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第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第320話・盟約と最悪のケースと、奇跡の行使と

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――ガラガラガラガラ
 エセリアル馬車が、超高速で走っています。
 サマリアル砦で得た情報は、反乱軍に加担していた貴族たちの粛清。
 その処刑に、クレアさんの実家も巻き込まれています。
 そのことを知って私はエセリアル馬車に飛び乗り、大急ぎでカマンベール王国へとやって来たのですが。

「……ふぅ。流石にペナルティは覚悟という事だな」
「そうね、でも、今の状態で、何処まで力を行使できるか……うん、やるしかないわ。紅は大丈夫?」

 馬車の中で、ブランシュさんとノワールさんがそう呟いています。
 気のせいか、いつものような覇気を感じ取れません。
 やはり、初代勇者カナン・アーレストとの約定である『カマンベール王国に対して敵対行動を行ってはいけない』というものが二人の、いえ、クリムゾンさんも加えた三人を蝕んでいるのかもしれません。

「ごめんなさい……私が無茶を言ったばかりに」
「いえ、それでもいいのです。私たちはフェイール商店の従業員でもあり、そしてクリスティナ・フェイールさまを守護する存在。そのためならば、カナン・アーレストの約定など破棄する覚悟も持っています」
「黒のいうとおり。だから、姐さんはドン、と身構えていてくれればいい」
「問題なのは……まもなく馬車は王都マリアールに到着する。我々の約定違反により、この馬車の加護も間もなく消える……が、あとは覚悟を決めていくしかあるまいて」

 つまり、エセリアルモードが解除されてしまい、あとは堂々と正面突破でクレアさんたちの掴まっている場所まで向かわなくてはならないということですか。
 うん、覚悟は決まっています。
 ただ、こんなことにアリサちゃんを巻き込んでしまって、本当に申し訳なく思っています。

「アリサちゃん……ここからになら、一度私のおばあさまの住む森までいけるから。そこまでは送ってあげるから、そこで待っていてくれる?」

 そう問いかけると、アリサちゃんは頭をブンブンと左右に振りました。
 そして何かを見つめるように空間の一角を見つめ、ウンウンと頷いています。

「わかった、アリサもついていく。うん、ノワールさんたちを守れる力があればいいんだよね、それを教えて貰ったから」

 んんん、それってどういうことですか?
 そう思った瞬間、アリサちゃんの右手に魔王紋が浮かびあがります。

「ええっと……我、盟約によりかの地を支配領域とする……で、ええっと……我はそのために、魔力152を魔神へ献上します……かな?」

 そう告げた瞬間。
 馬車全体が黒い霧に包まれました。

「うぉぅ!! 魔王の生み出す『暗黒領域』ではないか!!」
「それも、馬車全体を包んで一緒に移動しているだと?」
「えええ、アリサちゃん、これってなんなの?」
 
 慌ててアリサちゃんに問いかけますが、彼女はニコリと笑った瞬間に眠り始めました。

「はわわわわ……ど、どうすればいいのですか」
「クリスティナさま、落ち着いてください。アリサちゃんは急激に魔力が枯渇したために眠りについただけですわ。そして暗黒領域は魔族にとっての聖域、その中では魔力の力は拡大しますけれど」
「同時に、我々エセリアルナイトもまた、主人を守るために力が飛躍的に高まるということじゃよ。この暗黒領域の中での戦闘は多少は危険があるやもしれぬが、こと相手が魔族という事ならば、初代カナンとの約定に縛られることは無い。敵は魔族であるのじゃからな」
「まあ、ありていに言ってしまうと、約定から目をくらませるための目隠し……っていうこと。約定もまた、契約の精霊の支配領域であるけれど、この中までは見通すことはできないからな」

 それってつまり、この暗黒領域という中では、全力で戦えるっていう事ですよね。
 エセリアル馬車の能力も維持したままで。
 そう考えていると、ゆっくりと黒い霧のようなものが晴れていき、外を見通せるようになりました。

「これって、暗黒領域の効果が消えたのですか?」
「いや、効果が馬車に付与された感じじゃが……やはり、アリサちゃんの魔力では、完全な目くらましはできないようじゃな。上位魔族には発見されるやもしれぬが、このままクレア嬢の救出まで間に合えばよい。そのあとの計画については、その時に考えようぞ」

――バシン!
 手綱を使ってエセリアルホースたちに指示を飛ばすクリムゾンさん。
 それと同時に馬車がさらに加速を開始。
 ぐんぐんと街道付近の風景が変わっていくと、ついに王都を取り囲む正門が見えてきましたが。

――スチャッ
 正門を警備していた、黒い鎧を身に纏った騎士。
 彼らが私たちに向かって、ハルバードを構えました。

「そこの怪しい馬車、止まれぇぇぇぇぇぇ」
「まさか、噂のフェイール商店だな、抵抗はやめて止まれぇぇぇぇぇ」

 うん。
 そう叫んで武器を構えたところまでは良かったのですが、一瞬で彼らの真ん中をエセリアル馬車は通り過ぎました。
 
「目視はされていましたけれど、透過はできたようですね」
「それも時間の問題じゃな……」
「でも、以前、囚われの女王様を助け出した時はエセリアルモードが維持していて……って、あれはペルソナさんの馬車だったからですか?」
「そうね。精霊の加護により……っというか、そもそもその加護を与えていた精霊女王の血筋なのですから。それぐらいのことはできるということでしょうね」

 な、なるほど納得ですが。
 私たちの馬車の後方から、次々と騎兵が追いかけてきます。
 それも一人や二人ではありません。
 王都中央を走る街道、そこに繋がっている小道のあちこちから、次々と騎兵が姿を現わしては、弓を射ってきたり投石を始めたり。
 馬車の後方に突き刺さりそうになりましたけれど、それらは全て透過していましたが。

――ドッゴォォォォォッ
 突然、馬車が揺れました。
 そして激しい振動と爆音が広がります。

「ちっ。あいつら、魔法攻撃に切り替えてきやがったか」
「白も結界術式を発動して。私の力では抑えきれないから。クリスティナさまは、アリサちゃんを守ってください」
「はいっ!!」
「分かっているって。紅さんよ、あとどれぐらいだ?」
「精霊の導きでは、あと10分ほどで処刑場に到達する。すでに刑場にはアイゼンボーグ家全員が引き出されているらしい」

 そ、それは危険です。
 でも、私にできることは、アリサちゃんを守ることだけ。
 だから、私の近くにいる精霊の皆さん、アリサちゃんを守る力を貸してください……。 
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