これは燃えるシチュエーションだ。
「生きているのですよね?」
「ええ。人間と同じく体内には心臓のような器官があるのですよ。【魔導核】といいまして、そこに知識や精神、記憶、はては命と呼べるものまで詰まっているそうです。残念ながら今の私達の知識では、そのすべてを解明することができなくて‥‥」
「なるほど。浪漫の塊なのですね」
いつまで感動していても仕方がないので、メレアさんに他にどんな種族が『このあたりに』いるのか問いかけてみた。
「基本は私達のようなヒューマンが圧倒的多数ですね。他にはロリエッタやエルフ、ドワーフといった種族がたまに見られますわ。エルフやドワーフは自分たちの領土からはあまり離れることがないので、冒険者に登録しているのは意外と珍しいほうですけれど」
なるほどねぇ。
と、今一度酒場を見渡して見る。
確かにヒューマン以外に多いのはロリエッタだ。
そしてドワーフ、エルフ、スチームマンという感じに数が減っていく。
その少数派の中でもさらに少数派が【獣人族】らしい。
「あの、獣人さんたちは‥‥」
「さらに珍しいですよ。人里に姿を表すことは殆どありませんから。あの方達は、別大陸の種族ですから」
酒場の中では、ウェイトレスの中に二人ほど猫族の女性が、冒険者パーティの中に虎族と熊族の姿が見える。
現実世界で言うネコミミ女性みたいな獣人ではなく、顔の作りが人間と獣の中間のような感じになっている。
話によると全身もそのような感じらしく、薄い体毛に覆われていたりするらしい。
「はぁ。私の村でも獣人は見かけなかったもので‥‥」
と話を終えて、再び食事に集中する。
そして食事を終えたら、この街の中でも散策しようかなと考えていたとき。
「マチュアさ~ん。すみませんがちょっと此方に来てくださいー」
依頼の貼り付けてある掲示板の横に立っているサイノスが呼んでいた。
「なんでしょーか?」
とメレアと一緒にそちらに向かっていくと、サイノスは自信たっぷりに話し始めた。
「冒険者となった以上、依頼は受けないと駄目だ。そこで俺が、依頼の受け方を教えてあげよう」
と話し始める。
説明によると、ここの掲示板は入り口に近い方の掲示板がもっとも難易度が低く、奥に行くほど難易度が高くなっていくらしい。
今立っている掲示板に掲示されている依頼は都市内部の依頼が殆どで、それ以外の僅かな依頼としては城塞周辺での採集や簡単な討伐依頼になっている。
ごく稀にだが、難易度の高い依頼を受けようと依頼書を剥がしたものの、急ぎの用事があったので手前に適当に貼り直していくというけしからん冒険者もいるので、そういうことはしないようにとサイノスに告げられた。
一度受けた依頼を撤回する場合は、規定成功報酬以上の莫大な違約金が発生することもあるので、依頼を受けるときは慎重に内容を吟味して受ける事と釘も刺された。
そんな話をしつつ、サイノスは一番手前の依頼を『内容を確認せずに』剥がすと、カウンターへと歩いていった。
(あー、格好つけたいのか。変なフラグが立ちませんように)
そう祈りを捧げつつ、カウンターへと向かっていった無謀騎士を見送った。
「この受付カウンターで依頼書を提出し、依頼を受けることを告げる。で、これお願いします」
そのまま手にした依頼書を受付に差し出すサイノス。
「あれ? 内容確認しなくていいのですか?」
横に立っているメレアにそう尋ねるが
「まあ、一番手前の依頼は殆どが街の中ですし、多少難しい依頼でもなんとかなりますよ」
とサイノスは笑っている。
明らかな自爆フラグである。
「ええっと、依頼を受けるのは西風の3名ですね?」
「はい。うちのチームで受けます。この難易度の、この依頼を!!」
サイノスとフィリア、メレアは3名で『ゼファー』というチームを組んでいる。
名前の由来は、サイノスの生まれ故郷に伝えられている伝承から取ったらしい。
「了承しました。それでは依頼の完遂よろしくお願いします。こちらが控えとなっておりますので」
受付嬢の差し出した依頼書の写しを受け取るサイノス。
「これでよし。と、それじゃあ諸君、初心者のマチュアさんに我々のチームの結束力を見せてあげようじゃないか!!」
そう告げて、依頼書をメレアに差し出す。
「ふむふむ。依頼内容は‥‥マギアスの大洞窟? はぁ?」
依頼内容をじっくりと呼んでいたメレアの声が震えている。
(んー、どこだっけ? 【GPSコマンド】起動、マップサーチ‥‥と)
目の前に広がるマップ。
今いる街からは徒歩で8日、方角は南方の山脈の中腹。
マチュアが最初にやってきた平原のさらに南方にあたる。
そこから地下に広がっている大洞窟らしい。
映し出されている近辺情報によると、中級から上級冒険者の経験値を稼ぐ場所の一つ、モンスターの落とすドロップアイテムが高額で買い取られているらしく、依頼がないときでも複数の冒険者が訪れているらしい。
(洞窟内部のマップはデータ不足で表示は不可能か。しかし、この人やっちまったなー)
やれやれと思いつつ、どうするのかじっとサイノスたちを見てみる。
「ん? おいおい冗談はよしてくれ。俺は一番手前から適当に剥がしただけだぜ?」
と依頼書をメレアから受け取るサイノス。
「目的地はマギアスの大洞窟。依頼内容は落盤によって崩れた最深部区画の一部が古代の地下墳墓と繋がり、そこに封じられていた‥‥アンデットが洞窟内に侵食を開始。地下墳墓へと赴き‥‥原因究明と排除をお願いします‥‥あれ?」
ボリボリと頬を掻きつつ依頼書を見る。
「やっちゃったか。サイノス、さっきマチュアさんに説明していたよな? 内容を吟味してから受けなさいと」
「それよりもどうするのよ、こんな高難易度依頼。3人じゃ無理ですわよ」
フィリアとメレアが、動揺しているサイノスに詰め寄る。
「い、依頼のキャンセル料は?」
「うーん。払えるかも知れないけど、少し足りない。サイノスの装備売り払えば大丈夫かな」
冷静に告げるフィリア。
「よ、よーし。他の冒険者チームと共闘でいこうじゃないか。誰か、共に立ち上がるチームはいないか?」
広い酒場に向かって叫ぶサイノス。
だがその声は喧噪にかき消されていく。
「今こそ君たちの勇気が必要なんだ!!」
必死に声をかけているが誰も反応しない。
「はぁ。サイノス諦めようぜ」
フィリアがトン、と肩を叩く。
「そうだな。こればっかりは仕方ないか」
そう告げて、サイノスはトン、と俺の方に手を乗せた。
マジかよ。
こうしていつの間にか、マチュアはパーティに参加することになってしまった。
登録したプレートは表向きはBクラスのシルバープレートだが、本当はSSSクラスのミスリルプレートと鑑定結果が出た。
これは心にしまっておいて自分だけの秘密にした模様。
登録クラスも謎の【トリックスター】と判明し、まずは落ち着くためにギルド内の酒場へと足を向かわせた。
冒険者ギルド内にある酒場。
依頼を終えて懐の温かい冒険者や、これから依頼に向かうための打ち合わせをしている者たちで、ここはいつも賑わっている。
中には、他の酒場より安いという理由でここで酒を飲んでいる者もいるらしく、出入りは誰でも自由なため冒険者以外の人々の姿もチラホラと見えている。
もっとも、冒険者=荒くれ者というイメージもあるため、冒険者以外で此処を利用している人はそれほど多くはないようで。
「さて、これからどうしましょうかねぇ」
マチュアは近くの空いている席に座り、ぐるりと周囲を伺う。
殆どの冒険者の飲んでいるものはエールかワイン、食べているものは肉や魚、野菜などを焼いたものや煮込んだものなど様々である。
マチュアのいた現実世界の料理がないのは当然であるが、見た感じでは基本的な味付けは塩がベースとなっているようだ。
【調理師GM】アビリティを持つマチュアには、だいたい見た目と匂いで味は判別がつく。
サイノスたちのチーム西風の話で、この王国界隈の主食がパンやジャガイモであると聞いていたが、実際ここで見る限りはパンを食べているものが大半である。
野菜と肉の煮込みなどと一緒に、パンを食べている冒険者が多い。
あとは腸詰めのような食べ物や、ミルクをふんだんに使ったシチューのようなものまである。
「えーっとすいません。ここで登録を終えたばかりなのですが、こちらで注文してもよろしいのでしょうか?」
近くのテーブルで、空いた食器を片付けているウェイトレスにそう問いかけるマチュア。
すると、店員もにこやかにやってきた。
「あ、初めての方ですね。こちらはどなたでも自由に注文して頂いて構いませんよ」
「軽い食事がしたいのですが。この街には初めて来たもので今ひとつ勝手が判らなくて」
そう目の前のウェイトレに話しかける。
「お肉とお野菜、魚料理と色々とございますがどれにしますか?」
思い出せ。
今こそライトノベルで培った知識を導入するときだ。
こういうときに何を注文すればいいのか思い出せ。
そう考えていると、突然何かがマチュアのなかに下りてきた。
「えっと。腸詰めの炙った奴とパンを下さい。お酒は飲めないのでお水かフレッシュジュースを頂けると助かります」
「はい、それでは少々お待ち下さい」
軽く会釈をしてウェイトレスが下がっていこうとした時。
「私には焼き野菜のセットをください。それと発泡ワインをお願いします」
近くに寄ってきたメレアがニコリと笑いつつ注文する。
「こちらよろしいかしら?」
「ええ、どうぞ。一人で食べるよりは大勢で食べたほうが楽しいですからね」
と返事を返してしばしの歓談。
ここでマチュアは、この世界の法律について色々と聞くことができた。
殺人は大罪。
ただし犯罪者相手ならばその状況によって罪の重さが変わってくるらしく、正当防衛などは無罪となる。
町の中では王国の騎士団などが常駐しているため、都市内の犯罪はそちらの管轄になるらしい。
一旦街に出るとそこは無法地帯。
人を殺してはいけないとか、他人の物を盗んではいけないという不文律は町の外でも適用されるが、監視の目がないのでかなり放置されている。
それでも目に余るものは冒険者ギルドなどに依頼が届くらしい。
マチュアを襲った盗賊団『ナイトウォーカーズ』などもその一つで、話によると奴らはかなり大規模な盗賊組織らしい。
そしてそれらを取締り討伐するのも、騎士団や冒険者の仕事であると告げられた。
「ふぅん。やはり法はそれなりにしっかりとしているのですね」
大体のことは理解した。
まあ現代世界でやってはいけない事は此方でも駄目と覚えておけば、おおよそ問題はないようだ。
――カシャン、カシャン
すると、入り口から何処かのパーティーが入ってくる。
5人パーティーのようで、ヒューマンが男女二人、ドワーフの男性一人、少年一人はおそらく【ロリエッタ】とかいう種族と思われる。
そして、その後ろからくる異形の存在。
全身をフルプレートのようなもので覆っているが、フォルムは明らかに人間ではない。
ぶっちゃけると、ファンタジー世界の中に紛れ込んでいる【勇者ロボのようなもの】である。
人形に近い外見ではあるが、全体的にかなりロボロボしている。
「メメメ、メレアさん、あの人は一体何でしょうか?」
指は刺さなかったものの、メレアはマチュアが何を訪ねているのかすぐに理解してくれた。
「あら、【スチームマン】のことでしょうか?」
「スチームマン?」
「ええ。古代の魔導王国の失われた技術によって作られた人型の種族ですね。この大陸では北東にある古代魔導王国スタイファー遺跡の近くにある城塞都市あたりでは、結講いらっしゃいますよ」
おお、これは燃えるシチュエーションだ。
「生きているのですよね?」
「ええ。人間と同じく体内には心臓のような器官があるのですよ。【魔導核】といいまして、そこに知識や精神、記憶、はては命と呼べるものまで詰まっているそうです。残念ながら今の私達の知識では、そのすべてを解明することができなくて‥‥」
「なるほど。浪漫の塊なのですね」
いつまで感動していても仕方がないので、メレアさんに他にどんな種族が『このあたりに』いるのか問いかけてみた。
「基本は私達のようなヒューマンが圧倒的多数ですね。他にはロリエッタやエルフ、ドワーフといった種族がたまに見られますわ。エルフやドワーフは自分たちの領土からはあまり離れることがないので、冒険者に登録しているのは意外と珍しいほうですけれど」
なるほどねぇ。
と、今一度酒場を見渡して見る。
確かにヒューマン以外に多いのはロリエッタだ。
そしてドワーフ、エルフ、スチームマンという感じに数が減っていく。
その少数派の中でもさらに少数派が【獣人族】らしい。
「あの、獣人さんたちは‥‥」
「さらに珍しいですよ。人里に姿を表すことは殆どありませんから。あの方達は、別大陸の種族ですから」
酒場の中では、ウェイトレスの中に二人ほど猫族の女性が、冒険者パーティの中に虎族と熊族の姿が見える。
現実世界で言うネコミミ女性みたいな獣人ではなく、顔の作りが人間と獣の中間のような感じになっている。
話によると全身もそのような感じらしく、薄い体毛に覆われていたりするらしい。
「はぁ。私の村でも獣人は見かけなかったもので‥‥」
と話を終えて、再び食事に集中する。
そして食事を終えたら、この街の中でも散策しようかなと考えていたとき。
「マチュアさ~ん。すみませんがちょっと此方に来てくださいー」
依頼の貼り付けてある掲示板の横に立っているサイノスが呼んでいた。
「なんでしょーか?」
とメレアと一緒にそちらに向かっていくと、サイノスは自信たっぷりに話し始めた。
「冒険者となった以上、依頼は受けないと駄目だ。そこで俺が、依頼の受け方を教えてあげよう」
と話し始める。
説明によると、ここの掲示板は入り口に近い方の掲示板がもっとも難易度が低く、奥に行くほど難易度が高くなっていくらしい。
今立っている掲示板に掲示されている依頼は都市内部の依頼が殆どで、それ以外の僅かな依頼としては城塞周辺での採集や簡単な討伐依頼になっている。
ごく稀にだが、難易度の高い依頼を受けようと依頼書を剥がしたものの、急ぎの用事があったので手前に適当に貼り直していくというけしからん冒険者もいるので、そういうことはしないようにとサイノスに告げられた。
一度受けた依頼を撤回する場合は、規定成功報酬以上の莫大な違約金が発生することもあるので、依頼を受けるときは慎重に内容を吟味して受ける事と釘も刺された。
そんな話をしつつ、サイノスは一番手前の依頼を『内容を確認せずに』剥がすと、カウンターへと歩いていった。
(あー、格好つけたいのか。変なフラグが立ちませんように)
そう祈りを捧げつつ、カウンターへと向かっていった無謀騎士を見送った。
「この受付カウンターで依頼書を提出し、依頼を受けることを告げる。で、これお願いします」
そのまま手にした依頼書を受付に差し出すサイノス。
「あれ? 内容確認しなくていいのですか?」
横に立っているメレアにそう尋ねるが
「まあ、一番手前の依頼は殆どが街の中ですし、多少難しい依頼でもなんとかなりますよ」
とサイノスは笑っている。
明らかな自爆フラグである。
「ええっと、依頼を受けるのは西風の3名ですね?」
「はい。うちのチームで受けます。この難易度の、この依頼を!!」
サイノスとフィリア、メレアは3名で『ゼファー』というチームを組んでいる。
名前の由来は、サイノスの生まれ故郷に伝えられている伝承から取ったらしい。
「了承しました。それでは依頼の完遂よろしくお願いします。こちらが控えとなっておりますので」
受付嬢の差し出した依頼書の写しを受け取るサイノス。
「これでよし。と、それじゃあ諸君、初心者のマチュアさんに我々のチームの結束力を見せてあげようじゃないか!!」
そう告げて、依頼書をメレアに差し出す。
「ふむふむ。依頼内容は‥‥マギアスの大洞窟? はぁ?」
依頼内容をじっくりと呼んでいたメレアの声が震えている。
(んー、どこだっけ? 【GPSコマンド】起動、マップサーチ‥‥と)
目の前に広がるマップ。
今いる街からは徒歩で8日、方角は南方の山脈の中腹。
マチュアが最初にやってきた平原のさらに南方にあたる。
そこから地下に広がっている大洞窟らしい。
映し出されている近辺情報によると、中級から上級冒険者の経験値を稼ぐ場所の一つ、モンスターの落とすドロップアイテムが高額で買い取られているらしく、依頼がないときでも複数の冒険者が訪れているらしい。
(洞窟内部のマップはデータ不足で表示は不可能か。しかし、この人やっちまったなー)
やれやれと思いつつ、どうするのかじっとサイノスたちを見てみる。
「ん? おいおい冗談はよしてくれ。俺は一番手前から適当に剥がしただけだぜ?」
と依頼書をメレアから受け取るサイノス。
「目的地はマギアスの大洞窟。依頼内容は落盤によって崩れた最深部区画の一部が古代の地下墳墓と繋がり、そこに封じられていた‥‥アンデットが洞窟内に侵食を開始。地下墳墓へと赴き‥‥原因究明と排除をお願いします‥‥あれ?」
ボリボリと頬を掻きつつ依頼書を見る。
「やっちゃったか。サイノス、さっきマチュアさんに説明していたよな? 内容を吟味してから受けなさいと」
「それよりもどうするのよ、こんな高難易度依頼。3人じゃ無理ですわよ」
フィリアとメレアが、動揺しているサイノスに詰め寄る。
「い、依頼のキャンセル料は?」
「うーん。払えるかも知れないけど、少し足りない。サイノスの装備売り払えば大丈夫かな」
冷静に告げるフィリア。
「よ、よーし。他の冒険者チームと共闘でいこうじゃないか。誰か、共に立ち上がるチームはいないか?」
広い酒場に向かって叫ぶサイノス。
だがその声は喧噪にかき消されていく。
「今こそ君たちの勇気が必要なんだ!!」
必死に声をかけているが誰も反応しない。
「はぁ。サイノス諦めようぜ」
フィリアがトン、と肩を叩く。
「そうだな。こればっかりは仕方ないか」
そう告げて、サイノスはトン、と俺の方に手を乗せた。
マジかよ。
こうしていつの間にか、マチュアはパーティに参加することになってしまった。
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