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3巻

3-2

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 自由貿易国家パルフェラン。
 ノワールさんいわく、そこが私たちの最終目的地であり、ドワーフの王が統治する国家だそうで。
 堅牢な城壁と四大精霊の加護により作り出された多重結界に包まれた、閉ざされた国家。
 そこに向かうための鍵を、天翔族という古き翼人が所有していると聞いて、彼らの住む霊峰中腹の平原へ向かっています。

「……つまり、そのパルフェランに剣の作り手が住んでいるけれど、亜人以外は国に入れないから鍵が必要なのですね?」
「まあ、おおむねそのような感じです。私がここに来たのは三百年ほど前ですが、今でも当時のままならば、門は閉ざされているはず。すぐ隣国が魔族の国であるバルバロッサ帝国ですから……」
「た、確かに。帝国が隣となると、常に監視されますし、いつ襲われてもおかしくありませんね」

 最悪の場合、パルフェランが滅んでいる可能性もあるとノワールさんは言いましたが、それについては私が否定しました。

「パルフェランからハーバリオス王国にやってくる獣人の商会はあります。ですので、滅んだということはないかと思いますけれど、人間を排除しているかどうかは正直わかりません……」
「なるほど。しかし、城壁の中へ入るための鍵は、どうしても必要なのです」
「鍵……ですか」

 そのあたりの真偽を確かめるためにも、天翔族に会わなくてはならないそうです。
 しかしこの高さ、落ちたら確実に死にます。
 右も左も断崖絶壁、その途中のくぼみにはワイバーンが巣を作っていたりと、危険極まりないです。

「……あ、あの、ここって人間が登れる場所ではありませんよね?」
「ええ。天翔族のみが、ここの絶壁を降下して人里にやってきます。それ以外の道はなく、翼を持つ存在のみが、霊峰の恩恵を受けられるそうですよ」
「恩恵?」

 詳しくは教えてくれませんが、霊峰というだけのことはありました。
 ここは、勇者の修業場にもなるんだそうです。
 天翔族にのみ伝えられている魔法があるそうで、勇者はそれを体得するために、この崖を越えなくてはならないとか。
 ──ブワサッ!!
 そしてついに、断崖絶壁を越えました。
 目の前には広大な森、その遥か先には、天まで聳える霊峰が見えています。
 なるほど、確かにここは中腹。
 この森のどこかに、天翔族が住んでいるそうですが。

「……呪われた者が住み着いたのか……」

 ノワールさんから、ピリピリとした雰囲気を感じます。

「ノワールさん、何かあったのですね?」
「ええ……魔族が魔物を操ることはご存じですよね?」
「はい。それは実家にあった物語にも記されていましたから」
「今、この地には、魔族によって呪いを植えつけられた者がいます……雰囲気とこの匂いから察しますに、私の遠い眷属けんぞくである黒の翼竜、フェザードラゴン種かと」
「羽毛の翼を持つ竜、ですか?」

 通常の翼膜よくまくを持つドラゴン種ではなく、綺麗な羽毛による翼を持つ者、それがフェザードラゴンです。
 彼らもまた、種族により体色が異なるそうで、レッドフェザードラゴンや、ホワイトフェザードラゴンなどが存在するとか。

「ええ。本来ならば、もっと北の大地に住むはずのフェザードラゴンが、どうしてこんなところに……それに」

 ノワールさんが高度を下げます。
 周囲を見渡していると、開けた場所に廃墟はいきょのような街が見えてきました。

「あ、あれは?」
「天翔族の集落ですね。そして落ちている羽毛は、ブラックフェザードラゴンの、それも呪術により縛られたカースドフェザードラゴンのものでしょう」

 ──ギリギリッ!
 よほど腹に据えかねたのでしょう、ノワールさんの歯軋はぎしりの音が聞こえます。
 それよりも、無事な人はいないか、逃げたのならば、逃げ遅れた人はいないか調べなくてはなりません。

「ノワールさん、あの廃村に着地してください。誰か残っているかもしれませんから」
「はい。それでは」

 ゆっくりと降下して廃村の外にある広場に降り立ちます。
 そのまま私は、壊れた建物の下に人がいないか、まだ生き残っている人がいないか調べました。
 どこにも人の気配がないこと、乾いた血の跡は残っているものの死体がないことなどから、天翔族の皆さんはどこかに逃げてしまったのでしょう。

「かまどの火の加減から、恐らく襲撃されたのは数日前。このあたりには、人が逃げ延びることができる場所はないはずですから、霊峰を降りたのかもしれません」
「そうですか。ノワールさん、たとえば、洞窟のような場所はないのですか?」
「私も、ここに来るのは三百年ぶりですし。霊峰のふもとに大空洞があるのは知っていますけど、そこの入り口は麓側のみ。霊峰を降りて、そこに逃げたかもしれませんね」

 では、そこに向かうことにしましょう。まずは皆さんの無事を祈って……
 ──キェェェェェェェェ!
 突如、集落全体に響く奇声。
 そしてノワールさんが再び黒竜に姿を変えます。

「クリスティナ様。どうやら、ここの集落を襲ったカースドフェザードラゴンのようです」

 ──ブゥン!
 私の周囲に、半円形の結界が施されました。
 え、これって?

「その結界から出なければ大丈夫です。では、私はあのもの殲滅せんめつします」
「せ、殲滅?」
「はい。呪われし竜は、呪縛を解き放つことができません。一度死んで、生まれ変わらなくてはならないのです」

 死んで生まれ変わる?
 あ、そういうことなのですか……
 人間とドラゴン種との死の違いを改めて学んだ気がします。

「ノワールさんは、その、呪われないのですか?」
「ご安心を。私を呪えるのは、私より上位の存在のみです。では、しばしお待ちを」

 そう笑いながら説明して、ノワールさんは空に羽ばたきます。
 幾度となく急速接近して爪を交え、距離を取って魔法を放つ二匹のドラゴン。
 その衝撃は森のあちこちをえぐり、木々をたおします。
 そして、とどめとばかりに双方が同時にブレスを放ちましたが。
 お互いのブレスがぶつかったかと思うと、カースドフェザードラゴンがあっさりと押し負け、全身にノワールさんのブレスを受けました。
 ──グギグガァァァォァォァア!
 空中でもがいた後、森に落下したカースドフェザードラゴンは、やがて燃え尽き、真っ白な白骨に変化しました。

「うわぁ……」
「最後は、苦しみなど感じる暇もなかったでしょう。さて、こんなやからが出てくるとなると、この霊峰の守護力は下がっているのかと思います。急ぎ下山して、大空洞に天翔族が避難していないか確認した方がいいですね」

 そのノワールさんの言葉に従って、私は彼女の背中へ。
 そして来た道とは逆の絶壁を急降下しつつ、霊峰の麓にある村へ移動することにしました。
 でも、何故霊峰がこんなことに?
 これほどまでに魔族が活性化しているということは、つまり……
 魔王復活の可能性さえありえます。
 柚月さんたちは、想定していたよりずっと危険な任務にかされるのかもしれません。
 今頃、勇者様ご一行はどこで何をしているのでしょう。
 無事だといいのですが。



 第二章 ドワーフとの邂逅かいこうと、狙われた二人


 王家の宝剣を修復するために、慣れし故郷を離れつつ。
 魔族の国、バルバロッサ帝国の隣国である、ドワーフ王の治めるパルフェランへ向かう旅。
 その道中、霊峰と呼ばれるところで呪われし竜をノワールさんが殲滅。
 そのまま霊峰を降り、近くにある村へとやってきましたけど。
 ──ウォォォオオォォォォ!!
 はい。
 村の外に降り立ったのですが、何故、このように冒険者に威嚇いかくされないといけないのでしょうか。
 いえ、竜に乗って降り立ったのですから、当然と言えば当然なのですけどね。
 目の前には百を超える冒険者たち。
 駆け出し風の方もいれば、近隣国の紋章が入った鎧を着た方もいらっしゃいます。
 でも、ここは霊峰近くにある小さな村で、冒険者たちがやってくるような場所ではないと、ここに来る途中にノワールさんに教えてもらったのですけど。

「クリスティナ様。誠に申し訳ありません……時の流れによる変化は、私にはわかりませんでした」
「……はぁ、つまりは、ノワールさんがここに来たのはあくまで三百年前で、今は、このように発展しているのですね?」
「仰る通り。規模的には村というよりも街。恐らくは近くでダンジョンが発見されたのでしょう。それならば、この冒険者の数も頷けます」

 ノワールさんの背中で話をしていますと。
 冒険者の一角、私たちの正面あたりがざわつき、一人の騎士が前に出ました。

「そこの黒竜の主人に問いたい!! この地に何をしに来た!!」

 透き通るような女性の声。
 白銀の鎧をまとった騎士様が、私たちの姿に動揺することなく、数歩前にやってきました。

「ここは、宝剣のことは隠し、ドワーフの王国に行く途中とでも仰ってください。エリミネイトはどの国も喉から手が出るほど欲しい聖剣、一撃で魔竜をもほふるという言い伝えがあります」
「なるほど……では、私はフェイール商店の店主として接します」

 話が終わると、私はノワールさんの背中から告げました。

「私は、フェイール商店の店主のクリスティナ・フェイールです。個人商隊トレーダーとして、この先の自由貿易国家へ行く途中でした」

 私の声が届いたのか、冒険者たちがざわめき始めます。

「一介の個人商隊トレーダーがドラゴンを操るのか!!」
「はい。私はこの黒竜の主人です。お疑いになるのでしたら、鑑定なり何なり、ご自由にどうぞ!!」

 鑑定スキルが使えるのは、基本的には商人の家系の方のみ。

「……誰でも構わん、商業ギルドのギルドマスターを呼んでこい!! 君の処遇は、真偽がはっきりしてから考えよう。それまでは、そこを動かないことだ」
「だそうです」

 ノワールさんにこっそりと耳打ち。
 すると、ノワールさんははぁ……とため息を一つ。

「白に連絡。時間の延長を申請」
『白より黒へ。わかったから、この事態をしずめろ、いいな?』
「はいはい」

 何やらひそかにブランシュさんと連絡を取るノワールさん。
 私の指輪も白く点滅していますので、話し合いは終わったのでしょう。
 そして待つこと三十分。
 ようやく人混みの向こうから、白髪混じりの老人がやって来ました。

「カレンくん、本当に大丈夫なんだろうな?」

 老人は恐る恐る騎士に問いかけています。

「はい。あの敵竜ではありません。万が一のことがありましたら、この剣にけてお守りいたします」

 うん、その姿勢と言葉。王国騎士団か近衛の方で間違いはありませんね。そうでなければ、剣を地面に立て、誓いを立てることなどしませんから。

「え~。カレン殿から聞いた話だが、その騎竜は君と盟約を結んでいるのだな?」
「ええ。私は、精霊女王の名に懸けてクリスティナ・フェイール様に忠誠を誓っています。それで、我が主がこの地に敵対する意思がないことは、ご理解いただけたでしょうか?」

 ノワールさんの透き通った声が響きます。
 すると、周囲の冒険者たちがざわつき、一人、また一人と立ち去っていきました。

「よかろう。先に説明するが、私たちも君たちに危害を加える気はない。それで、先ほど聞いたのだが、この先の自由貿易国家パルフェランへ行くつもりというのは本当かな?」
「はい。私は商人です。かの国にはさまざまな商売に繋がるものがあると聞きましたので、やって来ました。しかし、パルフェランは人間を拒絶しており、中に入ることができないという噂を聞きまして……」
「ああ……なるほど」
「天翔族の方は、ドワーフの民とも交流があると聞いています。よろしければ、天翔族の方を紹介していただけませんか?」

 これで紹介してもらえたなら、探す手間が省けます。
 村程度の大きさならそれほど時間はかからないと思っていましたけど、ダンジョン近くにある街となればかなりの人が住んでいるのでしょう。
 そうなりますと、探すのも一苦労ですから。

「そうじゃな……天翔族の者たちとは、今は色々あって連絡がつかない。その代わりと言ってはなんだが、私たちの願いを聞いてくれるなら、私がパルフェランの商業ギルドへの紹介状を書こう」
「はい? 願いですか?」

 私が聞き返すと、老人は頷きました。

「ああ。実は今、この街は物資が不足していてね。食料、衣類、武具、日用雑貨、とにかく他所から来るものが届かなくなってしまい、かなり深刻な状況だ。見たところフェイールさんは荷物などを持っている様子がないが、商人というのであれば【アイテムボックス】はお持ちだろう。どうか、この街で露店を開くか、もしくは商業ギルドに物資を納めてもらえぬか?」

 まさかの出店依頼でしたか。
 いえ、それは私としても願ったり叶ったりなのですけど。
 一つだけ疑問があります。

「何故、この街は物資が不足しているのですか?」
「商業ギルドのマスターとしてはお恥ずかしい話なのだがね。実はつい最近、この街の近くのダンジョンが暴走したのだ」
「だ、ダンジョンスタンピードですか?」
「ああ。一度は収まったものの、この街に物資を届けてまた大暴走に巻き込まれるのはゴメンだと、交易商人たちが去ってしまった。そこに大量の冒険者がやってきたので、とにかく物資が不足して……」

 さらに話を聞きますと。
 冒険者ギルドが食料となる獲物の討伐任務を出していたので、肉類にはそれほど困っていないそうなのですが。
 問題は野菜や穀物類。
 それらが不足しているそうで、一部の冒険者は『船旅病ふなたびびょう』にかかったそうです。あ、船旅病っていうのは、長い間、船に乗って旅をしたりすると罹る、船乗りによく見られる病気です。
 そして街の人たちの衣食住の衣と食の供給不足が起こったので、少しでも構わないから商品を卸してほしいとのこと。

「無理を承知で、どうかお願いします」
「……あの、ノワールさん」
「はい。すべてクリスティナ様のお望みのままに……と言いたいところですが、私はそろそろ限界です。ブランシュ、あとはお願いしますよ」

 ──シュンッ!
 指輪からユニコーン、つまりブランシュさんが姿を現します。

「お疲れさん。さて、姐さん、ノワールは力を使ったせいで二日ほど身動きが取れない。その間は、俺が護衛につくので……移動速度とかが大きく下がるんだが」
「ええ。それでは、明日、明後日はここで露店を開きます。ブランシュさんも協力してください」
「了解」

 ブランシュさんとそんな話をしていると、周りに残っていた冒険者さんや商業ギルドマスターが目を丸くしました。

「げ、幻獣ユニコーンだと?」
「フェイールさん、そのユニコーンも君と契約しているのか?」
「ええ、そうですけど?」

 私の返事を聞いてギルドマスターが鑑定したようです。
 顔色がさ~っと青くなりました。

「き、君はいったい……それに、ユニコーンも黒竜も、あの伝説のエセリアルナイトではないか!!」
「初代勇者の護衛騎士……まさか本物とは……つまり、あなたは伝説の商人!!」
「いえ、違いますわ。私は一介の商人です。それ以上の追及はお許しください」

 また面倒なことになる前に、とっとと商業ギルドで手続きをしてしまいましょう。あちこちの冒険者の、ブランシュさんを見る目がどことなくいやらしい気がしますので。


 スタンピードを収めた街。
 だけど、いつまたスタンピードが起きるかわからず、街に出入りしている商人たちの足がすっかり途絶えてしまった街。
 私とブランシュさんは、そんな場所の商業ギルドにやってきました。

「え? つまりギルドには商品をおろしてくださらないのですか?」
「いえ、商品は卸しますよ。それとは別に、私自身も露店を開きたいのです。こちらは商業ギルドの会員証です。手続きをお願いします」
「なるほど、では、少々お待ちください」

 すぐに受付の方が手続きをしてくれたので、私としても助かりました。
 今回露店を開くのは、商業ギルドと冒険者ギルドの中間の広場、街の人たちも身体を休められる木々が生い茂った場所。
 そこなら広さもそこそこありますから、多少の人混みにも対応可能です。

「ふむふむ、ではこちらで三日間、よろしくお願いします」
「はい。ちなみにですけれど、ギルドへの納品は何時頃になりますか?」
「すぐにでも大丈夫ですよ? どちらに出しましょうか?」

 そう問いかけますと。
 私の後ろあたりでウロウロしている商人たちの目が光ったような。
 つまり、私がどのような商品を扱っているのか、知りたいようですね。

「では、裏の倉庫へお願いします。こちらは人目が多すぎますので」
「はい、では案内をお願いします」

 そのままカウンター横にある扉から裏手へ。
 私の後ろでチッ、と舌打ちした商人さん、残念でしたね。
 でも、ここに卸せば大勢の人に適正価格で流れるので。私としては、その方がいいのですよ。
 この街の事情を知っている商業ギルドだからこそ、この街にとって最善策をとってくれるはず。商品の供給不足をいいことに値段を釣り上げようと考えているような人には、私は大切な商品を流すことはしませんので。
 そのまま裏で納品作業。
 ハーバリオスでは人気のないデザインの衣類や市販の保存食、あとはお米と醤油しょうゆ味噌みそを卸します。ちなみにこちらの国でも勇者丼に使われるお米は有名だったらしく、数年ぶりの納品に担当の人は絶句していました。
 まあ、そんなこんなで私が売る分の商品を残して納品完了。
 商業ギルドを後にして、いざ露店へレッツラゴー。
 ちなみに、このレッツラゴーも【勇者語録ゆうしゃごろく】にありますよ?
 気合を入れて出かける時や、目的地に向かう時に使う掛け声だそうです。
 あの、ブランシュさん、なんで笑っているのですか?


 ──露店広場にて。

「おう、ワンピースと靴だな。そっちの客はちょっと待ってな」
「チョコアイスとバニラ、はい、こちらです。次のお客様もバニラと、ストロベリーですか。こちらのストロベリーはなんと、とある国の王族の方がお食べになった逸品いっぴんです。アマ王という名前がついている果実が混ぜてあるのですよ!!」

 甘かったです。
 この溶けそうなバニラぐらい見通しが甘かったです。
 商品の流通がとどこおった街の中での露店。それはそれは大盛況ですよ。
 必死に取引を持ちかけようとしている商人さんが近寄れないぐらいの盛況っぷりですから。

「はい、チョコは完売です、次回の入荷はしばらく先ですので、次に来た時にでも!! はい、アマ王もこれがラストです!! え~っと、お客様はバニーラ、バニラバニーラ? はいはい!!」
「姐さん、ドレスの在庫はあるか?」

 衣服を販売してくれているブランシュさんの方も売り切れ続出の様子です。

「そこにあるのがすべてです。え、飲み物? 珍しい飲み物と言われましても」

 子ども向けのアイスクリームが完売してからは、今度は大人たちの注文。

「いや、この店って変なものがいっぱいあるからさ。女子ども用の商品がいっぱいあるのだから、俺たちのような男が欲しがりそうなものもないかなってよ」
「酒のさかな、あとは珍しい酒……あるか?」

 見た感じですと、冒険者さんかなぁ。
 いや、あるにはあるんですよ。パルフェランで販売しようとしている切り札が。
 それを出していいものかどうか……まあ、宣伝になりますから、少しだけ出しましょうか。

「では、とっておきのものを!!」

【アイテムボックス】から取り出したのは、私たちの世界でもお馴染みのモンスター、クラウドホエールの加工品です。
 え、クラウドホエールを知らない?
 空の上、雲海を泳ぐシードラゴンの一種です。
 この魚のようなフォルム、背鰭せびれもないずんぐりむっくりの身体。
 まさか異世界にもこれがいるとは思いませんでしたよ。

「こちらです。これはクラウドホエールを調理したものが入っている缶詰めです。ええ、こちらをつまんでパカッと開けると、中にはクラウドホエール料理、【鯨の大和煮クジラノヤマトニー】が詰められています」

 大和煮って知りませんけど、多分こんな発音。
 それで、横で接客しているブランシュさん、どうしてお腹を抱えて笑いをこらえるのに必死なのでしょうか。

「お、おおう、なんだこの香りは?」
「これが保存食なのか? ダンジョンに持ち込めるのか?」
「まあまあ、まずは味見をどうぞ。こちらは数に限りがありますので!! まずは食べてみてください」

 爪楊枝つまようじを取り出して、お肉を刺して手渡します。
 この爪楊枝も型録通販のシャーリィから取り寄せたもの。
 意外と便利です。

「ほ、ほう? ではさっそく……」

 ──パクッ、パクッ、パクッ。
 そして皆さんが食べ終わると同時に、私は一言。

「数に限りがあります、お一人五つまでです!!」
「くれ、五つくれ!!」
「俺もだ、パーティの人数分だから二十五個、どうにかできないか?」
「無理です。お取り置きもできませんので、ご了承ください」

 はい、あっという間に完売。
 クジラノヤマトニー、なかなかの売れ行きでした。
 ドワーフ向けに販売する分は、明日の朝一番で追加注文しなくてはなりませんけれど。


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