型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第324話・カマンベール王国の解放と、クレア支店長の就任です

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 クリスティナがカマンベール王国よりクレアを救出してから。

 アリサ・ガナ・バルバロッサの言葉により、カマンベール王国に駐留していた魔王軍は早急に撤退を開始。同時にハーバリオス王国騎士団を始めとする連合軍がカマンベール王国へと進軍を開始。
 数日後には撤退を開始した魔王軍を追撃しつつ、王都王城を完全制圧。
 同時に魔王軍と繋がっていた貴族院の重鎮たちを捕獲したのち、厳重な監視下へと置くこととなった。
 そして勇者たちも港から撤退する魔王軍の追撃に向かったものの、四天王の一人はすでに港を出ており討伐するには至らなかった。
 そののち勇者たちは王城へ入城し、魔王軍を退けてカマンベール王国を開放したことを声高らかに宣言。
 こうしてカマンベール王国は、バルバロッサ帝国の支配下ら逃れることが出来たのであった……。

――その頃のフェイール商店
 はいっ、私たちは無事にハーバリオス王国―と到着しました。
 そしてすぐに柚月さんが王城へと向かうので同行して欲しいと頼まれたので、フェイール商店の責任者として同行することになりましたが。

「まさか、大魔導師・ユヅキ殿が帰ってくるとは思っていなかったが……いや、此度は本当に助けられた、礼を言わせてもらう」

 リチャード・ハーバリオス14世が玉座から立ち上がり柚月に告げる。
 その横で立っていたカマンベール王国女王であるセシール・フェリシモア・ベルーナは柚月の元へと駆け寄ると、彼女の手を取って頭を下げていた。

「ありがとうございます……この御恩は一生忘れません……」
「まあ、あーしはクリスっちの危機に駆け付けただけだし。それに、今もまだ、カマンベール王国で勇者たちは戦っているのだから、帰って来た彼らにこそ、礼を尽くした方がいいし。あーしは、クリスっちを助けるついでに頑張っただけだから」
「それでも、カマンベール王国を魔族から解放していただけたという事実は覆ることはありません。国を代表してお礼を……」

 そう告げるセシールだが、柚月はうんうんと頷くだけ。
 事実、カマンベール王国には、まだ残存戦力として魔族が残っている。
 アリサの放った言葉の支配が届かなかった者たちが、王都奪還を目指して暗躍していたのである。
 それらの制圧のためにも、まだ同盟軍はカマンベール王国から離れることはできなかった。

「それとクリスティナ・フェイール……いや、クリスティナ・フェイール・ベルーナ。あなたにも最大の感謝を」
「ありがとうございます、セシール女王。ですが、私はクリスティナ・フェイールです。ベルーナ王家とは、血は繋がっているものの王家の人間ではありません。ただ、大切なおばあさまの、大切な妹である女王を助けただけです。肉親を助けただけなのですから、頭を上げてください」
「ありがとう。その言葉が、一番うれしかったわ……もしもあなたが望むのでしたら、私は貴方に王位を譲渡したいと思っていますわ。どうかしら?」

 まさかのセシール女王の言葉に、リチャード国王を始めとした、その場にいる宰相や貴族たちも動揺の色を浮かべてしまう。
 まさかクリスティン・アーレストが、アーレスト元侯爵家の娘が、カマンベール王国の王位継承権を持っていたなど考えてもいなかったのであるから。
 だが、リチャード国王はウンウンと頷くだけ。
 このあとにクリスティナがどういう反応をするのか理解していたから。

「私は商人です。多くの人々の元に、その人が欲しいものを届けるのが仕事です。私には国を守り、人を導く力はありません。それは、現女王であるセシール様のお仕事ですから。ですので、次期女王となることについては、謹んでご遠慮させていただきます」

 そう告げてから、クリスティナは一歩下がり丁寧に頭を下げる。
 その姿を見て満足そうにうなずくリチャード国王、残念そうに笑みを浮かべるセシール女王、そしてクリステイナ女王を見たかった、様々な思惑を巡らせていた貴族たちと、三者三葉の反応を示している。

「それじゃあ国王さま、あーしたちはこれで失礼するし」
「ま、待て待て、勇者である柚月どのには、ぜひとも王城に居て貰わなくては……と、そうか、貴公は勇者として召喚されたのではなかったのだな」
「にしし……あーしは、クリスっちの友達だし……」
「はい。それでは失礼します……」

 そう告げて、クリステイナと柚月は謁見の間を離れる。
 そして廊下に出た時、そこで待っていた一人の執務官から書類を受け取ると、二人はその足で真っすぐにフェイール商店へと戻っていった。

………
……


――フェイール商店
「ということで、クレア・アイゼンボーグさん、貴方をこのフェイール商店・王都支店の店長に任命します」

 はい、謁見の間から出た際に私が受け取った書類。
 それはクレアさんのご両親と家族全員を、ハーバリオス王国の駐在貴族として正式に迎えるというものでした。
 カマンベール王国を元の情勢へと戻すためには、カマンベール王国財務局所属執務長官アイゼンボーグ家の力は必要です。けれど、この魔族の侵攻の際に執務長官の地位は剥奪されたそうです。
 そのため、爵位はそのままでアイゼンボーグ家には、ハーバリオス駐在貴族となり、物資輸送その他の面でカマンベール王国復興の手助けを行うようにというセシール女王からの御言葉も添えられていたそうです。
 そしてカマンベール王国が復興した際には、再び執務長官となりカマンベール王国へと戻るようにとも添えられていました。
 つまり……亡命失敗です。
 それなら、
それなら、私は私のできる最大限の援助をしましょう。
 
「は、はいぃぃぃぃぃぃ? クリス店長、どうしてそういうことになるのでしょうか?」
「だって、アイゼンボーグ家が物資を購入する際、どうしてもうちでしか購入できないものだってあるはずじゃない。だったらクレアが直接、アイゼンボーグ家に物資を卸せばいいだけでしょう? まあ、色々と制約もありますので、半月ぐらいは支店長としての教育期間を設けますけれどね……ということで、はい」

 アイテムボックスから【シャーリィの魔導書】を取り出すと、私はそこに手を添えます。
 すると、シャーリィの魔導書が二つに分かれます。
 そして私が所有していた魔導書に記されていた【9】という文字が薄っすらと滲み、【8】へと形を変えました。
 ええ、実は今回の物質の仕入れその他で、型録通販レベルが9になっていたのです。
 ですが、その効果を知ることもなく、私はクレアさんのために『取次店用型録』を作り出しました。
 それをクレアさんに手渡したのですけれど、彼女は受け取った型録を見て呆然としています。

「ええっと、クリス店長、これって大切なものですよね?」
「そうですよ……ということで。『あなたを取次店店長として指名します』。これを使って、カマンベール王国の復興の手助けをしてあげてください」
「……ありがとうございます」

 受け取った取次店型録を抱きしめて、クレアさんがそう告げます。
 うんうん、これで2店舗目の取次店ですが、この調子でレベルが上がるたびに取次店を増やしていたら、私はいつ10レベルになれるのでしょうか。
 取次店を増やせるタイミングは『会員レベルが上がった時のみ』、今回は9レベルになったので取次店を増やしましたが、その結果、また8レベルに逆戻りです。
 
「さて、それじゃあ……クレアさんには、【型録通販のシャーリィ】のルールをしっかりと覚えて貰いますからね。それと、この王都支店の店長登録も切り替えないとなりませんし……うん、やることはいっぱいですよ」
「お、お手柔らかに……」

 大丈夫ですよ。
 あのヘスティア王国のトライアンフ王でも問題なく扱えたのですから、貴方ならきっと大丈夫。
 でも、この王都支店の専属配達員って、どなたが来るのでしょうか?
 ペルソナさんとクラウンさんは私の担当ですし、ジョーカーさんはトライアンフ王の担当です。
 ということは、きっと新人さんが来るに違いありません。
 
「さあ、楽しくなってきましたよ……と、そうそう、この国の聖女さんには気を付けてくださいね……」

 早速、大切なことその1のレクチャーを開始。
 そんなこんなで半月ほどすれば、クレアさんも一人前の支店長になれるでしょう。
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