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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第277話・ソーゴの正体と、危篤の国王と

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 さて。

 まずは気を落ち着かせましょう。
 私が知っているソーゴさんは、私と同じ個人隊商トレーダーで、珍しい物好きで、あちこちに知り合いが大勢いる商人のソーゴ・タカシマヤさんです。
 ても、あそこに座ってほほ笑んでいるイケメン王子は、この国の第三王子で……。
 そんなことを考えていますと、近くの席で貴族の方々が小声で話をしているのに気が付きました。

「しかし、ソール殿下が凱旋されて、ようやくこの国も落ち着きを取り戻したようですなぁ」
「全く。身分を隠しての諸国漫遊、王家を継ぐ者として見識を深めるためとはいえ、わざわざ海向こうの国に向かう必要はなかったかとおもいますが」
「全くです……まあ、それでもソール殿下が戻られたことで、ようやくこの国も盤石になりますなぁ。あとは妃でも迎えて、次期国王の懐刀として役立ってくれれば」
「全くですなぁ」

 近くの席から聞こえてくる噂話。
 うん、これはどうやら確定のようです。
 つまり、ソール王子が身分を隠し、ソーゴ・タカシマヤを名乗って諸国漫遊していたということですね、はい、大切なことなので二回、確認のために頭の中で反芻しました。

「まあ、人それぞれですからね……って、あの、ノワールさん?」
「くっくっくっ……あれが噂のソール殿下ですか。喧嘩相手にはちょうど良いかもしれませんね」
「ちょ!!」

 突然、ノワールさんが腕を組んでほくそ笑んでいます。
 喧嘩、なんで喧嘩するのですか!! 
 そもそも噂のって、何処で噂されていたのですか?
 ノワールさんが知っているっていうことは、ヘスティア王国ですか? どうしてそこまで噂が流れているのですか?

「ちょ、ちょっと待ってくださいノワールさん!! 私についてきてくださいっ」

 慌てて彼女の袖を引っ張り、部屋の隅っこに移動。
 クレアさんは複雑な表情をしつつも、ソーゴさんをじっと見つめています。
 うん、そっちはキリコさんにお任せします、それよりもノワールさんを止めなくては。

「はい? どうしましたか、クリスティナさま」
「あの、どうしてソーゴさんが喧嘩相手になっているのですか?」
「ん~、私としては、クリスティナさまがペルソナさまと結婚しムグムグムグッッッ」
「い、いきなり何を言い始めますか、どの口が、この口がいけないのですか!」

 突然、なんてことをいうのです。
 私がペルソナさんと、け、けけ、結婚ですか!!
 慌てて彼女の口を両手で塞ぎましたよ、何処で誰が聞いているか分かったものではありませんから。

「どうして私がペルソナさんと結婚……って、まだお付き合いもしていないのですよ、ええ、私が一方的にあの人を好きなになっているだけでして、彼は私の事をどう思っているかなんして知りませんし、そもそもってあれ、私はなにを口走っているのですか……えぇっと、つまりですね……ソーゴさんと喧嘩は禁止です! そもそもどうして喧嘩っていう言葉が出て来るのですか」

 顔が熱いですし、そもそも、私は今、なにを話しましたか?
 そんなことを考えていると、ノワールさんが私の手をどうにか外しました。
 
「ンプハァッ!! クリスティナ様、落ち着いて……はいはい、喧嘩はなしですね。こちらとしても色々と事情があるのですが、今はそれをすべて棚上げしておきます」
「当然です。そもそも私たちが喧嘩する理由なんてありませよ。その事情とやらを聞かせて貰いたいところですが、今はいいです。そもそもあの人は王子様であって、私とは生きている世界が違いますし。ソーゴさんは商人としてはライバルですけれど、それ以上の感情もなにもありませんので」

――コツン
 ん?
 今、近くの席にいた貴族の方々が、どこかに向かったようです。
 それに、給仕の方もこちらを見て、ウワアっていう顔をしているようにも思えますが。
 まあ、それについては今は関係ありません。
 それよりも、ノワールさんが私の方を見てニヤニヤと笑っているのが気になりますが。

「……クリスティナさま、それはまあ、そうですけれど……」
「と、に、か、く!! この話はこれで終わりです。さあ、とっとと次の国に向かいますよ。この国でやるべきことは、全て終わり……」

 と、そうですか。
 ソーゴさんがこの国の王子ということは、現在、危篤状態の国王というのはつまり、実の父親。
 それを知ってしまった以上、このまま何にも知らなかったような顔をして、はい、さようならなんてできるはずがありません。
 
「いえ、私、まだやり残したことがありますね。というか、やり残したことが出来てしまいました」
「それでは、この後でそれを終わらせた方がよろしいですね。恐らくは、一筋縄ではいかないような気がしますけれど」
「ええ。この国の将来にも関係してくることですから、迅速かつスムーズにやり残したことを終わらせなくてはなりません」

 そう説明しますと、ノワールさんの表情がキリッとした真面目な表情に変わりました。
 気のせいかもしれませんが、周囲を警戒しているようにも感じられます。
 何はともあれ、私が所持している薬……というか、元気が溌剌するドリンクを手渡して飲んで頂かなくてはなりません。
 そうすれば、恐らくは国王の病も回復しますし、次期国王選定とかなんとかについても白紙に戻るでしょうから。

「このあとで、ソーゴさんに面会を求めてみます。そして、私の手から直接、元気溌剌……いえ、霊薬エリクシールをお渡ししようと思っています」
「ええ、そうですわね。この件については、他人任せにしてはいけない事案だとこのノワールも思います。ですので、今はそれ以上はおっしゃらないでください。それと急ぎ、クレアさんとキリコさんも近くへ招いた方がいいでしょう。ここでは誰が聞き耳を立てているか分かりませんので」

 そうノワールさんが告げてから、私たちは二人の近くまで移動。
 そして今だ困惑しているクレアさんに、小声で話しかけます。

「このデビュタント・ボールが終わり次第、場所を変えます。ちょっとやることが出来てしまいましたので」
「はい。それってつまり、国王の病気の件で……って、わかりました」

 クレアさんが話し始めた時、口元に指をあてて言葉を紡がないように促します。
 彼女は聡いので、これで今の状況は理解できていると思われます。
 でも、終わり次第ではなく、急いで行動に移さないと危険です。
 だって、今のこの瞬間にも、近くにいた来客の方々が少しだけ騒めきましたし、数名の方がホールから外に出ていきましたので。
 つまり、このままここに居続けても危険と判断。
 ノワールさんの方を向いた時、彼女もコクリと頷いてくれました。

「ソーゴさん……それでは、今は失礼します」

 そう口ずさんでソーゴさんの座っている席に向かって頭を下げると、私たちは急ぎ会場を後にします。あとは屋敷の外まで出てから、エセリアル馬車に乗り込んで認識阻害の効果を発動するだけ。
 ああ、こういうときの廊下って、とっても長く感じてしまうのは何故でしょうか。
 とにかく、急がないと。 
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