型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

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第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第287話・カマンベール王国解放と、勇者召喚と

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 カマンベール王国がらおばあさまを救出してから。

 私たちは一度、ハーバリオス王国のフェィールの里へ避難してきました。
 里に到着してすぐ、おばあさまの意識も戻ったのでまずは一安心ですが、これからのことを考えると、頭が痛くなる思いですよ。
 
「ふぅ。生きて里に戻ってこられるとは、夢にも思っていなかったねぇ」
「私も、おばあさまが攫われたと聞いた時は、気が気でなかったのですからね。でも、無事に戻ってこられてよかったです」
「そうだねぇ。まあ、色々と話したいことはあるけれど、ちょっとやることを終わらせてからにしようか」

 そう告げてから、おばあさまは世界樹の元へと向かいます。
 加護を失い枯れ果ててしまった世界樹、これに活力を与えるためにはどうすれば良いのでしょうか。
 そう思って私とノワールさん、そしてペルソナさんも後ろからついていきますと、世界樹の生えていた広場に到着したおばあさまは、両手を広げてゆっくりと祈りを唱え始めました。

 ゆっくりと、優しく語りかけるように。
 泣いている子供をあやすように。
 悪戯をした子供を叱りつけるように。

 そして、おばあさまの言葉に誘われるように、大地から光が溢れ出し、風が頬を優しく撫でました。
 目に見えるように小さな光の玉が姿を現し、世界樹に近寄っていきます。
 そしてスッ、と幹に吸い込まれていくたびに、枯れていた枝が芽吹き、葉をつけ始めました。

「精霊の子守歌ですね。エルフの里に伝わる、世界樹を讃える祝詞です。護人が唱えることで、力を失った世界樹はゆっくりと回復して、力を取り戻すと言われていますよ」
「この歌は……私が幼かったとき、お母さんが歌ってくれていました……こうですよね」

 記憶の中にある、お母さんの声。
 私の耳に届いた、優しい歌。
 私もおばあさまに合わせるように、ゆっくりと歌い始めます。

──ザワワッ、ザワワッ!
 すると、世界樹が輝き、みるみるうちに大きく成長していきます。
 以前、サライからこの里に来た時よりも大きく、そして太く。
 枝葉は里を覆い尽くすかのように広がりを見せ、世界樹からは精霊の息吹が放出されてきました。

「驚いたねぇ。私の祝詞だけじゃあ、数年は回復に費やさないとならなかったのに……さすがはクリスティナだねぇ、うんうん。祝詞は、マルティナから学んだのかな?」

 儀式を終えたおばあさまが、私に優しく語りかけながら近寄ってきます。
 
「はい。私がまだ小さかった時、お母さんがよく歌ってくれました」
「そうかいそうかい。クリスティナのおかげで、この里にも力が戻ってきたようだよ。それに、以前よりも強力な結界が広がっている。この様子だと、里に対して悪意を持ったものは、フェイールの里を見つけられないだろうねぇ」
「精霊の迷い路……ですか。クリスティナさん、ヘスティア王国に広がる森に広がっている『精霊魔術』ですよ」

 あ、はい、一定の道順を踏まないと、始まりの場所に戻される道ですよね。
 私も案内されて、なんとか森を抜けた記憶がありますよ。

「はぁ~、おばあさま、凄いですね」
「いや、これはクリスティナの力だよ。精霊女王の加護を持ち、フェリシモ王家の魔力を持ち、そして初代大賢者カナン・アーレストの力の継承者であるクリスティナだからこそ、世界樹を蘇らせることが出来たのだろうねぇ。帝国が狙ってくるはずだよ」

──ザワッ
 そうです、私はカマンベール王国の貴族たちに売られて、帝国の王家に嫁がされるところでしたから。

「それです!! おばあさま、どうしてそんな事になったのか、教えて頂けますか?」
「うんうん。私もセシールから一通りの話は聞かせてもらったからね。その上で、どうにかしてカマンベール王国を魔族から取り返さないとならないからね」
「王国をですか?」
「そりゃそうさ。クリスティナにとっては、自分が無理やり嫁がされそうになった悪の王国かもしれないけれど、王国の民には罪はない。寧ろ、私の大切な孫を交渉材料にした挙句、大切な姉を隷属した魔族こそが全ての元凶だからね」

 そ、その通りです。
 私のことについて無関係だった人には罪なんてありません。
 寧ろ魔族が侵攻してきたことによる被害者なのですから。

「さて、それでは先に、納品作業を終わらせましょうか。そのあとでしたら、私も多少はお時間を取ることができますので、一緒にお話を伺うことができますよ?」
「はいっ! よろしくお願いします」

 配達先指定の納品を無事に終えてから、私たちはおばあさまの家に向かいます。そこにある大広間に通されると、さっそく本題であるカマンベール王国の話が始まりました。

 現在のカマンベール王国は、魔族の四天王の一人である『破壊魔狼グランザム』という魔族に支配されています。
 何らかの手段でカマンベール王国に侵入したグランザムは、まずは貴族院に向いその場にいる貴族たちを次々と捉えてから隷属。さらに貴族を使い王城に向かうと、セシール・フェリシモア・ベルーナも隷属し、王国を影から支配し始めたということです。
 そのあとは勇者と精霊の加護を持つ私を拘束し、西方諸国の精霊結界を解除、カマンベール王国と魔王国の二つの国による挟撃によりハーバリオス王国を攻め落とすという算段だったそうです。

 私たちがおばあさまを救助するために向かった時は、ちょうどグランザムが作戦についての打ち合わせを行なっていたときだったらしく、そののちにおばあさまも隷属する予定だったそうです。

「なるほどねぇ。これは由々しき問題でしたが、すでに計画の一つは破綻していますか」

 ペルソナさんがそう告げると、おばあさまも頷いています。

「ペルソナさん、それはどういうことでしょうか?」
「ことは簡単なのですよ。まず、ミネルバ様を救助するためにクリスティナさんがカマンベール王国に向かったこと。隷属されたあとでしたら厄介でしたが、幸いなことにその手前で救出できたということ。次に、すぐにこの里に戻り、世界樹を活性化させることができたということ……この時点で、魔族はハーバリオス王国への侵攻が不可能になっているのですよ」
「な、なるほど……」

 私を捉えて駒にすることができなくなったということでしたか。
 でも、カマンベール王国は未だ、魔族の監視下にあることに変わりはありませんが。

「でも、カマンベール王国を解放しなくてはならないのですよね? その方法は何かありますか?」

 そう問いかけましたが、ペルソナさんもおばあさまも難しい顔をしています。そうですよね。

「私たち精霊の民は、原則として人間界の争いに加担することができないのはご存知ですよね?」
「そしてフェイールの里には、魔族と戦えるものは皆無に近いからのう」
「クリスティナさま、私たちエセリアルナイトは、古い盟約によりカマンベール王国での活動には制限が掛かります」
「そして私は商人です。つまり、カマンベール王国の奪還作戦を行う場合は、私達以外の人達に委ねる必要があるということですか」

 はい、詰みました。
 この状態では、私たちは動くことができません。
 つまり、その道の専門家にお願いするしかないということです。

「クリスティナさま。それについては、私から提案がありますが」
「え? ノワールさんは、魔族と戦える人に心当たりがあるのですか?」

 これは心強いです。
 
「はい。いっそのこと、ハーバリオス王国も巻き込みましょう。ちょっと必要魔力については心許ないため、ペルソナさまにも御助力をお願いしたいのですが」
「必要魔力?」

 さて。
 何か嫌な予感がしましたが、ペルソナさんは理解したらしくウンウンと頷いています。

「はい。ハーバリオス王国の『勇者召喚魔法陣』を使用して貰います。私たちは直接干渉できませんが、王家の方に事情を説明すれば、助力は得られるかも知れません」
「……その手がありましたかぁ」

 これは計算外です。
 私がアーレスト家を放逐された理由の一つ、勇者召喚。
 それがまさか、このタイミングで聞くことになるとは思ってもいませんでしたよ、ええ。
 でも、勇者召喚の絶対的ルールとして,一度でも召喚されたものは勇者召喚では呼び出すことはできない。
 つまり、全く新しい勇者を呼び出す必要があるということです。
 はてさて、この作戦は上手くいくのでしょうか。
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