上 下
246 / 278
第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第297話・あらたな勇者と、我儘聖女?

しおりを挟む
 王城からの使いが来てから、今日で4日。

 つまり、今日がハーバリオス王国で勇者召喚が行われる日です。
 そのためか、王城付近は宮廷魔導士の施した魔術により、外部から関係者以外のものが入れないように結界が施されています。
 また、結界の外も騎士団により警戒態勢が敷かれており、儀式を邪魔しようとするものが現れ内部に入り込まないようになっているそうです。
 これは昨今の魔族の活性化に伴うものらしく、カマンベール王国という前例がある以上、勇者召喚の妨害工作も行われる可能性を考慮しての事とか。

 ちなみに私とペルソナさん、ブランシュさんは結界をすり抜けることができる護符が渡されているため、昼12の鐘がなる頃には王城へと向かいました。
 そして謁見の間へと向かいましたが、まさかハーバリオス国王であるリチャード・ハーバリオス陛下が玉座では無く謁見の間の正面扉の前で私たちを待っているだなんて予想していませんでしたよ。

「初めまして、精霊女王の使徒様。私はこの国を治めるリチャード・ハーバリオスと申します。此度の勇者召喚についてご助力頂き、誠にありがとうございます」

 恭しく頭を下げる国王陛下。
 そしてその横に並んでいた宰相や執務官たちも、一斉にペルソナさんに頭を下げました。

「頭を上げてください。本日、私がこの場に伺ったのも、全ては精霊女王の縁によるものです。私は私の勤めを果たすだけですので、そのように頭を下げる必要はありません」

 いつもと同じように、穏やかな口調で国王たちに語りかけるペルソナさん。
 それに合わせて、私も頭を下げます。
 今日の私の立場は、精霊女王の加護を持つ巫女のようなもの。
 ペルソナさんのサポート担当であり、同時にハーバリオス王国の勇者御用達商人『フェイール商店』の店長です。
 
「フェイール殿も頭を上げてください。精霊女王の巫女であるあなたが、私たちに頭を下げる必要はありません」
「そうおっしゃられても困りますが……」
「まあ、彼女には私の補佐を務めていただきますが、普段のクリスティナさんはこの国の一商人、勇者御用達の看板を掲げている立場です。ですから、そのように対応してあげると助かります」

 そう告げてから、ペルソナさんは私ににっこりと微笑みました。
 私の複雑な心境を察して、そのように話をしてくれたのですね。
 うん、ありがとうございます。

「さて、それでは儀式の間まで案内していただけますか? 召喚魔法陣に精霊の加護を授ける必要がありますので」

 つまり、起動に必要な魔力を注ぎ込むと言うこと。
 すると宮廷魔導士長が頭を下げてから、私たちを儀式の間まで案内してくれました。

 中庭に作られた、純魔石による儀式の祭壇。
 その中に刻まれた複雑な魔法陣の中にペルソナさんが入り、その中心にある水晶柱に手を触れます。
 すると、透き通っていた水晶柱が虹色に輝き、魔法陣が激しく輝き始めました。

「これで魔法陣は活性化しました。あとは、時が来るまでは、この魔法陣が魔力を蓄え、そして術式の圧縮が始まります……儀式の開始は、中天に月が輝き、守護女神ルナマリアが微笑んだ時……それまでは、誰も儀式の間に近寄らないように」
「「「「「はっ」」」」

 国王をはじめ、護衛として追従してきた騎士たちもペルソナさんに敬礼します。

「では、使徒様と巫女様、精霊騎士の方はこちらへどうぞ。休むための部屋をご用意してありますので、あとは儀式が始まるまでは、そちらで体を休めてください」
「ありがとう。では、お言葉に甘えさせていただきます」

 そのまま客間に案内されると、あとは儀式の始まる夜までは、ノンビリとペルソナさんやブランシュさんと雑談です。
 この際なので、【シャーリィの魔導書】を開き、色々と商品説明をお願いすることにしました。
 おかげで、私の知らない商品知識も教えていただきましたし、システムの裏技のようなことも解説していただきました。
 
………
……


――そして夜
 今宵の空は雲一つない天気です。 
 私たちは召喚魔法陣から少し離れた場所に用意された席に座り、この勇者召喚の成り行きを見届けなくてはなりません。
 そして中空に月が差し掛かったころ、魔法陣がにわかに活性化を開始。
 周囲を取り囲んでいる宮廷魔導師による術式詠唱が始まると、中心に配置されている水晶柱が虹色に輝きます。
 そしてそこから月に向かって一直線に、虹色の柱が伸びて言った後、その柱の中をゆっくりと降りて来る人影が見え始めました。
 
「来ました!! あれが、今回の召喚勇者ですか」
「そのようですね……うん、どうやらハーバリオスには一人だけ召喚されたようです。まあ、それが普通なので当然と言えば当然なのですが……どうやら魔導師ではありませんね」
「そうなのですか?」

 ペルソナさんがゆっくりと降りて来る人影を眺めつつ、そう告げてくれました。
 本来ならば、ハーバリオスに降臨するのは魔導師の系譜に連なるものであるらしいのですが、今回はそうではないそうで。ペルソナさんの見た感じですと、聖女もしくは勇者のどちらかであろうという事だそうです。
 そして人影が魔法陣の中に降り立つと、儀式は終了し精霊の輝きがスッと消えていきました。

「おおお、よくぞいらっしゃった。私はこの国の国王、リチャード・ハーバリオス14世である。そなたは精霊の導きにより、我が国に召喚された。まずは、ここまでで何か質問があったら告げて欲しい」

 国王陛下が恭しく魔法陣の中心に立つ女性に告げます。
 すると女性も周囲を見渡したのち、ゆっくりと口を開きました。

「うん……まあ、ここに来る前に女神から説明は受けていますけれど……」

 黒いスーツという衣服に身を包んだ、おとなし気な大人の女性。
 それが、目の前に降りて来た勇者の第一印象です。
 そしてその女性は周囲を見渡したのち、私たちの席を見て、ニイッと笑っています。

「そうね、月の女神の話では、私とその他3名の勇者に、魔族に奪われた隣国を奪還して欲しいっていう事でしたわよね」
「うむ。協力してくれるか? ちなみにだが、貴公が故郷に帰れるのは一年後、この召喚魔法陣に魔力が蓄積し、送還の術式が起動したとき。それまでに、なんとしてもカマンベール王国を魔族の手から取り返して欲しい。そのために必要なものはこちらで用意させてもらうので、なんでも申してくれるとありがたい。どうだね?」

 なるほど、こうやって勇者召喚は行われるのですね。
 そう思っていた時、魔法陣の中に立つ女性が私たちを見たのち、こちらを指さして一言。

「では、そこのマスクをつけたイケメンに、私の世話をすることを命じます。そうね、それが無理なら私は協力しません!!」

 んんん?
 んん?
 ん?
 あの、この勇者さんはなにを言い始めたのでしょうか。
 マスクをつけたイケメンって、ペルソナさんしかいませんよね?
 そう思った瞬間、私はペルソナさんに抱き着いてしまいましたよ!

「駄目です、それは絶対にダメですっっっっ」
「ん~ん? 貴方は誰? そのイケメンさんの彼女……という感じかしら?」
「そうです、私はペルソナさんの彼女です!! だからあなたの世話なんてできません!!」
「ふぅん。それじゃあ、私は貴方たちに何も協力しないわ……それでいいわよね、国王さん?」

 ニマニマと笑いながら、勇者は国王陛下をじっと見つめています。
 そもそも、ペルソナさんがどのような存在なのか、この人は何もわかっていませんよ。
 そしてペルソナさんも私を軽く抱きしめ返してくれましたよ。

「残念ですが、私は貴方たちとは住む世界が異なります。ということで、私は貴方専属の世話係になることはできません。では、あとは国王お任せします」

 そう告げてペルソナさんが立ちあがると、私を抱きかかえたまま儀式の間を後にしま……って、抱きかかえられたまま、私も退場ですか!! いえ、私も思わず抱き着いてしまったじゃないですか!!
 そしてブランシュさん、私を見てニマニマと笑っている場合じゃありませんよ!!
 この混沌とした状況を、どうにかしてください。 
しおりを挟む
感想 652

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。