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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と
第260話・加護の剥がし方と魔神ザナドウ
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アイテムボックスに納められているアイテムを手に入れる方法。
そもそもアイテムボックスというのは神様から授かった加護であり、スキルのように自らの努力で身に付けるものではない。つまりは、神に選ばれたものしか手に入れることが出来ないというのが一般論であり、それを身に付けている商人は将来が約束されたようなもの……ということなのですけれど。
「では、クリス店長も困っているようなので、三番目のアイテムボックスの継承方法を教えてあげますわ」
「それは私も知らないコン」
「むっふーー、そうでしょうそうでしょう」
さっきからキリコさんに種明かしされてやや不機嫌だったクレアさんが、にんまりと笑ってふんぞり返っています。これはあれですよ、私と彼女が初めて出会ったサライの港町を思い出しますよ。
あの時もクレアさんは、高飛車で傲慢で我儘なお嬢様スタイルでしたけれど、今のこの雰囲気もまた、当時のなつかして雰囲気を醸し出しています。
「……あの、なんでクリス店長は、私を見てニマニマと笑っているのかしら?」
「いえ、サライで初めて出会った時のことを思い出しまして……と、それはどうでもいいので、三番目というのを教えてくださいな」
「はい、それでは三番目のアイテムボックスの譲渡方法、それはすなわち、『加護の強奪』ね」
「加護の……強奪? あの、加護って盗めるのですか?」
そう思いつつ、キリコさんと二人で頭を傾げてみますと、鼻高々なクレアさんが解説をしてくれました。
加護の強奪というのは、『強奪』というかなりレアなユニークスキルを用いて、他者の持つ神の加護を奪い取るというものだそうです。ちなみに神の加護は選ばれたものにしか与えられませんので、強奪するにも一定の条件があるそうで。
・条件その1
アイテムボックスなどの加護所持者に加護を与えた神の神格が、強奪のスキルを得た者の神の加護よりも低い場合
・条件その2
加護所持者の神が、強奪スキル所持者の神と敵対もしくは反発している場合
・条件その3
加護所持者が死亡もしくは瀕死状態であること
「……うわぁ……」
その説明を聞いたしょんかん、思わずドン引きしてしまいました。
例えば、私は精霊女王シャーリィの加護を得ています。
その私から『アイテムボックスの加護』を強奪しようとした場合、強奪スキルの所有者が得ている神の加護が『精霊女王シャーリィ』よりも需要位であり、且つ、シャーリィ様と敵対しているものでなくてはなりません。
さらに、私を瀕死状態もしくは殺さなくてはならず、そういった状況によって始めて強奪スキルが使えるとか。
「ね、とんてもない話でしょう? だからクリス店長も気を付けないと」
「はぁ。私の場合、精霊女王のシャーリィさまと運命の女神メルセデスさま、そして商神アゲ=イナリさまの三柱の神の加護を得ていますけれど……この場合、どうなのでしょう?」
「……ほんっとうに、出鱈目な存在よねぇ、うちの店長は。私たちの世界の最高神である八柱の神が三、そのうちの三柱からの加護を得ている時点で、強奪なんてほぼ不可能じゃない。その三柱と敵対している神なんて、魔神ザナドゥしかいないじゃない」
魔神ザナドゥ。
魔族の信奉する神であり八柱神の一人。
破壊と混沌を司る神であり、他の七柱の神が見と敵対していた存在。
初代勇者が異世界から召喚されたのも、魔神ザナドゥが魔族に力を授け、世界を混沌の渦に叩き落そうとしたことから始まっています。
「ん。つまり、私は安全ということで?」
「ちっがうから。魔族でザナドゥの信奉者のみが、クリス店長の加護を引き剥がせるっていうこと。まあ、こっちの大陸には魔族は定住していないし、いるとしても過去の大戦の生き残りが細々と暮らしているっていう感じゃないかしら? 私たちのいた大陸なんて、今だに人族と魔族の抗争は続いているんだから」
「ああ、そうですよねぇ……でも、魔族にさえ注意していれば大丈夫ということは理解できましたわ、ありがとうございます」
クレアさんに頭を下げると、彼女も腕を組んだまま真っ赤な顔になっている。
「わ、分かってくれたのならそれでいいわよ。それよりも話を戻すけれど、霊薬の素材については、今は表に出すことは考えていないということでいいのよね?」
「ええ。迂闊に外に漏らそうものなら、それこそ激しい奪い合いじゃすまなくなってしまいますわ」
「そうよね。でも、少しほっとしたわ。これでクリス店長のアイテムボックスの中に、霊薬がゴロゴロと入っていたりしたら大変なことになるからね。そのランガクィーノさんしか作れないっていうのなら一安心だわ」
「それはもう、御覧の通り私のアイテムボックスの中らは、霊薬なんて一切入っていませんわよ」
アイテムボックスの目録を取り出してテーブルの前に広げます。
まあ、他人は見ることが出来ないものですし、分類別に記してはありますけれど雑多な荷物が多すぎますから一見しても何がなんだかわかりません。
「……まあ、アイテムボックスの中身なんて、この主従の指輪理のように契約者でない限り、他人の者なんて見ることできないからね……って、クリス店長? どうしたの?」
ええ、アイテムボックスの目録を見て、ふと、嫌なものを発見しましたよ。
いえ、嫌なものではないのですが、この状況を一発で解消できる『カナン・アーレストの残した秘薬』というものが、しっかりと私のアイテムボックスに納められているじゃ、あーりませんか。
これは……ああ、ガンバナニーワからエルフの里に向かって、そこの聖域の最下層で貰って来た奇跡の霊薬ですね。元気溌剌になる、茶色い小瓶のシュワシュワした薬。
のど越しがよく、肉体疲労の栄養補強にも使えるよって、柚月さんもおっしゃっていましたから。
「んんん、なんでもないですわ。さて、それじゃあ明日からの予定としては、ジャニス伯爵からの注文を待つこと、そして貴族のご婦人方の希望で展示即売会を開くこと、この二点で間違いはないですわね」
「そうね。そのためにも、一旦、商業ギルドに露店の許可証を再申請しないとならないわねぇ
ならないわねぇ……でも、場所を貸してくれるかしら?」
「そこなんですけれど、まあ、事情を正直に御説明すれば、きっといいことがありますよ」
「きっと……ねぇ。まあ、店長がいうのだからそうかもしれないわね」
よし、話を逸らすことは出来ましたし、本筋に戻すこと出来ました。
あとはまあ、適当な雑談でもして明日に備えることにしましょう、そうしましょう。
そもそもアイテムボックスというのは神様から授かった加護であり、スキルのように自らの努力で身に付けるものではない。つまりは、神に選ばれたものしか手に入れることが出来ないというのが一般論であり、それを身に付けている商人は将来が約束されたようなもの……ということなのですけれど。
「では、クリス店長も困っているようなので、三番目のアイテムボックスの継承方法を教えてあげますわ」
「それは私も知らないコン」
「むっふーー、そうでしょうそうでしょう」
さっきからキリコさんに種明かしされてやや不機嫌だったクレアさんが、にんまりと笑ってふんぞり返っています。これはあれですよ、私と彼女が初めて出会ったサライの港町を思い出しますよ。
あの時もクレアさんは、高飛車で傲慢で我儘なお嬢様スタイルでしたけれど、今のこの雰囲気もまた、当時のなつかして雰囲気を醸し出しています。
「……あの、なんでクリス店長は、私を見てニマニマと笑っているのかしら?」
「いえ、サライで初めて出会った時のことを思い出しまして……と、それはどうでもいいので、三番目というのを教えてくださいな」
「はい、それでは三番目のアイテムボックスの譲渡方法、それはすなわち、『加護の強奪』ね」
「加護の……強奪? あの、加護って盗めるのですか?」
そう思いつつ、キリコさんと二人で頭を傾げてみますと、鼻高々なクレアさんが解説をしてくれました。
加護の強奪というのは、『強奪』というかなりレアなユニークスキルを用いて、他者の持つ神の加護を奪い取るというものだそうです。ちなみに神の加護は選ばれたものにしか与えられませんので、強奪するにも一定の条件があるそうで。
・条件その1
アイテムボックスなどの加護所持者に加護を与えた神の神格が、強奪のスキルを得た者の神の加護よりも低い場合
・条件その2
加護所持者の神が、強奪スキル所持者の神と敵対もしくは反発している場合
・条件その3
加護所持者が死亡もしくは瀕死状態であること
「……うわぁ……」
その説明を聞いたしょんかん、思わずドン引きしてしまいました。
例えば、私は精霊女王シャーリィの加護を得ています。
その私から『アイテムボックスの加護』を強奪しようとした場合、強奪スキルの所有者が得ている神の加護が『精霊女王シャーリィ』よりも需要位であり、且つ、シャーリィ様と敵対しているものでなくてはなりません。
さらに、私を瀕死状態もしくは殺さなくてはならず、そういった状況によって始めて強奪スキルが使えるとか。
「ね、とんてもない話でしょう? だからクリス店長も気を付けないと」
「はぁ。私の場合、精霊女王のシャーリィさまと運命の女神メルセデスさま、そして商神アゲ=イナリさまの三柱の神の加護を得ていますけれど……この場合、どうなのでしょう?」
「……ほんっとうに、出鱈目な存在よねぇ、うちの店長は。私たちの世界の最高神である八柱の神が三、そのうちの三柱からの加護を得ている時点で、強奪なんてほぼ不可能じゃない。その三柱と敵対している神なんて、魔神ザナドゥしかいないじゃない」
魔神ザナドゥ。
魔族の信奉する神であり八柱神の一人。
破壊と混沌を司る神であり、他の七柱の神が見と敵対していた存在。
初代勇者が異世界から召喚されたのも、魔神ザナドゥが魔族に力を授け、世界を混沌の渦に叩き落そうとしたことから始まっています。
「ん。つまり、私は安全ということで?」
「ちっがうから。魔族でザナドゥの信奉者のみが、クリス店長の加護を引き剥がせるっていうこと。まあ、こっちの大陸には魔族は定住していないし、いるとしても過去の大戦の生き残りが細々と暮らしているっていう感じゃないかしら? 私たちのいた大陸なんて、今だに人族と魔族の抗争は続いているんだから」
「ああ、そうですよねぇ……でも、魔族にさえ注意していれば大丈夫ということは理解できましたわ、ありがとうございます」
クレアさんに頭を下げると、彼女も腕を組んだまま真っ赤な顔になっている。
「わ、分かってくれたのならそれでいいわよ。それよりも話を戻すけれど、霊薬の素材については、今は表に出すことは考えていないということでいいのよね?」
「ええ。迂闊に外に漏らそうものなら、それこそ激しい奪い合いじゃすまなくなってしまいますわ」
「そうよね。でも、少しほっとしたわ。これでクリス店長のアイテムボックスの中に、霊薬がゴロゴロと入っていたりしたら大変なことになるからね。そのランガクィーノさんしか作れないっていうのなら一安心だわ」
「それはもう、御覧の通り私のアイテムボックスの中らは、霊薬なんて一切入っていませんわよ」
アイテムボックスの目録を取り出してテーブルの前に広げます。
まあ、他人は見ることが出来ないものですし、分類別に記してはありますけれど雑多な荷物が多すぎますから一見しても何がなんだかわかりません。
「……まあ、アイテムボックスの中身なんて、この主従の指輪理のように契約者でない限り、他人の者なんて見ることできないからね……って、クリス店長? どうしたの?」
ええ、アイテムボックスの目録を見て、ふと、嫌なものを発見しましたよ。
いえ、嫌なものではないのですが、この状況を一発で解消できる『カナン・アーレストの残した秘薬』というものが、しっかりと私のアイテムボックスに納められているじゃ、あーりませんか。
これは……ああ、ガンバナニーワからエルフの里に向かって、そこの聖域の最下層で貰って来た奇跡の霊薬ですね。元気溌剌になる、茶色い小瓶のシュワシュワした薬。
のど越しがよく、肉体疲労の栄養補強にも使えるよって、柚月さんもおっしゃっていましたから。
「んんん、なんでもないですわ。さて、それじゃあ明日からの予定としては、ジャニス伯爵からの注文を待つこと、そして貴族のご婦人方の希望で展示即売会を開くこと、この二点で間違いはないですわね」
「そうね。そのためにも、一旦、商業ギルドに露店の許可証を再申請しないとならないわねぇ
ならないわねぇ……でも、場所を貸してくれるかしら?」
「そこなんですけれど、まあ、事情を正直に御説明すれば、きっといいことがありますよ」
「きっと……ねぇ。まあ、店長がいうのだからそうかもしれないわね」
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