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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第265話・暴走する貴婦人、罠に掛けられ即退場です

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 さて。

 展示即売会の準備が終わり、侍女の肩にお願いしてメルセデスさまに会場の準備が出来たことをお伝えして貰ったのですが。
 
「メルセデスさまから、こちらをお渡しするように仰せつかりました。そちらは目を通したのち、アイテムボックスにて保管をお願いします」

 戻って来た侍女が、一通の書面を手に私の元へ。
 そしてそれに軽く目を通したのち、クレアさんとキリコさんを手招きして手紙を見せてあげます。

「……はぁ。どこにでも腐っている貴族はいるものよね」
「ふむふむ。キリコはりょーかい!!」
「ええ、それではエミールさん、こちらの侍女の皆さんにも事情をご説明したいので、集まっていただけますか?」
「畏まりました」

 そのまま侍女の皆さんにも、手紙に記されていることについての事情を一通り説明。
 そして軽く打ち合わせを行った後、持ち場に戻って最後の仕上げを行います。
 さぁ、ちょっと面倒くさい展示即売会になりそうですわよ。

………
……

 
 ええっと。
 勇者語録には、異世界での買い物の一つにバーゲンセールというものがあるそうで。
 大手商会などが時節に合わせて商品を入れ替えたい際、在庫を一掃するために用いられる販売戦略の事をさすそうです。
 その際、在庫を減らしたい商品の値段を定価ではなく二割、三割引きで販売し、お得感を出して購買意欲を高めるそうです。中には目玉商品とかいって、仕入れ原価に一割程度の利益などを乗せて販売することもあり、それはそれは目的の商品を求めて、大勢のお客様が殺到するそうです。

 今の、私の目の前のご婦人方のように。

「ねぇ、このヘアムスクというの、在庫全て頂戴!!」
「あら奥様、独り占めはよろしくありませんわ。ここはわたくしと手を組みませんこと? ということで、ここの商品は私たちで買い占めさせていただきますわ」
「このダイエットの薬はもうないの? 一人5品じゃ足りなくなるわよ!」

 次々と商品を手にしては、無理難題を押し付けて来るご婦人方。
 ですが残念、展示即売会ゆえに購入制限は緩和していますけれど、一つのブースにつきおひとり5点までと定めてあります。ですので、そこで買い占めようと画策しているご婦人には大変申し訳ありませんが、買い占めは禁止ですので。

「奥様、そちらはヘアムスクではなく、ヘアマスクと言います。そして買い占めは禁止とあらかじめお断りしていましたよね? こちらのブースではおひとり5点までと決まっていますので」
「あら、たかが商人が私たちに意見するっていうの?」
「そうよ。主人に一言告げれば、貴方のような小娘などこの国で商売できなくなるわよ?」

 ニヤニヤと笑いながら呟く二人の婦人。
 確か、エーリッヒ騎士爵夫人とカロッツァ男爵夫人でしたね。
 メルセデスさまの手紙に記されていた通りの展開になってきましたわ。
 はい、それは今日の展示即売会での禁止ワードも出たことですので、作戦を決行させていただきます。

――チリーン
 アイテムボックスからハンドベルを取り出し、それを力いっぱい鳴らします。
 それが撤収の合図でして、キリコさんとクレアさんは、一瞬で目の前の商品をワゴンごとアイテムボックスに納めました。
 まあ、キリコさんはクレアさんから借りたアイテムバッグに納めただけですけれど、他のブースをお願いしてる侍女の皆さんも、一斉に商品ワゴンにシーツを被せて、販売終了の札をぶら下げます。

「な、なによ、そんなことをしてどうなるか分かっているのかしら?」
「ええ。あなた方お二人の暴挙により、今日の楽しいお買い物が終了するだけですわ。私どもとしては、別にこちらでどうしても販売したいということはありません。むしろ、これでこの国での商売をあきらめて、他国に移ろうっていう気持ちにもなりましたので」

 軽く頭を下げてから、にっこりとそう告げます。
 
「ふぅん。そんなことを言っていいのかしら?」
「主人に一言告げれば、貴方の所持している商業許可証なんて無効にすることぐらい簡単なのよ? そうされたくなければ、さっきの商品を全て寄越しなさい!!」

 腕を組んで鼻息荒く、まるで勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて呟いていますが。
 あの、後ろからメルセデス辺境伯夫人が近寄っていますけれど?
 額に青筋を立てて、凍り付くような笑みを浮かべて。

――ガシッ
 そして二人のご婦人の肩を掴むと、その間にゆっくりと割り込んできて。

「あら、奥様方。なにを無理難題を申しているのかしら?」
「これはメルセデスさま。いえ、この小娘が偉そうに私たちに説教じみたことを申しましたので、ちょっと忠告して差し上げただけですわ」
「ええ。私たち貴族に対して、商品の販売数を限定するだなんて許される訳はありませんわ……と、そうよ貴方、その商品の仕入れ先を教えなさい! このヘアムスクがあれば、私たちはこの国の女性のトップに立つこともできますわ」
「そうね、ということで、フェイール商店の商品の仕入れ先を明かしなさい!!」

――ギリッ
 あ、メルセデスさまの手に力が籠められました。

「ねぇ、貴方たちは何をおっしゃっているのかしら? こちらのフェイール商店に無理なお願いをして、限定の商品も持ってきていただいているというのに、それを全て寄越せと? 仕入れ先を教えろと?」
「い、痛いですわ……」
「ええ、この商品があれば、美を求めるすべての女性は私たちの意のままになれますわ。潮風にさらされてもパサつかずしっとりと艶のある髪を手に入れられる……我が国の、すべての女性の求める化粧品が、ここにあるのですわ。それを手に入れたくない女性なんているはずがありませんもの、メルセデスさまも、私たちと一緒に販路を作りませんか?」

 ああっ。
 このお二人は火に油を注いでいるようです。
 その証拠に、後ろから警備の騎士たちが駆けよってきましたわ。

「あいにくと、私は商人の利益を横から攫うような真似はしたくありません。それよりも、すでにフェイール商店は御帰りの準備を始めたようですけれど。まだ買い物を終えていないご婦人方もいらっしゃるのに、貴方たち二人のせいで台無しではありませんこと?」
「い、いえ。それはこの小娘が私たち貴族の命令に従わなかっただけであってですね……さあ、とっとと販売を再開しなさい」
「お、こ、と、わ、り、します。わたくし、最初にご説明しましたよね、一つのブースにて購入できる商品数はおひとり5点まで、それ以上は絶対に販売しませんと。それを全て寄越せだなんて、ルール破りどころか脅迫まがいの言葉まで……ということで、私たちはこれで失礼します」

 すでに別のブースの商品もクレアさんとキリコさんが回収しています。
 そのままメルセデス夫人に頭を下げて、スタスタと大広間から外に出ます。
 あとは廊下で待っている執事さんに案内してもらい、別室にてのんびりとさせて貰いましょう。
 
 今頃は、二人のご婦人もメルセデス夫人にこってりと絞られて、大広間から退場させられているころでしょうか。
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