上 下
251 / 273
第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第302話・型録ギフトを届けましょう

しおりを挟む

 早朝6つ。
 今日はペルソナさんの定期配達日。
 いつものように夕方便でやって来るかと思っていましたら、朝一番で白い馬車で納品にやってきました。
 それで急ぎ納品チェックと支払いを終えたのち、少しだけ時間があるということで、私の話を聞いて貰っています。

「……という事があったのですよ。おかげで、あまり気にしたくなかった事実を再認識させられましたし、これから私はどうしたらよいのでしょうかって、頭が痛くなってきますよ」

 まあ、内容については、数日前に魔法協会に呼び出されて、【シャーリィの魔導書】の鑑定を行われたことと、相変わらず聖女・八千草さんがペルソナさんを狙っているということ。
 すると、ペルソナさんも苦笑しています。

「まあ、いつかは知ることになっていたかもしれませんので、早い方がいいという事で」
「はぁ……私はカマンベール王国の次期女王になんてなる気はないのですけれどね」
「それで構わないのでは。そもそも、不老であるハイエルフの血筋を引いているとはいえ、クリスティナさんはハーフエルフ。王位継承権としては高い順位にあるかと思いますが、現女王が引退でもしない限りは王位継承の話にはならないでしょうね」

 そうなのですが。
 そもそも、可能性という事であれば、今のカマンベール王国の状況を考えると、かなり危険なのではないでしょうか。

「でも、今のカマンベール王国は魔族に支配されている上に、戦争状態に突入しそうですよ。本当でしたら、勇者様たちにカマンベール王国を取り戻してもらいたいって思っていますけれど、それって私の我儘なのでしょうから……そんなことは言えませんよ」
「ふむ。確かに、今のカマンベール王国の状態については、一度、確認しておく必要がありますね」

 そう告げてから、ペルソナさんはスーツのポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認しています。
 次の配達までの時間を確認しているのでしょうか。

「では、一度、見にいきましょうか?」
「……んんん?」

 えぇっと、今、ペルソナさんはサラッと言いましたけれど。
 今は戦争状態ですよね? 危険ではないのですか?

「あの、流石に危険すぎませんか」
「うーん。私の馬車でしたら、認識阻害の強度はかなり高いですよ。もっとも、魔族四天王クラスになら気配程度は探られるかもしれませんけれど。そもそも、触れることもできませんから」
「それじゃあ、ペルソナさんの馬車の力でセシールさまを助け出すこともできるのでは?」

 そう問いかけると、ペルソナさんは腕を組んだまま考えています。

「確かに不可能ではあれません。ですが、【型録通販のシャーリィ】は、人間界の戦争について直接的に手を貸すことは禁じられています。こればかりは古き盟約ゆえ、クリスティナさんの御願いでもかなえることはできません」
「ああ、精霊界の規約という感じですか」
「ご名答です。ただ、配達先が戦場であろうと、依頼さえ頂ければ【型録通販のシャーリィ】は荷物をお届けに参ります。もっとも、届け先が戦争を行っている―国の関係者でしたら不可能ですけれどね」 
 
 う~ん。
 それじゃあ、セシールさまの好きそうなものを届けに行くというのはありなのですね。
 指定先配達なのですから。
 そう考えていると、ペルソナさんが自分のアイテムボックスのから一冊の型録を取り出し、私に手渡してくれました。

「これは?」
「今日、お渡しするはずだった最新の型録です。いつもの追加分に加えて新しい型録ギフトの頁が付いていますよ」
「型録ギフト……うん、ペルソナさん、お願いがあります」

 そうですよ、型録ギフトを使って、セシールさまに荷物を届ければいいのですよ。
 私はセシ―ルさまのことについては詳しくないので、適当に商品を選んで送るのは反則です。
 でも、セシールさまのことをよく知っているおばあ様でしたら、この型録ギフトの中から商品を選んでくれるはず。
 
「ペルソナさん、実はお願いが!!」

 無理は承知で、私はペルソナさんにお願いします。
 すると、ペルソナさんは自分の口元に指を立てて、にっこりとほほ笑んでいます。

「では、店のことについてはブランシュにお任せして、クリスティナさまの持つ型録を届けに向かいましょうか。届け先は、フェイールの里で構わないのですよね?」
「はいっ、よろしくお願いします」
「では、このままいくとしましょうか」

 そう告げて、ペルソナさんは馬車に乗るように私を促します。
 うん、ペルソナさんは私の願いを聞き入れてくれました。
 というか、私の気持ちを理解してくれています。
 ちっょと悔しいですけれど、今はペルソナさんにお願いすることしかできませんね。

「おっと、急いで出発しましょう」
「ん……あ、そ、そうですね!!」

 ふとペルソナさんが後ろを振り向き、慌てて馬車を走らせました。
 その方向では、なんだかニマニマと笑って手を振っているブランシュさんと、ちょうどその横に馬車を止めて出てきた八千草さんの姿が見えましたよ。
 うん、ブランシュさん、あとはお任せしますね!! 
 私は一度、おばあさまの元に届け物をしてきますので。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。