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第8章・海洋国家と妖精王

第326話・通行止めと緊急露店の開店ですか!!

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 ハーバリオス王国を出発して。

 私たちは東方諸国北東部に位置する海洋国家『ハマスタ王国』へと向かっている最中。
 メルカバリーから西方に向かい、メメント大森林を抜けて霊峰へ。
 そこから天翔族という翼を持った種族の方々の村を経由したのち、霊峰麓の小さな町に到着しました。

 はい、ここは以前、宝剣を修復するために立ち寄った町でして、ノワールさんの生き胆を寄越せと言っていたとんでもギルドマスターが住んでいた町………だったはず。
 今回も霊峰の中腹からノワールさんの背中に乗って一気に降下してきたので、私たちの姿を大勢の人たちが見ていたようで。
 麓に着地したあとは、冒険者らしい人たちに遠巻きに監視されているようにも感じました。

「ふぅん。ここって、あーしが前に来た時よりも発展しているようだし」

 頭の後ろで手を組んで、柚月さんがニシシと笑いながら呟いています。
 
「あれ、柚月さんって、ここに来たことがあったのですか?」
「以前、メメント大森林の聖域を守る戦いをしていた時に、魔族の司令官が逃走してね。それを追撃する任務で、ここまで来たことがあったし。でも、その時の司令官は霊峰麓のダンジョンに逃げてしまって、結局は消息不明になってしまったんだし」

 その時に勇者の皆さんは大怪我をしてしまったらしく。
 怪我が癒えるまで、とんでもない時間を必要としていたとか。
 まあ、それから色々とあって、いまはまた、私たちと一緒に旅を再開してくれているのでほっとしていますけれど。

「……クリスっち、クジラノヤマトニーってなんだし?」
「クリスティナさま、琥珀の悪魔の在庫が尽きました……」
「どっちも明日の朝一番で入荷しますので、それまでお待ちください、えぇっと、私のほうも食品がつきましたので、あとは衣料品の販売です!!」

 次々とやって来るお客さん。
 その無理難題に近い注文をどうにか捌きつつ、今は可能な限り商品を売りさばかなくてはなれません。
 ええ、この街からパルフェラン王都へと続く街道、その途中にある渓谷が復旧するまでは。

………
……


 この街に到着して。
 私たちは一晩の宿を取って、朝一番で出発する予定だったのですが。
 今朝方、私たちが朝食を摂っている最中、この街の商業ギルドのギルドマスターであるローランドさんが大慌てで私たちの元を訪ねてきたのです。
 それはもう、藁にも縋るように。

「フ、フェイール商店さん、どうか私たちを助けてください」
「助けて……と申されましても、一体なにがあったのですか?」
「はい、実はですね……」

 ローランドさんの話では、このトラットロードという町から北西、自由国家パルフェランへと向かう街道の途中にある渓谷で大規模な落石事故があったそうで、街道が閉鎖されてしまっているそうなのです。
 幸いなことに、東方へと抜ける道はあるため、そちらを経由してパルフェランへと向かう事は可能だそうですが、そのあたりには最近になって、魔族が城塞を構築しているとかどうとか。
 そうなりますと、霊峰麓という特異な地形に囲まれたトラットロードには物資が届かなくなってしまうそうで。
 すでに町に備蓄されている商品なども底をつき始めているらしく今は冒険者たちがダンジョンの魔物を狩ってきては、それを回して貰っているということだそうで。
 ここで問題なのが、ローランドさんとは犬猿の仲である冒険者ギルドのギルドマスター・ジェイソン。冒険者ギルドに卸された食用可能な魔物の肉を、高値で商業ギルドに販売しているそうで。
 ちなみに町長さんは用事があってパルフェランに向かっている最中、この事故の事もそろそろ耳に届いているかと。

「……ということなのです。ジェイソンはこの機に、このトラットロードの町長の座を狙っているという噂も流れています。ですが、そんな事よりも、この街に住む人々が飢えてしまう事の方が問題なのです……もしよろしければ、食材を販売して頂けないでしょうか?」

 商業ギルドに卸せというのではなく、この街で販売して欲しい。
 それがローランドさんの願いです。
 その話を聞いて、柚月さんとノワールさんを見ますと、二人とも笑顔でサムズアップしていました。
 
「はい、私たちフェイール商店でよろしければ、お力になります!!」
「よろしくおねがいします……のちほど、露店の許可証を発行します、それさえあれば、ジェイソンも無理難題を押し付けてくることは無いでしょうから」

 露店の管轄は商業ギルド。
 正式な手順を踏んで露店を出すのですから、冒険者ギルドが横から口を挟んで来ることは無いと。
 そして私たちには強い味方が二人もいらっしゃいます。
 ということですので、大船に乗ったつもりで任せてくださいと露店を引き受けたのです。

………
……


――そして現在
 死屍累々。
 はい、このトラットロードに商人たちがこれなくなって、本当に物資が不足していたんだなぁと痛感しました。
 衣料品を始めとする娯楽用品はそこそこに売れていましたけれど、それ以上に食材が大量に売れてしましました。
 特に調味料と野菜、これは売り切ってしまいましたよ。
 どうにか露店を締めて宿に戻り、明日の朝発注分の注文書を作っている最中です。

「うう、調味料の種類多すぎ……どれをいくら購入したらいいのか……」

 ベッドの上で型録通販のシャーリィを開き、次々とページをめくっています。
 いつもは足りない分だけを購入するようにしているのですが、全て売りつくした後となりますと、注文も慎重になります。
 だって、注文書には限りがあるのですから。
 一つ一つ書き込んでいくと、調味料と食品だけで全て使い切ってしまいますよ。

「んんん、クリスっち、何を困っているし?」
「実はカクカクシカジカコシンタンタンという状況でして。発注書が足らなくなりそうなのですよ」
「ふぅん……ちょっと型録、見せるし」

 柚月さんになら構いませんよと、『シャーリィの魔導書』を手渡します。
 するとすごい勢いでページをめくり始めました。

「うん、クリスっち、今からいうものを発注するし……まずは、品番が……」
「は、はい、ちょっと待ってくださいね……」

 柚月さんのいうものを次々と書き込んでいきます。
 それはもう、とんでもない速度で。

「……柚月さん、これはなんなのですか?」
「ギフトセットとか、詰め合わせ。これだと一つの注文で数種類の調味料が入っているので、これを大量に注文すればいいし。野菜はほら、前にも仕入れたあれがあるし」
「前にも……って、あ、まさか、シェフオススメの秋野菜スペシャル!!」

 そうです、型録通販のシャーリィには、産地直送野菜の詰め合わせがあったのです。
 それこそ、今、まさに必要なものが。

「にしし。野菜と調味料は、これでだいたいなんとかなるし。あとはクリスっちが必要なものを選べばいいだけだし」
「そうですね、流石は柚月さんです! それでは、ここからは私の本領発揮です!!」
「クジラノヤマトニーと琥珀色の悪魔……とかいうのも忘れないようにするし」
「お任せください!!」

 さあ、急いで注文を終らせてしまいましょう。
 明日の朝一番にはペルソナさんが届けてくれます、それでどうにか数日は凌いでもらいましょう。
 あとは、街道の復旧を待つばかり。
 私たちはエセリアルモードで駆け抜ければ大丈夫ですけれど、普通の商人さんたちはそんなことはできませんから。せめて街道の復旧が始まって、商人さんたちが来れるようになるまでは物資を売りまくらなくてはなりません。 
 さあ、頑張りますよぉ。
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