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第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第301話・諦めが悪いのが、悪役聖女ですか

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 フェリシモアの魔導書は、カマンベール王国の王位継承の証の一つ。
 つまり、それを所有しているクリスティナ・フェイールさんは、次期カマンベール王国女王候補者であるということです。
 回収なんて、とんでもない……

 うん、この方は一体何を話しているのでしょうか。
 まさか魔導書の鑑定にやってきて、そこで悪役聖女の悪だくみに巻き込まれそうになったのですが、【シャーリィの魔導書】の正式継承者は私で間違いがないという事で、この話は終わりになるはずだったのですが。

「「……はぁ?」」
 
 ええ、まさかこの私が、女王候補ですか?
 血統的には……女王様であるシール・フェリシモア・ベルーナの妹がおばあさまミネルヴァ・フェリシモア・ベルーナ、その娘である母が勇者の継父であるアーレスト家に嫁ぎ、私が生まれて……ああっ、カマンベール王国はエルフの女系国家でした。
 つまり、おばあさまにその意思が無ければ、孫である私が女王候補ということで、合っていますか。
 あっていますね、私は女王候補のようですが……。 

「はぁ、と申されましても。フェイールさまはご存じなかったようですけれど、カマンベール王国の女王とは、精霊女王であるシャーリィさまの加護を得た者でなくてはなりません。そして、その証となるのが、貴方が所有している【精霊女王の魔導書】というものなのです。それは、精霊女王の加護により、貴方が望むままに様々な奇跡が起こせるというもの。フェイールさんは、それで奇跡を起こされましたか?」
「私が女王候補なのは理解できましたが……き、奇跡ですか……」

 う~ん。
 奇跡と言われましても、私は大したことはしていません。
 せいぜいが、商人として国内を旅してまわったり、この国の宝である宝剣イリミネイターの修復に携わったり。
 あとは……うん、やっぱり商人として旅をしていたことしかないですね。

「残念ですが、私は商人としてこの国や東方諸国を旅していたにすぎません」
「ほら、女王候補といっても、大したことはしていないのでしょう? だったら、この私に魔導書を譲りなさい……貴方よりも役立ててあげるわよ」

 あ―、この聖女は、何処まで欲深なのでしょうか。
 そう考えていると、マルガレートさんが頭を左右に振っています。

「おそらくですが、貴方は無意識のうちに多くの人を幸せにしていたのかもしれません。商人には、商人にしかできないことがあります。あなたの元から様々な品物を購入した人たちは、きっと幸せな気分になっていたのだと思いいますよ」
「え、そ、そうなのですか……」

 ちょっと、そんなに褒められても困ってしまうじゃないですか。
 そう思ってブランシュさんの方を見ると、キラーンと歯を光らせながらサムズアップしていますよ。
 
「姐さん、商人とはそういうものだ。確かに商人の中には利益最優先っていう強欲な輩も大勢いるが。姐さんはそうじゃない。お客に対しては分け隔てなく優しく接している。それに、雇った従業員にだって、同じように接していたじゃないか。俺は姐さんの近くで護衛をしていて、そういう光景をずっと見てきた。だから、胸を張っていいと思うぜ」
「え、そ、そうですか……」

――テレテレ
 うん、そんなに褒められると、顔が熱くなってきましたよ。
 そ、それじゃあこの話はこれぐらいにしましょうか。

「ということですので、大魔導師・三田森、そして聖女・八千草。こちらクリスティナ・フェイール殿が所有している魔導書は、勇者の書ではないと魔法協会が証明します」
「そうでしたか。いえ、ありがとうございます」

 三田森さんはニコニコと笑いながら、私とマルガレートさんに頭を下げます。

「認めない……こんなちんちくりんが、私よりも絶大な権力を持っているだなんて、絶対に認めませんからね……フンッ!!」

 そう吐き捨てるように呟いてから、聖女・八千草は立ちあがって部屋から出ていきました。

「はぁ、あの人は、どうしてああなのでしょうね……と、そうそう、うちの勇者さんたちから、納品依頼書を預かってきました。こちらの商品ですが、納品可能でしょうか?」

 ちょっとだけ申し訳なさそうに、三田森さんが羊皮紙を数枚取り出し、私に差し出してきます。

「それでは、拝見します……」 
 
 さて、ここからは商人の私の出番です。
 幸いなことに、羊皮紙に書かれているものの半分以上は以前にも取り扱ったことがあるものばかり。
 しかも、このモバイルバッテリーについても購入可能ですが……どうやって充電するのでしょうか。
 それに、ソーラーパネルとか、4WDの装甲車とか、初めて見るものもあります。

「ブランシュさん、これってわかりますか?」
「あ~、このソーラーパネルっていうのは、大賢者・武田が欲しがっていたやつだな。なんでも光をエネルギーに変えるとか話していたなぁ」
「そ、そんなマジックアイテムのようなものは扱っていませんよ。それにこのよ、よんだぶるでぃのそーりんさん? はありませんね」

 他にも知らない商品が色々とありますが。
 これらについては、明日の朝にでもクラウンさんに聞いてみましょう。
 仕入れ可能な分は今日中に仕入れるとしますか。

「はい、入手可能なものにつきましては、数日中に仕入れておきます。それ以外のものについては、無お時間を頂きますので」
「はい、それで構いません……あと、一つ教えて欲しいのですが」
「私の知ることでしたら」

 先ほどまでとは違い、今度の三田森さんは真剣な表情です。

「勇者と共に旅をしていた精霊騎士……エセリアルナイトですが。勇者が召喚された時、エセリアルナイトは目覚め、その盟約に基づき義務を果たす……と、王宮で管理されていた記録にあったのですが。そちらのブランシュさんは、エセリアルナイトですよね?」

 ああ、そっちの話ですか。

「ああ。確かに俺はエセリアルナイトだ。だが、今は勇者の従者としての契約ではなく、この姐さんの護衛として共に旅をしている。つまり、フェイール商店の従業員だ。まさか、俺に力を貸せとかいうんじゃないだろうな?」
「いえいえ、そんな滅相もない。ただ、私たちが召喚された時、新しいエセリアルナイトという方々が覚醒するのかどうか、それを教えて貰いたかったのですよ」

 つまり、ブランシュさんやノワールさん、クリムゾンさんのように目覚めたものではなく、新たなエセリアルナイトが誕生するのかどうかということですか。

「それって、どうなのですか?」
「うーん、俺じゃわからないんだよなぁ。なにせ、初代勇者ご一同は、ヘスティア王国まで足を延ばし、当時の国王と精霊女王さまに助力を願ったのだからな。だから、今の勇者にとってその力が必要なのか、直接ヘスティア王国までいけるのかどうか……まあ、必要ならこの王都の大聖堂で祈ってみればいいんじゃないか?」
「なるほど、ありがとうございます」

 もう一度、深々と頭を下げる三田森さん。
 これでこの日の話し合いは終了。
 私とブランシュさんは急ぎ店に戻って、仕事を再開することにしました。
 それにしても、あの聖女さんは、まだなにかやらかしそうですね。
 ちょっと警戒する必要がありそうですが、そればかりだと疲れてしまいますね。
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