上 下
199 / 274
第6章・ミュラーゼン連合王国と、王位継承者と

第251話・売れ筋商品よりも、真新しいものをお求めのようですか?

しおりを挟む
 イブさんのご厚意で、彼女のカバン屋さんの一角を借りることになりました。
 商業ギルドで必要な手続きを一通り終えて建物の外にでますと、一足先に納品を終えたイブさんとソーゴさんがそこで待っていてくれました。

「さて、それじゃあ行きますか」
「どこかの露店を借りるっていう話だったのに、イブの店舗の一角を借りるとはなぁ」
「まあ、旅は道連れ世は情けというではないですか?」

 あっています? 多分大丈夫なはず。
 
「まあ、イブの店っていうことは、俺たちの泊っている宿の裏っていうことか。このあたりの治安とかは、どんなかんじだ?」
「まあ、酒場からは離れているし、店の前の通りを挟んであっち側は住宅街だから、そんなに悪くはないさ。ちょっと歩けば都市巡回の騎士たちの詰所もあるし、そもそもバンクーバーはフォンミューラー王国でも治安のよさについては一、二を争うっていうぐらいだからさ」
「港町ですので、てっきりサライのように腕っぷしに自身のある輩が多いと思っていましたのに……ほら、そういう人たちがいるっていうことは、酒場ではすぐに暴動や喧嘩が怒ったりしますわよね?」

 クレアさんの話に、私も静かに頷きます。
 まあ、私がサライで宿泊していた場所は波止場からは離れていましたし、そういったあらくれよりも冒険者や商人が多く宿泊していましたから。

「あー、それは港の方の酒場とか安宿だよ。あのあたりは賭場や娼館も結構あるし、夜な夜な喧嘩をおっぱじめる奴らも結構いるからなぁ」
「そうなのですか」
「ああ。特に、波止場に拠点を構えているカージナル商会とブルワーズ商会、そして最近になって王都からやってきたフィリス商会の若い奴らは縄張り意識が高いらしくてな。どうしてももめ事を起こしちまうらしいんだよ」
「なるほど……では、私たちは波止場の方には近寄らないようにしましょう」

 クレアさんにそう促すと、彼女も頷いて返事を返しています。
 
「まあ、俺は外に椅子でもおいて、のんびりとしているから安心してくれ」
「それって、どう見ても護衛の態度ではありませんわよねぇ」
「喉が渇いたらお声掛けして頂ければ、すぐにカッフェをお持ちしますのでお言いつけください」
「うーーん。クレアさん、ソーゴさんを甘やかせすぎでは?」
「え、そ、そんなことはありませんよ!! さあ、さっそく商品の陳列と値付けを開始しましょ~」

 うん、真っ赤な顔でそんなことを言っても説得力は皆無ですからね。
 だって、今のクレアさんがソーゴさんを見る目って、一時期の柚月さんがブランシュさんを見るような目になっていますよ、恋する乙女っていう感じなのでしょうねぇ。
 はあ、私の恋は……この南の国にも風に乗って走ってくるのでしょうか。

………
……


――カバンのサンマルチノ
 店内はとっても広々としています。
 ええ、入り口に入って見についたのは、向かって右側の棚にあるカバンと正面のカウンターだけですから。
 左側には荷ほどきも終わっていない荷物があちこちに散乱していますし、剥き出しになって皮や布地が申し訳程度に棚に置いてあるだけ。
 ええ、陳列ではなくおいてある、そんなかんじです。

「それじゃあ、この左側を好きに使ってくれて構わないよ。テーブルや椅子はこの奥、カウンターの裏が作業場と倉庫を兼用しているので、そこから好きに出してくれればいいよ……」
「その前に、まずこのあたりの荷物を整理しましょう!!」
「商人として、こんな雑多に素材や商品が並んでいるなんて耐えられませんわ。商人たるもの整理整頓が出来て居なくて、どうするというのですか。そもそも、ここにある皮とかは、本来なら裏にあるはずのものでは?」

 私よりもクレアさんが激おこ状態。
 まあ、私が言おうとしていたことは、全て彼女が言いましたので私は特に。
 けれど、イブさんはクレアさんの言葉を聞いて、ばつが悪そうに頭を掻いています。

「いやぁ、私ってさ職人であって商人じゃないんだよねぇ……」
「言い訳無用です。ではまず、この荷物の整理整頓から始めますわ。イブさん、どれをどこに置いたら良いか教えてください。クリス店長は空いた空間を掃除して、テーブルとかの準備をお願いしますわ」
「はいっ!!」
「了解です……と、さて、どうしましょうかねぇ」
 
 クレアさんがてきぱきとイブさんに指示をして荷物の大移動を開始。
 私はアイテムボックスから箒とちり取りを取り出し、パパッと掃除を開始。
 キリコちゃんは私が掃除した後を持つプで拭き掃除の真っ最中。
 そしてソーゴさんには、奥の倉庫からテーブルを持ってくるのを手伝って貰いましょう。
 そんなこんなで夕方6つの鐘が鳴るころには、店内の掃除も完了。入って左側にフェイール商店用のテーブルをカウンターのように並べ、きれいな装飾の施された布を敷いて簡易カウンターの出来上がり。
 入り口ら右手の棚も綺麗に整理されたのとバッグを作る際の素材見本も棚に並べられています。

「うわぁ……ねぇクレアさん、フェイールさん。このままうちで共同経営しない?」
「しませんしません。ずっと掃除担当になりそうで怖いですわ」
「そう? フェイールさんは?」
「そうですね……王都に向かった後で本国に帰るときは、このバンクーバーに立ち寄ることもあるますので。その際にまた、この場所を使わせてくれるのでしたら、整理整頓とお掃除の手伝いはいたしますけど」

 ものは試しにそう告げますと、イブさんに両手を掴まれてブンブンと振り回されました。

「それでもいいよ、ここの賃料はお掃除手伝いでトントンにしてあげる。いゃあ、助かったわぁ……最近見かけていなかった素材も全部出てきたし、これで在庫がはっきりとわかったよ」
「はぁぁぁぁぁぁ。そのレベルで整理整頓ができていなかったのですか……」
「だから、同じ素材があちこちからでてきたのですか」

 もう素材の管理が最悪ですよ。
 でも、きれいになった店内を見ているイブさんの目が、先ほどまでとは違って輝いています。
 職人の目っていうところでしょうか。

「それじゃあ、今日はこれぐらいにして、明日から本格的に店を開くことにしますわ」
「よっし、それじゃあ景気つけに、うまいものでも食べにいってみようかぁぁぁぁ」

 イブさんのおごりで、夕食はちょっとだけ豪華になりました。
 まあ、商人としては奢られっぱなしというのは気が引けるので、このお礼は後日、なんらかの方法でお返しすることにしましょう。

 〇 〇 〇 〇 〇

――翌日
 朝。
 8つの鐘と同時に店の扉を開きます。
 フェイール商店のカウンターには、定番雑貨をいつもより多めに並べています。
 その横では、衣装用ハンガーに大量の衣服を吊り、ついでに靴も綺麗に並べておきます。
 全て港町サライで人気のあった商品ばかり、ついでに懐中時計のサンプルも並べてあります。
 今日一日のお客さんの様子を見て、明日の朝には届くように追加発注を行わなくてはなりません。
 さて、どれが売れるのか今から楽しみです!

「……って、今日も私ばっかりぃぃぃぃぃぃぃぃ」
「こつちも大忙しですって」

 開店してから間もなく、近所に住む方々がいらっしゃいまして。
 並べてあるカトラリーやお茶のサンプルを眺めています。

「ふぅん。これが、錆びにくいナイフとスプーンねぇ……これを貰おうかしら?」
「この異国のお茶はおいくらですか? え、試飲していいの?」
「あい、試飲はこっちですよーーー」

 キリコさんはお茶の試飲担当で手伝ってくれています。
 護衛ということですけれど、だまっていても暇なのと、流石はアゲ・イナリさまの眷属、商売をしているところを見ているだけで、体がうずうずしてしまうそうです。

「クリス店長!! グレッグの追加をくださぁぁぁぁぁぁぁい」
「はい、在庫はこの10足で終わりです!」
「お茶の壺を四つ出してくださいなー」
「はい、お茶もこれがラストです、次は明日以降の入荷です!!」

 私たちが乗っていたブルーウォーター号のお客さんから話を聞いたらしく、近隣の宿に勤めている方とか他の帆船乗りの人とかが殺到してきました。
 ええ、やはりお目当ては壊れにくく水捌けがよく滑りずらいグレッグのサンダルと、異国のお茶、そしてさびにくいカトラリーです。
 ハーバリオスでは、サライ以外では売れない商品場からなので、このタイミングで一掃するチャンスですよ。
 そんなことを考えていますと。

――カツカツ
 ちょっとごつつい顔つきのおじさんたちが店内にやってきました。

「ここの責任者は誰だ?」
「うちの親分が呼んでいるんだ、どいつか責任者だ?」
「痛い目を見ないうちに面を貸してもらフベシッ!!」

 あ、ソーゴさんに肩を掴まれて、そのまま外に放り出されていますよ。
 しかも無言のまま、問答無用で一人、二人三人と。
 そして外がなにやら騒々しくなってきましたけれど、これはソーゴさんの御仕事です。私たちは商売に専念することにしましょう。
 はぁ、またしても揉め事ですか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。