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第7章・王位継承と、狙われた魔導書

第281話・前略。あれから3年が経ちまして

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 ミュラーゼン連合王国の中心、フォンミューラー王国を後にして。
 私たちは隣国、ヴィエネッタ王国に向かいました。
 そこで二つの領主の貴族令嬢と、貴族の御曹司の恋愛劇に巻き込まれた挙句、ヴィエネッタ王国の貴族にされそうになったり。さらに隣国・ル・ブラン・ボンでは国を裏で牛耳る闇商会ギルドに目を付けられてしまった挙句、クレアさんが攫われてしまうという事態が起きたり。
 それについてはまあ、怒り心頭のノワールさんの力でどうにかクレアさんを救出し、私たちはさらに北方、雪深い常冬のグラストエンド共和国に逃亡。
 その地では凍れる精霊獣を救うべく、3つの神器を求めるたびに突入したりと、じつに濃厚な体験があとを絶ちませんでした。
 
 そして常冬のグラストエンド共和国の港から船に乗り、しばしの船旅を楽しんだのち、私たちは再びフォンミューラー王国へと到着。流石に貴族に追われているため、急ぎ船を乗り換えてハーバリオスは港町・サライへと向かいます。
 キリコさんはそっちの大陸を離れることができないため、アゲ・イナリ様の祠にて彼女とは別れ、私たちはじつに3年ぶりにハーバリオスへと戻ってきました。

 いゃあ、本当に濃厚でしたよ、なんというか、旅というものはこれだけ人を強くするものかと実感しましたからね。
 ちなみにですが、フォンミューラー王国で聞いた噂話では、第三皇子のソールさまが齎した霊薬により、国王陛下の病は完全に癒えたとか。しかも、その病を引き起こしたのが、ミュラーゼン諸島連合のとある国の王家の策謀であり、フォンミューラー王国を連合諸島のトップから引きずり下ろし、自分たちが台頭すべく暗躍していたとか。
 
 この計画がソール王子によって露見し、諸島連合の統一議会にて証拠を突きつけられて糾弾。
 そのあとのことについては詳しくは分かりませんが、フォンミューラー王国では次期国王にソール王子が指名されたものの、その直後にソール王子は書置きを残したまた旅に出たとか。
 しかも、その書置きの中には、『嫁を連れて戻って来る、それまでは戻る気はない、全て兄貴に任せる』などというふざけた書置きをしていたらしく。
 王族一同、呆れかえっていたということです。
 あ、このあたりはアゲ・イナリ様から聞いた話ですので、間違いはないかと思いますよ。
 そのソール王子が向かった先が、隣国のヴィエネッタ王国だったそうで、どうやら意中の女性は隣国の王女の可能性もありえますね。うん、お幸せになってください。
 まあ、ソーゴさんに手綱を付けられるような女性は、私にも想像できませんけれどね。

――ハーバリオス王国・港町サライ
 ざっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん
 幾つもの高波を乗り越え、私たちが乗っている商用大型帆船ブルーウォーター号は、無事に港町サライに到着しました。
 大勢の船員さんたちが積荷を下ろしている最中、私たちは裾委で船から降りました。

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、3年ぶりの帰還だぁ。ようやくハーバリオスに戻ってこれたぁぁぁぁ」

 バンバンと地面の上で軽くジャンプ。
 うん、この足元の感触、間違いなくサライです。

「あ~、またクリス店長が奇行に走っていますよ。どこの国の地面も、みん同じじゃないのかしら?」
「ま、まあ、そうなんですけれど……ほら、気持ちの問題ですよ、気持ち。ノワールさんも、なにかフォローしてください」

 私とクレアさんのやり取りを見て、ノワールさんもクスクスと笑っています。

「まあ、クリスティナさまのお気持ちも理解していますし。とりあえず、無事に戻ってきたことをお伝えした方がよろしいですわ」
「そうですね。まずはシャトレーゼ伯爵の元に向かって、そこでクレアさんの側近さんと護衛の方と合流。オーウェンのフェイール商店にも顔を出した方がいいと思いますし、3年もあっていなかったので、久しぶりにお父様のところにも行きたいですわね。クレアさんは、急ぎ会いたい人がいます?」

 そう問いかけると、クレアさんも一つ一つ指折り数えています。

「そうね。私はほら、久しぶりにカーリーとらりぃの二人に合いたいわ。それに、ふっふっふっ……あの糞親父に、建て替えられた賠償金を全額押し付けてきたいところですわね」
「あ~、クレアさん、久しぶりに悪役令嬢モードですよ」
「あら、私としたことが」

 でも、カーリー・ファインズさんとラリー・パワードさんの二人に合いたいというのもわかります。
 メルカバリーで分かれて以来、実に3年ぶりの再会ですからね。
 うん? 3年ぶり?
 そういえば!!

――シュンッ
 私は慌てて指輪から【シャーリィの魔導書】を取り出し、表紙を確認します。
 するとそこには、くっきりと【8】の文字が浮かび上がっています。
 ええ、無事に仮レベルだった8が、本物の8レベルに復活したのですよ。
 ということは、ヴェルディーナ王国のシスターや大聖堂に逃げていた人々も、全て助け出すことが出来たということですね。
 いやぁ、船旅の最中は仕入れができなかったので、すっかり表紙を確認するのをわすれていましたよ。

「あら、クリスティナさま、これでようやくスタートですね。次は9レベル、結構遠そうですけれど頑張らなくてはなりませんか」
「う~ん、別にレベルを上げるために商売をしている訳じゃないので、いつも通り、のんびりといきますよ。ということで、まずはメルカバリーに向けて出発です!!」
「おー!!」

 気合も十分。
 ということでエセリアル馬車を引っ張り出して……と、そうそう、その前に勇者丼を食べにいかないと。向こうの国でも私が納品したお米とすし酢などを使って、勇者丼を再現してくれたのですけれど、やはりここは本家・勇者丼を食べなくては。
 ということでいつもの……というか久しぶりの宿に移動して、部屋の手配を行った後、食堂へ。

「うわ、フェイールさん、久しぶりだねぇ。元気だったかい?」
「はい、暫く海向こうの国まで足を延ばしていましたので。おかみさんも変わりなく、お元気そうでなによりです」
「あっははは。うちは相変わらずだよ。それで、いつもの勇者丼かい?」
「はい、3人分、お願いします」

 うんうん。
 本当に懐かしいて、涙が出てきそうです。
 そして出された勇者丼は以前よりもさらに磨きがかかった一品。
 お米がふっくらしていて、すし酢の加減が絶妙。
 しかも、刺身のネタも鮮度抜群、しっかりと仕事をしているようでなによりです……って、あれ?

「おかみさん、私がいないあいだは、お米と酢はどうやって仕入れていたのですか?」
「ん? ほら、うちの常連の字さ員たちがさ、なんと勇者米と酢を蘇らせてくれたんだよ。去年あたりから豊作でね、このサライじゃいつでも勇者丼が食べられるようになったのさ?」

 おかみさんがニイッと笑って説明してくれた時。
 その向こう側で、私がお米の苗を手渡した爺さんが笑っています。
 うん、なんだかうれしくなってきますね。

「それは良かったです」
「ふぅん。これって、カマンベール王国に輸出したら、結構もうかるんじゃない? 私の国でも、勇者丼の噂は流れていましたからね」
「そこまでの分量はまだまだ先らしいわね……と、注文が入ったので、それじゃね」

 確かに、以前よりもお客さんが頻繁に出入りしているようですし、忙しそうでなによりです。
 ということで今日はここでゆっくりと体を休めて、明日の朝一番でメルカバリーへと向かう事にしましょう。
 
 それにしても、久しぶりのハーバリオスですから、のんびりと旅をするべきか。
 それとも旅行券で、いっきにメルカバリーに向かうべきか、本当に悩ましいところですよね。
 さて、どうしましょうか。
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