型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第319話・事態は一刻を争います!

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 ラボリュート辺境伯に到着して。

 私たちはまず、依頼である補給物資の納品のため、商業ギルドへとやってきました。
 以前も来たことがある商業ギルドですが、隣国と戦争状態に突入したという事もあり、商人たちも戦禍を逃れるためにこの地を離れていってしまったのではという心配もしていましたのですが。

――ガヤガヤガヤガヤ
 ギルド外には大量の馬車、入り口を入ってすぐのホールでも大勢の商人たちが集まり、立ち話をしている真っ最中です。
 私も急ぎ納品を終えたのち、噂話だけでも入手したいと思っていたのですが。

「はぁ……納品でも5組待ちですか」
「いやいや、5組なら早い方じゃね?」

 護衛についてきてくれたブランシュさんが、笑いながらそう告げてくれました。
 まあ、確かにそうですよね。

「勇者語録にあった、【流行りのラーメン店は5時間待ち】ということわざもありましたからね。えぇっと、人気が出るとお客さんを捌く時間が取れなくなり、それだけ長くお客を待たせてしまうのでそうはならないようにという苦言ですよね?」

 確か、こんな感じの意味だったはず。
 そう思ってブランシュさんを見ます、どうせまた、お腹を抱えて笑っているのでしょうね……と、あれ? いつもと違って神妙な顔です。

「うーん、まあ、それもある意味正解らしいがなぁ。もっと簡単な諺だったような気がするんだが」
「そうなのですか。まあ、ここまで来た以上は、焦りは禁物。どっしりと構えて待つことにしましょう」

 そう考えてノンビリと待機。
 待ち時間の間は、周囲の商人たちの話しに耳を傾けている真っ最中。
 それらの中でも、気になった点が幾つかありまして。

・カマンベール王国王城は魔族に占拠されている。なお、女王は隣国ハーバリオスに救援を求めた模様
・カマンベール王国評議会は、魔族の受け入れを容認
・魔族による政府が樹立しそうであるが、王位を示す神器が行方不明
・魔族に対して反抗の意志を示す貴族の粛清が、間もなく始まる
・世界樹が結界によって包まれ、何人も立ち入ることが出来なくなった

 と、とにかくカマンベール王国が危険なことに輪をかけて、一部貴族が魔族に対して降伏。
 貴族により取り仕切られていた国の行政機関『評議会』が魔族の受けれ入れを容認したというのが、最大の問題点です。
 このまま魔族によるカマンベール王国政府が樹立してしまうと、ハーバリオス王国は隣国に対して戦争を行った国家というレッテルが張られるでけでなく、魔王国から堂々と『侵略国家に対す粛清』という名目で戦争を仕掛けられかねません。
 
「う~ん……」
「まあ、その辺の噂については、姐さんが心配することじゃない。と、どうやらお呼び出しのようだぞ?」
「え、あ、はいはい、では行ってきます!!」

 気が付くと私の順番だったらしく、そのままカウンターにて手続きを終えたのち、商業ギルド裏手に馬車を回し、納品作業を終えてしまいました。
 まあ、ここでは何事もなく、一部私の正体に気が付いた使用人さんから交渉を持ちかけられたり、温泉街で客引きに興味を持ったアリサちゃんが窓から身を乗り出して危なかったりと。
 その程度の日常でした。

 そして次に向かったのは、ラボリュート辺境伯領とカマンベール王国との国境沿いに作られた砦。
 通称、【サマリアル砦】と呼ばれているこの場所が、最後の納品場所です。
 ラボリュート辺境伯領領都を離れ、街道沿いに真っすぐに移動。
 やがて二つの国を隔てる巨大な城塞に包まれた町へとたどり着きます。
 ここが城塞都市サマリアル、二つの国を繋ぐ街であり、双国の法によって取り仕切られた町。
 ここで通行手形を確認したのち、隣国へと向かう許可が出るのですが。

「さすがに、城門は閉じられていますよねぇ」
「そりゃそうだ。ここを突破されたら、それこそラボリュート辺境伯領が陥落するのは時間の問題だからな。だが、しっかりと世界樹による結界が張り巡らされているので、魔族もこの中には入ってこれないのだろうなぁ……」

 ブランシュさんの説明に頷いていると、クリムゾンさんが馬車を走らせつつ【認識阻害】の効果を解除してくれました。
 そして城門横に立っている騎士の近くまで馬車を近寄らせてくれたので、私は窓を開けて通商手形を呈示します。
 
「ふむ、フェイール商店の納品か。商業ギルドからの依頼書はあるか?」
「はい、こちらに」

 ラボリュート辺境伯領の商業ギルドで預かって来た書類を手渡します。
 すると騎士の方も頷いて私に書類などを戻したのち、ゆっくりと城門が開かれていきました。

「……うわ」
「これは、予想外だな……」
「フェイール商店の馬車は、そのまま右手の倉庫に回ってくれ。そこに城塞責任者か副官がいるので、そこで納品を行って欲しい」
「は、はいっ、ありがとうございます」

 城門が開いて広がった光景。
 そこは、お世辞にも綺麗な街とは言えませんでした。
 反対側の城塞は破壊され、瓦礫が重なっています。
 町のあちこちでも火災がおこったらしく、煙が昇っていたり焼け焦げた建物の姿も見え隠れしています。
 そして大勢の騎士が倒れている人たちを救助したり、瓦礫の撤去作業を行っていました。

「……ああ、カマンベール王国の正規軍か、もしくは傭兵がここを攻めてきたのじゃろうなぁ。魔族では結界を越えることはできない。だから、越えることができる人間に砦を強襲させて、ここを落とそうとしたのじゃろう」
「そ、そんなことってあるのですか」
「戦争じゃからなぁ……」

 馬車の窓から外を眺めつつ。
 私たちは、指定された納品場所へと到着します。

「これはこれは。あと5日はかかると思っていましたが」
「はい。商業ギルドから依頼を受けて、補給物資を届けに参りましたフェイール商店のクリスティナ・フェイールです。こちらが書類一式、そして通商手形です、ご確認をお願いします」
「はい、ここの城塞管理官を行っていますトーマスと申します。では、こちらの倉庫に納品をお願いします」

 そう付けせられて、私とブランシュさん、クリムゾンさんの三人で納品作業を開始します。
 2人にもアイテムボックスの共有権限を許可して、倉庫内の指定された場所に次々と物資を積み上げていきます。
 まあ、私たちが請け負っていたのは食料品および生活雑貨が大半。
 武具の類は、後発の隊商が運搬してくる筈ですので。
 そして一時間ほどで納品作業も完了。
 ですが、この城塞都市の惨状を見て、そのまま立ち去っていいとは思えないのですが。
 そう思い、町の中を眺めて居ましたら、納品された物資の確認を終えたトーマスさんが私たちの元へとやってきました。

「酷いでしょう……魔族の騎士がカマンベール王国軍を扇動して、ここを襲撃させたのです。家族や仲間を人質に取り、ここを襲撃して食料物資を奪っていく……。もう、幾度となくここは襲撃され、そして迎撃を続けてきました」
「そんな……カマンベールの騎士たちは、無理やり戦わされていたのですか」
「ええ。敵の司令官が魔導師だったらしく、まるで操り人形のように……でも、ここ数日は攻撃から防衛に転じたようで」

 それって、ここの食料が尽きかけていたからとか?
 そう思って訪ねてみましたが、帰って来た答えは予想外のものでした。

「偵察部隊からの報告では、近日中に魔族政府に反攻していた貴族の処刑が行われるとか。それを阻止すべく一部の反乱軍が行動を開始したとかで、王都防衛に戦力が割かれているそうです。こちらとしても、このタイミングで城塞の修復が出来るのですが、なんとも」
「あのっ、その処刑される貴族の名簿とか、どこの家とかわかりますか!!」

 嫌な予感が胸中をめぐります。
 
「少々お待ちを……」

 そう告げてから、トーマスさんがアイテムボックスから書類をいくつか取り出したのち。
 いくつかの貴族家の名前を読み上げてくれました。

「……カールストン男爵家、ミニスター男爵家と……ああ、そうそう、先日、反乱軍の重鎮だった王国財務局所属執務長官のアイゼンボーグ家も捕まったらしい。それも家族全員が拉致されて、一族郎党処刑だっていう話も出ていました」

 はい、私は走っています。
 アイゼンボーグ家、それはすなわち、うちの従業員であるクレアさんの実家。
 素早く馬車の御者台に飛び乗ると、私はクリムゾンさんに向かって叫びました。
 
「このまま、カマンベール王国王都へ向かってください! クレアさんを助けないとならないのです!!」
「クレア……おお、そういうことか!!」

 私の言葉の意図を、クリムゾンさんはすぐに受け取ってくれました。
 そして馬車の認識阻害機能を発動すると、一直線にカマンベール王国へと走り出します。
 アイゼンボーグ家の処刑、その話がここまで届いているという事は、最悪のケースも考えられます。
 ですが、だからといって立ち止まっているわけにはいきません。

「ブランシュさん、ノワールさん、ほんっとうに申し訳ありませんが、力を貸してください」
「分かっていますって、姐さんのすきにしてください」
「アリサちゃんは馬車で待機してください。私がここで彼女をお守りしていますので」
「よろしくお願いします!!」

 クレアさん奪還作戦?
 そんなまさかですよ。
 クレアさん救出だけではなく、貴族の処刑を止めます。
 そのためには、できることは全てやって見せます。
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