型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
上 下
216 / 286
第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第268話・ダ~イエットは明日から~では、駄目ですよ

しおりを挟む
 ジュリア・ゴステローザお嬢様のお悩み。
 
 それは、来るべきデビュタントパーティーの場にて、華やかに社交界デビューしたいと。
 でも、お嬢様の体型は少々、いえ普通に、訂正もの凄いおデップリ体型。
 なんといいますか、こう、スカートの裾から何か噴き出して滑空してきそうな、どむっとした体型といえば、ご理解いただけたでしょうか? これは大賢者・武田さんがおっしゃっていた、お太りになられている女性に対しての遠回しなご説明と伺っていますが。
 うん、こういう時にツッコミを入れてくれるブランシュさんやノワールさんがいないので、真偽のほどは定かではありませんね。
 
 ということで、私は今にも泣きだしそうなお嬢さまをベランダ席へとお連れして、まずはそこでお話を伺いたいと思いまして。
 そしてただ話を聞いているのではいけないと思い、ティーセットと軽いお茶菓子をご用意しました。
 私が普段使いしている、決して商品には回さない美味しいクッキーの詰め合わせ。
 ええ、季節限定で今の時期は入手不可能な、とある名店のクッキーアソートというものらしいのですが、女性を慰めるのには絶好のお菓子でしょう。

「では、どのようなご相談でしょうか……」
「はい、簡潔に説明します。私は3日で痩せたいのです……このドレスは、私が以前着ていたドレスなのですが、これが着られるような体型に戻りたいのです!!」

 ふむふむ。
 ジュリアお嬢様が肩から下げているポシェットは、アイテムバッグでしたか。
 そこから出てきたドレスを受け取ると、私は立ちあがってそれを広げてみました。

「げっ……こ、これはまた、なんといいますか……」

 私よりも細いウェスト、私よりも豊満な胸回り、私よりもちょっとだけやや大きなお尻回り。
 緑色の染め糸、この手触りはシルクですか。
 艶のある、それでいて軽くて肌ざわりの良いドレス。
 これを……と、ふむ。
 このドレスが通常サイズと仮定しますと、今のお嬢様は通常の三倍の太さを保っていられます。
 しかも、体型が表に出ないようにと、赤いドレスを身に付けているではありませんか。
 でも……確か赤色って膨張色といって、いえ、それはおいておきましょう。

「はっきりいいます、私は太ってしまったのよ。それもこれも、全てセドリック様がいけないのよ……いえ、セドリック様には罪はないわ、全てあの方に色目を使っているお嬢様たちのせいなのよ……そう、あれは私がまだ10歳の時……初めてお父様に連れられていった、王都での晩餐会。あの日、私は初めてセドリック様にお会いしたのです。その時から私はあの方の虜、恋という甘く甘美な罠に嵌ってしまいました。あれ以降、来る日も来る日も、セドリック様の事を忘れることはできませんでした……」

 あ、どうやら私が質問をする前に、ジュリアさまの一人語りが始まったようですね。
 では、余りツッコミを入れることはせず、このままお茶を嗜みつつお話を伺うことにしましょう。

――30分後
「まだ社交界デビューの出発点であるであるデビュタントを迎えてはいないものの、私は父上にお願いしては、貴族同士の集まりについていくようにしましたわ。そう、全てはセドリックさまとの出会いのために。でも、あの方はいつでも、大勢の女性に囲まれているではないですか。ええ、私以外の可愛らしい貴族子女の皆さんに囲まれても、あの方は笑顔を崩すことなく、笑顔を振るまっていたのです。そのセドリックさまが、私に直接おっしゃってくださったのですわ、『ジュリア、君には若草色のドレスがよく似合いますね』って。そう、そのドレスがこれなのよ……でも、あの方が他の女性と親しそうにしている姿を見ていますと、どうにも胸がムカムカとしてきまして……」

 あ、ようやく本題に近づいてきましたね。
 ここまで、ジュリアさまとセドリックさまのなれそめから始まって、貴族同士のパーティーへや園遊会での出来事などを、事細かに、私が用意したジュースとお茶菓子すべてを平らげる勢いでご説明していただけましたわ。

「つまり、お嬢様がお太りになられたのは、全てセドリック様に懸想している女性たちにやきもちを焼いてしまったから、それを紛らわせるために暴飲暴食を繰り返していたと。そういう事なのですね?」
「ま、まあ、私の不摂生によるものであって、他のお嬢様たちには罪はありませんわね。でも、セドリックさまに色目を使っていた方々はギルティです。そして、あと3日でデビュタントが始まります。フェイールさんはご存じないかもしれませんけれど、わが国ではデビュタントを迎えた女性は、デビュタントボールという王家主催の舞踏会に参加する決まりになっていますわ」
「……あの、あと3日といいますけれど、これから王都に向かうには、余りにも時間が足りないのではないでしょうか?」

 このバンクーバーから王都までは、最低でも馬車で7日は必要。
 というか、今、このタイミングでここにいてよいのでしょうか?

「王都主宰のデビュタントボール、その会場はここバンクーバー郊外にある、王家の別荘地にありますわ。例年、この時期には大勢の貴族がバンクーバーを訪れ、デビュタントのために色々と準備を行うのですわよ。ほら、この地は他国との貿易が盛んでしょう? この国以外の様々な装飾品や、異国の衣装なども揃いますので、この時期には大勢の商人や商会が賑わいを見せてくれるのですよ」
「なるほど……それで、あと3日で痩せたいと」

 私の最後の問いかけに、ジュリアさまは私の手をガシッと掴み、大きく頷いています。

「お母さまから聞きましたわ。一瞬で激やせするという秘術、もしくは秘伝の薬品も扱っていると」
「さすがにそれは……あ~、ありませんといえば嘘になりますけれど、あれは門外不出の商品でして。販売することはできないのですよ。とはいえ、そこまで説明してはい、さようならではフェイール商店の沽券にかかわってしまいます。ええ、ジュリアさまが黙秘を行っていただけるのなら、我がフェイール商店は、ジュリアさまを完璧なレディに仕上げてごらんにいれましょう」

 ということで、即売会の会場責任者をクレアさんに一任して、私はメルセデス夫人にお願いして別室を用意してもらいました。
 そこに入室し、内側から鍵を掛けると、さっそくジュリアさまを短時間で痩せさせるダイエットチャレンジを開始しましょう。

「では、まずはこちらに着替えて頂けますか」
「これは……何かしら?」
「異世界でダイエットを行うために着用する衣類です。確か、メッシュステッチのストレッチウェアというものでして」

 私がお渡ししたものは、体にぴっちりと密着するストレッチウェア。
 しかもサイズ自動修正の効果が付与されていますので、ジュリアさまでも簡単に着用できる優れものです。
 まあ、着こむのには少々、お時間がかかりましたけれど。

「それでは、トレーニングの前にこちらをお飲みください。体脂肪を激しく燃焼することが出来るスポーツドリンクです」
「これが……」

 アイテムボックスから取り出したのは、【型録通販のシャーリィ】で゛も期間限定のダイエット商品・エナジーコリー。
 まずはこれをひと瓶、一気に飲み干してもらいます。

「さあ、この一口が激やせへの第一歩、ジュリアさまをスリムビューティーな淑女へと美しく変化させるための魔法のポーションです」
「はい、私は絶対に痩せて見せる! そしてセドリックさまを振り向かせて見せます!」

 おお、ジュリアさまが両手を握りしめて燃えています。
 ついでに体脂肪も少しは燃え始めたのかもしれません、じっとりとジュリアさまの身体が汗ばんできましたね。

「では、さっそく始めましょう!」

 私が取り出したのは、スポーツヨガという本。
 それも、簡単に痩せられる効果的なインドヨガという本でして。
 これは購入したのではなく、私たちが着用しているストレツチウェアに付属している小冊子です。
 でも、これ自体にも魔法効果が付与されていますので、この通りにやって見ましょう!
 何事も実践です。

しおりを挟む
感想 656

あなたにおすすめの小説

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

ある国立学院内の生徒指導室にて

よもぎ
ファンタジー
とある王国にある国立学院、その指導室に呼び出しを受けた生徒が数人。男女それぞれの指導担当が「指導」するお話。 生徒指導の担当目線で話が進みます。

乙女ゲームはエンディングを迎えました。

章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。 これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。 だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。 一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。

よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。