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第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第253話・秘密の共有? そのとき不思議なことが起こりました。

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 カバンのサンマルチノの一角を借りて商売を始めて間も無く一週間。

 開店当日のような騒動はすっかり影を潜め、今は毎日が商売繁盛。
 近所にお住まいの方々がフェイール商店の商品を購入し、井戸端会議でさらに近隣の方々に噂が広まり。
 いつの間にか、フェイール商店の名前はこの港町バンクーバーにすっかり定着してしまいました。
 それに伴い、イブさんのバック店の方も注文が増えたらしく、今は生産が追いつかずに予約は一時中断しているそうです。

──早朝、カバンのサンマルチノ前
 ガラガラと、朝霧を割りながらペルソナさんの馬車がやってきました。
 その御者台ではノワールさん……じゃなくクリムゾンさんが乗っていますよ?
 あれ、配達助手は彼女だったはずではと思っていますと、馬車は目の前に到着。すぐにペルソナさんは私の元へ、クリムゾンさんは馬車の後ろの荷台へ向かいました。

「おはようございます。【型録通販のシャーリィ】より、商品をお届けに参りました。いつものように馬車の後ろに荷物を下ろしますので、検品をお願いします」
「はい、おはようございます。今日はノワールさんはいらっしゃらないのですね?」
「ええ。今日はブランシュの代わりにヘスティア王国の王城担当を行っていますね。ですからクリムゾンにお願いしました」

 なるほど。
 シフト勤務、というやつですね。
 異世界の働き方改革とかいうものだったかな? ずっと働き続けているのではなく、シフト制にして身体や心に負荷が掛からないようにするそうで。
 これにより働き甲斐を持ってもらうとかなんとかかんとか、柚月さんが話していましたよ。

「そうでしたか。では、ノワールさんとブランシュさんにもよろしくお伝えください」
「はい、了解しました。では、急ぎ終わらせましょうか。クリムゾンとも久しぶりにお話ししたいのでは?」
「そ、そうですね!!」

 という事で場所の後ろに回り、検品を開始します。
 でも、相変わらず馬車の近くに集まっている人たちは話しかけてこないのですね。クレアさんも何か言いたそうな表情で、こちらを見ているだけですから。
 彼女も、今は立派なフェイール商店の店員さん。
 いつまでもこの状況でいいとは思っていませんけれど……。

「……あの、ペルソナさん。ちょっと相談したいことがあるのですが」

 クレアさんにも、【型録通販のシャーリィ】についての秘密を共有したい。
 そう思ったのですけれど、認識阻害の効果は、私自身ではどうすることもできません。
 これは魔導書に付与されている力であり、勇者の血筋のものには効果が薄れてしまうそうですがクレアさんにはしっかりと効果が発揮されていますから。

「クリスティナさんから相談とは珍しいですね。急ぎますか?」
「ええ、出来ればお急ぎで……」

 そう呟いてチラリとクレアさんを見ますと。
 ペルソナさんも顎に手を当てて頷いています。

「あの子はフェイール商店の方ですよね? いつまでも秘密を抱えていたくはないと?」
「え? なぜ分かるのですか?」

 私がお願いしたいことを、ペルソナさんはあっさりと理解してくれました。
 それだけではなく、そっと自分の口元に人差し指を立てて一言。

「それは秘密です。私は、あなたの思っていることがなんとなく理解できただけですから。優しいクリスティナさんは、彼女にも全てをお伝えしたいのですね?」

──カァァァァァァッ!!
 うわ、顔が熱いです、きっと私は真っ赤な顔になっていますよ。
 ほら、両手で頬を押さえますと熱いです!!

「お、嬢ちゃんや、何か辛いものを食べたのか?」
「食べてません!! むしろ甘々でしたよ!!」
「あっはっは……では、【シャーリィの魔導書】を出してくれますか?」
「はい、こうですか?」

 アイテムボックスから取り出した魔導書を、ペルソナさんの前に差し出しますと。彼はその表紙に手を翳し、何か詠唱を開始しました。

「型録通販のシャーリィが主人に願う。かのものに、情報共有と守秘義務の魔導具を貸与したまえ……」

 彼の言葉に反応したのか、魔導書がゆっくりと輝きます。
 そして本の中きらゆっくりと、小さな指輪が浮かび上がってきました。

「これは?」
「これはですね。主従の指輪と申しまして。【型録通販のシャーリィ】から力を得ているものが、従業員に対して秘密を共有するためのものです。これを貴方が、彼女に付けてあげれば契約は完了。まずは試してみると良いかと?」
「そ、そうなのですか?」

 指輪を手に取り、ペルソナさんとクリムゾンさんを見ます。
 二人とも楽しそうな笑みを浮かべていますので、私はクレアさんの元に急ぎ駆け寄ると,彼女の右手人差し指を手にとり指輪をはめました。

──キィィィィィン
 すると指輪が少しだけ輝き、クレアさんの顔に生気が差し始めました。

「あ……あら? クラス店長? 何をしているのかしら……って、ああ、そういうことなのね。これが店長の秘密なのね?」

 こめかみに指を当てて、渋い顔で頷いているクレアさん。
 なるほど、どうやら指輪の効果は発揮されたようです。

「クレアさん、指輪をつけて何が分かりましたか?」
「そうねぇ……店長が【シャーリィの魔導書】というものと契約し、型録通販の加護が使えるようになったことと、異世界からの商品を自由に取り寄せることができること。あとは、そちらの仮面の方は配達員さんで、その後ろのタイタン族の方がフェイール商店の従業員っていうことかしら?」

 そう告げると、クレアさんが馬車の近くに駆け寄り、ペルソナさんとクリムゾンさんにカーテジーで挨拶をおこないました。

「はじめまして。フェイール商店の従業員、クレア・アイゼンボーグと申します。今後とも、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ宜しくお願いします。【型録通販のシャーリィ】配達員のペルソナです」
「クリムゾンじゃ。今はいろいろあってヘスティア王国にいるのだが、そのうち合流するのでよろしくな」
「はい、ありがとうございます」

 その3人のやりとりを見て、私もほっと一安心。
 
「さて。この主従の指輪の効果はいくつもありますが。まず、クリスティナさんは彼女の指輪を自分のアイテムとリンクすることができます。以前は柚月さんのアイテムボックスとも共有できましたよね? 今回は、彼女のはめた指輪にもアイテムボックスの効果がありまして」
「つ、つまり、シャーリィの商品限定で私のアイテムボックスと共有できるのですか?」

 その問いかけに、ペルソナさんはコクリと頷いてくれます。

「よし、それじゃあ検品作業を再開するか。クレアちゃんや、こっちに来なさい」
「は、はいっ!!」

 クリムゾンさんに呼ばれて、クレアさんも馬車の後ろへ。
 そこで検品作業を教えてもらいつつ再開したので、私もペルソナさんに支払いなどの作業を行わなくてはなりません。
 はぁ。
 忙しいけれど、ようやく以前のような空気が戻ってきましたよ。
 だから、あの、ペルソナさん。
 私を見て微笑ましそうに笑うのは勘弁してください。
 その笑顔だけでお腹が一杯になりそうですから。

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