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第7章・王位継承と、狙われた魔導書
第284話・祖母奪還作戦。慎重かつ大胆にいかなくては
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夢を見ていました。
それは、私が幼かった時の記憶。
アーレスト侯爵家に嫁いだ母と、ハーバリオス十大商家にして初代勇者の一人、大賢者カナン・アーレストの血を受け継ぐ父。
二人が楽しそうに笑い、それを見ている私。
そしてその光景を、遠くから眺めている継母と二人の兄。
北方にあるノーザンライト領、そこがアーレスト家が王家より託された直轄地。
どうして自分たちの領地なのに、アーレスト領ではなくノーザンライト領というのか、幼い私はずっと分からなかった。
ただ、ノーザンライト領は、初代カナンより与えられた地であり、ハーバリオス守る勇者の祠があるという言い伝えが残されていた。
その勇者の祠に納められているのが、勇者の指南役でありカナン・アーレストを導いた西方のエルフの残した一冊の書物。
それが、【勇者の書】と呼ばれている魔導書。
『世界が再び窮地に陥ったとき、【勇者の書】は封印から解かれ、このハーバリオスを、西方諸国を魔の手から守ってくれるだろう。だからクリスティン、君は精霊と心を通わせなさい……カナンの守護者が、君を導いてくれるから……』
誰かに告げられた言葉。
それが誰だったのか、私には分からない。
ただ、それを私に伝えてくれたのは、家族の誰でもない。
私が庭で遊んでいた時、スッと一人の女性が現れて、そう告げてくれた。
優しい一目、栗色の髪。
あれは誰だったのか、私には分からない。
ただ、ずっと忘れていた。
この記憶は大切なもの。
それなのに、ずっと忘れていた……。
………
……
…
「ん……っ………」
ふぅ。
どうやら私は、眠っていたようです。
ユーティリアの森にやって来て、世界樹が枯れ始めていて。
おばあさまがカマンベール王国に連れ去られて、私は生贄当然のように魔族の帝国に売り飛ばされそうになって……。
――ガバッ
「ノワールさん!! おばあさまを助けに行きます!!」
ベッドから跳ね起き、傍ら心配そうに私を見つめているノワールさんにそう告げます。
いくらエルフの民の寿命が長いとはいえ、おばあさまは結構なお歳です。
初代勇者を見たことがあるとか、いろいろな武勇伝を聞かせて頂いていますので、少なくとも500年以上は生きていると思われます。
そこまで生きているとなると、ゃっぱり体調とかも心配です。
「く、クリスティナさま。祖母様はカマンベール王国に囚われているのですよ、一体どうやって取り戻すのですか?」
「エセリアル馬車で、王宮を急襲します。そのうえで、囚われているおばあさまを助けだし、ここまで戻ってきます!! エセリアルモードでしたら、障害物を全て透過して移動することが出来ますよね!!」
こうなったら、持てる力を全て使ってでもおばあさまを取り戻さなくてはなりませんが。
ですが、ノワールさんは、今一つ気難しい顔をしています。
「クリスティナさま、それにはいくつかの問題がございます」
「そ、そうなのですか?」
「ええ、実はですね……」
ノワールさんから教えられた、いくつかの問題点。
まず一つ目が、カマンベール王国内。特に王都マリアール付近は、精霊の加護があるためエセリアルモードは効果を発揮しません。
この時点で、私が直接、馬車により奇襲をかけるというハードな展開は不可能となりました。
そして二つ目。初代勇者カナンとの約定により、エセリアルナイトは、カマンベールや卯国に対しては敵対行動をとることができない。
つまり、ノワールさんの背中に乗って奇襲をかけるとか、それこそ力づくで王宮に飛び込んでいくという手段も失われてしまいました。
ノワールさん曰く、女王であるセシール・フェリシモア・ベルーナは、血のつながった実の妹であるミネルヴァ・フェリシモア。ベルーナに危害を加えるようなことはないそうです。
ここで問題なのは、今回の帝国の王子と私の婚姻を勧めた貴族の存在。
「セシール様には、私もカナンさまと共に何度がお会いしたことがあります。それに、実はミネルヴァさまとも以前は懇意にして頂きました。あの仲の良い二人が、孫にもあたるクリスティナさまに危害を加えるようなことはないかと思われますが……」
「ですが、現に攫われてしまっていますよ。ルーフェスさん、おばあさまはカマンベールの騎士たちに無理やり連れていかれたのですよね?」
「いえ、実はですね……カマンベール王国の使いは、それほど手荒いことなどしていません。むしろ、女王の妹君であるミネルヴァさまを大切にしていた節がありますが……あの、糞エルフが手のひらを反して、ミネルヴァさまに罵詈雑言を浴びせた挙句、後ろ手にした挙句、魔法による拘束を施しまして……」
騎士たちがそれを諫めたそうですが、どうやらその直後に騎士たちも態度が豹変し、無理やり連れていったそうです。
ええ、以前は私をサライから攫いだし、今度はおばあさまを無理やり連れて行ったのですか。
あの、カナールの氏族のエルフ・確かエリオンとか言いましたよね。
今度会ったら、ただでは済ませませんよ!!
「エリオンとその仲間たち、カナールの氏族のエルフたちは、ミネルヴァさまを捕らえて騎士たちと共に王都へと向かっていったようです。私たちも抵抗すればよかったのですが、ミネルヴァさまが手出し無用と笑いながらおっしゃられてしまい……どうすることもできなかったのです」
「迂闊に手を出した場合、王都の騎士たちが……いえ、この場合は逆賊のエリオン共が暴れ、この里に危害を加える可能性があった……ということですか。これはかなり厄介な案件です」
ルーファスさんの話を聞いて、ノワールさんがそう告げてから。
私の方を向きなおして、真剣な表情で私を見ています。
「クリスティナさま。私は貴方の護衛です。決してクリスティナさまには危害を与えるようなことはありません。ですが、それ以上に初代カナンとの盟約は重いのです。この件、裏で魔族が暗躍している節があります……そのことも踏まえたうえで、いま一度、これからどうするべきか考えてください……」
真剣に、私を諭すノワールさん。
ええ、先ほどの説明で、今回の件ではエセリアルナイト3人のお力を使うことができないのですよね。しかも、馬車でこっそりと移動することも不可能。
ですが、今回の件は私自身も納得がいっていません。
せめて直接、セシールさまとお話が出来ればよいのですが……。
なにかこう、周囲に気付かれないように王城に忍び込む方法はないものでしょうか。
型録通販のシャーリィ、その商品になにかトンデモない秘策が隠されていればよいのですけれど。
それは、私が幼かった時の記憶。
アーレスト侯爵家に嫁いだ母と、ハーバリオス十大商家にして初代勇者の一人、大賢者カナン・アーレストの血を受け継ぐ父。
二人が楽しそうに笑い、それを見ている私。
そしてその光景を、遠くから眺めている継母と二人の兄。
北方にあるノーザンライト領、そこがアーレスト家が王家より託された直轄地。
どうして自分たちの領地なのに、アーレスト領ではなくノーザンライト領というのか、幼い私はずっと分からなかった。
ただ、ノーザンライト領は、初代カナンより与えられた地であり、ハーバリオス守る勇者の祠があるという言い伝えが残されていた。
その勇者の祠に納められているのが、勇者の指南役でありカナン・アーレストを導いた西方のエルフの残した一冊の書物。
それが、【勇者の書】と呼ばれている魔導書。
『世界が再び窮地に陥ったとき、【勇者の書】は封印から解かれ、このハーバリオスを、西方諸国を魔の手から守ってくれるだろう。だからクリスティン、君は精霊と心を通わせなさい……カナンの守護者が、君を導いてくれるから……』
誰かに告げられた言葉。
それが誰だったのか、私には分からない。
ただ、それを私に伝えてくれたのは、家族の誰でもない。
私が庭で遊んでいた時、スッと一人の女性が現れて、そう告げてくれた。
優しい一目、栗色の髪。
あれは誰だったのか、私には分からない。
ただ、ずっと忘れていた。
この記憶は大切なもの。
それなのに、ずっと忘れていた……。
………
……
…
「ん……っ………」
ふぅ。
どうやら私は、眠っていたようです。
ユーティリアの森にやって来て、世界樹が枯れ始めていて。
おばあさまがカマンベール王国に連れ去られて、私は生贄当然のように魔族の帝国に売り飛ばされそうになって……。
――ガバッ
「ノワールさん!! おばあさまを助けに行きます!!」
ベッドから跳ね起き、傍ら心配そうに私を見つめているノワールさんにそう告げます。
いくらエルフの民の寿命が長いとはいえ、おばあさまは結構なお歳です。
初代勇者を見たことがあるとか、いろいろな武勇伝を聞かせて頂いていますので、少なくとも500年以上は生きていると思われます。
そこまで生きているとなると、ゃっぱり体調とかも心配です。
「く、クリスティナさま。祖母様はカマンベール王国に囚われているのですよ、一体どうやって取り戻すのですか?」
「エセリアル馬車で、王宮を急襲します。そのうえで、囚われているおばあさまを助けだし、ここまで戻ってきます!! エセリアルモードでしたら、障害物を全て透過して移動することが出来ますよね!!」
こうなったら、持てる力を全て使ってでもおばあさまを取り戻さなくてはなりませんが。
ですが、ノワールさんは、今一つ気難しい顔をしています。
「クリスティナさま、それにはいくつかの問題がございます」
「そ、そうなのですか?」
「ええ、実はですね……」
ノワールさんから教えられた、いくつかの問題点。
まず一つ目が、カマンベール王国内。特に王都マリアール付近は、精霊の加護があるためエセリアルモードは効果を発揮しません。
この時点で、私が直接、馬車により奇襲をかけるというハードな展開は不可能となりました。
そして二つ目。初代勇者カナンとの約定により、エセリアルナイトは、カマンベールや卯国に対しては敵対行動をとることができない。
つまり、ノワールさんの背中に乗って奇襲をかけるとか、それこそ力づくで王宮に飛び込んでいくという手段も失われてしまいました。
ノワールさん曰く、女王であるセシール・フェリシモア・ベルーナは、血のつながった実の妹であるミネルヴァ・フェリシモア。ベルーナに危害を加えるようなことはないそうです。
ここで問題なのは、今回の帝国の王子と私の婚姻を勧めた貴族の存在。
「セシール様には、私もカナンさまと共に何度がお会いしたことがあります。それに、実はミネルヴァさまとも以前は懇意にして頂きました。あの仲の良い二人が、孫にもあたるクリスティナさまに危害を加えるようなことはないかと思われますが……」
「ですが、現に攫われてしまっていますよ。ルーフェスさん、おばあさまはカマンベールの騎士たちに無理やり連れていかれたのですよね?」
「いえ、実はですね……カマンベール王国の使いは、それほど手荒いことなどしていません。むしろ、女王の妹君であるミネルヴァさまを大切にしていた節がありますが……あの、糞エルフが手のひらを反して、ミネルヴァさまに罵詈雑言を浴びせた挙句、後ろ手にした挙句、魔法による拘束を施しまして……」
騎士たちがそれを諫めたそうですが、どうやらその直後に騎士たちも態度が豹変し、無理やり連れていったそうです。
ええ、以前は私をサライから攫いだし、今度はおばあさまを無理やり連れて行ったのですか。
あの、カナールの氏族のエルフ・確かエリオンとか言いましたよね。
今度会ったら、ただでは済ませませんよ!!
「エリオンとその仲間たち、カナールの氏族のエルフたちは、ミネルヴァさまを捕らえて騎士たちと共に王都へと向かっていったようです。私たちも抵抗すればよかったのですが、ミネルヴァさまが手出し無用と笑いながらおっしゃられてしまい……どうすることもできなかったのです」
「迂闊に手を出した場合、王都の騎士たちが……いえ、この場合は逆賊のエリオン共が暴れ、この里に危害を加える可能性があった……ということですか。これはかなり厄介な案件です」
ルーファスさんの話を聞いて、ノワールさんがそう告げてから。
私の方を向きなおして、真剣な表情で私を見ています。
「クリスティナさま。私は貴方の護衛です。決してクリスティナさまには危害を与えるようなことはありません。ですが、それ以上に初代カナンとの盟約は重いのです。この件、裏で魔族が暗躍している節があります……そのことも踏まえたうえで、いま一度、これからどうするべきか考えてください……」
真剣に、私を諭すノワールさん。
ええ、先ほどの説明で、今回の件ではエセリアルナイト3人のお力を使うことができないのですよね。しかも、馬車でこっそりと移動することも不可能。
ですが、今回の件は私自身も納得がいっていません。
せめて直接、セシールさまとお話が出来ればよいのですが……。
なにかこう、周囲に気付かれないように王城に忍び込む方法はないものでしょうか。
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