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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と
第255話・契約延長? よもやよもやの伯爵さま
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バンクーバーで一週間が過ぎました。
この間、イブさんの御店の一角を間借りして、ようやくバンクーバーの住民の皆さんにフェイール商店を覚えて貰ったのですが、そろそろソーゴさんとの護衛契約期間が終わりになります。
それならば、私たちも彼と一緒に王都を目指せばいいと思い、商業ギルドに出店証明書の返却と売上税の支払いに向かったのですが。
カウンターで私はここの商業ギルドの統括に呼ばれ、別室に移動となりまして。
「実は、大変申し訳ないのですが。あと一週間ほど、この街に滞在していただきたいのです」
初老のギルド統括の方が、額から流れる汗を拭いつつ話を切り出してきました。
しかし、いきなり一週間の延長とは。
「あと一週間ですか? 私どもとしては、護衛契約が切れてしまうため、一緒に王都へ向かう手はずを整えているところでしたが」
「はい。実は、このバンクーバー領の領主であるジャニス・バンクーバー伯爵が、フェイール商店にお願いがあるということだそうで。今、領主さまは王都からバンクーバーに向かう途中の中継都市に滞在中でして。あと一週間もすれば戻ってくるので、この地に引き留めて欲しいと魔導通信機で連絡が届いた次第であります」
「はぁ、それは困りましたわ」
隣に座っているソーゴさんをチラリと見ます。
彼との護衛契約はここで途切れてしまいますので、そうなりますとキリコさんに護衛を一任することになりますが。
「ああ、俺は別に構わな……ん?」
私の意図を読み取ってくれたのか、ソーゴさんがそう呟いた時。
統括がソーゴさんに一通の書簡を手渡しました。
「これは?」
「今朝がた、王都から届けられたものです。ご確認を」
「ああ、差出人は……と、なるほどなぁ」
封蝋に記された紋章らしきものを見て、ソーゴさんが渋い顔をして頷いています。
そして書簡を確認すると、顔に手を当てて困った顔になっていました。
「参った……こんな状況になっていたのか……フェイールの嬢ちゃん、すまんが急ぎ王都に戻らなくてはならなくなっちまった。本当ならばこのまま滞在して護衛を継続しても良かったんだが、そうもいかなくなっちまった」
「何か、困ったことが?」
「まあ、お家騒動みたいなものだと思ってくれればいいさ。ということで、護衛契約は予定通り本日で完了だ。すまなかったな」
本当に口惜しそうに呟くソーゴさん。
きっと、やむにやまれない事情があったのでしょう。
「まあ、私たちもあとから王都に向かいますので、御縁があればまたお会いできると思いますよ。商業ギルドにでも言付けをしてくれれば、私たちにも連絡が届くかとおもいますので」
「そうだな……それじゃあ、ちょいと急ぐのでこれで失礼する。またな」
そう告げてから、ソーゴさんは立ち上がって部屋を後にします。
「では、あと一週間ほど滞在しますので、何かありましたらカバンのサンマルチノにご連絡を頂ければ幸いです」
「ああ、今は彼女の店舗に間借りをしているんだったね。それじゃあ伯爵が戻り次第、そっちに連絡を入れさせていただきますので」
「はい。よろしくおねがいします」
丁寧に頭を下げて、これで話し合いは完了。
それにしても、ソーゴさんは大丈夫でしょうか。
あの書簡の中を確認したとき、一瞬だけいつもとは違う険しい表情になっていました。
身内に事故でも起きたのか、それとも不幸があったのか。
いずれにしても、他人であり商人である私が口出ししていい問題ではありません。
さて、お店で待っているクレアさんにも事情を説明しないといけませんね。
………
……
…
――カバンのサンマルチノ
商業ギルドを後にして、片づけを行っているクレアさんと合流すべくカバンノサンマルチノへ。
すると、店の前に数台の馬車が止まっていて、なにやら大量の荷物を降ろしている真っ最中じゃありませんか。
「あ、クリス店長、お疲れ様です。納税とかは全て終わったのでしょうか?」
「はい、ちょっとごたごたしてしまいましたけれど、ちょっとここの領主さまからの依頼があったようでして、もう一週間ほどバンクーバーに滞在することになりましたよ……と、これはなにが起きているのですか?」
「イブさんのお兄さんが王都から引っ越してきたのですよ。ちょうど契約期間も終わったので。店内を改装して本格的にこの街でカバン屋を経営するとかで……」
はい?
ええっと、私はイブさんに一週間の間借り延長をお願いしようと思っていたのですが。
そんなことを考えていますと、ちょうどイブさんが店内から外に出てきました。
「お、フェイールさんおかえり。今日が出発だろう? 本当は正門まで見送りに向かおうと思っていたんだけれどさ、うちの兄貴が職人を引き連れて戻ってきちまったんだよ。それで店内の階層をすることになっちゃってさ……ここで見送りということで構わないかい?」
カンラカンラと笑いつつ話しかけてきたイブさん。
さて、これは困りましたよ。
「ええっと、実はですね……」
事の次第を一つずつ説明しますと、イブさんも腕を組んで困り顔になってしまいました。
でも、私たちが勝手に間借り延長お願いしようとしていただけですし、イブさんが困ることはありませんよ。
「そっかぁ……そうなると、また一週間ほど場所を探さないとならないのか……」
「そうなんですよ……と、イブさん、この店舗前の広場って、商業ギルドが管理しているのですよね? このあたりに馬車を止めて商売をすることも可能ですよね?」
「ああ、移動式ワゴンか。でも、あれはワゴンを持っている商人しか場所を借りることが出来ないんだけれどねぇ……なにか伝手はあるのかい?」
「はい、ちょうど手ごろなキャリツジワゴンが入手できましたので、それで商売をしようと思います。ちっょと確認してきますね」
そう告げて商業ギルドへリターン。
今度はクレアさんとキリコさんも同行して、広場を借りられるかご相談です。
そして意外とあっさりと借りることが出来ました。
統括から、私が露店を出す場合は便宜を図るように言われていたらしく、売上税などは今まで通り、場所の使用料は無料ということで話し合いが付きました。
「そっか……ソーゴさんは王都に急ぎ戻ってしまったのですか」
事情を説明すると、クレアさんが少しだけ悲しそうな顔になっています。
うんうん、好きな異性と離れ離れになるというのは、誰でも悲しくなってしまいます。
でも、それを乗り越えてこそ愛はさらに高まるのですよ。
「あの……クリス店長、なにか悟りきったような笑顔でこっちを見ないでくださいます?」
「愛は距離が離れるほど燃え上がるのです、バーニングです。ということで、さっそく馬車で移動しましょう」
「そ、そんなんじゃないって……え?」
――シュンッ
指輪から召喚したエセリアル馬車・キャリッジワゴンバージョン。
いつもの馬車は外されて指輪の中、そして新たに連結されたキャリッジワゴンが初登場です。
「はぁ。またおかしなものを入手したのですね」
「はい、入手しました。移動はいつも通り御者台に乗らなくてはなりませんが、今回はこの馬車の横の部分、壁が跳ね上がってごらんのとおり!」
――パカッ
透明なショーケースとカウンターの一体成型されたものが設置されたワゴン。
商品購入時は店員が取らなくてはならないので貸すけれど、これだと商品を勝手に持っていく人も防げるので大変便利です。
しかも馬車の左右に同じものが設置されているので、私とクレアさん、二人で商売することも可能な優れものです。
「は、はは……相変わらず頭がおかしくなりそうな乗り物ですこと」
「うん、私もそう思います。ということで、さっそく移動してから商品を並べることにしましょう」
はい、あとは商品を並べれば全てオッケー。
馬車の上ということもあり、いつもより高い位置に陳列ケースが並ぶことになりましたけれど、馬車の側面を引っ張り出すと階段が出てきましたので、これで買い物も安全に行えます……って、本当に、このキャリレッジワゴンはおかしくないですか?
まあ、なにはともあれ、これで一週間は様子を見ることにしましょう。
また変な貴族に絡まれないことを祈りつつ。
この間、イブさんの御店の一角を間借りして、ようやくバンクーバーの住民の皆さんにフェイール商店を覚えて貰ったのですが、そろそろソーゴさんとの護衛契約期間が終わりになります。
それならば、私たちも彼と一緒に王都を目指せばいいと思い、商業ギルドに出店証明書の返却と売上税の支払いに向かったのですが。
カウンターで私はここの商業ギルドの統括に呼ばれ、別室に移動となりまして。
「実は、大変申し訳ないのですが。あと一週間ほど、この街に滞在していただきたいのです」
初老のギルド統括の方が、額から流れる汗を拭いつつ話を切り出してきました。
しかし、いきなり一週間の延長とは。
「あと一週間ですか? 私どもとしては、護衛契約が切れてしまうため、一緒に王都へ向かう手はずを整えているところでしたが」
「はい。実は、このバンクーバー領の領主であるジャニス・バンクーバー伯爵が、フェイール商店にお願いがあるということだそうで。今、領主さまは王都からバンクーバーに向かう途中の中継都市に滞在中でして。あと一週間もすれば戻ってくるので、この地に引き留めて欲しいと魔導通信機で連絡が届いた次第であります」
「はぁ、それは困りましたわ」
隣に座っているソーゴさんをチラリと見ます。
彼との護衛契約はここで途切れてしまいますので、そうなりますとキリコさんに護衛を一任することになりますが。
「ああ、俺は別に構わな……ん?」
私の意図を読み取ってくれたのか、ソーゴさんがそう呟いた時。
統括がソーゴさんに一通の書簡を手渡しました。
「これは?」
「今朝がた、王都から届けられたものです。ご確認を」
「ああ、差出人は……と、なるほどなぁ」
封蝋に記された紋章らしきものを見て、ソーゴさんが渋い顔をして頷いています。
そして書簡を確認すると、顔に手を当てて困った顔になっていました。
「参った……こんな状況になっていたのか……フェイールの嬢ちゃん、すまんが急ぎ王都に戻らなくてはならなくなっちまった。本当ならばこのまま滞在して護衛を継続しても良かったんだが、そうもいかなくなっちまった」
「何か、困ったことが?」
「まあ、お家騒動みたいなものだと思ってくれればいいさ。ということで、護衛契約は予定通り本日で完了だ。すまなかったな」
本当に口惜しそうに呟くソーゴさん。
きっと、やむにやまれない事情があったのでしょう。
「まあ、私たちもあとから王都に向かいますので、御縁があればまたお会いできると思いますよ。商業ギルドにでも言付けをしてくれれば、私たちにも連絡が届くかとおもいますので」
「そうだな……それじゃあ、ちょいと急ぐのでこれで失礼する。またな」
そう告げてから、ソーゴさんは立ち上がって部屋を後にします。
「では、あと一週間ほど滞在しますので、何かありましたらカバンのサンマルチノにご連絡を頂ければ幸いです」
「ああ、今は彼女の店舗に間借りをしているんだったね。それじゃあ伯爵が戻り次第、そっちに連絡を入れさせていただきますので」
「はい。よろしくおねがいします」
丁寧に頭を下げて、これで話し合いは完了。
それにしても、ソーゴさんは大丈夫でしょうか。
あの書簡の中を確認したとき、一瞬だけいつもとは違う険しい表情になっていました。
身内に事故でも起きたのか、それとも不幸があったのか。
いずれにしても、他人であり商人である私が口出ししていい問題ではありません。
さて、お店で待っているクレアさんにも事情を説明しないといけませんね。
………
……
…
――カバンのサンマルチノ
商業ギルドを後にして、片づけを行っているクレアさんと合流すべくカバンノサンマルチノへ。
すると、店の前に数台の馬車が止まっていて、なにやら大量の荷物を降ろしている真っ最中じゃありませんか。
「あ、クリス店長、お疲れ様です。納税とかは全て終わったのでしょうか?」
「はい、ちょっとごたごたしてしまいましたけれど、ちょっとここの領主さまからの依頼があったようでして、もう一週間ほどバンクーバーに滞在することになりましたよ……と、これはなにが起きているのですか?」
「イブさんのお兄さんが王都から引っ越してきたのですよ。ちょうど契約期間も終わったので。店内を改装して本格的にこの街でカバン屋を経営するとかで……」
はい?
ええっと、私はイブさんに一週間の間借り延長をお願いしようと思っていたのですが。
そんなことを考えていますと、ちょうどイブさんが店内から外に出てきました。
「お、フェイールさんおかえり。今日が出発だろう? 本当は正門まで見送りに向かおうと思っていたんだけれどさ、うちの兄貴が職人を引き連れて戻ってきちまったんだよ。それで店内の階層をすることになっちゃってさ……ここで見送りということで構わないかい?」
カンラカンラと笑いつつ話しかけてきたイブさん。
さて、これは困りましたよ。
「ええっと、実はですね……」
事の次第を一つずつ説明しますと、イブさんも腕を組んで困り顔になってしまいました。
でも、私たちが勝手に間借り延長お願いしようとしていただけですし、イブさんが困ることはありませんよ。
「そっかぁ……そうなると、また一週間ほど場所を探さないとならないのか……」
「そうなんですよ……と、イブさん、この店舗前の広場って、商業ギルドが管理しているのですよね? このあたりに馬車を止めて商売をすることも可能ですよね?」
「ああ、移動式ワゴンか。でも、あれはワゴンを持っている商人しか場所を借りることが出来ないんだけれどねぇ……なにか伝手はあるのかい?」
「はい、ちょうど手ごろなキャリツジワゴンが入手できましたので、それで商売をしようと思います。ちっょと確認してきますね」
そう告げて商業ギルドへリターン。
今度はクレアさんとキリコさんも同行して、広場を借りられるかご相談です。
そして意外とあっさりと借りることが出来ました。
統括から、私が露店を出す場合は便宜を図るように言われていたらしく、売上税などは今まで通り、場所の使用料は無料ということで話し合いが付きました。
「そっか……ソーゴさんは王都に急ぎ戻ってしまったのですか」
事情を説明すると、クレアさんが少しだけ悲しそうな顔になっています。
うんうん、好きな異性と離れ離れになるというのは、誰でも悲しくなってしまいます。
でも、それを乗り越えてこそ愛はさらに高まるのですよ。
「あの……クリス店長、なにか悟りきったような笑顔でこっちを見ないでくださいます?」
「愛は距離が離れるほど燃え上がるのです、バーニングです。ということで、さっそく馬車で移動しましょう」
「そ、そんなんじゃないって……え?」
――シュンッ
指輪から召喚したエセリアル馬車・キャリッジワゴンバージョン。
いつもの馬車は外されて指輪の中、そして新たに連結されたキャリッジワゴンが初登場です。
「はぁ。またおかしなものを入手したのですね」
「はい、入手しました。移動はいつも通り御者台に乗らなくてはなりませんが、今回はこの馬車の横の部分、壁が跳ね上がってごらんのとおり!」
――パカッ
透明なショーケースとカウンターの一体成型されたものが設置されたワゴン。
商品購入時は店員が取らなくてはならないので貸すけれど、これだと商品を勝手に持っていく人も防げるので大変便利です。
しかも馬車の左右に同じものが設置されているので、私とクレアさん、二人で商売することも可能な優れものです。
「は、はは……相変わらず頭がおかしくなりそうな乗り物ですこと」
「うん、私もそう思います。ということで、さっそく移動してから商品を並べることにしましょう」
はい、あとは商品を並べれば全てオッケー。
馬車の上ということもあり、いつもより高い位置に陳列ケースが並ぶことになりましたけれど、馬車の側面を引っ張り出すと階段が出てきましたので、これで買い物も安全に行えます……って、本当に、このキャリレッジワゴンはおかしくないですか?
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