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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と
第275話・暗躍する人々と、反撃開始のその前に
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ドタタタタタタ……。
深夜のバンクーバ。
その町中を駆け抜ける人々の姿。
黒い衣服に身を包み、月夜の下でも目立たないようにと建物の影を走る人々。
「おい、西地区はどうだった?」
「いや、そっちにもそれらしい馬車は見当たらなかった」
「糞っ。あの女ども、いったいどこに隠れて居やがる」
「知るか。それよりも急げ、日が昇って間もなく、あいつらは納品にくるはずだ。それまでに積荷を押さえてしまえばいい。まあ、ついでにあの女たちの荷物も全て奪い取ってから、奴隷商人にでも売り飛ばせば証拠は残らないからな」
物騒な話をしてから、また男たちは四方八方へと散っていく。
この男たちの目的は、フェイール商店の馬車と、その商店主であるクリスティナ・フェイールの確保。
ある人物の依頼により、デビュタント・ボールを失敗させるべく暗躍をしている。
もしもこのデビュタント・ボールが失敗に終わったら。
大切な一人娘の社交界デビュー失敗の責務を、責任者である第三王子に求めるであろう。
そうなると第三王子の面子はつぶれ、政務を取り仕切る能力がないというレッテルを張られる。
それだけではなく、デビュタント・ボールに参加しているであろう貴族たちの反発も招き、第三王子派は失墜する……。
そのために、彼らは様々な策を練って来た。
それでも、王家の第三王子が取り仕切っているため、反対派のつけ入るすきなど殆ど見当たらないというのも事実であるが。
幸いなことに、パーティーで供される食事、つまり立食形式のディナーパーティーに必要な食材調達の一部がとん挫しているということを聞き、彼らはそこから牙城を崩す作戦を練ったのだが。
他国の個人商店であるフェイール商店ならば、食材を集められると第三王子が提案、すがる思いで彼女たちに一縷の望みを託し……そして今、食材についてはほぼクリアされようとしている。
もしもこれで食材までもか無事に調達され、デビュタント・ボールが成功しそうになったとしたら、最後は下策に走るしかない。
そしてそれだけは危険であると感じているからこそ、彼らは意地でもフェイール商店の馬車と商店主を探し出そうとして、現在に至る……。
………
……
…
――チュンチュンチュン
朝。
いつものようにすっきりとした朝。
昨日は暴漢騒動もあり、あまり満足に眠れていなかったということもあり。
今日はしっかりと睡眠をとったのち、納品のための準備をして馬車の外に出て。
――ガチャッ
「ん?」
「んんん?」
偶然でしょうか、馬車の外に出た時、目の前に見知らぬ馬車やら馬の群れと、冒険者らしき大勢の人々。
そして腕を組んで複雑な顔をしているサンマルコ。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁ、こんなところにいたのか、みんな、こいつを捕まえろ!! ターゲットの商店主だ!! フェイールだ!!」
「う、うひゃあ!!」
急ぎ馬車の御者台に飛び乗り、エセリアルモード全開。
するとサンマルコとその一味は、周囲をキョロキョロと見渡し始めます。
「クソッ、魔法かよ!! 誰か探知の魔法を使えないか!!」
「それなら私が!!」
フードを被った冒険者がサンマルコの近くにより、静かに詠唱を開始します。
そして目を閉じて両手を広げると、サンマルコに向かって一言。
「残念ですが、逃げられたようです。馬車の気配もなにも感じないことから、恐らくはあの商店主は短距離転移魔術が使えるのかと」
「なんだそれは、そんな魔法が存在するのか……」
「噂だけですが、失われた勇者の魔術、それにあったという噂だけは、聞いたことがあります。ということは、その女の持つ魔導書だけでも、一国の宝物庫に存在する財宝に等しい価値があるかと」
――ゴクッ
サンマルコが喉を鳴らす。
そして周囲を見渡してから、集まっている冒険者らしき男たちに叫びました。
「あの女を捕まえろ! どうせ目的は郊外沿いにあるデビュタント・ボールの会場だ。そこに納品に向かうだろうから、その途中で女を捕まえろ、そうだ、会場の近くにも何人か向え、決してあの女を会場の敷地内に入れるな、門を越える前に必ず捕まえて、俺の前に連れて来い!」
その叫び声の直後、男たちはそれぞれ馬や馬車に乗り込んで駒の場を離れていきました。
「はぁ、ああ、なるほど。この停車場に集まっている商人の馬車の中に、私たちが紛れ込んでいるという予測をしていたのですか……あたりですけれど、ものすごく頭が切れていますよね」
御者台の上で腕を組み、ウンウンと頷く私。
さて、このままでは納品作業中にも見つかってしまいますよね、となりますと場所を変える必要がありますが。
果たして、何処が適切な場所なのでしょうか。
そう考えていますと、ふと、とっても適切な場所を思いつきました。
――コンコン
すると、御者台の後ろ、窓のあたりをクレアさんがノックしています。
「ねぇ、外の様子はどうなったの? さっき外からあのいけ好かない奴の声が聞こえてきたので、じっと静かにしていたんだけれど」
「ああ、もう大丈夫ですよ。それじゃあ、これから商品受け取りと納品をまとめて行ってしまいますので、しっかりと掴まっていてくださいね」
「しっかりと……ってどういううきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
はい、久しぶりのエセリアル馬車全力疾走モードです。
急いで目的地に向かわなければ、ペルソナさんがやってきてしまいますから。
「あ、あのね、いきなり飛ばさないでってうわぁ、馬車の中に何か飛び込んでくるぅぅう、木が、森が、寝起きの熊がぁぁぁぁ」
「ああ、全て馬車の効果で通り過ぎますからご安心くださいね。デビュタント・ボールの会場に到着したら、すぐに納品をおこないますのでそれまでは体を休めていてください」
「や、や、休まるわけないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
うんうん。
最初はそういうものですよ。
あの柚月さんも慣れるまでは大変でしたけれど。なれればどうということもありませんからね。
深夜のバンクーバ。
その町中を駆け抜ける人々の姿。
黒い衣服に身を包み、月夜の下でも目立たないようにと建物の影を走る人々。
「おい、西地区はどうだった?」
「いや、そっちにもそれらしい馬車は見当たらなかった」
「糞っ。あの女ども、いったいどこに隠れて居やがる」
「知るか。それよりも急げ、日が昇って間もなく、あいつらは納品にくるはずだ。それまでに積荷を押さえてしまえばいい。まあ、ついでにあの女たちの荷物も全て奪い取ってから、奴隷商人にでも売り飛ばせば証拠は残らないからな」
物騒な話をしてから、また男たちは四方八方へと散っていく。
この男たちの目的は、フェイール商店の馬車と、その商店主であるクリスティナ・フェイールの確保。
ある人物の依頼により、デビュタント・ボールを失敗させるべく暗躍をしている。
もしもこのデビュタント・ボールが失敗に終わったら。
大切な一人娘の社交界デビュー失敗の責務を、責任者である第三王子に求めるであろう。
そうなると第三王子の面子はつぶれ、政務を取り仕切る能力がないというレッテルを張られる。
それだけではなく、デビュタント・ボールに参加しているであろう貴族たちの反発も招き、第三王子派は失墜する……。
そのために、彼らは様々な策を練って来た。
それでも、王家の第三王子が取り仕切っているため、反対派のつけ入るすきなど殆ど見当たらないというのも事実であるが。
幸いなことに、パーティーで供される食事、つまり立食形式のディナーパーティーに必要な食材調達の一部がとん挫しているということを聞き、彼らはそこから牙城を崩す作戦を練ったのだが。
他国の個人商店であるフェイール商店ならば、食材を集められると第三王子が提案、すがる思いで彼女たちに一縷の望みを託し……そして今、食材についてはほぼクリアされようとしている。
もしもこれで食材までもか無事に調達され、デビュタント・ボールが成功しそうになったとしたら、最後は下策に走るしかない。
そしてそれだけは危険であると感じているからこそ、彼らは意地でもフェイール商店の馬車と商店主を探し出そうとして、現在に至る……。
………
……
…
――チュンチュンチュン
朝。
いつものようにすっきりとした朝。
昨日は暴漢騒動もあり、あまり満足に眠れていなかったということもあり。
今日はしっかりと睡眠をとったのち、納品のための準備をして馬車の外に出て。
――ガチャッ
「ん?」
「んんん?」
偶然でしょうか、馬車の外に出た時、目の前に見知らぬ馬車やら馬の群れと、冒険者らしき大勢の人々。
そして腕を組んで複雑な顔をしているサンマルコ。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁ、こんなところにいたのか、みんな、こいつを捕まえろ!! ターゲットの商店主だ!! フェイールだ!!」
「う、うひゃあ!!」
急ぎ馬車の御者台に飛び乗り、エセリアルモード全開。
するとサンマルコとその一味は、周囲をキョロキョロと見渡し始めます。
「クソッ、魔法かよ!! 誰か探知の魔法を使えないか!!」
「それなら私が!!」
フードを被った冒険者がサンマルコの近くにより、静かに詠唱を開始します。
そして目を閉じて両手を広げると、サンマルコに向かって一言。
「残念ですが、逃げられたようです。馬車の気配もなにも感じないことから、恐らくはあの商店主は短距離転移魔術が使えるのかと」
「なんだそれは、そんな魔法が存在するのか……」
「噂だけですが、失われた勇者の魔術、それにあったという噂だけは、聞いたことがあります。ということは、その女の持つ魔導書だけでも、一国の宝物庫に存在する財宝に等しい価値があるかと」
――ゴクッ
サンマルコが喉を鳴らす。
そして周囲を見渡してから、集まっている冒険者らしき男たちに叫びました。
「あの女を捕まえろ! どうせ目的は郊外沿いにあるデビュタント・ボールの会場だ。そこに納品に向かうだろうから、その途中で女を捕まえろ、そうだ、会場の近くにも何人か向え、決してあの女を会場の敷地内に入れるな、門を越える前に必ず捕まえて、俺の前に連れて来い!」
その叫び声の直後、男たちはそれぞれ馬や馬車に乗り込んで駒の場を離れていきました。
「はぁ、ああ、なるほど。この停車場に集まっている商人の馬車の中に、私たちが紛れ込んでいるという予測をしていたのですか……あたりですけれど、ものすごく頭が切れていますよね」
御者台の上で腕を組み、ウンウンと頷く私。
さて、このままでは納品作業中にも見つかってしまいますよね、となりますと場所を変える必要がありますが。
果たして、何処が適切な場所なのでしょうか。
そう考えていますと、ふと、とっても適切な場所を思いつきました。
――コンコン
すると、御者台の後ろ、窓のあたりをクレアさんがノックしています。
「ねぇ、外の様子はどうなったの? さっき外からあのいけ好かない奴の声が聞こえてきたので、じっと静かにしていたんだけれど」
「ああ、もう大丈夫ですよ。それじゃあ、これから商品受け取りと納品をまとめて行ってしまいますので、しっかりと掴まっていてくださいね」
「しっかりと……ってどういううきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
はい、久しぶりのエセリアル馬車全力疾走モードです。
急いで目的地に向かわなければ、ペルソナさんがやってきてしまいますから。
「あ、あのね、いきなり飛ばさないでってうわぁ、馬車の中に何か飛び込んでくるぅぅう、木が、森が、寝起きの熊がぁぁぁぁ」
「ああ、全て馬車の効果で通り過ぎますからご安心くださいね。デビュタント・ボールの会場に到着したら、すぐに納品をおこないますのでそれまでは体を休めていてください」
「や、や、休まるわけないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
うんうん。
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あの柚月さんも慣れるまでは大変でしたけれど。なれればどうということもありませんからね。
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