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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第263話・商品検証と、謎のテクノロジーと

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 早朝便で届いた商品。
 
 納品も終わり、私は今、宿の部屋の中で一つ一つの商品について鑑定を行っている真っ最中です。
 シャーリィで購入した商品については、自動的になんらかの魔法効果が付与されているため、このように細心のチェックを行った後、商品として販売しています。
 ですが、商品の中には『ちょっとこの効果は気まずいのでは?』というものもあるので。そういうものは外しておき、アイテムボックスの中にある『訳あり商品』という項目に保管してあります。
 例えば、バレンタイン限定チョコレートに『媚薬効果』や『食べた者に愛の隷属』といったトンデモないものもあったのですよ。
 これらは私たちでも食べると危険なので永久封印されています。

 そして今回も、一通りのチェックを終えたのち、『美容家電』の効果の検証です。
 当然ながら、正式に従業員となった幕クレアさんにもお手伝いをお願いしましよう。

「ということで、こちらの商品の検証を開始します。今回の検証は、これらに付与されている魔法効果が実際にどれぐらいの影響が出るのか、その実験です」
「はーい、クリス店長、この商品に付与されている効果は、ほかの商品にもついているのですか?」
「はい。こちらはサンプルとして使用します。それで問題が無ければ、アイテムボックスの中の『検証まち』というフォルダに収納してある商品も販売します。ということで、よろしくお願いします」
「畏まりました。では、私はこのダイエットスーツを……」

 ああっ、先を越されて仕舞いましたわ、それは私が責任を持って使おうとしていたのに……。

「ハァ、では私はこちらを……」

 私が手に取ったのは、『アヒャ・肌育成スキンケア』というお肌にハリと艶と若さを取り戻すマシーンです。まずは取扱説明書を読んで……。

「ふむふむ。これは充電してから使うのですね。付与された魔法効果は『効果増大』のみ、つまりより効率的に魔法的に硬貨を発揮するはずで……あれ、どうやって充電するのでしょうか」

 魔導コンセントと本体を繋ぐケーブルが、いつもとは違います。
 ええっと、USBケーブルってなんでしょうか? これはコンセントに直接つながらないのですか?
 
「あ、このタイプシーというやつを本体に、そしてもう一つをUSBにつないで……んんん? エーシーアダプター? そんなの入っていませんよ? ええっと、取説取説……っと」

 はい、どうやらこのスキンケアマシーンは、充電するのにエーシーアダプターというものが必要です。
 しかも、それは別売りらしくてですね、同梱されていませんでした。
 つまり、これは動かない、はい永久封印決定です。
 一つ一つ丁寧に梱包して、箱を閉じてアイテムボックスへ。
 同じタイプのものは3つ購入してありましたけれど、どれも『魔導化』の効果が付与されていないので動きません。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ」

 そんな中。
 ダイエットスーツを着てベッドに横になっているクレアさんから、乙女が出してはいけない声が零れています。

「あの、クレアさん、効果はありそうですか?」
「今、私のお腹の余計なムニモニッとした脂肪分が溶けて体に吸収されています。こ、これは危険です、かなり効果はありそうです」
「で、では私に代わってくださいまし」
「これ、一度動いたら時間がくるまで止められないのですよ……」

 ああっ、そんなご無体な。
 では、私はスーツの起動時間が終わるまで、別の商品の実験を行いましょう。

「仕方がありませんね……次は……これかな?」

 マキシマイズ・リバイブという、プロの整体師も使用しているマッサージ器具です。
 これにも『効果増大』と『効果持続』という二つの魔法効果が付与されているので、期待できそうですよ。ということで、箱から取り出して取説を確認。
 
「ふむふむ。これも充電式なのですね……」

 なるほど、こちらもタイプシーというケーブルを本体に、そしてUSBケーブルを『お手元にお持ちの』アダプターに……ってあれ? お手持ちのアダプター?

「こ、これにもアダプターはついていないのですか。つまり充電不可能……ああっ、これも永久封印ですわ!! これなんて4つも購入したのに……」

 ええ、分かっていますとも、期間限定送料無料という説明に騙されましたわ。
 そもそも送料なんて毎回無料なのですよ、それなのになんでわざわざ書いてあるのですか。
 期間限定商品については、これまで外れなしだったので、つい買ってしまいましたわよ。
 ということで、これも丁寧に梱包しなおしてアイテムボックスへ。
 
「いぎぎぎぎぎぎぎ……」
「あ、あの、クレアさん、そちらのスーツはまだでしょうか?」
「あ、す、すいません。つい、効果時間を延長してしまいまして……ほら、私のちょっと太かった太ももがスリムにスラッと綺麗になっていますよ」

 そんなことを言われましても、ダイエットスーツを着込んでいるのですから、私には見えませんよ。

「はぁ……仕方がありませんね。今度は延長なんてしないでくださいね」
「はーい。では、クリス店長は別の商品の検証をお願いします」
「わかりましたわ……はぁ、何でしょうか、この負けフラグは。勇者語録にも、そんなことが書いてありましたよね」

 確か、負けフラグが成立すると、もう勝ち目はないそうです。
 つまり、私はこのまま……い、いえいえ、気を取り直して次の商品です。

「ええっと、スマートアイマスク・揉みほぐし1号……んんん?」

 これはですね。目の周りの筋肉をほぐし、疲れを取ってくれる商品です。
 でも、いやな予感がしたので取説を確認……。

「ふむふむ。これも本体にこのUSBケーブルを指して、反対側を同梱さてているエーシーアダプターに接続……え、同梱?」

 思わず箱の中身をすべて取り出して確認します。
 ええ、ありましたわ、伝説のエーシーアダプターが。
 それを魔導コンセントにセットし、USBケーブルを接続。
 
「そ、それではいきます!!」

 ゴーグル・ゴー。
 ということでゴーグルを装着し、目元がしっかりと隠れているのを確認してスイッチ・オン。

――ウイィィィィィン
 ゆっくりと目の間我が暖かくなり、同時にやんわりともみほぐされていきます。
 ああ、これは疲れ目によいです、脱力感がたまりません。
 取説のように細かい文字をじっと見ていますと、目が疲れてくるのですよ。
 でも、これさえあればもう大丈夫。
 そういえば、このマシーンに付与されている効果について、確認していませんでしたわ。

「……まあ、健康になるのなら大丈夫です。きっと、目元パッチリすっきりしゃっきり疲れもとれて万々歳ですよ、きっと」

 そのままタイマーが作動するまで、椅子に座ってまったりと。
 やがてピピピッとタイマーが鳴り響いたので、ゴーグルを外して周囲を見渡します。

「うん、疲れは取れているようですけれど、他になにか変わったことは……」

 周囲を見渡しても、特に変化はないですね。
 ひっょとして『効果倍増』でしたか? そう思って鑑定してみましたけれど、やはり付与されている効果は『効果倍増』のみ。
 まあ、疲れ目に良いのと、目の周りの美肌効果で良しとしておきましょう……。

「うん、この調子で次に……」

 チラッとベッドの上を見てみますと、クレアさんが横たわったまま。
 ウイーーーンって音が聞こえてきますので、まだ効果は持続しているのでしょう。
 そして次は、サニサというメーカーの体組織計です。
 これは体の成分が全て表示されるので、自分の身体の事を補欲知ることが出来て大変便利。
 しかもこれ、電池式ですので……ってああっ、これは売れません。
 まあ、体験会程度にとどめておきましょうか。

「あ、先にこれで対組織成分を調べればよかったのですね。では、ちょっと失礼して……」

 素足になって、ここに載るだけですか。
 そんなことで、私のべ手を測れるとは大したものです。

「ええっと、BMIが20.1、腕脂肪率32.2、脚脂肪率33.5、体脂肪率27.1、内臓脂肪率65、全身筋肉率22.3、筋肉含有魔力98.5、近接適正指数0.6、魔術適性指数11.2……」

 はい、表示されたものがプリントアウトされてきたので、付属している一覧表と照らし合わせます。
 どうやら、私の体脂肪率などは、人間女性のほぼ平均値です。ですが、近接適性指数とか魔術適性指数とか、筋肉含有魔力というのは、取説にも説明がされていません。
 きっと、魔法効果によって、この部分が表示されているのでしょうね。
 まあ、わたしは平均的な女性ということで結果オーライです。
 その後もずっと、様々な商品についての検証を続けました。
 結果としては、エーシーアダプターが必要なものについては稼働できない事以外は、ほぼ問題なく使えるということがわかりました。
 ただ、それらについては販売できないため、明日の展示即売会の会場で体験会コーナーでも設けて、そこで色々と試してもらうことにしましょう。

 ちなみにヘルスケア商品以外は全て問題なし。
 ダイエットスーツのおかげでワンランクサイズが減ってキラキラしているクレアさんに商品説明書と値札を付ける作業を任せて、私もダイエットスーツを着て効果検証を行うことにしましょう。
 ええ、丸洗いオッケーなので一度スーツ本体は洗濯して陰干しし、夕方から使わせてもらいましたよ。
 おかげさまで、ちょっと気になっていた場所も全てすっきりしゃっきりしましたわ、これは手放せなくなりそうです。

「クリス店長、社員割引で売ってください、こちらの魔導化が付与されているやつを」
「うーん、まあ、明日以降の様子見ということで……さあ、とっとと値札を付けてしまいなさーい!!」

 私が検証を続けている最中に、時間設定を『自動継続』にこっそりと切り替えていたクレアさんはお仕置きですからね。
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